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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第71話 船上の戦い

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた

 少し時を遡って、ハヌイアムの町の港から離れた沖をセリオス達が乗船するガレオン船が航行していた。操舵は海上騎士団のロイバン提督が担い、元海賊の船員達30名が慌ただしく船内を動き回っていた。


 なぜセリオス達がこのような所に居るのかと言うと、ダルダロス海賊団の船長ダルダロス本人を急襲する為である。

 陽が昇る前にハヌイアムの町を出航して沖へと出ると海賊に気付かれない様に、小さな島の陰に隠れて待機していたのだ。


 セリオスがロイバンの横に立って周囲の海を見回し、残っている海賊は居ないか辺りを警戒していた。


 船首の方では領主のレイグとジョルセアが立ち話をしているのだが、どうも様子がおかしい。出航前からそうであったのだが、レイグとジョルセアのぎこちない振舞いにセリオスが違和感を感じていた。


「提督、あの2人、何か様子がおかしい気がするんだけど……僕の思い過ごしかな?」


 セリオスがそう言うとロイバンが舵を握りながらレイグとジョルセアを細目にして見つめる。


「確かに、いつものレイグ様ではないような……しかし、いつものレイグ様かと言われるとそうであるような……」


「いつものチャラさはあるんだけど、何か必要以上にジョルセアにへりくだっているような気がするんだよね……」


 セリオスの言う通りレイグがジョルセアに対して、周りをウロウロしながら腰を屈め、両手をゴマすり無理に笑顔を作って、ご機嫌を取ろうとしていた。その必死のレイグの行動を毛嫌いするかのように、不機嫌そうな顔で背け続けるジョルセアが印象的であった。


「ね、ねえジョルセアくん、き、機嫌を直してくれないかなぁ☆」


「……」


「これから、君のお爺さんハーバルの仇を一緒に取るんだ。このままだと、上手く行く事も失敗しちゃうかもよぉ☆」


「……心配いりませんレイグ様!爺様の仇は俺が1人で取ります!貴方は物陰に隠れてやり過ごして下さい!」


「そ、そんな他人事みたいに言わないでもぉ☆」


 まさに言葉通りに取り付く島もない状態であった。なぜジョルセアとレイグがこの様な関係になってしまったのか、その原因は昨晩の夜にレイグの自室にジョルセアが訪れた所から始まっていた。





 翌日に戦いを控えたテイルボット城内だが、夜も更けると海上を警戒する騎士が数人が動き回るだけで、とても静かであった。その中でジョルセアがレイグの自室を約束通り訪れていた。


「それで、お話とは何でしょうかレイグ様」


「そんな固くならないで、ほらー力を抜いてリラックス、リラックス☆」


「は、はあ……」


 部屋に入った途端にレイグにジョルセアが肩を掴まれ、強制的に椅子に座らされると困った表情でレイグを見つめていた。

 レイグの様子から火急の用件という訳では無さそうだが、普段通り……いや普段以上に挙動不審であった。レイグが部屋の端から端を右往左往しながら思案をしていると考えがまとまったのか、足を止めて椅子に腰掛ける。


「……ジョルセアくん、君を呼んだのは他でもない、君の両親について僕に教えて欲しいんだ」


「俺の両親?」


 ジョルセアがレイグからの唐突な質問に困った顔を見せるが、すぐに真顔になって返答する。


「母の名はブリギールです、ハーバル爺様の1人娘ですね。父はどこぞの貴族の馬の骨としか……」


 その答えを聞いた瞬間、レイグが椅子に座ってまま顔を俯かせ体を少し震わせていた。そしてすぐに顔をいつものチャラい顔に戻すと顔を上げて続けて質問する。


「お、お母さんのブリギールは……今も元気にしているのかい?」


「いえ、母は流行り病で俺が子供の頃に亡くなりました……」


「な、何だって!!」


 母親のブリギールが亡くなったと聞いた途端に、人が変わった様にレイグが椅子から立ち上がる。その顔は怒りと悲しみが半分ずつ混ざった様な複雑な顔だ。


 レイグらしからぬ仕草にジョルセアが不思議そうな顔で見つめていた。


 込み上げる感情を抑え、落ち着きを取り戻したのか、レイグが大きく深呼吸をすると続けてジョルセアに質問を続ける。


「あ、あのさ、ジョルセアくんは自分の父親について何か思う所はあるかな?」


 父親について質問すると今度はジョルセアが一気に怒りの表情を見せる。端正な顔立ちなので感情の変化が分かりやすい。そして机に手を叩き付けると強い口調で答える。


バンッ!!


「もし、生きていたら思いっ切りぶっ飛ばします!」


「ひえっ!ぶ、ぶっ飛ばす……」


 祖父に育てられたジョルセアにとって、素性の知れない父親はある意味、仇と言っても良い程の憎悪の対象であった。それも祖父のハーバルが普段から『いつか必ずぶっ飛ばす!』とジョルセアの前で息まいていたのが影響していた。


 こめかみに青筋を立てながら拳を握り込むその気迫ある姿に、レイグが顔から汗を流し気圧される。だが少しするとジョルセアの怒りの表情が無くなって寂しげな顔になって行く。


「……ですが、小さい頃に良く母が父の事について話をしてくれました。名前は教えてくれませんでしたが、立派な貴族の男と言っていました。そんな母が愛してやまなかった父には、一度会ってみたいものです」


「そうかい……いや、そ、そうだよね!」


 ジョルセアの言葉に反応したレイグが儚げな顔を見せるが、すぐに少年の様に顔の皺を伸ばし笑顔になる。


「あの母が選んだ相手なのですから、セリオスみたいな聖人君子で、紳士的で思いやりもあって、格好良くて暖かくて強くてお金も持ってて……」


「あ……うん、まあ確かにセリオスくんはそれに該当するかもだけど……それ以上ハードルを上げる必要はないんじゃないかなあ?ジョルセアくん……」


 ジョルセアのセリオスを例えにした所も困惑するが、その後に続いた父の理想像の高さにレイグが一層、困惑し青ざめた顔になって行く。父親のいないジョルセアが普段から考えていた、父親とはこうあるべきだ、という最高峰の理想形を次々と言葉にして行く。


 一通り理想を語り切った後、しばらく間が空くと覚悟を決めた様にレイグが一呼吸置いて話を始める。


「ジョルセアくん……ブリギールから君の名前の経緯を聞いた事はあるかい?」


「いえ、俺の母が考えてくれたものだと」


「男ならジョルセア、女ならジョセフィーヌ……そう決めていたんだよ」


「そうだったんですか……って何でレイグ様が、なぜそんな事を知っているのですか?」


 ジョルセアがなぜそんな事を知っているのか不思議そうな眼差し向けると、レイグが視線を合わせ真剣な顔になって行く。だが今だに覚悟が出来ていないのか、歯切れの悪さが目立つ。


「あの……その……なんだ……君の父親というのは……実は……僕なんだ」


 レイグの突然の告白にジョルセアが苦笑いする。


「……何の冗談ですかレイグ様、酔っておられるのですか?」


「信じられない気持ちは解る、今の妻バミーネと出会う前に、ブリギールと僕は出会っていたんだよ、その時に出来た子が君なんだ……」


 その言葉を信じられないジョルセアが苦笑いを止めるとレイグの顔を見つめる。だがレイグの顔は真剣なままであった。そう思ったのも様々な理由があった、それを一つずつ説明をして行く。


「まず、君の名を聞いてまさかとは思ったんだけどね、君に出会って確信したんだ。僕の父、ジョシュアの面影が残っている事。もちろんそれだけじゃあ無い、ジョルセアくん、君が助けを求めてここに来た夜の事を覚えているかい?」


「は、はい……レイグ様達にダルダロス海賊団の情報を伝えた後、城内にある練習場を借りて弓の鍛錬をしていました」


 ダルダロス海賊団との戦いに敗れたハーバル海賊団が、生き残った船員と共にレイグに助力を求めてやって来た時である。

 ロイバンを含む重臣達と夜まで続いた長い打合せを終えたジョルセアが、気分転換に弓の鍛錬をしようと練習場へと訪れていた。


 先代ジョシュアは弓の名手、神器【ディバロー】を伴って邪神竜討伐に貢献した英雄である。もちろんテイルボット城内にも弓の練習場を設けていた。


「そこに、置いてあった白く輝く美しい弓があっただろう?」


「……はい、月明かりに照らされたその美しさに惹かれて、つい手に取って試射してしまいました……」


「それこそが、我がテイルボット家に受け継がれた神器【ディバロー】なんだ」


「なっ、まさかあれが神器……」


 ジョルセアが口を手で抑え驚きの表情になる。


 レイグも同じ日の夜、日課である弓の練習を行っていたのだが、矢が尽きたので神器【ディバロー】を置いてその場を離れていた。矢を持って戻ると、神器【ディバロー】を見事に扱うジョルセアの姿があった。


 物陰に隠れその様子を見ていたが父のジョシュアに勝るとも劣らない技量にレイグが見入っていた。


 まさか練習場に無造作に神器が置かれているとは思わず、つい魔が差してジョルセアが手に取ってしまったのだ。それをレイグが目撃していた。


 神器【ディバロー】は上下に白鳥の翼を模った形状で、全体に白銀で金の細い縁取り装飾が施されている。そんな魅力的で美しい物を弓の使い手としては、どうしても無視する事が出来なかった。


 何よりジョルセアに自分を使えと神器が訴えかけるようにも思えたのだ。


 そして神器に共通する使用者の条件として契約者の血筋の者と決まっていた。セリオスのロンフォード家の神器【アースカロン】、レオネクスのスーテイン家の神器【ドラバルド】、両家共に神器は血筋の者が扱っていたのは記憶に新しい。


「で、では本当にレイグ様が……俺の父親……」


「ああ……そうだ!我が息子よ!」


 親子の感動の再会がここに実現する。レイグが笑顔で椅子から立ち上がると両腕を広げ、ジョルセアが飛び込んで来るのを今かと待ち構える。


 合わせてジョルセアも顔を俯かせながら、椅子から立ち上がるとレイグに静かに寄って行く。このまま抱き付くのかと思ったら、そのままジョルセアが右拳を弓矢の様に後ろに引くと、レイグの顔面に右拳を思いっ切り殴り付ける。


「ぐはっ!!」


 レイグが自室の窓際まで殴り飛ばされて仰向けに倒れる。まさかのジョルセアの行動に躱す余裕さえ無かった。殴ったジョルセアは興奮した様子で怒っていた。


「母は……流行り病で俺に感染させまいと、独房の様な部屋で1人で寂しく亡くなっていったんです!!分かりますか!俺のこの悔しさが!!」


「……そうだったのかい、それは知らなかった」


「なぜ、なぜ……一目でも会いに来てくれなかったんですかっ!!」


「それについては……完全に僕の落ち度だ……すまないジョルセア」


 ジョルセアが目に涙を浮かべ体を震わせていた。母のブリギールが日を追って弱って行く様を、祖父のハーバルに抱えられながら見ていたのだ。


 口内が切れ血を唇から垂らしながら、レイグがゆっくりと起き上がると、チャラ男とは思えない真剣な顔のまま、ジョルセアをじっと見つめる。ジョルセアがレイグの力強い目を直視出来ず目を逸らす。


「……すみませんレイグ様。父親だと言われても俺にはまだ……受け入れられません!」


 そう言い残すとレイグの自室から飛び出す様にジョルセアが出て行く。


 それを呼び止める事も無く見送ると、部屋に残されたレイグが椅子に腰掛け天井に顔を向ける。頭の中で様々な思いを巡らせていた。

 

 なぜ自分の子だと伝えてしまったのか、黙っていれば皆、幸せに生きて行けたのではないか、後悔の言葉ばかりが浮かぶ。だがレイグの中ではジョルセアの母ブリギールが、すでにこの世に居ない事実が何よりも堪えていた。 


(ブリギール……すまない……だが安心してくれ、君と僕の息子は必ず僕が守るよ……)


 そう頭の中で呟くとしばらくレイグが自室の椅子で座り込み、ブリギールとの出会いを思い返していた。





 一方、ダルダロスが乗船するガレオン船が、ハヌイアムの町の港湾の沖に停泊していた。周囲に集まっていた小型船は全てハヌイアムの町へと差し向け、護衛する小型船が1隻も無かった。


 それでもダルダロスは余裕があるのか、ガレオン船の甲板に設置した玉座に足を組み座り、海賊達がハヌイアムの町に上陸して行く様を遠くから眺めていた。その目は獲物を狙いすます猛禽類の様な目付きであった。


「よしよし、予定通りだな、あのコスモって化け物さえいなけりゃどうって事はねえ」


 ゴンベエが上手くコスモを惹き付け、部下の海賊達が次々と上陸して行く光景にダルダロスが安堵の笑みを浮かべていた。

 コスモには自身の拠点に侵入され、人質を逃がされ、ガレオン船2隻を破壊され、ガレオン船1隻を奪われ、挙句の果てには裏投げで海に放り出され、散々な目に遭って来たのだ。


 ある意味ダルダロスにとって、コスモの踊り子の姿がトラウマになっていた。


 そのダルダロスに横から海賊が近付き耳元で囁く。


「……船長、攻め始めてからすでに1時間は経過しています。そろそろ頃合いかと」


「そんなに経ったか、じゃあそろそろ、ハヌイアムの町を頂くとするか」


 相手の戦力がこちらより少ない事はすでに把握している。それを見越してダルダロスの乗船するガレオン船から敵の注意を背ける為に小型船を囮にしていた。


 今攻め入っている海賊達は全て囮であって、ダルダロス本人が率いる部隊を本命として動かそうとしていた。概ね上皇アインザーの予想通りである。


 単独の戦力でも敵に対抗できる様に、乗って居る船員はダルダロス海賊団の中で幾多の戦いを生き抜いた精鋭の40名が乗船させていた。


 ダルダロスが船員達に港に向けて出航するように合図を送ろうとした時、


「野郎共!ハヌイアムの町に向けてしゅ……」


「船長!!」


「何だ!これからって時に」


「右舷の方角から物凄い速度で迫って来るガレオン船が!!」


「ガレオン船だあ?」


 監視台の海賊から報告を受けたダルダロスが、右舷側の木製の手摺りまで移動すると体を外へと乗り出す。


 肉眼で見える位置に報告通りのガレオン船が見えて来る。どこか見慣れたガレオン船は間違い無く、コスモ達に奪われた船であった。


「くそっ、あれは俺の船じゃねえか!丁度いい、ここで奪い返してやる!」


 飛んで火に居る夏の虫と言った笑みを浮かべ、ダルダロスが奪い返そうと躍起になる。


 だが迫って来るガレオン船が異常に早い事に疑問を感じていた。コスモが櫂を漕いだ時よりも速度は落ちるが、自身の持つ高速船のガレー船に匹敵する速度だ。


「……それにしても早過ぎる、船首を向けたまま、まるで回避行動を考えてねえ……まさか!」


 その意味に気付いたダルダロスが振り返ると、甲板に居る全ての船員に急いで出航する様に命令する。


「い、急いで船を出せ!!あ、あいつら体当たりをする気だ!!」


 体当たりと聞いた海賊達が一気に慌て出すと、急いで持ち場に戻って出航の準備に入って行く。


 一方、ダルダロスに迫って来るガレオン船の甲板では、ロイバンが舵を取って進入角度を調整し、ガレオン船で一番固い部分、船首をダルダロスの乗る船に向けようとしていた。


 帆に満遍なく当たる追い風と、ボルボ率いる船員とハーバル海賊団の船員が、全員で櫂を全力で漕ぐ事によって段々と速度を増して行く。


 その様子を見て不安になったレイグが、船尾の手摺りに掴まり声を震わせる。


「ロ、ロイバン!や、やっぱり作戦通りやっちゃう系☆ってやつ?」


「もちろんです!レイグ様!元はと言えば海賊共の船、これをぶつける事で相手を航行不能にさせる上に、海上戦力の無力化が図れるのです!」


「わかるわかるー☆……でも、それって結構無茶苦茶だよね!!」


「ははははは!若かりし頃、海竜(シーサーペント)にかまして以来で上手く当たるかどうか!!」


「な、何か楽しそうだねーロイバン☆言っておくけど僕、領主だからね☆領主が船に乗ってるからね☆」


 何度も念を押すレイグだが、ロイバンは昔取った杵柄を思い出し、作戦通りに船の本体を相手にぶつける事だけに集中して、レイグの言葉は届いていなかった。


 先代のジョシュアからテイルボット家に仕えて来た重臣ロイバンは、過去に邪神竜の眷属との戦いにも参加していた。眷属には海竜も含まれていて、海竜はハヌイアムの海で商船や漁船を襲っていた。


 海竜とは翼の無い代わりに泳ぎに特化した4本脚のヒレを持ち、体もガレオン船に引けを取らない大きさが特徴の竜である。一時は海上騎士団と海賊達が共闘し、海竜に海戦を挑んでいたが結果は見るも無残なものだった。


 その時にロイバンが苦肉の策として閃いたのが、船首に巨大な鋼の棘を装着して海竜に体当たりする事であった。所謂、衝角攻撃と呼ばれる戦法である。これを優れた操舵技術を持った若かりし頃のロイバンが中心となって、血気盛んな船乗りを募り実行していた。


 その結果は捨て身の技ながらも効果を発揮し、何匹もの海竜を倒して来たのだ。今回その腕前を買われ作戦の1つとして採用されていた。


 ロイバンの横で木製の手摺りに掴まるセリオスが、今更ながら今回の作戦で1つだけ気にしていた事があった。


「でも提督!船をぶつけた後は、僕らはどうやって帰ればいいの?」


「……その後は……泳いで岸に辿り着くしかありませんな!ははははは!」


「や、やっぱり……まさか海の上で、背水の陣だなんて……」


 セリオスが不安に思っていた通り、行きの切符は有っても帰りの切符は無かった。今回の作戦はまさに言葉通りの川では無く、海での背水の陣となっていた。


 ダルダロスの乗るガレオン船に徐々に近付き、甲板に居る海賊が視認出来る所まで接近すると、久しぶりの衝角攻撃に興奮気味のロイバンが、大声で全員に指示を出す。


「10秒後に衝突するぞ!総員、衝撃に備えよ!!」


 指示を聞いたセリオス、ジョルセア、レイグが帆の柱にしがみ付き、船内に居る船員達も櫂を引き上げ、衝撃に備え始める。


 一方、ダルダロスのガレオン船はやっと動き出したばかりで、完全に相手の行動に後れを取っていた。攻めるのは自分達であって、海上での戦いは無いと決め込んでいた事もあり完全に油断をしていた。


 それに今乗船している海賊達は船を動かす事よりも、戦いを得意とした者達であった事も影響し、思う様に船が動かせないでいた。


「も、もう間に合わねえ!お前ら!衝撃に備えろ!!来るぞ!!」


 回避行動を諦めたダルダロスが、手摺りに掴まり声を上げる。その瞬間、


ドゴォォォォォォォン!!バキバキバキバキバキッ……


 ダルダロスの乗船するガレオン船の右舷に、セリオス達の乗るガレオン船の船首が衝突する。


 大きな衝撃音が辺り一帯に響き渡ると、勢いの惰性で船が押し込まれると側板を砕き、帆柱を折って行く。その勢いでダルダロスの船が大きく左側に傾くと、セリオス達の船の船首が甲板中央までめり込む。


 木材の砕ける鈍い音が段々と落ち着いて来ると、ダルダロスの船の右舷からセリオス達の船の船首が突っ込み丁字の様な形で止まる。衝突を受けたダルダロスのガレオン船は航行不能になる位に大破した状態だ。


 衝撃によって埃と木屑が漂う中、一瞬の静寂が訪れる。


 すると、無事だったダルダロスが伏せた状態から勢い良く起き上がると大声を上げる。


「くそったれが!!もう許さねえ!!野郎共!!あいつ等の船に乗り込め!!」


「「おおう!!」」


 海賊達も衝撃に備えていたので、ほぼ無傷の状態であった。ダルダロスの声に呼応すると甲板中央までめり込んだ船首から一斉に海賊達が殺到する。


 セリオス達の乗るガレオン船の甲板上では、すでに海賊達を迎撃する為に、ボルボ率いる船員が横一列に並び、武装して待ち受けていた。


「いいか!お前ら!俺達はレイグ様やジョルセアに海賊共を近付けない事だけ考えりゃいい!」


「「あいあいさー!」」


 セリオス側の船員達も無傷で無事であった。ボルボを含め船員達が鋼の剣、鋼の斧、鋼の盾を構える。

 それに怯む事無く、乗り込んだダルダロス海賊団が乗り込んだ者から次々と斬り掛かって行く。その1人がボルボに向かって飛び上がりながら鋼の斧を振り下ろす。


「おらー!そこをどきやがれ!」


「ふんっ!」


 海賊がボルボに鋼の斧を叩き付けるが、鋼の剣で受け止めると腕の力だけで押し返す。間合いの離れた海賊は追わず、ボルボが自分の定位置に待機を続ける。


 セリオス達のガレオン船の甲板上では船首からダルダロス海賊団が扇状になって迫る中、甲板中央部にボルボ率いる船員が横一列になって陣を敷き、船尾の方ではレイグとジョルセアが2人並び、側にはロイバンとセリオスが護衛に当たっていた。


 海賊達と船員達で甲板がひしめき合う中で、後方の船首に居たダルダロスが大声で檄を飛ばす。


「お前らは何度も海戦を潜り抜けてきた猛者だ!一気に押し潰せ!!」


「「「おうっ!!!」」」


 檄を合図に甲板中央で本格的な戦闘が始まる。ボルボ率いる船員が鋼の盾を構え防御に徹すると、海賊達の足が少しだけ止まる。その隙を逃さずジョルセアが矢を放つ。


「うわっ!」


 ジョルセアの放った矢が海賊の肩に深く突き刺さると、海賊が肩を抑え戦線から離脱する。


「皆、俺が海賊達を全員射止める!その間、踏ん張ってくれ!」


 後方からの援護とジョルセアの鼓舞を受けた船員達の士気が上がる。益々防御陣形の力が上がり、屈強な海賊達が攻めあぐねていた。その様子をダルダロスが悔しそうな表情で見ていた。


「ジョルセア!!」


 その瞬間、ダルダロスの額に目掛けて彗星の様に輝く矢が迫って来る。


「くっ!……いつの間に」


 間一髪でダルダロスが顔を横へ逸らすと、矢が勢いを落とさないまま後方の海原へと突き進んで行く。ダルダロスが矢を放った方を見るとレイグが苦笑いをしながら左手で弓を構え、右手で頬を掻いていた。


「あちゃー☆やっぱり一撃じゃあ仕留められないかー☆」


 矢を放ったのはレイグであった。神器【ディバロー】から放たれた矢は、通常の弓と違い聖属性が付与され、射程も通常の倍以上はある。つまりガレオン船の甲板上の全てが神器【ディバロー】の射程範囲である。


 ダルダロスの動きを釘付けにするが、防衛線を抜ける身軽な海賊が現れる。大きく跳躍すると、ボルボ達の敷く防衛線を超えて、レイグとジョルセアに肉薄する。


 だが、その眼前に大きな外套を翻し鋼の槍を構えたロイバンが立ち塞がる。


「賊が!前は不覚を取ったが、今回はそうはいかんぞ!」


「邪魔だ!!」


 身軽な海賊が大きく横へ飛び、ロイバンを抜き去ろうとすると、眼前に鋼の槍の柄が迫って来る。


「ぶぺっ!!」


 柄が海賊の顔面を引っ叩く様に当たると、その衝撃で船外へと放り出され海へと落ちて行く。ロイバンもゴンベエ程では無いが上級の能力値を持つ猛者である。


 その後は塞き止められた海賊達が、次々とレイグとジョルセアの矢によって戦線を離脱し無力化されて行く。ボルボの船員も手傷を負うが、軽傷で後方に待機していた者と交代しながら耐えていた。


 弓の名手2人が揃い敵を近寄らせない鉄壁の陣を敷かれた今、海賊達にとって最早、手の打ちようのない詰みの様な状況になる。


 さすがのダルダロスも今回の戦いを諦めたのか、次々と矢に撃たれ倒れる海賊達を船首から動かず呆然と眺めていた。だが、その目はまだ諦めた目では無かった。

ここまで読んで頂きありがとうございましたワン!

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