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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第87話 やる気の無い賊

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた


 コスモによる教育が始まって2カ月が経過しようとしていた。季節は完全に冬に移り、辺りには雪が降り積もり美しい銀世界が広がっていた。

 商業都市ウキレアでは町民や商人達が商売をする為に朝早くから積もった雪の雪掻きを始めていた。


 領主リフィスの屋敷でも厚着をしたメイドや執事が外へと出て雪掻きを始めている。軍師のグストもそれに加わり訓練場の周りの雪掻きをしていた。

 そんな雪が積もる中でも訓練は続けられていた。訓練場ではいつもの様に重装鎧を着てリフィスとレシェナとジュリーダンが走り込みを行っていた。


「ふう……これで20周っと、じゃあ朝飯行こうかレシェナさん」


「はあはあ……はーすっきりした。そうしましょうかジュリーダン」


「はあはあ……2人共、朝食の事ばかり考えていただろう、走っている間そんな顔をしてたぞ」


「お前ら、朝食の前に屋敷の雪掻きを手伝え、まだ時間があるだろう」


「「「はい」」」


 一緒に走り終えたコスモが余裕を持って話していた3人に雪掻きをするように指示を出す。3人が嫌がる素振りを見せずしっかりと返事をすると、木製の雪押しを手に取ってグスト達に混じり雪掻きを始める。


 2カ月間、3人はコスモの指導する騎士団式の訓練を受け続けて見違えるほどに逞しくなっていた。いつもなら20周を走り切るのに時間が掛かり、朝食を屋敷のメイド達よりも遅れて取っていたのが、それが段々と同じ時間に、そしていつしか朝食を作っている間に走り込みが終わるようになっていた。


 特にレシェナの変わり方は顕著であった。極太の太巻き体型から、今は女性らしい体付きが白い修道服の上からも分かるくらいに絞られていた。言葉の終わりに出ていた息切れも無くなり、しっかり呼吸も出来るようになって顔色もすこぶる良い。

 エシェラント伯爵の屋敷で見かけた肖像画と変わらない美しさを取り戻していた。だがそんなレシェナに新たな傾向が見え始めていた。雪掻きを終えて朝食を取っていた時である。


「あ、あのレシェナ……流石にそれは食べなくてもいいんじゃないかな……」


「あらリフィス様、骨は顎の鍛錬に良いんですよ、顔を殴られても耐えられるんですから……ゴリッゴリッバキャッ」


「な、なんか体もさ、僕らに比べて、筋肉質というか……大分変わったよね……」


「バリッボキッ……そうですか?……やだ……パンパンに張った上腕の袖がちょっと破れちゃった……また縫わないと」


「前のレシェナさんも最高だけど、今のレシェナさんもキレッキレで最高だぜ!」


 そうレシェナの体は贅肉の鎧から筋肉の鎧へと変貌していた。そしてコスモの課した筋肉の鍛錬では飽き足らず、朝食で特別に出して貰っている固い骨を嚙み砕く事で顎を鍛え始める始末である。

 それも貪欲だった食欲の反動で、肉体改造に目覚めたレシェナの筋肉欲の成せる事であった。


 ともあれ3人の成長速度はコスモの予想を上回る形となり、予定していた期間の半分で騎士団式の訓練を軽くこなす所を見て、そろそろ頃合いだとコスモは感じていた。


 そして次の日、いつもの騎士団式の訓練は行わず、朝早くから3人を連れて商業都市ウキレアにある仕事斡旋所へと訪れていた。冬場で雪が積もっているのにも関わらず仕事斡旋所は多くの冒険者で賑わっていた。


 なぜ冬の時期に冒険者が集まっているのか、それには理由があった。


 冬と言う時期は【ドラゴンライダー】を有するバルドニア王国にとって忌諱すべき季節であり、寒さは飛竜にとって大敵である。ジョストン領に常駐していたバルドニア王国所属の竜騎士達も普段の飛行能力が発揮出来ず、活動範囲も時間も狭まり思ったように行動が出来ないのである。

 それによって常駐軍も士気が下がり、どうしても盗賊から守り切れない村が出て来る。


 その時期を見計らい盗賊達は活動を始めていたのだ。冬になるまで活動を抑えていた分、盗賊達は飢えていて貪欲に行動を起こし村の襲撃が頻発していた。まるで冬眠をしない灰色熊(グレイベア)の様な凶悪さなのだ。


 リフィス、レシェナ、ジュリーダンに冒険者登録をさせると、早速、依頼書の貼られた掲示板へと向かい、コスモが1つの依頼書を剥ぎ取るとリフィスへと手渡す。

 依頼書の内容はアエク村を盗賊から守るという護衛依頼である。


「これをお前達3人だけでやって見せろ、いいか、今までの訓練とは違って実戦だ。少しの油断で命を落とす、それを忘れるんじゃねえぞ」


「コ、コスモは来ないのか?」


「俺は違う依頼を受ける予定なんだ……何、リフィス達ならきっとやれるさ、あの厳しい訓練とエーシンの座学を思い出せ、戦いに必要な事は最低限だが教えたからな」


 実戦形式の訓練としてコスモは盗賊討伐を選んでいた。正式な騎士団の実戦訓練ではベテランの騎士と行動を共にして、山の中で魔獣を狩って行くのだが、今回は時間と場所が無かった。

 その為に盗賊討伐という実戦で学ぶしかないとコスモが判断したのだ。


 それに実戦経験は殆どないものの戦場を知るリフィス、回復役としてレシェナ、元盗賊として盗賊の動きを熟知しているジュリーダン、この3人はパーティーとして申し分ない組合せだ。

 何よりいつまで経っても強いコスモに見守られるだけでは強くはなれない、どうしても一歩を踏み込む必要があった。


「さあ依頼書の村はここから歩いて1日、いや雪で歩き難いだろうから、2日を見た方がいいな、準備をしたらすぐに出発するんだ」


「分かったよコスモ……じゃあレシェナは冬用の天幕、ジュリーダンは食料の調達を頼む、僕は燃料の木炭と冬用の外套を用意する。冬の野営は命懸けだから準備はしっかりとしよう」


「任せて下さい、こう見えても旅はスーノプ聖国からの帰り道で慣れてますから!」


「へへっ、冬場でも寒くならない料理作ってやるからな!期待して待ってろよリフィスさん、レシェナさん!」


「よし、じゃあ準備が出来次第、町の西門の前で集合だ」


 的確な指示を出すリフィスを見てコスモは安心する。真面目に訓練を受け始めてからは自分を表に出さないリフィスだったが、指示を出している時の顔は【無能のリフィス】が嘘のように逞しくなっていた。やはり神器の継承者としての血筋が流れているのであろう。


 受付を済ませて村へ向かう準備をする為に3人が仕事斡旋所を出て行くのを見届けると、コスモが以前から仕事斡旋所から指名で頼まれていた依頼書を片手に受付窓口へ持って行く。

 そして受付嬢から依頼書を受け取って仕事斡旋所から出ようとすると、外から入って来た男女とばったりと出会う。その男女がコスモの姿を見て驚いていた。


「あれ?そのピンクのビキニアーマーはコスモじゃん!うっわーこんなとこで会うなんて奇遇じゃない?」


「あれ?フィオーレじゃねえか!それにセルシルも一緒なのか!」


「いんやーコスモ師匠、お久しぶりですー」


 コスモに声を掛けてきた男女は山賊王コンドラ討伐で一緒に戦った山岳都市スタンブルトの冒険者【ソードダンサー】のフィオーレと、ロンフォード領の盗賊掃討戦で活躍した髑髏の兜を被った黒騎士【パラディン】のセルシルであった。

 そのフィオーレが冬の時期なのにいつもと変わらない格好をしているコスモを見て噴き出す。


「ぷふぅー、こんなに寒い冬なのに、あの時と同じビキニアーマーって、超うけるんですけど!はははははは!!」


「こら、フィオーレどん、師匠は自ら覚悟を決めて装備してるんだっぺよ、それを笑ったら失礼だっぺ!」


「ぐ、ぐぬぅ……寒くないからこのままだったけど、改めて突っ込まれると腹が立つな……」


 冬になってもコスモは夏と変わらないビキニアーマーで過ごしていた。それも一般技能である【常温】が発動されていたからだ。

 技能【常温】は【体力】を消費しつつ、体温を一定の温度に保つという技能で、主に山越えを専門とする斥候や商人が持つ技能だ。もちろん【体力】を消費するので燃費が悪く、常に発動するのは死活問題となる。

 しかし【体力】が自動で回復する特殊技能【自己修復】を持つコスモは、それを気にする事無く常に発動が出来ていた。なのでこの冬でもお腹を出しても寒さを感じていなかった。

 ちなみにリフィス達もそれには気付いていたが、指導するコスモの立場という空気を読んで突っ込みはしていなかった。


 厚手の外套を着たフィオーレが笑い終えて満足すると、なぜコスモがジョストン領に居るのかと立ち話を始める。


「それよりコスモがなんでここに居るのよ、確かあんたカルラナが本拠地でしょ?」


「いやな、色々な事情があってここに来たんだよ……それより、お前達もスタンブルトから出て来てどうしたんだ?」


「私は元々、北方連合国の出身だし、剣の師匠の居る土地だからね。ついでに師匠に会おうかなって来たんだけど」


「いんやースーテイン領の山賊の残党討伐は後輩のニアータちゃんに任せて来たっぺよ、あの子達めっちゃ強くなってなあ、そんでジョストン領に盗賊が多いって聞いてウキレアに来たんだっぺよ」


 水着大会に出場したニアータも古巣のスーテイン領の山岳都市スタンブルトへと戻り、山賊討伐に精を出していた。その勢いはスタンブルトの冒険者の間で評判となり、第一線で活動していたフィオーレとセルシルがニアータ達に残党討伐を任せる形でジョストン領の商業都市ウキレアを訪れていた。

 そしてウキレアの仕事斡旋所から受けた依頼を終えて戻ってきた所でコスモと出会ったという訳であった。だが依頼を終えた後なのにフィオーレが浮かない顔をしていた。


「でもさ、こっちの盗賊って何か変なんだよね、何と言うか、やる気の無いっていうか……」


「そりゃあ、山賊討伐でフィオーレ達の名が売れて来たからじゃねえのか?」


「違うんだっぺよ師匠、俺達が現れたからじゃなくって、最初から逃げるつもりみたいなんだっぺよ」


「最初から逃げる?」


 どうやらフィオーレ達の話では盗賊が村を襲撃しているのだが、自分達の姿を見掛けると一目散に山へと逃げて行くのだと言う。戦いもしないで逃げた上に、村からは感謝されて護衛の依頼達成のサインも貰っていた。余りの手応えの無さからフィオーレとセルシルは拍子抜けしていたのだ。


「他の村を襲ってた盗賊は抵抗して来たんだけどね、今回の村だけは被害も無いし、なんか三文芝居に付き合わされたって感じ?」


「仕事斡旋所も盗賊の行動が気になったみたいで、俺達に調査をお願いしてたんだっぺ、けんども逃げ足が速くてなあ、さすがの愛馬【宝船】も雪に足を取られて上手く追えなかった訳だっぺ」


「……その村はなんて言うんだ?」


「ベイト村って言ったかな、ここから1日歩いた開拓村だね」


(ベイト村……今回、俺に依頼された村と同じ名前だな……)


 コスモが手に持っていた依頼書に記された村の名前と合致していた。恐らくは上級以上の冒険者を対象に依頼をしていたのだろう。

 依頼の主題は村の護衛と書かれてはいるが、盗賊の目的を調べる事も備考として書かれていた。


「まあ私達はある程度、稼がせて貰ったし、これからしばらくは休みで宿に籠りっきりになるけど、コスモは風邪引かない様にねーぷふぅ!」


「ぐぐぬぅ……」


「まあまあ師匠、フィオーレどんは本音では師匠の体調を気遣ってるだけだっぺ、気にする事無いっぺ」


「こら!セルシル、余計な事は言わないの!じゃあ、コスモも依頼頑張ってねー」


 フィオーレに腕を引っ張られたセルシルがずるずると引きずられ受付窓口へと向かって行く。


 2人は男女の関係というよりは仕事仲間として割り切った形でコンビを組んでいた。それもセルシルの装備する呪われた鎧【死神の鎧】が原因である。呪いとしてセルシルが極度の【方向音痴】となっている、つまりフィオーレの案内無しではセルシルは遠くへ行けないのだ。


 そんな2人をコスモが微笑ましく見送ると仕事斡旋所の外へ出て行く。寒空の中で屈伸体操を始め、目的地のベイト村を目指し走り始める。

 雪が積もり歩くにも困難な状態であったが、その上をコスモは野生の四足走行をする魔獣の如く駆け抜け、速度を落とす事無く雪を弾き飛ばしながら走り続けていた。

 その驚異的な脚力も元々膝を悪くしていた分、コスモになってから徹底的に鍛え上げた成果でもあった。


 その頃ベイト村では村人達が雪掻きや薪割り、水汲みなどを行い平穏な生活を送っていた。そして村から少し離れた森では体躯の大きい男達が木の伐採を行っていた。

 一見、普通の開拓村の様に見えるが実情は違っていた。

 太陽も真上に昇り、昼時となった所で村の少女が大きな籠を持って森で木の伐採を行っている男達の下へ訪れる。


「ディグダさん!お弁当持ってきましたよ、お昼にしちゃってください!」


「おう、すまねえな、よし!お前ら昼休憩だ。飯にするぞ!」


「「「はい親方!」」」


 伐採の終えた丸太の上に男達が腰を掛けると、村の少女が男達に籠から取り出したパンと、鍋に入った暖かいスープを木製のカップに移して渡して行く。


「もう、お願いされたのは村を襲う山賊の振りだけでいいのに、木の伐採までやるんですから……」


「いやあ何、いくら山賊の振りとは言えな、何もしないでいると寒くてかなわねえ、体を温める体操みてえなもんだ」


「ふふっ、でも、凄く助かってますディグダさん」


「はははは、そりゃ良かった、俺達も丁度、足を洗いたいと思ってたしな、お互い様ってところだ」


 ディグダという男は中年で、頭には赤い頭巾を被り、口と顎周りには茶色の不精髭、魔獣の皮で作った外套にズボン、ブーツと言った山賊の様な出で立ちだ。

 周りの男達も、同じような格好で近くには銀の斧が置かれていた。


 村の少女との会話でディグダ達は山賊という役割りをしていた事が分かる。

 しかしディグダの本業は本物の山賊であり、大盗賊団【黒の戦斧】の幹部だった男だ。


 賊に身を落とす者は、奴隷だった者や犯罪に手を染めた者と様々な理由があるが、ディグダは家族を養う為であった。持ち前の武勇で幹部までに成り上がったが弱者をいたぶる事を嫌い、襲った村では村人には危害を加えず村人が生活するだけの必要な物だけを残し、それ以外を奪うと言う人情のある山賊であった。


 しかし荒くれ者が集まる組織の中ではディグダの様な男は少数派で、大多数は弱者を蹂躙し全てを奪うのが当たり前であった。弱者同士が助け合う為に結成された大盗賊団【黒の戦斧】も、いまや弱者達から奪う組織と変貌していた。


 だがロンフォード領で起こった騒乱の後は、大盗賊団【黒の戦斧】の頭領、幹部を含めた多くの構成員が帝国へと捕らえられると、それを機にディグダは組織を離れる事を決める。慕ってくれる仲間達とその家族と共に北方連合国内の山へと移り住み世間から離れ細々と暮らしていた。


 そこへディグダの噂を聞き付けたある国の斥候の者が接触して、ベイト村を襲う振りを依頼されていたのだ。ベイト村にはすでに交渉済みで襲われる振りの準備を整えていた。


 依頼の目的が分からないディグダは最初は警戒するが、来年の雪解けの時期まで続けてくれたら謝礼の金銭とディグダ達の住む隠れ村を正式な村として扱う保証を条件に斥候の者が【紋章】を見せて説得する。

 そしてその依頼が国を救う事に貢献すると伝えられると、ディグダの決心は固まった。


 今までは家族の為とは言え、弱者から奪い各国の騎士達や冒険者達に追われ怯えながら暮らす毎日は過酷なものであった。それから解放される上に国を救う事になると言われれば、今まで犯した罪滅ぼしも兼ねられると考えるのはディグダとして当然であった。

 こうしてベイト村はディグダに襲われベイト村は仕事斡旋所へ盗賊の討伐依頼を出すという、自作自演が行われていた。


 ベイト村の入口で昼食を取りながら見張りをしていた若い山賊の男が、遠くから近付いて来るピンク色の人影に気付く。それを見て絶望した表情になると急いでディグダ達が昼休憩をしていた森の近くまで走って行く。


「親方!大変だ!コスモが来た!物凄い速度で来てます!」


「な、何だって!!お前ら急いで逃げるぞ!!」


「わ、私が時間を稼ぎます、パンとスープもそのままでいいから逃げて!」


「すまねえ!またすぐに戻るからな!」


 ディグダ達が慌てて昼食のパンとスープを放り投げると銀の斧を掴み、急いで山の方へと駆け上がって行く。まるで魔獣の襲来から逃れる様な有様であった。

 フィオーレ達から話を聞いていたコスモは見張りの山賊の男が逃げたと見るや、ベイト村の入口を突っ切り逃げた先へと走って行く。余りの速さに見ていた村人達の顔が引きつっていた。


 村の奥にある森の近くまでコスモが走り抜けると、村の少女が倒れた振りをしてコスモの注意を惹こうとしていた。案の定、少女を見たコスモが心配しながら駆け寄る。


「おいっ!大丈夫か!」


「……だ、大丈夫です……冒険者様……わ、私を村まで……」


「くそ、盗賊共が!こんな少女まで手を出すなんて……絶対に逃がさねえ!」


「いや……あの、私を村まで運んで……」


「すぐに仇を取ってやるからな!」


「だから私の話を聞けぇーーーーーー!!」


 コスモは少女の声を聞かずに離れて辺りを見回し始める。村の少女の行動が裏目に出てしまい、か弱い少女にまで手を出した山賊にコスモが怒りの炎を燃やしてしまったのだ。それを見た少女は心の中で『あっちへ逃げましたって適当に言えば良かった……』と後悔していた。

 しかしコスモが冒険者シノから教わった追跡術で、雪に残った山賊の足跡を見付けると一目散に山へと向かって駆け上がって行く。どの道、少女の努力は報われなかった。


 山の雪の積もった斜面という悪路でもディグダ達は慣れているのか足を止める事無く、足早に登って行くのだが相手が悪過ぎた。山賊の男が後ろを振り返ると、鬼の様な形相をしたコスモが迫っていた。


「お、親方!コスモがすぐ後ろにいますーーーーー!!」


「な、なんて速さなんだ!魔獣よりも速いじゃねえか!くそ!あの斥候の奴、速いとは言ってたけどこれは反則だろが!」


 ディグダと接触した斥候が、派遣されて来るだろう冒険者の中で要注意人物として名の上げたのがコスモであった。ピンク色を見かけたら本気で逃げろと警告されていたのだ。しかし話で聞いていた以上にコスモは速かった。

 悪路をものともしない脚力が有り、追い付かれるのは時間の問題であった。そこでディグダが覚悟を決める。


「お前らは逃げろ!俺がコスモを引き止める!」


「あの人の話を聞いたでしょう!親方じゃあ10秒も持たねえって!」


「うるせえ!早く行け!誰か1人でも逃げられれば……約束を果たせば娑婆で生活できるんだ!」


「くっ……すまねえ!親方!!」


 ディグダが山の斜面で立ち止まると仲間達を先行させる。誰か1人でも生き残り、ベイトの村で襲う振りを続ければ約束が果たされる。その為にディグダが決死の覚悟で立ち止まったのだ。

 その行動を見たコスモが山賊ながら仲間を逃がすために行動したディグダに少し驚いていた。速度を落としたコスモがそのままディグダに近寄って行く。


「へえ、少女を襲った外道と思っていたが、仲間のために体を張るのか。感心するじゃねえか」


「……ま、待て、あんたの噂は聞いている。俺の実力じゃ敵わねえのは百も承知だ……俺の命1つで仲間を見逃しちゃくれないか」


「おい……ちょっと待て!その言い方だとまるで俺の方が悪者っぽいだろ!」


「た、頼む!この通りだ!」


 そう言うとディグダがその場で銀の斧を投げ捨て膝を付き懇願する。コスモはまだ魔剣【ナインロータス】を構えてはいない。それなのに降参するディグダを見て、この異様な状況を飲み込めないでいた。

 今まで会った賊はコスモを女と見るや、すぐに襲って来る者ばかりで許しを請うのは大体が無力化された後であった。しかも目の前の男は自分が助かろうとしている訳では無く、仲間を助けるために懇願しているのだ。


 その光景を見てコスモの頭に上った血が少しずつ下がって行くと、村の状態と少女の倒れていた場所を冷静になって思い出して行く。

 村はどこも破壊された後は無かったし奪われた物も無い、少女の近くには綺麗に積まれた丸太と、散乱していた沢山のパンとスープの入った木製の器が転がっていた。

 山賊から襲われていた村としては不自然だとコスモは感じ始めていた。


「……おい、お前、名前は何て言うんだ」


「ディグダって言います」


「よし、ディグダ、一度だけ聞くぞ、村を襲った理由は何だ?」


「くっ……そ、それは……冬を越せる食料も無く、困窮して襲いました……」


「嘘を付くな!なら、なんで森の近くに食べ掛けのパンとスープが散らばってる?お前らが食べてたもんだろう、困窮してるなら村人を全員消してから根こそぎ食料を奪う筈だろう」


「そ、それは……」


 コスモの鋭い洞察力で指摘を受けたディグダが顔から汗を流し追い詰められていた。


 【紋章】を持つ斥候の者との約束には他言無用が盛り込まれていた。もし誰かに話せば約束は無効となり、ディグダ達は昔と変わらない追われる生活を送る事になるのだ。

 これまでかとディグダが諦めかけた時、その後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来る。


「まあまあコスモ君、そこまでにしておきなさい」


「誰だ?……ってウ、ウェイリー陛下?」


「全く困ったものだね、こんな雪山をディグダ君よりも早く駆け上がるんだから……」


 ディグダの背後の木の陰から突然と皇帝ウェイリーが現れる。服装は黒で統一された外套と厚手の黒装束だが、顔と髪型は確かに皇帝ウェイリーであった。

 コスモが何でこんな場所にと、戸惑っているとウェイリーの顔と体が変化を始める。


 段々と髪の色が紫色に変わり、色白の肌が褐色へと変わる。そして胸が膨らみ瞳の色も緋色に変わると、その目でコスモをしっかりと見つめる。


「コスモさん-おひさーでーす。お馴染みのパフィちゃんだよー」


「えっ?パフィ?も、もう何が何だか訳が分からん!!」


「あ、あんたは斥候の!俺は喋っちゃねえぞ!」


「ディグダさんー安心して下さいー、コスモさんから逃げられる人はこの世に誰もいないのでー約束はそのままですー」


「はあーーーーーーーー!!そりゃ助かる……」


 パフィの言葉を聞いたディグダが尻餅を付いて大きな溜め息を漏らす。パフィが特殊技能【変幻】で皇帝ウェイリーの姿で現れたのだ。コスモも目まぐるしい状況に頭が追い付いて行けずに混乱していた。


「一体どうなってんだよ、村を襲う山賊を追ったらパフィが出て来るなんてよ」


「いずれコスモさんにも伝えるつもりでしたがー、遅くなってしまいましたー、とりあえずここでは何ですのでーディグダさんの村で説明しますよー」


「ああ頼む、もう訳が分からなくて頭の中がぐわんぐわんしてるぞ……」


「なんだ、コスモさんと斥候さんは知り合いだったのか……」


「はいー、ですのでーディグダさん村まで案内をよろー」


「うっし、分かった。そういう事なら喜んで案内するぜ」


 立ち上がったディグダが雪の付いた尻を叩き、コスモを村まで案内を始める。この不思議な状況を理解出来ないままコスモが後を付いて行く。ベイト村の護衛で盗賊を討伐しにきたのに、上皇アインザーの陰の護衛者パフィが現れたら混乱するのは当然であった。

 ベイト村から雪の積もる山道を歩いて3時間程でディグダの村に到着する。周りを山に囲まれた小さな土地に粗末に造られた丸太の小屋が幾つも並んでいた。過酷な自然環境ではあるが、そのお陰で誰にも見付からずにディグダ達は過ごせていた。


 隠れ村の入口にディグダを先頭にして近付くと小さい女の子がこちらに向かって来る。するとコスモに向かって握っていた小石を投げつける。


コンッ……


「お父ちゃんを返せ!このピンクの悪魔!」


「こ、こらやめねえか!この人はそんなんじゃねえって!」


 ディグダが慌てて小さい女の子の体を抑えるが、思わぬ一撃を食らったコスモが切なそうな顔になっていた。


「なあパフィ……」


「何ですかーコスモさんー?」


「俺って人助けで来た筈なのにさ、子供に石を投げつけられるって酷い状況だと思わないか……」


「むむむーすれ違いで起こる悲劇ー【ソードーアーマー】として見事に受け切って下さいー」


「こういう攻撃はな、【守備】【魔防】を貫通して精神的にくるんだよ!ったく、邪神竜の攻撃より効くぜ……」


 最初の小さな女の子はディグダの娘で、先に逃げていた山賊達の話を聞いて父親を救おうとしていたのだ。他の子供達もそれを見てディグダを救おうと石を拾い加勢する。

 ディグダが必死に止めるが、コスモの体には無情にも子供達から放たれた複数のいしつぶてが当たって行く。子供の投げる石を受けてもダメージは無かったが少し涙目になっていた。


 ディグダの説得で子供達がようやく落ち着いて勘違いしていた事に気付くと、ディグダの娘が先頭に立ち、その後ろで子供達が横一列に並んでコスモに謝り始める。


「せーの、ピンクのお姉ちゃん、石を投げてごめんなさい!」


「「「ごめんなさい!」」」


「い、いいって事よ、勘違いは誰にでもあるからな」


「君たちーあの有名なコスモさんにダメージを負わせたんですー誇っていいですよー」


「こらパフィ、そういう慰め方はやめろ……」


 子供達の誤解も解けてディグダが仲間の下へと戻って行くと、今まで起こった事情を話してコスモ達に協力する様に言い付けていた。仲間からの信頼も篤いのか、いつの間にかディグダの周りには村の大人達が沢山集まっていた。


 そしてコスモがパフィから事情を聞き出す為、空き家が無いかディグダに尋ねると快く案内をしてくれる。

 コスモとパフィが案内された空き家の中へと入ると、古びた机を挟み向かい合う様に椅子に座り、早速コスモが事情を聞き出そうとする。


「で一体どうなってんだパフィ。ディグダ達に村を襲わせる振りをさせて、何を企んでる?」


「私の企みでは無く陛下の企みなのですー」


「陛下の?」


「賊を使って村を襲わせる、これは権力者の常套手段なのですー。昔からあった北方連合国内の国境の諍いもーきっかけは賊の襲撃から始まっているのは帝国も把握してますー」


「確かに賊を国境で暴れさせればそれぞれの隣接する国が軍を送るよな、当然、越境して逃げる賊を追いかけて行く……」


「まあ、そういう事ですコスモさんー、そうやって諍いを起こして大義名分を作り、それに軍事介入する事で国土を広げている国が1つだけありますー」


「それがバルドニア王国……」


「ご名答ーパチパチー」


 バルドニア王国は賊と結託して国境の近くの村を襲わせ示し合わせた様に竜騎士団を送り、領地の切り崩しを行っていた。バンディカ帝国の皇帝ウェイリーもそれを知ってはいたが、カイネルと賊が繋がっている証拠が無くただ傍観するしかなかった。

 さらに幼年のリフィスを担ぎ出す事で治安維持という正当性を強調し介入する始末である。


 そして成長したリフィスが神器の扱えない【無能のリフィス】と知ると、ジョストン領の返還の好機と見たバルドニア王国の国王カイネルが、今度は逆に結託していた賊に村を襲わない様に通達し始めたのだ。

 そうなると仕事斡旋所には賊討伐の依頼が入らなくなっていく。つまり外部から敵か味方になるか分からない不安材料である冒険者の出入りが一切無くなるという事になる。


 そこでコスモや他の冒険者をどうしてもジョストン領へ送りたかった皇帝ウェイリーが、父の上皇アインザーに頼み斥候として優秀なパフィの力を借りると、賊の振りをしてくれる協力者を探し始める。そこで見つけたのが元山賊のディグダ達であった。


「いやー他の賊を締め上げてディグダさんの話を聞いた時はーコスモさんの【踊り】を受けた様に興奮しましたー」


「あん時は悪かったよ……それより、仕事斡旋所の賊討伐の依頼だけど、カイネル王が賊に村を襲わないように止めている筈なのに増えているよな?なぜなんだ?」


「それはコスモさんが帝国から追い出した外から来た賊が増えたからですー。カイネル王と結託している賊はバルドニア王国から支援を貰ってますがーそうでない賊が多いからですー」


「だとしたら、ディグダに山賊の振りをさせる必要は無いんじゃ……」


「残念ながらその賊もほとんど冒険者とバルドニア王国の竜騎士達に鎮圧されましたー。残りもバルドニア王国と結託している賊に編入され始めていますーいずれは時間の問題ですー」


「……その時間を稼ぐ為か、だからこんなに回りくどい事を陛下が指示していたのか」


「いぐざくとりー!」


「まったく良くやるぜ陛下は……」


 冬になってもカイネルは賊の鎮圧に必死になって取り組んでいた、それも雪解けの春にすぐに行動を起こせる様にするためである。

 ウェイリーもその事を予測し、コスモによって潰された賊の残党だけでは持たないと考え、自分の息のかかった賊を用意して村を襲わせる事で冒険者の数を増やすのと同時にジョストン領の返還を引き延ばそうとしていた。

 賊を利用するのはカイネルもやっていた事で、その意趣返しとしてウェイリーが同じ事で時間を稼ごうとしていた。コスモがジョストン領に向かう前から手を打っていた様である。

 流石<ファンタスティックカイザー>という異名を持つだけはある、ウェイリーらしい采配であった。

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