第62話 ハヌイアム市街地戦3
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
燃え盛る鉄甲船から、次々と海賊達が飛び降りて行く。アインザーの【ファイアーバードの書】によって、すでに船体の半分以上が燃えていた。
コスモがこれ以上延焼しては不味いと気付き、急いで船に刺さった銛の縄を手繰り寄せていた。
「こ、これ以上燃えたら、人質が助かりませんよ!上皇様っ!」
「ぬぬぬ、シャイラ!お主どうにかせい!!」
「はい、分かりました上皇様!コスモ殿、もう少し船をこちらに寄せて下さい!」
上皇アインザーの命を受けると、シャイラが魔剣を鞘に納めたまま、柄を握って半身を捻って腰を落とすと力を溜め始める。明らかに魔剣を使った技を放とうとしていた。
だがコスモはシャイラの言う通りに、燃え盛る船の鎮火を任せようと一生懸命に縄を引っ張っていて気付いていない。
ようやく燃え盛る鉄甲船を港近くまで引き終えて、安心していたコスモが後を任せようと振り返るとシャイラの身体から翠色の闘気が溢れ出ていた。
「コスモ殿、船から離れていて下さい!」
「あ、あの……シャイラ殿、その構えはどう見ても奥義系ですよね……」
「ハアアアアアアアアアアアア!剣奥義【竜断剣】!!」
「だからひとじちぃぃぃぃ!!」
コスモの嫌な予感が的中する。
コスモが止める間も無く、シャイラの魔剣が居合いの様に抜かれると、刀身を包んでいた翠色の光が一気に巨大化する。
それを上段から一気に振り下ろすと、巨大な翠色の斬撃が、燃え盛る鉄甲船の船首を中心に貫通すると、縦に綺麗に真っ二つに割れて行く。
そして威力を保ったまま飛んで行った斬撃は、海の彼方まで続き海を2つに割っていた。
半分に切断された鉄甲船の船体が綺麗に、横へゆっくりと倒れて行くと、逃げ遅れた海賊達が次々と海へ飛び降りて行く。
飛び込んで沖まで逃げる海賊達をゴンベエが必死に救助していたが、鉄甲船を一刀両断される所を見て改めて戦っていた相手が、本物の鬼だと言う事を思い知らされていた。
「数多の海戦で無敵を誇った鉄甲船を両断するなんて、信じられん!」
「はあはあ……頭、ありゃー鬼だ。人質ごと攻撃してきやがった」
「ああ、あんな血も涙も無い鬼畜な奴らは見た事が無い、バンディカ帝国ってのは野蛮人の集まりだな……」
「ダルダロスの旦那の情報とは何もかもが違い過ぎる。一度、この事を伝えた方がいいですぜ」
「海上騎士団だけじゃないってのは聞いてないからな……お前らっ!急いで撤退しろ!」
事前にダルダロスから聞いていた情報とは違う事に、ゴンベエが怒っていた。そのせいで旗艦の鉄甲船を失ってしまったのだ。
そしてゴンベエのコスモ達に対する意見は、ごく自然で真っ当であった。通常、戦場で人質が居る場合は身柄の保証の交渉から入るのだが、コスモ達はいきなり実力行使をして来たのだ。
東の国では領主が戦いに敗れると、反逆の意志の無い証として親族を人質に差し出す事が良くあった。それを無視して、人質ごと攻撃するという事は掟破りに等しい行為なのだ。
残った海賊達も乗り捨てて漂っていた小型船に乗り込むと、ダルダロスの下へと一斉に撤退を始める。
人質ごと攻撃したシャイラの行動は、アインザーの命令を優先した結果であり、悪意は無いのだが完全に人質の事を失念していた。
だが大型船である頑丈な鉄甲船を難なく、半分に断ち斬ってみせたシャイラの技量は、【ドラゴンスレイヤー】の名に恥じぬものであった。
ちなみに未だに船に乗った人質は見つかってはいない。
「私の魔剣ムーンバルクは、曲線を描く刀身が特徴で、居合斬りに特化した魔剣、この【竜断剣】で数多の竜達を屠って来たのです」
「うむ、久しぶりに見たが、相変わらず素晴らしい技じゃな。褒めて遣わすぞ!」
技を放ち終えて魔剣ムーンバルクを華麗に鞘に納めると、誇らしげにシャイラが説明をしていた。それを上機嫌にアインザーが褒めているが、その横ではコスモとセリオスの表情は真っ青にして人質を探していた。
「セリオス!人質を探すんだ!まだ船に残ってる筈だ!」
「分かったよコスモ、でも、船がどんどん沈没してるんだけど……」
「そ、そういえば……人質が居たんでしたね……め、めんご」
人質が居た事を思い出したシャイラ(65歳の爺)が無表情のままに、アインザーに続いて手を猫の様に曲げ、少し恥ずかしそうに、あざとい仕草で誤魔化していた。
この2人は若い娘の姿である事を良い事に、どこで覚えたのか、この仕草で全てが許されると思っているらしいが、世の中はそんなに甘くはない。
するとセリオスが沈んで行く鉄甲船から、人の入った鉄の檻を発見する。
「コスモ、鉄の檻があそこに!きっと人質だよ!」
「な、なんてこった!海に沈んでるぞ!」
コスモが慌てて鎧兜を外すと、胸の丈の短いビスチェとローレッグのパンツ1枚になる。それをセリオスが目を両手で覆い見ない様にすると、その横ではアインザーがにやけた顔で凝視していた。
休養で泳ぎに来たのに、まさか救助の為に泳ぐ嵌めになるとは、コスモも想像していなかった。だが人質の危機的状況を見たら、自然と体が動き海へと飛び込んでいた。
海に飛び込むと海底までかなりの深さがあった。周りには鉄甲船から落ちて来る木片や縄などが浮遊していて視界が悪い。
その障害物を掻き分けながら、海中の中でコスモが鉄の檻を探し始める。
そしてゆっくりと人の入った鉄の檻が、海の底へと沈んで行くのを見かけると、急いで泳ぎ駆け付ける。鉄の檻は大人が屈んで入れる程の大きさで、中に入っている人質が力無く漂っていた。
(くそっ、待ってろよ、直ぐに助けてやるからな!)
コスモが鉄の檻をしっかりと握ると、太腿から膝、足首を連動させてうねりを加えて、全身を使って波打つ動きで、一気に力強く蹴り出す。
英雄級の能力値もあって、海中の中を矢を放つ様な速度で海面に向かって泳ぎ出す。
一気に海面から空高く舞い上がる様に飛び出すと、鉄の檻を抱えてそのまま岸へと着地する。
ゆっくりと地面に鉄の檻を下ろして中の人質を確認すると、金髪の肩に懸かる長さの美青年が入っていた。その青年は息をしておらず、ぐったりとしていた。
コスモが急いで鉄の檻の扉を掴むと、力任せにこじ開ける。
「ふんっ!!」
バギャン!!
こじ開けた鉄の檻の扉を投げ捨てると、中の青年を外に出して横に寝かす。コスモが胸に耳を当てるが、心臓が動いていない。急いで人工呼吸を施そうとするが。
「待って!コスモ、君の唇をこの男に取られるのは、何となく嫌だから、僕が人工呼吸をするよ」
「そ、そんな事気にしてる場合じゃない……けど、そう言うならセリオスに任せる……」
なんとなく大事にされるんだな……と乙女心に響いたコスモが、恥じらいながら素直にセリオスに救護活動を譲ると、セリオスが躊躇する事無く、青年に人工呼吸と心臓マッサージを始める。
美少年のセリオスと美青年の人工呼吸を目の当たりにした、アインザーとシャイラが興味津々になって見守っていた。
「何じゃ……この抑え難い気持ちは……」
「上皇様が仰りたい事は何となく分かります……」
「なんかドキドキするぞい……」
「わ、私もです……」
「……2人が原因なんですから!反省して下さいよ!」
アインザーとシャイラが頬を赤く染め、セリオスの必死の救護活動を見ながら、もじもじしながら好き勝手言っていた。それをコスモが叱ると、普段の威厳も無くなってシュンとして反省した様な面持ちとなる。
「ごほっ!ごほごほっ!」
「ふー……何とか息を吹き返したみたい、良かった!」
セリオスの懸命な救護活動で青年が息を吹き返す。しばらく咳き込むと周りを見渡し、自分が助けられた事を理解すると、静かな口調で自己紹介を始める。
「あ、あの俺はジョルセアって言います、助けてくれてありがとうございます」
「ジョルセア……確か海上騎士団に加わったハーバル海賊団の人だよね?」
「はい、朱色の鎧の武器を沢山持つ男に、奇襲を受けて俺もやられたんです。そこから鉄の檻に入れられて、気付いたら船が燃え始めてて、そこから海に落ちて、もう駄目かと思ったら綺麗な女の人が助けに来て……そこから記憶が無いんです」
ジョルセアがそこまで話すと、コスモがアインザーとシャイラを恨めしそうに睨み付ける。2人はますます、肩身を狭くする。
するとセリオスが、万全でないジョルセアの体調を気にして、話を途中で切り上げる。
「溺れかけた所を救助したばっかりだし、一度テイルボット城に戻って、休んでから話をしようか」
「は、はい、あのもう一つだけ聞きたいんですけど、俺に人工呼吸をした人って……」
「ああ、それなら僕だよ。男で悪いけど、背に腹は代えられないからね」
「あ、いえ……助けて貰ったので、そこは気にしていません……」
ジョルセアが自分の唇を指で擦りながら、何か考えている様子だった。その仕草も美青年ならではなのか、妙に色気があった。
救護活動が終わるとあれだけ騒がしかったハヌイアムの町に、いつもの平穏が訪れていた。
沖で待機していた船長のダルダロスが、戻ってきた部下やゴンベエからコスモ達によって襲撃が阻まれた報告を受ける。そして実力者のゴンベエを返り討ちにしたコスモ達を警戒すると、仕切り直しの為に拠点へ向かって退却を始める。
ダルダロスはテイルボット領内の敵戦力は全て調べ上げていたが、コスモ達が居る事をまるで知らなかった。それもその筈でコスモ達は今日ハヌイアムに到着したからだ。
海賊が去った後は、鋼華傭兵団にハヌイアムの町の中を警戒して貰い、海賊が再度、襲撃して来たら連絡する様に依頼する。
薔薇騎士団は皇帝別荘へと戻って、装備を整え次第、テイルボット城へと集まる様に隊長のシャイラが指示を出す。
ハヌイアムの町を救ったコスモ達も一度、テイルボット城へと戻って領主のレイグに報告と、今後の対策を練る為に、馬車に乗り込み向かって行った。
~
テイルボット城に到着すると、決戦に敗れた海上騎士団の騎士達が、少数だが戻って来ていた。その多くが怪我を負っていて、城内は野戦病院の様に怪我人で溢れていた。
その中で領主のレイグへと報告を行うのだが……。
「コスモ達の活躍のお陰で今はどうにかなったが、レイグよ、お主、この大失態どうするつもりじゃ?」
「は、はいー!それはもう、僕の全力を尽くして、挽回したいと思っております☆領地替えだけは無い様にお願い致しまーっす☆」
テイルボット城、領主の間でアインザーが玉座に座り、その前に領主のレイグが跪いていた。近くにはセリオスが立って居る。シャイラの方は城門で薔薇騎士団の指揮を執っていた。
少女姿のアインザーが自身をアインザーの孫と自称してレイグに説明すると、皇族特有の真紅の髪を見て、納得した様子で必死におべっかを使い、領主の立場を守る事に努めていた。
ちなみに孫と称してはいるが、周りが混乱しない様に上皇様と呼ぶように仕向けていた。本当は本人なのだが、それを言っても信じられる事は無い、仕方の無い処置であろう。
海上騎士団が決戦で敗れはしたものの、コスモ達の活躍によって一時的に海賊達の襲撃を防いだが、まだ問題が残っていた。
人質になったジョルセアは救助できたが、もう1人の重要人物、レイグの娘アルティナが未だに捕まったままである。ジョルセアの話だと他にも捕まった者が何人か居る様なのだ。
もう1つの問題は戦力が減ったといは言え、未だにダルダロス海賊団の方が優勢である事だ。
人質を盾にダルダロス海賊団とゴンベエ水軍が同時に、別方面から侵攻を開始すればコスモと言えども、ハヌイアムの町を完全に守る事が出来ない。
今後の対策に頭を悩ませていたアインザーの前に、救助されたジョルセアがレイグの横で跪く。
「上皇様、俺に、もう一度機会を与えて下さい。必ずアルティナ様や他の人質を救出して見せます!」
「お主、ジョルセアと言ったな、ダルダロス海賊団の居場所を知っておるのか?」
「はい、俺は元はハーバル海賊団、ここ一帯に居る海賊団の拠点は全て知っています」
「ふむ……だが、救出すると言っても人質は大人数居るのじゃろ?お主だけではどうにもなるまい」
「それでしたら、敵の船を奪えば問題はありません。人質の中には俺の仲間の船乗りもいますので、大抵の船を動かす事は出来ます」
「海賊の船を奪う!逆転の発想だね!僕もそう考えてたんだよ!さすがジョルセア君!頼りになっるぅー☆」
「レイグ、お主は少しは自分で考えぬか……」
相変わらずのレイグのノリにアインザーが呆れた顔で苦言を漏らす。しかしジョルセアの言動は元海賊とは思えないものであった。口調に礼儀作法、冷静な判断力と勇敢な性格、海賊であったのが嘘の様だ。
ダルダロス海賊団の拠点が分かった所で、次に人質救出の手段が主題となって行くが、それを誰が行うのかが課題となる。ジョルセア1人だけでは心許ないし、敵に顔も割れている。
「海賊にばれる事無く侵入して人質を救出後に、海賊の船を奪って逃走。これを同時にこなす者など、誰かおるかのう……」
「上皇様、1人適任者が居ますよ。本人は凄く嫌がると思いますけど……」
「セリオス、それは一体誰なのじゃ?」
「あそこに居るじゃないですか」
アインザーがセリオスの指差す方向を見ると、領主の間の入口扉で見張りの騎士と揉めている女が1人居た。どうやら領主の間に入ろうとした女が止められた様子だ。
「だーかーらー!俺はコスモだって言ってんだろ!」
「コスモ様はピンクのビキニアーマーを着用されている、女!あまりしつこいと牢屋に入れるぞ!」
「今はビキニアーマーを乾かしてて、この服しかねえんだよ!それにコスモだって一目見れば分かるだろ!」
「テイルボット領の救世主、<インペリアルオブハート>のコスモ様を騙るとは、何という不届き者!」
そこにはレイグの妻、バミーネから借りた赤いワンピースのコスモの姿があった。ちなみにバミーネは今だに敗戦のショックで寝込んでいた。
ジョルセアを救出した時に、海で服が濡れてしまったので、城内の浴場で体に付いた海水を洗い流した後に、着替えていたのだ。
するとコスモである事を証明する、ピンクのビキニアーマーが装備出来ず、地方都市カルラナでもあった、【コスモ本人に気付かない呪い】が発動していた。
その様子を見ていたセリオスが、見張りの騎士に事情を説明すると騎士がコスモに頭を下げ、謝罪していた。そして不機嫌そうな顔のまま、コスモがアインザーの前へと歩いて行く。
「どうしたのじゃコスモ、何か揉めていた様じゃが……」
「ビキニパラダイスのせいですよ!あれのお陰で、俺がビキニアーマーを着ていないと、誰だか分からないみたいなんです!ほんっーとに頭に来ますよ!」
「何を言うとるのじゃ?コスモはどう見てもコスモじゃろ……」
「くっ……上皇様も分かって下さるとは……セリオス、まだ俺は帝国を好きでいられるよ……」
「よしよし、コスモはコスモだからね、良かった良かった」
「一体どういう事なのじゃ?」
コスモの言っている事が飲み込めないアインザーが戸惑っていた。そこで事情を知るセリオスが分かりやすく、こうなった経緯を説明すると、話を聞いたアインザーが捧腹絶倒する。
「ぶはははははっ!な、難儀じゃのう!あの鎧がお主の存在証明とは……メデウス商会も悪よのう……ぶはははははっ!」
「なあ、セリオス、何か急に帝国を壊したくなって来たよ、俺……」
「上皇様はいつもの事だよ、ほっとけば大丈夫だよ」
コスモが先程と打って変わって真剣な顔で青筋を立て、帝国全兵力に匹敵する武力を持つコスモが、帝国の破壊衝動に駆られていた。するとセリオスが手慣れた様子で、コスモを宥め、落ち着かせていた。
アインザーが笑い終えると、目に浮かべた涙を袖で拭ってセリオスの言っていた事を理解する。
「つまりじゃ、そのコスモの存在感の薄さを利用して、ダルダロス海賊団の拠点へと潜り込ませる訳じゃな!」
「その通りです、上皇様。海賊達はコスモの姿、ピンクのビキニアーマーを目に焼き付けております。必ずや成功するでしょう」
「な、何か俺の存在価値を利用されてる様で、嫌な感じなんだが……」
案の定、コスモが作戦内容を聞いて否定的になっていた。ただでさえ、ビキニアーマーに存在感を奪われるという屈辱を味わっているのに、さらに見世物の様に使われるのは誰でも嫌にはなる。
すると、跪いていたジョルセアがコスモの足元へと頭を向けて、作戦に参加するように懇願する。
「コスモ様、嫌になる気持ちはお察し致します。ですが、勇敢に戦い捕まった者の為に、そこを忍んで、協力して下さい!俺はレイグ様に救って貰った恩を返したいのです!」
「ジョルセア、お前って奴は……」
「ひゅー!コスモちゃんハニーの赤のワンピース似合ってるねえ☆どこぞの姫と言っても違和感なっしんぐー☆」
「レイグ様はちっと黙ってて下さい……張っ倒しますよ?」
生真面目なジョルセアとは対照的に、レイグの軽口に少し殺意を漏らすコスモが、ジョルセアの前で屈み込む。そして声が周りに聞こえない様に小声で、ジョルセアに問い詰める。
「どうしてそこまでする?元海賊なら、レイグ様を縛ってダルダロスに差し出せば、幹部待遇で迎えてくれるだろうぜ?」
「ダルダロスは……俺のお爺様、ハーバルの仇なんです。それに、レイグ様、バミーネ様、アルティナ様は俺の事情を聞くと、元海賊の俺を受け入れてくれたんです。しかも家族の様に扱ってくれて……凄く嬉しかった」
「なるほどな……」
ジョルセアが嬉しそうな表情で話していると、コスモがその肩に手を当てる。
技能【慈愛】によってジョルセアの心の色が見えて来る。広大な海を表す紺碧に、透き通る様な青色の階調の空が映し出される。その中心には船を模した焦げ茶色、その船に白色と黄色に輝く点が多くあった。
仲間を思いやる気持ちが、祖父の復讐心よりも遥かに勝る、仁義に篤い心の持ち主であった。
ハーバル海賊団は主に商船を襲ってはいたが、必要な分だけを奪い、人に危害を加える事はない正統派の海賊団だった。しかも取った物は、僻地の島々で暮らす貧しい者達へ分け与える義賊的な側面が大きかった。
邪神竜討伐後、孤児となった子供達を受け入れ、希望する者だけを海賊に迎え入れていた。時には同業の荒くれ者を、海上騎士団に代わり討伐していた事で、島民からは絶大な信頼を得ていた。
だが、年を経るとハーバルの力も衰える。それを契機に元孤児で仲間だったダルダロスが独立すると、凶行に走り始める。そしてそれを止めようと、ハーバル海賊団とダルダロス海賊団が衝突したのだ。
「ジョルセアお前の気持ちは解った、俺も協力する」
「あ、ありがとうコスモ様!」
「あと……歳が近いんだ、様は無しにしてコスモって呼んでくれ」
「じゃあコスモ、一緒に人質達を救出しよう」
レイグの心の色を見て、決心したコスモが協力を申し出る。ジョルセアが立ち上がって、コスモが隣に立つと、背丈も近く美男美女で絵になる。
その雰囲気が気に入らなかったセリオスが間に割って入り、距離を取らせる。押されたジョルセアが戸惑いながら、重要な詰めの部分をアインザーに上申する。
「上皇様、後は人質ですが、恐らく牢屋に移されていると思います。【鍵開け】が得意な者が居れば、救出の助けになるのですが……」
「ふむ、【鍵開け】か……1人心当たりがあるが、ちょっと問題児でのう」
【鍵開け】が得意な者に心当たりがある様だが、アインザーが顔をしかめている。あのアインザーが躊躇する程の人物だ、余程性格に難があるのだろうと予想が付く。
アインザーがおもむろに玉座から立ち上がると、大きく手を3回叩く。
パンッパンッパンッ!
コスモ達が何をしているのか理解できないまま、アインザーを見つめていると、玉座の後ろから1人の少女が現れる。
少女の姿は黒の頭巾から少しだけ見える紫色の短い髪に褐色の肌、緋色の瞳が特徴的で、全身を黒い外套で覆い、黒の鎖帷子に、黒の半ズボン、黒のタイツにブーツ、太腿には小型のナイフを巻き付けた皮ベルトを装着している。口元は黒のマスクで覆い隠し、見えない様にしていた。
その黒い少女が領主の間へと、皆の目を盗みいつの間にか侵入していた。
「これ、パフィ皆に挨拶せぬか」
「えー、じいちゃん、今回休養って言ってたじゃんー。私やだよ海賊の拠点なんか行くの面倒だし……」
「じいちゃんでは無く、今は上皇様と呼ぶのじゃ」
「はーい、じょーこーさま!」
「あ、あの上皇様、その少女は?」
「あーコスモさんと皆さん初めまして、私は【インペリアルダークストーカー】のパフィです。主な仕事はじょーこーさまの側であんぶってまーす」
「あ、あんぶってる?」
「余の暗部、つまり裏の護衛者の事よ」
気だるそうに話す少女の名はパフィと言う。元々暗殺を稼業とする一族だったのだが、邪神竜の眷属に一族が襲われていた所を、アインザーによって救われ、それ以降、アインザー専属の陰の者として働いていた。
そしてその暗部を担っていた夫婦の間に生まれたのが、パフィであった。幼少の頃から、暗部として両親から技術を叩きこまれ、常にアインザーの身を守っていた。
少女になったアインザーの情報が40年の間、外部に洩れていなかったのは、パフィが敵の暗部の者を陰で処理をしていたからである。
表の護衛はシャイラが、裏の護衛はパフィと言われる程の実力者だ。そしてアインザーにとってはもう1人の孫と言っても良い存在だった。
「【鍵開け】なんてコスモさんの怪力でこじれるじゃん……ジョルセアさんを助けた時に見てたでしょ?じょーこーさま」
「こ、こじれる?……と言うか、見てたのか?」
「まあ、じょーこーさまの護衛だからね。ちなみにムリギュの洞窟の罠もほとんど私がかいじょったから、感謝してねー」
アインザーの命によって、ムリギュの洞窟の罠を解除、地図の作製をしていたのが、パフィであった。それにコスモが驚いていた。年端もいかない少女が、上級の能力値を持つ冒険者でも苦戦する洞窟を踏破していたのだ。
「これで役者は揃ったのう、では早速、人質救助に向かって貰おうかの」
「はーい、じょーこーさま!1つ質問ー!」
「なんじゃ、パフィ」
「帰りは船を奪うとして、行きはどうするんですかー?」
「……そうじゃったな」
すでに海上騎士団の船は全滅している。そして海賊の船である鉄甲船も真っ二つにして海の底だ。使える船が一艘も無いのだ。最後の最後で、難題が現れてしまった。
皆が頭を悩ませていると、領主のレイグが思い出した様に解決策を提案する。
「それでしたら、僕の愛船を出しましょう!ハニーとの海の上でのランデブーで使っていた船ですが、中型船で速度もばっつぎゅーん☆」
「の、乗りたくない……けど、それしか手が無いか」
「すまないコスモ、俺が我が儘を言ったばかりに……」
「じゃ、これで問題は解決だねー」
「ではお主たちに、人質救出の任を与える。お主たちの働き次第でみず……領民達の命運が掛かっておる!よいな!」
(まだ水着大会の事を諦めてないんだな……)
こうしてダルダロス海賊団の拠点へと向かう手段が揃う。コスモ達の情報が海賊達に知れ渡るのも時間の問題であり、迅速な人質救出が急務となる。
その日は、準備を整える事で1日が終わり、翌日には出航出来る目途が立った。後は、急ごしらえで練られた作戦を実行するだけだが、ここでもひと悶着ありそうであった。




