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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第70話 ハヌイアム防衛戦

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた

 コスモに宝具【ブラックオーブ】の首輪を破壊され、邪神竜の呪いから解放されたゴンベエが呻き声を上げながら意識を取り戻す。


「うっ……うう……お、俺は一体……」


「目が覚めたかゴンベエ!良かった、本当に良かった……」


 ゴンベエが目を開くと、目の前には涙を流し心配そうな顔をしたアルティナが映る。


 コスモに首を斬られたと思ったアルティナが、慌ててゴンベエへと駆け寄ると覗き込むように側で見守っていたのだ。その横ではアルティナの心配する姿を見ていたウジハルが、呆れた顔で【癒しの杖】でゴンベエの傷を癒していた。


「女性を泣かせるなんて、本当にゴンベエは馬鹿ですね。あれ程あの宝具は使うなと言ったのに」


「……返す言葉もねえよ」


 珍しく強気のゴンベエが殊勝な顔付きでウジハルの言葉を素直に受け入れていた。自分が思っていた以上に、アルティナが自分の事を気遣ってくれていたのだ。あの顔を見れば己の意地などくだらないものだと、誰にだってすぐに理解出来る。


 そして目を覚ました事に気付いたコスモがゴンベエの下へ歩みを進める。コスモの体に負った切り傷は技能【自己修復】によってすでに回復していた。


「よっ、体は大丈夫か?」


 気さくにコスモが声を掛けると、ゴンベエが傷付いた体を無理矢理起こすと正座をして首を垂れる。


「コスモ……いえ!コスモ殿!俺の窮地を救って頂き感謝致す!」


「……何の真似だよそりゃ?」


「今回の侵攻は俺の独断でウジハル達には罪はない!俺の首と引き換えにウジハルを含む仲間達の命だけは!命だけは!!」


 額を地面に擦り付け、必死にゴンベエが平伏するとコスモが戸惑った表情になる。


「ゴンベエ、お前アルティナ様の説得を聞いてねえのか?」


「へっ?」


 てっきりアルティナの懸命な説得を聞いているものだと思っていたコスモが困惑していた。話を聞いたからこそ、邪神竜の呪いに抗ったものだと思っていたのだ。


 ゴンベエも話が飲み込めずに顔を上げ、目を点にしてコスモを見上げる。


 側で話を聞いていたアルティナが涙を指で拭い、頬を叩き気合を入れると、すっと立ち上がって腕を組み笑顔で言葉を伝える。


「ゴンベエ!帝国に降ればお前を含む仲間の命までは取らない!どうだ降伏するか?」


「……降伏する、それに姫さんの言う通り、ここまでぎったんぎたんのぼこぼこにされたんだ。ぐうの音も出ねえよ」


「はははは、やったのは私ではないがな」


 年相応の笑顔でアルティナが笑うと、それに釣られてゴンベエも胡坐をかくと顔を手で押さえ苦笑いする。

 するとゴンベエの顔が焦りの表情へと変わって行く。慌てて片手で自分の顔を隠すと辺りを見回し始める。


「お、俺の頬面はどこだ!こ、こんなみっともねえ顔、人様に見せられたもんじゃねえ」


 ゴンベエの慌てて何かを探す行動を不可解に思い、アルティナとコスモが顔を見合わせると、アルティナがゴンベエに言葉を掛ける。


「なあゴンベエ、その顔の傷は誰かを守る為に負った傷だろう?なぜ見られるのを恥ずかしがるのだ?騎士の誉れと呼ぶべきものだぞ」


「なっ?」


「大事な者を守った証として、誇るべきだと思うが……なあコスモ?」


「ああ、そうだぞゴンベエ、ここじゃあ騎士たる者、傷を負って一人前だ、むしろ戦場に出て傷を負わない者は臆病者か、運の良い奴ってだけだ」


「……」


 守りたい者を守る事も出来ずに負った顔の傷に、負い目を感じていたゴンベエにとって2人の言葉は胸をすいた。


 東の国と帝国では文化や風習の違いもあるだろう。だが2人の言葉はそんなものが無くとも、変わらず同じ言葉を語り掛けてくれる。そう確信を得る程に2人の言葉には淀みが無かった。


 投げ捨てた鬼の頬面をゴンベエの仲間が拾い上げると、ゴンベエの下へと持って行く。


「お頭、鬼の頬面、拾って来ましたよ」


「……いや、それはもう必要ねえ」


「いいんですかい?あれ程、傷跡を見られるのを嫌がっていたのに……」


「俺もな……いつまでも過去に縛られてちゃあマコに怒られちまうからな……」


 仲間が拾って来た鬼の頬面をゴンベエが腕を差し出し手で遮る。故郷を捨てこの大陸で新たに生きようと決めたのに、未だに故郷の風習に囚われていた自分に気付く。


 婚約者のマコ姫は人質となってゴンベエの命を奪われる位ならと自害していた。つまりゴンベエはマコ姫によって生かされていると言っても良い。


 その事を思い出し、その思いを踏みにじらない様に、顔の傷と共にこの大陸で堂々と生きようと決心した瞬間であった。


 決心したゴンベエが顔を上げると、コスモに視線を向ける。


「コスモ殿、この宝具【ブラックオーブ】の事だが」


「ああ、それをどこで手に入れたのか聞きたい」


 【ブラックオーブ】の名が出た途端にコスモが食い入るように話を聞く。


「ダルダロスの話では奴と取引している商人から受け取ったらしい」


「商人からだと?」


「何でも若い商人だとか……名前は分からないが、ダルダロスの奴も同じ物……いやそれ以上の持っている可能性が高い、あいつの性格だ、取って置きとなる【ブラックオーブ】を他人に預ける訳がないからな」


「……まずいな、ダルダロスにはレイグ様やセリオス達が向かってる」


 ゴンベエの話が本当であれば、ダルダロスが【ブラックオーブ】を超える何かを持っている。それに邪神竜の去り際の言葉も相まって、コスモの心の中の不安が確信に近いものになっていった。


 内心焦り始めるコスモを他所に、ゴンベエが仲間達に向かって声を掛ける。


「いいかお前ら!今からゴンベエ水軍は姫さんに助力する!文句はねえな!!」


「お頭の命を救って貰ったんだ……断れねえよなあ!」


「元から海賊ってのは合ってねえと思ってたんだ」


 ゴンベエの宣言を聞いて仲間達が嬉しそうな笑顔で受け入れる。


 元から海賊の様な残虐行為には辟易していたし、海上騎士団と戦った時も弱っていた騎士を船から突き落とし、命までは取らない様に努めていた。


 他にはハヌイアムの町に侵攻した時も、ダルダロス海賊団が町人に危害が加えないよう様に見張っていたのだが、そちらは薔薇騎士団と鋼華傭兵団の面々が、町人に紛れていたお陰で心配は無くなっていた。


「という訳だ、姫さん、こいつらを連れてハヌイアムの町を守らせてくれ、全員が手練れだ、きっと役に立つ」


「それは願っても無い事なのだが……肝心の橋がな……」


 アルティナが後方の橋桁が崩落した部分を見つめる。コスモと邪神竜の激闘で【テイルボットブリッジ】が破壊され通行が出来ない状態になっていた。


 するとコスモがゴンベエの仲間の1人の腰に巻き付けた布を、無造作に片手で掴み体ごと持ち上げ、振り子の様に振ると橋桁が崩落した方向へ放物線を描く様に投げ飛ばす。


「う、うわああああ!ぶへっ!」


 すると投げ飛ばされた男が叫び声を上げながら、崩落した部分を飛び越えて、上手く対岸の橋の上へと転げる様に着地する。手応えを感じたコスモが片手でガッツポーズを取ると、すぐさま振り返る。


「いいか!今は時間が惜しい!お前ら1人1人を俺が投げ飛ばすから、アルティナ様に付いて町へ向え!」


「「「はいっ!……って、えっ?ええええええええええええ???」」」


 衝撃的な発言にゴンベエ水軍の男達が動揺した反応を示す。さすがの手練れの男達も投げ飛ばされるのには慣れていなかった。


 本当であればすぐにでもセリオス達の下へと向かいたい、コスモはその気持ちで一杯であった。いつセリオス達に邪神竜に呪われたダルダロスが襲い掛かるか分からないのだ。


 次々とゴンベエ水軍の男達の腰の布を掴んでは投げ飛ばして行く。飛ばされて行く男達の中には涙を流す者、顔面蒼白な者、目を瞑って覚悟を決める者と様々であった。


 あっと言う間にゴンベエ水軍50名を投げ終えるとゴンベエとウジハルを背負い、コスモが崩落した橋桁を大きく跳躍して軽く飛び越す。


 無事に渡り終えるとその場にゴンベエとウジハルを下ろし、飛竜のポチに騎乗して先に渡っていたアルティナに声を掛ける。


「アルティナ様!ゴンベエ水軍をお願いします!俺はセリオス達の所へ向かいます!!」


「ああ分かった!今頃、ハヌイアムの町では本格的に戦いが始まっている、皆私の後に付いて来てくれ!」


「「「は、はいっ!!」」」


 ゆっくりと飛んで行くアルティナの後ろをゴンベエ水軍50名が走って追い始める。その姿を見送ると、コスモがゴンベエとウジハルに続けて声を掛ける。


「ゴンベエ、お前はそのままウジハルに傷を治して貰え、終わったらテイルボット城に行け!いいな!」


「あ、ああ分かった」


 そう言い残すと、【テイルボットブリッジ】の反対側にあるハヌイアムの町の港へとコスモが走り出す。あっと言う間に去って行くと、残されたゴンベエとウジハルが呆然とした顔で座り込んでいた。


「……いくら降伏したからと言って、敵だった俺達を置いて行くか普通?裏切るとか逃げるとか考えねえのか……」


「ふふっ、それ程までにゴンベエの人柄を信用されたのでしょう。さあ、その想いに応える為にも、さっさと傷を治してテイルボット城へ向かいましょう」


「こっちの人間は懐が大きいのか、適当なのか分からねえな……」


 東の国の者達と余りにも違う考え方にゴンベエがそう呟くとウジハルが嬉しそうな顔で治療を再開する。





 一方、同時刻。


 ハヌイアムの町では沿岸部分を薔薇騎士団が馬に騎乗して2人1組で、ダルダロス海賊団との戦闘に入っていた。ダルダロス海賊団は、アインザーの予想通り海から小型船を操り、散発的に侵攻を行い上陸出来る場所を探っていた。


 少数の薔薇騎士団であるが、馬に騎乗した事によって移動力と能力値が大幅に向上し、上陸する海賊達を発見しては撃退していた。


「やあっ!!」


「ぐふっ……」


「くっ、いくらこちらに移動力があるとは言え、海賊共の人数が多すぎる」


「次はあちらから上陸しようとしている!行くぞ!!」


 海上には無数の小型船が点在し、それぞれが離れて広がる様にハヌイアムに向かっていた。


 薔薇騎士団の配置は広大な海上都市ハヌイアムの沿岸部を囲い、2人1組となって巡回を行っていた。懸命に上陸する海賊達を撃退するが、人数差があって少数のダルダロス海賊団のハヌイアムの町への侵攻を許してしまう。


 しかし薔薇騎士団は深追いをしなかった。与えられた役目は沿岸部で海賊の戦力を削る事で、完全に侵攻を防ぐ事は出来ない事は織り込み済みであった。1人1人が精鋭の薔薇騎士団にしか出来ない作戦である。


 その効果もあって、ダルダロス海賊団はまとまった人数で上陸する事が出来ないでいた。


 ハヌイアムの町の中では、薔薇騎士団の隙を突いて侵攻して来たダルダロス海賊団を相手に、鋼華騎士団が散開して潜み得意のゲリラ戦術で海賊達を翻弄していた。


「て、てめえら!1人を囲って襲うなんて卑怯だぞ!」


「海賊のお前さんが、それを言うかね?」


 町の脇の通路で、はぐれた海賊1人に対して傭兵団4人が前後を囲っていた。オルーガが海賊の言葉を聞いて呆れていた。弱者に対しては徹底的にいたぶり、飽きたら始末する様な者達なのだ。


 聞くに堪えなくなったオルーガが素早く鋼の剣を振り上げると特殊技能【紅華剣】によって斬撃が放たれる。


「ぎゃっ!!」


 飛んで行った斬撃が海賊の胸元に当たると、切り傷から出血しそのまま倒れ込む。


「しっかし、海賊共も数を増して来たな……これじゃあテイルボット城まで侵攻されるのも時間の問題か……」


 海上都市ハヌイアムの構成は、沿岸部からテイルボット城にかけて外側から一般の住居、商店、貴族の住居と続いていた。城壁と呼べるものはテイルボット城と貴族の住居だけで、他には建物を遮るものが無い。


 領主がレイグに代わってから、観光地としての開発を進め、区画で区切られた壁などが撤去されていた。

 それを事前の視察で確認していた薔薇騎士団の団長シャイラが、水際での防衛は困難と考え海賊を少しづつ引き入れては殲滅するという戦術を採用していた。


 不安になった傭兵団の1人がオルーガに心配そうな顔で尋ねる。


「大丈夫っすかね団長……」


「まあ……何とかなるだろ、商店街は歴戦の勇士が守っているし、何よりこっちには無敵のコスモちゃんも居るしな!」


「そ、そうっすよね!」


「さあ俺達はここで稼ぐぞ!今回はたっぷりと報酬が頂けるからな!」


 オルーガが心配する仲間にこちらの戦力が海賊に負けていない事を伝えると、海賊達の侵攻する町の通りへ仲間と共に躍り出る。


 そして場所が変わってハヌイアムの町の中心部、商店の並ぶ大きな通りには、ヒルディが率いるメイド部隊が散開していた。


 一早くこの場に辿り着いた海賊達が、メイド姿の女達を見て顔をにやけさせる。


「メイド様の登場って事は、よっぽど戦力が足りていないようだな……お前ら!ここを超えれば、後は城だけだ!いくぞ!!」


 一気呵成に海賊達が鋼の剣や鋼の斧を持ってヒルディに殺到すると、ヒルディが大きなフライパンを背中から取り出し両手で握り大きく横へと振りかぶる。


「ぶははははは!!メイドらしい武器じゃねえか!直ぐにはやらねえ!楽しんでからに"ゃっあ"……」


 先頭を走っていた海賊の顔に大きなフライパンの底がめり込むと、体を縦回転させながら水平に通りの道へと飛んで行く。後続に続いていた海賊達が目を大きく開く。


「あら?軽く叩いたのですが、今時の海賊さんはよっぽどお腹を空かせているんですね」


 ヒルディが頬に手を当て首を傾げると、余りの海賊の体の軽さに戸惑っていた。


 ヒルディの母リージーは元【インペリアルアーマー】で、上級の力の持ち主だった。もちろんヒルディもその【力】と戦闘のセンスを受け継いでいたのだが、初めての戦いで力加減を知らなかった。


 所謂、無自覚系怪力の持ち主であった。


 余りの衝撃に他の海賊が驚き戸惑っていると、ヒルディの後ろから容姿が美しいのに殺気立ったメイド達が我先にと襲い掛かる。


「ヒルディ様!見事な一撃でした!皆も血沸き肉踊っています!」


「え?そうなのですか?……でも皆さん海賊さんは弱いので手加減して上げて下さいね」


「はいっ!さあ海賊共を血祭に上げろおおおおおおおお!!」


「こ、この町は一体どうなってんだよお!!」


 軽い海賊を心配する無自覚なヒルディだが、周りのメイド達は皆、目が血走っていた。元々戦線で怪我をする職業と言えばファイター系、アーマー系が多いのだ。


 つまり戦いたくて堪らない戦闘狂が、メイド服に身を包んでいると考えて相違はない。ヒルディの手加減の言葉などは届かず、思うがままに海賊達に武勇を振るい始める。


 こうしてハヌイアムの町での防衛戦が続くが、次第に上陸を終えた海賊達が集結を始める。町には薔薇騎士団や、鋼華傭兵団、メイド部隊が戦闘を継続しているが、そこを避ける様に進むとテイルボット城まで海賊達の集団が迫って来る。


 ダルダロスも簡単に上陸させて貰えないのは計算済みで、囮の部隊をハヌイアムの町に集中させると、本隊を持ってテイルボット城に侵攻する策を取っていた。


「さあ、城門を開けろ!さもなくば、町に火を放つぞ!!」


 城門まで辿り着いた海賊の1人が大きな声で脅しを掛けて来る。海賊達の目的はやはりハヌイアムの町を人質とし、テイルボット城を開城させる事にあった。


 テイルボット城の監視塔で海賊達の姿をシャイラが確認する。


「ここまで来てしまいましたか、さすがに私が出張らないといけませんね……」


 無表情のままシャイラが監視塔を降りようとすると、遠くの空から飛竜の集団10騎が見えて来る。


「まさかバルドニア王国の飛竜?」


 慌てて監視塔の縁にシャイラが駆け寄る。領主レイグの妻のバミーネは竜騎士大国バルドニア王国の王族なのだ。他国が帝国の問題に介入して来ると、見返りを求められ面倒な事になる。


 バミーネの要請を受けて救いに来たのかと思い、シャイラが緊張した面持ちで飛竜に騎乗する者を注視していると、段々と見慣れた紋章が目に入って来る。


「あれは、帝国の炎の紋章……」


 こちらに飛んで来たのは帝国軍の【インペリアルドラゴンライダー】部隊であった。飛竜達がテイルボット城の城壁近くまで下降すると、飛竜に乗っていた1人の大男が1人の女を腕に抱え、城門前へと飛び降りる。


 ズシィーーーーーン!!


 大男が着地すると大地が軽く揺れ、地面が陥没する。

 

 飛び降りた男は全身を真紅に染まった重装鎧とバイザー付の兜に身を包み、背中には穂先が三又に別れた槍を背負う。そして男の腕にはローブで頭まで覆った帝国の軍服姿の若い娘が抱えられていた。


 急な大男の登場に海賊達がたじろぐと、真紅の鎧に身を包んだ男が町中に響き渡る声で口上を述べ始める。


「我が名はバンディカ帝国軍総司令ローレス!!!テイルボット領の未曽有の危機と聞いて馳せ参じた!!!」


 ローレスと言う名を聞いて無表情だったシャイラが驚きの表情を見せる。


「この五月蠅い声は間違いなくローレスのもの、まさか本人が来るとは……」


 懐かしい声を聞くと、急いで監視塔を降り始めると城門へと向かう。


 海賊達が耳を押さえて耐えている中で、ローレスの腕に抱えられていた若い娘が飛び降りると、頭を覆っていたローブと耳栓を外す。そこから美しい長い銀髪を靡かせ、ローレスに感謝の言葉を伝える。


「ローレス将軍、この様な機会を与えて頂き感謝します」


「何、ルイシュ殿の御父上にも功を上げて貰わねば政敵として張り合いが無いものでな!遠慮はいらぬ!見事に武功を立ててみせよ!」


「はっ!父上の名に恥じぬように、賊共を打ち払って見せます!」


「うむ、その意気や良し!前衛はこの老いぼれが務めましょう!」


 ルイシュがローレスに背を向けると、勇ましく右腕を突き出し凛とした顔でダルダロス海賊団に向かって降伏勧告を行う。


「海賊達よ、良く聞きなさい!ここで投降するならば慈悲を与えましょう!歯向かうならば、貴方達を容赦なく殲滅します!!」


 新手の援軍に海賊達が警戒をしながら、ローレスとルイシュをじっと観察している。


 真紅の鎧を来たローレスは誰が見ても、只者では無い覇気を身に纏っているが、ルイシュは見た目も華奢で誰が見ても良家のお嬢さんと言う雰囲気だ。そう見た海賊達が素直にルイシュに降伏をする訳が無かった。


「お前みたいな小娘に投降したもんなら、俺らは笑い者だ!構わねえ!お前らやっちまえ!!」


 海賊の合図を皮切りに20名の集団が、一斉にルイシュに向かって襲い掛かって来る。

 その様子をルイシュが残念そうな顔で見つめると、腰に括り付けていた魔法書を右手に握り、左手を天へと向かって大きく掲げると、次第に空に暗雲が集まり始める。


「所詮は下賤の者……勧告は無駄でしたね」


「そ、空が暗くなって行く?」


 襲い掛かる海賊達が足を止めると、不自然に変化する空を見つめていた。空に集まった暗雲では雷が唸り始め、不安になっていた海賊達が狼狽え始める。

 そしてルイシュが天に掲げた左手を一気に振り下ろす。


 「ここで散りなさい!【サンダアアアアアブレイクッーーーー】!!」


 城門前の広場一帯を覆い尽くす暗雲から、迫る海賊20名の頭上に向かって巨大な雷の柱が無慈悲にも落ちて行く。


「ギャアアアアアアアアー……」


 雷が直撃した海賊達の断末魔が響き渡る。上級魔法書【サンダーブレイクの書】は、邪神竜の眷属をまとめて葬り去る事が出来る殲滅魔法である。特に集団で徒党を組む相手には非常に相性が良い魔法だ。


 竜でさえ一撃のもとに生命を絶つ威力を誇っていた、それを人に落としたらどうなるのかは想像に難くない。先程まで聞こえていた海賊達の断末魔も途絶え雷鳴だけが響き渡る。


 しばらくして雷鳴を轟かせながら雷の柱が降り続けると、次第に集まった暗雲が霧散して行く。


 辺りに日が当たり始め、焼け焦げた地面と直撃を受けた海賊20名の黒焦げとなった姿が、はっきりと見えて来る。広場の至る所に雷によって陥没した穴が開き、【サンダーブレイク】の威力を生々しく残していた。


「ふう……これも帝国の為、ひいてはユリーズ殿下の為です」


「いやールイシュ殿、お見事!この老いぼれの加勢は不要そうですな!!はっはっはっはっは!!!」


 皇子ユリーズに次いで魔法学院ナンバー2の実力を持つルイシュが、その力を遺憾なく発揮させる。コスモには軽く防がれた【サンダーブレイクの書】だが、本来であればこの様な惨状になるのが普通である。


 その光景を目の当たりにした残りの海賊達が、先程まであった威勢を完全に無くしていた。


 しかし20名の海賊が倒れたが、人数での優位性はまだ維持している。隊長格の海賊の男が、ルイシュとローレスの2人を倒して城門を突破する事が難しいと判断すると、海賊全員に作戦の変更の指示を出す。


「こ、こうなったらお前ら!城は諦めてハヌイアムの町を燃やせ!!町を混乱させれば船長が攻めやすくなる!」


 その指示を聞いた海賊達が、一斉にハヌイアムの町に向かって移動を開始する。


「ぬっ!貴様ら!まだこの儂が残っているだろう!なぜ逃げる!!」


「それはローレス、貴方が途轍もない覇気を出しているからですよ」


 城門横にある脇門からシャイラが出て来ると吠えるローレスに向かって苦言する。


「シャイラ?なぜ貴様がここに居るのだ?上皇様の護衛はどうした?」


「……じ、上皇様からお暇を頂いてバカンスに来ていた所を海賊に襲われたのですよ」


「バ、バカンス?では、ここに上皇様は居らぬのか……」


 ローレスはシャイラとは面識があるが、上皇アインザーとは40年前の男の時にしか面識が無い。つまり少女姿のアインザーを知らないのだ。シャイラの事も男だった時と、同姓同名の別人の女と認識をしていた。


 アインザーがここに居る事を上手く誤魔化すと、シャイラが城門裏で待機していた新兵達に声を掛ける。


「それよりも……海賊達は浮足立っています!さあ今が攻め時です!」


「「「お、おおおっ!!」」」


 城門が開くと一斉に新兵の騎士達がダルダロス海賊団の後を追い始めて行く。その後ろにシャイラとローレス、ルイシュも続く。


「儂らも付いて行くぞ!」


「私は【サンダーの書】で援護します!」


 城から打って出た新兵の騎士達が、ハヌイアムの町に向かった海賊達を追いかけるが直ぐに追いつく。なぜかダルダロス海賊団の集団の足が止まっていたのだ。


 その先頭では飛竜ポチに騎乗したアルティナが空から指揮を執っていた。手に持った手槍を大きく天へと掲げると、後ろに付いて来たゴンベエ水軍の男達に指示を出す。


「さあ、ゴンベエ水軍の力、今ここで見せ付けてやるがいい!」


「「「おうっ!!!」」」


「て、てめえら!裏切りやがったな!!」


 なんとダルダロス海賊団の行く手をゴンベエ水軍が塞き止めていた。集団の先では戦闘が始まり、アルティナの指揮の下ゴンベエ水軍の手練れ50名が一斉にダルダロス海賊団へと襲い掛かる。


 事情を知らない者が側から見れば、衣装の違う海賊同士が争っている様に見えた。


「こ、これは一体?」


 状況が飲み込めないシャイラにアルティナが空から駆け寄ると現状の報告を行う。


「シャイラ殿!ゴンベエはコスモが止めた!そして説得に応じてくれたのだ!ゴンベエ水軍は味方だ!」


「な、なんと……敵を止める所か、味方に引き入れるとは……」


「はっはっはっは!流石<インペリアルオブハート>のコスモ殿!」


「コスモ殿……やはり貴女は素晴らしい人です」


 過大な戦果にシャイラが驚いている横で、ローレスとルイシュが笑顔でコスモを称賛していた。


「では、これで終わりですね……」


 アルティナとゴンベエ水軍の登場によって、シャイラが形勢が逆転した事を確信する。


 前方にはゴンベエ水軍、後方にはシャイラ率いる新兵の騎士達、援軍のローレスとルイシュと、すでに戦況は決していた。この挟撃にダルダロス海賊団は抵抗が出来ず、次々と投降する者が出始める。


 戦意のあるダルダロス海賊団の者は、多くがゴンベエ水軍によって討ち取られ、投降した者は新兵の騎士達が捕縛して行く。そして隊長格である海賊の男も、怪我をして弱った所を新兵の騎士に制圧され捕縛される。


「大人しくしろ!貴様達は負けたのだ!」


「くそっ!ダルダロス船長が来れば……こんな事にならなかったんだ」


 予定ではダルダロスもこの集団に加わり、ハヌイアムの町を襲う手筈だった。だが、肝心のダルダロスが一向に現れない事に隊長格の男が悔しそうな顔で愚痴を漏らす。


 その言葉を聞いたシャイラが、セリオス達を気に掛け始める。


 すでに戦いが始まってから数時間は経過しているし、ダルダロスの乗船するガレオン船には、それほど海賊も乗っていない。セリオス達の実力であれば、ダルダロスを討ち取る事など容易いとシャイラは考えていた。


 しかし念には念を入れる為、シャイラがローレスに声を掛ける。


「ローレス、貴方にここの指揮権を与えます。ハヌイアムの町を頼みます!」


「それは良いが、シャイラはどうするのだ?」


「セリオス達の別動隊の様子を見て来ます」


 監視塔からダルダロスの乗るガレオン船の位置は解っている。前回と同じ港の沖に停泊していたのだ。

シャイラが技能【神速】で、テイルボット城の広場からハヌイアムの町へと下りて行くと、港に向かって一気に走り始める。

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