第67話 攻防の前日
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
「ああ、アルティナよくぞ無事で戻って来た!母は嬉しいぞ!」
「母上、申し訳ありません。私が付いていながら決戦に敗れた上に、自分だけ無事におめおめと帰ってきました……」
「いいのだアルティナ!此度の敗戦の原因はお前のせいではない、油断していたこの私にあるのだ」
テイルボット城内の領主の間で領主レイグの妻、バミーネが娘のアルティナを優しく抱き締め、感動の再会を果たしていた。
海上騎士団の敗戦と娘のアルティナが捕まった報告を聞いた衝撃で卒倒し、自室のベッドで寝込んでいたバミーネだったが、人質救出成功の報告を聞くとベッドから起き上がり、居ても立っても居られずアルティナの下へ急いで駆け付けていた。
海賊に限らず賊に捕まるという事は、どの様な酷い目に遭うのか戦場を知るバミーネは理解していた。特に女の扱いはモノの様に扱われるのが常であった。
なのに奇跡的に五体満足に帰って来た我が子を見て、嬉しさのあまり涙を流していた。
母娘の感動の再会の横では、領主レイグの前に跪くロイバンが神妙な顔付きで謝罪の弁を述べていた。
「申し訳ありませぬレイグ様、多くの犠牲者を出したのは提督である私の責任、この罰は如何様にも受けましょう」
「何言ってるんだいロイバン、君が殿を務めてくれたお陰で犠牲者は少数だよ☆それに娘のアルティナも無事に戻って来たし、それだけでも僕にしたら値千金の活躍だよ☆……それより、重傷って聞いてたけど、体の方は大丈夫なのかい?」
「それは、こちらに居るコスモ殿に治して頂きました」
「へっ?コスモちゃんが傷を治す?」
領主のレイグが信じられないように何度も瞬きをしながら、踊り子の姿のコスモを見つめる。領主の間には救出された人質、ロイバン、アルティナの他に救出に向かったコスモ、セリオス、ジョルセアが居た。
照れくささを頭を掻きながら誤魔化すコスモが、今回の事で知り得た情報を報告しようとする。
「まあまあ、レイグ様、そこは追々お話しますよ。それよりも、先にダルダロス海賊団について報告させてください」
「そ、そうだね、まずはどんな状況になっているのか整理から始めようか。上皇様もそれで良いですか?」
相変わらず領主の間の玉座には上皇アインザーが居座っていた。だが城内が人質救出で歓喜に沸く中で、緊張感を保ったまま表情を変えずにいた。
「うむ、苦しゅうない、続けよ」
邪神竜の眷属との戦いを経験して来たアインザーは今の戦況を理解をしていた。コスモ達の活躍によって漸く海賊達と互角に近い形になった事を。
レイグからの進言をいつもの尊大な対応で受諾すると、コスモからダルダロス海賊団とゴンベエ水軍についての戦力、自身が破壊したガレオン船など与えた被害状況を詳細に説明を受ける。
そのコスモの説明する後ろ側には、領主の間を作戦本部として使用する為に、中央に大きな机が設置された。その机の上にはテイルボット領の地図が広げられ、上には今の状況に合わせて帝国軍と海賊達を模った駒が置かれている。
長方形の地図は西側にアセノヴグ大陸と海上都市ハヌイアムが、東側には海と島が点々と描かれ、海賊島には船を模した駒が置かれていた。
セリオスとジョルセアが、コスモの報告に合わせて駒を配置して行くと、報告を聞きながらアインザーが玉座から立ち上がり、地図を広げている机に向かって歩き、その前に立ち止まると地図を睨みながら腕を組んで熟考する。
先んじてパフィからの報告を受けてアインザーは詳細は把握していた。そして新たにコスモから聞かされた海賊達の移動手段であるガレオン船が残り1隻のみである事、そして多数あった小型船も悉くセリオスによって破壊されて残り少ない事を知る。
報告を聞き終えたアインザーが不敵な笑みを浮かべる。
「ふふふ、コスモ、セリオス、お主らの活躍で窮地から活路が見えてきたぞ。褒めて遣わす」
「勿体なきお言葉、ですが変わらずこちらの戦力不足は明白、上皇様、援軍が来るのはいつになるのでしょうか?」
「そうじゃな……一昨日には早馬を出しておるから今頃はアウロポリスに到着して編成に入ってるじゃろう、そこから出発しても早くて4日後じゃな」
「となると、その間にダルダロス海賊団の攻撃がありそうですね……」
「その通りじゃ、パフィが海賊共から聞いた話では明日に総攻撃を始めるようじゃぞ」
「明日か……」
コスモがテイルボット城内の事を思い出していた。城内に設置された臨時病院には落ち延びて来た、海上騎士団の騎士達で埋め尽くされていた。【シスター】、【プリースト】の者達によって、懸命な治療が行われているが、明日までに間に合わない事は明白であった。
現段階で戦力として数えられるのは、薔薇騎士団50名、鋼華傭兵団30名、元ハーバル海賊団10名、"大陸一号"のボルボ船長率いる船員20名である。
ただし、海戦となると頼りに出来るのはハーバル海賊団の船員10名、"大陸一号"の船員20名の計30名のみで、海賊から奪ったガレオン船を動かすだけの最低限の人数しかいない。
地上戦でも広大な島に造られた海上都市ハヌイアムを、残りの地上部隊の80名では完全には守り切れない。どこから上陸するのか予想できないので、陣を敷いて海賊を待ち受ける事も出来ないでいた。
帝国側で英雄級の戦力を持つ者はコスモ、シャイラ、アインザー、セリオス、パフィの5名だが、アインザーは作戦本部で指揮を執る役目、シャイラは薔薇騎士団の統率する立場、パフィはアインザーの護衛として戦線には出れない。
一番自由となる戦力はコスモとセリオスだけであって、この2人の活躍次第で戦況が大きく変わる。
机に置かれたコスモとセリオスを模した駒をアインザーが持ち上げる。
「この戦いでカギを握るのはコスモ、セリオス、お主ら2人じゃ、頼りにしておるぞ」
「お任せ下さい、上皇様、このコスモは帝国の盾、必ずや期待に応えましょう!」
「上皇様、我ら貴族は帝国の従僕です、何なりと申し付けて下さい」
コスモとセリオスが胸を張ってアインザーに答える。
「うむ、後はハヌイアムの町を守る者達じゃな……」
やはり80名の戦力だけでは心許ない、そう感じたアインザーが駒を地図上に戻すと、腕を組み顔を渋くして悩んでいた。後もう一押しの戦力が欲しいのだ。
そんな事を考えていると領主の間の扉が突然開く。
扉からはメイド服姿の女達20名が次々と入室してくる。その先頭に立って居たのは、皇帝別荘の管理人でありアインザーの娘、ヒルディの姿であった。
ヒルディの姿を見ると、その状況を飲み込めないアインザーの表情が一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったようになるが、直ぐに厳しい表情に戻る。
「……お主ら、何用でここに参った?ここはもう戦場であるぞ、早々に立ち去るが良い」
「上皇様、戦況は部屋の外から伺いました。私達も帝国のお役に立ちたいのです。どうか私達を戦列に加えては頂けませんでしょうか」
「ならん!はよ別荘に戻り、守りを固めるのじゃ」
「……それは私が大事な娘だからですか?」
「ぬう……」
アインザーが可愛らしい少女の顔を歪める。ヒルディの言っていた事は図星であり、今回の戦で無関係の実の娘を巻き込みたくない親心があった。
ただでさえ皇帝の娘という事で自由を奪い、40年以上も放った上に、独り身で過ごさせたという後ろめたさがあったのだ。
苦悩するアインザーを見てヒルディが笑顔になって、はっきりと自分の意志を言葉として伝える。
「この生き方を選んだのは私の意志です、上皇様が悩む事はありません。それに私達はこの島の者達に長年、世話になっているのです。皇帝の名を冠する土地を守護する者として、この窮地を見捨てる事は出来ません」
「んぐぐぐぐっ!」
「私の母は元は【インペリアルアーマー】だったんですよ?それに後ろのメイド達も、元は帝国の精鋭だった者が多いのです。大いにお役に立てるかと」
皇帝の別荘で働くメイド達は元は帝国の精鋭だったのだが、戦場で重傷を負い、戦線を退いた者が多かった。その様な者の療養場所として使われていたのが皇帝の別荘であった。
暖かい気候もあって傷を癒すのに十分な環境が整っていて、傷が癒えた者は希望があれば騎士団へと復帰させていた。ヒルディは帝国軍を縁の下で支えていたのだ。
ヒルディがメイド服のスカートを掴みわざとらしく会釈をすると、アインザーが言葉を詰まらせる。しばらくして諦めた顔になると、頭をくしゃくしゃと掻きながら大きく息をつく。
「ふぅ……血は争えんのう、お主の母リージーも身籠って居る時まで、しつこく余の身を守りたいと言って、竜討伐に従軍しおっての……母子共々困った者じゃ」
「まあそんな事が……ふふふっ、でしたら諦めて下さいませ」
「……其方らはシャイラの麾下に入れ、追って命を下す。よいな!」
「はい、仰せのままに」
貴族の淑女の様な立ち振る舞いでヒルディが会釈すると、従者のメイド20人を引き連れて城外に居るシャイラの下へと向かう。
予想外の援軍を得ると複雑な心境ながらも、いつものアインザーへと戻る。そしてコスモとセリオス、ジョルセアとレイグに向かって今後の海賊達の予想し得る動向を伝え始める。
「良いか、海賊は人数こそ多いものの、移動手段が乏しい。それともう一つ分かる事は、海上でのダルダロス海賊団とゴンベエ水軍の連携はありえぬ事じゃな」
「ゴンベエ水軍の船は潰しましたから、前回の様な奇襲は不可能ですね」
「その通りじゃコスモ、よって敵の取る手段は限られる。全ての戦力を船に乗せては、人数差の優位を活かせぬ。進軍途中で陸にゴンベエ水軍を下ろして陸路による進軍をさせる、そうせざる得ない状況じゃ。そして海からは小型船によるダルダロス海賊団の散発的な襲撃があるじゃろう」
「僕らの戦力が少ない事を知っているから、守りの薄い所を狙うか……」
「余ならそうするからな、もし守りの薄い場所を見付けたら、ダルダロス本人が一点突破、乗り込む手筈になっておるはずじゃ。そうなればハヌイアムの町自体が人質となる、そうなったら余の……いや帝国の負けじゃな」
前回の襲撃では海上での決戦で勝利して油断した海賊達が、ばらばらになってハヌイアムの町を襲っていたので、何とか撃退は出来ていた。だが今回は状況が違う、コスモと言う強力な戦力が居ると知っているなら、海賊達もそれ相応の準備と対策を行って来るであろう。
そしてハヌイアムの町が人質となったら戦略的に帝国側の負けである。如何に水際で海賊達の侵攻を防げるかが鍵となる。
アインザーの話を聞いていたジョルセアが疑問に思ったのか、悩んだ表情で質問をする。
「あの……上皇様、ゴンベエ水軍の陸路による進軍ってどういう意味ですか?海上都市ハヌイアムは島になっていますよ」
「ジョルセア、お主、海にばかり気を取られておるな、あるではないかアセノヴグ大陸と海上都市ハヌイアムを唯一繋ぐ橋が……」
「……!そうかテイルボットブリッジがあった!!」
海上都市ハヌイアムとアセノヴグ大陸を繋ぐ橋【テイルボットブリッジ】が存在する。その事を思い出したジョルセアが目を見開いた表情になる。
そしてアインザーがコスモを模した駒を握ると、地図上の【テイルボットブリッジ】の部分に叩き付ける様に置く。
「橋と言えば、お主の独壇場であろう?コスモ」
「……なるほど、俺の職業である【ソードアーマー】としての能力が最大限に活かせる場所って事ですね!」
「ダルダロスが一番恐れている事はコスモ、お主と直接ぶつかる事じゃ。恐らく海賊もそれを承知して戦力として最高の者、ゴンベエを向かわす筈」
「んー確かにコスモちゃんの力は、最初から人質救出まで、海賊達に見せ付けて来たからねー☆ありえそうな展開だよ☆」
コスモの力を嫌と言う程、見せ付けられたダルダロス海賊団はコスモを一番に警戒する。この考えは妥当で、ダルダロス海賊団の理想的な展開は、コスモを避けてハヌイアムの町を制圧する事である。
そして最後に帝国側の勝利条件について話が進む。
「こちらの勝利条件はハヌイアムの町の防衛とダルダロス本人の討伐じゃな。そこで次に重要になるのが海戦じゃ!」
「上皇様、それなら是非、俺に任せて下さい。きっとダルダロスを討って見せます!」
「ジョルセア、お主だけでは厳しかろう、セリオス、お主には悪いが、ジョルセアの護衛を務めては貰えぬか?」
アインザーがセリオスを模した駒を地図上の海上に静かに置くと、セリオスが快く引く受ける。
「はい、上皇様、ダルダロスは技能【瞬歩】持ちですからね。僕が攻撃を防ぎきれば勝機もあるでしょう」
「セリオスくんが付いてくれるなら、100人力だ☆良かったねージョルセアくーん☆君ならきっとハーバル船長の仇も取れるよ!うん☆」
「何を他人事の様に言っておるレイグ、お主もジョルセアと一緒に行くのじゃぞ」
「えっ?」
「えっ?では無い。お主も領主ならば領民達に覚悟を示すのじゃ、父であるジョシュアから厳しい弓の鍛錬を受けているであろう。大陸一と呼ばれたその腕前を発揮してみせい!」
「えええええええっ!!」
まさかの戦線送りに領主のレイグの顔が青ざめる。常に戦いはロイバン提督率いる海上騎士団に任せっぱなしで、自身が戦場に赴いた事は一度も無いからだ。
元々、レイグ自身が争いを好まない性格もあって、戦いには消極的であった。その気持ちが強くなったのも、亡き父で先代のジョシュアの想像を絶する、厳しい弓の鍛錬が原因でもあった。
時には鍛錬を投げ出し逃げた事もあったが、その苦労の甲斐があって弓の神器【ディバロー】を受け継ぎ、大陸一と謳われるほどの実力は付いていた。
「じゃあセリオス!海の方は任せたぜ。俺は必ず橋で海賊達を止めて見せてやる」
「コスモなら大丈夫だね。そしてジョルセア、君の前は僕が守るからお爺様の仇をきっと取るんだよ!」
「あっ、うん……セリオスが守ってくれるなら、俺……頑張るよ」
ジョルセアが男らしからぬ、もじもじとした動きで頬を赤く染め、セリオスを只ならぬ眼差しを見つめていた。その様子を見ていたコスモが心の中で何かもやもやとする物を感じる。
(なんかジョルセアの奴、妙に色っぽいというかなんと言うか……俺の考え過ぎか?)
ちょっとした違和感だが、女になってからコスモは妙に勘が冴えていた。ジョルセアのセリオスを見る目が、頼りにしていると言うよりも、憧れを抱いている様に見えたのだ。
だが互いに男同士、そんな事は無いだろうと、すぐに思い過ごしと考え今は特に気にしていなかった。
そしてダルダロス海賊団の総攻撃に対しての作戦が纏まると、アインザーが玉座に戻り領主の間に居る面々に指示を出す。
「皆の者、明日にダルダロス海賊団の総攻撃が始まる!こちらの勝利条件はダルダロスの討伐、及びハヌイアムの町を守り切る事じゃ!地上部隊の薔薇騎士団を筆頭に鋼華傭兵団とヒルディ率いるメイド隊は、テイルボット城前で待機、海上部隊のセリオス、ジョルセア、レイグ、ロイバン、お主ら4人は30名の船員と共にガレオン船で、ダルダロスを迎え撃つのじゃ!」
「「「ははっ!」」」
「そしてコスモ、お主は1人で【テイルボットブリッジ】の守りに入ってもらう!」
「お任せ下さい!」
「では、見張りを2交代で立てつつ、他の者は休息を取っておくのじゃ、皆の健闘を祈っておるぞ!」
こうして明日の総攻撃に備え各人が動き出す。
コスモやセリオスの人質救出組は、時間の許す限り休息を取る為に城内の客室へと案内される。ロイバン提督も負傷した部下を見舞いつつ、ボルボ船長と共にガレオン船を停泊させている港へ向う。
ジョルセアも自分の船員達に作戦を伝えようと領主の間を出ようとするが、領主のレイグが駆け寄り小声で呼び止める。
「ジョルセアくん……折り入って話がしたいんだけど、時間取れるかな?」
「レイグ様?」
突然の申し出にジョルセアが不思議に思っていると、普段のレイグと様子が違っていた。ふざけた言動も無く、何より顔が真剣そのものであった。
レイグ自身も普段の自分らしからぬ事に気付くと、慌てて普段のチャラ男になってにこにことした顔付きに戻す。
「ほら、前は決戦に向けて忙しかったし、ゆっくり話す機会も無かったからねー☆もしかしたら、今回の戦いで今生の別れになるかもしれないからさ、2人で話したい事があるんだ☆」
「今生の別れなんて言わないで下さいレイグ様、俺が必ず守ってみせますから!」
語気を荒げてジョルセアが胸を叩きレイグに詰め寄る。そのジョルセアの姿を見て、レイグが懐かしむ様な表情になっていた。するとレイグが嬉しそうに答える。
「……ありがとうジョルセアくん、君も色々と準備があるだろうから、それが終わったら僕の自室に来て欲しい、よろしく頼むよ☆」
そう言い残すとバミーネとアルティナの下へと向かい、家族3人で再会を喜びあっていた。ジョルセアが安心した様子でそれを見送ると領主の間から出て行く。
(何か思い詰めた様な感じだったけど、大丈夫そうだな)
そんな事を考えながら、船員達と共に明日の海賊達の総攻撃に備えると、約束通りその日の夜にレイグの自室へとジョルセアが向かって行った。
~
一方、ダルダロス海賊団の拠点、海賊島の砦の一室でゴンベエが【法力僧】のウジハルから治療を受けていた。
「痛っ……も、もうちょっと優しく出来ないのかウジハル!」
「あまり動かないで下さいゴンベエ、腰を壊したら一生モノですからね」
昨夜の大広間で踊り子に扮したコスモからサバ折りを食らい、腰にダメージを負ったゴンベエが痛々しい姿でベッドにうつ伏せで横になっていた。
ウジハルの持つ【癒しの杖】の淡い青い光がゴンベエの腰の上で輝いている。
「しかし、【癒しの杖】が無くなるなんて今まで一度も無かったのですが……本当に見つかって良かったですよ」
「俺だって聞いた事がないぜ、自分の商売道具を忘れる様な奴なんてな」
「……ゴンベエ、過去に居ましたよ。私と状況が違いますが、敵が迫る中で自分の魔法書を部下に探させる愚か者がね。それに比べれば私なんて大したことはありません」
「そんな奴が居たら、一度は会ってみたいもんだ」
パフィによって奪われた【癒しの杖】だが、牢屋の中から発見されていた。その事をゴンベエが嫌味の様に突っつくが、ウジハルが過去にもっと酷い者が居たと返す。
実際ウジハルの【癒しの杖】はパフィによって盗まれたので、無くしたとは言えない。だが過去には敵が迫る中で魔法書を無くし、うっかり敵の侵入を許した者が居たのだ。
そんなやらかしの小噺をしながら治療を続けていると、扉が勢い良く開きダルダロスが部屋へと入ってくる。
すると酒の匂いが部屋に一気に充満する。ダルダロスの片手にはラム酒の入った瓶が握られ、それを呷りながらフラフラとしながらゴンベエの側に寄って乱暴にベッドへと腰掛ける。
その体からは酒特有のアルコールの匂いがする。流石の酒好きのゴンベエもその匂いに顔をしかめる。相当に酒を飲んでいる証拠である。
「おう!ゴンベエ!もう行けるかっ!!」
「この様子を見て分かんねえのかダルダロス、まだ少し時間が掛かる」
「ちっ!使えねえなあ!ゴンベエ水軍の頭領様という者がよー!」
「……おいっ!ダルダロス、いくら人質に逃げられたからってな、真っ昼間から酒を飲んでたら部下に示しがつかねえぞ」
「へへっ、示しならもうつけてやったぜ?人質を監視してた間抜けを切り刻んで魚の餌にしてやったぜ!」
「なんだと?」
「部下達の前でやったからな!今頃、全員きびきびと総攻撃の準備に入ってるぜ!どうだ示しはついてるだろう?ばっはっはっは!」
ダルダロスが顔を真っ赤にさせながら大笑いする。昨晩にコスモ達に良い様にやられ、その怒りを紛らわす為にやけ酒を呷っていた。
ただそれでもダルダロスの怒りは収まらず、人質の見張りをしていた者を皆が見ている前で処刑を行っていた。その残酷な処刑を目の当たりにした海賊達は、次に自分がそうならない様に、恐怖に追われながら総攻撃の準備に取り掛かっていた。
その事をヘラヘラとしながら話すダルダロスを、ゴンベエが鬼の頬面から鋭い視線で睨みつけていた。
「同じ釜の飯を食う仲間じゃねえのか……命を懸けで共に戦う仲間じゃねえのか!なぜそんな事が出来る!!」
「関係ねえなっ!使えねえ者は仲間だろうが切り捨てる、それが世の習いだ!欲しいもんは奪い、要らねえもんはぶっ潰す!海賊ってのは本来そういう稼業なんだよ!!」
「ダルダロス、おめえも密偵からコスモについて報告を受けただろう!あんなの止められるのは神でも無い限り無理だってんだ!」
「それでもだ!舐められたら終わりなんだよ、この稼業はな!ゴンベエ、てめえは甘ちゃん過ぎるんだ!」
コスモ達が逃げたその日の朝に、ハヌイアムの町から密偵が戻り、ダルダロス達に詳細が伝えられていた。特に<インペリアルオブハート>の称号を持つコスモが、各領地で人とは思えない活躍をしていた事が知らされていた。
それ以外にも、ハヌイアムの町に駐留する帝国軍屈指の強さを誇る薔薇騎士団、カルラナで頭角を現して来た鋼華傭兵団が居た事も伝わる。ダルダロス海賊団は海上騎士団と同等以上の戦力と、再び決戦しなければならない事になっていた。
その要因もあってダルダロスが普段以上に荒れていたのだ。
殺気立つダルダロスとゴンベエの間に入ったウジハルが、静かな口調で問い掛ける。
「ダルダロス殿、そんな事を言いにここへ来た訳じゃありませんよね?」
「……けっ、その通りだ。お前らゴンベエ水軍はコスモの餌になって貰う」
ウジハルの問い掛けにラム酒を呷りながら、ダルダロスが目線を合わせずに答える。
「俺達に囮になれって事だな?」
「ああ、その通りだ。こちら側の最高戦力はゴンベエお前だ。お前がコスモを引き付けている間に俺達がハヌイアムの町を襲う、そこで人質でも取れば、いくら相手が強いからと言っても手が出せないだろうよ」
「……元からコスモには、やり返すつもりだったからな、好都合だよ!」
酔ってはいてもダルダロスは、冷静に状況を分析して作戦を立てていた。人数の優位性を活かすには、どうしてもコスモの異常な力が邪魔になる。
そして自身よりも強いゴンベエの事を認め、実力を高く買っていた。その事を含めて導き出したのが、ゴンベエがコスモを引き付ける作戦だ。そして作戦の要となるゴンベエもコスモとの再戦は望む所であった。
「お前らゴンベエ水軍は大陸に降ろす、そこから橋を渡ってハヌイアムの町に行け、そこまでは船で運んでやる」
「ああ、それで良い」
「それと……もし、コスモと戦って勝てない時はこれを使え」
「あん?何だこれは?」
「以前に奴隷を売り払った時に商人から貰った宝具だ。商人によれば、自身の能力値を飛躍的に向上させる宝具だとよ」
ダルダロスが腰に括り付けていた小袋から、良く磨かれた黒い石の嵌った首輪を取り出すとベッドの枕元へと置く。
邪神竜の呪いが込められた宝具【ブラックオーブ】である。
美しく輝く黒い石をゴンベエが懐疑的な目で見つめながら受け取ると、ダルダロスに視線を向ける。
「本当に能力値が向上するんだろうな……どうもこの石からは嫌な感じがするんだが」
「効果だけは保証する、あの若造の商人も俺がやられたら奴隷の仕入れ場所が減るからな。それにその宝具は神の力が宿ると言われてんだとよ。まさしく神の力を借りてコスモに対抗するには打って付けの宝具だな」
「神の力か……」
「俺には俺の、お前にはお前のやるべき事があるだろう?……明日の夜明け前には出発する。それまでに準備だけしておけよ」
そう言い放つと用事の済んだダルダロスが、ベッドから立ち上がり部屋から出て行く。ゴンベエがうつ伏せの状態から体を起こすと、宝具【ブラックオーブ】を手に掴みじっと眺める。
【法力僧】のウジハルは宝具【ブラックオーブ】から漏れ出す邪気を感じ不安な顔になる。その邪気からは人間そのものの負の感情、憤懣、後悔、絶望、憎悪、嫉妬と言ったものが感じ取れたからだ。
「ゴンベエ、その宝具とやらから禍々しい力を感じる。……もしコスモと対峙する事になっても使っては駄目です」
「……ウジハル、俺は約束を果たす為なら何だってするぜ」
「その約束を果たしても亡くなった者は帰って来ないのですよ」
「分かっている……分かっちゃいるが人間ってのはそう簡単に割り切れないもんよ……」
「……ゴンベエ、あなたは1人じゃない。私もいれば付いて来てくれた仲間も居る。それだけは忘れないで下さい」
「ありがとうよウジハル、何、こんなもんに頼らなくても本気を出せばなんてことはねえさ!」
ゴンベエが宝具【ブラックオーブ】の付いた首輪を胸元へしまい込むと、明るい声でウジハルに言葉を返す。だが言葉とは裏腹に、鬼の頬面から覗く目にはどこか儚さを帯びていた。
総攻撃の前日、ダルダロス、ゴンベエのそれぞれの思惑が交差して行く。その行きつく先は違うが、テイルボット城の陥落、海上都市ハヌイアム支配は共通の目標である。
いがみ合いながらも協力するダルダロス海賊団とゴンベエ水軍は、以前とは比較にならない程に油断が無い。それをコスモ達は大胆な作戦で迎え撃とうとしていた。
翌日の夜明け前、拠点の海賊島の港からガレオン船を中心に小型船が囲む形で出港する。とうとうダルダロス海賊団、ゴンベエ水軍の総攻撃が始まろうとしていた。
元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~
を読んで頂きありがとうございます。
私、とても遅筆ではありますが、精力的に物語を書かせて頂いてます。
もしよろしければ、感想や評価を頂けると、とても嬉しいです。
噛み犬と言う名ではありますが、本人は泥水で遊ぶレトリバーみたいな犬
なので気兼ねなく感想や評価をして下さいね。
よろしくお願いします!




