第65話 人質救出作戦2
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
パフィがダルダロスの拠点の調査に向かってから1時間程が経過していた。
牢屋で待っている間に領主レイグの娘アルティナから、ダルダロス海賊団とゴンベエ水軍の情報をコスモが聞き出していた。コスモ達にとっては偶発的に戦った相手であって、詳細は情報は殆ど無かったからだ。
アルティナも今回が初陣では無い、今までも何度か海戦を経験している。その経験則で情報を話し出すのだが、特にゴンベエ水軍の頭領ゴンベエについて思う所がある様子だった。
「ダルダロス海賊団はこの海で一番と言って良い勢力、それに友軍のゴンベエ水軍は人数は少数だが、歴戦の猛者の集まりだ。あの海上騎士団でも歯が立たなかったからな、きっとただの海賊では無い」
「なんか服装が違う海賊が居るとは思いましたけど、あれがゴンベエ水軍だったんですね」
ダルダロス海賊団の服装は、頭巾に白黒の縞模様のシャツに上から軽装鎧で統一していたのに対して、ゴンベエ水軍は、鉢巻に上半身には直接、軽装鎧を装着、下は裾を端折った股引の姿で統一していた。
どちらも船の上で動きやすい服装である。
悔しそうな顔をしていたアルティナが、急に顔を明るくすると嬉しそうに話を続ける。
「それに頭領のゴンベエは残虐なダルダロスに比べてまともな男だ。捕虜となった私達を丁重に扱ってくれたからな、騎士の鏡と言っても良い位だ!」
「ゴンベエか……確かに、手合わせした時は無茶苦茶な奴だったが、仲間は見捨てなかったな」
「なあコスモ……私が思うにゴンベエには何か、思い残した事がある様に感じるのだ。好きでダルダロスと組んでいる様子じゃなかった、そう感じるのだ」
「ですがアルティナ様、事情があるにしろ海賊のダルダロスに協力した以上、帝国はそれを許さないですよ」
「分かっている、もし、コスモが再びゴンベエと出会ったら説得出来ないだろうか」
「……やってはみますが、あまり期待しないで下さいよ。あの男は何か強い意志を持ってる様でしたし……」
「すまないコスモ、色々と私の我が儘を押し付けて」
勝気だけが強い少女と思っていたアルティナであったが、コスモが思った以上に思いやりのある娘であった。一戦交え、捕虜となった身にも拘らずゴンベエの人となりを理解していたのだ。
ハヌイアムの町でも薔薇騎士団や鋼華傭兵団に追われた海賊達の殿を務めた男だ。コスモとの一騎打ちは、色々とアレであったが、アルティナの見立て通りの男と思って良いだろう。
そんなアルティナの一面を見てコスモが微笑んで見つめていると、牢屋の扉が開く。
中に入って来たのは調査を終えたパフィであった。調査結果に自信があるのか、無表情な顔が少しだけ紅潮し鼻息が荒かった。
「むふー!ゲームセットー!隅から隅まで、まるっと調べて来ましたー!」
「そ、そうか、で、どうだった?」
「では、まずアルティナ様の飛竜ポチの件ですが、ゴンベエ水軍の者が砦の屋上で世話をしてましたー、ポチも丁重に扱ってましたね、変わった人達ですー」
「や、やはりあの者らは、ただの海賊では無い!」
「落ち着いて下さいアルティナ様、で、【ヒールの杖】はあったか?」
「それはありませんでしたがー、じゃじゃじゃーんー東の国の【法力僧】が使う【癒しの杖】ならゲットしましたー!」
「【癒しの杖】か……確かセリオスが倒したウジハルという奴が持ってた物だな」
パフィの調査でアルティナの騎乗する飛竜のポチは屋上に居た事が分かった。しかもゴンベエの部下が世話をしていると言うのだ。
乗り手以外に懐かない飛竜は処分するのが戦場での常識であったが、ゴンベエからの厳命なのか、しっかりと世話をされていた。
そして蟻の巣の様な砦内の部屋をパフィが一つ一つ調べて、東の国で使用される杖【癒しの杖】を見つけ出していた。それを短い時間でやってのけたパフィの実力は本物である。
パフィから【癒しの杖】をコスモが受け取る。
形状は銅製の短い杖で、頭に鐶が掛けてあり、揺らすとシャランシャランと音が鳴る。少し【魔力】を込めると、反応し淡い青い光が放たれる。
どうやら【ヒールの杖】の代用にはなりそうであった。
「よし、これでロイバン提督の傷も癒せるな」
「それとコスモさんー、上の階に大きな広間の部屋がありましたー、海賊達が集まっていたので恐らくそこで【踊る】をやる事になるかとー」
「……となると、その間に脱出する事が出来そうだな」
「はいー、コスモさんの踊りの効果は先程の件で証明済みなのでー、ほぼ全ての海賊が集まるかとー」
「じゃあ、人質救出の目途は立ったな!まずはロイバン提督の傷を治そう」
そう言ってコスモが立ち上がるとパフィ、アルティナと一緒に牢屋の外へ出る。通路を挟んだ隣、ロイバン提督と元ハーバル海賊団の船員が入れられている牢屋へと向かう。
牢屋の広間の中央に居る見張りの海賊は、パフィの睡眠薬の塗られた含み針で、相変わらずいびきをかいて爆睡していた。その前を3人が忍び足でゆっくりと通り過ぎる。
パフィがロイバン提督の居る牢屋の扉を解錠すると、コスモが扉を開けて中に入って行く。すぐにロイバン提督が横になっているベッドへと駆け寄る。
いきなりのコスモの登場に驚いた元ハーバル海賊団の船員達が、その場を動けずに居た。
コスモが近くでロイバンの容態を確認する。応急処置は施されているが、かなり危険な状態だ。すぐに【癒しの杖】をロイバンの身体へと掲げる。
「さあ、これで治ってくれよ」
「あ、あのあんたは一体どこから?」
「事情は私が説明する。お前達はコスモの邪魔をしない様にこちらに来るのだ」
「姫さんも何故ここに?一体どうなってんだ?」
アルティナがコスモに代わって、状況が飲み込めない元ハーバル海賊団の船員達に説明を始める。その横でコスモが【魔力】を込め、淡い青い光を【癒しの杖】から放ち、治療に集中する。
次第にロイバンの顔色も良くなり始め、傷口がゆっくりと塞がって行く。苦悶の表情だったロイバンの表情が穏やかになり小康状態になると、目をゆっくり開く。
目の前には踊り子の姿で、杖を握っているコスモが映る。
「い、痛みが引いている……貴女が助けてくれたのか……って踊り子が杖??」
「あはは……そりゃそう思うよな……」
踊り子が杖を持って回復を治療をしていたら誰でも驚く。ロイバンも年甲斐も無く戸惑い驚いていた。コスモが頭を掻きながら、ここまでに至った経緯を説明する。
ロイバンと元ハーバル海賊団の船員全員が、コスモとパフィが救助しに来た事を理解すると、先程決めた大まかな人質救出作戦の話に移る。
その内容は、ダルダロスに呼び出されたコスモが海賊達の前で踊りを披露する。その間に警備が手薄になった所で、牢屋を抜け出し、港に停泊している海賊船のガレオン船を1隻奪って脱出する。そして沖で待機しているセリオスとジョルセアが、その援護に回るという流れだ。
本当なら海賊達が夜に寝静まった所を脱出するという作戦であったのだが、シャガリアンの件で大きな変更を伴っていた。【情熱の踊り】の効果恐るべしである。
間もなく夕暮れ時になる。残された時間が少ない中で、作戦を聞いた各々が自分の役割りを確認して行く。
「ガレオン船を奪うか……ジョルセア船長なら考えそうな事だな、時間は掛かりますが俺達なら船は動かせますよ!」
「海賊船を奪う事で海賊共の戦力を減らすのか、確かに良い案だな」
「船を動かせる様に時間はなるべく多くこちらで稼ぐ、パフィ、俺が連れて行かれたら皆の誘導を頼むぞ」
「任せて下さいー、それよりもコスモさんもしっかりとEFDでー」
「安心しろパフィ、人質さえ居なければ何て事はねえよ」
「コスモ殿、本当に忝い……助けて貰ったこの老骨の命、決して無駄にせぬ、上手く脱出して見せよう」
「提督、あなたが脱出の要だ。皆を導いてやって下さい」
「もちろんだとも!」
脱出までの打合せを済ませると、コスモとアルティナ、パフィがそれぞれ元の牢屋へと戻って行く。全員が戻った後、しばらくして爆睡していた見張りの海賊が目を覚まし、辺りを見回す。
しかしすでに脱出の準備は済んでいた。寝る前と同じ状況を確認すると安心したのか、見張りの海賊が椅子から立ち上がり、眠気覚ましの屈伸運動を始めていた。
後はコスモの仕事次第で人質救出作戦が成功するかどうかが掛かっている。
静かにその時を牢屋の中で待っていると、地下に下りてくる足音が聞こえてくる。コスモの居る牢屋まで来るとその足音が止まる。
「フィオーレ、船長が大広間まで来いと仰せだ。一緒に来て貰うぞ」
「……分かった、今行くよ」
約束通り、夕暮れ時になるとダルダロスの使いの海賊がコスモの迎えに来る。
ダルダロスの使いの海賊が鍵を使って牢屋の扉を開けると、コスモだけを牢屋から連れ出し、扉を閉めた後に見張りの海賊に鍵を渡す。
ロイバンはベッドに臥したまま、元ハーバル海賊団の船員達が牢屋の前で心配そうに、連れて行かれるコスモを格子越しに見つめていた。コスモが海賊と共に地上階にある大広前と向かって階段を上り始める。
~
その頃、砦の屋上ではアルティナの騎乗する飛竜ポチに、餌である生肉を与えているゴンベエが居た。
「よーし、ちゃんと食べるんだぞー。お前の御主人様は俺がしっかりと守ってやるからな」
「モグモグ……キュゥゥゥ……」
飛竜のポチは片足に鎖を繋がれ、餌をしっかりと食べてはいるが、アルティナが心配なのだろうか、あまり元気が無かった。そんなポチを元気付けながら、ゴンベエが面倒を見ていた。
なぜポチがこの場に居るのかと言うと、海上騎士団との決戦でアルティナを捕らえた後、ポチが主人であるアルティナの側を離れないので、ダルダロスがトドメを刺そうとした所をゴンベエが庇った。
そしてゴンベエがポチを監視する条件で、助命して貰っていたのだ。
ポチは飛竜の中でも知能が高いのか、砦に着くとゴンベエの指示を素直に聞いて、屋上に飛び移り待機していた。片足に鎖の枷を付ける時も暴れる事は無く、まるで主人のアルティナが捕まっている事を理解していた動きであった。
その屋上へ続く階段からゴンベエを探していた部下が姿を現す。
「頭、こんなとこに居たんですか、何かダルダロスの旦那が大広間で見世物があるから来いって言ってましたよ?」
「ああ、巫女の舞だろ?……こっちじゃ踊りだってな、戦勝祈願みたいなもんだ。俺はいいからお前らは見に行けよ」
「何言ってんですか、頭は嫌かもしれねえけど、ダルダロスの旦那の船に便乗させて貰うんですから、ちょっとは機嫌取った方がいいですよ」
「あの狂った野郎にか……っち、仕方ねえ。代わりにこの飛竜の面倒はお前が見ておけよ」
ゴンベエはダルダロスとの一件以降、顔を合わせる事は無かった。その時にダルダロスの本性に気付き、距離を取っていたからだ。
しかし約束の2日後の総攻撃では、移動手段の船が無い。仕方なく部下を介してダルダロスの船に乗せて貰う様に交渉をしていたのだ。
ゴンベエの部下が飛竜のポチに目をやると、立ち去ろうとするゴンベエにふと思った事を尋ねる。
「あの頭、ダルダロスの旦那達の話だと飛竜は処分するのが、当たり前って聞いたんですけど、なんで生かしておくんですか?」
「馬鹿野郎っ!こいつをやっちまったら残された御主人の姫さんが可哀想だろうがっ!」
「えっええ!?それだけが理由ですかい?」
「ふんっ、こっちに来てから嫌な事ばかりを思い出すぜ……」
ゴンベエが飛竜のポチを生かしておいた理由は同情では無い、アルティナに対してゴンベエが誰かの姿を重ねていて、悲しませたくないのが最大の理由であった。
それを思い出したゴンベエが、歯を食いしばり悔しそうな表情を浮かべる。渋々ながら部下の忠告を受け、砦内の大広間へと向かって階段を下りて行く。
その大広間だが、すでに海賊達の騒ぐ声が扉の外まで響いていた。
「いいぞー!もっと腰を振らせろー!」
「こ、こりゃたまらねえな!外に居た奴らが絶賛するのも分かる気がするぜ!」
大広間は半円の形をしていて、扉から真っ直ぐに正面に舞台まで続く長い下り階段がある。階段の横には観客席の様に段差で区切られた場所に丸机と椅子が並べられ、海賊達が所狭しと座っている。
舞台は張り出し舞台となっていて、どの場所からもしっかりと見られる。その上ではコスモが【踊る】を実行していた。楽器が得意な海賊が、笛や打楽器で激しい音楽を奏でると、それに合わせコスモが華麗に踊りを披露していた。
舞台の端から端まで、ダイナミックに動き回り、紫色のまとめた髪を乱しながら、手足を大きく広げキレのある動きで表現をする。
コスモの踊りも特訓の成果で踊りが上達していて、曲馬団と同等のレベルに達していた。だが、演じているのは【情熱の踊り】では無い、普通の【踊る】に抑えて踊っていた。パフィの件があってからコスモが配慮した形だ。
それでも技能【魅力】で妖艶さは増していて、海賊達には十分に効果があった。
「ばっはっはっは!こいつは良い!ハヌイアムで落ち込んでた奴らが、元気になってやがる!……フィオーレか……あれも俺のもんだ!」
舞台近くの丸机でダルダロスがラム酒を瓶ごと掴み、気分良くあおっている。コスモの偽名フィオーレの名を呼び、自分の物にしようと企んでいた。欲しい物は何が何でも手に入れる執着心、その悪い癖が見え始めていた。
するとダルダロスの座っていた椅子の横に、呼び出されたゴンベエが現れる。ダルダロスに視線を向ける事無く腕を組み、勢い良く空いていた椅子にゴンベエが座り込む。
「俺を呼んだって聞いたが、何の用だダルダロス?」
「そんな邪険にするなよ、昨日の事を忘れさせようと思ってな、ほら、酒もある。しっかりとあの踊りを見て英気を養ってくれや」
「……ふん、確かに良い舞だな。俺の国でもあそこまで舞える奴はいないな」
「だろう?2日後には一緒に共闘するんだ、頼りにしてるぜゴンベエ」
(お前の目はまだ殺気が籠ってるんだよ、油断ならねえ男だ……)
ゴンベエがダルダロスの目を見て、ジョルセアを逃した事を、まだ完全に許していない事を悟る。その事が分かっているので、警戒をしながら受け取ったラム酒を、鬼の面頬をずらして飲み始める。
すると、舞台で踊っていたコスモがゴンベエの座る丸机の近くまでやってくる。ゴンベエがコスモの顔を見た瞬間、口に含んでいたラム酒を盛大に噴き出す。
「ブッフゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーー!!!」
「お、おいどうしたんだ?ゴンベエ?その酒は良い酒なんだぞ!勿体ねえ!」
「ば、ばばばば馬鹿野郎っ!!あれはコスモだよ!!帝国のっ!!」
「あーーん?ゴンベエ、お前さんが言ってた一騎打ちでも敵わねえ、鉄甲船を沈めたバケモンって奴か?」
「そうだ!いや一騎打ちは違う!あれはまだ本気じゃねえ!そうじゃなくて……何でこんなとこに居るんだ!」
「……あれはフィオーレってんだよ、それにお前さんの話じゃあコスモってのは【ソードアーマー】だろ?踊り子になって踊れる訳がねえだろ……」
「俺は戦った相手の顔は絶対忘れねえ!あれは絶対にコスモだっ!!今に化けの皮を剥がしてやる!!!」
「あっ!おいっ!」
ダルダロスが止める間も無く、騎士殺しの剣と斧を両手に構えて、ゴンベエが舞台の上へと駆け上がる。踊っていたコスモがゴンベエの姿を見ると、踊りを止める。それに合わせて演奏をしていた海賊も手を止める。
すると海賊達に囲まれた舞台が僅かな静寂に包まれる。
「皆は騙せても、俺は騙せねえぞコスモ!あの時の借りはここで返させて貰うぜ!!」
「お、お前、俺の事が分かるのか?」
「当ったり前だろうが!誰がどう見てもコスモだろうが!!」
「くっ、俺は、俺は……また良き理解者を得た気分だよ!ゴンベエっ!!」
「なっ、何で嬉しそうな顔で迫って来るんだ……こ、こっちに来るんじゃねえ!!」
誰もが幼少の頃、親と出掛けた時に迷子になった事があるだろう。周りの大人は迷子の自分を無視して通り過ぎて行く、泣いて立ち尽くして居ると親切な大人が案内所まで連れて行ってくれる。
その案内所で自分の親が待っていた時の安心感を覚えているだろうか。その親の懐に飛び込む子供の様な心理状態、まさに今のコスモと言っても良い。
正体がばれた事が余程嬉しいのか、涙を浮かべて笑顔のコスモが両手を広げて、ゴンベエへと迫って来る。それを気色悪いと感じたゴンベエが、騎士殺しの剣で薙ぎ払おうとする。
しかし、コスモが上体を捻じらせ剣戟を躱す。その後も立て続けにゴンベエが攻撃が繰り出すが躱される。それがまるで踊りの演出の様に見えると、楽器を持った海賊が勘違いをして演奏を再開する。
それに合わせて観戦していた海賊達も盛り上がって行く。
「ゴンベエの頭がわざと手を抜いて盛り上げてくれている!そして負かされた俺達を元気付けようなんて……くっー!俺達は大将に恵まれてるぜ!俺達は一生付いて行きますよ!!」
「けっ、なんだゴンベエの奴、機嫌が悪いと思ったが、中々の盛り上げ上手じゃねえか!」
観戦していたゴンベエの部下や、ダルダロスが盛大に勘違いをしていた。ピンクのビキニアーマーが目に焼き付いていた海賊達はコスモの顔など覚えていない。セリオスの予想通りの結果となっていた。
その中で唯一人、コスモの顔を知っていたゴンベエが必死に本気で攻撃を繰り出していた。
「う、嘘だろ!剣も盾も無いのに……何で俺の攻撃が当たらねえんだ!!」
「ゴンベエ!お前っていい奴だったんだなー!!」
「くそっ!顔は良いのに!妙に気持ち悪いのは何なんだ!!」
コスモがおじさん特有の、親しくされたらすぐデレるの状態でゴンベエへと迫る。
上段から振り下ろされた斬撃は突進する猪を避ける様に、横薙ぎは地面すれすれまで足を広げ前屈で、斜めからの斬撃は上体を深く下げ、ゴンベエからの攻撃を全て踊る様に躱していた。
コスモの【速さ】の能力値は50以上で、【ソードアーマー】とは思えない規格外の速度を誇っていた。相手が並の英雄級ならば、躱す事は容易い。
「くっ、ならばこれでどうだ!合武技【両刃大鋏】!!」
攻撃が当たらず業を煮やしたゴンベエが剣と斧を合わせた技を発動させる。
騎士殺しの剣と斧を握った両腕を左右に大きく開くと、コスモの胴体を挟み込む様に、素早く同時に強烈な横薙ぎを放つ。
その左右から放たれた凄まじい勢いで迫る剣と斧の刃を、コスモがその場で腰を落としながら左右の腕を交差させて、人差し指と親指で摘まむ様に止める。まるで真剣白刃取りを指先だけで行っている形だ。
その様子を見ていた海賊達から大きな歓声が起こる。
「す、すっげえーーーー!!」
「や、やはり欲しい!フィオーレは俺の物にする!!俺は決めたぞ!!!」
ダルダロスと海賊達が椅子から立ち上がり興奮を抑えきれないでいた。
その中で必死にゴンベエが振り解こうと力を込めるが微動だにしない。
「ぐぬぅ……この力は異常だ……まるで鬼、いや神の力が通じた様な力だ……」
「ゴンベエ……出会った形が違えば、友人になれたのにな……」
コスモが物悲しい表情になると、摘まんでいた騎士殺しの剣と斧を一気に振り払う。その力にゴンベエが体勢を崩すと、その隙を逃さずコスモがゴンベエの正面から抱き付き、腰に腕を回す。
「な、何をする気だ!!」
「安心しろ、ちょっと眠って貰うだけだ!」
抱き付いたコスモの腕が万力の様に締まって行く。ゴンベエの装備していた朱色の鎧にひびが入り、次第に体が締め上げられていく。
「ぐっううう……こ、こんな事が……」
「ふんっ!!」
ギュゥウウウウウウ!!ズゴゴゴゴゴゴゴ!!
「うぎゃああああああああああ……」
必殺の一撃音と共にゴンベエが断末魔を上げるが、海賊達の興奮状態の歓声と、楽器の奏でる激しい音でかき消されていた。ゴンベエがコスモに抱き着く様な演出に見えているのか、誰もゴンベエが倒された事に気付いて居ない。
泡を吹きぐったりとしているゴンベエがコスモにもたれ掛かると、コスモがその体を肩で担ぎ上げて舞台を降りて行く。近くにあった長椅子にゴンベエを寝かすと、何事も無かったかのように周りに居る海賊に声を掛ける。
「これで前半の踊りは終わりだ!これから休憩に入る。その後に後半の踊りを始めるからな!楽しみにして待っておけよ!」
「「「わああああああああっ!!」」」
すでに海賊達の興奮は最高潮に達しており、誰もがコスモの行動を演出の一部だと思い、疑問に思う者は居なかった。
囲われた海賊達に手を振りながらコスモが笑顔で大広間を出ようとすると、扉の前でダルダロスが立ち塞がっていた。
「フィオーレ、見事な踊りだったな」
「気に入ってくれたかい、ダルダロス船長?」
「ああ、大満足だ。これで部下達もやる気が上がるだろうぜ」
「そりゃ良かった、シャガリアンの旦那も喜ぶよ」
コスモの踊りを称賛するダルダロスだが、その目には狂気の片鱗が見えていた。絶対に自分の物にするという獣の様な目付きだが、皆が居る手前、それを抑えている様子だった。
そしてシャガリアンの名で思い出した様にコスモに問い掛ける。
「そういえば今頃は、北国の海もこっちと同じ様な暑さなのか?」
「……えっと、そうだな海水浴をする人で賑わってる筈だ」
「ほう、そうなのか……じゃあテイルボット領を手に入れた後、お前を連れて北国の海を制覇してやる」
「ふっ、楽しみにしてるよ船長」
他愛の無い会話を済ますとダルダロスが扉から離れ、コスモが大広間の外へと出て行く。その後ろ姿を見ながらダルダロスが舌なめずりをしていると、会話を聞いていた1人の海賊がダルダロスに声を掛ける。
「あ、あの船長……俺は北国の生まれで、フィオーレの言ってた話ですが、おかしな点が……」
「なんだ?おかしな点?」
海賊の男がダルダロスに耳打ちをして、コスモの話の内容でおかしい点を伝える。その話を聞いたダルダロスの表情が、次第に険しく豹変していった。
大広間の外に出たコスモが辺りを見回すと、見張りが誰も居ない事に気付く。たかが踊り子1人が海賊島から逃げられる心配は無いと油断しているのだろう。
誰も居ない事を確認するとコスモが急いで屋上へと駆け上がる。予定通りなら、すでに牢屋からは人質が全員脱出している。残りはアルティナの飛竜ポチだけだ。
(これだけ時間を稼げば大丈夫だろう。後はポチだけだな!)
牢屋を出てから時間が大分経っていた。コスモが予定通りに人質救出作戦が進んでいる事に笑みを浮かべる。ポチを救出した後は、この場から自力で脱出するだけとなっていた。




