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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第84話 狂乱の貴公子エシェラント

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた



 カイネルの従者がコスモ達を乗せた馬車を走らせ、ジョストン領、地区領主のエシェラントの領地に近い村へと向かっていた。馬車に乗っている間はコスモが今までの賊討伐の話や、ビキニアーマーを装備した経緯を冗談を交えてエーシンと談笑する。そして話が終わるとお互いが窓の外を眺め景色を楽しんでいた。


 その様な時間を2日間過ごすと馬車が目的地の村へと到着する。馬車は1日3回の食事以外はずっと走りっぱなしであった、コスモとエーシンが馬車を降りると背を伸ばし、屈伸を始め体をほぐして行く。

 従者の老紳士も御者の席から降りるとコスモ達にエシェラントが治める領地の方向を説明する。一通りの説明を終えると別れを告げ、再び馬車へと乗り込み来た道を引き返して行った。


「さすが帝国に次いで大きな領土を持つバルドニア王国だな、やっぱり広いな」


「ふう、何とも堅苦しい馬車であった。あの従者、なかなかの手練れ、拙僧とコスモの話に常に聞き耳を立てておって疲れたぞ……」


「……やっぱり、疑われてるんだな」


「まあ、その先の話は道中でするとしよう、この村にも恐らく王国の斥候の者がおるからな」


 馬車での移動中、コスモとエーシンが交わした会話は雑談が主であり、目的や依頼の事は一切口にしていなかった。エーシンの助言で従者の老紳士がカイネル王の側近か、もしくはかなり信頼を置く者である事を教えてくれたからだ。


 同盟国とは言え秘密裏に動くコスモにとっては敵地であり、油断出来ない状況が続いていた。


 ジョストン領に向かう道中ではエーシンがカイネル王と出会って感じた印象をコスモに語り聞かせていた。


「カイネル王、見掛けによらずかなりの臆病者と見た」


「臆病者?あの雰囲気でか?有り得ないだろう!」


「まあ聞けコスモ、戦いで勝ち続ける王とは一体どのような者だと思う?」


「そ、それは、弛まぬ鍛錬に勝つと言う強い気持ちがある者だと思うけど」


「……それは短期的に見ての答えだな、いいか長期的勝ち続けるには鍛錬も重要だが、気持ちはそう長く続かないものだ。勝ち続けるには勝つという気持ちよりも、負けない様にする事が大事、そして数多の人民の命を預かる王は負けは許されぬ、病的に臆病である事が肝要なのだ」


「臆病である事……」


「あの男は自分の目で確かめたかったのよ、コスモが自分にとって、国にとって災いの種なのかな……もしそうでなくても少しの不安を取り除きたい、あの言動はまさにそれを示しておった」


「言われてみれば、俺の目的を知るだけなら配下の者に任せれば良いもんな、わざわざ自分が出向く事も無い……」


「勇猛果敢と呼ばれる者程、扱いやすく読みやすい者はおらんが、カイネル王の様に老獪であり気丈で慎重な男だと全くの隙が無い、手強い相手だぞコスモ」


「……へっ、端から楽な相手だと思ってねえよ」


「ふふっ、ともあれまずはエシェラント伯爵の領地を通らねばならぬな!さあ、どんな難題が待っているのやら」


 軍師のエーシンがカイネル王を臆病者と称しつつも、王としての資質を絶賛していた。臆病者と聞いたコスモは、エーシンがカイネル王を侮っていると勘違いするがそうでは無かった。

 負けない様にあらゆる布石を打ち、どんな小さな不安の種をも摘んでおく、用意周到な者だと分かったからだ。


 そんな強敵が相手であるが、コスモは今まで受けて来た依頼を楽だと思った事は1つも無い、その心構えがあるからこそ今までの戦いを切り抜けてきた。

 コスモは油断する事無くエーシンの言葉に耳を傾けていた。


 村から離れ、カイネル王とジョストン領についての小話をしながら次の目的地であるエシェラント伯爵領に向かって歩き続ける事1日、やっと国境へと到着する。


 長く続いていた森と山間に囲まれていた道が開かれた道へと変わって行く、歩いて来た道も十分に整備されており、馬車や人が多くても問題が無い道だ。


 しかし道が開かれた時に、様子がおかしい事にやっと気付く。


 ジョストン領に向かう道は他にもいくつかあるが、エシェラント領に続く道にだけ人が居ないのだ。物資を運ぶ商人の馬車も居ないし、冒険者の姿もない、コスモとエーシンだけなのだ。

 ここまでの道中、数人とはすれ違ったが皆、途中の集落や脇道へと逸れて行って誰もエシェラントの領地に向かってはいないし、領地から出てもいなかった。


 2人だけで誰も居ない寂しい道の先へ進むと丸太で作られた簡易な砦があり、エシェラント伯爵領の兵士2人が暇そうに歩哨に立っていた。しかし砦の門は固く閉じられ通行出来ない様になっていた。


「おい、この道を通りたいんだが、門を開けて貰えないか」


「なんの用だ、ピンクの女、今は伯爵様からの言い付けで誰も通すなと言われている、迂回して違う領地から入ってくれ!」


「俺は<インペリアルオブハート>の称号を持つコスモってもんだ!帝国の人間なら知ってるだろう」


「えっ!あの元祖ビキニパラダイスで水着大会で優勝したあの!」


(ぐぬう、何で毎回元祖ビキニパラダイスが出て来るんだよ……もっと格好いい活躍とかあるだろ!)


 功績という物は貴族に広まるより、庶民に広まる方が伝達速度で勝る。そして大陸全土で商いを行うメデウス商会の影響でコスモの功績は賊討伐よりもビキニ嬢の元祖である認識の方が勝っていた、それだけ利用者が多いという事である。


「し、しかしコスモ様も願いとは言え、誰も通すなと言われておりまして……」


「俺も通せないって一体何があったんだよ」


「落ち着けコスモ、お主が来たからには伯爵も黙ってはおらんよ」


「そうは言ってもエーシン……」


 落ち着きすましたエーシンがコスモを宥めていると、砦の門内から馬を駆ける蹄の音が少しずつ迫って来るのが聞こえて来る。しかも1頭だけでは無く数頭は居る音だ。その音が門内でぱったりと止むと、今度は指示を出す男の声が聞こえて来る。

 すると突然、砦の門がゆっくりと開き始める。開いた門の先には馬に騎乗した騎士達が隊列を組み待ち構えていた。


 その先頭には一際、目立つ男が居た。黒い馬に跨り、橙色の背中まで届く長い美しい髪を流し、年齢は20代、凛々しく美形な顔、帝国の軍団色の黒い軽装鎧に白地の帝国紋章の入った外套、片手には細長い両刃の穂先が付いた槍が握られていた。

 その槍は通常の槍では無い、石突には鎖が取付けられ、男の槍を握った手の手首の防具に繋がっていた。恐らく投擲をした際にすぐに引き戻す目的があって付けているのだろう。


 門が開くと従者の騎士達10人が散開して過剰な程に辺りの警戒を始める。


 その中で橙色の髪の男が下馬すると、従者へと馬を預けコスモの方へと歩み寄ると、静かに頭を下げる。


「<インペリアルオブハート>のコスモ様、お待ちしておりました。私はジョストン領の地区領主を務めるエシェラントと申します」


「貴方がエシェラント伯爵……というより何で俺が来る事を知ってるんですか?」


「昨日、同盟国であるカイネル王からコスモ様の到着を知らせる早馬……いえ早竜が入りまして、こうしてお迎えに上がったのです」


「うん?カイネル王から?」


 男は地区領主を務めるエシェラントであった。女性を接する事にも慣れているのか、紳士的な対応でコスモを歓迎してくれる。しかしエシェラントの目の下には大きな隈が出来ていて、眠れていないのかやつれている様子だった。


 それも気になるがコスモはカイネルの行動が分からないでいた。国境都市グラスタリーから離れた屋敷ではバルドニア王国から追い出したい様子だったのに対して、この件に関しては妙に協力的で気持ちの悪いくらいであった。


 しかしこの時点ではその意図を読む事が出来ない、コスモがカイネル王との約束を果たすのか確認をする為にエシェラントに伝えた可能性もあると考え、この場は深く考えないようにした。


 するとエシェラントが顔を明るくして安心した様子になる。


「コスモ様が訪れると聞いた時は、このエシェラント興奮が収まりませんでした!やっとこの問題が解決出来ると嬉しくて、我慢が出来ずに迎えに参ったのですよ!この場で話すのも何ですから、我が屋敷まで案内しましょう!」


「そ、そうでしたか……それでは案内をお願いします」


 早速だが地区領主エシェラントの抱える問題が出て来る。しかもエシェラントはコスモがそれを解決出来る事に望みを持っている様だ。そのテンションの高さにコスモが若干引き気味になりながら、砦の門の中へと入って行く。

 

 中に入った後は門の外を騎士達が警戒しつつ急いで砦の門を閉める。まるで何かの襲撃を恐れている様にも見えるが、今はエシェラントの後へと付いて行く。


 エシェラントの屋敷へと到着すると、応接室へとコスモとエーシンを案内するのだが、応接室の壁には画家に描かせた橙色の長い髪を持った美しい女性の肖像画が何枚も飾られていた。恐らく肖像画に描かれた女性は全て同一人物だろう。


 一枚一枚、成長に合わせて描かれている肖像画に、コスモが少し不気味に感じつつもエーシンと隣り合って長椅子に座ると、エシェラントが装備していた槍と手首の防具を外し、机を挟んだ反対側の長椅子へと腰を掛ける。


「到着して早々ですがコスモ様、今この領地で起こっている問題をどうにか解決して頂きたいのです!」


「問題とは一体、何が起こっているんですか?」


「それが……ああっ!考えるだけでもおぞましい!!あの化け物め!何度追い払っても私の前に現れる!!」


「あ、あの、そんなにもったいぶらずに早く話して下さい……」


「ああ、申し訳ないコスモ様、少し取り乱した……実はオークが我が領地を襲ってくるのです……それも、我が愛しの妹レシェナの名を語って!!」


「オ、オーク??」


 オークと言えば童話などに登場する空想上の種族である。それも醜い顔に緑の肌、ぶよぶよとしただらしのない体にボロ布の腰布だけを巻き、片手には木のこん棒を持つというのが一般的な認識だ。


 当たり前だがアセノヴグ大陸にはオークの様な生物は存在はしない。居たとしても体に悪い物を食べた顔色の悪い人間であろう。

 オークという唐突に出た言葉にコスモが面を食らっていると、横に居たエーシンが小さく溜め息を付いてやれやれと言った顔になる。

 しかしエシェラントは真剣な顔、というよりも気が狂う寸前の禁断症状の様な顔付きだ。折角の美形な顔が台無しだが、冗談で言っている訳では無いのはその顔から分かる。

 エシェラントが少し興奮気味なのを感じたコスモが、部屋に飾ってある肖像画について話を聞いて和ませようとする。


「い、妹君と言えば、この部屋に飾られている肖像画がそのレシェナ嬢なのですか?」


「そのとおーーーーーり!!いや、コスモ様はやはり分かっておられる。この美しい肖像画が妹である事に気付けるとは、称号の名に恥じぬ御方、美しい者は美しい者を知る!」


「は、はあ……」


「我が愛する妹レシェナは私の力になりたいと申しましてな!私が危険だと反対しても兄様の為に役に立ちたいと健気な事を言うものですから、仕方なぁーーーーく!スーノプ聖国へと送り出し【シスター】になる為の修練を積ませに送り出したのです。その厳しい修練を終えてこちらに戻って来る予定だったのですが……」


「……代わりに訪れて来たのが、その、オークであると……」


「はい……しかも、そのオーク、我が妹の名を語るだけでは満足せず、スーノプ聖国での修練を収めた証である白の修道服に身を包み、この私を謀ろうとするのです!!」


 エシェラントが鼻息を荒くしてそう語ると、コスモが頭の中で問題の整理を始める。

 エシェラントにはレシェナという肖像画に似た妹が居る。そして【シスター】になるべくスーノプ聖国へ向かい、無事に修練を終えて戻って来る筈が、代わりに戻って来たのが修道服を着た【オーク】である。

 コスモは全く理解が出来なかった。だが妹のレシェナを兄のエシェラントが溺愛している事だけは理解できた。


 額に汗を流しコスモが悩んでいると、エーシンが呆れた顔で確認を始める。


「エシェラント様、まずそのオークとやらに会ってみたいのですが、どの位の頻度で現れるのですか?」


「お、恐ろしい事に毎日だ……だから国境の砦の門を全て閉めて、この領地に入らない様に警戒をしている」


「……ふむ、で今日はもう現れたのですか?」


「い、いや、まだだ……その報告が来る度に私は……心やすらかに寝る時間すら訪れないのだ……」


 エシェランがやつれている原因は毎日オークが訪れて来るせいで、それを恐れたエシェラントは門を閉じ、領地に入れない様に対策していた事が分かる。どおりで道に人が居ない訳である。


 エーシンの中ではすでに答えが見えているらしく慌てる様子は全くない。

 そんな話をしていると応接室の扉が開き、従者の騎士が慌てた様子で入って来る。


「エシェラント様!現れました!オークです!!」


「ああ、何と言う事だ!女神様は私を救ってはくれぬのか!!」


 オークの到来した報告を受けたエシェラントが大袈裟に狼狽する。それも妹を溺愛するエシェラントの下に妹を自称するオークが毎日来ればそうなるだろう。

 その報告を聞いたエーシンが長椅子からすっと立ち上がる。


「良いですかエシェラント様、コスモと拙僧でオークの相手をしてきますので、貴方はここから動かぬ様にして下さい」


「だ、だが、相手は妹を語るオークなのだ……知恵もあってずる賢い、私の魔槍【グルンドデーズ】の力も必要だろう」


「その心配には及びませぬ、間違ってもその魔槍を持って来ない様に……さあ行くぞ、コスモ」


「あっ、ああ!」


 そうエシェラントに言い付けると、エーシンがコスモの腕を強引に引っ張り応接室から出て行く。従者の騎士にオークの下までの案内を頼むと、屋敷を出て小走りでオークの現れた砦の門へと向かって行く。


「な、なあエーシン、オークってのは一体何者か分かったのか?」


「まだ確信は無いが、会ってみれば分かる筈だ。まあ、問題はその後だな」


「何だよ、まだ問題があるのか!」


 ただでさえオークが訪れて来ると言う問題以外にもう一つの問題をエーシンが予見していた。


 やっと砦の門へと到着すると、門の内側では兵士2人が門を抑え開かないようにしていた。

 しかし門は外側から攻撃されている様子は全く無い、門の外側からは女の声が聞こえるだけであった。


「なんで門を開けて貰えないのですか!何度も申しました通り、エシェラントの妹レシェナにございます!……ぜえぜえ」


「だ、黙れ!美しきレシェナ様を騙るオークめ!この領地から立ち去れ!!」


「私はオークではありません!兄様に会わせて下さい!それで分かって貰えるはずです!!……ぜえぜえ」


 コスモとエーシンが兵士と門の外に居るオークとのやり取りを聞くと、オークの声色からして必死に訴えかける気持ちが伝わってくるが、言葉尻に息苦しく呼吸をしている事が妙に気になる。

 門を抑える兵士に近寄ると、エーシンが門から離れる様に指示を出す。


「し、しかし門を開けてしまっては、コスモ様達の身に危険が!」


「何、問題は無い、それよりもお主達は後方に下がり、誰も近寄らぬようにするのだ」


「わ、分かりました……ご武運を……」


 兵士達が一斉に門から離れると走って後方へと向かう。そしてエーシンが門の閂を外し、ゆっくりと門を押し開ける。

 門を開けた先には1匹のオーク、いや、良く見るとオークでは無い者が立って居た。


「やっと分かってくれたのですね……ぜえぜえ、こ、これで兄様に会える……ぜえぜえぜえぜえ」


「……やはりな、お主、レシェナと言う名で間違いないか?」


「はい、私は地区領主エシェラント伯爵の妹、レシェナと申します……ぜえぜえ」


「こ、この人がレシェナ嬢なのか……あの肖像画とは全然違うけど……」


 コスモとエーシンが見たレシェナの肖像画に比べ、目の前に居るレシェナは大きく印象が違っていた。

 白い修道服を身に包んではいるが、今にもはち切れそうに布地が張っていて、体型も極太の円柱の筒の様な体型だ。顔中からは脂汗を流し、顔色が悪く息を苦しそうにしている。


 オークとは、ただ太り過ぎたレシェナを指したものであったのだ。


「も、もしかして、この体型だからエシェラント殿は勘違いを?」


「薄々分かってはいたが、その様だな」


「く、くだらねえ……」


 エシェラントが恐れていたのは太り過ぎた妹のレシェナであった。その問題の答えにコスモが肩を落とし、呆れた顔で立ち尽くしていた。

 すると道の横の草むらから見知らぬ1人の男が飛び出して来る。

 

「良かったなレシェナさん!これで故郷に戻れるな!」


「ジュリーダン!これも貴方のお陰です……ぜえぜえ、兄様に紹介をしたいから是非、一度屋敷に来て下さい、ぜえぜえ」


「でも俺は元は盗賊……帝国の貴族様に会う資格はねえよ……」


「安心なさい!エシェラント兄様はとても優しいお方、それに帝国は投降する者には寛容です。ぜえぜえ」


「おい、お主は何者だ、それとレシェナとはどういう関係だ」


「そ、そうでしたね、紹介します。私が盗賊の砦に捕まった時に助けてくれたジュリーダンという男です」


 草むらから出て来た男はレシェナを盗賊の砦から救ったジュリーダンという男であった。

 レシェナとは年が近く鶏冠の様な水色の髪に、汚れた外套、革製の軽装鎧を着込み、腰にはあらゆる形状の刃物を携えている。背中には鉄製の大鍋に調味料の入った瓶を入れた小箱と、行商人の様な格好だ。

 草むらに隠れていたのも、レシェナが盗賊と一緒に居ると思われない様にする為であった。


 ジュリーダンを紹介したレシェナがぱんぱんに張った顔で笑顔になると、自慢気に今までの経緯を話し始める。


「ジュリーダンは凄いんですよ、私を助ける為に他の仲間達を太らせて、後を追えない体型にしたんです。そのお陰で私とジュリーダンは盗賊の砦を悠々と脱出出来たんですから!ぜえぜえ……」


「え?仲間を太らせる?一体どういう意味なんだ……」


「へへっ、太らせるのに2週間掛かっちまったけどな!まあ戦闘はからっきしだけど、料理は誰にも負けねえからな!」


 話からジュリーダンは盗賊の仲間を得意の料理で太らせたらしいが、それを聞いたコスモが意味を理解出来ずに困惑していた。人とは2週間で動けなくなる程に簡単には太らない、痩せる時と同様に時間をかけてゆっくりと進むものなのだ。

 当の本人ジュリーダンはそれを得意気な顔をして恥ずかしそうに照れていた。


 話を聞いたエーシンが珍しく顔を歪ませていると、そのジュリーダンに問い掛ける。


「脱出する為に盗賊仲間を太らせたのは分かる……だが、なぜレシェナも太っておるのだ」


「え?レシェナさんが太っている?……どこが?」


「いやお前、どうみてもレシェナ嬢が苦しそうにしてるし、息を荒くしてるだろ!そりゃ太り過ぎて心臓に負担が掛かってる証拠だぞ!」


「……でも普通に動けてるし、それにさ、その息遣い凄く色っぽいんだよな!最初に出会った頃に比べて凄く綺麗だよ!」


「も、もう、ジュリーダンったら、ぜえぜえ、こんな所で綺麗だなんて……ぜえぜえぜえぜえ!」


「あーもう!余計に心拍数上げるんじゃねえ!」 


 どうやらジュリーダンにはレシェナが太っている様には見えていないらしい。むしろ、今の姿が自分好みで美しいとまで言ってのける。その褒め言葉にレシェナが嬉しく思ったのか、更に息苦しそうに脂汗まみれの笑顔を見せていた。


 そのやりとりを見て頭を掻きながらエーシンが、更に問い詰めて行く。


「普段はレシェナに何を食べさせている」


「そうだな、昨日の晩飯だとラードをたっぷり溶かした上に豚肉を炒めて、その油を染み込ませたパンのアヒージョと、その後にデザートで砂糖をたっぷりと入れた牛乳に玉子を投入して焼き上げたプリンだな」


「……何人前作ったんだ」


「何人前って……レシェナさんが食べるのを止めるまで作り続けてたよ」


「……なぜお主は体型が普通なのだ」


「俺って料理を食べるよりも作るのが楽しいからさ!人が俺の料理を食べる姿を見ると満足しちゃって腹が減らねえんだよ!」


「ちなみにだ、コスモとレシェナ、お前から見てどちらが美しい女だと思う?」


「レシェナさん」


 問いに対して恐ろしい返答を繰り返すジュリーダンに、軍師であるエーシンが苦悩していた。


 昨晩の料理に至っては脂質と糖質を多く含み、太るには持って来いの栄養素だ。それを食べるのを止めるまで作り続け、与えた結果が今のレシェナの体型である。

 そしてトドメは美しい者はどちらかという答えを真顔でレシェナと即答した事である。


 ロンフォード領の次期領主セリオスと、バンディカ帝国の皇子ユリーズから求愛を受け、ハヌイアムで水着大会を優勝した実績に、大陸中の都市に展開する【ビキニパラダイス】の先駆けであるコスモを差し置き、太ったレシェナを美しいと断言したのだ。

 エーシンはここで全てを理解した。エシェラントの抱える問題の元凶はこのジュリーダンという男である事に。


 ジュリーダンはレシェナの太った姿が好みだったのだ。太る事を問題としないならば、相手が求めるがままに料理を与え続ける、まさに悪魔の所業ではあるがジュリーダンに悪意は無い、むしろ善意で行っているからこそ質が悪い。


「ふう、コスモ、カイネル王がなぜ拙僧達をエシェラントの領地に向かわせたのか理解したぞ……」


「あ、ああ、俺も何となくだが、分かった気がする……」


 カイネル王はこの問題を把握していた。そしてその問題の解決が現状不可能である事を知っていたからこそ、コスモ達をエシェラントの下へ送ったのだ。もし解決しようとするならば、レシェナを今すぐに元の体型へと戻し、エシェラントを安心させる事なのだ。

 このままだとエシェラントがレシェナをオークとして討伐するのは時間の問題である。


 そう思っていた矢先、エーシンが後方から迫りくる者に気付き大声を上げる。


「コスモッ!レシェナを守れっ!!」


「えっ?!」


 エーシンが声を上げた瞬間、コスモは背後から物凄い敵意と殺意を感じると、鋭い風切り音が迫っている事に気付く。

 その風切り音の正体は魔槍【グルンドデーズ】であった。ピュイーーンという音を出しながら両刃の穂先がレシェナの顔に目掛けて飛んで来たのだ。


 その飛んで来た魔槍【グルンドデーズ】をレシェナの顔に当たる寸前でコスモが驚異的な動体視力で背面のままに右手を突き出し掴み止める。


ガシッ!!


「あ、あぶねえ間一髪だった……」


 コスモが背面キャッチという神業を見せると、見事に魔槍【グルンドデーズ】の投擲攻撃を防ぐ。

 しかし、その攻撃を向けられたレシェナが目に大粒の涙を浮かべ悲しむ顔を見せていた。


「な、何故、この様な事をするのですか……エシェラント兄様、ぜえぜえ……」


「この醜いオークめが……私はもう、覚悟を決めたぞ、あのコスモ様をもたぶらかし、取り込もうとする企み、我が魔槍【グルンドデーズ】で打ち砕いてくれる!!」


 コスモがオークに惑わされていると思ったエシェラントが、覚悟を決めると様子が変化して行く。

 エシェラントの特殊技能【狂乱】が発動すると、目元から炎の様に燃え盛るオーラを放ち始め、食いしばる様な表情に変わって行く。

 特殊技能【狂乱】は、精神的に追い詰められた状況下でのみ発動、能力値の【力】、【技】、【速さ】が元の2倍になるという条件さえ揃えば英雄級以上に達する技能である。


 そして解除の条件は精神的に追い詰めて居る者の排除、これによってエシェラントは帝国内でも恐ろしい二つ名を持っていた。

 それが技能の名を冠した【狂乱の貴公子】である。


 コスモの掴んだ槍を【力】だけで無理矢理引き抜くと、手元へと魔槍【グルンドデーズ】を戻す。すでに説得は不可能な状態と見たエーシンがレシェナとジュリーダンを連れてその場を離れる。


「良いかコスモ!エシェラント伯爵を落ち着かせろ!そして時間は掛かるが必ず妹のレシェナを戻すと説得をするのだ!」


「ああ、そっちの方が俺も話が早くてありがたい、任せろエーシン!」


 コスモが魔剣【ナインロータス】とハート型の盾を構え、エシェラントの正面に立ち塞がる。


「コスモ殿、貴女をこの魔槍の餌食としたくは無い、正気に戻り、そのオークを差し出すのだ!」


「俺は元っから正気だ!いいかエシェラント!あのオークは間違い無くお前の妹なんだ!それを自分の手に掛けたとなればお前は一生後悔する。それを俺が止めてやる!!」


「ならば、このエシェラント、押し通らせて貰う!!」


 エシェラントが魔槍【グルンドデーズ】をコスモに向かって鋭く投擲すると、ハート型の盾を前面に掲げコスモが受け止める。


ガギィィィィン!!


 金属同士がぶつかる衝撃音が鳴り響くと、コスモの盾と腕が後方へと押し込まれる。


「な、何ていう力なんだ、こりゃ並の【守備】じゃあ受け切れねえぞ」


「まだ序の口、次の攻撃を受け切れるか!」


 鎖に繋がれた魔槍【グルンドデーズ】をすでに手元へと戻し、次の攻撃が繰り出されようとしていた。

 魔槍【グルンドデーズ】の特徴はとにかく高い攻撃力と命中率である。それに加えて遠距離の攻撃を可能とし、【アーチャー職】であっても不用意にエシェラントの間合いに近付けば、魔槍の攻撃範囲に入る。

 そしてエシェラントの技能【狂乱】とは相性が良く、2倍に上昇した【力】、【技】、【速さ】がその破壊力を更に高めていた。


「槍技【槍投針(ジャベリンスティンガー)】!」


 両刃の鋭い穂先がまるで、蜂の針の様に飛んで来るとコスモがハート型の盾で上手くいなす。だが盾でいなされても、直ぐに魔槍がエシェラントの手元へと戻り、再び放たれる。

 その槍とは思えない連撃が加速して行き、やがて一点の衝撃から多点の衝撃へと変わって行く。


「な、なんだこれは!まるで壁に押される様な衝撃だ!あんな細い穂先なのに……」


「槍奥義【百穴通針(ハンドレドスティンガー)】だ!この奥義で何人もの賊の風通しを良くしたのだ、例え相手が英雄級だろうと防ぐ事はできん!」


 エシェラントの投擲攻撃が同時に降り注ぐ様にコスモのハート型の盾を叩き付け始める。

 ジョストン領の領主リフィスの配下でも最も武勇に優れたエシェラントの成せる技である。この技でジョストン領を襲う賊達を何度も追い返し、そして賊達からも恐れられていた。


 絶え間ない投擲攻撃にコスモが防戦一方となるが、このままでは埒が明かないと考えたコスモが足を踏ん張り、ハート型の盾の横から少し顔を覗かせ、投擲攻撃の瞬間を見定める。


 そして神速で迫る投擲攻撃に合わせ、体ごと盾を瞬間的に前へと押し出す。


「盾技!【楯駿突撃(シールドアサルト)】!」


 魔槍【グルンドデーズ】の穂先がハート型の盾に物凄い勢いで上空に弾かれると、エシェラントも右腕に力を入れ踏ん張り、そのまま手元へと戻して行く。

 これで魔槍の投擲による連撃は止まるが、エシェラントは攻撃を再開しようと素早く構え始める。しかし投擲しようとした瞬間、コスモの構えを見て躊躇する。


「き、貴様……この私を侮辱する気か!」


「へっ、侮辱どころか敬意を持ってるぜ、このままじゃあ埒が明かねえ、エシェラント、お前が持つ最大の奥義で攻撃して来い!!」


 なんとコスモは構えを解いて、両手を左右に大きく開き無防備に棒立ちしていた。エシェラントに体を向け、急所を守っているのはビキニアーマーだけとなっている状態だ。


 その行動を見たエシェラントが侮辱と捉えると激高し、コスモの言葉を聞くと目元から出現していた炎のオーラをより巨大化させる。右手に持った魔槍を投擲の構えのままに大きく後ろへと体を捻り、全ての力を右腕へと集中させてい行く。


「ならば、遠慮なく行かせて貰う!!くらえっ!!槍奥義【徹甲貫針(ぺネレートスティンガー)】!!!」


 投擲された魔槍が炎のオーラを纏い、空気を切り裂く様に光線の如く、コスモの心臓目掛けて迫って来る。


 コスモに迫る魔槍の穂先は、最初は小さな点であったが目の前に迫る頃には巨大化した炎の玉の様になっていた。速度も全力で引き絞って放たれた矢と変わらない、しかしコスモは胸に当たる寸前まで目を離さず時を計っていた。


 そして驚異的な動体視力と【速さ】で反応すると素早く横へと避け、丁度右腕の脇の下に逸らす。


 そのまますかさず右脇を締めると投擲された魔槍の柄を抑える事に成功する。

 簡単に捉えた様に見えるが、抑えるのが早いと両刃の穂先が脇に刺さり、遅れれば再びエシェラントの手元へと戻ってしまう、その間の刹那を見切ったのだ。


「な、何!あの速度を捉えるのか!」


「これで終わりじゃねえぞ!うっらあああああああ!!」


 魔槍の石突に取り付けられた鎖に目掛け、左手に持っていたハート型の盾を大きく上へと振り上げると、伸びきった鎖の上へと振り下ろす。

 振り下ろされたハート型の盾は鎖ごと地中深くへとめり込み、その手首に付けていた鎖の力に引っ張られたエシェラントが騎乗していた馬から落馬して前のめりに地面へ倒れ込む。

 コスモがハート型の盾を左手から離すと同時に右脇で締めていた魔槍を放し、倒れたエシェラントに向かって素早く飛び出すと、魔剣【ナインロータス】をエシェラントの首元へと当てる。


「これで、勝負ありだな!」


「ば、馬鹿な!あの奥義は未だかつて破られた事が無いのだ!」


「エシェラント、あんたの武器は遠くの間合いから凄まじい破壊力で敵を一方的に制するのが強みだが、間合いの要である鎖を取られたら、攻撃を封じる事が容易いのが弱点だ」


「た、例えそれが分かったとしても、常人に捉える事など不可能だ!」


「それが出来るから、俺は上皇様から称号を頂いたんですよ、エシェラント伯爵!」


「くっ……おのれ……」


 常軌を逸しているコスモの見切りにエシェラントが悔しそうな表情を浮かべる。弱点である鎖が分かったとしても、今まで何人たりとも抑える事は出来なかったのだ。


 そこでコスモは敢えて無防備となり狙われる場所を急所に限定させる事で、集中力を高め驚異的な動体視力で槍を抑えていた。例え魔槍【グルンドデーズ】の一撃が急所に命中したとしても、コスモの【守備】によって致命傷には至らない。

 それ程までに【ソードアーマー】としてのコスモは完成されていた。


 こうしてエシェラントの暴走を抑える事に成功すると、コスモが説得を開始する。

ここまで読んで頂きありがとうございましたワン!

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