表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/91

第74話 新生テイルボット領

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた


 ダルダロス海賊団によるハヌイアム侵攻の野望は、偶然、休暇で訪れていたコスモ達の活躍によって打ち砕かれた。

 最後の難敵であった二頭徘徊海竜(ツーヘッドシーサーペント)も、セリオスとジョルセア、シャイラによって撃退され、ハヌイアムの町が灰燼になる事は無かった。


 戦いは終わったがハヌイアムの町では引き続き、薔薇騎士団、鋼華傭兵団、メイド部隊、それにゴンべエ水軍を加え、海賊の残党の警戒、捕縛を行っていた。


 この勝利の報告は、領主の間で指揮を執っていた上皇アインザーに伝えられ、辺りにいた関係者も歓喜に沸いていた。


 そこで略式ではあるがアインザーが感謝の気持ちを伝える為、テイルボット城に今回の戦いで主要となった者達を集め始める。領主の間には呼び掛けに応じたコスモを含め帝国の重鎮など、そうそうたる顔ぶれが集まっていた。


 全員が揃った所でアインザーが玉座に座り、相変わらず尊大な態度で足を組み、集まった者を嬉しそうに見つめていた。


「皆の者!よくぞこのテイルボット領の未曽有の危機を救ってくれた!上皇アインザーに代わって余が礼を申すぞ!」


「「「ははっ!」」」


 集まった全員がアインザーに跪いて感謝の言葉に応える。


 ちなみに少女姿のアインザーが本人と知っているのは、コスモ、シャイラ、セリオス、ヒルディの4人のみで、他の者は素性を知らない。訳あって少女の姿になった理由を説明出来ないので、今は上皇アインザーの孫であり、名代として誤魔化している状況だ。


 そんな状況でアインザーがジョルセアの方に目をやる。ジョルセアの胸には修理をした革製の胸当てが装着され、普段の男装姿へと戻っていた。


「ジョルセア、見事にダルダロスを倒し、仇を討った様じゃな」


「はい、それも上皇アインザー様の助力に采配のお陰です……」


 仇を討ったというのに浮かない顔をするジョルセアを見てアインザーが目を細める。

 続けてその横にいたレイグへと目をやる。


「レイグ、お主もダルダロスとの戦いで領主としてのケジメは着いた様じゃの?」


「はっ、はい!それはもうー☆男ならば、やらねばならぬ時がありますからー☆」


「そうよなー男としてやってしまった事は、最後まで責任を取らねばならぬからのうー!そう思わぬかジョルセア?」


「え?はっ……はい、ち、いえレイグ様は俺にとって家族の様な存在でして……出来れば側で支えられたらと……」


「そうか、そうか……ジョルセア、お主がそこまで言うならばレイグと引き離すのは酷じゃな、レイグの領主替えの件、無かった事にするよう上皇様に伝えておこう」


「ははー!あ、ありがたきしあわせ☆」


「あ、ありがとうございます上皇様!」


 レイグが顔中に汗を滲ませ笑顔を作っているのと対照的に、ジョルセアが嬉しそうな顔で、綺麗な姿勢で跪いているのが印象的である。

 この時すでにレイグとジョルセアが本当の親子である事をアインザーは知っていた。陰の者であるパフィを昨晩、レイグの自室へと忍ばせ親子である事を掌握していたのだ。


 流石のチャラ男のレイグもアインザーの強調するような言葉尻に、全てが知られている事に気付いていた。気まずそうなレイグの横からロイバンが意を決した顔で立ち上がると、アインザーに向かって上申をする。


「上皇様、2点申し上げたい事があります、よろしいでしょうか?」


「構わぬ、申して見よ」


「ははっ、私は海上騎士団を長年率いて参りましたが、この通り高齢でして、この戦いを機会に海上騎士団の提督を引退しようかと考えております……」


「ふむ……貴様程の男が引退か、惜しいのう……これで帝国に名を馳せた海上騎士団の弱体化も避けれまい……」


 残念そうな口振りでアインザーが惜しんでいると、ロイバンが跪くジョルセアの腕を掴み立たせる。


「そこで次の海上騎士団の提督にはジョルセアを推薦致します!」


「ロ、ロイバン提督?」


「ロイバン!?☆」


 突然の申し出にジョルセアと、レイグが驚きの表情でロイバンを見つめる。


 ロイバンはジョルセアがレイグの実の娘だという事を知っている。その領主のレイグと元海賊のジョルセアが頻繁に接触すると、その関係性を疑う者が出るのではないかと危惧していた。


 貴族の世界では虎視眈々と領主の座を狙う貴族も多い、その様な者に万が一、ジョルセアがレイグの隠し子だと知られると、爵位の降格や剥奪は免れないのだ。


 それに今の妻であるバミーネと娘のアルティナは竜騎士大国バルドニア王国の王族の血筋でもある。


 今のテイルボット家の継承権はアルティナにあって、バルドニア王国としては黙っていても帝国と強固な繋がりを持つ事となる。もしジョルセアの登場によってその継承権が揺らぐとなると、野心家で有名なバルドニア王国、国王カイネルが介入してくるのは火を見るよりも明らかであった。


 そこでロイバンは考えた、ジョルセアの身分は隠しつつも、レイグの側で家族の様に居させてやりたい。となると、レイグと家族同然の付き合いも出来て、軍事面にも明るいバミーネにも気に入られる立場、それが海上騎士団の提督という立場であった。


「この者、元海賊でしたが弓の扱いが達者な上に仲間からの信頼も篤く、仁義を重んじる今時の若者では珍しい御仁、これ程の適任者はおらぬかと……」


「て、提督……俺の為に……」


 笑顔でロイバンがジョルセアを推薦すると、その意図をジョルセアが感じ取っていた。もちろんアインザーも十分に承知している。ロイバンの言葉が無くてもジョルセアに海上騎士団の副官として役を与えるつもりであった。


「うむ、そこまでお主が強く推薦するならば、帝国としては言う事は無い。どうだ、ジョルセア受けるか?」


「も、もちろんです!ロイバン提督に負けない様に精進します!」


 先程の驚いていた顔は消え、また家族と一緒に居られると喜ぶ素直な笑顔をジョルセアが見せる。

 ロイバンが続けてボルボに目をやるとその肩を軽く叩く。


「新たな海上騎士団の団員として元ハーバル海賊団に加え、今回寡兵ながら助力したボルボ達も、同時に推薦致します」


「へっ!?お、俺も!?」


 不意を突かれたボルボが自分を指差すと周りを見回す。周りに居た者の視線はボルボに向けられている。それを見て、ようやく本当に自分が海上騎士団の正式な団員として推薦されたのだと分かる。


「だ、だけどロイバン提督!お、俺達は……」


「分かっている、だがお前達は自分を変えた。それは誰にでも出来る事では無い。もっと自信を持つのだ」


 ロイバンはボルボ達の口調と所作から海賊だという事に気付いていた。最初はダルダロス海賊団の密偵と疑っていたが、コスモに接する誠実な態度から密偵でない事を理解していた。

 もちろんただで騎士団に入れようとした訳ではない、ジョルセアが女である事を秘密にして貰う暗黙の約束を取り付ける意味もあった。


「わ、分かりました!喜んでその役目、務めさせて頂きます!」


 コスモと出会った事で海賊を辞める事を決意し、コスモに恩を返そうと行動を起こした事で、ボルボの運命は大きく動いていた。コスモの思いやりで与えた金貨によって、1人の男の運命を大きく変えたのだ。


「うむ、新たに頼もしい戦力が加わり、海上騎士団も今以上に活躍が望めそうじゃな、レイグ、お主がきっちりと皆をまとめるのじゃぞ?」


「は、はい☆今以上に帝国に貢献させて頂きまーす☆」


 ロイバンの機転によってジョルセアの扱いの問題が解決する。その事によってレイグの焦りが消え、より一層テイルボットの領主として働こうと、調子の良い言葉とは裏腹に心の中で誓っていた。


 テイルボット家の問題が1つ丸く収まるとアインザーも安堵の笑みを浮かべる。


 打って変わってアインザーの表情から笑みが消え、少女の姿に似合わない覇気を醸し出すと、ゴンベエの方へと視線を移す。ゴンベエがコスモの言い付け通り、ウジハルに傷を治して貰った後にテイルボット城へと登城していた。


 アインザーは帝国に反逆する賊を最も忌み嫌っていた。その少女とは思えない敵意を感じたゴンベエが、額に汗を流し平伏していた。


「……ゴンベエと言ったかお主?」


「は、ははー、俺の名はゴンベエと申します!」


「ダルダロス海賊団と共謀して、この町を狙ったのは事実じゃな?」


「それは事実です!……ですが、それは俺1人で考えた事!仲間に罪はありません!!」


「ほう、見苦しい言い訳をせずに仲間の為に素直に認めるか……じゃがなレイグやバミーネの様に余は甘くないぞ」


「も、もちろんです!俺に出来る事があれば何でもします!首を差し出せと言えば差し出します!」


 アインザーが並々ならぬ覇気と敵意をゴンベエへと送り続ける。ゴンベエの心境は針のむしろにいるような気分である。

 その状況に見かねたレイグの娘アルティナが立ち上がると、平伏するゴンベエの前に飛び出して跪きアインザーに慈悲を求める。


「上皇様、この者は最初は敵対しておりましたが私の説得に応じ私達と共に戦ってくれました!ハヌイアムの町が火に包まれずに済んだのもゴンベエ水軍の力によるもの!どうか、お慈悲を下さいませ……」


 アルティナがゴンベエの前で跪き頭を下げる。その姿を見たゴンベエが、ダルダロス海賊団に協力した事を酷く後悔をしていた。下げる必要の無い頭を下げてまで、年若いアルティナが自分を救おうとしているのだ。


 ゴンベエが自分の取った安易な行動の情けなさ、悔しさで体を震わせていた。


 その様子を見下ろす様に見ていたアインザーが、放っていた敵意と覇気を止めると両の手の平を叩く。


パンッ!


「すまぬな、ゴンベエ、アルティナよ。余はな、何でも自分で相手を図らねば納得出来ぬ性格でな……」


「上皇様、それは一体どういう意味で?」


 アルティナが顔を上げ困惑した表情で質問する。


「そこに居るコスモからも、ゴンベエを助けるように言われての……それ程の人物なのか試してみたのじゃ」


 ゴンベエが平伏しながらコスモに目をやると、コスモが片目をつぶって目配せで返す。コスモがしっかりとゴンベエの人柄を説明し、帝国に対する反逆の意志は無いとアインザーに伝えていた。


 そしてアインザーに威圧されながらも、自分の命よりもアルティナが自分の為に頭を下げている事を許せないゴンベエを見て、コスモの言う通りの人物である事を見定めていた。


「じゃが、このまま許したとなると帝国の沽券に関わる……よって後で罰を与える、良いな?」


「は、はい!……あの……上皇様、ゴンベエの命は取りませんよね……」


 まだゴンベエの命の保証を得ていないアルティナが、不安そうな顔でアインザーに問う。そんなアルティナを見てアインザーがふっと口に笑みを浮かべる。


「アルティナ、帝国は反逆者には容赦はせんが、降って来た者には寛容じゃ、臣民になる者の命を奪う事はせぬ、ゴンベエと共に精進せよ」


「は、はいっ!寛大な処置に感謝致します!」


 余程嬉しかったのか、その場で飛び上がって喜びを表現すると、平伏するゴンベエの背をばしばしと叩く。当のゴンベエはアルティナの喜び振りを見て、嬉しく思うと共に『喜び過ぎだろ!』という恥ずかしい気持ちにもなっていた。

 

 その様子を微笑ましく見ていたアインザーが、今度はぎこちない表情へと変わって行く。そのまま視線をメイド部隊の隊長であったヒルディへと向ける。


 視線を向けられたヒルディがにこにことした笑顔でアインザーを見つめていた。


「メ、メイド部隊のヒルディ……お主らの助力でハヌイアムの商店が襲われる事は無かった……商人達からも感謝の言葉が届いておる、よって……」


「私への褒美は、休暇の間、私と共に過ごして貰う事で結構です!」


 アインザーが最後まで言葉を述べる前に、食い気味にヒルディが褒美を所望する。誰とは言ってはいないが、視線の向き、にっこにこの笑顔、明らかに父であるアインザーを名指しで言っている様なものである。


 それを察したアインザーが表情をこわばらせていた。ヒルディが中年とは思えない少女の様な笑顔で顔を緩ませていたからだ。ヒルディにどう扱われるのか、歴戦の強者である上皇アインザーにも読めないのだ。


「わ、分かった……ヒルディ、その要望……なるべく叶える事を約束しよう」


「いえ、絶対に叶えて頂きます」


 表情を変えないままヒルディの出した言葉からは必ず行使するという鉄の意志を感じる。他のメイド部隊の面々は、久しぶりに武勇を振るえて満足していたので、褒美に関してはヒルディに一任していた。

 そしてヒルディは今まで我慢して来た、父アインザーとの交流に遠慮なく全力を注ごうとしていたのだ。


「う、うむ……苦しいけど、苦しゅうない……」


 アインザーが意味の分からない言葉で、場を濁すと続けて薔薇騎士団、団長シャイラと鋼華傭兵団、団長オルーガに感謝の言葉を述べる。


「シャイラ、オルーガ、お主らがおらんかったら、この町は持たんかった。良くぞ逆境から逃げず、戦い抜いてくれた。上皇アインザーに代わって礼を申すぞ」


「はっ!上皇様、私の役目は上皇様をお守りする事、ならば帝国領であるこの地も守らねばならぬ事は必然、ですが、感謝の言葉ありがたく頂戴致します」


 騎士らしいシャイラの立ち振る舞いに、隣に居たオルーガが口をポカーンと開け頬を赤くして見入っていた。初めて会った時は、冷血そうなイメージを持っていたが、良く見たら美人で振る舞いも長年洗練された様な上品さがあった。冒険者では絶対に身に付かない所作にオルーガが一目惚れをしてしまったのだ。


 だが相手のシャイラの中身は実年齢65歳の爺である。

 

 反応が無いオルーガをシャイラがそっと視線を移すと、オルーガが慌てた様子でアインザーに返事をする。


「は、はい!あの、俺達は町の警護が主な仕事でして、ただ、それを全うしただけで、ですが、お役に立てたなら光栄です」


 オルーガらしからぬ口ごもった言葉に横に居た無表情だったシャイラが微笑して見ていた。その顔がまたオルーガの心を捉えて離さなかった。


 だが賞賛の言葉とは裏腹にアインザーが申し訳なさそうな表情になって行く。


「お主らは休暇で来たのに、仕事を押し付けてしもうたからのう、代わりと言ってはなんじゃが、休暇の間、商店の飲食、遊興費、更にはこちらで流行っているエステなどというものを無償で使用出来る様に計らおう」


「それは団員達も喜びます。長年、厳しい鍛錬に耐えて来た者達ですから、何よりの褒美となりましょう」


「ウチの団員も良く食う飲む奴らが居るんで助かります」


 シャイラとオルーガが団員達の喜ぶ姿を想像して嬉しそうに褒美を受けると、近くに居た領主のレイグが引きつった顔でアインザーの近くにコソコソと近寄る。


「あ、あの上皇様……さ、流石に無償での提供になりますとー☆テイルボット領の財源が圧迫ぱくーな感じにー☆」


 町の被害が少ないとは言え、人的被害が大きいのと海上騎士団が主力としていた船が殆ど沈められ残っていない。船の建造費と医療費は莫大な資金が必要で、観光地で帝国領の中でも税収の高いテイルボット領でもこればかりは苦しかった。


 両手をこねこねとゴマすりながら、商店を無償で使用する事の撤回を求めるが、アインザーがにっこりと笑い返事をする。


「なーに、領地が消し飛ぶよりマシじゃろ!それに安心せい!水着大会の金は帝国が用意する。お主は心置きなく領地運営に精を出すのじゃぞ、くれぐれも、納税を怠らぬようにな!」


「は、はい……☆」


 領地替えが無いだけマシだと思え、という遠回りなアインザーの答えにレイグの思惑は儚く崩れ去る。うな垂れるレイグを他所に、アインザーが最後にコスモとセリオスに笑顔で声を掛ける。


「コスモ、セリオス、お主らが此度の戦いの立役者である事は、周知の事実!よくぞ国難を救ってくれた!上皇様、いやウェイリー皇帝もさぞ喜ぶ事じゃろう」


「はっ、この身がお役に立てただけでも、身に余る光栄です」


「コスモと同じく、僕もその言葉だけで十分な栄誉です」


 2人の名が呼ばれた瞬間、領主の間に居た者達から拍手が送られる。


 コスモとセリオス、この2人のどちらが欠けても、この戦いに勝利する事は難しかっただろう。初手のハヌイアム防衛戦から、人質救出、そしてゴンベエとの一騎打ちに、ダルダロスと海竜の決闘と、主だった戦いには必ずこの2人が居た。


 この事で名声を増していたコスモが更に大陸中に名を轟かせる事になる。


 周りからの拍手が止まない中、2人がその場に立ち上がり片手を上げ皆からの祝福に応える。しばらくして、場が落ち着き始めると、アインザーが玉座から立ち上がって領主の間に居る全員に声を掛ける。


「という事でじゃ、後日、正式に領主レイグから論功行賞を行わせる故、戦後処理のある者は引き続き、職務に当たるのじゃ、余からは以上じゃ」


「「「ははっ!」」」


 領主の間に居た者達が大きく返事をすると、家族の団らんをする者や仲間に受け取った褒美を報告しようとする者と、慌ただしく次々と部屋から出て行く。


 そして部屋に残った者は、コスモ、セリオス、ローレス、ルイシュ、アインザーだけとなった。


 領主の間の扉に居た騎士が扉を閉めると、その時を待っていた帝国軍司令官のローレスが言葉を荒げて上皇の名代である少女のアインザーに詰め寄って行く。


「確か……お主はアインザー様の孫であったな!」


「うむ、そうじゃがローレス、一体どうした?」


「……この援軍の要請の書状を書いたのも、貴様か?」


「おおー、そうじゃそうじゃ、余がしたためたものじゃ!」


 ローレスが援軍の要請を記した書状を手に握り、文章が見える様に突き出す。

 その内容が気になったコスモとセリオスが、書状の前に移動して読み上げる。


「えっと……『ハヌイアムの町が海賊共の襲撃を受け存亡の危機に瀕しておる。速やかにテイルボット領へと援軍を送られたし』」


「ここまでは普通だね……」


 コスモとセリオスが書状の内容を読み上げると、ローレスがこめかみに青筋を立て、もう一方の手で書状の最後の文章を指差す。


「そこまでは問題が無い、だが最後の部分が問題なのだ!」


「「さ、最後の部分??」」


 指差す部分の文言を見た瞬間に、コスモとセリオスが困惑した表情になる。


『早く援軍に来た忠義者には水着大会の最前席を用意しよう!あの<インペリアルオブハート>のコスモも出場するでな、それに大陸中の美女が集まるのじゃ!急いで来るのじゃぞ?』


「どうじゃ?これで援軍の士気が上がったじゃろうて?余もなかなかに策士じゃろう」


 読み上げて呆然としている皆を前にアインザーが自慢げな表情でいた。コスモとセリオスが頭を抱えている中、ローレスが一気に不満を爆発させる。


「士気が上がる所か、軍が混乱しておるのだぞ!!この書状のお陰で我先にと準備もせずに飛び出す者が多く居たのだ!!それを今、儂の副官が諫めておる所だ!!」


 援軍の要請が来れば、まずは人員を編制をしてから必要な兵站を計算し作戦を立案するのだが、この書状のせいで人を出し抜いてまで駆け付けようとする者が出始めたのだ。


 帝国軍には女も多いが、それでも比率的には男が多い。そして名の知れたコスモが出るだけでも十分な魅力があるのに、大陸中の美女となると男達が躍起になるのも当然である。


「お陰で軍紀が大きく乱れ援軍の編制が遅れておる!だから仕方なく司令官の儂がこの場に来たのだ!!」


「……そ、そうじゃったか、それは難儀な事よなあー、ご苦労じゃなローレス」


「全く、誰のせいだと思っているのだ!!そもそもなこんな事が無ければ速やかに編成を済ませ援軍に……」


 そうなるとは想像してなかったアインザーがだじだじになっていると、ローレスの長い説教が始まって行く。


 アインザーの変わらない性格にコスモが大きく溜め息を付き呆れていると、ローレスの後ろで俯きながら立っているルイシュが目に入る。戦いが終わったというのに浮かない様子だ。


 その様子も気になったが、何より魔法学院で出会った顔見知りのルイシュをコスモが懐かしんでいた。


「ルイシュ殿、お久しぶりです。魔法学院で会って以来ですか?」


「これはコスモ殿、この度は帝国の危機を救って頂きありがとうございます、父のプレイトルに代わり礼を申し上げます」


 相変わらず生真面目な性格のルイシュが頭を下げて来る。貴族であるのにその地位に甘んじる事無く、平民にも誠実に接してくるルイシュにコスモは好感を持っていた。


「いえ、それは俺がやるべき事をやったまでですよ、それよりも……なぜルイシュ殿がここへ?」


 ここへ来た理由が言い難いのか、質問を受けたルイシュが腕を組み片手で頬を擦りながら体を揺すっていた。困った様な目付きになると、観念したのかコスモに答え始める。


「その……ユリーズ殿下に頼まれまして……」


「ユリーズ殿下に?」


 ユリーズはバンディカ帝国の皇帝ウェイリーの子で上皇アインザーの孫でもある。魔法学院での1件以来、コスモに隙あらば求婚するという押しの強い皇子である。


 なぜそのユリーズがルイシュにこの地へ行く様に頼んだのか、それがコスモには理解出来ないでいた。コスモの表情を見たルイシュが察すると詳しくその理由を説明する。


「コスモ殿に悪い虫……つまり、水着姿になったコスモ殿に男が近寄って来ない様に見張りを言い付けられたのです……」


「は、はあ??」


 アインザーから送られた援軍を求める書状は到着と共に、アウロポリスの関係各所へと通達されていた。もちろん魔法学院で授業を受けていたユリーズの耳にも入る。

 ユリーズも援軍に加わろうとしたが前回の休学届けで出席日数が足りていなかった。コスモの水着姿が見れないという歯がゆい思いをしながら、自分が最も信頼する女であるルイシュに頼み込んだという訳であった。


 ルイシュ自身も『お前だけが頼りなのだ!』と両肩を掴まれ面と向かって言われた手前、断れないでいた。好意を持つユリーズに、恋敵であるコスモを守れと言われれば、普通の女ならば嫌気が差すものだがルイシュの性格上、それが出来なかったのだ。


 上皇アインザーの血を見事に引き継いだユリーズならではの対応である。


「わ、私もこの様な事、引き受けたく無かったのですが、ユリーズ殿下にああも迫られたら、どうしても断れなくて……」


「ルイシュ殿も気苦労が絶えないですね……」


 ルイシュが俯いていた理由がはっきりと解るとコスモも困った顔で同情してしまう。


「それに私が来ても意味が無い事が解りましたし……」


 ルイシュがセリオスに目を向けると妙に嬉しそうな顔になって行く。話を聞いていたセリオスがにこっと笑いながらコスモの隣に立つ。


「ルイシュ卿、ユリーズ殿下には、こうお伝え下さい、『すでに良い虫がコスモの身を守っておりますので、心配は不要である』とね」


「なっ、何言ってるんだセリオス!」


「ふふふっ、分かりましたセリオス卿、貴方程の男性が居れば悪い虫のくっ付く隙はなさそうですね」


 ルイシュもセリオスの笑顔に釣られ微笑しながら、その答えをユリーズへ伝えるように約束する。その側で聞いていたコスモが頬を赤くして困惑していた。


 その後ろではローレスの説教が終わり、疲弊したアインザーが玉座にぐったりとなって腰掛けていた。その様子は先程まであった上皇の威厳が無い年相応の少女の疲弊した情けない姿であった。


 ローレスは相手が女子供関係無く、公明正大に接する事を旨としていた。もちろん少女姿のアインザーにも容赦はしなかったのだ。説教を終えたローレスがすっきりさせた顔でルイシュに向かって振り返る。


「ではルイシュ、一足先に儂はアウロポリスへと戻る。2,3日後には帝国からの援軍も来るであろう。その時は副官のシンディに全権を預け、ルイシュは帰還すると良い」


「はい将軍、確かにこのルイシュ承りました」


 続けてローレスがコスモとセリオスに顔を向ける。その顔は今までの帝国軍司令官の厳しい顔では無く、ただの好々爺の様な笑顔であった。


「コスモ殿、セリオス卿、貴公らの活躍はまさに大陸一と言っても良い活躍!長く生きておるが、こんなすっきりとした気持ちになったのは久しぶりだ。同じ帝国人としてこれ程、誇らしい事は無い!」


「ありがとうございますローレス将軍、俺も貴方と肩を並べて戦えた事を誇りに思います」


「父のジルトもその言葉を聞けば嬉しく思うでしょう」


「うむうむ、陛下も恵まれている。この様な懐刀が2人も居るのだからな……ロイバンと同じく、そろそろ儂も引退の時期が近いのかもしれんな!ははははは!」


 老齢とは思えない大声でローレスが2人を褒め称えるとそのまま、領主の間の扉を開けて外へと出て行く。

 コスモとセリオス、ルイシュがそれを見送ると、力尽きていたアインザーが息を吹き返す。


 ぐったりとしていた玉座で立ち上がると、両手を広げ魔王の様なポーズを取る。


「……ふふふふ、はははははは!!これでやっと水着大会が開けるぞお!!」


「ちょっと復活が早くないですかね……上皇様……」


 水着大会の事を忘れていなかったアインザーの執念にコスモが呆れた顔で見ていた。そもそもアインザーがテイルボット領の窮地を救った理由も、水着大会の開催をする為であった。


 だがコスモも休暇で訪れていたハヌイアムの町で、長くゆっくりと過ごしたいと言う気持ちがあった。それもあってアインザーの欲望……いや野望を止めようとは思わなかった。


 それにいざと言う時は水着大会の出場を辞退すれば良いと高を括っていた。


「さあ、これから忙しくなるぞ!大陸中に宣伝せねばならないからのう!ぐふふふふふ!」


「とても上皇様とは思えない顔をしてるね……」


「あのおっさん臭い発言をする少女は、本当にアインザー様のお孫様なのですか……」


 いやらしい顔付きでアインザーが両手を口に当て笑みを浮かべていると、セリオスとルイシュがそれにドン引きしていた。


 こうしてダルダロス海賊団との戦いを終えたテイルボット領に新生海上騎士団が誕生した。

 ジョルセアを筆頭に、ゴンベエやボルボと言った海賊だった者達が仲間として加わった。


 元から居た海上騎士団の騎士達との軋轢があったが、ロイバンやレイグ、アルティナと言った者達の取り成しもあって、少しずつだがジョルセア達を受け入れて行った。


 そして水着大会の為にアインザーが主体となって動き出すと、大陸中にハヌイアム水着大会の話が急速に広まって行く。商機と見込んだ商人達の協賛と、帝国からの援助もあって優勝賞金が未だかつてない高額に設定される。

 大陸の各地では一攫千金を目指して美しさと体に自信のある女達が動き始める。





 そして時が流れ、水着大会の準備で町が慌ただしい中、漁船に乗った1人の老齢の男がハヌイアムの港へと降り立った。

 港に着いた老齢の男が漁船の船長にお礼を述べた後、辺りを見回すと町中が活気に包まれ騒がしく動いている事に違和感を覚えていた。


「なんじゃいこれは……ダルダロス海賊団はどうなったのだ?」


 老齢の男は、左目を失っているのか黒い帯で隠し、日焼けした顔に鬼の様なしかめっ面、白く縮れた髪に、立派な口髭、身長は高くは無いががっちりとした体形にぽっこりと出た腹、素肌の上にボロボロの黒のフロックコートを羽織り、破れかかっている黒と白の縦縞の入ったズボンに茶色のブーツと言った出で立ちだ。


 この男こそハーバル海賊団の船長ハーバルであった。


 ダルダロスとの戦いに敗れた後、海へと突き落とされ、近くの無人島に向かって泳ぎ辿り着いていた。長い間、無人島に滞在していたのだが4日前に遠洋漁業をしていた漁船に発見されると、やっとの思いでハヌイアムの町へと到着したのだ。


 救助された無人島からハヌイアムの町へ直行したので服装がみすぼらしいが、それもジョルセアの身を案じて急いで駆け付けようとした結果である。


「ジョルセアはテイルボット城へ向ってる筈……生きていてくれよ……」


 慌ただしく動き回る人々を掻き分けてハーバルがテイルボット城を目指して歩き出す。

ここまで読んで頂きありがとうございましたワワーン!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ