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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第79話 大陸一水着大会その3

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた


「では続きまして予選を堂々の第1位で通過した地元テイルボット領の貴族令嬢、スーリエ嬢です!」


 司会のカリードがスーリエの紹介を終えると、スーリエが自信に満ち溢れた表情で勝手に舞台の花道へと歩き出す。

 登場した時からカリードを困らせる行動を取るスーリエであったが、それも自身の容姿に絶対的な自信を持つ表れでもあった。


「さあ、皆様、私の美しさを思う存分に堪能して下さいまし!」


 舞台の花道の上でスーリエが体をくるっと反転させ、自分の美貌をこれでもかと観客に見せ付け始める。

 観客から歓声が上がる中、その後ろで困り果てた顔でカリードがスーリエの後を追いかけ水着大会の参加目的を聞こうとする。


「あ、あのスーリエ嬢、今回の参加理由を教えて頂いても?」


「それはもちろん……私の圧倒的な美貌を皆様に!いえ!大陸中に見せて差し上げる為ですわ!!」


 自分の美しさに酔いしれているスーリエが両手を広げ自信を持って答える。

 カリードも今まで一癖二癖ある参加者に接してはいるが、スーリエの参加理由を聞いて参加者の中でも最も自惚れが強い女だと感じていた。だが自分にとっては参加者の1人、私情を挟む事無く大会を進行させて行く。


「で、ではスーリエ嬢の特技を披露して貰いましょう!」


 カリードが集音器でスーリエに特技を見せる様に促すがスーリエが何の反応も見せない。

 舞台脇から係員が出て来る事も無く、花道の上でひたすらスーリエが澄ました顔でポージングを取っているだけであった。


 その様子を見て自分の声が聞こえて無かったのかと思ったカリードが改めて後ろから声を掛ける。


「あ、あのスーリエ嬢、特技の披露をお願いしたいのですが……」


 この辺りから段々と会場からは歓声からどよめく声に変わり始める。

 人に見られる事が気持ち良かったのか、スーリエが呼び掛けに不機嫌そうな顔で答えて行く。


「はあーこれだから分かっていない殿方は困るのですわ……言わずもがな、私の美貌、それこそが特技であって、それを魅せるのが特技と言っても差支えありませんわ!」


「えっと……それは、その自分の美貌が特技そのものであると……」


「それ以外に意味がございまして?」


 司会のカリードが集音器を握ったまま絶句してしまう。まさか、特技が自分の美貌と言ってのけるとは想像していなかったからだ。

 水着大会に参加した者はスーリエに近いかそれ以上の美貌を有している。見た目だけなら拮抗しているのだ。その為に特技の披露を審査として取り入れ、その者の個性、言わば魅力を見せる場を設けていた。

 会場に居た観客も今まで参加者達が見せた特技を見て楽しんでいた分、何も特技が無いスーリエの言葉に落胆していた。


 冷め始める会場を見てカリードが不味いと思ったのか何とか盛り上げようとするが、それより先に実況席に居たアインザーが声を上げる。


「おい、お主スーリエと言ったか?」


「そ、そうですが、貴女は?」


「上皇アインザーの孫じゃ、まあそれは良いとしてな、生まれ持った素質だけで勝負する潔さは良いと思うぞ」


「で、ございましょう?おほほほほ!!」


「じゃがな、生まれ持った素質だけで人から認めて貰おうというのは少し甘い考えとは思わぬのか?」


「一体何の事を言ってらっしゃるのかしらお嬢ちゃん?」


「お、お嬢ちゃん……じゃと……コホン、それにの良く考えるのじゃスーリエよ、美貌しか取り柄が無い、という事は自分の存在価値がそれだけしか無いと言っている様なものじゃぞ……」


「だから何ですの!父上と母上からは貴族令嬢たる者、美しければ万事良しと教わって来ましたわ!」


「貴族令嬢ならば当たり前じゃ、お主はただ少しだけ人より優れた美貌を持っただけの事。それに親は子に甘いものよ、本来であれば厳しく世情を教え込まなければならぬのだが、今回は水着大会、評価は見た目だけでは無いと申し付けた筈じゃ、観客の反応を見てみい、皆そうは思ってはおらぬぞ」


 そう言われたスーリエが会場を見渡し始める。最初は盛り上がっていた会場が静まり返り、スーリエを冷たい目線で見つめている事に気付く。

 ここでようやくスーリエが自分の置かれた状況を理解し始める。いつも周りからは美しいともてはやされ、貴族令嬢として挫折する事を知らずに大切に育てられ、自分は女神によって選ばれた者と言った特別感を自信にしていた。


 その自信も勝負事には大事ではあるが、過剰になれば自分を客観視出来なくなる。それに美貌だけと言うならば、近い所で言うとコスモやジョセフィーヌの方が遥か上を行っていた。


 つまり美貌に自信を持つスーリエは外見だけで中身が無いのだ。


 スーリエの自信の源が少しずつ音を立て崩れ出していた。自分の美貌が通用しないと分かると、何も出来ない自分が分かって来る。今までの行動が恥ずかしく感じ始めたのか、体を震わせ顔を真っ赤にして目に涙を浮かべ始める。


「わ、わたくしは……美しいって……皆が言うから……」


 アインザーの指摘を受けて花道で1人寂しく俯きながら佇むスーリエはまるで道化の様であった。持ち前の美貌以外には何も取り柄が無いと公言している様なものであったからだ。

 司会のカリードも流石に掛ける言葉が見付からず、ただ静観するしかなかった。


 すると会場からメイド服を着た少女が立ち上がり大きな声を上げる。


「ス、スーリエお嬢様は素晴らしい人です!」


「……あ、貴女は」


 スーリエが俯いた顔を上げて声のする方に涙の溜まった目を向ける。


「ごみ漁りで生きていた私に慈悲を、メイドという仕事を下さった素晴らしい女性です!身分、分け隔てなく接してくれるし、掃除で割った壺なんかも、笑って許してくれたし、いや、ちょっと怒られましたけど!」


 少女のスーリエに対する素直な言葉が会場中に響くと、観客からは笑う声が聞こえて来る。すると少女の隣に居た老齢の紳士と、同い年の貴族令嬢が共に立ち上がり、少女に続けて声を上げる。


「そうですぞ!お嬢様!こんな年老いた傷痍軍人の私をいつまでもお側に置いて下さる貴族令嬢は貴女様しかおりませんぞ!」


「スーリエ様は、勉強で分からない事があれば率先して教えて下さいます!その優しさに私達は惹かれているんです!」


 会場からスーリエを応援する声が次々と聞こえて来る。屋敷の従者や学校の親しい友人達がスーリエの落ち込む姿を見て声を上げてくれたのだ。

 するとその様子を見ていたアインザーが集音器を持ち、口元をニヤっとさせスーリエに声を掛ける。


「なんじゃスーリエ、お主も人が悪いのう、立派な特技を持っておるでは無いか、人徳という特技をな」


「わ、わだぐじには、ごの様なずばらじいゆうじんだぢがいだのでずね……」


 スーリエの目から大粒の涙がこぼれ始めていた。貴族として当たり前と父母から教わった振舞いが自分の窮地を救ってくれたのだ。美貌とは程遠い泣き顔ではあるが恥ずかしい気持ちよりも嬉しい気持ちが勝り、それを隠そうとせず声援の応える様にスーリエは堂々と胸を張っていた。


 会場にいたスーリエの応援の声が続くと会場からは拍手が起こり始める。人徳と言う物は美貌と同じく、欲しがっても手に入らない物であり、正しき行いで内から相手の心を動かさねば手に入らぬ物である。

 次第に拍手の音も大きくなり観客からも応援する歓声が上がり始める。


 カリードも盛り返した会場を見て胸を撫で下ろすと大会を進行させて行く。


「スーリエ嬢は美貌もさることながら貴族の名に恥じぬ立派な令嬢でした、これもご両親による教育の賜物でしょう!」


 さり気なくスーリエの両親の立派な教育方針を称えると、会場からは大きな歓声が上がって行く。


 そして次は問題児……いや問題爺のシャルミの出番である。


 上皇アインザーの護衛を務め、予選では司会をしていたシャイラの偽名である。もちろん予選に居た女達はシャイラの顔を覚えているので、苦労せずに参加している事に一部の者は良い顔をしていなかった。


「続けて特別枠での出場、放浪の剣士シャルミ嬢です!」


「よろしくお願いします……」


 シャルミの反応が薄い、紹介したカリードが今までの参加者と違い手応えを感じず少し不安になっている。それもシャルミの持つ白い肌と冷血そうな顔付きが無感情であるかの様な印象を与えていたからだ。


「そ、それでシャルミ嬢、今回水着大会に参加した理由は何でしょうか?」


「お……」


「お?」


「女になったからには、水着大会に出たい!それだけです……」


「はい?えっと?」


 会場からはざわめく声が聞こえ始める、スーリエに続いてまた変わった女が現れたからだ。シャルミの中身の実年齢は65歳の爺で、森の魔女の呪いによって若い女の容姿のまま40年間生きて来た。


 上皇アインザーの護衛として女として生きる事を決めたが、女として楽しむ事は考えていなかった。それがコスモの登場によって自分の役目が軽減されると、女を楽しみたいという欲がシャルミの中に出て来たのだ。

 年老いてますます盛んなりと言った所である。


 司会のカリードも何を言っているのか理解出来ないでいたが、その言葉から推察した言葉で盛り上げようと試みる。


「そ、そうですよね!女として生まれたからには一度は水着姿に挑戦したいですよね!」


「その通りです」


(あー、合ってたか……良かった)


 推察が当たりほっと胸を撫で下ろすと、カリードが調子良く特技の披露をお願いする。


「ではシャルミ嬢の特技を披露して貰いましょう!!」


「分かりました……いつも戦場で味方を鼓舞する為に行っていた余興を見せて差し上げましょう」


 そう言うと2人の係員が舞台脇から現れ、1人が大きな西瓜をもう1人が魔剣ムーンバルクを持って舞台の下で待機する。

 そしてシャルミが舞台の上から前回転して舞台の下へ飛び降りると砂浜へと華麗に着地する。


 その軽業に観客からおおーっとどよめく声が聞こえて来る。シャルミがその声に応えつつ魔剣ムーンバルクを受取ると、観客達に向かって大きな声でお願いする。


「西瓜を食べたい子供達が居ればこちらに集まって下さい、それとどなたかこの西瓜を空へ投げてくれる方はいらっしゃいませんか?」


 シャルミのお願いの内容から観客達は西瓜を剣で切るのだと察すると、観客達の中に居た親子が一緒に居た子供を送り出す。10人の子供がシャルミの周りに集まり始めるが、肝心の西瓜を投げる者が現れない。


 西瓜は結構な大きさがあって係員も両手でやっと抱えられる大きさだ。普通の大人では持つだけでも精一杯である、それもあって出て来る者は居なかった。


「お、俺がやります!」


 そんな中で声を上げたのは何と鋼華傭兵団の団長オルーガであった。上皇アインザーからの労いの言葉を受けた時にシャルミこと、シャイラに一目惚れをした男である。

 自分の団員達が薔薇騎士団の女と仲良くしている事に嫉妬して水着大会を見に来ていたのだ。


 オルーガが係員から大きな西瓜を受取るとシャルミへと目をやる。

 シャルミも少し嬉しかったのか、冷血そうな顔を微笑させると周りに居た子供達へ変わったお願いをする。


「いいですか、私の周りを囲う様に立って両手を前に出して手の平を上に向けたまま動かないで下さいね」


「「「はーい!」」」


 シャルミの周りで円陣を組む様に子供達が囲いシャルミを中心にして両手を差し出すと、それを確認したシャルミがオルーガに合図を送る。


「ではオルーガ、西瓜を力を込めて空に投げて下さい」


「分かったぜシャイ……シャルミさん!よいっ……しょーーーーーーーー!!!」


 オルーガが【力】を込めて西瓜を空高く上空に向かって投げると、シャルミの持った魔剣ムーンバルクが翠色に輝き出す。

 それと同時にシャルミが素早く飛び上がると西瓜の目の前で魔剣を鞘から抜く。そして目にも止まらぬ速さで振られて行くと、魔剣を鞘に納め西瓜よりも先にシャルミが砂浜へと着地する。


 遅れて落ちてきた西瓜が10人分で均等に切られた状態で、子供達の両手の上に吸い込まれる様に落ちて来る。それも皮の部分がちゃんと手の平の方に向くようにだ。


 着地したシャルミが間を置かず、魔剣ムーンバルクをオルーガに向かって水平に振り抜くと切先をオルーガの目の前で止める。その魔剣の刀身の上に子供達よりも遅れて、大きく切られた西瓜が空から降って来る。


「オルーガ、これは貴方の働きに対する報酬です。味わって食べて下さいね」


「す、すげえ……不安定な上空でこんな綺麗な切り口で均等に切り分けるだけじゃなくて、俺の分だけ大きく切るなんて……人間技じゃねえ……シャクシャク……」


 子供達の手に落ちた西瓜は余る事無く全部が同じ切り口、大きさである。オルーガはすぐに気付いたが、観客達は未だに気付いていない。余りにも精密で早過ぎる技に完全に置いて行かれてるのだ。


「み、見て下さい、子供達の受取った西瓜は全部同じ大きさです!!あの上空で綺麗に切り分けるなんて神業と言っても良いでしょう!!」


 カリードが子供達の西瓜を2つ借りると、大きさを比べて同じ大きさである事を観客達に知らせる。ここでようやく観客からの歓声がどっと上がる。

 シャルミの参加に不満を持っていた冒険者のニアータもシャルミの技に脱帽していた。


「な、何だよあれ……人間がやって良い技じゃないよ……」


 特技の【竜連剣】を応用した【インペリアルソードマスター】ならではのシャルミの特技が披露される。

 シャイラは邪神竜の眷属討伐に向かう途中の野営地で、夜な夜なこの特技を披露して不安になっていた仲間達を楽しませていたのだ。


「ふん、シャイラめ懐かしい事をしよる、己という凄腕の剣士が付いていると仲間に安心させる意味も含まれておるのじゃ、感情を出さぬ奴らしい特技よな」


 実況席にいたアインザーがそう呟くと、シャルミが無表情のまま魔剣ムーンバルクを掲げ、観客の声援に応えていた。


「孤高の剣士シャルミ嬢、恐らくは凄腕の冒険者なのでしょう!皆様、盛大な拍手をお願い致します!」


 シャルミが披露した特技に観客からは鳴り止まない拍手が送られる。


 続いてカリードが舞台に戻りジョセフィーヌの横へと移動すると早速、参加理由について尋ねる。


「素性は一切不明、領主レイグ様のお墨付きを貰っての参加ですがジョセフィーヌ嬢、水着大会に出た理由は何でしょうか?」


「俺……私は、そこに居るコスモとある者を賭けて正々堂々と勝負しに来たのだ!それが私の参加理由だ!」


 ジョセフィーヌがコスモを指差すと、差されたコスモが真剣な顔付きになって行く。静まり返った会場から遅れる様に一気に大きな歓声が上がる。


 観客達が興奮している理由はジョセフィーヌが参加者の中で、容姿に優れていたからだ。高身長で金色の美しい髪、美しく凛々しい顔に豊満な胸、締まったくびれに長い足。見た目だけならばジョセフィーヌとコスモは互角である。


 公認されてはいないが水着大会の裏では、参加者の誰が優勝するか賭けが行われていた。その1番人気と2番人気がコスモとジョセフィーヌであった。


 それほどまでに2人の人気は拮抗していた。


「おっと、これはコスモ嬢に対する宣戦布告です!さあ、話題性では敵無しのコスモ嬢に対してどんな特技で挑むのか楽しみです!!」


 するとカリードの横を抜け、ジョセフィーヌが舞台の花道へと進み出し浜辺の方を指差す。

 皆が浜辺の方を見ると1隻の小型船が海上を漂っていた。もっと目を凝らしてみると、小型船の上に細長い棒が立てられ、その上に扇が開いた状態で置かれていた。


「あの小型船に掲げられた扇を矢で射抜く!それが私の披露する特技だ!」


 舞台の花道から小型船の距離は大人の足で300歩程離れている。しかも小型船は波に揺られ的の扇が絶え間なく揺れ動いていた。

 この距離はジョセフィーヌが狙える最大射程距離であり、弓の名手である父のレイグ、祖父のジョシュアも成し遂げた事が無い距離であった。

 セリオスを賭けて真剣に勝負に臨むジョセフィーヌの覚悟が見て取れる。


 あまりの遠さに司会のカリードも言葉を忘れ呆然としていたが、慌てて我に返ると係員に指示を出す。


「そ、それではジョセフィーヌ嬢の弓と矢を持って来て下さい!」


 舞台脇から係員が鋼の弓と矢を持って来ると花道に立つジョルセアに手渡す。

 会場は静まり返っている、観客達はあの距離にある扇を落とすなど不可能だと理解していたからだ。もし当てられたら、それこそ神の技と呼ばれてもおかしくは無い。


 水着姿で弓を構えたジョセフィーヌの表情が変って行く。その姿は女神が弓矢で魔獣を狙い定めたかのように神々しかった。


(俺はレイグとブリギールの子……そして神器【ディバロー】を引き継ぐ者として必ず当てる!!)


 舞台の花道に潮風が流れていたが、段々と潮風が収まって行くと波の揺れも少しずつ穏やかになって行く。それを目を閉じて肌で感じ取ったジョセフィーヌが大きく目を開く。


「今だっ!行けっ!!」


 ジョセフィーヌの手から矢が離されると、なだらかな曲線を描く様に海上に浮かぶ小型船へと飛んで行く。

 観客達が固唾を飲んで見守る中、場内は無言の間が続く。


 矢が放たれてから数秒後、小型船に掲げられた扇の要に見事に矢尻が当たると、扇が舞う様に上空へと飛んで行く。


 扇が潮風に流されひらひらと海面に落ちて行く。


 「「「おおおおおおおおおおおっーーーーー!!」」」


 舞台が震える程の歓声が一気に巻き起こる。

 ジョセフィーヌが見事に小型船の扇を射抜いたのだ。この神業を目にした観客席は、大会始まって以来の興奮のるつぼと化していた。


「ふぅ……何とか当てられたか……」


「こ、これは凄い!!この距離から矢を当てられる者は大陸中探しても居ない!まさに大陸一と言っても過言では無いでしょう!」


 安堵したジョセフィーヌの後ろではカリードが興奮気味に、その特技を称賛していた。そして実況席に居た領主のレイグも身分の差を忘れ、隣に居た上皇アインザーの肩を叩き興奮していた。


「あれが僕の娘だよ上皇様!すっごいでしょう!!いやーやっぱり僕に似て天才だよ!!うんうん!!!」


「くっ……それは地道に料理をしている我が娘を比較して言うとるのか貴様……」


 舞台の下の横ではアインザーの娘、ヒルディが水着の上からエプロンを着てせっせと調理を続けていた。若さも特技もジョセフィーヌのが上と言われた様にも聞こえたアインザーが、思いっ切り不機嫌そうな顔をする。


 そんな親同士のやり取りの間に、舞台の上ではジョセフィーヌがコスモに向かって再び指差す。


「さあ、これで私の全ては出し切ったぞコスモ、残すはお前だけだ!」


「くっ、やるじゃねえか……ジョセフィーヌ……」


 想像を超えたジョセフィーヌの弓の技量にコスモも気圧されていた。観客の反応を見る限り、話題性で勝っていたコスモの人気も今やジョセフィーヌと五分と言って良いだろう。

 ジョセフィーヌが見せた特技を上回らないと、水着大会の優勝は怪しい、その位にコスモは追い詰められていた。


 司会のカリードが最後の審査対象であるコスモに寄ると、いつもの様に参加理由について尋ねる。


「今回の水着大会には上皇様の推薦で参加された様ですが、決心させたものはやはり、ジョセフィーヌ嬢との因縁でしょうか?」


「ああ、その通りだ。男にゃー引けない時がある、それが今だって事よ……」


「うん?えっと……コスモ嬢は女性ですよね?」


「はうっ!そ、そうなんですわよ!女には引けない戦いがございましてよ!!」


 つい男の時と同じ感覚で喋ってしまうコスモが、慌てて上品に言い直すが全く似合っていない口調であった。何度も修羅場を潜り抜けていたコスモも、水着大会という慣れない場での勝負に些か緊張している様子だ。


 言い直した事でカリードが安心すると、特技の披露をコスモに促す。


「ジョセフィーヌ嬢の神業の後でやりにくいとは思いますが、コスモ嬢は一体何の特技を披露してくれるのでしょうか?」


「フフフフッ、よくぞ聞いてくれました!日課の鍛錬に加えて磨き上げた俺の【踊る】を披露したいと思います!」


 職業が【ソードアーマー】の癖に、【踊る】が得意になったコスモが自慢気に腕を組み、自信たっぷりに特技と強調する。

 会場からは驚きの声が聞こえて来る。【踊る】は本来【ダンサー系】の職業でしか出来ない援技である事は常識だ。大陸を回る曲馬団や、各都市の大きな酒場、そう言う所でしかお目に掛かれない技なのだ。


 一体【ソードアーマー】のコスモがどんな【踊る】を見せてくれるのか、実況席にいたアインザーが目をぎんぎんにして楽しみにしていると、後ろに居たパフィが大きな声を上げる。


「ちょっと待ったぁーーーーーーー!!」


「おっと?実況席からちょっと待ったコールが入りました!趣旨が違いますが念の為、確認しましょう!」


 黒いビキニ型の水着の上からフードを被ったパフィが、陰の者らしからぬ声を上げて素早く舞台の上に飛び乗ると慌てた様子でコスモの側に寄ると耳打ちを始める。


「コ、コスモさん、ま、まさかとは思いますがー海賊の島でやったアレをヤルんですかー?」


「そうだが、何か問題があるのか?」


「会場の人達は水着姿で興奮しているんですよー!それ以上煽ったら私が変身した【北国の狂犬】シャガリアンの様に暴れる危険がありますー!」


 シャガリアンは盗賊で、元々野犬の様に狂暴な男であった事もあり、コスモの技能【魅力】の効果が上乗せされ【踊る】で狂犬そのものになってしまった経緯がある。

 今までの参加者のあらゆる年齢と体型が、観戦していた男達のあらゆる欲望を満たしている状態である。後一歩、踏み込めば男達の欲望が暴走する所まで興奮度が上がっていた。それをパフィが危惧していたのだ。


「安心しろパフィ、海賊の島じゃあやり過ぎたと俺も反省している。ちょっと【踊る】だけなら問題ないだろ?」


「……」


 コスモがにっこりと笑ってちょっとだけと言ってるが、パフィは察していた、コスモが全力で【踊る】を実行する事を。

 諦めた表情になると素早く舞台を飛び降り、実況席に居たアインザーにこの後に起こる混乱を想定して注意を促す。


「じいちゃん、悪い事言わないからすぐに逃げた方がいいよー、コスモさんの【踊る】はヤバいからー」


「何を言うとるパフィ、余が一番楽しみにしておった事じゃぞ!一体どんな踊りを披露してくれるのか楽しみじゃわい……うひひひひっ」


(だ、駄目だこいつ……護衛者の私の言う事を聞かないなんてー……)


 パフィが注意を促すも少女とは思えないだらしない顔でアインザーが無視をすると、やむを得ずコスモの【踊る】の効果範囲の及ばない場所へと避難を始める。


 そして舞台の上ではちょっと待ったコールが終わった事を確認した司会のカリードが、コスモに特技の披露をする様にお願いを始める。


「それでは謎の少女との内緒話も終わりましたので、コスモ嬢に早速、【踊る】を披露して貰いましょう!」


 そう言われたコスモが堂々と舞台の花道の手前へと歩みでると観客達の歓声に包まれる。これから会場で起こる恐ろしい事を知らないままに観客達はコスモの踊りを楽しもうとしていた。


 花道にコスモが立ち静かに佇むと顔を少し俯かせる。そして一気に顔を上げると、予め準備させていた合唱団の演奏が会場の拡声器から流れ始める。


 それに合わせコスモが片足立ちのままに身体をその場で回転させ、徐々に状態を反らして行く。見た目以上に柔らかく曲がるコスモの上体を観客達が静かに見入っていた。


 コスモが情熱的な演奏に合わせて反った上体を戻すと身体の回転を保ったまま屈み、花道の端へと向かって大きく跳躍しゆっくりと宙に滞空する。両腕を真っ直ぐ天へと向けて片足をくの字にしたまま、独楽の様に回転し続けると羽毛の様に優しく着地する。

 両腕を左右に広げ、身体を回転させ、1回転させるごとに足を大きく前に突き出しながら花道を戻り始める。


 元の位置まで戻ると、花道の端に背を向けて素早く何度かバク転をしながら、再び花道の端を目指す。その端の手前でより大きく跳躍すると身体を捻りながら錐揉み状に全身を回転させる。

 会場を正面に華麗に着地をすると、あざとく座り込み片足を上げた上体で右手で投げキッスを観客達に送り愛嬌を振りまく。それと同時に演奏も止まり少し間が空く。


 最早【ソードアーマー】の面影は無い。


「決まったぜ……フフッ!」


 そしてコスモの体を中心にした淡い赤色のハート型の光が会場を包み込む。それも今までの【踊る】の上級援技【情熱の踊り】の中でも一番大きいものであった。

 ちょっとだけと言ったのにパフィの予想通り、今までで一番の本気を出したコスモが【情熱の踊り】を披露してしまったのだ。


 それを実況席に居たアインザーが目の当たりにして夢が叶ったのか、だらしのない顔で号泣していた。


「余が……余が男であれば……アレが付いてたら、もっと滾っていたであろう!!くっ……じゃが、コスモの我が儘ボデーの揺れる様を見れて余は、余は大満足じゃああああ!!」


 少女らしからぬ台詞を吐くアインザーだが、少しずつ会場の様子がおかしい事に気付き始める。会場にいた観客達の頭の上に薄らではあるが【♪】が出ているのだ。


「な、何だこれは、今までの疲れが吹き飛び力が湧いて来るのを感じる!何度でも行動が起こせそうだ!」


「た、確かに何かこう、後一歩が踏み出せる気がしてきましたわ!」


 舞台に居たジョセフィーヌとスーリエが、体の内から湧き起こる力を感じていた。【情熱の踊り】によって能力値が上昇し、他の参加者の女達も何度でも行動できそうな力を感じていた。


 しかし男である司会のカリードだけは違っていた。何度も頭の上に【♪】が出ている、理性によって抑えてはいるが、苦しそうな表情を浮かべていた。


「こ、これは……凄い、コスモ嬢の……【踊る】は並大抵の効果じゃありません!!【ソードアーマー】にこの様な援技が出来たら、どの戦場でもコスモ嬢率いる部隊に勝てる者は居ないでしょう!!くっ……」


 実際カリードの言う通りコスモが率いる部隊は実質、何度でも行動を取れる様になる。つまり戦略もくそも無い一方的に攻める事が出来るのだ。

 だが効果の高い技には必ずデメリットも存在する、それが会場にも現れ始めていた。


 会場に居た観客の男達が、舞台の前に設置していた小さな柵を超えて舞台下まで迫っていたのだ。これは違う意味で、男達の行動力が上がった結果であった。


「ルイシュちゃんー年頃の若い子がキノコなんか作っちゃ駄目だよぉーはあはあ……」


「な、何ですか、この男達の何とも言えないいやらしい目付きと手をクネクネさせる動きは!」


「ううんーやはり健気な子が一番、シャーミちゃんは天使だ」


「み、皆さんどうしたんですか!!」


「やっぱヒルディさんが正義!水着にエプロン、これはもう誘っているに違いない!」


「あらー、料理中ですから危ないですよ!」


「背の高い体の大きな女の子に力一杯包まれたい!ナーティちゃんが最高だ!」


「ひっ、ひえー!そ、それ以上……近寄らないで下さい!!」


「ボーイッシュミートガール……ニアータちゃんから目が離せない!」


「うげっ!気持ち悪いぃ!何だお前ら!」


「へ、へへっ才女のジェニーちゃんを……俺が俺が……」


「こ、この体は安くないですよ!!だ、誰か警備さんを呼んで下さいまし!!」


「気高い貴族令嬢スーリエさんの泣き顔が僕の心に突き刺さりました、はいっ!」


「な、何ですのこの気持ち悪い言葉は……悪寒が止まらないですわ……」


 違った方向で行動力の上がった男達が、それぞれ自分の欲望(性癖)を満たした参加者へと殺到していた。最早水着大会どころでは無い、会場は混乱の極みに陥っていた。それも全てはコスモの【踊る】のせいである。

 残ったシャルミ、ジョセフィーヌ、コスモの足元にも行動力の上がった男達が集結しつつあった。


「お、おいコスモ!どう考えてもお前の踊りのせいだろ、どうにかならないのか!」


「そ、それが、ある程度時間が経たないと【踊る】の効果は収まらないんだよ!」


「パフィからは聞いていましたが、ここまで効果があるとは……」


 シャルミ、ジョセフィーヌが持っていた武具はすでに係員へと預け手元には無い。舞台下から少しずつ行動力の上がった男達が上って来ると、シャルミ、ジョセフィーヌ、コスモを囲い始める。

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