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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第75話 求む!水着!

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた



 ローレスの予告通り2日後に、帝国のアウロポリスから派遣されて来た副官のシンディが率いる援軍が到着すると、代理の指揮官だったルイシュから全権を預かり、薔薇騎士団、鋼華傭兵団が行っていた町の治安維持活動の引き継ぎを速やかに行っていた。

 心なしか従軍する騎士には女が多く、男も少数が従軍しているが何かやつれていた様子であった。


 ハヌイアムの町の情勢も安定した所で領主レイグによって早速、論功行賞が行われる運びとなった。

 テイルボット領内の貴族や重臣、傷の癒えた海上騎士団、大勢のハヌイアムの町民が集まる中で第一の功が発表される。もちろん第一の功はコスモとセリオスである。


 論功行賞はテイルボット城、領主の間で行われ、そこでコスモとセリオスが感謝の書状と金一封を受取るのだが、財源が苦しいレイグが今にも泣きそうな顔で手渡して来るので、論功行賞が終わった後にレイグへとこっそりと返金した。

 すでに上皇アインザーによって、ハヌイアムの町では無償で飲食出来る褒美を受取っている。金銭を受け取ってもこの町では使い道が無いのだ。


 セリオスもコスモと同様に返金を行っていたが惜しむ様子は無く、むしろレイグの感謝の書状の方が嬉しい様子だった。


 返金を受けたレイグが感動の余り、涙と鼻水を流しながら迫って来るものだから、セリオスが笑顔で剣の鞘でレイグの頬を抑え、気持ちだけを受取っていた。

 以前に比べてセリオスのレイグに対する扱いが雑になって来たのは気のせいだろう。


 論功行賞もつつがなく終わり、それから更に数日、皇帝の別荘でコスモ達がゆっくりと過ごしていた。


 セリオスやオルーガ達、薔薇騎士団の団員達は午前中の短い訓練をこなした後は、毎日の様にハヌイアムの町や海水浴をする為に浜辺に繰り出し休暇を楽しんでいた。

 水着大会の宣伝から開催までに1カ月近く期間が必要らしく、上皇アインザーが1カ月の休暇を決めたのだ。


 上皇の決定に逆らえる者は無く、コスモ達がその恩恵に預かっている状態であった。


 そんな時、海上騎士団の提督となったジョルセアが皇帝の別荘へと訪れて来る。用件はコスモに大事な話があるという事なのでメイドがコスモの滞在する部屋へと案内する。


「ジョルセア、元気そうで何よりだ。レイグ様とは上手くやってるのか?」


「ああ、コスモとセリオスのお陰でな」


 休暇という事でピンクのビキニアーマーでは無く、レイグの妻バミーネから譲って貰った赤いワンピースを着たコスモがジョルセアを歓迎する。ジョルセアは代々提督が着用すると言う白い軍服に黒い外套を見事に着こなし、その立派な姿はどこかの国の王子と言われても違和感は無かった。


 その美しさから【麗しの提督】と呼ばれ、町の女達からは人気がある様だ。


 メイドが紅茶を運んで来るとお辞儀をして部屋から出て行く。丸い机を挟みコスモとジョルセアが椅子に座ると世間話に華が咲く。


 ジョルセアは前提督のロイバンから提督に必要な海軍の運用方法、人心掌握術、操舵技術を学んでいるらしい。それと祖父のハーバルもテイルボット城を訪れ、無事に再会出来た様だ。

 ジョルセアの義兄ダルダロスの遺言は本当であった。彼も自分を救ってくれた義父の命まで奪う事が出来なかったのだ。


 紅茶を飲みながら世間話でしばらく時間を潰すと、頃合いと見たのかジョルセアの顔付きが神妙になって本題へと入って行く。


「コスモ、この際はっきり聞いておく、セリオスについてだが」


「セリオスがどうした?」


「……セリオスとはどこまで行っている?」


「……ジョルセア?」


 唐突な質問にコスモが困惑していた。どこまで行っていると聞かれても意味が分からないのだ。だが質問しているジョルセアが真剣な眼差しで妙に頬を赤くしている。


「つまりだな、セリオスとは男女の契りを結んでいるのかと聞いている!」


「男女の契りって……お前!それはあの……ちゅっちゅしたりするあれの事を言ってるのか!」


 意味を理解したコスモも頬を赤くする。部屋に男言葉を話す女が2人、頬を赤くして佇むのは何とも言い難い雰囲気だ。

 コスモの反応を見たジョルセアがそこまで行っていない事が解ると、すっと椅子から立ち上がる。


「俺は水着大会に出る!そこで俺が優勝したらコスモ、セリオスを諦めてくれないか?」


「な、何を言ってやがる!ジョルセア!」


 突然の告白にコスモが敵意を露わにするが、ジョルセアは覚悟を決めている顔だ。


「領主の娘である俺の唇を奪ったんだ、貴族の男として責任を取って貰うのは妥当だろう!」


「あ、あれは救護活動だ!ノーカンノーカンだ!」


 ジョルセアの言い分は正当性がある、だがあくまでもあれは救護活動の一環であり、唇を奪った事にはならないとコスモは主張する。


「もちろん、それだけじゃあセリオスも納得しないだろう、だからケジメを付ける為にも水着大会で決着を付けないか?コスモ」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


 コスモは水着大会になんか出るつもりは全く無かった。どう考えても上皇アインザーの趣味に付き合うだけだからだ。しかし、その場を使ってセリオスを諦めろと迫るジョルセアを無視は出来ない。


 その狭間で葛藤していると、ジョルセアがこうしてコスモに挑んだ経緯について語り始める。


「コスモ、お前には感謝している。家族を守ってくれた事、町を救ってくれた事、だからこそ、こうして正々堂々と勝負をする事を伝えに来たのだ」


「ジョルセア……お前って奴は……どこまで行っても自分のやり方を貫くんだな……」


 仁義に篤いジョルセアの性格をコスモは思い出していた。この女は陰でコソコソ動き回るより堂々と勝負を挑む女である。それに応えなくては元男が廃る、コスモがそう考えるのは自然であった。


 それに自分自身もくよくよと悩む性格では無い。セリオスを大事に思っているのはジョルセアだけでは無い、コスモだって誰にもその気持ちでは負けていないと自負している。


「分かった、そこまでお膳立てされちゃあな、その勝負、受けて立つぜ!」


「ふっ、コスモならそう言ってくれると信じていたよ」


 伝えたい事を言い終えたジョルセアが振り返るとコスモの部屋から出て行こうとする。

 最後にコスモへと助言を与えるが、ちょっと恥ずかしそうに言葉を震わせていた。


「言っておくが、俺達に合う……その……サイズの水着は商店に置いていないぞ、俺はすでに特注で作らせてある。なるべく急ぐんだな」


「俺達に合うサイズ?」


 コスモが不思議そうな顔をして聞くが、以前のジョルセアの胸のサイズを思い出し、はっとした顔で自分の胸を見る。つまりそういう事である。


「俺は一歩も引く気は無い、覚悟して臨めよコスモ、それでは大会を楽しみにしている」


 去り際や台詞回しがどこぞの王子の様な振舞いなのだが、簡潔に要約するとセリオスの奪い合いである。

 ジョルセアが颯爽と皇帝の別荘を出て行くと、コスモが窓から静かにそれを見送る。


 そして誰も居なくなった自室でコスモが考え込む。


(ジョルセアは本気だ……なら、俺もしっかりとそれに応えてやらないとな……だがセリオスは絶対に絶対に俺のもんだかんな!)


 コスモらしい勝負に受けて立つ心と、コスモらしからぬ独占欲の強い心がコスモの中で芽生えて来る。そしてやる気に火の点いたコスモが早速行動を起こす。


 先ずは何よりも水着大会に必要な水着を手に入れる事がコスモの頭の中に浮かぶ。


 部屋を飛び出すと紅茶の片付けに来たメイドとすれ違いざまに出掛ける旨を伝え外へと走って行く。

 テイルボットブリッジからハヌイアムの港までを駆け抜けたコスモの足は馬車よりも早かった。


 早速、最寄りの商店へ入ると女の店員に一番大きいサイズの水着を用意して貰い、試着室へと入室し水着を着用しようとするのだが、


「う、嘘だろ……これで一番大きいサイズの筈だろ……」


 ジョルセアの忠告通り、商店に置いてある一番(胸のサイズが)大きい水着が入らない。正確には入るのだが、紐に縛られた餅が熱で膨らむ様にこぼれるのだ。


「す、すまないが、もっと大きいサイズは無いのか?」


「ちっ!……すみませんーお客様ー、それが当店で一番大きいサイズになりますー……ぺっ!」


(なんで舌打ちから始まって唾吐きで答えるんだ……)


 女店員の気持ちも分からなくもない。コスモ自身は気付いていないが、恋する乙女の様な顔で水着を所望すれば誰だって男の為だと勘付くものだ。その上で武器となるモノが上限突破していれば、男以外なら誰でもイラつくだろう。


 そして言い忘れていたが、ビキニアーマーを外したコスモをコスモ本人と認識する者は親しい者でも、数少ない事を付け加えておく。つまり店員はハヌイアムの町を救った英雄コスモだとは気付いていない。


 その後も水着を物色するが、他の商店にもコスモのサイズに合った水着は無かった。そして最初の店員と同様の態度を他の商店でも取られていた。結局どの商店に行ってもコスモの望む物は置いていなかった。


 げっそりとやつれた顔でコスモがフラフラとしながら皇帝の別荘へと戻ろうとしていた。


 外は日が暮れ始め、小さな子供達が家へと帰って行く。白い砂浜に設置されたベンチに疲労困憊のコスモが座り込む。波の音に虫の鳴き声、汗ばむ気温に湿度、まさに夏真っ盛りである。


(終わった……武器となるこれが、最大の敵になるとは……このコスモ一生の不覚!)


 そんな中でコスモが恨めしそうに自分の胸を見つめていた。これだけがどうしても入らないのだ。

 始まる前から決してしまった勝負に、コスモが打開策を見出せずにいた。あれ程までに激闘を繰り広げた英雄級の能力値を持つコスモでさえも、この問題は解決出来なかった。


 いっその事、裸で出てやろうか!とやけくそになる位に追い込まれていた。


 解決策が思い付かないまま、ぼんやりと暗くなって行く砂浜を眺めていると急にお腹が減り始める。あれ程商店を駆け回ったのだ、体は正直である。


「……ヒルディ様のご飯美味いんだよなあ……食べてから考えるか……」


 ヒルディの作る料理は絶品で、ハヌイアムの町に遊びに出ている薔薇騎士団、鋼華傭兵団の団員も夕飯には必ず皇帝の別荘へと戻る位だ。そしてヒルディが料理を得意になったのには理由があった。


 それはヒルディの武器適性は全てが最低評価の"D"だからである。


 だからハヌイアムでの戦いも扱い慣れたフライパンを武器として活用していたのだ。適性検査でも言っていた、武器適性があっても力量が伴わないという逆の事象と言っても良い。


 今日の献立は香辛料を効かせたスープに玉ねぎ、人参、芋、牛肉を煮込み、米と言う穀物を炊いた物にかけた料理だった事を思い出し、腹を空かせたコスモがベンチから立ち上がり皇帝の別荘へと戻って行く。


 皇帝の別荘に着くと食堂のある建屋にフラフラとしながら入って行く。

 すでに滞在している全員が夢中になって夕飯を食べていた。食堂には大人数でも一度に食事を取れる様に4人1組で座れる机と椅子が均等に並んでいる。

 それを満足気に眺めていたヒルディが、コスモに気付くと笑顔で迎え入れる。


「お帰りなさいませコスモ様、ささっ、コスモ様をお待ちだったお客様も一緒に夕飯を取っていますので、ご一緒にどうぞ」


「ヒルディ様、俺を待っていた客って?」


「あら?お話が通っていないのですね……あちらの方々です」


 ヒルディが指差す方向を見ると、全身を紫色のローブに身を包み、茶色い髪に眉の無い鋭い目付きに尖った鼻が特徴的で、全身からは黒い陽炎の様なもやが浮き出ている中年の男が居た。


 誰が見ても怪しい教団の教祖と言った風貌だ。


「フフフ……これは美味い、長年煮込んでいたかのように肉が口の中でとろけ、香辛料の風味に負けず食材の味を感じ取れる……くくく……お代わりを頂いても?」


「はい、すぐにお持ちしますね」


 ローブの男が夕食を完食して、おかわりを近くにいたメイドに頼んでいた。すでに食堂に馴染んでいるローブの男の正面に、コスモが座り込むとじっと睨み付ける。


「何か、俺に用があるって聞いたんだけど、用件はなんだ?」


 そういうとローブの男がじっとコスモの顔を見つめ、安易に返事はせずにすぐに手書きのメモ帳をローブの内ポケットから取り出すと読み始める。メモ帳には同期のフネガーから聞いたコスモの特徴と、コスモの嫌う行動が記されていた。


 そのメモ帳とコスモの顔を交互に見て何かを確認すると、不敵な笑みを浮かべ始める。


「くくく……これはこれは、〈インペリアルオブハート〉のコスモ様、初めまして、私の名はフロイマン……メデウス商会の者です……」


「げっ……メデウス商会……」


 コスモにとって不倶戴天の敵、と言っても自分の品位を落とす行為をしてない事が解り、協力関係を築いている商会だ。コスモのビキニアーマーに目を付け、男性客にビキニアーマーを着た女性がお酒と会話を提供するという至極真っ当な商売【ビキニパラダイス】の運営元でもある。


 だが、コスモは色々な意味でトラウマを持たされた店でもあって苦手意識があった。それに水着の件もあってかなり機嫌も悪かった。


「メデウス商会が一体、俺に何の用だよ、もうビキニパラダイスの件は話が付いたろ」


「コスモ様……結論を急いでは良い結果は生まれませぬ……まずは食事を取ってから、ゆるりと部屋にて……くくく……」


「い、いちいち笑うなよ……それとほっぺに米が付いてるぞ……」


「これは失礼……フフフ」


 フロイマンの顔立ち雰囲気は悪党そのものだが、仕草から温厚な人柄が伝わって来る。

 コスモの前に香辛料で煮込んだスープをかけた穀物の夕食が運ばれて来る。フロイマンという男も、おかわりで来た夕食を表情を変えずに唸りながら堪能していた。

 コスモも運ばれた夕食を美味しそうに食べるのだが、フロイマンの目的が気になり食事を楽しめないでいた。


 夕食を終えると、コスモとフロイマン、そして3人のローブを着た部下と一緒にコスモの部屋へと入って行く。部下の3人は手に持っていた荷を開き、準備を始めるとフロイマンがここに訪れた理由を説明する。


「今日、商会の者からコスモ様が水着を探しておられると聞きましてな、その件で尋ねて来たのです……」


「……俺が探している事が良く分かったな」


「何、店員の教育も兼ねて、見回っていた時に偶々です……くくく」


 恐らくコスモの我が儘ボディに嫉妬した口の悪い店員を教育していたのだろう。至る所で悪態をつかれていたので、それが責任者のフロイマンの耳へと入ったのだ。


 そんな商人の情報網にコスモが素直に驚いていた。


「それに我らも新たなサービスを考えておりましてな、商売の基本である季節に合わせたサービスの提供。その試作品の水着を地方都市カルラナに居る名工ミリット様に依頼しまして、今日、届いたのです……」


「め、名工ミリット??」


 フロイマンの口から不穏な名前が挙がる。地方都市カルラナのミリットと言えば鍛冶屋【覇者の剣】の娘で、童話で出て来る英雄ライオネルの重度の信者であり、コスモのトレードマーク、ピンクのビキニアーマーを生み出した天才(変態)でもある。


 益々コスモの中で嫌な予感が高まって来る。季節に合わせた新たなサービスに、ミリットの名、ある意味方程式の様に答えが定まっていた。


「試作を依頼した時にコスモ様の体に合う様にしましたので心配は無用、これを着るか、着ないか……コスモ様、貴女次第です」


「何もかもお見通しって訳か」


「いえ、そんな大層なものではありません……商人として人の欲するものを用意したまでです。我々が出来るのはここまで、後はお客様であるコスモ様が決める事……」


 商人としての矜持があるのか、フロイマンがコスモに提供した試作品を着用する様に強要はしなかった。それにフロイマンは元々、この試作品と同じ物を店で使用する許可を求めてコスモの所へ訪れる予定だったのだ。


 3人のフロイマンの部下が荷物から取り出した試作品、3着の水着を丸い机の上に置くと用件の済んだフロイマンと共に部屋から出て行こうとする。


「ではコスモ様、我々は試着の邪魔になりますので、これでお暇させて頂きます……」


 深く頭を下げ、コスモの部屋からすんなりとフロイマン達が出て行く。


 部屋に残された試作品の水着をしばらく見つめると、意を決したのかコスモが手に取る。外側から自分の体に合わせて見ると、製作者のミリットらしい精巧で絶妙な造りがフィット感で分かる。


 実はフロイマンは嘘を付いていた。

 コスモの体に合う試作品をミリットに依頼した訳では無かった。元々コスモの為に用意させていたのだ。


 コスモ達が休暇の為にハヌイアムを訪れた事をフロイマン達は知っていた。ダルダロス海賊団との戦いも早期に決着すると見込み、その後を計算して鍛冶師のミリットに依頼を出していたのだ。


 その先見の明は業界第1位のメデウス商会の名に偽りの無いものである。


「ったく、メデウス商会には毎度やられっぱなしだな」


 ここまでサイズが合っていると流石のコスモでも気が付く。商売の【ビキニパラダイス】の恩人であるコスモに、気を遣わせない様に自然とした形で渡したかったのだろう。


 だがこれでジョルセアとの勝負のスタート位置に立つ事が出来た。早速、試着しようとするのだが、水着の置かれた机に手紙が置いてある事に気付く。宛名はコスモへと書かれていて、文字の癖からミリットが書いたものと分かる。


「何だこりゃ?」


 名指しで書かれている手紙を何気なく開き読み始める。


『コスモへ、なんかテイルボットで大変な事になってるみたいだけど、そんなコスモへ私からのプレゼントを贈るね!』


「なんだ、なんだ、嬉しい事が書いてあるじゃねえか……」


 コスモの身を心配し、思いやってくれるミリットの文章に少しだけ嬉しくなる。だがそれはここまでであった。


『水着は全部で3種類あって1着目は泳ぐ用で、2着目は見せる用で、3着目は勝負用ね!着れば分かると思うけど私の最高傑作だから事故は無いから安心してね!後いい加減、セリオス様に良い所見せないと他の女にもっていかれちゃうよ!ではコスモの健闘を祈る!』


「よ、余計な事を……しかも勝負用って何だよ!」


 年頃のミリットの指摘は鋭かった。手紙通りの状況にコスモは置かれ、セリオスを賭けてジョルセアに勝負を挑もうとしていたからだ。

 手紙の内容にコスモが困惑しつつ、もう1つの懸念材料を確認しようとする。


 コスモが手に握っている水着はスタンダードなビキニタイプの水着である。形状から言って恐らく泳ぐ用か、見せる用だと解る。という事は机に置かれた2着の内の1着が勝負用と呼ばれるモノである。


 机を見つめるコスモの目には水着から、邪念の籠った黒い瘴気が浮かび上がっている様に見えていた。まるで呪いの宝具顔負けの現象である。


 恐る恐る勝負用だと思われる水着を手にと……摘まむと、コスモの顔が一瞬で真っ赤に染め上がる。

 それは水着とは形容し難いものであった。紐の先に申し訳程度の布があるだけで、最早、裸と言っても良い造りである。


「こ、これは駄目だ!……人として大事な物を失う……いやもうすでに失ってるんだけどさあ!!」


 普段着用しているピンクのビキニアーマーも、常人であれば絶対に装備しないモノである。ビキニの上に申し訳程度の防具が付いているだけなのだ。ついその事を思い出し、1人で突っ込みを入れるコスモであった。


 そう呟くと勝負用の水着を誰にも見つからない様に自分の荷袋へとしまい込む。

 勝負用の水着姿の自分を想像して、しばらく心拍数が上がり落ち着かないコスモであったが、深呼吸をすると残った水着の試着へと入って行く。


 この日の夜遅くまで水着の試着と、それに合った髪型などを試し、水着大会に向けて準備を進めて行った。

 ちなみにコスモの中身は元39歳のおっさんである事を忘れてはいけない。





 水着大会前日。


 ハヌイアムの町、皇帝の別荘近くの浜辺に水着大会の会場が設けられていた。町の大工が大人数で忙しそうに舞台と中央に伸びる花道を造っている。今回は協賛者に上皇アインザーが加わった事もあって、去年に比べて会場を大きくしていたのだ。


 その大きな会場を隙間なく囲う様に屋台が並び、その関係者が設備の使用確認、食材の手配など忙しそうに行っていた。屋台も大会開催中、客が会場から出ずに飲食が行える様にアインザーが指示を出して用意したものであった。


 着々と水着大会会場が出来上がって行く中で、会場近くの砂浜の上に仮設の机と仮設の豪勢な長椅子が設置されていた。その机の前には、物凄い数の女性たちが並んで居る。ぱっと数えても100人は超えていた。


 仮設の机と豪勢な長椅子は受付窓口で、長椅子にはアインザーが座り、その隣にはシャイラが後ろに手を組み直立していた。主催者のアインザーが出場者の選定役も担っていたのだ。

 しかし多くの美女に囲われているのにも関わらずアインザーは悟りを開いた様な仏頂面で、その背後には実の娘でメイド長のヒルディが対照的な笑顔で一緒に座って居た。

 ヒルディはアインザーの両脇から腕を通し人形の様に背後から膝の上に抱え上げて、アインザーの頭に顔を押し付けている状態だ。


「ふぅー父吸いは最高ですね!すぅーはぁーすぅーはぁ……」


「……ヒルディ、余は猫では無いぞ……」


「私にとっては同じ様な物です!すぅーはぁー……いい匂い」


「ええーい!頭がむず痒い!!」


 アインザーが休暇の間、ヒルディの希望していた褒美を与えた続けていた。何処へ行くにもアインザーを抱え、一時も離れる事は無かったのだ。流石に朝食、夕食時には離れるが、それ以外はほぼヒルディによってアインザーが拘束されていた。


 お陰で浜辺で戯れる水着美女をワインを片手に観察すると言うアインザーの野望は打ち砕かれ、自由はほぼ無くなっていた。

 40年以上の時の間、父のアインザーに出会えなかったヒルディは父の愛に飢えていたのだ、その反動は計り知れないものであった。


 側に居たシャイラが無表情を保ってアインザー護衛の任に就いているが、実のところ肩を震わせ笑いを堪えていた。

 そのシャイラも普段の鎧姿では無く、長い黒い髪を後ろにまとめ、半袖の白のブラウスに黒のショートパンツと言った涼しい格好だ。そして変わらず腰には魔剣ムーンバルクを携えている。


 しかし集まった参加者が想定していたよりも多く、本来予定していた薔薇騎士団の入団方式の選定が取れないでいた。アインザーが見た目を、シャイラが実力……では無く品位を選定する予定だった。


「上皇様、これでは参加者を選ぶ事は困難かと……」


「うむ……困ったものじゃな、明らかに落とさなくてはならぬ者もちらほら居るが、数が多すぎる……」


 アインザーの視線の先には、明らかに堅気では無い巨大な体躯を誇る野人の様な女も混じっている。ちなみにコスモ、ジョルセアはすでにアインザー推薦枠に入っていて、この場には居なかった。


 ヒルディに頭を吸われながら困り果てたアインザーがどう対応すれば良いか苦慮していると、シャイラが水着という言葉で良い方法を思い付く。


「水着と言えば、泳力……上皇様、泳力の順位によって本選に出る者を選定すれば良いのでは?」


「ほう、確かに水着と言えば泳力、美しい泳ぎ方が出来てこそ、大陸一に相応しい……良い案であるな」


「では早速、その様に告知致しましょう」


 多く集まった人数を絞り込む案が決まると、シャイラが集まった女達の前まで歩み出ると告知を始める。


「皆の者、想定以上の人数が集まった為、明日、今日と同じ時間に本選の出場枠を懸けて泳ぎを披露して貰う!良いな!」


 告知を聞いた女達がざわつき始める。中には選定される準備を整え化粧を施し水着の姿の者も居る。美貌と体に自信はある者は多いが、泳ぎとなると話が変わって行く。その事で当然、反発する者も現れる。


「困りますわ!私、今日の為にエステに通って体を磨き上げましたのよ!泳ぐなんて野蛮な事、下々の者がやる事ですわ!」


「私だって高い化粧品を使って準備してきたんです!この水着だって高かったんですよ!それを泳ぎだけで決めるなんて納得できません!」


 主に反発しているのは、見るからに裕福そうな貴族や豪商の娘達であった。今回の水着大会で優勝を目指し、本選に出場して名を売る事で伸し上がろうと必死なのだ。

 だが全員が反発している訳ではなかった。大半は平民の者、冒険者の者、体力に自信のある者、そして貧困の者であり、彼女達にとって本選出場が出来る僅かな希望なのだ。


「そんなに磨き上げた体や塗りたくった顔が大事ならよ、店にでも飾っておけば良いんじゃないの?私は賛成だね!」


「わ、私は……この顔とこの体だから……選ばれる事は無い、だ、だけど泳ぎだけなら自信……ある、私も文句は無い……」


 冒険者の女が文句を言う女達にわざとらしく聞こえる様に言い放つと、その横では野人の様な巨躯の女が自信の無さそうな顔で、シャイラの告知した案に賛成をしていた。

 

「まあなんて下品な言葉遣い、お里が知れるというものですわ……」


「ぺっ、お高く留まってんじゃねえよ、文句あんなら泳ぎで証明してみろ」


「なんですって、この野蛮な女!」


「やるってのか?面白い!」


 反対組と賛成組がはっきり分かれると、早速場外での戦いが始まろうとしていた。

 それを止める為にシャイラが一計を案じる。


「予選から上皇アインザー様が視察される予定です、上皇様は見た目の美しさだけでは無くその者の心も重要視されています。そしてこの条件も上皇様直々の提案であり、上皇様のお言葉です。無論、忠実な帝国臣民であれば文句はありませんね?」


 上皇の名を出された上で、こう言われては反発していた女達も文句は言えなくなる。仕方なくその条件を飲むと、渋々ながらお供の女達を引き連れその場を去って行く。他の女達も遅れながら同じ様に条件を受け入れると、その場を後にする。


 100人以上居た砂浜が足跡だけを残し、誰も居なくなる中、ボロを身に纏ったやせ細った小汚い少女が1人残っていた。見た目から言って貧困の者だと分かる。

 その少女がシャイラに近寄り今回の大会で出る賞金について確認を取る。


「あ、あの……本選に出場が出来たら、その、しょ、賞金は出るんですか?」


 シャイラがその少女を一瞥すると表情を変えずに視線を中腰になって合わせ真剣に答える。


「本選に出場した者には賞金が出ます。出場枠は上皇様の気分次第ではありますが、そこはお約束しますよ」


「あ、ありがとうございます!」


 答えを聞いた少女が顔を明るくするとお辞儀をして小走りに町の方へと走って行く。

 その様子を見ていたアインザーが顔を渋くしていた。


「……まだまだ帝国は裕福では無い……か……」


 元皇帝として貧困の者を見ると、どうしても自分の行っていた政に問題が無かったか考えてしまう。アインザーの顔を見てシャイラが何を考えているのかを察する。


「貧困の者が出るのは致し方ない事、ですが上皇様はその者達にも平等に機会を与えております。為政者としては理想的な事かと」


 シャイラの言葉を聞いてアインザーが口元をにやつかせる。


「……余は上皇、当たり前の事をしたまでじゃ」


「父上は立派ですよ、すぅーはぁー……」


「ま、まだ飽きぬのかお主は……」


「40年は飽きませんね!」


 娘のヒルディに頭を吸われながら、アインザーが表情を歪めていた。


 こんな締まりのない状態で水着大会が始まろうとしていた。各々が自分の目的を果たそうと、明日に向けて着々と準備を整えて行く。


 だがこの様な一大イベントは、総じて思い通りには行かないものである。

ここまで読んで頂きありがとうだワウン!


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