第69話 漢の意地
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
ゴンベエの身体の居心地が良いのか、乗り移った邪神竜が手を握ったり開いたり、片足を上げたり、下げたりをして動きを認している。
「この若い身体、実に良い……我が力が馴染んで行くぞ……」
宿敵のコスモを目の前にして、邪神竜が未だかつて感じた事の無い力に興奮していた。以前に乗り移った老騎士ナズールとは違い、英雄級の能力値を誇るゴンベエの若い身体なので当然の事であろう。
その力を確認しつつ、ゴンベエの過去の記憶が邪神竜の心にも流れ込んで来る。乗り移った相手の力を利用するだけでは無く、過去の記憶を見る事が出来るのも宝具【ブラックオーブ】の特徴である。
ゴンベエの記憶を読み取ると、鬼の頬面から覗く口に笑みが浮かぶ。
「この男、東の国で決戦で敗れた後、同じ領地の重臣の男に裏切られているな……人の性とは何年経っても変わらぬものよな」
「お前!また勝手に人の記憶を読んでるのか!」
「我が身体を自由にして何が悪いか!良い機会だ、貴様にも人間の醜さをこの男の記憶から教えてやろう!!」
「止めろってんだよ!!」
コスモが魔剣ナインロータスを構え、勢い良く邪神竜が乗り移ったゴンベエへと駆け寄ると、上段から魔剣で斬り掛かるが、ゴンベエが腰に差していた妖刀2本を素早く抜刀すると素早く交差させ、その一撃を受け止める。
力が拮抗しているのか、コスモの英雄級の【力】でも押し込めず、腕を震わせている。こうなると邪神竜の口を塞ぐ者が居なくなる。そしてゴンベエの過去が邪神竜によって語られ始める。
「この男はな、領主に仕える武士だった男よ。武勇に優れていてな、領主の姫とも婚姻していたのだ。決戦で勝利した暁には、領地を任され幸せに姫と共に暮らす筈だったが……」
「黙れっ!それ以上喋るんじゃねえ!!」
更にコスモが力を加えるがびくともしない。邪神竜の呪いによってゴンベエは英雄級を超えた神に近い力を得ていたのだ。顔を歪めたコスモを邪神竜がニヤつきながら見つめる。
「その姫はな、裏切った重臣の男に降る位ならと自ら命を絶ったのよ!ここからが、更に笑えるぞコスモよ!」
「くそがああああああ!!」
人には語りたくない過去が1つや2つあるものだ。それを笑い話の様に話す邪神竜を、コスモが必死に止めようとするが、力ではどうにもできず悔しさの余り怒りの雄叫びを上げる。
「このゴンベエはな、すでに亡くなった姫を人質に取られたと騙されて、裏切った重臣に投降して拷問を受けたのよ!!」
ゴンベエが両手に持った妖刀でコスモの魔剣ナインロータスを勢い良く弾き飛ばすと、コスモも身体ごと後方へと押し返される。そしてゴンベエが右手に持った妖刀を鞘に納めると、その手でおもむろに自分の顔に付けていた鬼の頬面を外す。
鬼の頬面が外れたゴンベエの素顔を見て、コスモが驚愕する。
「仲間であった重臣の男に顔を抉られて、この様な無様な顔になったのだ!」
「ゴ、ゴンベエ……」
ゴンベエの顔は20代程の若さがあって、凛々しい太い眉に、切れ目が鋭く、無精髭が少し顎に残るが、美男子と言っても差し支えない。だが鼻の上を中心に大きく抉られた形で×印の様な十字傷が残っていた。
東の国の武士は、この様な無様な傷は恥とされ、頬面などで隠す事が風習として残っていた。その素顔を見てゴンベエが如何に苛烈な拷問を受けたのか察したコスモが、悲しそうな顔で見つめていた。
「流石の大馬鹿者のこの男も、姫が亡くなった事に気付いてな、怒りに身を任せ裏切り者を全員切り伏せた……その後は、そこに居るウジハル達によってこの大陸へと逃げて来た様だがな」
ゴンベエが捕らえられた事を聞いて、ウジハルを含む仲間達が救出すると鉄甲船でこの大陸へと逃れて来た。
領主に仕えていたゴンベエは愚直な猪突猛進型の武将であった。だが無駄な殺生は好まず、例え敵対関係であったとしても、勇敢に戦った者に対しては手厚く保護し温情を与えていた。
その温情によって命を長らえたウジハルと仲間達が、ゴンベエが捕らえられた事を聞いて、その恩に報いようと救出の機会を窺っていたのだ。
「この男が、なぜこの町……いや領地に固執しているのか、それが婚約した姫との約束だったからよ」
邪神竜の心にゴンベエの過去の記憶が流れ込み、詳細な情景が映し出され始める。
~
過去を遡る事数年前、東の国では大きな島国が東西で2つに別れ、雌雄を決しようとしていた。
『きっと勝利して一国一城の主となって下さいね!』
西軍として決戦の戦場へと向かおうと準備していたゴンベエに、気さくに話し掛ける1人の娘が居た。赤い髪に強気の表情であるが幼さが残る可愛らしい顔、年齢は10台後半と言った所だ。
娘はゴンベエが仕える領主の娘でマコ姫と呼ばれていた。これから戦地に向かうゴンベエに一目会う為にこの場に訪れていた。
すでに周りには西軍として参加すべく、兵士達が整列を終えて進軍しようとしていた矢先である。
『あーん?何言ってるマコ!当ったり前だろうが!それどころか、お前を日の本一の姫にしてやる!』
『さっすがゴンベエ様!私は楽しみに待っていますからね!絶対に……絶対に無事に帰って来て下さいね!』
『心配性な奴だな、マコ、お前も知ってるだろう?俺は約束を守る男だ!』
『はいっ、約束通り私との婚姻も結んでくれましたもんね!』
『ぐっ……まあそれはなんだ、お前の押しの強さもあってだが……』
マコ姫との婚約を結び義父である領主との約束で、領地の統治を決戦で勝利した時の報酬として受ける事になっていた。これまでゴンベエは順風満帆の人生を歩んでいた。それも弛まぬ鍛錬に裏打ちされた武勇があってこそだ。
今回の決戦でもその武勇が役に立つだろうと、自信を持って臨んでいた。
だがマコ姫は一抹の不安を抱えていた。東の国のあらゆる領地で下剋上なるものが流行していたからだ。配下の者が主人を裏切る事を指すのだが、マコの領地はゴンベエが居たからこそ、下剋上は起こってはいなかった。
先程まで元気があったマコ姫が俯いていると、それに気付いたゴンベエが笑みを浮かべる。
『心配は要らねえよ!次に戻る時は、天下の将軍様よ!』
ゴンベエが自信たっぷりとそう答えると、馬に乗って騎乗すると兵士達と共に決戦の場へと向かって行った。その背中をマコ姫が寂しそうな目で見送る。
その見送る者の中には、すでに東軍と誼を通じていた重臣の男が居た。あくどい笑顔でゴンベエを見送ると、早速早馬を出し裏切りの手筈を整えていた。
これから起こる悲劇に気付かず、ゴンベエ達を家臣と共に見送るとマコ姫は城へと戻って行った。
~
そして現在。
「だから、この男はここで国を興して、東の国に攻め入って娘との約束を果たそうとしてるのよ!」
「……ゴンベエ、それが意地を通す理由か」
ゴンベエの過去を聞いたコスモが顔を下に向け、悔しそうな顔をしていた。ただ自分の責務を果たそうとしただけで、愛する者を失い領地すら失う。
その事を考えるだけでコスモの心は絞られる様に締め付けられていた。反対に邪神竜が乗り移ったゴンベエは、さも当たり前の事と呆れた表情を浮かべていた。
「裏切った重臣の男はな、ゴンベエよりも領主に長年仕えて来たのに、領地も女も新参者の若造のゴンベエに持って行かれ嫉妬していたのだ、つまらぬ男よな……」
人の嫉妬心は行きつく所まで行くと、親しい仲間である人間さえ憎く見える物だ。ゴンベエもまさにそう言った者の被害者であった。
「やはり!人間はこの世に存在してはならぬ!根絶やしにせねばこの男の様な悲劇が繰り返されるだろう!」
「だったらよ……なおさらお前を止めなきゃいけねえよな!」
顔を下に向けていたコスモの身体から青い炎の様な陽炎が浮かび上がって行く。技能【羅刹】が発動していた。大きく顔を上げ戦闘態勢に入ったコスモを見ると、ゴンベエが口角を上げ顔を歪ませる。
「ふふふふ、今度はそうはいかんぞコスモ、これからお前に恐ろしいものを見せてやる!」
ゴンベエの両手には妖刀【ライギリ】と【オニギリ】と呼ばれる2本の剣が握られ、さらに背後から湧き出る黒い瘴気が腕の様に変化し始めると、腰に差していた残りの騎士殺しの剣を2本握る。
「この男の素質は素晴らしいな!こうして四刀流で戦えるのだ!!」
「う、腕が4つ!?」
技能【修羅】の発展系である特殊技能【阿修羅】が発動していた。3倍の攻撃を維持しつつ4本の腕で攻撃が可能となる技能だ。もちろん、人の力では到達が出来ない技能で、邪神竜の力を以って可能としていた。
「東の国の言葉で言い表すならば……【年貢の納め時】という奴だな!いくぞ!コスモッ!!」
ゴンベエがそう叫ぶと、コスモへ向かって4本の腕を左右から同時に斬り付ける。それを辛うじてハート型の盾で受け止めるが、斬撃を受け止めたハート型の盾が徐々に曲がり始めて行く。
「な、なんて膂力だ……さっきの攻撃とは……比べ物にならねえ……」
「これが邪神竜の本来の力よ!思い知れコスモ!!」
身体全体を使って圧力を掛け始めると、苦し紛れにコスモが右手に持った魔剣ナインロータスをゴンベエの横へと振り抜くが、咄嗟に反応したゴンベエが左腕2本の騎士殺しの剣と妖刀オニギリで、その斬撃を受け止める。
「そう簡単に攻撃を喰らってはやれんな!」
「は、反応も早い……!」
守りだけではゴンベエの攻撃は受け切れないと判断したコスモが、素早く魔剣ナインロータスで攻勢に出ようとする。常人では目で追えない速度で攻撃を繰り出すが、ゴンベエの4本腕が器用にコスモの攻撃を受け流す。
4本の内2本の腕は防御に徹して、残った2本の腕で攻撃に当たる。そしてゴンベエの逞しい腕から繰り出される斬撃はハート型の盾越しでも、身体の芯にまで響く威力があった。
それが常に二刀流で放たれ、片手で持った盾で防がねばならない状況となる。凄まじい剣戟の音が響き渡る中で、少しづつゴンベエの連撃がコスモを圧倒し始める。
コスモの剥き出しとなっている、腹部や太腿、顔の頬に切り傷が刻まれて行く。コスモの姿になってから戦いで手傷を負った事が無いのだが、ここで初めての傷を負う。
劣勢になったコスモが苦しそうな表情を浮かべながら、迫りくる攻撃を受けていた。剣先は目で追えるのだが、手数が違い過ぎるのだ。
「うっ、手数が多過ぎて攻撃が受け切れねえ……」
「実に気分が良いぞっ!!苦汁を飲まされた相手を一方的に蹂躙するこの心地良さよ!!!」
ゴンベエの顔が本人とはかけ離れた歪な笑い顔で、コスモに剣戟を叩き付ける。圧倒的な手数に再び防戦となるが、しばらくして決め手に欠けたゴンベエが、4本の腕から放っていた攻撃を僅かの間止める。
「……しかし貴様の【体力】と【守備】には呆れたものだ。常人ならば100回は倒れているぞ……だが、すぐに楽にしてやる!」
そう言い放つと、ゴンベエが4本の腕を後方へと回し力を溜め始める。
「くらえっ!!合武奥義【地獄大鎌】!!」
合武技【両刃大鋏】の上級技で、特殊技能【阿修羅】でのみ発動できる奥義である。
ゴンベエの両手に握られた妖刀ライギリと妖刀オニギリが左右から挟み込む様に、黒い瘴気で作られた両腕からは上から左右斜めから挟み込む様にコスモの首を目掛け、斬撃が放たれる。
「盾技!【大凧楯】!」
コスモが直ぐに反応すると、正面に掲げたハート型の盾の前に、薄っすらと半透明の層が出て来る。層の大きさは盾の3倍以上の大きさがある防御に特化した盾技である。
だがそれにも構わずゴンベエが半透明の層に向かって斬撃を叩き付ける。
すると、半透明の層が紙の様に切り裂かれハート型の盾が左右から真っ二つに切断される。
そのまま左右から迫りくる妖刀ライギリと妖刀オニギリを、咄嗟にコスモが上体を仰け反らせ直撃を避けるが、今度は上から2本の騎士殺しの剣が迫って来る。
上体を逸らした事で体勢を崩すが、切断された盾を投げ捨てると、魔剣ナインロータスを両手で柄と切先を掴むと、振り下ろされたゴンベエの斬撃を受け止める。
受け止めた勢いで仰向けに橋桁の地面に叩き付けられ、床の石畳が砕かれコスモの体がめり込む。
「ぐはっ!!」
「さあ、これでトドメだコスモ!!」
ゴンベエが両手に持つ妖刀ライギリとオニギリを高く掲げると、その切先を倒れたコスモの体に向けて、覆い被さる様に突き刺そうとする。
その瞬間、ゴンベエの体に目掛けて横から手槍が飛んで来る。
完全に不意を突かれたゴンベエが、コスモに向けた妖刀ライギリで手槍を打ち払うと、コスモがその隙を逃さず、覆い被さっていたゴンべエの腹に目掛けて、両足をくの字に曲げ蹴りを繰り出す。
「ぐおっ!!」
大したダメージは入っていないが、コスモのカモシカの様な逞しい両足から放たれた威力によって、ゴンベエが10歩程、後方に飛ばされる。
仰向けに倒れたコスモが、そのまま足をくの字に曲げて一気に伸ばすと、その勢いと背中の筋力を使ってコスモが飛び起きる。
「コスモッ!大丈夫か!」
「その声は、アルティナ様!」
声のする方にコスモが視線を向けると上空に領主レイグの娘アルティナが居た。愛騎の飛竜ポチに騎乗して応援に駆け付けた所で、コスモが危機に瀕しているのを見ると、ゴンベエに手槍を投げ援護攻撃を仕掛けてくれたのだ。
アルティナがコスモの無事を確認すると、変わり果てたゴンベエの姿、特に顔に刻まれた十字傷を見て動揺していた。
「こ、この者は本当にゴンベエなのか……まるで人が変わったようではないか!それにあの顔は……」
「どうしてここに来たのですか!」
「父上と母上から許しを貰ったのだ!ゴンベエを説得出来るなら、ゴンベエ水軍全員の命の保証をするとな!その為に私がここに来たのだ!」
テイルボット城に戻った後、父のレイグに母のバミーネに如何にゴンベエによって丁重に扱われたのかを、必死に説明して助命を願い出ていたのだ。
最初は難色を示していたが、アルティナの元気な姿がここにあるのは紛れも無くゴンベエという男のお陰と理解し、困り果てながらもアルティナの願いを受け入れていた。
そこでアルティナが説得しようと赴いたのだが、肝心のゴンベエが邪神竜の呪いによって狂暴性を増していて、説得を行う状況では無かった。
「ゴンベエは邪神竜の呪いに掛かっています!危険ですから、離れていて下さい!」
「邪神竜の呪いだと?」
「はい、ゴンベエの首に取り付けられた黒い石が呪いの宝具【ブラックオーブ】なのです」
アルティナがゴンベエの首元を見ると黒く輝く石が見える。それと同時にゴンベエの姿が消え、上空に飛んでいるアルティナの目の前に現れる。
「小娘が!邪魔をしおって!貴様から始末してくれる!!」
ゴンベエの技能【跳躍】と邪神竜の呪いによって底上げされた力で一気に間合いを詰める。
「しまった!」
コスモが気付いた時にはすでに遅かった。ゴンベエが4本の手に握られた剣をアルティナへと上段から一気に振り下ろそうとする。
だが一瞬だけゴンベエの体が硬直する。
「がっ……この男、まだ抵抗をするか……」
そのままゴンベエが橋の上へと着地すると、地面を蹴ってコスモ達から間合いを取る。今までに無いゴンベエの行動にコスモがおかしい事に気付く。
「い、一体何が起きたんだ?ゴンベエが攻撃を止めた様な気がするが」
「……きっとゴンベエは完全に呪われていないのだ!私が説得してみる!」
アルティナが邪神竜の呪いに掛かり切っていないと見込むと、上空から橋の上に下りて来ると飛竜のポチから下馬する。そして立ち尽くすゴンベエに向かって説得を開始する。
「ゴンベエ!お前が無理をして海賊になって居る事は分かっている!母上や父上にお前の事を話したら、大層気に入ってくれてな!今ならお前と仲間達の命までは取らない様に帝国に計らう!どうか降ってくれ!」
アルティナの懸命な説得が通じたのか、ゴンベエが体を震わせながら絞り出すような声を出す。
「……コ、コスモ……頼む……お、俺の首を斬ってくれ……ひ、姫さんを……き、斬りたく……ねえ」
「ゴンベエお前……」
顔中から汗を流し、邪神竜の呪いに必死に抗っているのか苦しそうな表情でゴンベエがコスモに懇願する。
邪神竜の呪いに掛った者は自我を無くし戻る事は無い、だが、アルティナの登場でゴンベエが最後の抵抗をしてみせたのだ。
そして何より亡くなった婚約者のマコ姫と酷似していたアルティナを、自身の手で殺める事を全力で拒否していた。
最後に振り絞った言葉を残すと再びゴンベエの表情が険しくなって行く。そして怒りの表情になって行くと、以前の邪神竜が乗り移ったゴンベエへと変貌する。
「次から次へと……小賢しい奴らだ!それも今、全て終わらせてやるぞ!」
ゴンベエがその場に屈み、技能【跳躍】で上空高く飛ぶと、滞空しながら体を錐揉み状に身体を横回転させて行く。そして4本の腕を前方へと突き出し、4本の剣の切先を重ねると、全身を1つの巨大な剣へと変えて行く。
「これで消し飛べ!剣奥義【雷鬼殺し】!!!」
上空から勢い良く錐揉み回転しながら、凄まじい速度でコスモに向かって落下を始める。周りには雷撃の様な衝撃波を撒き散らしながら迫って来ていた。
「ゴンベエ!正気に戻れ!」
必死にアルティナが説得を試みるが、すでにゴンベエ本人の耳には入っていなかった。その前にコスモが静かに立ちはだかると、魔剣ナインロータスの柄を両手でしっかりと握り込み、腰を落として正面に構える。
「アルティナ様、貴女のお陰でゴンベエの本当の心の声が聞えました。ゴンベエはこのコスモが必ず止めて見せます!アルティナ様はポチと一緒に下がって下さい」
「た、頼むコスモ……ゴンベエを助けてやってくれ……」
ゴンベエの苦しそうな表情を見て、感情が抑えきれなかったのかアルティナが涙を流し、顔をくしゃくしゃにしてコスモに全てを託すと、ポチと共に後方へと下がって行く。
「ははははは!コスモ!盾の無い貴様にこの攻撃を防ぐ手立ては無い!」
「盾だけが攻撃を防ぐ手段じゃねえって事を教えてやる!」
上空から眼前にゴンベエの攻撃が迫ると、コスモの体から巨大な青い炎の陽炎が上空に届く勢いで溢れて行く。
そしてゴンベエの攻撃が当たる寸前に、それに合わせて大きく息を吸い魔剣ナインロータスの刀身を上段から思い切り叩き付ける。
「フンッッッッ!!」
ガキィィィィィン!!ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ギャリギャリギャリギャリ……!!
錐揉み状に回転する剣の切先が、コスモの魔剣ナインロータスの刀身に接触すると、必殺の一撃音と金属を削る様な音を立てる。攻撃を受ける事に成功するが、魔剣を構えたコスモの体が押され始める。
上空から迫った4本の剣の切先の勢いは凄まじく、コスモが踏ん張っていた足元のアーチ状に組まれた橋桁が崩落すると、そのまま橋桁を斜めに突き抜け、橋脚の支柱にコスモの体を押し込んで行く。
押し込まれた衝撃で橋脚の支柱にひびが入る。今にも橋脚が崩れそうになるが、ゴンベエの攻撃は止まる様子を見せない。その攻撃を魔剣ナインロータスの刀身を両手で受け、必死の形相でコスモが耐えていた。
「ぐおおおおおおおっ!!」
「フハハハハハ!貴様を倒した後は、直ぐにあの赤髪の小娘をあの世に送ってやる!」
「……ふざけるんじゃねえっ!!誰がやらせるかよおおおおおおっっ!!!」
邪神竜の呪いに抗ってまでアルティナの身を案じていたゴンベエに、絶対にそんな事はやらせはしないと、コスモの中で怒りが爆発する。
押し込まれていたコスモが歯を食いしばると、橋を飲み込むほどの巨大な青い炎の陽炎が辺りを包み込む。徐々にゴンベエの錐揉み状に回転した体を押し返し始める。
魔剣ナインロータスの刀身が、ゴンベエの持つ4本の剣の切先と激しくぶつかり火花を散らしている。そしてしばらくすると、剣奥義【雷鬼殺し】の勢いが止まり、錐揉み状の回転をしていたゴンベエの体も緩やかに止まって行く。
そのタイミングを逃さずコスモが両腕に一気に力を込め、思いっ切り魔剣ナインロータスを振り切る。
「吹き飛べやあああああああ!!!」
「お、俺の奥義が……単純な腕力だけで止められた上に押し返されるだと!!」
勢いを殺され、今度は逆にゴンベエの体が崩落した橋桁の間から橋の上まで弾き飛ばされる。
コスモは今まで片手だけで魔剣ナインロータスを操り強敵を倒して来た。それを両手で扱えば単純計算でも2倍の【力】が加わる。更に特殊技能【羅刹女の怒り】が発動して英雄級に達する全ての能力値が3倍となっていた。
最早、コスモの力は神に匹敵する力と言っても過言では無い域に達していた。
吹き飛ばれたゴンベエが橋の上に着地すると、コスモもすぐに橋脚の支柱から飛び上がり橋の上に着地する。お互いが最初に出会った様に対峙する中で、ゴンベエが顔から汗を流しコスモを恐れ始めていた。
「そ、その力は……邪神竜である俺をも凌駕すると言うのか……」
「この力はな、皆との約束を守る為に発揮された力なんだよ!!邪神竜のお前には分からねえと思うがな!!」
「ほざけ!この邪神竜が、たかが人間などに負けるはずがないのだっ!!」
自身の湧き出た恐怖と言う感情を誤魔化そうと、勢い良く斬り掛かろうとするとゴンベエの足にしがみ付く男が居た。
「コスモ殿!!ここは私が抑えます!!ゴンベエを救って下さい!!」
「お、お前!」
事もあろうかゴンベエの仲間であるウジハルが、ゴンベエの足にしがみ付き動きを止めていた。そして後に続く様に仲間達もゴンベエの足にしがみ付き始める。
「コスモさん!頼む!お頭を楽にしてやってくれ!」
見守っていた仲間が、ゴンベエの苦しそうな表情を見かねて自然と体が動いていた。ゴンベエを苦しめる要因となっていた宝具【ブラックオーブ】を破壊すべく、コスモに協力する事をウジハル達が選んだのだ。
「くそっ!離せっ!」
「邪神竜!これで決着を付けてやるぜ!!」
千載一遇の機会を得たコスモが魔剣ナインロータスを両手で右側の腰の後ろへ構えると、ピンクの刀身が黄金色に輝き始める。一気に足を蹴り出し、身動きの取れないゴンベエへと駆け始める。
狙いはゴンベエの首に巻き付いている首輪、宝具【ブラックオーブ】の破壊だ。
それを察している邪神竜も、コスモの攻撃を迎撃する為に4本の腕を右側後方へ回すと身体を捻り、力を溜め始める。
「貴様の狙いは解っている!こちらには騎士殺しの剣が2本、妖刀【ライギリ】と【オニギリ】があるのだ!ただの大剣など軽く止めてくれる!」
「それなら防いでみやがれ!剣奥義【武具破壊】!!」
コスモが前方に跳躍しながら身体を左に1回転させると、両手で握った黄金色に輝く魔剣ナインロータスをゴンベエの首元に向かって大きく横薙ぎに放つ。
そのタイミングに合わせゴンベエが4本の腕で握った剣を同時に叩き付ける。
剣と剣がぶつかった刹那ゆっくりと事象が進んで行く。
コスモの放った黄金色に輝いた魔剣ナインロータスの刃が、騎士殺しの剣2本、妖刀【ライギリ】と【オニギリ】の刃にすり抜ける様にすっと進むと、4本の剣の刀身が宙に舞う。
その勢いのままゴンベエの首元を魔剣ナインロータスの刃が通過し、振り抜き終えるとコスモが魔剣を背中に背負う。打ち負けたゴンベエが刀身を切断された剣の柄を握りながら立ち尽くしていた。
「ま、またもや貴様に敗れるのか……貴様は一体何者……」
「俺はコスモ、<インペリアルオブハート>のコスモだ!!」
「……ふ、ふふふ、だがまだ終わりではないぞコスモ……まだ宝具【ブラックオーブ】は残っているのだからな……」
「何?それは一体どこだ!言え!」
「つ、次こそは……」
邪神竜の乗り移ったゴンベエがそこまで言うと、首輪の【ブラックオーブ】が横二つに切断され、足元へと落ちて行く。
ゴンベエの体からは黒い瘴気が消え去り、赤く染まった目が普段の目の色に戻って行く。それと同時にゴンベエが気を失い仰向けに倒れると、ウジハル達がその体を支え受け止める。
ようやくゴンベエとの決闘が終わりを迎える。未だかつてない苦戦を強いられたコスモであったが、邪神竜の去り際の言葉に不安を覚えていた。
ここまで読んで頂きありがとうございますワン。
9月と言えば台風の時期ですワン。通学通勤をする方は気を付けてワン。




