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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第76話 水着大会予選

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた



 水着大会当日、海上都市ハヌイアムは早朝から人で賑わっていた。その多くがテイルボット領の外から来た観光客である。町の大通りの道は人で溢れ、この日だけは商店街も早朝から営業を開始して客の対応に当たっていた。


 本来であればアセノヴグ大陸と海上都市ハヌイアムを繋ぐ【テイルボットブリッジ】は、戦いによって破壊され観光客は通行が出来ない筈だった。


 大勢の観光客の受け入れをどうするか、領主レイグを含めた重臣達が悩んでいた所、上皇アインザーの鶴の一声によってハヌイアムの漁師や商人に協力して貰う事となった。


 漁船、商船を借り受けると、人を運搬する連絡船として昼夜問わずに対応していたのだ。そのお陰でハヌイアムの町を訪れる人々の足が止まる事は無かった。

 

 その甲斐もあってハヌイアムにある宿泊施設は全てが予約で埋まり、宿に宿泊出来なかった者達は浜辺近くにある無人の広場に天幕を張って過ごしていた。天幕もテイルボット領から有料で貸し出しする事で、少しでも苦しい財源を確保していた。

 金銭に余裕のある商人や他の領地の貴族は自分の船で訪れ、港で補給を終えると海辺から水着大会を観戦しようと沖で停泊して過ごしていた。


 そして早朝から観光客が多いのには理由があった。

 前日に取り決めた予選を朝から行われる事が大々的に宣伝されていたからだ。


 しかも例年とは違い領主レイグ達に選ばれた美女だけでは無く、水着を着用した女であれば身分問わず誰でも参加が出来る事で、より多くの参加者が集まっていた。

 今回は泳ぎが達者であれば本選に出場可能な上に賞金が獲得出来る事もあって、参加者の女達の目はヤル気に溢れていた。


 水着大会の開催日だけは薔薇騎士団と鋼華傭兵団は訓練を休み、皇帝の別荘で働くメイド達も休みとなっていた。


 朝食を食べ損ねた鋼華傭兵団の団長オルーガが、浜辺に設置された屋台で朝食代わりのサンドウィッチを頬張っていた。

 柄がファイアー模様の派手なシャツにボタンを止めずに羽織り、立派に割れた腹筋と締まった胸筋が見える。その下には黒のハーフパンツ、そしてビーチサンダルとラフな格好だ。ちなみに武器は会場内に持ち込み禁止なので、皇帝の別荘へと置いて来てある。


「全くどいつもこいつも浮かれちゃってよー……」


 オルーガは不機嫌そうな顔で辺りで楽しそうに過ごす観光客達を見つめ悪態を吐いていた。


 そこへセリオスが現れる。青い海の描かれたシャツを第一ボタン以外をしっかりと留め、白いハーフパンツにビーチサンダルとオルーガと同じラフな格好をしていた。

 不機嫌そうなオルーガの横で同じサンドウィッチを注文すると、出て来たサンドウィッチすぐに頬張る。味が良かったのか店員に美味しかったよと伝えると、やっとオルーガに声を掛ける。


「どうしたのオルーガ、朝から機嫌が悪そうだけど」


「……聞いてくれよ!セリオス!」


「はい、聞きましょう」


「どうもうちの団員達がな、薔薇騎士団と子達とデキてるみたいなんだ……」


「デキてるって、付き合ってるという事かな?」


「ああ!そうなんだ!!」


 オルーガの機嫌の悪い理由は、鋼華傭兵団の団員達が薔薇騎士団の女達と仲良くしている事であった。戦いの最中、薔薇騎士団と鋼華傭兵団は互いを助け合う事で自然と関係が良くなって行ったのだ。

 本来であれば団長としては良かったな!と労いの言葉を掛けるのが人情と言うものだ。


 だがオルーガは絶賛の女日照りで、団員達を気遣う余裕など無かった。その原因は町に行った時に間違って素面の薔薇騎士団の女に声を掛けてしまった事が始まりで、軽い男だと思われてしまったからだ。


 女所帯で噂が広まるのは早い、特に貴族令嬢が多い薔薇騎士団はそういう男を軽蔑する傾向にあった。


「俺だけ仲間外れにしやがってよー……酷いとは思わないか!」


「んー……オルーガも所構わず声を掛けるのが駄目だと思うよ、運が無かったと思って諦めた方がいいね」


「くっそー、コスモちゃんから好かれてるからって余裕だなセリオス!」


「はははは、それは逆だよ、僕が惚れてるんだ」


「もういい!俺だってな、幾度となく修羅場を切り抜けたんだ!やる時はやる男なんだ!見てろよ!」


 不貞腐れたオルーガが会場内の人込みの中へと消えて行く。それをセリオスが見送ると少し心配な顔になって行く。もちろんオルーガの事では無くコスモの事についてだ。


(コスモ、あれだけ水着大会に出る気が無かったのに、なんで急に出る気になったんだろう……)


 渦中の人物である事を知らないセリオスが青空を眺め、コスモが水着大会へ参加する事を不思議に思っていた。


 一方、予選会場では昨日集まった以上に女達が集まっていた。

 下は子供、上は老婆まで年齢は幅広くその殆どは記念参加の様な和やかな雰囲気だ。だが残りの年頃の女達は一味違う、体中から殺気を放ち、他の女を蹴落としてでも賞金を奪い取ると言う殺伐とした雰囲気だ。


 その中で一際目立つスタイルに、ワンピース型の胸元が大きく開いたピンク色が特徴的な水着を着たコスモが現れる。


 紫色の長い髪を頭頂部後ろで綺麗にまとめ上げ、長い手足に割れた腹筋くびれた腰に発達した臀部にしまった太腿と脹脛。大きな胸にはピンクの水着でぴったりと覆われ、参加者の中で只者では無いオーラを醸し出していた。


「うわ……こんなに集まったのか、これに勝つのも楽じゃねえぞ……」


 集まった女達を高い目線から見下ろす様に眺める。誰も着ていないピンク色の水着が目立っていたのか、見物人からはざわつく声が聞こえて来る。


 すると遠くから金髪の長い髪を横へと纏め、コスモに勝るとも劣らない身長の持ち主がコスモへと迫って来る。

 金髪の女は黄色のビキニ型の水着に腰に花柄のパレオを巻き付けコスモの目の前まで来るのだが、恥ずかしいのか布で胸元を隠していた。


 目の前まで来ると端正な顔立ちが良く分かる。きりっとした顔に意志の強そうな目、これから大きな戦いに挑む様な表情であったが、頬が紅潮したままだ。


「よ、良く来たなコスモ、俺は嬉しいぞ」


「えーと……どなたでしたっけ?」


「ジョ、ジョルセアだ!い、今はジョセフィーヌだが……」


「えっ、ジョルセアなのか?」


 なんと金髪の女はジョルセアであった。その変貌振りはコスモが気付かない程である。

 しかも名を偽名……では無いが偽名としてジョセフィーヌと名乗っていた。提督となったジョルセアで名前を通すと色々不都合があるからだろう。元々短かった髪もウィッグを取り付ける事によって身元がバレない様に誤魔化していた。


「そ、そんな事よりコスモ、お前恥ずかしくないのか!その派手なピンクの水着!」


「いやまあ、普段からこんな格好をしてますので……」


 恥ずかしさで顔を赤くするジョルセアとは反対に、達観した表情でコスモが言葉を返す。24時間、恥ずかしいピンクのビキニアーマーを着ていれば水着なんか普段着と同じである。


「く、くそ、俺だって負けられない!」


 平然とするコスモに対抗心を燃やし、胸を隠していた布を投げ飛ばすと大きな胸が現れる。その姿に見物人からおおー!という大きなどよめく声が聞こえる。

 コスモとジョルセア、2人が向かい合って並ぶと2人だけの大陸一の美女決定戦の様に見えて来る。


 実際、周りに居たヤル気に満ちた女達も、余りのレベルの差に涙を流し震えている者が居る位だ。それ程までに戦力差がある絶望的な状況を見かねたシャイラが2人に声を掛ける。


「コスモ殿、ジョセフィーヌ、貴女達2人は予選に参加する必要はありません」


「そ、それは一体?」


「そ、そうだ!どういう意味なんだ!」


 シャイラの申し出に納得のいかないコスモとジョルセアが食って掛かるが、その言葉には理由があった。


「貴女達2人が居るだけで、折角ヤル気のある者達の心をへし折るからです。特にコスモ殿の泳ぐ姿を他の参加者に見せれば、完全に全員の心を砕いてしまいますから」


「う、うーん……確かに……コスモの泳ぎ方は異常だ……」


「な、なんで納得してるんだジョルセア……俺の泳ぎ方は普通だろ!」


 コスモは今まで自分の泳ぐ姿を客観視出来ていなかった。海生生物以上の泳ぎを披露すれば、泳ぎに自信のある者の自尊心が粉々になり、無気力な大会になる恐れがあった。

 その事をシャイラとジョルセアが知っていたのが唯一の救いである。


「それに2人のおし……勇姿を上皇様が間近で見たいと仰せですので、本選へは自動的に出場となります」


「今、絶対お尻って言おうとしたよな……」


「恩義ある上皇様がそう仰るなら、俺は承知しますシャイラ殿」


「……代わりと言っては何ですが、参加者の助けになって下さい。中には体力以上に無理をする者や実力行使で他者を蹴落としに掛かる者も想定されます。そうなれば頼りになるのはコスモ殿、ジョセフィーヌ、貴女達です」


 シャイラが表情を変えずコスモとジョルセアに役割りを与える。そう思ったのもシャイラにはすでに、参加者の中に本気の殺気を持つ者の気配を感じ取っていた。金銭が懸かると人が変わる者も居る、その事を想定していた。


 それにコスモとジョルセアの本選出場に文句を付ける者はこの場には居ない。むしろ他の参加者にとって予選で2人が居なければ本選へ出れる可能性が上がるのだ。


「そういう事なら喜んで引く受けるぜ、シャイラ殿」


「俺もコスモに同じだ!」


「助かります、では私はこれから予選の説明を行いますので、参加者のおもりは任せましたよ」


 与えられた役目を快く2人が受けると、安心した表情でシャイラが砂浜に用意された檀上へと登って行く。

 壇上の前にはすでに参加者の女達で溢れていた。全員がシャイラに注目すると、ざわついていた声が一旦収まって行く。


「それでは進行役のこの私、シャイラがこれから行う予選について説明を致します!」


 シャイラから予選の泳力レースの説明が始まると、集まった女達が真剣な表情で注目する。


「制限時間は2時間!この砂浜から見えるあの小さな小島まで泳いで、そこに居る係員から到達した証を受取りこの砂浜に戻る。それだけですが、途中でコースから逸脱した者、武器や船を使用した者は失格となります」


 明快なルールに、注目していた女達がそんな簡単な事で良いんだ、という表情を浮かべていた。

 砂浜から小さな島まで大人の足で500歩程、それを1往復すれば良いのだ。体力のある者であれば、1時間も掛からず泳ぎ切ってしまう距離だ。

 そして安全を期すために、コース沿いの沖には海賊の襲撃に備えた、ボルボが指揮する海上騎士団が乗る小型船と、コース近くには脱落者を救助できる様にゴンベエ水軍が2人1組で小型船に乗り備えていた。


 ちなみにこれはアインザーによるゴンベエ水軍の処罰も兼ねている。補助に回っているゴンベエ水軍の男達もこの処罰に大いに困惑していた。


(これが処罰(みずぎたいかい)ってこの帝国(くに)、絶対おかしいだろ……)


 東の国と比べて余りにも温い処罰に、上げた後に落とすのではと恐怖していた。だが、もしこれで許されるのであれば幸運だとも考えていた。


 一見、安全で簡単に見えるこの泳力レースだが、そう簡単に行かない様に上皇アインザーがある者達を陽動として仕込んでいた。


「それでは予選の説明を終わります。3分後に開始の鐘を鳴らしますので各人、準備をお願いします」


 シャイラが説明を終えると静かに檀上を下りて行く。

 壇上前に集まった女達が、準備体操を始め泳ぎに備えて行く中でシャイラに食い掛かる様に詰めて行く1人の女が居た。昨日の受付会場に居た男勝りな女冒険者である。


「なあ、シャイラさんよ、あれは有りなのか?」


「あれ?とは……」


 女冒険者が指差す方向を見ると、つるっとした頭に屈強な筋肉の鎧を身に纏ったブーメランパンツ姿の2人の男に、騎馬の様に足を抱えられる貴族の女が居た。

 貴族の女がシャイラ達の視線に気付くと大声で高笑いする。


「おーほっほっほっほ!この2人には泳ぎの補助に付いて貰ってるだけですわ!ルール違反じゃありませんことよ!」


「んな訳ねーだろ!このくそ貴族が!そもそも男が参加してんのが問題だっつてんだよ!」


「……いえ、認めましょう」


「えっ?えーーーーーーっ!!」


 シャイラの言葉に女冒険者が驚愕の表情を浮かべていた。

 昨日の予選を告知した後に、アインザーとシャイラの間で命の取り合いにならないのであれば、ある程度の手段を許容する方針を決めていた。


 泳ぎの早い者を決める大会では無くあくまで水着による大会なのだ。それに制約が多すぎると、それこそ貴族や豪商の娘達が金に物を言わせて、身分の低い者達が参加出来ない様にするのは明らかであった。


 これも身分を問わずに平等に機会を与える為の弊害と言って良いだろう。


 すぐ近くに居た豪商の娘も貴族の女の方法を見て、同じように屈強なモヒカン頭の男達に騎馬をさせていた。

こうして予選が始まる前からすでに女達の間では勝負が始まっていた。


 多くの者は賞金を狙っているが、自分の経歴に箔を付けたい者や好きな男を振り向かせたい者など、れっきとした目的を持つ者も多い。

 そんな闘志を燃やす女達の後ろでは、記念参加の女達がほんわかとしていた。その中に余った布で自作した水着を着用して、同じく自作の浮き輪を握った貧困の少女が居た。


 そしてあっという間に開始の時間となり、砂浜に開始を知らせる鐘の音が響き渡る。


カーン!カーン!カーン!……ドドドドドドドドッ!!


「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」


 予選レース開始の鐘の鳴る音と同時に辺りに地響きとヤル気の参加者の雄叫びが木霊する。

 一斉に砂浜から海へと入って行くと、沖にある小さな島を目指して女達が泳いで行く。


 先頭を泳ぐのは騎馬を組んだ貴族の女と豪商の女のツートップ、その後ろに男勝りな冒険者の女と野人の様な巨躯の女、その後ろにはヤル気に満ちた女達の集団となっている。

 さらに後方ではヤル気の女達の邪魔にならない様に、記念参加者達がゆっくりと泳ぎ始めていた。


 先頭集団が砂浜から小さな島の中間地点の海上に達すると、早速手段を選ばない者の妨害工作が始まっていた。


「な、何か体が痺れて……」


「ク、クラゲの毒?……でもクラゲは居ない……くっ、足が……」


(馬鹿な奴らめ、私の【サンダーの書】で痺れているとも知らずに……高貴なマジック職である私が本選に出るのに相応しい事を教えてやる)


 先頭集団にいたワカメの様な緑の長い髪の女が魔法書【サンダーの書】を使い、海に微弱な電流を流していた。クラゲに刺された様な衝撃に、他の参加者が戸惑っている所を一気に抜き去ろうと言う魂胆だ。


 しかし、その緑髪の女の肩を掴む者が現れる。


「貴女ですね、確か、武器の使用は禁止されていた筈です……さあ、手に持っている【サンダーの書】を出しなさい」


(な、なんで私だって分かったんだ!)


 緑髪の女が振り返ると銀髪の長い髪を折り返す様に纏め、真面目な表情のルイシュの姿があった。

 帝国司令官ローレスの副官シンディに指揮権を譲った後にアウロポリスへ帰る予定だったのだが、上皇アインザーによって皇子ユリーズに良い所を見せたくは無いか?と水着大会に誘われていたのだ。


 好意を抱くユリーズに少しでも振り向いて貰いたいという乙女心の隙を突いたアインザーらしい常套句である。それにルイシュが乗ってしまった形だ。


 そしてルイシュはサンダー系を最も得意とする家系であり、放たれた【サンダーの書】の【魔力】を追って緑髪の女を特定していた。もちろんサンダー自体の攻撃はルイシュの【魔防】で防がれている。


「しょ、証拠はあるんですか!」(すでに足が付かない程の深さがあるんだ、ここに【サンダーの書】を捨てれば証拠は見つからない!)


 緑髪の女の言う通り、海の深さは海面からでは底が見えない程に深くなっていた。そこで手に握っていた【サンダーの書】をそっと離して海へと沈めようとしていた。


「ひゃっ!な、何!」


 すると緑髪の女の体が海面から浮き上がって行く。良く見ると浮き上がっているのでは無く、海面から突き出た左腕でお尻を支えられて持ち上がっていた。

 左腕の持ち主が海面からぬっと上半身を表すと紫色の髪にピンク色の水着が見えて来る。参加者達を浜辺で見守っていたコスモである。先頭集団に違和感を感じると、ものの数秒で先頭集団へと追い付き首謀者を捕まえたのだ。


「てめえ、武器の使用は失格と言った筈だぜ!」


「ひっ、ひい!」


 コスモの右手には緑髪の女が海中へと捨てた【サンダーの書】が握られていた。

 怒気を放つコスモに恐れをなした緑髪の女が今にも泣きそうな顔をしている。そんな事には構わず、緑髪の女を支えていた左腕を力一杯、大きく後ろへ引くと、コースの外へと向かって放り投げる。


「うひゃああああああああ!!」


 緑髪の女が大きな悲鳴を上げながら、放物線を描きコース外の海面へと飛んで行く。そして海面へと落ちた後すぐにゴンベエ水軍の小型船によって救助される。


 その一部始終を見ていた先頭集団が呆然としていた。その集団に投げ終えたコスモが振り返ると怒りの籠った目付きで警告をする。


「いいか!武器を使ったりしたら俺がすぐにコース外にぶん投げるからな!真面目にやれよ!」


「「「ひゃ、ひゃい!!」」」


 実際コスモの脅し文句通りに実行されたのだ。コスモの本気を女達が感じ取ると、一部の女が手に持っていた鋏や小型ナイフを海中に捨て真面目に泳ぎ始める。

 コスモは一部の女が武器を持っていた事に気付いていたが、たまたま先に仕掛けた緑髪の女が見せしめとなっていた。


 真面目に泳ぎ始める集団をコスモが見送るとルイシュが居る事に気が付く。


「え?ルイシュ殿がなぜここに?」


「そ、それは……上皇様のお孫様に誘われて……」


「あの爺……ルイシュ殿まで巻き込むなんて!」


 犠牲になるのは自分だけで良いと考えていたコスモがさらに怒りを滲ませていた。真面目なルイシュを騙す様に参加させたアインザーを許せなかった。

 だがルイシュは恥ずかしそうにしながらも、参加したのは自分の意志である事を告げる。


「コ、コスモ殿、違うんです。私も……いつまでも待つだけじゃあ駄目だって気付いたんです。ユリーズ殿下は、待つだけの女には振り向かないんです!前に進む女だって証明したくて私の意志で参加したんです」


「……そ、そうでしたか」


 ルイシュの真剣な顔を見ればその言葉は嘘では無く、相当な覚悟でこの大会に臨んでいる事が解る。


「私では貴女に勝てない、ですが、ここで帝国貴族の意地を見せなくてはならないのです!……コスモ殿、本選で再び会いましょう」


 そう言ってコスモを一瞥すると、ルイシュが小さな島へと泳ぎ去って行く。

 たかが水着大会と考えていたコスモの心にルイシュの言葉が刺さる。その水着大会の参加者、1人1人が並々ならぬ想いを胸に抱いて臨んでいる事が解ったからだ。


 妨害行為のあったさらに後方では記念参加者達がゆっくりと泳いでいるのだが、コースの中間地点で老婆や子供達に疲れが見え始めていた。プールと違い海には波や潮の流れがある、それに逆らいながら泳ぎ続けるのは困難を極めるのだ。


 疲労が見える記念参加者の側で並行して泳ぐジョルセアの姿があった。


「いいか、疲れた者は無理せず、小型船に乗るんだ」


「ふうふう……」


「ほら、お婆ちゃん、俺の腕に掴まって」


 泳ぎ疲れた老婆をゴンベエ水軍の小型船へと誘導し乗せて行く。ジョルセアは主に後方に居る参加者達の補助に回っていた。海で育った事もあって一番危険なのは、体力の無い者達だと理解していた。


 次々と棄権する者を小型船へと乗せて行くジョルセアが、浮き輪を使って地道に泳ぐ少女に気付く。速度は遅いし浮き輪という見栄えの悪さもあって余計に目立っていた。


(ああいう、なりふり構わない子程、本選に行くのかもしれないな……)


 いつの間にか後方集団の先に貧困の少女が立っていた。先頭集団とはかなり引き離されてはいるが、その安定した地道な泳ぎにジョルセアも安心して見守っていた。


 予選を見守る浜辺や沖に停泊している船からは観客の歓声が響いていた。その声が折り返し地点の小さな島にも届き、証を手渡す役目を引き受けた2人の男が今か今かと待ち受けていた。


 1人は顔に大きな十字傷、全身が大小の切り傷跡で覆われ、高身長で筋肉質、薄紫の短髪が良く似合う男で、もう1人は細見ながらも締まった体付きに、黒い長い髪を後ろに纏め、憂う様な顔の男。


 ゴンベエ水軍の頭領ゴンベエと【法力僧】のウジハルであった。


「なあウジハル……これって何の罰なんだ……」


「私が思うに……女性達に花を渡す事が役目かと……」


「ちっげえよ!何で俺達がこんな事しなくちゃなんねえんだ!」


「……だからそれが罰なのですよゴンベエ」


 ゴンベエに与えられた処罰は、この小さな島で辿り着いた水着の女達にハヌイアムにしか咲かない花、ハイビスカを手渡す事であった。2人の後ろには大量のハイビスカを敷き詰めた籠があった。

 その籠の側で2人の守役を任されたワンピース型の赤い水着姿のアルティナが居た。


「ゴンベエ、これも立派な罰だ、しっかりと遂行する様にな!」


「それは解るんだ姫さんよ……だけど、なんで褌だけで対応しなきゃなんねえんだ!」


「そ、それは……その……今のお前達の格好が……この国では助平過ぎるからだ……」


「何言ってんだ姫さん?」


 なぜかゴンベエとウジハルは褌姿で待機する様にアインザーから命令を受けていた。


 東の国では男子の下着と言えば白い褌が当たり前である。だがアセノヴグ大陸ではパンツ型の下着が主流である。

 文化の違いもあるが、アセノヴグ大陸の女達は白い褌を見慣れていない。そこにアインザーが目を付けたのだ。


 顔に大きな傷があるがゴンベエは意外にも男前で、魅力的な鍛え上げられた肉体と男らしい逸物、引き締まったお尻があった。それが妙に色香を放っており、側に居た顔見知りのアルティナさえも恥じらう位にその色香が強烈であった。


 さらに今日は陽射しが強い、ゴンベエとウジハルが全身から汗を噴き出すと、その男らしい香りが辺りに漂っていた。


 全ては上皇アインザーの計画通りである。ここでゴンベエ、ウジハルを配置して女達の心を試そうとしてた……のだと思う。


 しばらくして先頭を泳いでいた貴族の女と豪商の女が折り返し地点である小さな島へと到着する。

 小さな島の中央の木陰に居るゴンベエ達に気付くと急ぎ足で近寄るのだが、その姿を見ると足を止める。女達が足を止めた訳は、ゴンベエの座り込む姿とウジハルの木に背を預けて立って居る姿が、余りにも魅力的過ぎたからだ。


「おー、やっと来たか、ほらこっちに来いよ、この花を持って戻ればゴールだ」


「なっ!!」

(な、なんと破廉恥な殿方!!あ、あの様な者に近寄よったら私もへ、変態扱いですわ!)


「うっ!!」

(な、なんて男達なの……あんな格好で婦女子に笑顔を振りまくなんて犯罪よ!)


 早くこんな事を終わらせたいゴンベエが女達に気さくに笑顔で声を掛け、ハイビスカの花を差し出すがそれが逆効果であった。

 泳ぎの補助に回っている屈強な男達には慣れてはいるが、褌姿の屈強な男は初めて見るのだ。しかも見慣れない盛り上がった褌が太陽光に反射し、やけにいやらしく見えて来る。


「何を止まってるんだ?折角、大きく差が付いたのに……って……ゴクリ……」


「こ、これは……何事?……あっ、何で男が……しかも、えっちな格好……」


 後方からは次々と先頭集団の女達が到着していた。

 追い付いた男勝りの冒険者の女も野人の様な女も他の女達も、ゴンベエとウジハルの姿を見て生唾を飲み込み、近寄れないでいた。

 ハイビスカの花の香りとゴンベエ達が放つ雄臭が混じり合い、ゴンベエの周りではピンク模様の独特な空間が生み出されていた。


 一定の距離から猛獣を眺める様にこちらを観察する女達に、我慢が出来なくなったゴンベエが立ち上がって迫って行く。


「おい!何でそこで止まるんだよ!こっちに来いよ!」


「「「わわっ!」」」


 我慢出来なくなったゴンベエが迫るが、距離を保ったまま女達が下がって行く。

 その行動を呆れた顔で不思議に思っていたゴンベエの目に、海面で苦しそうにもがく女が映る。先頭集団の後方に居た為か、誰にも気付かれずに体力が尽きて海へと沈んで行く。


 その光景を見た瞬間にゴンベエがウジハルに声を掛ける。


「ウジハル!!」


「はい、分かりました!」


 ゴンベエが砂浜へと助走を付けて技能【跳躍】で空高く舞い上がると距離を取っていた女達の頭上を一気に飛び越えて行く。

 そして女が沈んだ海面へと着水すると、大きな水飛沫を上げてそのまま海に潜って行く。それに合わせてウジハルが【癒しの杖】を握り、浜辺へと駆けて行く。


 しばらくして、ゴンベエが沈んでいた女を海面へと引き上げると、女の顔を海面に出したまま浅瀬まで泳ぎ、底に足が付くと女を抱え上げる。砂浜に溺れた女を横に寝かせるが、意識は無く息をしていない。すぐにゴンベエが胸に耳を当て、心臓が動いている事を確認するとすぐに人工呼吸を始める。

 その迷いの無いゴンベエの動きに反応したのがアルティナであった。


「コ、コラ!ゴンベエ!淑女の唇を奪うとは何事だ!」


「まあまあ、アルティナ様、これは緊急事態ですので……」


 ゴンベエの接吻を見て許せなかったのかアルティナが顔を紅潮させ怒っているのを、ウジハルが苦笑いしながら宥めていた。

 溺れてから時間が経っていない事もあって、人工呼吸を受けていた女が飲み込んだ海水を口から吐き出すと、意識を取り戻す。


「……ゲホッ、ゲホッ!はあはあ……こ、ここは?」


「ふうー……なんとか間に合ったな」


 迅速な救助によって女が回復すると、ゴンベエが安堵の表情を浮かべるが、すぐに真剣な顔になって行く。


「馬鹿野郎!無理だったらすぐに周りに助けを求めろ!命は1つしかねえんだぞ!!」


「ひっ、す、すみません……」


「ったく、ほらまだ動けねえだろ、こっちで休んでろ」


 ゴンベエが涙目になる女を再び抱え上げると、木の陰に移動して下ろす。そこで入れ替わる様にウジハルがすかさず女の治療を始める。


「周りに助けを求めろですか……耳の痛い言葉ですねゴンベエ」


「くっ、うるせえよ!」


 ウジハルの嫌味にゴンベエが頬を赤くし誤魔化すと、集まっていた女達を掻き分け、面倒くさそうに自分の仕事へと戻って行く。

 ハイビスカの置いてある籠まで戻るとハイビスカの花を摘まみ、海水で濡れた髪をかき上げ、集まっていた女達へと振り返り差し出す。


「ほら、お前達もこの花を受け取ってさっさとゴールに行けよ」


 ゴンベエがハイビスカの花を差し出すが、女達の様子がどうにもおかしい。先程の救助の一部始終を眺めてから、妙に距離感が近くなっているのだ。

 しかも妙に頬を紅潮させている。


「す、素敵……見た目の格好とは違って素敵な殿方ですわ……」


「お、男らしい……こんな人がこの世に居たなんて……」


「な、なんて良い男なんだ……」


「いい……今まで……見た事無いくらい……格好いい……」


「あん?」


 女達が差し出された花を受取らずに、ゴンベエの太い腕を掴み、周りを囲う様に体を密着させて行く。

 ゴンベエの優しさと厳しさ、両面を見た事で内面の良さが分かると、褌姿のもわっとした魅力の良さも相まって、女達が魅了されて行ったのだ。


「あの、お名前を教えて頂いても?そ、それと気になる女性はいらっしゃいますか?もし居なければ私なんかいかがですか?」


「ちょっとあなた腕にくっ付き過ぎ!私がこの方の横に相応しいでしょうが!」


「お、俺はゴンベエだが……お前ら花は要らねえのか……」


「わ、私はよ!今まで男なんてのは、口だけの弱い奴ばっかりだと思ってたけどさ、あんたは違うよゴンベエ!」


「私……料理も……家事も……得意、お、お得ですよ……」


 いつの間にか水着大会の予選を行っている事を忘れ、ゴンベエに対して女達が自分を売り出し始める。その数も膨れ上がり数十人と増えていた。

 女達の態度の変貌にゴンベエが戸惑いながら対応していた。


 その光景を見ていたアルティナが泣きそうな顔で体を震わせていた。すると岩の陰に隠れていた飛竜のポチから鋼の槍を取り出すと、女達の前で槍を構えて威嚇を始める。


「貴様ら!とっとと花を受取ってゴールに行かぬか!ゴンベエは私の従者なのだ!離れろ!!」


「ひ、姫さん落ち着け!武器の持ち込みは禁止だろうが!」


「う、うるさいうるさい!こうなったら、全員ここで討ち果たしてくれる!」


「「「ぎゃーーーーーーー!!」」」


 嫉妬に狂ったアルティナが鋼の槍を振り回し、ゴンベエと女達が逃げ惑う。その光景を治療を続けながら苦笑いでウジハルが見つめていた。



ここまで読んで頂きありがとうございましたワワン!


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