第80話 乱戦の決戦
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
舞台に上がって来た行動力の上がった男達がコスモ、ジョセフィーヌ、シャルミを囲い始めていた。ただこの3人は参加者の女達の中では突出した戦闘力を持つ者達でもあった。
シャルミが男達に囲まれながらも、男達の股間を順番に指差し恐ろしい事を口走る。
「ひぃーふぅーみぃ……26玉ですか……これは潰し甲斐があるというもの……」
「お、おいシャルミ殿、何を言ってるんだ?」
「何をってジョセフィーヌ、そのままの意味ですよ?男の命(玉)を取ると言う意味です」
「も、元、男として少しの慈悲の心は無いんですか……」
シャルミの言葉にジョセフィーヌが理解出来ないでいると、それを聞いたコスモが内股になって困惑の表情を浮かべる。
その間にも行動力の上がった男達の侵攻が進む。多少ながらも残った理性が働いているのか、可憐な女達を目の前に後一歩の思い切った行動が取れず、牛歩の様な歩みになっていた。
その男達の間を風の如く駆け抜け、コスモ、ジョセフィーヌ、シャイラの前に立つ3人の男達が現れる。
青い髪の男はコスモの前に、金髪の中年男はジョセフィーヌの前に、同じく金髪で毛先が尖った髪型の男がシャルミの前に立つ。
「コスモ、相変わらず騒ぎを起こすのが好きだね」
「む、娘を傷物にされてたまるか!領主の熱き拳で跳ね返してやる☆」
「シャルミさん!あんたはこの俺が……守る!」
現れたのはセリオスとレイグ、そしてオルーガの3人であった。
それぞれが守りたい女の前に立つと、男達と対峙して拳を握り、殴り合う体勢を取り始める。突然登場した白馬の騎士達に驚いたコスモが頬を赤くする。
「セリオス、お前が守らなくても俺は大丈夫だって知ってるだろ!」
「だからってこの場を傍観出来る僕だと思う?」
「い、いや……その……思わないけど……」
「コスモの体には何人たりとも触れさせない!」
「ど、どけ!小僧!後少しであの有名なコスモちゃんのたわわなボディに触れられるんだ!!」
男達の集団の中から興奮を抑えきれなかった男がセリオスに殴り掛かると、セリオスが身を屈めて躱し、目にも止まらぬ早さで男の顎を拳で打ち抜く。
打ち抜かれた男が、全身の力が抜ける様にその場に前のめりに倒れ込む。
「今の拳が見えないのなら、コスモは諦めた方がいいよ」
セリオスの技能【天光剣】を応用した技、闘奥義【天光拳】である。光に近い速さで放たれる拳は、常人では見切れない一撃必殺の拳である。
その隣ではレイグが男達と揉み合いになって必死にジョセフィーヌを守っていた。亡き父のジョシュアに幼少の頃から嫌になる程、鍛錬を積まされていたレイグも常人以上の能力値は備わっていた。
そのお陰で何とか男達を抑え込んでいる。
「ぼ、僕だってね生半可に鍛えてないんだ☆ぬぐぐ……」
「ち、父上……」
守られていたジョセフィーヌはなぜか悲しい表情を浮かべていた。それも想い人であるセリオスが迷う事無くコスモの前に立ったからだ。
その行動を見れば誰でも察しが付く、セリオスはコスモを好きなのだ。
まだ優勝者の発表はされていないが、ジョセフィーヌはこの時点でコスモに心の底から負けたと感じていた。
そして女達の中でも一番の反応を見せたのがシャルミことシャイラであった。
「シャルミさんはお前らが触れていい軽い女じゃねえんだ!!」
「オルーガ……貴方という人は……」
オルーガが鼻血を出し、顔にアザが出来てもシャイラを守る為に身を挺して男達と殴り合っていた。自分よりも遥かに弱い男であるオルーガが、大陸で1,2位を争う程に最強の名を欲しいままにしたシャイラを守っているのだ。
そのオルーガの健気な行動と、自分を好いてくれるという気持ちが伝わってくると、シャイラの心の中に恋心というのが芽生えて来ていた。
ちなみに忘れてはならないがシャイラの中身は爺である。
(何か、胸が締め付けられる……守ってばかりの自分が守られるなんて……こんな嬉しい気持ちになるんですね)
シャイラはオルーガの後ろで無表情ながらも頬を赤くして、オルーガの背中を優しく見守っていた。
そして他の参加者の女達だが、上皇アインザーとルイシュが前衛に立ち、他の女達を守るように陣形を敷いていた。だがヒルディはこんな混乱の中でも涼しい顔で調理を続けていた。
「全く我が娘ながら胆力のある女よ……ルイシュ、余が責任を取る故、【サンダーの書】で男達を懲らしめるのじゃ!」
「はい!これも罪なき女達を守る為です!」
ルイシュは特技の披露時に使用した【サンダーの書】を身に付けたままであった。武具と違い【魔力】の高い者と適性が無ければ扱いが困難な為、特例として所持が許されていた。本当は電弧でキノコを形成した時に、無理矢理中断して回収し忘れたのが理由だ。
「くらえっ!サンダァアアアア!!!」
「ぎょええええええ!!」
「あばばばば!!し、痺れるけど……それがまた快感也……」
【サンダーの書】から放たれた雷撃が男達に直撃するが、倒れる所か痺れを快感にする者まで居る。これもコスモの上級援技【情熱の踊り】で男達の能力値が上昇した影響だ。
それは毛程しかない【魔防】が初級のマジック系の職業まで達していた事を意味していた。男達の【体力】が尽きる事は無く、少しずつアインザーやルイシュに肉薄し始めていた。
「コ、コスモの奴、何と言う恐ろしい技を持っておるのじゃ!ただの町民がここまで頑丈になるとは!あ奴がその気になれば帝国なんぞ簡単に落とせるぞ!」
「じょ、上皇様!このままでは、押し切られます!私が囮になりますから、皆で避難を!」
「そ、それは出来ぬ!そんな事をしたら水着大会が中止になってしまうではないかっ!こ、こうなったら余が、この愚か者共を焼き尽くしてくれる!!」
パフィの危惧していた通り、会場は違った行動力で暴走した男達に制圧されそうになっていた。しかし、アインザーは折角ここまで漕ぎ着けて開催した水着大会を中止にしたくは無かった。
この際、全開の【魔力】で男達を焼き払おうと考えもしていた。何と言う爺であろうか、己の欲望の為ならば手段を選ばない、まさに元皇帝らしい判断であった。
しかし、その判断を実行する事は無かった。
「全軍!鋒矢の陣!私に続けえええええ!!」
混乱の極みにあった舞台会場にローレス将軍の副官シンディの声が会場中に響き渡ると、手勢を率いて突撃を開始する。
どうやら町中を巡回していた精鋭の女騎士達が騒ぎを聞き付け集まった様である。
行動力の上がった男達の群れを寸断する様に切り込むと、男達が次々と空中へと跳ね飛ばされて行く。シンディ達は武器を構えてはいない、無手での体当たりである。帝国臣民が相手である以上、武器を向ける事があってはならないからだ。
だがコスモの【情熱の踊り】の効果も合わさってシンディの能力値が上昇し、帝国直下精鋭部隊の名に恥じぬ突撃力があった。
そんな精鋭に町民が勝てる訳も無く、あっと言う間に行動力の上がった男達が鎮圧され、観客席へと放り込まれて行く。次第に【情熱の踊り】の効果が薄れ始めると理性が戻り、衝動に駆られた男達が我に返って恥ずかしそうに正座を始めていた。
その周りをシンディ率いる女騎士達が囲い監視を始める。
「諸君らの沙汰は、後ほど伝える。ここで静かに待つようにな」
「「「は、はい……」」」
(これだから、ローレス様以外の男は駄目なのだ……あぁ、ローレス様ぁ……)
シンディが男達に呆れた顔で忠告すると、その男達とローレスを比べいつもの妄想で悦に入って行く。男達も年下のシンディに注意されて恥ずかしいのか俯き反省の色を見せていた。
名誉の為に言っておくがこの中には帝国騎士の男達は居ない。鍛え上げられた精神力で何とか耐えていた。帝国騎士としての面子を保ってはいたが、その代わりに戦力にはならない程に疲弊していた。
一方、コスモ、ジョセフィーヌ、シャイラを守った3人の男達だが舞台に残った男達を全員殴り倒し、セリオス以外は顔を腫らせ原型を留めていなかった。心配になったセリオスがレイグとオルーガに声を掛けるが、2人共に深刻なダメージを負い、足が生まれたての小鹿の状態の様に震えていた。
「レイグ卿、オルーガ……大丈夫かい?」
「へっ、へへ……げ、元気いっぱいだよセリオスくん☆」
「ぜえぜえ、ま、守り切れたか……お……俺にしちゃ上出来だろ……」
「み、皆凄い顔だね……」
レイグとオルーガが守ったジョセフィーヌとシャイラの方に顔を向け、無事を確認すると2人は強がりながらフラフラと舞台を下りて行く。見かねたセリオスが2人の肩を支えると一緒に実況席まで戻って行った。
守られた3人だが、こちらもそれぞれが胸中に思いを馳せていた。
(セリオスの奴……格好付けやがって……でも、嬉しかったぜ)
(この勝負……最早先が見えた……やはり、セリオスはコスモに惚れている……)
(ああ……オルーガ……何て、何て可愛い男なのでしょう……)
この混乱の全ての元凶はコスモなのだが、まるで他人事の様にそれを忘れセリオスの後ろ姿を乙女な顔で見つめていた。
しかしその混乱の結果、水着大会の勝敗ははっきりと決まってしまった。
混乱が続く会場の中で、実況席に戻ったアインザーとレイグ、司会のカリードが、どうやってこの状況から大会を継続させるか思案していた。
「良いか、ここで中止にしたら帝国の面子が立たぬ、カリードよ、この任は重大じゃぞ!」
「ここに来て丸投げですか……全く困った人だ。しかし乗り掛かった舟、私の力で出来る限りで何とかしましょう」
「カ、カリカリくーんがんばー☆」
「レイグ卿は顔を冷やした方が良いですよ……」
水着大会を中止にしたくないアインザーが焦りながら、カリードへ条件を満たした上で事態の収拾を図る様に命令する。
条件は、参加者の女達を不安にさせない事、観客達を納得させる事、コスモの想像を超えた能力を隠す事、行動力が上がった男達の罪は問わない事、これらの条件を満たす事であった。
舞台に戻ったカリードが集音器を握り、静かに息を整えると口を開く。
「皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした、実は……これも水着大会の催し物でして、本来であれば事前の合図で行う予定でしたが、それが無かった為に混乱させてしまいましたー!」
物凄いゴリ押しで観客達に説明を始める。だがカリードが必死に考え抜いた苦肉の策でもあった。条件を満たすには偶発的に起こった不測の事態として処理するしか無かったのだ。
しかし目ざとい観客からは声が上がる。
「コスモ様の踊りが終わって、ハート型の光が輝いてから混乱が始まったよなー、それについてはどう弁明するんだ!」
「それにつきましては、コスモ嬢の魅力が幻の様に見えたのでしょう、今回の騒動には何も関係はございません!」
密着してボディブローをするかのような強引な論理でカリードが返す。
それを聞いていたコスモは無理矢理、笑顔を作り顔中から汗を流しまくっていた。内心穏やかでは無い、カリードの説明を聞いてようやく自分の【情熱の踊り】が原因だと思い出したからだ。
それを聞いていたシンディが小さな溜め息を付くと、状況を察して見張っていた男達を無実として解放させて行く。男達の暴走が催し物とされれば罪には問えないからだ。
ここで誰もが忘れていたある者が大きな声を上げる。あの騒動の中でも動揺せずに調理を進めていたヒルディである。流石はアインザーの娘、肝っ玉が据わっていた。
「やっと完成しましたー、皆さん暑い中でお疲れみたいですからお腹に優しいお粥にしました」
「おっと、ここでヒルディ嬢の特技、料理が完成した模様です。早速、観客席に居る人達に振る舞われます」
ヒルディがお玉で大きな寸胴鍋からお粥をお椀に移し、係員達が観客席に運び手渡して行く。
暑い日なのにお粥かと観客達が遠慮気味にしているが、一口食べると一気に顔色が変わって行く。
「うっ、美味い!絶妙な塩加減に、魚介系のうま味が口一杯に広がって行く!」
「卵も入っていて栄養価も抜群、二日酔いの俺でもグイグイ食べれるぞ!」
「おかわりもありますからねー!どんどん食べちゃって下さいー!」
暑い日は思った以上に体力を消費する、その状態で冷たい物を飲んだり食べ続けると身体を壊す事があるのだ。暑い日にこそ胃に優しいお粥である。常に人の健康面を考え献立を決めていたヒルディならではの心遣いであった。
特に中年独身男達は涙を流しながら食べていた。
思いもよらぬヒルディの援護射撃を受けて、カリードが落ち着き始めた会場に向かって声を上げる。
「いやーヒルディ嬢は、実に料理の達者な魅力的な女性でした!皆様、盛大な拍手をお願い致します!」
会場からは大きな拍手が鳴り響く、混乱していた会場も落ち着きを取り戻しつつあった。そこでカリードが改めて水着大会の安全性について訴え始める。
「この後ですが、念の為に帝国軍直下の精鋭も会場に待機しております、これ以上の混乱は無いと私が皆様にお約束致します!」
「それで大会は続くのか、中止なのか、どっちなんだい?」
「や、やぁーーーーーーーーります!」
観客席に居た笑顔が輝く筋肉質な海パン一丁の青年がカリードに問い掛けると、カリードが恥ずかしそうな表情で大会を継続すると返答する。
この言葉を聞いて参加者の女達も全員では無いが安堵の表情を浮かべる。会場からも歓声が上がり、ゴリ押しの説明とヒルディのお陰で、完全に混乱を終息させるとカリードが大会を進行させていく。
とは言っても残るは優勝者と順位を決める投票だけである。
「これから10分間、この女性達の中で一番水着の似合う、心技体を兼ね備えた者へと投票をお願い致します!」
投票方式だが、例年通りに倣って舞台の上に横並びに立つ参加者の前に、並んだ観客達の人数が投票数となる。投票数、つまり並んだ人数の多い順に順位が決まり優勝者が決定するのだ。
「それでは皆様、素晴らしい女性と思った参加者の前にお並び下さい!」
カリードの合図を皮切りに観客達が立ち上がり、各々が気に入った参加者の前へと並び始める。誰に並ぶか悩む者や、相談をする者、最初から決めていた者が会場を移動し始める。
実の所、この投票方式は参加者から直接見えるので結果が分かってしまう。その結果に不満を顔に出す者、納得せずに辞退する者、例年、少数ではあるがその様な参加者が出ていた。
しかし、今回は参加者全員が全力でやり切ったのか、その様な者は出なかった。
10分以上経ち、会場にいた観客達がそれぞれの参加者の前に並び終える。一斉に係員が舞台脇から出て行くと投票者を10人単位で列に並ばせ計数を始めて行く。
そして残酷だが、最下位である者が舞台に立つカリードからも分かってしまう。しかしそこは慣れているものであった、表情を険しいままに順位の発表を始めて行く。
「それでは……結果発表に移りたいと思います!皆様、参加者の健闘を称えて拍手をお願い致します!」
会場からは、はち切れんばかりの拍手が鳴り響く。
そして運命の順位発表が始まって行く。
「第10位は……スーリエ嬢です!」
テイルボット領の貴族令嬢スーリエが最下位という屈辱にも負けず、笑顔で会場に向かって手を振って応える。
スーリエの前に並んでいたのは、メイドの少女、執事、友人達と親しい者と、スーリエの泣き顔に萌えた変人だけである。
「お嬢様はもっっっっと、上でしょう!全く分かってない人が多いんですから!」
「いいのです……わたくしには美貌以外に大事な物がある事が分かりました、それだけで満足ですわ」
後に自惚れの強さを認識し反省すると、より一層貴族令嬢として自分を磨き続けたスーリエは貴族の華として、社交界では知らない者は居ない存在となって行った。
会場からはしばらく拍手が鳴り続き、落ち着いた所で次の順位を発表する。
「では第9位の発表です!宿屋の看板娘ナーティ嬢です!」
相変わらず髪の毛を両手で握って恥ずかしそうにしているナーティが、おどおどした状態で辺りを見回す。
「わ、私になんか……投票してくれて……ありがとうございます……」
「何言ってんのナーティちゃん、勇気を出して良く参加したよ、それだけでも凄い事だ」
ナーティに並んで居たのは常連の宿泊客達であった。小さい頃からナーティを良く知る者達で、応援に駆け付けていたのだ。他にも大きな女が好きな男達も数人並んで居た。
この大会を切っ掛けに実家である宿屋が繁盛するのだが、ナーティは自分の家である宿屋に戻る事は無かった。この大会後、薔薇騎士団に勧誘され入団すると、シャイラの下で鍛錬を積み【インペリアルアーマー】として活躍する事になったからだ。
【茨の壁】と称される様になったのは、暫くしてからである。
「第8位、スーテイン領の冒険者ニアータ嬢です!」
「ちっくしょー!やっぱり、コスモさんには遠く及ばないか……」
舞台の上でニアータが悔しさを滲ませてはいるが、表情は晴れやかなものであった。今回の水着大会は例年に比べて全体的にレベルが高くなっている、その中で本選出場をしただけでも名誉な事である。
並んで居るのはニアータの活発そうな容姿に惹かれた男達と、同性の冒険者仲間達である。
大会後はスーテイン領に戻り、冒険者フィオーレとセルシルに次いで残党の山賊狩りに活躍する。
山賊達にも水着大会の噂は耳に入り、本選まで出場したニアータは注目の的となって集中して狙われる様になっていったが、周りの仲間達がそれを利用して包囲殲滅、この戦法で大きな稼ぎを上げていった。
「そして第7位、北方連合国のジョストン領、商業都市ウキレアの商人令嬢、ジェニー嬢です!!」
「あら……やはり器量だけで上位に食い込むのは難しいのですね……ですが目的は果たしましたし、良しとしましょう」
思ったよりも順位が低く不満を漏らすが、本来の目的は将来の旦那様候補に自分を売り込む事である。その事を思い出しながらも、並んでくれている人々に笑顔で手を振り、頭を下げ感謝の意を示していた。
並んで居たのは遠方からはるばるやって来た同じ商会の関係者や屋台の店主達、知性ある女子が好きな同じく知性あるのか……という男達であった。
商業都市ウキレアに戻ってからは水着大会の噂を聞き付けた客が殺到して本業である商売が繁盛する。自らが水着姿になって売り子になるという商魂たくましい手法で更に売上を上げて行った。
「第6位は!海上都市ハヌイアムの少女、シャーミ嬢です!」
「やったー!これで弟や妹達を学校に行かせてあげられる!」
舞台の上で飛び跳ねて喜ぶシャーミに順位を気にする様子は無かった。すでに仕事も決まり、賞金が入って弟と妹を学校に行かせられる事で頭の中は喜びでいっぱいなのだ。
並んで居たのは老齢の夫婦や男女、そして喜ぶ姿をにんまりとした笑顔で見つめるロリ……小さな少女が好きな男達であった。
シャーミは賞金を元に弟と妹を学校へ通わせると、余った賞金で家を改築、仕事も順調でハヌイアムの町で人並みの生活を送れる様になっていた。
勇気を出して水着大会に参加した事でハヌイアムドリームを実現させたのだ。
「そしてそして第5位は、帝国直轄領、城塞都市アウロポリスの貴族令嬢ルイシュ嬢です!!」
「な、なんで私にこんな人気が集まっているのですか……」
5位に入賞したにも関わらずルイシュは頭を抱え困惑していた。ここまで投票された理由が本人にも分からなかったのだ。投票されたのにはもちろん理由があるのだが、貴族令嬢として大事に育てられたルイシュには理解出来ないのは当たり前である。
「や、やっぱり男に無知な貴族令嬢のルイシュちゃんがキノコを作ったのが決定的だよねーはぁはぁ……」
「女の子の怒りには雷って昔からの鉄板行動だよ!それがたまらないっちゃ!」
並んで居たのは笑顔でキノコを作ったルイシュに衝撃を受けた変態と、サンダーの直撃を受けた年配の男達であった。
その陣容にルイシュは頭を抱えていたのだ。
ともかく水着大会でルイシュは好意を持つ皇子ユリーズに自身は待つだけで無く、行動出来る女と主張する事は出来た。
魔法学院に戻った際も水着大会の噂で持ち切りとなっていた。
しかし屋敷に戻った後、父親のプレイトルにこっぴどく怒られたはその代償とも言えるだろう。
「ここで、とうとうあの人が来ました、第4位!孤高の剣士シャルミ嬢です!!」
「私が……4位……流石にコスモ殿やジョセフィーヌ殿には敵いませんでしたか……」
順位が発表されてもシャイラは表情を変えず、敗因を冷静に分析して結果を自分の中で出していた。
すると並んで居た者から聞き覚えのある声が聞こえて来る。
「シャルミさーん、仲間を連れて来たんで美しい姿を見せてやって下さいよ!」
「貴方はオルーガ……それに貴女達も居たんですか」
「だって隊長が黙って参加するんですから、部下の私達にも一言あっても良いんじゃないですか?」
並んで居た者は顔を腫らしたオルーガを筆頭に、鋼華傭兵団と薔薇騎士団の団員達だ。それだけでも大所帯なのだが、更に西瓜を貰った子供とその親達も並んでいた。
「お姉ちゃんの西瓜美味しかった!ありがとう!」
「だろう坊主、綺麗なシャルミお姉ちゃんが斬ったもんだからな!」
「お兄ちゃんも凄かったよ、お姉ちゃんを守ったもんね」
「へへっ、男なら当たり前の事をしたまでよ!」
「シャイラ隊長って、やっぱり無駄が無い体をしてますね……私達も負けてられない……」
黙って参加していたつもりがオルーガによって部下に水着姿を見られる事になったシャイラだが、恥ずかしい気まずい気持ちになる事は無かった。
むしろ厳しく接していた部下達にも褒められ投票してくれている、それが嬉しくて堪らなかった。
その切っ掛けを作ったオルーガの魅力にシャイラは益々とのめり込んで行った。
そして残るは3人、すでに順位は分かってはいるだろうが、司会のカリードが緊張した面持ちで結果を発表する。
「これから第3位の発表を行います!第3位は……皇帝の別荘メイド長、ヒルディ嬢です!!」
「まあ、私が第3位なんて!本当にいいのかしら?」
40歳を超えたヒルディが焦る様な表情で辺りを見回して順位を確認していた。年齢的な意味も含め、ここまで上位に入るとは想像していなかったが、やはり最後に出した【お粥】が功を奏していた。
「あんな美味いもん中々食えないよ、おふくろの味っていうかさ」
「だよな、なんかすげえ疲れたけど、あれで一気に復活できたよな!」
ヒルディの思いやりを込めた【お粥】が観客達の胃袋を鷲掴みにしていた。そして一部の観客は気付いていたが、混乱の最中であっても自分の調理をやり遂げる集中力と意志の強さ、これは並大抵の料理人でも出来る事ではない。
それに父親である上皇アインザーも暗躍……というよりも堂々と呼び掛けを行っていた。
「ほれほれ!決めかねておる者はヒルディに投票するのじゃ!あれだけ美味しいお粥を食ったんじゃ!お礼に投票しても罰は当たらぬ所か女神の祝福を受ける事になろう!」
「皆さまーぜひともー清き一票をーヒルディ様にー!」
投票時間の間、アインザーといつの間にか戻っていた陰の護衛者のパフィと共に投票の呼び込みをしていたのだ。2人の可愛い姿と必死な呼び込みが実って、ヒルディが3位へと入賞を果たした。
ヒルディも父の懸命な行動を見て愛されている事を実感すると、水着大会に参加して本当に良かったと参加者の中で一番の幸福を感じていた。
そして運命の第2位の発表が行われる。
「それでは第17回水着大会の準優勝者の発表を行います!」
司会のカリードから第2位の発表という言葉が出ると、会場からは一気に歓声が上がる。そしてカリードが大きく息を吸込み、吐き出すと共に大きな声で準優勝者を発表する。
「準優勝はテイルボット領在住の奇跡の美女、ジョセフィーヌ嬢です!!」
発表された途端、再び会場が歓声によって揺れ動く、先程の歓声とは比べ物にならない程に響き渡っていた。呼ばれたジョセフィーヌが笑顔で手を振り、観客達の声援に応えて行く。
見事に準優勝を成し遂げるが、それと同時にコスモに敗北した事が分かった瞬間でもあった。
(……負けはしたが、俺を応援してくれた者達の為、ここは耐えなければ)
それを悟られない様にジョセフィーヌが普段と変わらない様に振舞っていた。
実況席に居た父で領主のレイグもその心境を察しているのか、微笑みながらも拍手を送っていた。
ジョセフィーヌの人気は完璧な美しさもあるが、予選で救助していた姿も民衆の目にも止まり影響していた。弱い者から順に、懸命に助ける姿に感銘を受けた者達から支持を受けたのだ。
そして領主レイグの推薦と小型船に掲げられた扇を射抜いた神業も相まって、テイルボット領の貴族達はこぞって花容月貌のジョセフィーヌに投票したのだ。
残りの投票者は、その胸の大きさが投票する物差しとなっていた。胸の大きさは男にとって絶対的な正義なのだ。
そしていよいよ最後の優勝者の発表に移る。
残って居る人間は唯一人だけなのだが、会場には独特の緊張感が走り始めていた。司会のカリードが緊張した面持ちで、静かに口を開き発表を始める。
「第17回水着大会、優勝者の発表を行います……」
会場は静まり返り、舞台の上に立つカリードに観客達が注目をする。
カリードが目を瞑って俯き、間を置くと一気に顔を上げて優勝者の名を声高らかに発表する。
「優勝者は、<インペリアルオブハート>の称号を持つ帝国の心、コスモ嬢です!!」
この瞬間、観客席から地団駄と拍手、歓声が一気に沸き起こり会場の外まで振動と音が伝わって行く。
まるで万単位で行われる戦場さながらの轟音が会場から発せられていた。
発表が行われるとコスモもようやく安堵したのか自然な笑顔が出て来る。これでジョルセアとの勝負が決してセリオスが奪われる事が無くなったのだ。
水着大会はジョルセアの堂々と挑む姿に感化され参加を決めた事もあって、優勝した喜びよりも安心する気持ちの方が強かった。
「コスモ嬢、見事に水着大会を制しましたが、今はどの様なお気持ちですか?」
「ほっとしています……こんな俺に投票してくれた人には感謝しかありません」
「見て下さいコスモ嬢、貴女を慕って投票してくれた者達です。貴女の言葉を聞いて彼らも喜んでいるでしょう!」
「本当にありがとう!皆!」
コスモが自分に投票してくれた者に対して大きく両手を振って応えていると、並んでいた者達も大きく両腕を上げて応え返す。
並んで居た者の先頭にはセリオスが立って居た、それにコスモが気付くと舞台から飛び降りて寄って行く。セリオスの顔を見ると妙に安心するのもあるが、何よりも暴走した男達から守ってくれた礼が言いたかった。
「セリオス……守ってくれてありがとうな、お陰で優勝する事が出来たぜ」
「好きな子を守る、それは僕にとっては当然だよ」
「あ、ああ、お陰でお前を諦める必要は無くなったしな……」
「うん?そしてコスモ優勝おめでとう……と言いたいんだけど……これ言っていいのかな……」
「なんだセリオス、何かあるのか?」
セリオスの歯切れの悪さにコスモが違和感を感じ取る。セリオスが苦笑いしながら後ろに並んでいた者の手を指差すのだ。その手には何やら紙切れが握られていた。
水着姿のままコスモが並んで居た者の手の紙きれを奪い取ると、紙切れには何か文字が書かれていた。
『ビキニパラダイス、ハヌイアム支店、このチケットを持って来たら銀貨10枚でなんと2時間飲み放題、ビキニアーマーの女の子指名料50%OFFビキニ嬢ドリンクは100%OFF、ただしコスモ本人が水着大会で優勝した場合のみ有効!更にコスモが優勝した際にはビキニの水着を着た女の子が貴方をお出迎え、さあ、貴方もこの大きな波に乗ってビキニパラダイスを体験しよう!』
「な、なんじゃこりゃあ!」
これを読んだコスモの目付きが変わる。並んでいた殆どの男達の手にはそのチケットが握り締められていた。もちろん、そうでない者が圧倒的に多数なのだが、少数の男達は買収されていたのだ。
その元凶を探そうとコスモが列の後方を見渡すと、ローブを着た男達が並んで居た人々にチケットを渡していた。優勝者の声を待つ観客を無視して、コスモがローブを着た男に一気に詰め寄って行く。
「おいてめえ!このチケットは何なんだ!!ってお前はフロイマン!」
「フフフ……これはコスモ様、優勝おめでとうございます……」
「おめでとうございますじゃねえ!」
掴み掛かった男はコスモに水着を届けてくれたビキニパラダイス、ハヌイアム支店の店長フロイマンであった。フロイマンは多くの部下やビキニ嬢を引き連れコスモに投票していたのだ。
フロイマンは悪びれる様子も無く、口元を上げ優勝した事を称賛していた。
「こ、これは買収だろう!こんなので優勝したら意味がねえだろうが!」
「いえ、違います。これは投資にございます……それに買収とは金銭を与え票を買う事、私共はただの紙切れを渡しているだけでございます……フフフ」
フロイマンの言う通り、買収と判断される材料に金銭の授受がある。だがフロイマンはぎりぎりその線を超えない、法令順守の姿勢を貫いていた。
それにコスモが優勝する事でビキニパラダイスの名も大陸中に轟き、売り上げ倍増が見込める。メデウス商会としては真っ当な商法としてチケットを渡していただけなのだ。
「こ、この外道が……」
「くくく……私は商人ですから、出来る事なら何だってやりますぞ……それに私共のチケットが無くとも、コスモ様の優勝は揺らぎますまい、並んで居る者の大半は貴女様を慕う者ばかり……私はただ花を添えたまででございます」
フロイマンの言う通り、並んで居た者の大半はチケットを持っておらずコスモに惹かれた者や恩のある者ばかりであった。コスモ自身が思った以上に自分の影響力と人気は絶大なものだと初めて知る事になる。
それ以上問い詰めても無意味と知ったコスモが、掴み掛かったフロイマンを放すと急いで舞台の上に戻って行く。だがコスモは全てを納得した訳では無かった。
「え、ええっと優勝したコスモ嬢に色々あった様ですが、これから上位3名の表彰式を行います!」
優勝者発表でちょっとした事故が発生するが、何も問題が無い事が確認されるとカリード主導の下、表彰台が舞台の上に設置され表彰式が始まって行く。
コスモも気を取り直して、笑顔で自分を応援してくれた者に手を振り感謝の気持ちを伝えると、長かった水着大会も終幕を迎える。
開催が困難と思われた水着大会もアインザーの権力によって実現されると、例年以上にレベルの高い大会となった。
そして表彰式を終えた参加者達は、それぞれの思いを胸に帰路に着こうとしていた。




