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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第7話 俺の名はコスモ

 鍛冶屋【覇者の剣】の店内には至る所に多種多様な武具、防具を揃えていた。


 入口から入って正面左右の壁の上部には高価そうな銀系、騎士殺し系などの特化した武具が壁に掛けられ、壁の下部には軽装鎧、重装鎧や、小手、脛当て、兜、盾などの一式装備が装着された木で出来た人形が数体並ぶ。値札には、どれも一般人が手を出せない高価な価格の値札が付いている。


 だが金銭的余裕の無い冒険者の武具も用意されていた。


 入口から見て正面には商品棚が縦に3列に並んでいる。そこには低価格な鉄系、鋼系の剣、弓、槍、大剣、斧が種別に分けて置かれている。


 その棚を抜けて奥に進むと木製の年季の入った勘定台があり、さらに奥には鍛冶場が見える。


 勘定台には先ほどモウガスに水を掛けた赤い髪の若い女が、両肘を付き暇そうに座って店番をしていた。店の入り口からモウガスが入って来ると、そのまま勘定台へと向かい店番をしていた女に馴れ馴れしく話しかける。


「よお!ミリット朝早く来てすまないな!ちっと、ドノバンの奴を呼んでくれよ」


「……」


 モウガスが赤い髪の若い女をミリットと呼び、主人の男をドノバンと呼ぶ。


 話し方からしてモウガスの知り合いの筈だがミリットの反応が悪い。 ミリットからしたら外に居た小汚い奴に、いきなり自分を呼び捨てにされた上、馴れ馴れしく父を呼べと偉そうに言われているのだ。はい、分かりましたと素直に応じる訳が無い。じとーっとした目でモウガスを観察している。


 それに気付かないモウガスが話を続ける。


「なあ、頼むって!俺の退職金で防具一式を受注生産した仲じゃねえか」


「……」


 モウガスが騎士団を退団した時に出た退職金で重装鎧一式を購入していたのだが、その話を聞いても相変わらずミリットの反応は悪い、それはそうである、ミリットからしたらこんな奴の受注などした憶えが無いからだ。


 更に目を細めて一定の距離を保って観察を続ける猫の様にミリットがモウガスを見つめる。そんな騒ぎに気付いたドノバンが奥の鍛冶場から勘定台にやってくる。


「どうしたミリット?騒がしいが客か?」


「よう!ドノバンちょっと頼みがあるんだが!」


「……なんだよ外に居た汚ねえ奴か、何か用か?」


「ちょっと、この防具を今の俺に合わせて調整してくれないか?」


 ドノバンが来るとモウガスは背負っていた汚れた風呂敷を勘定台の上に広げて防具一式を見せる。


 ミリットはその防具を見た瞬間に細くしていた目を見開き、何かに気付くがドノバンは違った。その防具一式を見た途端にドノバンのこめかみに青筋が走る。すると鍛冶で使う火造槌を強く握る。


「てめえ!これは俺のダチ、モウガスの鎧じゃねえか!!どこで盗ったんだ!!!」


「……は?え?」


 怒声を放つドノバンにモウガスが戸惑う。今だかつてこんなに怒り狂ったドノバンを見た事が無いからだ。モウガスはただ自分の防具を見せただけで、盗んではいない。しかし、少しづつ話が噛み合っていない事に気付き始める。だがドノバンの怒りは収まらない。


「この手でモウガスの仇を取ってやる!!」


 勘定台に片足を乗せると、手に持っていた火造槌を振りかぶってモウガスに襲いかかろうとするが、寸での所でミリットがドノバンの腕を掴み止めに入る。


「ちょっと待ったオヤジ!!」


「離せっ!こいつは……俺のダチを……モウガスをやった奴なんだ!」


 ドノバンが涙目になりながらミリットを振り払おうとする。だがミリットはこの状況の中で冷静に考えていた。


「いやいや……オヤジ、わざわざ盗んだ鎧を作った鍛冶場に持ち込む間抜けっている?」


「!?」


 確かに盗んだ鎧をわざわざ鍛冶場に持ち込む位なら、適当な質屋などに売る方が手っ取り早いし、足が付きにくい。それに鍛冶職人は誰が作った物なのか見抜く目利きもある、現にモウガスの防具を見て一目で自分が作った物だと分かった。ミリットの筋が通った意見にドノバンが納得して怒りの矛を収める。


 続けてミリットがモウガスの発言から推察する。


「オヤジ、もしかしたらこの子は……」


 ミリットはモウガスと同様に話を聞いていて、いまいち噛み合ってないのに気付いた。まるで常連の様に馴れ馴れしい口振りに、モウガスが退職金で受注生産した鎧を知っていた事。自分の名前と父の名前を知っている事。そして鎧の持ち主のモウガスは独身貴族だった事。


 そう、それらを全て加味して導き出された答えはただの一つ。


「そう、君はモウガスさんの姪っ子さんだね!!」


「な、なるほど!確かにそれなら合点が行く!ミリットは頭が良いな!」


「いやー、それほどでもーはははは!」


 ミリットの推察は何一つ合っていなかった。


 ミリットとドノバン、親子の三文芝居を見せられるモウガスが呆気に取られている。当然だがモウガスに姪など居ない。ドヤ顔でミリットが結論を出しているが、何を言ってるのか分からないモウガスが改めて自分がモウガスである事を説明する。


「何言ってんだよ二人共!俺がモウガスだって事位、見れば分かるだろ?」


 モウガスの言葉を聞いたミリットとドノバンが顔を見合わせると大笑いをする。


「ぶわっはっはっは!モウガスの姪っ子は面白いな!確かに髪の色は似てるな!」


 ドノバンが笑ってる側でミリットが勘定台から外に出てると、店の隅に置いてある全身鏡をモウガスの前まで運んで来る。


「ほら姪っ子さんも、自分の姿をしっかり確認しないとね!ははは!」


 持って来た全身鏡にモウガスが映ると、映った物にモウガスが目を丸くする。


 汚れた紫色のぼさぼさした長い髪が肩にかかり、ゆったりとした大きい瞳にそれに沿った細い眉に高い鼻、唇は小さく、顎は程よく収まり、小顔で美人。そして胸も大きく、手足が長く腰が細く身長も高い、だが一般女性よりも筋力があり、破れた肌着から覗く腹筋は6つに割れ、太ももと脹脛の筋肉が良く発達している。ミリットとそう年齢も離れていない様にも見える若さだ。


 そんな女性の姿が鏡に映し出されていた。


 全身鏡に向かってモウガスが腕を上げると鏡の中の女性も腕を上げる、モウガスがにっこりと笑えばにっこりと笑い返す女性。その笑顔にドキッとするモウガス、若い女に笑顔を向けられ慣れていないおっさんの悲しい習性だ。


 モウガスが鏡を掴むと、鏡の女性も鏡を掴む。そして体を震わせると鏡の女性も体を震わせる。良く見れば美人であるが、最早モウガスにとってはそこが問題では無い。


 否定できない現実をしばらくしてようやく受け入れると、鏡の女性が自分である事に気付く。


「なんだよこりゃああああああああ!!」


 モウガスが大声で叫ぶと声は店の外まで響き外の通行人も驚く。大声を出し切ったモウガスは、全身鏡を掴んだまま、しばらく放心状態になってしまう。





「ほら、お水、ちょっと落ち着いた?」


 店内の待合用の椅子に腰を掛け燃え尽きた様に休んでいるモウガスに、ミリットが木のコップに水を入れて差し出してくる。それを受け取り一気に飲み干すモウガス。


「ちょっと長旅で疲れたのかな?ねえモウガスさんの姪っ子さん」


「ハイ、ワタクシハモウガスノメイッコデス……」


 もう説得する気力も無く、魂の抜けた空返事をするモウガス。今まで話が嚙み合わない理由がようやく分かる、恐らくミリットとドノバンと同じ立場なら自分も同じことをするだろう。


 冷静に思い出せば確かにカルラナへ走って向かう中、股間の風通しが良く、太腿にもブツが当たる事も無かった。自慢では無いがブツは中々の逸物でモウガスの自慢であった。この事を思い出すとモウガスが余計に凹む。


 しかしこの姿でモウガスを名乗るのは混乱の元だと考えたモウガスが、防具一式を持っていた理由を必死に考える。良い案が思い付かないので、モウガスは右膝の療養で1年は故郷で過ごす事になり、自分が代わりに冒険者になる為に鎧を譲り受けたと苦しい説明をした。


 だが……。


「ったく、モウガスの野郎!飲み仲間の俺に一言あってもいいじゃねえか!でもあの右膝が本格的に悪くなる前で良かったぜ!」


「モウガスさん右膝やばかったもんね、今までも無理してたし療養した方がいいかもね」


 予想よりも簡単にモウガスの作り話をドノバンとミリットがすんなりと受け入れてくれた。


 しかも必死に隠していた右膝の事が何気にばれていた、さすが鍛冶師の目利きだ。あっさりと作り話を信じるドノバンとミリットを見てモウガスが心配しつつも心の中で思う。


 この2人ちょろすぎる、である。


 だが、なぜこんな体になったのかモウガスが記憶を辿って振り返る。しばらくして森の魔女のアンナとの会話を思い出す。確か果実酒を飲んで気分が良くなった時の話だ。


『女になってしまえって呪いをかけたのさ!』


 酔った時に確かにそう言っていたのを思い出し、もしかしたら原因は万能薬ではと考えるが、しかし現に右膝は完治している。どうしてもアンナが失敗したとは思えない。


 結局、結論は出ないままだが今はこの現状を受け入れるしかない。本来、死を待つしかなかった身だ、それに比べれば女になった今の方が遥かにましだ。


 そんな事を考えていると、勘定台ではドノバンがモウガスの鎧を見て、女のモウガスの体に合わせて調整出来るか考えてくれている。だがドノバンの表情を見ると、どうやら合わせる事は難しそうだ。


「姪っ子さんよ、悪いがこれをあんたの体に合わせるのはちっと難しいな……そもそも男物だしな、それに今は時期的に繁忙期なんだよ、炉に溶かして再形成するにも2、3カ月は必要だな」


「そ、そんなにかかるのか……」


 鍛冶屋【覇者の剣】は冒険者に限らず、騎士団からの仕事も受けている人気の鍛冶屋なのだ。特にドノバンの仕事は正確無比、期日もしっかり守られる為、信頼も厚い事で有名だ。


 さらに娘のミリットはドノバンと遜色の無い鍛冶の技術に加え、装飾技術にも裁縫技術にも長けている。その素質は父のドノバンのお墨付きだ。


 そのミリットがモウガスの傍に寄ると名前を聞いてくる。


「ねえ、姪っ子さんって呼びにくいし、名前を教えてくれない?」


 確かにこの姿でモウガスと言っても今までのやり取りから言って誰も信じないのは明白だ。だが名前はどうする、今まで女の名前なんて考えた事が無い。困った顔でモウガスが悩んでいると、ふと孤児院の神父の話を思い出す。


 『秋桜』、植物学者の間ではコースモスと呼ばれていた。


(コースモス……コスモ……これだ!)


 モウガスが名前を思い付くとミリットの顔を見て答える。


「俺の名前はコスモ……そうコスモって言うんだ」


(そう……こうなったからには今日からは俺はモウガスではなく、コスモとして生きるんだ)


 モウガスにしては上出来な名前を思い付く。これからはコスモという名で新たな人生を歩む事を強く決心する。名前を聞いたミリットが早速、コスモを名前で呼び鎧について尋ねる。


「じゃあコスモって呼ぶね、コスモはすぐに鎧が必要なんだよね」


「ああ、俺はアーマー職だからな、出来れば早く欲しい所だ」


「そっか!丁度良かったよ!私の自慢の鎧が出来上がったばかりでね、すぐに持って来てあげるよ、女性用だからすぐにでも調整は出来るからちょっと待っててね!」


 そう言うとミリットは鍛冶場の奥に行ってしまう。非常にありがたい申し出にコスモが期待するが、その様子を横で見ていたドノバンが曇った表情でコスモにこっそりと小声で話掛ける。


「あー……なんだ、コスモ、ミリットの作った鎧ってのはちょっと変わっててな、趣味全開で作ったもんだから全然売れねえのよ、そもそもアーマー職で鎧を必要とする女はあまりこの店に寄らないってのもあるが……だから嫌なら断ってもいいからな」


 ドノバンが意味深にそう話すとコスモからそそくさと離れて行くと、ミリットが鍛冶場の奥から台車に乗せた鎧を運んでくる。


「はーい!お待たせ!これがコスモの新しい鎧だよ!」


「おお、これが……俺の……鎧??」


 ミリットが持って来た鎧を見た途端コスモが固まる。


「この鎧はね、戦神ライオネルの鎧を参考につくった物なんだよ」


 戦神ライオネル、おとぎ話に出る有名な騎士団の戦士の名だ。


 遥か昔、子供だけを誘拐する盗賊団を一人だけで壊滅させて、救い出した子供を親もとへ返すという話から、遥か昔、邪神竜の眷属である大地竜との決闘の末に相打ちになった話も有名だ。


 しかし、なぜか戦神ライオネルの愛用した鎧、兜、盾、小手、脛当て、全てが『桃色』なのだ。ちなみに当時の騎士団の鎧は今と同じ普通の鋼色だったので、歴史の識者の間では物語の脚色ではないかと噂されている。


 もちろん、ミリットが持ってきた鎧も漏れなく見事に全部が桃色である。


「それだけじゃなくってね、女性らしい可愛らしさ、美しさを兼ね備えた優れものなんだよ!」


 興奮気味にミリットが鎧について詳細に説明するがまず鎧とは言えない。


 肩、手、足、頭は辛うじて防具の形なのだが、胴体の部分に至っては、二つの胸部だけを覆う胸当て、腰には申し訳程度の前の股だけを防ぐ丸みを帯びた金属板、腹部に至っては何も無い。もはや腹筋が鎧代わりなのかと突っ込みたくなる。


 トドメは大盾がハートの形をしている事、しかもコスモの身長の半分を越す大きさだ。ハートの形が何層にも重なる様な装飾に、盾の真ん中に小さいハート型が付いている。とっても可愛らしい、実戦には本当に必要ないのだが可愛らしいのだ。


 猛烈な愛の戦士を三倍に濃縮して強調した物を、現世に生み出し表現した様な独特な雰囲気を持つ盾だ。


 こんなのを持って町を歩いていたら完全に変態……笑い者である。


「あ、あのよ、ミリット、他に鎧は無い……」


「ないよ!」


 こちらを見ずに質問を被せるような即答が返ってくる、取り付く島もない。だが絶対に着たく無い、元男である意地もあるが、それを抜きにしても嫌だ、そもそも女でもあれは絶対に着ない。


「ねえコスモ、その汚い服よりもさあーこっちのが絶対良いって」


 ミリットに言われて自分の今着ているボロボロの肌着を見る。小屋から出発してカルラナに到着するまでの間に走り込んだせいか、随分と劣化している。


「い、いやでも……その鎧を着るくらいなら……ん?なんか臭いな……」


 コスモが変な匂いに気付く、今まで気付かなかったのが嘘な位だ。匂いが襟元から絶え間なく発しているに気付くと、少し襟を持ち上げ鼻に近付けて匂う。すると強烈な獣臭がコスモの鼻腔を突き抜ける。


「くっ……くっっせええええええええ!」


 体が女になった影響からだろうか、モウガスの皮脂と汗が染みこんだ肌着の黄ばみから発する匂いが、敏感な鼻を持つ今のコスモには耐えれらなかった。


「うおおおおおおおおおお!!」


 大声で上げながら匂いの元である自分の肌着の襟元を鷲掴みにすると、素手で喧嘩をする男がこれから本気を出す!と言った風に、一気に力を入れて半分に引き破り投げ地面に叩き付ける。


「オヤジ!こっち見ない!」


「おおおおお、おう!」


 ミリットが上半身裸のコスモを見ない様にドノバンに指示する。ミリットが急いで商品の外套を手に取るとコスモの体に羽織らせる。するとコスモの肩を掴み何かに誘う様に言葉を投げかける。


「いくら臭いからって破く事ないのに……でもさ服も無いしさ……ちょっとさ……奥で着替えようか?」


 狙った獲物を捕らえた獣の様な鋭い目付きでミリットがコスモの手を握り桃色の鎧と共に鍛冶場の奥に連れて行く。自信作であるこの鎧をどうしても誰かに着せたくて堪らないミリットも必死であった。


 当のコスモはというと抵抗すると思いきや、違う事に衝撃を受け呆然としていた。


(俺って……あんなに臭かったのか……皆優しかったんだ……)


 コスモが自分自身の体臭が臭かったという現実と、それを気にせず付き合ってくれた人の優しさに気付く。自分の匂いは自分では分かるものでは無い特に中年のおっさんにはだ。


 そしてコスモはふらふらとしながらミリットの趣味全開の鎧を着用する第一号の犠牲者となり、なすがままにされて行った。



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