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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第61話 ハヌイアム市街地戦2

・コスモ(女)


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者

 職業は【ソードアーマー】


 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた




「きゃっ!」


「女が戦場に出るから、こうなるのよ!ここで葬ってくれる!」


 東の国の海賊の頭領ゴンベエが、薔薇騎士団の1人を力でねじ伏せると、手に持っていた騎士殺しの槍を、大きく振り上げ突き刺そうとする。


ガギィィィィィン!!


 しかしその槍は届かず、鋼の大盾によって防がれる。鋼華傭兵団の【ランスアーマー】バガンの鋼の大盾であった。


 地方都市カルラナでのコスモとの一騎打ちの後、コスモの護衛として依頼を続けていたが、その真面目な仕事振りを見ていたオルーガにスカウトされ、鋼華傭兵団に入団していた。


「やらせねえぞ!東の騎士!」


「くっ、小癪な奴め、お前から血祭に上げてやる!」


 ゴンベエが標的をバガンに変えて、攻撃しようとすると、今度はゴンベエに向かって赤く染まった、斬撃が飛んでくる。それをゴンベエが、大きく一歩後退して躱すと、斬撃を放った男を睨み付ける。


 その攻撃を放ったのは、金髪の尖った髪に頬の傷、鋼華傭兵団の団長オルーガである。技能【紅華剣】で当てるつもりで放った斬撃が、軽く躱されゴンベエとの実力差を感じていた。


「こいつは、俺達だけじゃあまずいな……」


「おのれえ、次々と邪魔をしやがって!」


 思った様に戦えないゴンベエが、怒り狂うと騎士殺しの斧を大きく振りかぶり、バガンの鋼の大盾に思い切り叩き付ける。


ガイィィィィィン!!


「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!」


 バガンの巨大な身体が鋼の大盾ごと、10歩後ろに押し出される。とてつもない【力】をゴンベエは持っていた。当のバガンはコスモの攻撃を思い出し、冷静さを保ったままであった。


 しかし、ダメージが大きく、その場で動けずに居た。


「姐さんほどじゃねえが……結構、効いたぜ……」


「だ、大丈夫ですか!私のために……」


「人を守るのが【ランスアーマー】、いや、アーマー職の仕事だ!気にするな!」


 コスモ程の威力では無いが、バガンがかなりのダメージを受ける。庇っていた薔薇騎士団の女騎士が、心配になって声を掛けるが、バガンが虚勢を張って答える。


 そこへすかさず間合いを詰め、ゴンベエがトドメの一撃を加えようと、騎士殺しの斧を大きく上へと振り上げていた。


「俺様の一撃を耐えた事は、褒めてやる。だが、これでトドメだ!!」


「くそっ……ここでやられるのか」


 2撃目を防げないと悟ったバガンが、諦めの表情を浮かべる。


 だが、振り下ろされた騎士殺しの斧は、ハート型の盾によって防がれる。


ガギィィィィィイン!!


「ぐぬっ!もう来たのか!」


 ゴンベエがハート型の盾の持ち主を見て、大きく後退して間合いを取る。


「バガン!良くやった!さすが、俺に挑んだ男だけの事はあるぜ!」


「あ、姐さーーーーん!!」


 コスモがぎりぎりの所で駆け付ける。バガンが今にも泣き出しそうな顔で、コスモを見つめる。


 続けて後ろから薔薇騎士団の隊長シャイラが現れると、薔薇騎士団の女騎士達、鋼華傭兵団に命令を出す。


「薔薇騎士団と鋼華傭兵団は下がっていなさい!ここからは、我々が受け持ちます!」


「た、隊長!」


 バガンと同じ様に町娘の格好をした薔薇騎士団の女騎士達が、隊長シャイラの登場に安心した様子を見せる。命令を受けると前線から後方へ下がり、傷を負った者の手当に入る。


 すると、コスモがゴンベエの前に一歩出て一騎打ちを申し込む。


「多数で1人を倒すってのは俺の性分じゃねえ!どうだ東の国の騎士?俺と一騎打ちで勝負するってのは?」


「なんと……鬼ながら、武士道にも通じているとは天晴な奴だ。俺の名はゴンベエ!一騎打ちはこちらも望む所だ!」


「俺の名はコスモ、<インペリアルオブハート>のコスモだ!思う存分やり合おうぜ!」


「では、コスモ!いざ参る!!」


 ゴンベエが一気に間合いを詰めると、騎士殺しの槍を一気に突き出して来るが、コスモがハート型の盾で外側に力を逸らす。続けて、騎士殺しの斧を横から大きく振ると、こちらもハート型の盾で、弾き返す。


 目にも止まらない速さで繰り出される、騎士殺しの槍と斧を使った連撃に、コスモが防戦一方となる。


「俺の国じゃあ盾を持って、一騎打ちをする奴は1人も居ない!全員が1撃1撃に魂を込めているからな!」


「へっ!そうかよっ!」


「つまり盾を持っている者は、軟弱者の証!いつまで持つかな!」


 言葉通り、ゴンベエから繰り出される攻撃は、全てが重く鋭い。それを全てハート型の盾で受けていたコスモが、身体で感じていた。


 上段、中段、下段、あらゆる方向から鋭い斬撃が飛んで来る。しかも斧と槍の特性を活かしつつ、狙いも的確で、間合いも読み難い。並の騎士であれば、数秒も持たない攻撃だ。


 東の国の鬼神、その言葉に偽りの無い実力の持ち主であった。


 そんな凄まじい連撃が続き、5分近く経とうとした所でゴンベエの攻撃が止む。


「ぜえぜえぜえぜえ……」


「うん?どうしたゴンベエ?終わりか?」


「た……」


「ん?なんだ?」


「タイム!タイムだ!ちょっと待ってくれ!ぜえぜえ……」


 そう言うとゴンベエが武器を背負い、膝に手を付いて息を切らせていた。どうやら全力を込めて放った攻撃が、全て防がれて疲れ切った様子だった。


 少し息が整ってきたゴンベエが、コスモのハート型の盾を指差し声を上げる。


「そ、その盾は一騎打ちには無粋!戦場なら剣一本で戦うのが礼儀だろう!」


「は、はあ?」


 ゴンベエが突拍子も無い事を言い始める。それをコスモが困惑した表情で聞いていた。


「お前さっき、盾は軟弱者の証って言ってなかったか!それにそっちは槍と斧を使ってるじゃねーか!」


「それはそれ、これはこれだ!それに良く考えれば一騎打ちに盾を持ち込むのは、如何なものかとな、考え直したのだ」


「……それでなんだよ、盾を外せって言うのか?」


「うむ、その通りだ!」


(な、なんだこいつ……調子が狂うなあ……)


 図々しくも、一騎打ちの途中で装備の変更を要求して来る。それに呆れたコスモが、面倒そうにしてハート型の盾を後方の地面に置く。


 魔剣ナインロータスを肩に担ぐと、ゴンベエに向かって確認する。


「これでいいのかゴンベエ?」


「やはり一騎打ちはそうでなくてはな!いくぞおおおコスモ!」


「あっ、ちょっと待て!おい!きたねえぞ!」


「戦場で油断する方が悪いのだーーー!ふはははははは!」


 やや不意打ち気味にゴンベエが嬉しそうな声を上げ、斬り掛かって来る。受けに回ったコスモが、魔剣ナインロータスを上手く使って、ゴンべエからの攻撃を逸らして行く。


「剣一本ではこの鬼神の連撃は防げまいーー!!」


「こ、こいつ、勝つためなら誇りも捨てるのかよ!」


 始めの時と同じ速度で攻撃をするが、もちろんコスモにはかすりもしない。ハート型の盾が無くとも、今までの戦いでコスモの剣術は、達人の域に達していたのだ。そして、人の技を一度見るだけで真似が出来る、恐ろしい程高い【技】の能力値もある。


 その結果、先程と同じく5分攻撃し続けると、再び息が上がったゴンベエがタイムを掛ける。しかも今度は丁寧に両手を重ね、Tの文字を作る徹底ぶりだ。


「ぜえぜえ……た、たいむ……き、今日は調子が悪いのかも……ぜえぜえ」


「もうその手は食わねえぞっ!ゴンベエッ!」


 ゴンベエタイムを無視して、コスモが魔剣ナインロータスを上段から勢い良く振り下ろすと、ゴンベエが騎士殺しの槍と斧で受け止めるが、岸の近くまで弾き飛ばされる。


ギィィン!ズゴゴゴゴ!!


「ぐえええええっ!!」


 やはりゴンベエとコスモでは、能力値が圧倒的に違っていた。ゴンベエも東の国では、西国一の鬼神と呼ばれてはいたが、あくまで人の領域内での話である。


 邪神竜級の力を持つコスモの前では、相手にならなかった。


 吹き飛ばされて倒されたゴンベエが、フラフラと立ち上がる。コスモが魔剣ナインロータスを肩に担ぎ、ゴンベエへと寄って行く。


「さあ、お前には海賊の事について洗いざらい、話して貰おうか……」


「ふっ、ふふふふ!まだ勝負は終わってないぞコスモっ!」


「何っ?」


「おーーーーーいっ!ウジハル!今こそ見せてやれ!東の国一の【法力僧】と言われた力!【癒しの杖】で俺を回復するのだーーーーーーーー!!」


 ゴンベエがウジハルと言う名の【法力僧】に、回復するように大声を上げる。しばらく、静かな間が空くが、その声に反応する者が誰も居ない。


 ゴンベエが辺りを見回しながら、ウジハルという人物を探し始める。


「あ、あれ?ウジハルくーん……さっきまでそこに居たよね?」


「もしかして、この人がウジハルかな?何か、後ろでコソコソしてたから倒したよ」


「げっ、お前はさっきコスモと一緒に居た……」


 東の国の法衣服を着た男が、セリオスの技能【天光剣】による攻撃で倒されていた。ゴンベエの呼び掛けに応じない所を見て、セリオスが倒した男をウジハルだと理解する。


「だって、一騎打ちなのに君に向かって杖を構えてたからさ。それは騎士のする事じゃないよね」


「こ、こいつ一騎打ちを受けておきながら、回復して貰おうとしてたのかよ……」


「む、むむむむ……」


 鬼の面頬で表情は見えないが、ゴンベエが自分の置かれた状況に唸り始める。前方に大鬼コスモ、後方に小鬼セリオス、盟友のウジハルも技能【不屈】によって【体力】を1残して、生きてはいるが動けない。


 まさに絶体絶命の状況であったが、すでに仲間の海賊は撤退を済ませている。そこで一騎打ちを切り上げて、方針を一気に変えて行く。


「こ、こ……」


「こ?降参か?ゴンベエ!」


「こちらには人質が居るっ!!俺に手を出したらどうなるか分かるだろうな!!」


「本当に最低だなお前っ!!」


 何が何でも生きようとしているのか、ゴンベエが自分の武士としての誇りを捨て、人質を盾にしてこの場を逃れようとする。見掛けによらず、非常に狡い戦い方である。


 東の国から来ていたペイタと比べて酷い男だと、コスモが呆れると人質について確認する。


「で、その人質はどこにいるんだ?」


「あの俺の船、鉄甲船に乗せている!いいか、余計な事は考えるなよ、あの船はどんな炎でも燃えないし、周りを鋼の板で打ち付けてある!助けようなどとは思わない事だなっ!ふははははは!」


「素直かっ!!」


 ゴンベエが自慢げに自分の船を説明と、人質の居場所を素直に話すと、倒れていたウジハルを抱え上げて、岸に停めていた小型船に乗り込む。この言動から言って、ゴンベエの知力はそんなに高くない事が窺えた。


 そして少し岸から離れると、コスモに向かってゴンベエが声を上げる。


「コスモ!一騎打ち中々に楽しかったぞ!だが、次はこうはいかないぞ!!」


「まるで、互角に戦った様な言い草だな……まあいい、人質があの船に乗ってるのが分かったし……」


 ゴンベエから人質の場所を聞いたコスモが辺りを見回すと、近くの漁船に積んであった巨大な銛を見付ける。その銛には長く太い縄が取り付けられていた。


 コスモが漁船に乗り込み、それを手にすると、漁船に隠れていた年配の男の漁師が現れる。


「なあ、じっちゃん、この銛は何に使うんだ?」


「そ、そりゃーおめえ、アトラスホンエールっちゅう、でっけえ魚を仕留める為よ!」


「へー……縄の長さはどんくらいあるんだ?」


「そりゃーおめえ!アトラスホンエールっちゅーのはな!とおーーーーっくに、ふっかあーーーーく逃げるんだ!そうだな、ちょうどあのでっけえ船までは届くだろうよ」


 漁師の男がゴンベエの乗って来た鉄甲船を指差すと、コスモの顔が悪巧みの顔になる。


「そっか、ありがとうよ!これちょっと借りるぜ」


「か、構わねえが一体それで何をしようってんだ?」


「俺も、大きな獲物を釣ろうと思ってな!」


 巨大な銛を持って、コスモが岸に上がると巨大な銛を投擲する構えを取る。すると後ろからシャイラとアインザーがゆっくりと近付いて来る。


「まあ、なんという間抜けな奴じゃ、船の特徴も、人質の場所も言うとはな、根は正直者なのじゃろうな」


「ええ、ですがあれでも英雄級の力を持っています。やるなら完膚なきまでに、ですよねコスモ殿」


「その通り、それに人質を救出するのが、何よりも最優先です!」


 銛を握るコスモの腕の筋肉が盛り上がって行く。ゆっくりと港湾沖の海に浮かぶ、鉄甲船に狙いを定める。その様子を見ていた漁師の男が声を掛ける。


「嬢ちゃん!その銛は専用の発射台がねえと飛ばせねーよ!」


「なーに!心配すんなじっちゃん!俺が発射台なんだよ!」


 コスモがそう言い放つと、一気に大きく吸い込んだ息を止める。槍投げの様な体勢を取ると、大きな掛け声を出して力一杯に大きな銛を鉄甲船に向かって放つ。


「うおらあああああああああああああああああーーー!!!」


 放たれた大きな銛が、海面すれすれの上を飛び、風圧によって水飛沫が上がる。一直線に飛んで行くと、余りの速度に大きな銛が鉄甲船の手前で、大きく上昇する。


ドガァァァアアン!!ズゴゴゴゴ!!


 大きな衝撃音と必殺の一撃音を立て鉄甲船の外板に取り付けられていた、鋼の板を突き破ると船内まで届く程に深く突き刺さる。


 鉄甲船に避難していた海賊達がその音と衝撃で、揺れる船の上で慌て始める。上甲板から音のした外板の部分を覗き込むと、縄の付いた大きな銛が突き刺さっている事に気付く。


「あ、あれはアトラスホンエール漁で使う銛じゃねえか!」


「そ、それよりも、なんか船体が動いてないか?」


「き、岸に引き寄せられてる??」


 突き刺さった銛に取付けられていた太い縄が岸まで伸び、尋常ではない力で引き張られ、真っ直ぐに微動しながら引き寄せられていた。


 その先で、ピンクのビキニアーマーを着たコスモが、縄を両手で掴み綱引きの要領で引いていた。


「よっしゃ!釣れた魚は大きいぜ!」


「わ、わしゃー夢でも見とるんかのう……」


 コスモが喜々とした顔で縄を大きく引き始めると、それに寄せられる様に鉄甲船が港湾の岸へと近付いて来る。その様子を見ていた漁師の男が口を開け、呆然と見ていた。


 鉄甲船は通常のガレオン船に比べ、鋼の板で船体を覆っている。その分重量もあるのだが、更に逃げて来た多くの海賊達が乗り込んでいる。恐らく、港湾に停泊しているあらゆる船よりも重いだろう。


 それをいとも簡単に、岸の上から牽引するコスモは、まさに東の国で言う地獄の鬼であった。そしてコスモの力を、初めて目の当たりにした上皇アインザーも、引き気味になってそれを見ていた。


「余はコスモの力を初めて見たのじゃが……あやつ、外ではいつもこの様な感じなのか?」


「はい、ロンフォード領では盗賊の頭領を空高くに打ち上げてましたし、徘徊死竜を盾で身体ごと打ち上げたという報告を聞いております」


「余は、何かどんでもない奴に称号を与えてしまったようじゃの……」


 今になってアインザーが、コスモの人並み外れた力に驚いていた。だがそれ以上に驚き恐れていた男が居た。


 小型船から一部始終を見ていたゴンベエだ。目の前で轟音を立て凄まじい速さで、飛んで行く巨大な銛を目撃していた。


「な、なんだあの女!船に銛を命中させて引っ張るだとっ!あんな奴、東の国にも居なかったぞ!!」


 ゴンベエが驚くのも無理は無かった。東の国に限らず、アセノヴグ大陸中探しても銛を突き刺して、船を引く人間はコスモ以外に居ない。


 するとゴンベエの乗る小型船に、引き寄せられた鉄甲船が近付くと、上甲板から助けを求める部下達の声が聞こえる。


「頭あああああ!助けて下さいー!!船の舵が効かないんです!!」


「ば、ばっか野郎!(オール)を使って逃げろ!俺が突き刺さった銛の縄を切ってやる!!」


 命令を受けた部下達が慌てて船内に戻ると、船体の横から櫂を出して、必死に漕ぎ始める。そして突き刺さった銛の縄を切ろうと、ゴンベエが慌てて小型船を近付ける。


 その様子を縄を引いていたコスモが気付くと、急いで縄を引き始める。


「ゴンベエの奴、縄を切ろうとしてるな!やらせるかってんだ!」


「待ちなさいコスモ殿、ここは上皇様にお任せしましょう」


「シャイラ殿?上皇様に任せるって何を?」


「上皇様は元々、邪神竜の眷属を滅ぼした【フレイムエンペラー】ですよ。遠距離での攻撃に長けているのです」


 シャイラがコスモの動きを制止すると、その後ろから真紅の髪に、赤い宝石の嵌ったティアラ、赤を基調とした金色の装飾が施された肩掛けに、白いブラウス、膝上まで掛かる黒の長靴下、格子柄の赤いスカートを靡かせ、左手には魔法書を携えた、少女アインザーが前に現れる。


「とは言ってもシャイラ、余が今持っているのは、初級魔法書【ファイアーバードの書】だけじゃぞ?」


「だから、良いのですよ上皇様。それにあの鉄甲船は炎に耐性があるみたいですし、丁度良いのでは?」


「それなら良いが、余は今、【封印の指輪】で技能【魔力操作】が使えぬ、加減が出来ぬが……まっ!大丈夫じゃろ!」


 【ファイアーバードの書】、元々は【ファイアーの書】なのだが、祝いの席や記念行事などで、皆の目を楽しませるのを目的として作成された、形式的な魔法書である。


 アインザーが右手を前方に差し出すと、手の平から小型の鳥の形をした炎の塊が出現する。


「この全身を【魔力】が駆け巡る感じ、40年振りじゃな……余も、帝国の為に一肌脱ごうかの!」


 すると小型の鳥がアインザーの魔力を取り込み始め、次第に巨大な鳥、まるで不死鳥の様な大きさへと変貌し始める。その大きさは漁船を丸ごと包む程に大きい。


 アインザーの【魔力】が、如何に強大であるかを表していた。


「言うておくが、上級魔法書【フェニックスの書】では無い、威力は【ファイアーの書】と同じじゃ!」


「知ってますよ上皇様、早くあの鉄甲船とやらに放って下さい」


「シャイラ、お主も付き合いが長いのに、ノリが悪いのう……」


 アインザーがノリの悪いシャイラにせっつかれ、ファイアーを打ち出す様に不死鳥の形をした炎を鉄甲船に向けて放つ。実際の不死鳥が羽ばたくかの様に翼を動かし、鉄甲船の船首に向かって行く。


 ドガァァアアアアン!!ボッボボッ……!!


 鉄甲船に着弾すると大きな音を立てて、外板の鋼の板を溶かし始める。そして炎が木の部分に燃え移り、延焼し始める。それを見てゴンベエが泣きそうな声で叫ぶ。


「お、俺の船があああああああああああ!何て事しやがる!!」


 東の国からずっと付き合ってきた旗艦の鉄甲船が、無残にも燃え始めるのを見て、鬼の面頬で見えないが、ゴンベエが本気で泣いていた。


「お見事です!上皇様!未だに【魔力】は衰えていない様子で!」


「フフン、余に任せておけば、ざっとこんなものじゃ!」


「な、なんか凄く燃えてるんですが大丈夫ですかね上皇様……」


「うん?ちょっと加減が効かなくての、めんごじゃ!!」


 炎に強い筈の鉄甲船が、船首から船体全体へと炎を燃え移り始めていた。コスモが引き気味にアインザーに大丈夫かと問うと、アインザー(72歳の爺)が腕を猫の様に曲げあざとく謝っていた。


 そのやり取りを、後ろで冷静な目で見ていたセリオスがぼそりと呟く。


「ひ、人質が居るんだけど大丈夫かな……」

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