第78話 大陸一水着大会その2
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
会場中から歓声が上がる中、進行役のカリードが舞台へと上がって行く。
水着大会の審査の方法だが、順位の低い者から順に参加理由を発表、その後に特技を披露して貰う事となっている。これは毎年恒例の審査方法であるが、今回は一癖二癖もある参加者が揃い普通に終わらない事が予想される。
なぜそう予想されるのか、それは舞台裏に用意された特技で使用する道具が普通の女が扱わない物が多いからであった。
早速カリードが帝国大臣プレイトルの娘、ルイシュへと近寄ると会場の方へと体を向け審査を始めて行く。
「それでは記念すべき1人目のルイシュ嬢から審査に入って行きたいと思います!」
カリードの審査開始の声が拡声器から響くと、会場から一気に歓声が上がる。それを身振り手振りで静かにする様にカリードが促すと、ゆっくりと会場が静かになって行く。
裁判官として慣れているのか、その手付きも堂に入っている。
会場が静かになった所を見計らい、集音器をルイシュの前で差し出しながら参加理由を聞き始める。
「さて、ルイシュ嬢はなぜ水着大会に参加されたのですか?」
「そ、それは……意中の方にこちらを向いて貰う為です!」
ルイシュの参加理由は帝国の皇子ユリーズに自分という女が居るぞというアピールをする為であった。
しかしその答えを聞いたカリードが気まずそうな顔になる。
ルイシュの父プレイトルは帝国大臣を務め、カリードとは仕事でも良く顔を合わせ親しい関係でもあった。そしてルイシュはプレイトルが40代の時に出来た大事な一人娘なのだ。
カリードの心境とは裏腹に会場からはルイシュの真っ直ぐな心意気に打たれ歓声が上がっていた。
ルイシュは頬を赤く染めながらも、正直な気持ちを伝え胸を張って逃げる事はしなかった。
「そ、そうでしたか!ルイシュ嬢に見初められた者は羨ましい、きっとこの大会に出た事で気持ちが伝わると思いますよ」
「そうでなくては困ります!とっても素晴らしい殿方なのですが惚れ込んだ相手の為なら地の果てまで突っ切る様な方でしてそんな方に振り向いて貰うには私にも相当な覚悟が必要なのです!だからこうして肌を晒してでも振り向いて貰おうと参加致しました!!ぜえぜえ……」
今まで溜まっていた鬱憤を晴らす様に息継ぎ無しで一気に語り切ると、集音器に拾われたルイシュの大きく息をつく声が会場の拡声器から聞こえて来る。
その勢いに会場が静まり返る中、その貴族令嬢らしからぬ迫力にカリードも戸惑っているが、何人もの凶悪犯を裁いて来た男、すぐに気を取り戻すと審査を続ける。
「そ、それだけの覚悟があれば、き、きっとルイシュ嬢の願いは叶う事でしょう!」
「ぜえぜえ……ありがとうございます、私……諦めませんから!」
ルイシュが覚悟を決めた顔でコスモの方を見つめると、コスモが頬を掻きながら苦笑いする。
「そ、それでは、特技の方を披露願います!」
ルイシュの心の叫びを聞いた後にカリードが特技の披露へと進行させる。すると舞台裏から係員が【サンダーの書】を持って舞台に上がると、ルイシュへと手渡す。
そして受け取ったルイシュが集音器から会場に居る観客に向けて要望を取り始める。
「私の最も得意とするのはサンダー系統の【魔力操作】です、何か動物や植物など、希望があれば指先からこの様な感じで形にして見せましょう」
するとルイシュが右手を会場に向けて差し出すと、手の平を上に向けた人差し指から光輝く電弧が放たれ、五芒星の形を一本筋で描き始める。電弧とは緩い雷撃の様な物と考えて貰いたい。
それを見た観客から驚きのどよめきが一気に広がって行く。
熟練したマジック職でもルイシュの様な精密な魔力操作は数える程しか行えない高等技術である。魔法学院でも首席のユリーズに並ぶ【魔力操作】が出来るルイシュの得意技であった。
どよめく観客席に居た子供が目を輝かせながらキラキラと光る五芒星に感動すると、無邪気にルイシュに向かって要望の声を上げる。
「じゃあお姉ちゃん!キノコ!キノコ作ってよ!!」
その声が会場中に響き渡ると観客達が一気に静まり返る。
無邪気な子供はにこにこの笑顔だが、それ以外の大人達はその結果がどうなるのか、空気を読んでいたのだ。
舞台に居る女達も何人かはどうなるのか結果が見えているので空気を読み、顔を歪ませていた。
「分かりました!キノコですね!ほら、これでどうでしょうか!」
「うっわー!お姉ちゃんすっげー!!」
ルイシュの右手の指先から放たれた電弧が一本筋でキノコを描き出し光り輝いていた。
それもう立派に光り輝いていた。
もちろんルイシュは貴族令嬢であってアレは見た事が無い。つまり笑顔でアレを指先から描いているのだ。
その様子を元男のコスモが気まずそうな顔で見つめていた。
(ど、どうみても……男のアレじゃねえか……)
ちなみにコスモと同じような反応を示したのはシャルミとニアータだけである。
「り、立派なキノコでしたね!と、特技の披露ありがとうございましたー!以上、ルイシュ嬢でした!盛大な拍手を!」
これ以上見せるのは不味いと考えたカリードが半ば強制的に締めに入ると、会場からはまばらに拍手が聞えて来る。
そのいまいちな反応に疑問に思ったのか、ルイシュが不思議そうな顔で見つめていた。
「続きまして!ハヌイアムの町民代表、シャーミ嬢です!」
会場から再び歓声が上がると、冷や汗を拭いつつカリードがシャーミの横へと移動する。
そして早速、水着大会に参加した目的を聞き始める。
「シャーミ嬢はなぜ大会に参加されたのですか?」
「もちろん、賞金の為です!」
「確か、参加者は最低でも金貨100枚、順位が上がる毎に100枚上がって行き、優勝者だけは金貨2000枚になっていますね!」
今回の水着大会出場者には最下位でも金貨100枚、騎士団の平均年収2年分が約束されている。さらに優勝者ともなれば騎士団の平均年収の40年分に相当する。
余談ではあるが、コスモの着用するピンクのビキニアーマーの値段は金貨10,000枚である。
「賞金は何に使う予定ですか?」
「え、えっと、う、うちには弟が3人と妹2人居るんですけど、まず皆で美味しい物を食べて、新しい服を買って、学校へと行かせたいと思ってます」
「そうですか、弟さんと妹さんが多いので賑やかそうですね!」
「はいっ!父と母は亡くなっているので、弟と妹達だけが私の元気の源です!」
「えっ?そ、そうなのですか……」
質問を純粋な笑顔で答えて行くシャーミが、父母が亡くなっている事をあっさりと伝えると、それを聞いた観客達が再び静まり返る。余りにも不憫な家庭環境をシャーミの答えから察したのか、観客席から同情してすすり泣く声が聞こえて来る。
そして舞台の上からもすすり泣く声が聞こえて来る。その声に気付いたジョセフィーヌが声を掛ける。
「コ、コスモ、お前泣いているのか?」
「うう……ぐすっ、歳を取るとな涙腺が緩くなるんだよ……」
「と、歳ってお前、俺と同年代じゃないのか……」
コスモの実年齢39歳のおっさん、もちろんこの様な話には非常に弱い。
「な、泣かせるではないか……父母が居ない事を気にする事なく明るく答えるとは、心は純真無垢よのう……」
「ううっ……彼女がこれ以上苦労しない様にもっと良い町にして見せますよ上皇様……☆」
コスモと同じ様に涙を流すのは、実況席に居る領主のレイグと上皇アインザーであった。
全員いい歳をした者達である。
進行役のカリードも表情を変えないまま涙を流しているが、この空気感は水着大会にあるまじきものと考え、涙を拭うと場の空気を明るくしようと努力する。
「そ、それでは早速ですが、シャーミ嬢の特技を披露して貰いましょう!」
カリードの声に合わせ係員が縫い針と糸を持って舞台に上がると、シャーミへと手渡し去って行く。
「私の特技は裁縫です!どなたか解れた衣服などがあれば、すぐに直しますよ!」
裁縫が特技と聞いて観客達がシャーミの水着に注目する。良く見ると色の違う端切れを上手く繋ぎ合わせ、自作していたのが分かる。普段から弟や妹達の服も捨てられた端切れから作っているのだろう。
それを想像した観客達のすすり泣く声が更に会場で増して行った。
そんな中、1人の商人風の男が大声を上げる。
「でしたら私の上着を修繕して貰いたい!父の形見なのですが、長らく着用したせいで擦り切れそうなのです」
「はい、分かりました!ではこちらに持って来て状態を見せてください!」
会場に居る観客をかき分けて商人風の男が、舞台側へと近寄るとシャーミへと上着を手渡す。舞台の上から屈んで受け取ったシャーミが上着を広げ、擦り切れそうな部分を確認する。
袖と襟、裾の部分が大きく擦り切れているのを確認すると、正座になって縫い針に目にも止まらぬ速さで糸を通し、人が変わった様に集中し始める。
余りの変貌振りに会場と舞台が静まり返り、シャーミの動きに注目が集まる。
シャーミの手の動きが精密機械の様に素早く縫い続けると、見る見る内に擦り切れた部分が新品同様の元の形に戻って行く。あっと言う間に修繕を終えると、預かった上着を綺麗に畳み商人風の男へと手渡す。
「これで終わりです。念の為にしっかり直っているか確認して下さいね」
商人風の男が上着を手に取り、広げるとまるで新品の様に擦り切れそうな部分が修繕されていた。上着を掴んだ腕が震え始めると、商人風の男がシャーミに声を掛ける。
「す、素晴らしい腕だ!ぜ、是非、私の衣服を扱う商店で働いて貰えないだろうか!も、もちろん月で金貨5枚……いや10枚出します!」
「え、ええっと……」
突然の勧誘を受けてシャーミが戸惑った表情でカリードを見つめる。水着大会の真っ最中なのでシャーミが返答に困りカリードに助けを求めていた。
カリードがその顔を見て、はっと我に返ると笑顔になって優しい声で答える。
「シャーミ嬢、水着大会を気にする事無く、その仕事を受けるかどうかは貴女自身が決めて下さい」
その言葉を聞いたシャーミが安心したのか笑顔になると商人風の男に向かって答えを返す。
「よ、喜んでお受けします!」
その瞬間、会場から一気に歓声が上がる。
先程まで静まり返った会場が嘘の様な大歓声だ。
偶然にも特技の披露によってシャーミの隠れた才能が観衆の下で発揮され、勇気を出して形見の修繕を依頼した商人風の男によって見出される。この奇跡の出会いに観客達は酔いしれていた。
周りからは万雷の拍手が続き、商人風の男と約束を結ぶとシャーミが笑顔で定位置に戻る。
「以上、シャーミ嬢でした!本当に……本当に良かった!」
進行役のカリードが涙を流しながらシャーミを称賛すると会場からは拍手が続いていた。
そして間を置いてヒルディへの横へと移動すると、集音器を差し出し審査を始める。
「次は参加者の中で一番の年長者、ヒルディ嬢です!」
「皆様、よろしくお願い致します」
ヒルディが紹介されるとメイド仕事の癖なのか、笑顔で丁寧に観客に向かってお辞儀をする。その仕草に会場中の中年の独身男達がドキッとしていた。それは妙齢であるヒルディの女特有の色香が影響していた。
「今回ヒルディ嬢が参加された理由は何でしょうか?」
「それは私の父に元気な姿を見て貰いたい、その一心です!」
「なるほど、御父上がこの会場にもいらっしゃるのですね!」
「はい!私の大好きな大陸一の自慢の父ですので!」
歳がらも無くはち切れんばかりの笑顔でヒルディが答えると、視線を実況席に居たアインザーへと向ける。視線を向けられたアインザーも少女姿ながら、頬を赤く染め珍しく恥ずかしがっていた。
ヒルディの審査が開始され、このまま順調に進行して行くと思われたその時、水を差す出来事が起こる。
水着大会というのはお祭りに近い催し物であり、会場には色々な目的を持った人が集まる、中にはお祭り気分でタガが外れ、酒を浴びる様に飲む者が居るのは世の常である。
そんな酔っ払いが観客席からヒルディに向かって野次を飛ばす。
「おーい!年増のばばあの水着姿はきっついだろ!無理するなよ!じゃないと大好きなパパも困るぞ!ぎゃはははは!!」
野次を飛ばした男は酒瓶を握り顔を赤くしていた。お祭りには必ず居る酔っ払いの戯言なのだが、これがまた会場が静かになった時に言うものだから会場中にその声が響き渡っていた。
「まあ、困った方もいらっしゃいますね……」
「そこの方、水着大会の参加者には敬意を払って下さい!」
「けっ!うるせいやい!」
ヒルディは酔っ払いと分かると相手にせずに野次を受け流し、カリードも語気を強めて拡声器から注意を促す。
会場が微妙な空気に包まれる中で、この言葉に怒りの火の点いた者達が居た。
「あ、あれれ?何だか妙に熱くなって来たぞー☆」
実況席に居たレイグが尋常で無い暑さを感じていた。夏の日差しだけの熱さでは無い、この尋常では無い熱さが隣から発せられている事に気付くとレイグが恐る恐る顔を向ける。
するとアインザーが椅子の上に立ち上り、手の平から鳥を模った巨大な炎の塊を作り出していた。その顔は少女とは思えない程に怒りに満ちた表情である。
「だ、誰がばばあじゃ!ごるぁ!余の可愛い娘に向かって不敬であるぞっ!!この世から消し去ってくれる!!!」
「む、娘?そ、それより!じょ、上皇様落ち着いて☆それを放ったら会場が火の海に☆」
アインザーが【ファイアーバードの書】から炎を放とうとしているのをレイグが必死に止める。だが怒りに満ちた者はアインザーだけでは無かった。
「あんの野郎……上等だよ、だぁれが、ばばあか教えて貰おうじゃねえか……」
「い、いやいや、コスモ、なぜ若いお前がキレるのだ!」
「……あの者の急所、全部潰してしまいましょうか……」
「ええー!なんでシャイラ殿も!?」
ジョセフィーヌの左右にいたコスモとシャルミもキレていた。コスモの中身はヒルディと歳が近い39歳のおっさん、シャルミことシャイラは中身65歳の爺、年齢には敏感な年頃である。
コスモは体から技能【羅刹】の青い炎の陽炎を噴出し、シャルミの両拳からは闘奥義【竜連拳】の発動の前兆である翠色の光が輝き出していた。2人共に完全に酔っ払いの男を全力でキルするつもりである。
そんな中で観客席から野次を飛ばした酔っ払いに掴み掛かる者が居た。掴み掛かる者の周りには同じ様に怒りの表情に満ちた中年の独身男達が集まっていた。
「貴様!あの駄肉に熟れきった果実の様な色気が分かんねえとは、明日を生きる資格はねえ!」
「んだあ!お前らはぁ?ばばあ専門かーきっしょー!ぎゃはははは!!」
「ぐっ、ぐぐぐ……酔っているといえ、もう許せん!皆やっちまえ!!」
「「「おうっ!!」」」
集まった中年の独身男達の逆鱗に触れた酔っ払いの男が袋叩きにされる。その正義を執行する光景に会場に居た観客からは声援が上がっていた。
しばらくぼこぼこにされた後、タイミングを見たシンディが数人の女騎士を伴い、ボロボロになった酔っ払い男を大会進行の妨害行為を行ったとして連行する。
そのタイミングの良さに、シャルミがシンディに向かって親指を立てると、シンディもそれに気付き親指を立てて返す。
師弟関係ならではの意思の疎通である。
怒りの収まったコスモとシャルミが舞台の定位置へと戻るが、1人だけ収まらない者が居た。
「な、何故か分からぬが、あの殴り掛かった男達も生かしてはならぬような気がするのじゃが……」
「じょ、上皇様ー☆それだけヒルディ様が魅力的という事ですよぉー☆」
「……ふんっ、まあ良いわ!そういう事にしておいてやる!」
大きく作り出した鳥を模した炎の塊を消滅させると、不貞腐れる様にアインザーが席に座る。
そのアインザーの様子を舞台から見つめていたヒルディは、野次を飛ばされたのに身を悶えて喜んでいた。父のアインザーにあれだけ大事に想って貰えてるのだと分かったからだ。まさに天にも昇る気持ちである。
会場が落ち着くと続けてカリードがヒルディに特技の披露をお願いするのだが、
「それではヒルディ嬢、特技の披露を……」
「申し訳ありません、私の特技は料理でして、準備に時間を頂きたいのですが……」
「そ、そうでしたか……では、調理している間に次の女性へと審査に移ってもよろしいでしょうか?」
「構いません、終わりましたらすぐにお伝えしますのでよろしくお願いします」
舞台の前には係員によって調理台と釜土が設置され、そこへ水着姿のままのヒルディが下りると、愛用している白のエプロンを水着の上から着用する。そして慣れた手付きで調理を始めるが、水着姿と白いエプロンの組合せが強烈で中年の独身男達の目と心を奪って行った。
「ではヒルディ嬢の特技は後ほど披露して貰うという事で、次は宿屋の看板娘こと、ナーティ嬢です!」
カリードがナーティの側まで移動すると早速、質問を開始する。
「ナーティ嬢はなぜ大会に参加されたんですか?」
「しょ、しょ、賞金を貰って……親の建てた宿屋を……大きくしたい……から……」
「そうでしたか!宿屋を大きくする為とは素晴らしい目的ですね!」
「は、はい……私……こんなことでしか……役に……立たないから……」
ナーティが俯きながら両手で横の長い髪を掴み、髪で顔を隠しながら自信が無さそうに答える。
普段から宿屋の手伝いをしていたナーティは看板娘として両親に可愛がられていたが、その女らしからぬ巨大な体を畏怖の目で宿泊客から見られる事が多く、それが原因で引っ込み思案となってしまった。
そこで海上都市ハヌイアムから来た常連の宿泊客から、ナーティの自信の無さを克服する為に水着大会に参加したらどうかと勧められていた。
普段から自信の無い自分を変えたいと思っていたナーティが奮起して水着大会に挑んだという訳である。
「それではナーティ嬢の特技を披露して貰いましょう!」
ナーティは喋る事が苦手と見たカリードが速やかに特技の披露へと移ると、係員が2人で1本の大きな丸太を舞台の上へと運び込む。
その丸太をナーティの前に置くと係員が舞台裏へと去って行くが、カリードが丸太に対してどう反応すれば良いのか分からず困惑していた。
(えっ?丸太で何するの?木彫り?)
カリードの頭の中でナーティが丸太をどう扱うのか思考を巡らせていた。
その横からナーティが絞り出す様な声で説明する。
「わ、私は……【力】だけは……誰にも負けない……この【力】で宿屋を守って来た」
そう会場へと宣言すると、おもむろに丸太を片手で軽く拾い上げると抱える様に両腕を回す。観客の注目を集めながらナーティの体が震え出すと丸太からは軋む音が聞こえ、それが破壊音に変わって行く。
「ふんぐぅ……!!!」
バキャン!!
丸太が真っ二つに折れると、ナーティが腕から丸太を放し足元に折れた丸太がころころと転がって行く。
その瞬間に会場からは驚きの歓声と拍手が送られる。
「こ、これは凄い!並大抵の力ではありません!」
「す、素手なら巨大赤猪1匹は……倒せる……」
「な、なんとあの魔獣を素手で倒せるとは驚きです!何と言う武闘派少女なのでしょう!」
単純にして明快なナーティの特技の披露に、今までにない安心感で観客達が盛り上がっている。
ナーティの特技を見てを舞台上から只ならぬ視線を送る女が居た。薔薇騎士団の団長シャルミことシャイラである。
まさかこんな所で、前衛職【インペリアルアーマー】候補が見付かるとは思わなかったのだ。アーマー職は適性の難度の高さから慢性的に人手不足であり特に女が全くと言って良いほど居ない。
シャイラにとってナーティは喉から手が出るほどに欲しい理想的な人材であったのだ。
「ナーティ嬢の審査をこれで終了致しますー!皆様、拍手をお願い致します!」
会場からは真っ当な特技に拍手が送られ、ナーティが恥ずかしそうに手を振って応えていた。
続けてカリードが冒険者のニアータの方へと移動すると紹介を始める。
「では、次は参加者の中では数少ない冒険者、ニアータ嬢です!」
紹介を受けたニアータが笑顔で両手を振って愛想良く観客に応える。
「冒険者のニアータ嬢が水着大会に参加した理由は何でしょうか?」
「もちろん賞金が目当てだけど、何より冒険者のコスモさんが参加するって聞いてスーテイン領から来たんだ!」
「今回の優勝候補でもあるコスモ嬢に挑むとは、ニアータ嬢は冒険者に相応しいチャレンジ魂をお持ちですね!」
「それもあるけど、スーテイン領の山賊討伐に参加した時に、コスモさんが不思議な技で子供の人質を奪い返して一気に形勢逆転したんだ!あれを見て以来、同じ女冒険者としていつか何らかの形で挑戦したいって思ってたんだよね!」
ニアータがまるで自分の事の様に嬉しく参加理由を話すと観客達が沸いて行く。
しかしその理由を聞いていたコスモが冷や汗をかいていた。
(お、俺の盾奥義【誘惑】を見てたのか……ま、不味い……)
盾奥義【誘惑】は範囲内に居る大人、子供を選ばず男の意識を飛ばし、獣と化して自分に向かわせると言う非人道的な技である。問題は上目遣いになってぶりっ子した上でセクシーポーズをしなくては発動しないという特殊条件である。
まるで自我を失った様なキャラになるのでコスモは余程の事が無い限り封印している技なのだ。それを知られたらこの大陸では生きてはいけない。
「【アーガコアの奇跡】、帝国民ならば誰も知るスーテイン領での奇跡の逆転劇、ニアータ嬢が参加した理由もはっきり分かりますね!」
カリードがニアータがコスモに挑む理由を観客達に分かりやすく丁寧に説明すると、続けて特技の披露に進行する。
「では、ニアータ嬢の特技を見せて頂きましょう!」
「特技って言う程のモノじゃないけど、斧技の1つで敵を真っ二つにする技だよ」
係員によって舞台の前に鉄兜、鉄鎧を着せた木で出来た案山子が設置される。続けて舞台の前に下りたニアータに愛用している鋼の槍斧を手渡すと、すぐに舞台裏へと係員が去って行く。
ニアータが案山子の前に立ち、鋼の槍斧の柄を両手で握ると、大きく息を付き、股を開き腰を落とし大きく斧の刃を上段から後ろへと下ろし、力を込めて行く。
「斧技【両断斧】!!」
斧技【両断斧】は、後攻且つ一度しか攻撃出来ないが、相手の【守備】を無視してダメージを与える技である。
ニアータが鋼の槍斧を上段から大きく振り下ろすと案山子の頭から足元まで、すり抜ける様に地面まで振り抜く。 遅れる様に鉄兜と鉄鎧を縦に真っ二つになると、ゆっくりと左右に分かれ鉄兜と鉄鎧が地面へと落ちて行く。
見事な技に会場から歓声が沸き起こる。鋼の槍斧を手足の様に扱えなければ、綺麗な断面を残して切断する事は難しい技である。ニアータが中級冒険者としての意地を見せたと言っても良い。
「なんという事でしょう!頑丈そうな鉄製の防具が両断されました!見事な技を披露してくれたニアータ嬢に拍手をお願い致します!」
観客席からはち切れんばかりの拍手が鳴り響く。ニアータが鋼の槍斧を両手で回転させると、柄の石突を地面に叩き付け、仁王立ちで拍手に応える。
観客席からの拍手が落ち着き始めるとカリードが隣のジェニーの方へ移動して紹介を始める。
「続きまして、ジョストン領の商業都市ウキレアの商会令嬢、ジェニー嬢です!」
カリードに紹介されると、会場から声援と拍手が起こる。ジェニーが大きく片手を上げてそれに応える。
「ジェニー嬢は商会令嬢ですが、なぜ水着大会に参加を?」
「良くぞ聞いてくれました!私の将来の伴侶となる男性を探しているからです!!」
「ここで将来の夫を探そうとしている訳ですか、ちなみにどのような男性像を求めてらっしゃるのですか?」
「我が商家の家訓で、先義後利栄と言うものがあります。その意味を理解していらっしゃる殿方でしたら、この私を含めて商会全てを差し上げましょう」
全てを差し出すという大胆な発言に会場がどよめくが、先義後利栄という聞き慣れない言葉を聞いた観客達が、ざわめき始める。
その反応を見たカリードが一息つくと会場に居る者達に分かりやすい様に言葉の解説を始める。
「先義後利栄、人として正しい道を優先すれば、例え利益が後回しになっても巡り巡って商売が栄える。とても良い家訓をお持ちですね」
カリードの解説を聞いた会場からはおおーと言う感心した声が上がる。
「まあ……そこまで理解している貴方も博識ですね。どうですか私の夫になりませんか?」
するとジェニーが家訓を理解しているカリードに体を密着させ耳元で囁く様に誘惑を始める。ジェニーにとってカリードは目的を果たすのに丁度良い物件であった。
「あ、あの、わ、私には妻も子も居ますので……ジェニー嬢の期待には応えられません!」
「あら、それは残念……この私を自由に出来る機会でしたのにね」
商会令嬢らしからぬ積極的で大胆な行動に観客達からは一気に歓声が上がる。
それとは反対に真面目なカリードが、冷や汗をかいて戸惑いながらも大会を進行させる。
「そ、それではジェニー嬢、特技の披露をお願いします!」
「はい、畏まりました、その集音器をお借りしても?」
「は、はい、どうぞ」
ジェニーがカリードから集音器を受取ると舞台の花道へと進み始める。その後をカリードも一緒に付いて行く。
そして休憩をしていた、ねじり鉢巻きをしている屋台の主人であろう中年男に向かってジェニーが拡声器で問い掛ける。
「そこの鉢巻の屋台の御主人、売り物の値段と売れた数、売れ残った数を私に教えて下さいますか?」
「お、俺かい?」
「ええ、そうです」
「お、俺っちの売ってるもんは、1箱8個入りの蛸の足の切れ端を入れた焼き饅頭で、1箱は銅貨4枚、売れたのが93箱、それが後25箱分あるぜ!」
「でしたら、全てが売れた時の総売り上げは銅貨472枚、大きい貨幣に換金すれば銀貨47枚に銅貨2枚、更に言えば焼き饅頭の個数は全部で944個ですね」
「え、ええっと……そうなのかい!」
商品の値段と個数を聞いたジェニーが即答で総売り上げをそらんじると、まとめ売りしている焼き饅頭の個数までも瞬時に計算して見せる。
ねじり鉢巻きの屋台の主人もジェニーの計算を聞いて慌てて計算を始めていた。屋台の主人であっても全部の売上を計算出来ないでいた。
そして次々と屋台の主人達に声を掛けて行き、総売り上げを計算して見せると、計算の終えた屋台の主人達がジェニーの計算が合っている事に驚く。
「ほ、本当に合ってるぜ!す、すげえなぁ!こんな一瞬で計算しちまうなんて!」
その様子を見た観客席からは盛大な歓声が上がる。商会令嬢と言う名に恥じない計算能力の高さを見せ付ける。
一通り屋台の売上計算を終えるとカリードへと集音器を返し、ジェニーが舞台の自分の定位置へと戻って行く。
「いやー素晴らしい計算能力でした!もし才女であるジェニー嬢に求婚される男性がいらっしゃいましたら、是非本人まで申し込み下さい!」
会場からは拍手と歓声が続くが、残念ながらジェニーに求婚する男は現れず、そのまま何事も無かったかのように大会が進行されて行く。
だがジェニーの器量の高さは瞬く間に広まり、本人の目的である自分を売り出す事には成功していた。




