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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第72話 欲望の成れ果て

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた

 屈強な海賊達がジョルセアとレイグの矢によって、次々と倒れていくと勢いのあった海賊達の足が止まる。そして少しずつ全体が後退すると膠着状態となって行く。 


 すでに海賊達の士気は下がり、この状況でダルダロス海賊団が勝てる見込みは無かった。だが、ダルダロス本人は笑みを浮かべ諦めている様子は無い。


「ジョルセア!見事な戦い方だ、その横に居る青い髪の男の入れ知恵か?」


「ダルダロス、もう貴様に勝機は無い!これ以上は無駄な争いは止めて、大人しく投降しろ!」


 意外にもダルダロスがジョルセア達の戦いを称賛する。ダルダロスが船首から声を張り上げ賞賛する姿に海賊達が戸惑っていた。中にはもう諦めてしまったのかと思う者も居た。


 ざわつく海賊達を無視してダルダロスが会話を続ける。


「昔みたいにダル兄と呼んではくれないのか、ジョルセア!」


「な、何を今更!爺様を亡き者にした貴様を兄などと思った事など無い!」


「ハーバルのオヤジのやり方は甘かった!今の世の中、力を持たなければ奪われるだけなんだ!なんでそれが分からねえ!」


「爺様は間違っていない!強き者から奪って弱き者に与える立派な義賊だった!ダルダロス、お前もそうして爺様に救われたのだろう!」


「ああ、確かにな……ハーバル海賊団からは離れたが、オヤジやブリギールの姉貴の事は、今でも家族同然と思っている……」


「ならなぜ、こんな事をしでかした!」


「それはな……」


 ダルダロスが顔を俯かせると、後退した海賊達を掻き分けゆっくりとボルボ達の近くに寄って行く。ボルボが警戒を始めるが、その瞬間にダルダロスの姿が消える。


 消えたダルダロスが、ジョルセアの前に現れると不気味な笑みを浮かべる。


「家族を守る為だ!だから俺が全てを奪って守ってやるのよ!!」


「くっ……」


 完全に油断をしていたジョルセアの目の前に技能【瞬歩】でダルダロスが姿を現すと、持っていた銀の剣を振り上げる。

 そのまま振り下ろされた瞬間、銀の剣を持ったセリオスが技能【天光剣】で間に割って入り受け止める。


「歪な愛情表現だね……でも、それは間違っているよダルダロス」


「セリオス!」


「て、てめえまさか、俺と同じ技能【瞬歩】持ちか!」


 自分と同じように一瞬で姿を現したセリオスに動揺すると、ダルダロスが慌てて技能【瞬歩】で後退する。だがセリオスがその動きに合わせ技能【天光剣】の奥義【天光閃斬(ソーラーレイブレード)】で追撃する。


 後退していたダルダロスの横をセリオスが通り過ぎると同時に銀の剣を振り抜く。宙に舞ったダルダロスの右腕と銀の剣が力無く甲板の上に落ちる。


 技能【瞬歩】での移動が終わり立ち尽くすダルダロスの後ろに、セリオスが銀の剣を振り抜いた構えのまま立って居た。瞬間の移動速度でもセリオスが完全に上回っていた。


 切断された右腕を左手で抑えながら、顔中から汗を滲ませダルダロスが後退りをする。セリオスが銀の剣に付いた血を振り払うと、その切先をダルダロスへと向ける。


「ぐ、ぐお……まさか、俺の動きより早い奴がこの世に居るなんて……」


「これで終わりだ。ジョルセアを家族と思っているのなら、素直に投降するんだ!」


 技能【瞬歩】は一瞬で範囲内の好きな場所へ移動するだけの技能で、攻撃は止まってからしか行えなかった。その点、技能【天光剣】はそれ以上の速度で攻撃をしながら移動が行える上位互換の技能である。


 セリオスの技能とは相性が悪い上に、圧倒的な能力値の前にダルダロスがなす術が無かった。だが投降の勧告を受けてもダルダロスは体を震わせ不気味な笑みを浮かべたままだ。


「こ、こうなったら、神の力を借りて、俺の目的を果たすまで……」


 ダルダロスが左手で腰袋から黒と青で輝く石の付いた首輪を取り出す。ゴンベエのモノとは違い、黒い石が半分、青い宝石が半分ずつ接合され丸く加工した物であった。


 それを見たセリオスに猛烈な悪寒が背筋に走る。以前見た、宝具【ブラックオーブ】に酷似していたが、それ以上に青い宝石からは異様な圧力を感じていた。


「そ、それはもしかして……【ブラックオーブ】」


「へ、へへっ、知っていたか、だがこれは特別製でな、竜と神の力が混ざり合い、奇跡の力を発揮する【ブルーブラックオーブ】だ……これで俺の大事な物を全部守ってやる!!」


「や、やめるんだ!僕は見た事がある!呪いで自分の意志とは関係無く人を襲う所を!」


「……どうせこのままだと誰かに奪われる。それなら全てを俺が奪った方がマシだ!!」


 セリオスの説得も虚しく、ダルダロスが宝具【ブルーブラックオーブ】を首にかけると、輝く石の部分がダルダロスの胸元に吸収される様に入り込んで行く。


 するとすぐにダルダロスの全身に勢い良く血が巡る様に血管が浮き始める。ゴンベエの使用した通常の【ブラックオーブ】と違い、黒い瘴気も出現せず目も赤く染まっていなかった。


 代わりにダルダロスの身体の所々で大きく膨らんだり縮んだりを繰り返していた。まるで体内で何かが跳ね回って内部を突き破ろうとしている。ダルダロスが足をふらつかせながら、顔中から滝の様な汗を流し体中から感じる猛烈な痛みに耐えていた。


「う、うがががが……あ、あの商人……話が違うじゃねえか……竜と神の力……特別製だって言っていたのに……」


「ダルダロス!!」


「ジョルセア、近付いたら駄目だ!僕の見た呪いとは違う……一体……」


 ダルダロスの苦しむ姿を見かねたジョルセアが駆け寄ろうとするが、セリオスが手を伸ばし遮る。以前に見掛けた邪神竜の呪いとは違う現象に戸惑っていた。


 ダルダロスが苦しそうな表情で唸りながら、左舷側にフラフラとしながら移動すると手摺りに体を預ける。その異様な光景を全員が注目していた。最後の力を振り絞ってセリオス達の方に体を向き直し、悲しそうな目を向ける。


「お、俺は……ただ……家族が欲しかった守りたかった……なぜ……こんな事に……」


 そう言い残すと最後の力が切れたのか、ダルダロスが手摺りから転げ落ちる様に海面へと落下する。


 ジョルセアとセリオスが慌てて、左舷の手摺りから海面を覗き込むが、海に沈んだままダルダロスが浮かんで来ない。呆気ないダルダロスの最後に、幼い頃から知っていたジョルセアの目に涙が浮かんでいた。


「こんな終わり方ってあるか、ダルダロスだって元は家族だったんだ……道を誤りさえしなければ、こんな事に……」


「ジョルセアは優しいね……形は違えど彼も彼なりに家族愛を持っていたんだね」


 その様子を船尾から見ていたレイグが酷く悲しい顔をしていた。どんな悪党でも最後の心の拠り所は家族であった。それを目の当たりにして他人事だとは思えなかったからだ。


 船上が静まる中、ロイバンが鋼の槍を地面に突き立て大声を上げる。


「さあ決着は付いた!海賊共!これ以上の無益な戦いは止め、武器を捨てよ!」


「くっ……」


 ダルダロス海賊団の海賊達が次々と持っていた武器を地面に捨てて行く。船長のダルダロスの最後を目の前で見ていたのだ、すでに勝ち目が無い事は明らかだ。


 すかさずボルボ達が海賊の捕縛をすると同時に傷の手当を行う。元は同じ海賊であった身だ、一歩間違えれば自分達もそちら側だったのかもしれない、そう思うと素直に喜べず、戒めとする様に自分達を律して献身的に対応に当たっていた。


 ダルダロスを急襲する作戦は上手く行ったが、最後は何とも言えない呆気ない幕切れとなった。レイグが神器【ディバロー】を背に抱えると、ジョルセアの下に寄って行く。


 ジョルセアはまだ悲しいのか、今にも泣きそうな顔でダルダロスが落ちた海面を見つめていた。


「ジョルセア、これで全てが終わったね……」


「……はい、レイグ様のお陰で爺様の仇は取れました」


 仇が取れたというのに一向に喜ぶ顔を見せないで俯きながらレイグの言葉に耳を傾けていた。その心情を察してレイグが思いの内を素直に語り出す。


「ダルダロス……彼と僕は性格も生き方も全く違う、だけどね……1つだけ共通点がある」


「レイグ様が、ダルダロスと?」


「それはね……家族を大事にしたい、という強い想いさ」


「……」


 レイグの表情を見れば偽りの言葉ではない事は分かる。だが、ジョルセアの脳裏には流行り病で衰えて行く母ブリギールの姿が離れないでいた。その2つの思いが天秤に掛った様に揺れ動き、素直に受け入れられずにいた。


 その顔を見たレイグがしばらく時間が必要だと考え、ジョルセアの下から静かに離れるとボルボとロイバンと今後の動きをどうするか相談を始める。


 悩んでいるジョルセアの姿を見てセリオスが優しく肩に手を置く。ダルダロスの言っていたブリギールという名を聞いて、レイグとジョルセアの関係を何となく察していた。

 なぜならセリオスはブリギールという名を父のジルトから聞いた事があったのだ。


「これは僕の父ジルトから聞いた昔の話なんだけど、レイグ卿が信用できる者だけに、ブリギールという女性の行方を捜す依頼をしていたんだ。父にもその話が来てね」


「そ、それは本当なのか!セリオス!」


「うん、だけどすぐにレイグ卿の父上であるジョシュア卿が、その依頼を受ける必要はないと後から断って来たんだ。父はブリギールという女性が見つかったのだと安堵していたけど……この事はレイグ卿は知らないのかな?」


「ではレイグ様は母を捜していたのか……」


 母を見捨てた訳では無い事実を知るとジョルセアが顔をしかめていた。なぜレイグがその事を素直に自分に伝えなかったのか、それに先代のジョシュアが依頼を断った理由が分からないでいた。


 そこから先は憶測となるのか、遠慮気味にセリオスが私見を述べ始める。


「多分、ブリギールという女性をジョシュア卿は見付けたんだと思う。そこで実際に会って自分を捜さない様にジョシュア卿に頼んでいたんじゃないかな……」


「……確か金色の長い髪に立派な髭をした老人が母を訪ねて来ていた……優しそうな表情で幼い頃の俺を抱えてくれた様な、それ以来一度も会っていないけど……」


 幼い頃の記憶を辿ってジョルセアが過去を思い返していた。好々爺なハーバルとは違い、厳しい目付きの中にも優しさがある立派な老人だった。その印象もあって今も記憶に残っていた。


 今となってはその老人がジョシュアだったのか事実を確認する事は出来ないが、はっきりと解った事が1つだけあった。それはレイグが母ブリギールを見捨てた訳では無く、必死に探していた事である。


 それが分かった瞬間ジョルセアの迷いが消えた。


 そして酷い言葉をぶつけ、殴り飛ばしていまったレイグに一言だけでも謝罪したいと言う気持ちが湧き出て来る。


「セリオス、ありがとう。俺、レイグ様に一言謝って来るよ」


「うん、きっとレイグ卿も喜ぶ筈だよ」


 先程まで悩んでいたジョルセアの顔は、今は迷いの無いすっきりとした顔へと変わっていた。自分の話で悩みが解消されたと満足気でいるセリオスが見送ると、ジョルセアがレイグの下へと駆け寄ろうと走り始める。


 だがその時、船体が大きく揺れ始める。


ドンッ!!ギギギギギ……


 船底から何かが突き上げている様な上下に揺れる衝撃を船上に居た全員が感じる。その後は大きく船体が左右に揺れると、右舷側から水を掻き分ける様な大きな飛沫の音が聞こえて来る。


 大きく揺れた船上は混乱をしていた。


「こ、これは一体何事だ!」


「提督!右舷から何かが……あ、ありゃ何だ?」


 突然の衝撃にロイバンが戸惑っていると、ボルボが右舷の海面から現れた異様なものを発見する。ロイバンもすぐに右舷から現れたものに目をやる。そのものを見た瞬間、ロイバンの顔から汗が滲み出す。


「あれは海竜(シーサーペント)……しかも、2つの頭があるだと?」


 海面から現れたのは海竜であった、だがロイバンの見知る海竜の姿では無かった。海竜の体に歪に後付けされた様な長い首と、今にも崩れ落ちそうな腐りかけの頭、元々は濃い青色をしていた体がどす黒くなっていた。


 徐々に海面から全身の姿を現すとガレオン船の本体と同じ大きさがあった。その姿に船上いたセリオス達が呆気に取られていた。姿が露わになると辺りに腐臭が漂い始め、その匂いに耐えれない海賊達が鼻を押さえる。


「こ、これは竜なのか……」


「いやセリオス殿、私が見た海竜とは全く違う生き物だ!まるで【徘徊死竜(ドラゴンゾンビ)】の様な姿だ……」


「なら、【二頭徘徊海竜(ツーヘッドシーサーペント)】という所だね……」


 突然現れた二頭徘徊海竜にロイバンとセリオスが武器を構えると、海竜が2つある頭を別々に動かし、船上に居る人間達をじっくりと観察し始める。


 そしてセリオスとレイグの姿を確認すると、頭の動きを止め大きく口を開き始める。


「ほう……また、出会ったなリガルドの子孫……そしてジョシュアの子孫も一緒とはな……」


「なっ、海竜が喋った?」


「まさか……その聞き覚えのある声は、貴様は邪神竜デモゴルゴか!」


「フハハハハハ!その通りだリガルドの子孫!再び我と相まみえるとは貴様らはよっぽど運が無いな!」


「う、嘘でしょー☆邪神竜って僕の父が倒した筈だよね☆」


 レイグが驚くのも無理は無かった。今手に持っている神器【ディバロー】で邪神竜を討ち果たした事は父のジョシュアからも聞いている。その事で動揺していると、海竜がレイグの持つ神器【ディバロー】を睨み付ける様に凝視する。


「忌々しい神器め、まずは継承者の貴様から屠り去ってくれる!!」


 海竜が2つある内の1つの頭を大きく振りかぶると、船上を薙ぎ払うように横へとレイグ目掛け叩き付け様とする。油断していたレイグの反応が遅れ棒立ちしていると、その動きを見たジョルセアがレイグの前に飛び出し両手を広げ体を盾にする。


「父はやらせないぞ!」


「ば、馬鹿者!!何をしているジョルセア!!」


 迫りくる海竜の頭が目前に来た瞬間、レイグがジョルセアの前に出て庇う様に背を向けると、その背に海竜の頭が叩き付けられる。


「ぐほっ!」


「きゃっ!!」


 吹き飛ばされた2人が船尾にある船室の木壁に激突すると、木壁を突き破り体ごと船室の中へ飛ばされる。


「レイグ様!!ジョルセア!!」


 ロイバンが慌てて突き飛ばされた2人の下へ走って向かう。船上に居るボルボや海賊達が、海竜の異様な姿に恐れて動けないでいた。セリオスも素早く強烈な攻撃を目にして動けずにいたが、すぐに我に返ると周りに居る者達に大きな声で指示を出す。


「ボルボ船長!!皆を連れて隣のガレオン船に移るんだ!!ここは僕が引き止める!!」


「はっ!セ、セリオスの大将!!わ、分かった!!お前ら急いで移るぞ!!」


 投降した怪我人の海賊達を支え、ボルボ達がダルダロスの乗っていたガレオン船に避難を開始する。

 海竜は余裕があるのか移動するボルボ達を襲う事は無く、その動きをじっと見つめたまま動こうとはしなかった。そして1人立ち向かってくるセリオスに向けて大きく口を開く。


「邪魔者は居なくなったな……リガルドの子孫よ」


「僕の名はセリオスだ!」


「……ではセリオス、この体の生贄となったダルダロスの生き様について、お前に伝えなければならない事がある」


「僕に伝える事?」


「如何に人が愚かで浅ましい生き物かとな、この男の人生から教えてやろうと思ってな」


 呪いの特徴で、呪われたその者の記憶が邪神竜の心に流れ込む、特に負の感情を持ったまま生きてきたダルダロスの記憶は、人の愚かさを知るには丁度良いものであった。


「この男は幼少の頃、両親を目の前で海賊に惨殺されてな……孤児となってからハーバルという男に救われ、新たな家族が出来た……」


 ここまではダルダロス本人が言っていた内容と同じ事であった。だがここから先は誰も知らない事実が語られる。


「……だが義姉であるブリギールが許嫁であった男に命を奪われた事を知るとな、ダルダロスは変わったのだ」


「は、嵌められた……一体何を言ってるんだ」


「義姉のブリギールは流行り病では無く【毒】を盛られたのだ。【毒】と言っても稀にこの海域に漂流してくる船に乗っている遺体の疫病だがな……そしてダルダロス海賊団を立ち上げ、仇を取りに行ったというのがこの男の人生の顛末よ」


 当時、ハーバル海賊団の他に同じ様な義賊的な側面の強い海賊団があった。お互い交流も行い船長同士が意気投合すると、互いの子を許婚にする事を決めていた。

 だがブリギールの相手の男は、義賊の父とは違って、自尊心が高く、自惚れの強い、常に自分の取巻きを従えていた肝の小さい男であった。


 そんな相手とは結婚をしたくないブリギールがハーバルの制止を振り切り、ハヌイアムの町へと逃げていた。その時に丁度、厳しい日々の鍛錬に嫌気の差したレイグがハヌイアムの町に繰り出していた所で、2人が出会ったのだ。


 そして2人が付き合い始め数カ月経った後、突如ブリギールが姿を晦ますとセリオスの話の通り、レイグが信用できる者へ人捜しを依頼したという経緯だ。

 姿を晦ませた理由だが、すでにブリギールのお腹にはジョルセアを身籠っていた。それが分かったからハーバルの下へと戻って婚約破棄をする様に説得していたのだ。婚約破棄は成立して、そしてジョルセアが生まれたという訳である。


 だが、婚約相手だった男は自尊心を傷つけられたと恨みを忘れていなかった……。


 ダルダロスの記憶をセリオスに話すと邪神竜の乗り移った海竜が、再び大きく口を開ける。


「セリオス、人とは詰まらぬ自尊心で他者を殺める……何と愚かな生き物か、そう思わぬか?」


「何が言いたい!」


「人という種がこの大陸にある限り、この様な悲劇が続くという事だ!やはり根絶やしにすべきであろう!」


「……確かに悲しい出来事は多い、だけど人にはそれを超える、打ち勝つ強さがある!僕はそう考えるけどね!」


「青臭い戯言を……ならばセリオス、貴様を血祭りに上げ、次にあの町の人間達を蹂躙してくれる!!」


 話をしていた海竜の口から黒い炎が見え始めると、セリオスに向かって一気に噴き出す。


「【黒炎吐息(ブラックブレス)】で跡形も無く燃え尽きろ!!」


 船上に吐き出された黒炎を素早く左へと避けると、セリオスの左側からもう1つの海竜の頭が薙ぎ払う様に飛んで来る。帆柱を折りながら迫って来ると、寸での所で大きく宙返りをして躱す。

 同時にセリオスが銀の剣を回転させる様に振るい、飛んで来た頭の首を斬り落とす。


 一瞬の出来事で瞬きをする暇さえ無い。切り落とされた頭が地面に落ちると痙攣しながらすぐに溶け始める。


「さあ、後1つ首を落とせば僕の勝ちだ!」


「……さすがは神器の継承者、そう簡単にはやれぬか」


 海竜がそう口にすると切り落とされた首の切り口から新たな肉が盛り上がって行く。見る見る内に頭まで形成を始めると、元通りの姿に戻って行く。傷付いた事によって技能【生存】が発動していた。


 その再生速度はムリギュの洞窟で出会った二つ頭の徘徊死竜と同等であった。あの時は、コスモの異常な破壊力によって短期決戦へと持ち込めたが、今はコスモよりも力の無いセリオスが相手である。


 無限に体力を回復し続ける海竜を相手に、セリオスが戦いを挑まなければならなかった。


「さ、再生するのが早い!」


「さあ、いつまで持ち堪えられるかな、ゆくぞ!!」


 再び海竜の長い首を使った頭を叩き付ける攻撃と、黒炎の連撃を避けつつ綱渡り状態での戦いが続いていく。


 その最中、船尾にある船室ではロイバンが懸命にレイグとジョルセアの介抱を行っていた。ジョルセアはレイグが盾になった事によって致命傷は避けていた。だが……、


「レイグ様、大丈夫ですか!」


「ごふっ……ロイバンかい……ぼ、僕の命運も……ここまでかな……」


「こ、これは……」


 レイグが仰向けに倒れ腹部に木の破片が突き刺さり貫通していた。口から血を流しながら、自分の傷を見てレイグが命の助からない傷だと受け入れていた。ロイバンもどうする事も出来ずに、目を瞑り拳を強く握り悔しそうな表情を浮かべる。


「う、うう……お……俺は……、……ち、父上!!」


 ジョルセアが目を覚ますと上体を起こし辺りを見回す。するとレイグの瀕死の状態が目に入って来る。

 傷付きながらも倒れていた身体を起こすと、レイグの下へと寄って行くのだが、そのジョルセアの身体の異変にロイバンとレイグが気付く。


 レイグの側に寄るとジョルセアの大きく膨らむ胸が嫌でも目に入って来る。その大きさはコスモにも勝るとも劣らない大きさがあった。まさに大陸一と言っても遜色の無いものである。


 普段、胸を抑えていた革製の胸当てが先程の一撃によって留め具が千切れ壊れていたのだ。


「ジョ、ジョルセア、お主、女であったか……」


「は、はははは……ジョルセアじゃなくて……ジョセフィーヌだったんだね……」


「黙っていてごめんなさい……母から女と知られると他の海賊に舐められる、そう言われて男装していたんです……」


 衝撃の事実を告げられ、ロイバンが驚愕しているとレイグは冷や汗をかきながら苦笑いして事実を受け止めていた。海賊に限らず船に女が乗る事は不吉とされていた。その為、女であると分かると疎まれる事も多かった。


 我が子にはその様な境遇に遭って欲しくないブリギールの親心からの行動であった。レイグもブリギールがジョルセアを如何に大事に想って来たのか、その事から伝わっていた。


 そして瀕死ながらも、震えた手で神器【ディバロー】をジョルセアへと差し出す。


「ジョルセア……君が……セリオスくんと協力して……あの海竜を……倒すんだ」


「そ、そんな事よりも早くここから逃げましょう!父上の傷を治す方が大事です!」


「……あ、あの海竜を放っておけば、ハヌイアムの町でもっと犠牲者が出る……それを君が止めるんだ……」


「い、嫌です、ここで父上も亡くしてしまったら俺の肉親はもう誰も……居なくなるんです!!」


 レイグの顔にジョルセアの涙がぽとりと落ちて来る。その顔を見ると父として認めて貰えた事が嬉しいのか、優しく微笑む。


「君には海竜を止める力がある、それをただ黙って見過ごすのかい?……君は僕とブリギールの子だ、そんな事は出来ないよね」


「……ち、父上」


「さあ、僕とブリギールの分まで戦ってくれ」


 差し出された神器【ディバロー】をジョルセアが震えた手で受け取ると、安心したレイグが微笑する。

 今ここで神器の継承が親から子へ行われたのだ。


 それを祝福するかのように受け取った神器【ディバロー】が青く輝き始める。祖父のジョシュアの仲間を想う心、子であるレイグを想う心、それらがジョルセアの握る神器から心の中へと伝わって来る。


 そしてレイグがブリギールを想う心が流れ込んで来る。レイグが本当にブリギールを愛していた事をジョルセアが知ると、亡くなった母のブリギールが自分の背中から見守ってくれている様な気がした。


「はあはあ……行くんだ。僕に君の勇姿を見せてくれジョルセア」


「……分かりました!俺が倒すまでしっかりと最後まで見届けて下さい父上!」


「君になら出来る……自分を信じるんだ……」


 神器【ディバロー】を握ると、すっとその場を立ち上がり船室の外へとジョルセアが出て行く。先程の泣き顔はもう無く、祖父ジョシュア譲りの勇ましい顔付きに戻っていく。


 外ではセリオスが技能【天光剣】によって、海竜からの猛烈な攻撃を避けながら激闘を繰り広げていた。

 甲板上は黒い炎に包まれ、船全体を飲み込もうとしていた。


「はあはあ……キリが無い、斬ってもすぐに再生される。これなら父上から神器【アースカロン】を借りて来るべきだった」


「どうしたセリオス、先程より動きが鈍くなっておるぞ……もうすぐ、貴様もジョシュアの子孫の様にあの世に行かせてやるからな」


 光速に近い斬撃を持ってしても海竜を倒し切れないセリオスが、神器【アースカロン】の事を思い出していた。神器は竜特効の付いた武器で、竜に付いているあらゆる技能を無効化する特性がある。


 セリオスが肩で息を付いていると、後方から彗星の様に輝く矢が飛んでくる。


 その矢が海竜の首元に命中すると矢が突き刺さったまま傷が再生出来ないでいた。


「ぐあああああっ!!この痛み、まさか神器か!」


「海竜め、この俺が父に代わってこの町を守って見せる!」


 矢を放ったのは神器【ディバロー】を構えたジョルセアであった。無事だったジョルセアに安心したセリオスが振り返ると、先程は無かった大きな胸に目が行く。


「ジョルセア無事だったのか!って……お、女の子だったのかい……」


「それは後で説明するセリオス!君の攻撃に合わせてこちらで援護する!」


「……ああ、援護を任せるよ!」


 人の変わった様なジョルセアの目を見て、セリオスがすぐに背中を預け援護を任せる。それ程に今のジョルセアは女とは思えない程に勇ましく説得力のある雰囲気を身に纏っていた。


 それに応える様にセリオスが銀の剣を右手に持ち、切先を天に向かって大きく掲げると白い光が閃光の様に輝く。


「剣奥義【天光翔閃斬(ソーラーレイソア)】!!」


 セリオスの体が甲板の上から消え去ると海竜の頭、後方の空へ姿を現す。そのまま腕を素早く振り抜き下に落下すると、海竜の本体を足場にして再び甲板の上へと戻って行く。


「き、貴様……まだそんな力が残っていたのか……」


 海竜がそう言うと頭が横へとズレ落ちて行く。それに続いて首元も綺麗な切り口で輪切りの様にズレ落ちると、頭から首の根本にかけて、ばらばらになって海へと落ちて行く。技能【天光剣】の奥義で目にも止まらぬ連撃である。


 それに合わせジョルセアが天に向かって矢を連続で放って行く。


「弓奥義【彗星落矢(コメットクラッシュアロー)】!!」


 天に向かって放った7本の矢が白い輝きを放ち、空高く飛んで行くと一気に下降を始める。矢を包む輝きが彗星の様に大きく増して行くと、セリオスが切り落とした首元へと集中的に突き刺さって行く。


「ぐ、ぐあああああああっ!さ、再生が始まらぬ!!お、おのれ!!」


 通常であれば海竜の技能【生存】が働いて首の再生が始まってもおかしくはないが、竜特効のある神器の力によって技能が無効化されていた。


 2人の奥義の連携に海竜が脅威を感じ始めると体を震わせ、もう1つの残った首を大きく仰け反らせていた。

 その2人の見事な連携を見ていたロイバンが、興奮気味に倒れているレイグへと伝える。


「見て下さいレイグ様!!あの2人の素晴らしい連携を!倒せる、あれなら倒せますぞ!!」


「そ、そうかい……あの2人ならきっとやれるさ……」


 すでにレイグの目は霞み始め、良く見えてはいなかった。だがロイバンの興奮した言葉を聞いて口元を緩ませていた。


「後、もう一押しだジョルセア!」


「ああ、こちらはいつでも行ける!」


 セリオスとジョルセアが連携は即席とは思えない程に卓越していた。セリオスの光速に近い速さの斬撃に合わせて、ジョルセアが神器【ディバロー】から矢を放つ。かつて邪神竜デモゴルゴを討ち果たしたセリオスの祖父リガルドとジョルセアの祖父ジョシュアの姿を彷彿とさせていた。


 そんな2人を脅威に思い始めた海竜が現状を打破しようと、残った頭をゆっくりと動かしながら何かを喋ろうとしていた。そして海竜の口がゆっくり開き始めると、その口から思いもよらない声が聞えて来る。


「ジョルセア……助けてくれ、俺が、俺が間違っていた……俺はただお前を……家族を守りたかっただけなんだ……」


「こ、この声はダルダロス!まだ、意識があったのか!」


 なんと海竜の口からダルダロスの声が聞こえて来る。邪神竜はダルダロスの記憶からジョルセアの仁義に篤い優しさを持つ性格を知り利用したのだ。


 苦しそうなダルダロスの懺悔の言葉に、まだ助けられるかもしれないと、ジョルセアが弓の構えを解くとセリオスが焦った表情で声を上げる。


「罠だジョルセア!!構えを解くんじゃない!!」


「記憶通りの馬鹿な女だ……これでも食らえっ!!」


「くそっ!間に合えっ!!」


「し、しまった……」


 海竜がその隙を逃さずジョルセアに向かって黒炎を勢い良く放つ。それに合わせてセリオスが技能【天光剣】の素早い動きでジョルセアを抱えると、その場をすぐに離脱する。


 海竜の黒炎の直撃は避けたが、セリオスがジョルセアを下ろすとその場に崩れ落ちる。黒炎がセリオスの足に被弾していたのだ。

 黒く焦げた足に激痛が走る、黒炎は対象を燃やし尽くすまで継続したダメージを与え続けるのが特徴だ。それをセリオスが表情を変えず耐えていると、ジョルセアが泣きそうな顔でそれを見つめ動揺していた。


「セ、セリオス……俺のせいで……」


「ジョルセア、君だけでも逃げるんだ……ここは僕が時間を稼ぐ!」


「そ、そんな事出来る訳ないだろ!」


「これで勝負あったな、2人仲良くあの世で過ごすが良い!」


 海竜が目元をいやらしく薄目にすると、確実に葬り去れる事を確信し、口に黒い炎を大きく溜め始める。全力の【黒炎吐息】によって神器の継承者をこの世から確実に抹殺しようとしていた。

ここまで読んで頂きありがとうございましたワン!


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