第68話 テイルボットブリッジの闘い
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
小高い丘に造られたテイルボット城の敷地の四方に建つ監視塔では、テイルボットの騎士が昼夜2交代で監視を続けていた。監視塔からは海の地平線まで望める。
初代領主のジョシュアが、どの方向からも襲撃があった場合にも監視が出来る様に造り上げたものだ。
海の地平線から太陽が昇り始めると、その後光に照らされた船団が映し出される。大型のガレオン船1隻と、小型船が20隻がこちらに向かってゆっくりと航行していた。
その事に気付いた騎士が地上に居る仲間に大声で合図を送る。
「き、来たぞ!ダルダロス海賊団だ!」
「と、とうとう来たか!急いで上皇様に知らせるんだ!」
ダルダロス海賊団が現れるとテイルボット城内が騒然となる。騎士達が城内を駆け回り、敵襲を告げると城内が一気に緊張感を増して行く。
その騒がしさに目を覚ました上皇アインザーが、ベッドから起き上がって寝ぐせをそのままに普段着に着替えると、テイルボット城内の領主の間へと向かい玉座に腰を下ろす。
余りの騒がしさに何事かと良く見ると、領主の間で騒いでいるのは新米の騎士や内務官達であった。前回は急襲されたので狼狽える暇さえ無かったが、目に映る敵が迫って来るとどうしても人は狼狽えてしまう。
そんな落ち着きのない者達に大声でアインザーが一喝する。
「者共、落ち着け!まだ海賊は上陸をしておらぬ!報告がある者は代表者1人を選出して余に報告せい!残りの者は監視塔から海賊の動向を確認、上陸箇所を速やかに伝えるのじゃ!」
「「「は、ははっ!」」」
少女であるアインザーが一喝すると、こんな少女でも落ち着いているのに自分達は……と感じたのか、少しは落ち着きを取り戻した騎士達が、海賊の発見の報告を終えると速やかに自分の仕事に戻って行く。
それと入れ替わりで騒ぎを聞きつけたシャイラが領主の間に入って来る。アインザーの玉座前まで行くと跪き報告を行う。
「上皇様、薔薇騎士団、鋼華傭兵団の配置は完了しています」
「うむ、ではヒルディを連れ監視塔で適宜、部隊に指示を出して動かすのじゃ」
「ははっ、では行って参ります。……パフィ、上皇様の事を頼みましたよ」
「はいはいー、シャイラ姉もがんばー」
報告を終えたシャイラが立ち上がると、アインザーの玉座の背後に居るパフィを察知して声を掛ける。だが、相変わらず気だるそうな返事を返すパフィであった。
その返事を聞いたシャイラが安心した様に微笑すると踵を返し領主の間から出て行く。
テイルボット城を出ると南門前には、メイド服の上から軽装鎧、重装鎧で身を固め、武器を携えたメイド部隊が整列して待機していた。その装備も手入れはされているが、長年使い込まれた形跡が残っている。
その整列した列の先頭に立つヒルディをシャイラが呼び出す。
「ヒルディ、こちらへ!」
「はいっ!」
「他の者は指示あるまで、この場で待機!」
「「「はっ!」」」
シャイラの待機の合図でメイド部隊が正規の軍隊に負けない声で応える。戦闘の最前線で傷を負った者達だが、その殆どの者が全快とは行かないが、日常生活が送れる程度に回復していた。
しかし傷による後遺症で、現役の精鋭よりは能力値が落ちる事を理解していた。
そのまま引退とも考えていた矢先にハヌイアムの町が窮地に陥る事を知ると、再び戦場に立てる事と役目を果たせる事の喜びで、メイド部隊は否が応でも士気が上がっていたのだ。
その中からシャイラがヒルディを連れて、再び城内の敷地に入ると監視塔へと登って行く。そこから海賊船の位置を確認するが、騎士の報告に比べ距離が相当に離れていた。
「報告よりも距離がありますね……もう少し時間が掛かるでしょう」
「シャイラ隊長、あのコスモ様達は……」
報告よりも海賊の距離が遠い事に気付くと、少し安堵したのかヒルディが心配そうな声でコスモ達の様子を聞く。昨晩からコスモとセリオスの姿が見えないのだ。
大きな戦いが初めてのヒルディが、今回の戦いの鍵となる2人の姿が見えない事で不安になっていた。
「安心して下さいヒルディ、すでにあの2人は動いています」
「そ、そうでしたか……」
「いいですか、あなた達のメイド部隊がハヌイアムの最終防衛線です。あの2人は人質救出を成し遂げたのです。2人を信じてあなたのやるべき事をやり抜きなさい」
「はい、私達は再び帝国にお役に立てるだけで光栄なのです。必ずや守り抜きましょう」
厳しい口調で無表情のまま答えるシャイラとは反対に、はにかむ様な笑顔でヒルディが嬉しそうに答える。その後2人が言葉を交わす事は無く、監視塔で引き続き海賊達の動向を見張り続けていた。
~
同時刻、【テイルボットブリッジ】から離れたテイルボット領の大陸側を進軍するゴンベエ達の姿があった。ちょうと海上都市ハヌイアムと向かい合う位置にある対岸へと降ろされていたのだ。
ゴンベエの背中には騎士殺しの槍、斧がそれぞれ2本づつ、腰には騎士殺しの剣が2本と妖刀が2本差さっている。普段よりも多く武器を持ち、1人輸送隊と言っても良い出で立ちだ。
だが進軍速度は水軍とは思えない程に早かった。ゴンベエ本人を含め、全員が東の国で戦慣れをしていて陸地での移動にも慣れていたからだ。ゴンベエ水軍、総勢50名と軍にしては少数ながらも精鋭の集まりである。
「くそ、ダルダロスの野郎、もう少し【テイルボットブリッジ】の近くに降ろしてくれてもいいだろ……」
「そんな事をしたら、今からここを通りますと言ってるようなもの、我慢の時ですゴンベエ」
「相変わらずの仏頂面で正論を返すなウジハルッ!ただの愚痴だ!」
早い行軍にも関わらず軽口を叩く余裕はあった。その甲斐もあって時間も掛からずに【テイルボットブリッジ】へと到着する。しかし橋の入口には誰も歩哨に立って居なかった。
ゴンベエとしては都合の良い事なのだが、その事が逆に不安にさせる。
「誰もいねえだと?……罠でも張っているのか」
夜が明け始めたばかりで人通りが少ないのは分かる。海上騎士団も壊滅して戦力が少ない事も分かっている。それでも辺りは静まり返り物音一つしないのだ。
大きな戦いの前に良くある事象で、嵐の前の静けさと言うのだろうか、ゴンベエも東の国の戦場で何度もこの様な場面に出くわしていた。
(それにこの静けさ……東の国あった決戦前と全く同じだ……)
東の国であった東西決戦の前にも似た状況にゴンベエが気付く。ここまで同じ状況が似ているという事は、決戦で戦った時の東軍と同等の力を持つ者がこの先に居るという証左でもあった。
そして誰も居ない【テイルボットブリッジ】の入口に入ると、仲間達と共に海上都市ハヌイアムに向かってゆっくりと歩き出す。
海に浮かぶ天然の岩場を橋脚として頑強に組み上げ、アーチ状に組み上げられた橋はどんな暴風にも耐え、大陸一の橋と呼ばれていた。
橋は馬車が交互通行できる程の道幅があって、大人数であっても歩きやすい。そして一定の間隔で両開き門と石造りの監視台が設置されている。普段であれば門は全て開放され、騎士が監視台の上に立って通行人を見張る様にして運用されていた。
しかし全ての門は閉じられ監視台には誰も居ない。静寂に包まれた中をゴンベエが一つ一つ両開きの門を開けて進んで行く。橋の中腹に差し掛かった所で、ゴンベエが両開きの門を開けようと触れた時だった。
門に触れた手から恐ろしい程の熱を感じる。実際は錯覚で門自体は熱くは無いのだが、幾度と強敵と戦った事のあるゴンベエだけが感じ取っていた。
「はあー……くそったれが、ダルダロスの野郎の言う通りになっちまったな」
門の向こう側に何が居るのか理解すると、ゴンベエが半ば諦め気味な台詞を口にするが、直ぐに顔を引き締めて覚悟を決めてると一気に両開きの門を押し開く。
開けた門の正面を見ると、腕を組み仁王立ちで待ち受ける、ピンク色のビキニアーマーを着た美しい女が立って居た。ゴンベエが来ると分かっていたのか、女が腕を組んだままに大声を上げる。
「やっぱり、お前が来たかゴンベエ!待っていたぞ!」
「それはこっちの台詞だコスモ!やっぱりお前がここに居たか!」
「はははは!なんだよそりゃ!」
「へっ、全く笑いごとじゃねえってんだ!」
予想していた通り、互いの最高戦力同士が【テイルボットブリッジ】で会敵する。
そして予想通りに事が進むと人は可笑しくなって緊張感が解けてしまう。コスモとゴンベエがお互いに苦笑いすると場が和んでしまう。
しばらくして、アルティナとの約束を思い出したコスモが今更ながらに説得を試みる。実を言うと前回コスモが踊り子に変装していた事をゴンベエが見抜いた所で、嬉しさの余りすっかり約束を忘れていたのだ。
戦いの前とは思えない和やかな雰囲気の中でコスモが、静かな口調で説得を始める。
「なあゴンベエ、お前に海賊は似合わねえよ」
「海賊は似合わねえか……確かにな、あのダルダロスの様な生き方は俺には出来ねえ」
「どうだ?素直に降ってくれないか」
「……すまないがそれは出来ん。俺にはやるべき事があるんでな!」
「お前の事をな、アルティナ様が気にしてるんだよ。飛竜のポチを助けてくれた事、アルティナ様の身を守ってくれた事、何よりお前の事を騎士の鏡とまで褒めてくれてるんだ」
「あの姫さんか……あれはただの俺の気まぐれだ。それに姫さんの買い被りだ、俺は根っからの悪党なんだよ」
「……やっぱお前良い奴だな。悪党が自分の事を悪党って言う訳ねえだろ!はっはっはっは!」
「くっ!う、うるせえ!!」
世の中に悪党が自分の事を悪党と言う事は100%無い、そう考える事が無いから悪党なのだ。コスモにそこを指摘されると、恥ずかしそうに誤魔化すゴンベエであった。
ゴンベエの人の良さが分かったコスモが笑顔になりながら言葉を続ける。
「それとゴンベエ、お前さ女相手だと露骨に手を抜くだろ?」
「むっ……どうしてそう思った」
「俺だってな本物の悪党と何度も戦って来たんだぜ?殺気の無い攻撃ってのは解るんだよ」
東の国の戦場では男だけが活躍するのが当たり前であった。稀に武芸に秀でた女も戦場に出る事もあったが、数える程しかなかった。その事もあってゴンベエも男との戦いには慣れているが、女との戦いには慣れていなかった。
武家の生まれであるゴンベエは幼少の頃からの教育もあって、女は守るものと教わり無意識の内に力加減をしていたのだ。
続けてコスモが突拍子も無い事を口にする。
「それとな、俺は女じゃねえ!男だと思ってもいいぜ、何せ元男だったからな」
「え?男?……いや!どー見ても女だろ……」
ゴンベエが目を丸くしてコスモの身体を見回すが、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。女装をしている訳でも無く、黙っていれば誰もが羨む美女であった。
あまりにもまじまじと見られた事で、少し恥ずかしくなったコスモが頬を赤くして両手で身体を隠すと、分かりやすくゴンべエに自身の強さを説明する。
「い、いいか、帝国には能力値を測定する技術がある。そこでの俺の評価は【邪神竜級】。つまり大陸一強いと言われている生物【竜】よりも強いって事だ、この帝国を昔滅ぼしかねない勢いのあった生物と同じ位の【力】があるって事だな」
「【邪神竜】……噂には聞いた事があるが、そこまでの強さがあったのか……」
ゴンベエは竜と実際に戦った事がある武芸者から話を聞いた事がある。その話では圧倒的な竜達の力によって人々が蹂躙され、神器を持つ英雄が現れるまでは一方的だったという。
東の国にも大昔に【ヤマタノオロチ】と言う【竜】が存在したが、神によって討たれたと逸話が残っていた。この逸話があるからこそ、【竜】という存在を信じていたのだ。
こうして分かりやすくコスモが自分の実力を伝えると、顔色を変えて儚そうな顔で最後の説得を試みる。
「それを知っても、引けないのかゴンベエ?」
「引けねえな!……さっきも言ったが俺にはやらなきゃならない事がある。それに【邪神竜】並みに強いお前を倒せば、俺の戦歴に箔が付くって事だからな!こんな機会を逃す手は無いだろう?」
「あくまでも自分の意志を貫き通すか……いいぜ、お前の攻撃を全て受け切ってやるよ」
コスモが右手に魔剣ナインロータスと左手にハート型の盾を構えると両足を大きく開き腰を落とす。
その構えを見て、ゴンベエが左手に持った騎士殺しの槍の穂先をコスモへと向け、右手に騎士殺しの剣を霞の構えで、足を八の字に開き腰を深く落とすと身体の全体を斜に構える。
「ウジハル!お前らは一切手を出すな!ここからは俺も【修羅】になる!!」
「分かりました!皆、後方へ下がりなさい。ここはゴンベエに任せるのです!」
以前とは違い、今回はゴンベエの気迫は只事ではなかった。二度もやられたコスモを相手に、全力を尽くそうとウジハル達に下がる様に指示を出す。その指示で一斉にゴンベエ水軍の者達が後方へと下がって行く。
すると段々とゴンベエの身体から、赤い炎の様な陽炎が浮かび上がって行く。まるでコスモの持つ技能【羅刹】と同じような現象である。
互いの闘志が最高潮になると戦いの始まりの口上を述べる。
「これで三度目の正直!さあコスモッ!いざ参る!」
「こいっゴンベエ!〈インペリアルオブハート〉の称号の力を思う存分に見せてやる!」
口上を終えると同時に一気に間合いを詰めたゴンベエが、左から騎士殺しの槍を鋭く突き出すと、コスモが魔剣ナインロータスによって穂先を弾き返す。
騎士殺しの槍の突きは陽動で、右から鋭く振りかぶった騎士殺しの剣を上段から振り下ろすと、コスモがハート型の盾で受け止める。
ガキィィィィィィィィン!!
「むう……今までの攻撃とは段違いの重さと速さじゃねえか……」
「もうお前を女だとは思わねえ!それは真剣勝負を穢す事になるからな!」
コスモがハート型の盾を支える左腕を小刻みに震わせ受け止めていた。攻撃力だけなら二つ頭の徘徊死竜の頭突き以上である。
その攻撃力もゴンベエの技能【修羅】によって、自身の能力値の【力】が3倍に跳ね上がっていたからだ。それに加え無意識に抑えていた攻撃速度、つまり【速さ】も本来の英雄級の能力値の状態に戻っていた。
「どうだ!これが本来の俺の実力よ!東の国じゃあ【鬼神】と恐れられたもんよ!」
「へっ……確かに、【鬼神】に相応しい力だっ……なっ!!」
ハート型の盾を力強く押し返すと、ゴンベエの騎士殺しの剣をコスモが弾き返す。それと同時にゴンベエの左手に騎士殺しの斧が握られ、勢い良くコスモの首に目掛けて刃が迫って来る。
ギィィィィン!!
辛うじて魔剣ナインロータスを縦に掲げ刀身で受け止める。
「むう!さっきまで槍を持ってた筈なのに、いつの間に持ち替えたんだ……」
「俺に不利な間合いはねえ!遠距離なら槍、中距離なら剣、近距離なら斧!この技能【二刀流】で名だたる武人を葬り去って来たんだ!」
技能【二刀流】はその名の通り、武器を両手で操れる技能である。ただし、攻撃一辺倒の技能で一切の守りを考慮していないのが弱点でもある。
騎士殺しの斧の一撃を耐えているコスモの胴体を狙って、すかさず騎士殺しの剣の突きが飛んで来る。それをハート型の盾を正面に掲げ再び防ぐと、コスモが身体ごと後方へと押し出される。
「くっ、攻撃が止まらねえ!」
後方へ押し出されたコスモが、ハート型の盾を横へとずらしゴンベエの姿を確認しようとすると、眼前に騎士殺しの槍の穂先が目の前に迫っていた。
「危ねえっ!」
飛んで来た穂先を間一髪で顔を横へとずらし躱すと、コスモが大きく後ろに飛び退きゴンベエの間合いから離れる。
未だかつてこの様な連撃をコスモに仕掛けたのは、宝具【ブラックオーブ】によって邪神竜に操られた【紫毒】の使い手ナズール以来である。
しかも恐ろしい事にゴンベエは、宝具【ブラックオーブ】を使ってはいないのだ。人の身でここまでの技量に達するには、想像を絶する程の鍛錬が必要であろう。
「ここまで、俺の攻撃を躱したのはコスモ、お前が初めてだ」
「最初はふざけた野郎かと思ってたけど、ゴンベエ、お前さん程の男はこの大陸を探してもそうそういねえよ」
お互いが力を認め合っていた。優れた武人同士の共鳴と言うべきものなのか、コスモとゴンベエが戦いを楽しんでいた。すかさずゴンベエが連撃を始めるとコスモがそれを受け止める。辺り一帯に激しい剣戟の音がこだまする。
コスモとゴンベエの攻防が10分程続くが互いに決め手が無かった。未だかつて、コスモとこれ程までに長く打ち合える敵は居なかった。コスモの人並み外れた力を前に、殆どの相手は短い間に決着が着いていたからだ。
そして以前のゴンベエは手加減によって無駄な動きが多く、すぐに疲労していたが今回は無駄の無い動き、且つ長期戦を覚悟している。一向に疲労する様子は無かった。
するとゴンベエが背中に抱えていた武器の中から、騎士殺しの槍を2本取り出すとその両手に握る。コスモの正面に向かって身体を開き、腰を落とし足を強く踏み込む。
「いくぞ!コスモ!槍奥義【風雷突き】!!」
槍の穂先が暴風に乗った雷の様な早さで無数になって、コスモの正面から迫って来る。しかも間合いが離れていて、コスモの魔剣ナインロータスの攻撃が届かない。
魔剣ナインロータスとハート型の盾で辛うじて、素早く打ち払ってはいるが、一撃一撃が必殺の威力が込められ受けているだけで精一杯であった。
そしてその猛攻を耐えるコスモの中で大きな疑問が出て来る。この様な凄まじい技量を持つ男がなぜ、海賊に落ちてまで侵略行為を続けるのか不思議でならなかった。
「ゴンベエ!こんな力があるのになぜダルダロスに加担する!」
「俺にはな国を興すって目的があるんだ!その為なら海賊だって何だってやるぜ!」
「例え国を興す事が成功したとしても、帝国の本隊がやってくれば潰されるだけだぞ!」
「そんな事は分かっている!だが、それが……俺を生かしてくれた者達との約束なんだ!」
「……そうかよっ!」
コスモが凄まじい速度で放たれる騎士殺しの槍の穂先を見極めると、魔剣ナインロータスで下から上に向かって大きく打ち払う。その勢いを利用してすぐにハート型の盾を正面に掲げ、腰を落とし一気にゴンベエに向かって走り出す。
「盾技!【楯道突貫】!」
一気にゴンベエの方へと突進し始めると、ゴンベエが払われた騎士殺しの槍を直ぐ背中に納めて、騎士殺しの斧を2本取り出し両手に持ち構える。
ハート型の盾が目の前に迫ると、ゴンベエが両手に持った騎士殺しの斧を同時に左右から盾に叩き付けて、受け止める。だがコスモの突進の勢いが止まらず、ゴンベエの叩き付けた騎士殺しの斧ごと、身体を後方に押し出す。
ゴンベエが足を踏ん張りコスモの突進を止めた刹那、上段から魔剣ナインロータスがゴンベエの頭上へと放たれる。
その攻撃にゴンベエが反応すると、騎士殺しの斧2本を交差した状態で掲げ、魔剣ナインロータスを受け止めるが、斧にひびが入って刃が大きく欠ける。そのまま、ゴンベエの身体ごと後ろへと更に押し出す。
「ぐ、ぐあっ!お、俺の武器が欠けるだと……」
「ゴンベエ、お前が私利私欲で動いてる訳じゃないのは解った……だが、なおさらお前を止めなくちゃらねえ」
「お、俺を止めるだと?」
「お前にこれ以上間違った道を歩ませたくない。きっとお前を生かしてくれた者達もそう思っている筈だ」
「思い上がるのもいい加減にしろっ!俺の行く道は間違っちゃいねえ!」
ゴンベエが両手に持った壊れた騎士殺しの斧を投げ捨てると、騎士殺しの槍を2本取り出し、後方へと飛び大きく間合いを取る。
「これ以上の問答は無用!一気に決めてやるっ!!」
そう言うとゴンベエが深く屈むと技能【跳躍】で、地面の石畳を砕きながら上空へと大きく跳躍する。技能【跳躍】は言葉通り、常人の10倍以上で跳躍出来る技能だ。
3階建てで造られた監視台より高い位置まで上昇すると、目下のコスモに向かって大声を上げる。
「ここから繰り出される技は、全てが一撃必殺!受けて見ろコスモ!!」
「ああ、俺が止めてやる!かかってこいゴンベエ!」
「いくぞぉぉぉぉぉ!槍奥義【流星雷落】!!」
上空から急降下を始め、両手に構えた騎士殺しの槍2本をコスモの方へと向かって来る。その姿は雷神が雷を両肩に抱える様な姿に酷似していた。
高さもあって勢いが段々と増して行くと、地上に近付く頃には目で追えない早さ、まさに雷の如き早さとなる。
コスモがハート型の盾を上空へと掲げ、片足を後ろに下げ攻撃を耐える姿勢に入る。
ドッガァアアアアアアアアアアアアン!!!
凄まじい衝撃音と共に、コスモの持つハート型の盾をゴンベエの急降下で振り下ろされた騎士殺しの槍が2本、突き刺さる。ハート型の盾が大きく凹み、穂先が盾を貫通するが辛うじて途中で止まって、コスモの身体には届いていない。
だが、勢いが収まらず、コスモが地面の石畳を砕き両足を踏ん張らせ耐えていた。
「ぐぅおおおおおおおおおおお!!!」
瞬間の圧力だけなら【マグマメティオス】に近い、石造りの橋が揺れ今にも崩れそうな勢いだ。
しかし、その圧力もすぐに収まりゴンベエの攻撃の手が止まる。その隙を突いて、コスモが魔剣ナインロータスを横から振り抜くとゴンベエの横っ腹へと叩き付け、遠くへと吹き飛ばす。
「うるぁあああああああ!!」
「ぐほぉ!!」
ドゴォ!!ズゴゴゴゴゴゴゴ!!
必殺の一撃音と共にゴンベエの身に纏う朱色の鎧が砕け散る。ウジハル達の下がる後方まで吹き飛ばされるとゴンベエが仰向けに倒れる。心配したウジハルと仲間達がゴンベエの下へと駆け寄る。
青空を見つめゴンベエが口から吐血しながら信じられない様子でいた。
「ぐはっ!……お、俺の【流星雷落】を耐えるなんて……信じられん……」
「ゴンベエ、もう勝負は着きました……降参しましょう」
「お頭、もう止めましょう!これ以上やったらもう身体が持ちませんよ!」
「……お、お前ら、俺を信じてるよな……」
「まさかゴンベエ、あの禍々しい宝具を使うんじゃ……」
「ぐっ……どの道、ここで降参したらお前らは処刑される……それだけは……それだけは俺には我慢が出来ん!」
ゴンベエが弱った身体を起こすと片膝を付く。そのまま身体を震わせ無理矢理立ち上がると、胸元にしまってあった宝具【ブラックオーブ】が着いた首輪を取り出す。
【ブラックオーブ】に気付いたコスモの表情が一変すると、一気に険しい表情へと変わって行く。
「ゴンベエッ!!それを使うなっ!!邪神竜の呪いが込められた宝具【ブラックオーブ】だぞ!!」
「この際、邪神竜だろうが何だって良い、これで……仲間を救えるなら……喜んで使ってやるぜ!!」
コスモの必死の忠告を無視して、ゴンベエが宝具【ブラックオーブ】の首輪を装備する。すると、ゴンベエの身体から黒い瘴気が溢れ出し、鬼の頬面から見える目は真っ赤に染まり変貌して行く。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
邪神竜がゴンベエの意識を乗っ取ろうするが、必死に抵抗しているのか、獣の咆哮の様に声を上げて耐えていた。次第に上空へと達する勢いで黒い瘴気が巻き上がると、しばらくして顔を下に向け落ち着き始める。
重傷を負っていたゴンベエが、何事も無いように顔を上げると、真っ赤に染まった目でコスモを見つめ口を開く。
「また会ったな……コスモ、約束通り再び現世に舞い戻って来たぞ!!フハハハハハ!!!」
「何度でも来いって言ったけどな……まさか、こんなに直ぐに再会するとは思わなかったぜ……」
ロンフォード領での盗賊掃討戦で戦った邪神竜に、コスモが再び出会ってしまう。
以前乗り移ったナズールはすでに老齢で現役を退いていた元帝国兵であったが、今回は現役の猛将であるゴンベエに乗り移ったのだ。
となると、ただでさえ強敵のゴンベエの強さが邪神竜の力によって跳ね上がる。その事を理解するコスモに余裕など無かった。
そしてゴンベエの身体から溢れる黒い瘴気も以前よりも大きく放たれている。それは邪神竜自身の力が漲っている証拠でもあった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
暑い日が続きますが、体が第一です。無理をしないでしっかり水分補給をしましょう。




