第77話 大陸一水着大会その1
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
その小さな島の混乱した状況を、離れた海の上の小型船から眺める少女が居た。小型船も来客用の特別製でテイルボット領でも豪華な造りである。しかもゴンベエ達の必死に逃げる姿を見て船上で笑い転げていた。
「ぶはははははは!見てみいパフィよ、胸を揺らしながら美しい女達が逃げ惑う姿もまた一興よのう!」
「じいちゃんやり過ぎー……余計な事をすると女神様から罰が当たるよー」
「なあに、もう罰は当たってこの姿なのじゃ、それにあれ程付きっ切りだったヒルディも居らぬ!今の余に怖いものなど無いわ!はははははは!」
「……そんな事言って、どうなっても知ーらないっとー」
その少女は上皇アインザーで、腰にフリルの付いた赤色のワンピース型の水着を着用し、真紅の長い髪を三つ編みにまとめていた。その側には暗部のパフィが、黒色のビキニ型の水着の上からフードを被り、アインザーの護衛を行っていた。
小さな島の混乱はゴンベエの魅力(褌姿)に気付いたアインザーの策で、その結果アインザーが期待していた以上の混乱を引き起こし水着大会の余興として楽しんでいたという訳である。
「……ふんふんー久しぶりの海水浴も中々楽しいですね」
だが余興として楽しんでる間に、顔見知りが横を泳ぎ通り過ぎた事にアインザーは全く気付いていなかった。
パフィは気付いていたがアインザーの反省の無い態度に、愛想を尽かし報告する事はしなかった。
そんな混乱の中で浮き輪を持った貧困の少女が小さな島に到着していた。息を切らせながら辺りを見回すと、女の治療をしていたウジハルに気付いて駆け寄って行く。
「あ、あの……到達の証が欲しいんですけど」
「ああ、お疲れ様です、あそこにあるハイビスカの花を1輪持って行って下さい。それが証です」
「ありがとうございます!」
「頑張って下さいね」
貧困の少女が頭を深く下げてお礼を言うと、籠の中からハイビスカの花を1輪抜き出してそのまま海へと駆け出して行く。その近くでは未だにアルティナから追いかけ回されるゴンベエと女達が居た。
やっとの思いでゴンベエがアルティナの鋼の槍の穂先を白刃取りで抑え込み動きを封じると、周りに居た女達に必死に声を掛ける。
「お、お前ら早くハイビスカの花を持って逃げろ!このままだと姫さんにやられるぞ!」
「ゴンベエ離せ!こいつらには体の痛みで教えなければ分からないのだ!」
「「「ひぃ!」」」
アルティナの嫉妬心は母であるバミーネ譲りであった。もしジョルセアがレイグの元恋人ブリギールの娘と分かればバミーネも槍を持ってレイグの首を狙って来るだろう。
しかもアルティナはゴンベエを好いている、それもあって発せられる言葉からは尋常では無い本気の度合いが窺える。
ゴンベエも白刃取りで抑えてはいるが、元々武芸に秀でたアルティナの【力】に耐えるのが精一杯であった。
そして白刃取りが外れると、鋼の槍の突きを間一髪で躱しゴンベエがアルティナの背後へと回り込んで体を抑え込む。
ゴンベエの雄々しい姿に浮かれていた女達も、アルティナの迫力に目が覚めると慌ててハイビスカの花を籠から取って逃げる様に海へと向かって行く。
ちなみに騎馬となっていた、つるっとした頭の男とモヒカン頭の男達も理不尽に巻き込まれていた。
海へと逃げ出す女達と入れ替わるようにコスモが小さな島に到着すると逃げる女達を見て異変に気付く。
女達の表情から何か凶悪な猛獣にでも追われている様に見えたからだ。
「な、なんだ、海賊の襲撃か!只事じゃないぞこれは……」
女達の只ならぬ表情に危機感を持ったコスモが急いで女達が逃げて来た島の中央の木陰へと向かって走って行く。
「おい!何があった!!……って、な、何してんだ?」
コスモが到着すると褌姿のゴンベエがビキニ姿のアルティナを背後から抱き付き抑えていた。コスモに気付いたゴンベエが、ほっとした顔で助けを求めて来る。
「コ、コスモか!助かった!姫さんを縄か何かで縛ってくれ!」
「うわー!離せゴンベエ!あいつらだけ生かしては置けぬ!」
意外とアルティナの【力】が強いのか、ゴンベエの【力】でも抑えるのが手一杯の様子だ。
しかしその光景が逆にアレな感じに見えたコスモが、2人の様子を見て少し引いていた。この行為を見せ付けられたら逃げ出した女達の表情にもなると勝手に勘違いをしてしまう。
「……お、お楽しみでしたかアルティナ様……いくらなんでも場所は選んだ方がいいぞゴンベエ」
「ちげえって!!そもそもこんなとこでおっぱじめたら、ただの変態だろうが!」
「ガルルルルル!!」
お互いが色々と勘違いをし場が収まらなくなった所で治療を終えたウジハルが戻って来る。
「うーん……これは酷い……」
3人のやり取りを見たウジハルが率直な感想を口にすると、直ちに誤解を解く様にコスモに説得を始める。
その説得を受けてコスモが慌てて鋼の槍を取り上げると、木に掛かっていた蔓を縄替わりにしてアルティナの両手と両足を縛り上げる。
ようやく解放されたゴンベエが冷たい目線でコスモを見つめる。
「全くひでぇよな、何がお楽しみでしたか……だよ」
「す、すまん、ゴンベエ!」
「どう見たって姫さんの暴走を抑えてる様に見えるだろ!」
(じゃあなんでお前は褌姿なんだよ……)
事情を知らない者が褌一丁で色香を放つゴンベエの姿を見たら誰でも勘違いをする。ある意味コスモも被害者と言っても良い。そう心の中で突っ込みを入れながらもコスモが頭を下げていた。
そんなやり取りをしていると、後続の記念参加の集団に付いていたジョルセアが現れる。
「どうやら俺で最後の様だ……ってゴンベエ、お前アルティナ様に何をした!」
「またかよっ!!」
両手を縛り上げられたアルティナと褌姿のゴンベエを見てジョルセアも盛大に勘違いをするが、すぐにウジハルとコスモによって説得を受ける。もちろんゴンベエの顔は不満で一杯であった。
こうなった原因は全てゴンベエ達の褌姿ではあるが、アインザーの想定していた以上の効果をもたらしていた。
本当にいい迷惑である。
説得によって小さな島に居るコスモ、ジョルセア、ゴンベエ、ウジハル全員が状況を理解すると冷静になって行く。
ジョルセアの話から後方に居た記念参加組は貧困の少女を除き全員が脱落した様だ。その後もジョルセアが海に残された者が居ない事を確認しながら小さな島に到着したという流れである。
その話を聞いてゴンベエとウジハルが安堵の表情を浮かべていた。
「という事は、これでやっと俺の仕事も終わりって訳か……」
「ああ、俺達も行くからゴンベエ、その溺れた女の子は頼んだぞ」
「分かった、これも罰って事で納得しておく。全く、姫さんがここまで暴れん坊だとは思わなかったぜ……」
「ゴンベエ、すまないが義妹を……いや、アルティナ様を頼む」
「安心しなジョルセア、こう見えても俺は姫さんの直属の護衛として海上騎士団に入る予定だ」
処罰を受けた後は、アルティナより打診されていた護衛の件をゴンベエは快く引き受ける予定であった。命の恩人であり、東の国で許婚であった亡きマコ姫と瓜二つのアルティナの頼みなのだ。断る理由は無かった。
こうして小さな島の後始末をゴンベエへと託すと、コスモとジョルセアが浜辺に向かって泳ぎ始める。
コスモ達が泳ぎ出すと、すぐにアルティナに追われ体力が尽きそうな女達が海上に溢れていた。あれだけ走り回った後に、長い距離を泳ぐとなると相当に厳しい。
コスモとジョルセアが手分けをして女達を救助すると、ゴンベエ水軍の小型船へと乗せて行く。
意図的に狙った訳では無いが、これによって予選参加者の大半が脱落し、100人以上居た参加者も残り十数人まで絞られて行く。
一方、ゴールの浜辺ではすでに辿り着いた者達が居た。背後からアルティナが迫って来ると考えていた分、行きより戻りが早くなったせいでもあった。貴族の女と豪商の女以外は、全力で泳いだのか肩で息をしていた。
浜辺では豪華な小型船から降りた上皇アインザーが、浜辺のゴールに到着した水着姿の女達を近くから吟味していた。
「ほうほう……これだけの泳ぎをこなすだけあって、皆、中々良い体をしておるのう……ぐふふふふ」
貴族と豪商の女は男達の力を借りたとは言え、その美貌とスタイルの良さは参加者の中でも上位に入る。次点で男勝りの冒険者と野人の様な巨躯の女だが、自力で泳ぎ切っただけあって、並の女より鍛え込まれた肉体美が輝いていた。
そして貧困の少女も痩せた体ながらも浮き輪をうまく活用し、アルティナの暴走を利用して6位で入賞し本選出場を獲得していた。
アインザーがいやらしい目付きで入賞した女達を確認して行くと、何か見覚えのある顔が見えて来る。
年相応の駄肉はあるが、多少鍛え込まれた体には独特の妙齢の魅力が詰まっているビキニ型の水着を着た女、何より真紅に輝く纏め上げた髪が特徴的であった。
「父上ー、私頑張りましたー!」
「ぶっふぉおおおおおおおお!!」
アインザーに向かって無邪気な笑顔で手を振る女は、アインザーの娘でメイド長のヒルディであった。休みだと言うのに朝から見掛けなかったヒルディに疑問を持っていたアインザーだが、まさか予選に参加しているとは思わなかった。
その顔に気付いた瞬間にアインザーが思いっ切り噴き出すと、一気に滾っていた血潮が下がって行く。
「お、お主……な、なぜここに居る……」
「なぜって、父上に元気な娘の姿を見せるのは普通でしょうに」
「ば、馬鹿者!アラフォーになった者が、肌を見せるなど言語道断じゃろう!」
「いいんです!父上にさえ見て貰えればいいんです!」
父のアインザーに元気な姿を見せたかったヒルディが黙って予選に参加していたのだ。もちろん、護衛のシャイラとパフィは気付いていた。だが、本人がやる気になっている以上、止めようが無かったし、アインザーに報告する義務も無かった。
「ぐぬぬぬ……娘の裸を人に見せるのは、父としては許せぬ……だが中止にしようものなら余の野望が……」
パフィの予言通りアインザーに罰が当たる。中止にしたいけど中止に出来ない、自分の欲望と親心が天秤に掛かっている状態だ。
1人で勝手に苦悩するアインザーを無視して横からシャイラが現れると、事前に打ち合わせした通りに上位7名を絞り込み始める。
「皆様、予選お疲れ様でした。ここに居る上位7名が本選出場となります!」
「ひ、酷い目に遭いましたけど、これで目的は達成ですわ……」
「ゴンベエ様も素敵でしたけど……これで私の良き未来の旦那様にアピールできる!」
「はあはあ……くっそ、冒険者の意地で何とか入ったか……」
「ふうふう……こ、これで私にも……大金ゲットのチャンスが……」
「父上見てて下さいね!私だって若い子に負けませんから!」
「やったー!やったー!これで賞金が貰える!」
「こ、これで良かったのでしょうか……」
シャイラから本選出場を告げられると、入賞した女達がそれぞれの反応を見せていた。
入賞した女達は以下の様な者達である。
1位はテイルボット領の地区領主の娘、スーリエ、青い髪を縦巻きロールに金色に輝くホルターネックのビキニ型の水着を着用。
2位は北方連合国のジョストン領、商業都市ウキレアの商人の娘、ジェニー、桃色の髪をポニーテールで纏め、ワンピース型の紺色のキーホールの水着を着用。
3位はスーテイン領で冒険者として活躍する、ニアータ、茶色の髪でショートヘア、額にトレードマークである橙色のバンダナに、青いビキニ型のボーイレッグの水着を着用。
4位はロンフォード領の湖の畔の宿屋の看板娘、ナーティ、緑色の長いジャギーヘアが特徴、黒のハイネックのビキニ型の水着を着用。
5位はテイルボット領、皇帝の別荘メイド長、ヒルディ、参加者の中で一番上の年齢、真紅の長い髪を後ろに三つ編みに纏め、白地に黒の縦縞が入った眼帯ビキニを着用。
6位はテイルボット領、海上都市ハヌイアムの一般人、シャーミ、紫色のボサボサ頭のショートヘア、年齢は参加者でも一番低い16歳で、赤や黄、青、緑などの端切れの布を縫い合わせたセパレート型のタンキニ水着を着用。
7位は帝国直轄領、城塞都市アウロポリスの貴族の娘、ルイシュ、長い銀髪を折り返しのポニーテールで纏め、銀色のフレアビキニの水着を着用。
これにコスモとジョルセアが加わり、総勢9名での争いとなる予定……であった。
「では、本選は昼過ぎから開始しますので、その間に各々方、準備をお願い致します!」
シャイラが入賞した女達に本選の時間を通達すると、そのまま人混みへと去って行く。本選に出場する女達は個別に用意されていた会場横にある控室の天幕へと入って準備を始める。
ちなみにアインザーはまだ浜辺で苦悩したままであった。
こうして予選が終わると、本選用の会場には続々と人が集まって来る。
舞台の前の最前席には各領地の権力者が座り、その横には援軍でやって来た、やつれた帝国の騎士の男達が、武具を外し少年の様に顔を輝かせ正座で待機をしていた。
アインザーは約束通り援軍でやって来た者に最前席を用意して上げていた。変な所には義理堅い上皇様である。
その舞台を遠くから見つめる高身長の女が居た。
帝国軍の実力者にしか許されない、特別色である黒に炎の赤模様が施された鎧に身を包み、金色の長い髪に腰には銀の剣を携えている。年齢は20代後半、細い眉に釣り上がった目付きが、より一層美しい顔を映えさせていた。
「全く下らない……水着姿の女達を見て何が楽しいのだ?ローレス様の水着姿だったらもっと最高ではないか!……はあはあブーメランパンツ姿のローレス様最高!」
帝国軍司令官のローレスの水着姿を想像し、頬を赤く染め、脳内で反芻している危険な女はローレスの副官のシンディである。
ルイシュから軍の全権を預かった後、海上都市ハヌイアムの警護、そしてアインザーからの要望で水着大会の会場警護を行っていた。
シンディは自分の上官であるローレス以外の男には興味が無く、海上都市ハヌイアムまでの進軍中は規律違反をした男達に寝ずの番をさせていた。騎士の男達がやつれていたのはそれが理由であった。
ローレスのブーメランパンツ姿を想像し口から涎を流し、やばい顔になっているシンディを通行人が余所余所しく避けて行く。
そんな危険な女に、偶然に近くを通り掛かったシャイラが話し掛ける。
「久しぶりですねシンディ、相変わらずローレス推しですか」
「うぴゃ!こ、これはシャイラ先生」
シャイラに気付くと口から流れていた唾液を腕で拭い、シンディが直立不動になって挨拶を返す。
シンディに剣術を教えたのはシャイラで、その厳しい鍛錬に耐えた数少ない弟子の1人である。シンディもそのお陰で憧れで大好きなローレスの副官になれた事で、シャイラにだけは特別に敬意を示していた。
「で、でも先生が何故ここに?」
「上皇様からバケーションを頂いたのですよ」
「バ、バケーション……そうでありますか……」
「昼過ぎから水着大会の本選が始まりますが、上皇様も陰ながら見ています。会場の警護はよろしく頼みますよ」
「そ、それはもちろん!ローレス将軍直下の精鋭たる我々にお任せ下さい!」
念を押す様にシャイラがシンディに警護を任せると、再び人混みの中へと消えて行く。
だがシンディはシャイラの顔を見て何か違和感を感じていた。
(先生の顔が昔に比べて楽しそうだったな……前は絶対にあんな顔をする様な人じゃなかったのに……)
シンディの思った通り、シャイラはコスモ達と過ごす中で心境の変化が起こっていた。以前は職務を全うするだけの愚直な武人であったが、シンディの目には優しい姉と言った感じに見えていた。
会場では舞台の前に実況席が用意され、そこに領主のレイグと上皇アインザーが隣り合って座っていた。その横には進行役としてアウロポリスから呼ばれたカリードと言う男が鎮座していた。
歳は中年で赤い髪をぴっちりと髪を後ろに流したオールバックに、斜めに釣り上がった太い眉に、威圧感のある強い目付きの上から丸眼鏡を掛け、締まった顎に年相応のほうれい線、黒の法服に薄手の灰色の長ズボン、黒の革靴を履いている。
このカリードの本職は裁判官で、城塞都市アウロポリスでは公正な判決を下す事で有名な男である。
バンディカ帝国の法の番人とも呼ばれ、今回はゴンベエの処罰に対する手続きを行う為に、アインザーによって呼び出されていた。
しかも弁の腕もかなりのもので、誰にでも理解できる言葉選びには定評があった。その腕を買われて水着大会の進行役をアインザーに任されていた。
水着姿のアインザーが孫を装い、カリードに労いの言葉を掛ける。
「うむ、遠路はるばる良く来てくれたカリード、上皇様も喜んでおられるぞ」
「上皇様の直接の願いとあっては、帝国臣民なら断れませんからね。しかし、まさか水着大会の進行役も任されるとは……これは大任ですね」
「よろしくねーカリカリくーん☆」
「……レイグ卿は、少し反省が足りないようですね」
「きっびしーご指摘あざーっす☆」
海上都市ハヌイアムで起こった海賊との戦いの内容を、カリードは報告書から精査していた。つまり領主レイグの初動に問題がある事は把握していた。
その指摘に対してレイグがチャラ男のノリで返すが、カリードは気にする事無く淡々と出場者のプロフィールの記載された書類に目を通し、自分の成すべき事だけに集中していた。
こうして役者が揃った所で時間も経ち、水着大会の本選開催の時間となって行く。
準備を整えた出場者が舞台裏に並び、係員の者から準備が出来たと報告を受けたカリードが、音を集める風魔法の応用で造られた棒状の集音器を握り、開始の挨拶を行う。
「皆様、大変お待たせしました。これから第17回水着大会を開催致します」
「「「わああああああああああ!!!」」」
会場中に設置された拡声器からカリードの声が広がって行くと観客達が一斉に歓声を上がる。
今年はダルダロス海賊団の襲撃もあって水着大会の開催も危ぶまれたが、奇跡の逆転劇と上皇アインザーの尽力によって開催にこぎつけると、海上都市ハヌイアムは特別な盛り上がりを見せていた。
その熱気もあってしばらくの間、歓声が止む事は無く静かになるまで進行役のカリードが間を置いていた。少しずつ歓声が静かになり落ち着いた所で、カリードが参加者の入場と説明に入って行く。
「これから参加者10名を予選の順位の低い順から紹介していきますので、皆様、暖かい拍手でお迎え下さい!」
静まり返った会場にカリードの言葉が響き渡る。
カリードの言う通りに出場者の姿が見えたらすぐに拍手が出来る様に観客達が両手を上げ待機する。
「おっと1人目から大物ですね、帝国で大臣を務めるプレイトル卿の愛娘、ルイシュ嬢の登場です!」
銀髪の長い髪を大きく横へと流し、銀色のフレアビキニを着たルイシュが舞台裏の階段を昇り登場する。
表情は一番手という事もあってぎこちなく、そして恥ずかしいのか頬を紅潮させていた。
眼前に広がる群衆から拍手で迎えられ、緊張はしているが貴族としての誇りもあって胸を張った堂々とした佇まいである。
そのまま事前に指示された定位置まで移動すると、観客席に体を向けたまま待機する。
「2人目は、ハヌイアムの町から一般の代表として参加、シャーミ嬢です!」
シャーミが元気良く階段から駆け上がると、群衆に手を軽く振って、とことこと歩いてルイシュの横へと並ぶ。本人は目的であった賞金が貰える事が確定しているので緊張感は無く自然体であった。
ボサボサだった紫色の髪は綺麗に梳かれ一般の町娘と言った風貌になっている。だが相変わらず水着は継ぎ接ぎのタンキニ水着である。
「3人目は、なんと海上都市ハヌイアムにある皇帝の別荘の管理を任されているメイド長のヒルディ嬢です!参加者の中では一番の年長者です!」
両手を振りながら笑顔のヒルディが登場すると、実況席に居るアインザーに向けて投げキッスを送る。アインザーが渋い顔をして手を振り返すが心境は複雑である。
年齢が40歳を超えたとは思えない仕草で、会場が沸くとシャーミの横へと立つ。
「4人目はロンフォード領の湖の畔で宿屋をしている看板娘、ナーティ嬢です!」
おどおどした態度でナーティが舞台へと上がって行くと、顔を髪で隠す様にそそくさとヒルディへの隣に並ぶ。隣に並ぶとナーティの背の高さが際立っていた。本人もそれを気にしているのか足を微妙に屈め小さく見せようと必死になっている。
「5人目はスーテイン領で山賊狩りで生計を立てている現役の冒険者、ニアータ嬢です!」
階段を使わず、跳躍だけで舞台へと上がると拍手を送る観客に向けて両手を上げ堂々と応えている。さすがに切った張ったの世界で生計を立てていただけあって、度胸は参加者の中でも突出していた。
そのまま笑顔で手を振りながらナーティへの隣に立つ。
「6人目はこの大会に参加する為に北方連合国のジョストン領からやって来た、商業都市ウキレアの商会令嬢、ジェニー嬢です!」
ゆっくりとジェニーが舞台裏の階段を昇ると、笑顔で片手を上げて声援に答える。今まで出て来た出場者の中では、抜群にバランスの取れたスタイルである。その姿に観客からはどよめきの声が聞こえて来る。
桃色の髪をポニーテールで纏め、それを揺らしながらニアータの横へ立つと、両腕を腰に当て、自信に満ちた表情で待機する。
「7人目はテイルボット領で地区領主を父に持つ貴族令嬢、スーリエ嬢です!」
舞台裏の階段を昇ると進行通りの動きをせずに、スーリエが勝手に花道へと進んで行く。両脇に居る観客に笑顔を振りまきながら、手を振って答える。その我が道を行く行動は自分に自信を持っていなければ出来ない事である。
花道の途中で引き返すと、自慢げに肩を揺らしながら歩き、曲がる時には直角にすっと曲がって行く。自分が世界の中心に居るんだと言わんばかりの動きだ。
やっとジェニーの隣に立つと、両手を上げて観客にアピールをする。
「8人目は……な、なんと大陸各地を放浪する孤高の剣士、シャルミ嬢です!特別枠の参加となります!」
8人目の紹介を行った所で観客からは戸惑う声が聞こえて来る。
コスモとジョルセアはすでに予選でその姿を認知されているので、皆知っているのだがシャルミと聞いた事の無い名が上がると何者なのかと騒ぎ始めていた。
大会主催者のアインザーもあずかり知らぬ事で、本人も確認しようと実況席から身を乗り出し舞台に注目する。
そして舞台裏の階段から上がって来たシャルミを見て観客達が拍手で迎える。
黒い長い髪をハーフアップに纏め、全身は脂肪が無い事が解る位に絞られた筋肉質な体、その上から黒と赤の斑模様のレースアップのビキニを着用していた。しかし、表情は少し固く笑顔は無いが透き通る様な白い肌が美しい美女である。
その美女を見てアインザーが驚愕していた。
「な、何をしておるのじゃ……シャイラ……」
舞台に上がったのは先程まで予選の進行役を務めていたシャイラであった。観客の中には何人か気付いて居る者もいるが、その抜群のスタイルに何も言えずにいた。
愛想は無いが鍛え上げられた体を武器に、堂々とスーリエの横へと並ぶ。もちろん舞台に立って居る女達からも注目される。先程まで自分達の出場を決めた女なのだ。
「そ、それってありかよシャイラさんよ……」
冒険者のニアータが困惑の表情でシャイラを見つめていた。さも当然と現れたら予選を勝ち抜いた女達も不満に思うのも仕方の無い事である。
だが当の本人は、シャイラって誰ですか?みたいなとぼけた顔で意に介さず舞台に佇んでいた。
カリードもアインザーの慌てぶりを見て顔見知りだと理解するが、進行上の問題で止める訳にも行かず、そのまま出場者の紹介を続ける。
「ええっと、色々とあるみたいですが、それでは、9人目の紹介に参ります。テイルボット領在住の奇跡の美女、領主レイグ様も一押し!ジョセフィーヌ嬢の入場です!」
そう呼ばれたジョルセアが舞台裏の階段を昇り、上半身が見えた所から観客から猛烈な歓声が上がる。
その歓声も一段一段と昇る度に大きく揺れる胸が見えたからだ。
観客からの反応を恥ずかしそうにジョルセアが笑顔で応えると片手を上げ手を振る。舞台に上がったジョルセアは今までの女達と比べても、全てが突出しており非の打ち所が無いパーフェクトボディである。
実況席ではレイグが鼻高々に自慢げにジョルセアを見つめ、笑顔で拍手を送っていた。
鳴り止まない歓声の中でシャイラの横へと立つと、前評判で優勝候補と呼ばれるに相応しい顔を正面に向けて堂々とする。
そしてジョルセアに送られる歓声が段々と静かになって行くと、会場中が待っていた、噂の<インペリアルオブハート>の称号を持つコスモの登場を今かと待ち構え始める。それ程にコスモの名は大陸中に広まり、観客の期待を一身に背負っていた。
もしコスモが不参加であったなら暴動が起こってもおかしくは無い、それほどの期待が会場中に集まっていた。
「最後の10人目は、上皇アインザー様より<インペリアルオブハート>の称号を授かった、ウェイリー皇帝も認める帝国の良心、元祖ビキニパラダイス、そして誰もが認める最強の【ソードアーマー】コスモ嬢の登場です!」
コスモにだけは特別に長い紹介文をカリードが読み上げると、舞台裏の階段からコスモが昇り始める。
ジョルセアと同じく、昇る度に揺れる胸に観客が釘付けになるが、ジョルセアとは変わった部分がある。着用していたワンピース型の水着からタイサイドのビキニ型の水着に着替えていたのだ。
鍛冶師ミリットの手紙に書いていた見せる用の水着である。その説明通り、コスモに肉体美に吸い付く様に密着し、女性らしさの部分をはっきりと強調する作りになっていた。だが水着の色はいつものピンク色である。
コスモも普段より肌を露出をして、ジョルセアとの勝負に真剣に臨んでいたのだ。
会場内が最高潮に盛り上がりを見せると、慌てたカリードが宥める様に注意を促す。
「皆様、静粛に!静粛に!」
注意の声が会場に流れても歓声の止む事は無かった。その中を臆する事無くコスモが手を振って声援に応えると、ジョルセアの横へと並び立つ。
舞台に上がっていた全員がコスモを、宿敵の如く見つめていた。
(やはりコスモは只者じゃない、俺も気合を入れて行かないと……)
ジョルセアが額に汗を流し、コスモの想像以上の人気振りに危機感を持つと共に全力を尽くす覚悟を決める。
実況席では上皇アインザーが口を左手で抑え、目から涙を流し喜んでいた。
「この体になってから40年……長生きしてて良かった……」
上皇アインザーの水着大会の最大の目的であった、コスモの際どい水着姿を見て素を出して感動していた。
普段どんなに頼んでも着てくれないものだから、アインザーはいつも滾れないでいたのだ。
ちなみにアインザーは見た目は少女だが、中身は煩悩に溢れた実年齢72歳の爺である。
やっと会場が落ち着きを見せ始めると、カリードが水着大会の進行を再開させる。
「以上で水着大会の参加者が全員出揃いました!それでは、これからこの10人で水着大会の審査を開始致します!」




