第60話 ハヌイアム市街地戦1
・コスモ(女)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
ハヌイアムの町が海賊に襲われる所を救出に向かうが……
テイルボット城南門。
上皇アインザーの乗る馬車の番をしていたシャイラが、黄色い頭巾を被ったむさ苦しい男達10人に囲まれていた。
男達はダルダロス海賊団の一員で、他の仲間がハヌイアムの町を襲っている所を抜け出して、テイルボット城の財宝を目当てに襲いに来ていた。
しかしシャイラは特に慌てる様子もなく、その場に静かに佇んでいた。
「おい!女!命が惜しけりゃ、そこをどくんだな!」
「……どうぞ、南門は開いておりますのでご勝手に」
「え?いや……あの、女騎士さんはテイルボット家の騎士なんじゃあ?」
「違いますね。そもそも、ここまで海賊の侵入を許す領主など、仕えるに値しません」
シャイラは失望していた。
海賊がここまで来ているという事は、テイルボットの海上騎士団が敗北した事を意味する。つまり領主の失策であると言う認識であった。海賊に対する怒りよりも帝国の名を傷付けた、領主の不甲斐なさに対する怒りが勝っていた。
しかし海賊達もシャイラを放っては城に攻め入れない。背後から奇襲でも受けたらたまったものではないからだ。それにシャイラを良く見ると、冷血な表情をしているが美人で、体付きも程よく締まり魅力的である。
となると海賊の男の取る行動はただ一つだけであった。
「じゃあ俺に仕えてみるか?毎晩可愛がってやるぜ!うへへっ!」
「フフッ、面白い提案ですね」
「だろっ!だろっ!じゃあ、こっちに来い!男ってもんを教えてやるよ!」
「それでしたら、条件が一つだけ……私の攻撃を1度だけ耐えたら何でも言う事を聞きましょう」
「へへ、そんな細腕じゃあたかが知れてるな!いいぜ、やってみな!」
「では行きますね……」
海賊の男が自慢の6つに割れた腹筋をシャイラに見せ付ける様に迫って来る。それをシャイラが微笑しながら、両手の拳を引き握り込むと拳が翠色に輝き出す。
「……闘奥義【竜連拳】」
「うへっ!?」
奥義が発動した瞬間に、海賊の男の腰から体が崩れ落ちその場に倒れ込む。シャイラはその場から一切動いていない。その様子を見ていた海賊の1人がシャイラに文句を付ける。
「お、俺には見えたぞ!1発だって言ったのに、2回殴りやがったな!この女!!」
「残念、惜しいですね。正確には1度で5回、急所に拳と蹴りを打ち込みました」
「全然、惜しくねえしっ!しかも5回も殴ってるし!」
シャイラの特殊技能【竜連剣】、1度で一方的に最低5回以上の連続攻撃を繰り出す、戦いの技能として最高峰の効果を持つ技能で、剣に才ある者にしか会得出来ない技であった。
それを素手に応用した闘奥義【竜連拳】を放ったのだ。
海賊の男に放った攻撃は、左拳で顎を打ち抜き、右拳で反対の顎を打ち抜き、そのまま右拳で下から顎を突き上げ、左拳を鳩尾にめり込ませ、止めに右足で金的を蹴り上げていた。
しかもシャイラの【力】と【技】と【速さ】は英雄級の能力値を誇り、それで急所を殴られたら、どんな男でも立っていられない。
「他の人は挑戦しませんか、私を好きに出来るのですよ?」
「や、やっぱりこいつはテイルボット家の騎士だ!皆で囲んで一気にやっちまえ!!」
「これでも慈悲を差し上げているのですが……」
「うるせえ!くたばりやがれ!!」
海賊9人が一斉にシャイラへと鋼の剣、鋼の斧を振り上げ襲い掛かるが、その9人の間を縫う様に目にも止まらぬ速さで移動すると、海賊達の背後にシャイラがいつの間にか抜いていた魔剣を鞘に納めて立っていた。
余りの速さに誰も居ない所へと海賊達が武器を空振りさせる。
「は、速い……だけど、それだけじゃあ意味がねえぜ!」
「私の魔剣をあなた達の血で汚したくないので、最後の忠告をしておきました」
「な、何を言ってるんだ、この女!」
「気付きませんか、足元が涼しい事に」
「あ?あああ!ズボンのベルトが斬られてる!!」
海賊9人全員の腰のベルトが斬られ、ズボンがずり下がっていた。それを必死に捲り上げると片手で抑える。
特殊技能【竜連剣】による目にも止まらぬ剣による9連撃で、シャイラが海賊達のベルトだけを狙い切り飛ばしていたのだ。
【竜連剣】が特殊技能の最高峰に位置する理由は、使い手の技術によって攻撃回数が上昇する所である。
そして海賊達に向かってシャイラが目が笑っていない状態で微笑すると、男にとって恐ろしい事を言い始める。
「私がその気になれば、あなた達の男の象徴をベルトの様に一瞬で短くカットする事も出来るんですよ?フフフッ……どうです、もう一度やってみますか?」
「ひ、ひぃ!!な、なんて女だ!イカれてやがる!!付き合ってられるか!」
海賊達がずり下がるズボンを抑えながら、シャイラの下から逃走を始める。流石に男の象徴を切り落とされる覚悟は海賊達には無かった。元男のシャイラがアレを失った悲しみを体現した、特有の脅し文句であった。
「海賊はどこだっ!……って1人だけ?」
「もうシャイラ殿がやっちゃったみたいだねコスモ」
「どうせまた急所を狙って攻撃したんじゃろ……」
その後すぐにコスモ達がテイルボット城の南門から出て来るが、騎士の報告にあった海賊の姿は無かった。だがシャイラの側で体を痙攣させて気絶している海賊を見て、何が起こったのかを全員が察した。
アインザーの言っていた通り、シャイラが竜を単騎で倒していたという実力を存分に発揮していた。その様子を見慣れたアインザーが、シャイラに向かって海賊の討伐を命じる。
「さあシャイラ、折角の休養じゃが一旦お預けじゃ、ハヌイアムの町から海賊共を叩き出すぞ」
「ははっ!しかし、こうなったのも領主のレイグ卿の責任、帝国に敗戦の報告して増援を要請するのが筋かと……」
「その通りじゃが、状況が状況じゃ、臣民の安全を確保した後に、奴には沙汰を伝えるつもりじゃ」
「でしたら、ハヌイアムの町は大丈夫かと……今運良く薔薇騎士団の隊員達が観光に向かっています、普段から武具は外さぬ様に言い付けておりますので、海賊共の好きにはさせないでしょう」
「確か、オルーガ達の鋼華傭兵団も皆、ハヌイアムの町に遊びに行ってたな……普段から町中の巡回警護が仕事だし、問題無いかもね」
「うわあ……戦力の大半がハヌイアムの町に集結してるのかよ……海賊達に同情するぜ」
「ほれ、コスモもセリオスも馬車に乗れい、ハヌイアムの町へ行くぞ!」
コスモとセリオス、アインザーが馬車に乗り込むと、シャイラが馬車を走らせる。
シャイラとセリオスの言う通り、海水浴が出来ない代わりに薔薇騎士団の面々とオルーガ率いる鋼華傭兵団の面々はハヌイアムの町で観光をしていたのだ。
しかも一般人と同じ格好をしているものだから、海賊達は面を食らっていた。
同時刻。ハヌイアムの湾内。
その状況を知らないダルダロス海賊団の船長、ダルダロスが海上都市ハヌイアムの港の岸から離れた湾内に4隻のガレオン船を停泊させていた。部下達が小型船へと乗り換え、次々とハヌイアムの町へと向かっていた。
その光景を船上で機嫌良くラム酒を飲みながらが船長のダルダロスが眺めている。
「ばっはっはっは!後はハヌイアムの町を落とせばテイルボット領も終いだな!」
金色に縁取られた青い三角帽子に、金色の縁取りされた青いコートを羽織り、背が高く筋肉質、年齢は40歳位で野性味溢れた豹の様な目、細いつり上がった眉に大きな口、髪は黒く長髪、顎には不精髭の様に短い髭を生やし、胸元まで露出した白のシャツに黒のズボンを履いている。
そして腰には特別製の髑髏の装飾を施した銀の剣を携えていた。
海上騎士団との決戦に勝利して、後は如何にハヌイアムの町から財産を奪い取るかがダルダロスの目的となっていた。町には帝国に名の通った商会がいくつも軒を連ねているのだ。そこを襲えば、潤沢な資金を得られると算段していた。
そんなダルダロスの横から、声を掛ける男が居た。
「ダルダロス、ご機嫌みたいだな!」
「おう!ゴンベエか!」
ゴンベエと呼ばれた男はダルダロスより更に大きく巨体、東の国の朱色の兜に鬼の面頬、そして朱色の鎧と猛将の様な出で立ちに、背中には騎士殺しの剣、槍、斧の三種類を背負っていた。
「お前さんのお陰で海上騎士団を倒せたんだ、感謝するぜ」
「そんな事よりダルダロス、約束通りハヌイアムにあるテイルボット城は俺の城にしていいんだな?」
「もちろんだとも、ゴンベエ、お前さんの国をそこで興すといい」
「よっし!これで俺も一国一城の主か!」
ダルダロス海賊団が勝利した最大の理由は、ゴンベエ率いるゴンベエ水軍の存在であった。ハーバル海賊団との戦いと並行して、東の国から逃げて来たゴンベエ水軍と共闘する様に水面下での交渉を続けていた。
戦力で勝るダルダロス海賊団がハーバル海賊団に勝利すると思惑通り、ハーバル海賊団の残党が海上騎士団に協力を求め、こちらの戦力を伝えさせる。
相手がダルダロス海賊団だけと油断させる事に成功すると、船の機動力にすぐれたゴンベエ水軍を隠し玉にして、海上騎士団に決戦を挑んだのだ。
ゴンベエ水軍の存在を知らない海上騎士団は奇襲を受けて混乱に陥る。立ち直る暇も無い程の鮮やかな奇襲だった。
特にゴンベエの白兵戦は目を見張る物があった。海上騎士団のガレオン船に乗り込むと、背中の三種の武器を器用に操り、次々と騎士達を打ち倒していったのだ。
そして東の国を追われたゴンベエの目的は、西の国、アセノヴグ大陸で新たに自分の国を興す事であった。
「だがダルダロスよ、お前の部下がハヌイアムの町の人々を襲ってるって報告が入ってる、俺の領民なんだ、勝手は許さねえぞいいな!」
「安心しろ、約束は守る。今は勝利に勢い付いてるだけだ。後で良く言い聞かせておく」
ダルダロスとゴンベエの関係は決して良い物とは言えなかった。海賊同士、利害が一致しただけであって、理念と信念は違っていた。
その2人がそんな話をしていると、後ろの四角い鉄製の檻から若い女の声が聞こえてくる。
「お前達、今に見ていろ。必ず帝国から助けが来る、その時がお前達の命運が尽きる時だ!」
「おーおー気の強い姫さんだ。状況を理解してるのかね?」
檻の中に居たのは領主レイグの娘で、【プリンセスドラゴンライダー】のアルティナであった。母のバミーネと同じく赤い髪を肩まで伸ばし、幼さが残るが気の強い可愛らしい顔に赤い軽装鎧を装備していた。
「ふん、私の母はバルドニア王国の王女バミーネだ!今にそちらからも竜騎士団を率いてやってくるぞ!」
「……この嬢ちゃんは何で負けたのか、分かってないのか、海の上じゃあ【ドラゴンライダー】は無力なんだよ」
【ドラゴンライダー】の性質上、移動距離や移動速度に鋭い攻撃に特化していたが、平原や砂漠などの開けた土地で展開する敵に対してだけ強みがあった。
海の上の戦いとなると騎乗する飛竜を休ませる場所が無い、長期戦になると圧倒的に不利になるのだ。さらに船には投網やバリスタなどの遠距離兵器が搭載され無暗に近付けない。
状況が限定的でアーマー職の様な尖った強さを持っている職なのだ。ゴンベエの言う通り【ドラゴンライダー】は海には弱かった。
「うるさいうるさい!今にもぎったんぎたんのぼこぼこにしてやるからな!!」
「やかましい娘だ、まったく」
ダルダロスが呆れた顔でアルティナを見ていると、1艘の小型船が物凄い速さでこちらに向かって来ていた。そこから海賊の男が慌ててダルダロスの旗艦に乗り込むとハヌイアムでの戦況を伝えてくる。
「船長!大変です!!」
「どうした、もうハヌイアムの町は制圧出来たのか?」
「そ、それが……」
「何だ?歯切れの悪い、はっきりと言いやがれ」
「海上都市ハヌイアム……制圧出来ませんっ!!」
「「はっ??」」
報告を聞いていたダルダロスとゴンベエが同じ反応を示す。お互いの部下が共同でハヌイアムの町を攻めていた。すでに戦える騎士も殆ど居ないので後は制圧するだけなのだ。
言葉の意味を理解出来なかったダルダロスが改めて、部下の男に確認を取る。
「戦える騎士は居ねえ筈だが、どういう事だ?」
「ハヌイアムの町の町民が、化け物染みた強さで全く俺達じゃあ歯が立たないんです!」
「たかが、町民だろうが!人数差で圧倒すりゃいいだろ!」
「そ、それが3人1組で布陣していて、とにかく隙が無くて連携が凄まじいんです!」
「町民が布陣??」
もちろん普通の町民は布陣はしない。その正体は薔薇騎士団である。
騎士団では個の力よりも集の力を重要視している。多勢に対する訓練も取り入れられ、3人1組の布陣は最も基礎的な訓練でもあり、騎士達は日頃から鍛錬に勤しんでいた。
更に相手は帝国屈指の精鋭、薔薇騎士団と町中の巡回警護のプロ集団、鋼華傭兵団だ。町民と同じ格好で神出鬼没に現れては、海賊達を撃退していたのだ。
その話を聞いていたゴンベエが警戒感を露わにすると自身が出張る事にした。
「どうやら、ただの町民じゃないな、俺が行って確かめて来よう」
「あ、ああ、ゴンベエ、お前さんなら遅れは取らんだろう」
力に自信のあるゴンベエがダルダロスの部下と共に、近くに停泊させていたゴンベエの旗艦である鉄甲船に乗り移るとハヌイアムの岸へと向かって出航する。
同時刻。ハヌイアムの町。
「ぎゃああああああ!!」
海賊の断末魔がハヌイアムの町に響いていた。
町民より質の良い一般的な衣服を身に纏った美しい女達が、銀の剣を片手に襲い来る海賊を切り伏せていた。
なぜこの様な状況になっているのか、少しだけ時を遡る。
薔薇騎士団の面々がシャイラから自由行動を許されると、今流行りの風通しの良い絹製の薄手の普段着を着こなして、今時の若い町娘の格好でハヌイアムの町に繰り出していた。
町を散策する時もシャイラの言い付け通り、腰には銀の剣などの得物を携えて3人1組となって行動をしていた。
温暖な気候で育つパインアップルやバナナなど、現地で取れたフルーツを凍らせスムージーにした飲み物を販売する商店が運よく開いていた。
全員がそこへ殺到すると、それを購入して町中にあるベンチへ座って楽しんだり、または散策しながら観光を楽しんでいた。
町に侵攻した海賊達はその様子を見て決戦で負けた事を知らない、平和ボケしている町の女達と目に映ったであろう。一気呵成に襲い掛かったのだ。
だがそれが地獄の門だとは知らなかった。
薔薇騎士団の選考基準は、上皇アインザーが見た目を担当、シャイラが個人の強さを担当していた。
つまり見た目麗しい町娘に見えながらも、1人1人が灰色熊に匹敵する武力を誇っていたのだ。もはや町中を3頭1組で跋扈する熊と言っても良い。
そして現在に戻る。
ハヌイアムの町の至る所から海賊達の悲鳴が響き渡っていた。薔薇騎士団の町娘が3人1組で背を合わせる様に布陣をすると、後方の死角を無くし前方のみに集中する。
目の前の海賊を打ち倒すと、他の3人組とすぐに合流して陣形を防御から攻撃の陣形へと変化させ、町へと侵攻する海賊達を押し返し始める。
徐々に熊が集結して徒党を組み始める様子は、恐怖以外の何物でもない。
「な、何なんだよこりゃ!ただの町娘が強過ぎる!!」
「賊共が、私達の休養を邪魔するとは……絶対に許さない……」
折角の休養を邪魔され薔薇騎士団の女達は怒りに満ちていた。普段よりも士気が上がり、躊躇なく海賊達を無慈悲に打ち倒して行く。
その様子をオルーガ達、鋼華傭兵団が青ざめた顔で見ていた。
「可愛い子ばかりで声を掛けようと思ってたけど、あれでも薔薇騎士団なんだよな……」
「団長、そんな事よりこっちも海賊が寄って来て大変なんです!手伝って下さい!」
「まったく、ここまで来て海賊退治とはな、コスモちゃんってば、本当に俺を飽きさせないよな」
ハヌイアムの町の奥深くまで海賊が迫っていた。オルーガが困惑した顔をしながら、襲い掛かってくる海賊を見向きもせずに、鋼の剣を二振りすると剣先から斬撃が飛んで行く。
「ぎゃっ!!」
斬撃が海賊に触れると、直接斬られた様に血飛沫が上がり、その場に倒れる。
オルーガの持つ特殊技能【紅華剣】、斬撃を剣先から飛ばす遠距離攻撃の技能だ。威力は直接斬るよりも劣るが、自身の力が増せばその斬撃も威力が上昇する。間合いを考えずに戦える汎用性の高いのが特徴だ。
他の団員も海賊以上に戦い慣れていて、弓兵1人が海賊を引き付けると背後から待ち伏せしていた剣士2人が襲い掛かる。この様なゲリラ戦術に長けていた。
カルラナでは自分達以上に強い能力値を持つ者が暴れる事もあった。だが、一般的に卑怯と言われる戦術を巧みに活かすと、その力量差を覆し町の治安を守っていた。
次々と倒されて行く仲間を見た海賊が小型船を泊めている港の岸へと向かって撤退を始める。
「引け!引くんだ!!折角の勝ち戦なんだ、こんな所でやられてたまるか!」
海賊達も勝ち戦で戦意はそれほど高くは無かった。後はハヌイアムでの乱取りを楽しみに、気持ちは浮かれていたからであった。そこで想定外の反撃に出くわすとは思ってもいなかった。
もちろん撤退する海賊達を黙って見過ごす程、薔薇騎士団と鋼華傭兵団の面々は甘くは無い。撤退する海賊達の追撃を徹底的に行う。
もうこうなると海賊達は総崩れを起こし、我先にへと小型船へと殺到する。
海上騎士団との決戦でゴンベエ水軍の奇襲が上手く行き、ダルダロス海賊団も戦力を温存出来ていたが、ここで半数近くの戦力を失うとは夢にも思っていなかった。
「何だこの光景は、こっちが勝っていた筈だろう!なんで味方が町から逃げている!」
遅れてやってきたゴンベエが港の岸から少し離れた所へ、旗艦の鉄甲船を停泊させると港の異変に気付く。部下の海賊達が、町から逃れる様に小型船へと移り、逃げ出しているからだ。
ゴンベエが乗っていた鉄甲船から小型船へと移ると、岸を目指して移動する。混乱する海賊達で溢れた岸に着くと、逃げ出す自分の部下を1人捕まえて事情を聞き出す。
「おい!一体何があったんだ!」
「ゴンベエの頭!ここはただの町じゃねえ!鬼が巣くう鬼ヶ島じゃあ!」
「お、鬼ヶ島だって?」
観光都市としても有名なハヌイアムの町を鬼ヶ島と揶揄する部下の話を聞くと、ゴンベエが町の方を見つめる。すると返り血に染まった鬼の様な町娘の集団と、町男達が迫って来ていた。
「なんだアレは!ここは俺が殿をするからお前達は逃げろ!」
「頭も無理せず逃げて下さい!奴らの強さは異常だ!」
「この国に来て初めての強者か、東の国での一大決戦を思い出すぜ!」
「すまねえお頭、もう少しで国が手に入るって所で……」
「……なあーに気にするな!俺様も東の国じゃあ鬼神と言われた男だ!さあ行け!」
ゴンベエが背中から騎士殺しの槍と斧を右手左手と持つと、逃げる海賊達を逃がす為に後方へ回る。迫りくる薔薇騎士団と鋼華傭兵団の前へと躍り出る。
そして銀の剣で切り掛かってきた町娘の一撃を斧で受け止めると、すかさず槍を突き出す。町娘が槍の突きを辛うじて躱す。
「ぬううううん!!」
「くっ!……こいつ今までの海賊達とは違う!」
町娘こと薔薇騎士団の女騎士がゴンベエからの騎士殺しの槍でかすり傷を負うと、すぐにその力量に気付く。
「確かにお前達は強いが、西軍一の鬼神と言われた俺の相手では無いわあ!がはははは!」
ゴンベエが薔薇騎士団や鋼華傭兵団の集団を相手に、一歩も引かずに打ち合いを始める。西軍一と謳うだけあって、実力も相当なものであった。
次々と部下の海賊達が小型船へと移ると、ゴンベエの乗る鉄甲船へと撤退して行く。
そんな中で、テイルボット城から馬車で駆け付けたコスモ達がゴンベエの居る港へと到着する。打ち倒された海賊達の数が港に向かって増えていくのを見て追って来たのだ。
コスモが急いで馬車を降りると、朱色の鎧武者のゴンベエの姿に気付く。
「あの赤い鎧、薔薇騎士団と鋼華傭兵団を相手に、1人で立ち回ってる?」
「どうやら、あの者達に海上騎士団はやられた様ですね」
ゴンベエの実力に驚くコスモと、その力によって海上騎士団が敗北した事をシャイラが瞬時に見抜く。薔薇騎士団と鋼華傭兵団をあしらっているのだ。どう見積もってもゴンベエは英雄級の能力値を持っていた。
戦っていたゴンベエも、離れているコスモ達の異様な闘気に気付いていた。
「あ、あれは……かなり不味いな、鬼が2人も居るじゃねえか……」
コスモとシャイラを一目見て、鬼と同様の力を持つ事をゴンベエが理解する。それと同時にダルダロスから聞いていた海上騎士団以上の戦力を持つ者だという事も理解していた。
隠し玉を持っていたのはダルダロスだけでは無い、海上騎士団にも隠し玉が居たのだと分かると、ゴンベエがさらに攻撃の手を早めて、コスモ達を迎え撃とうとしていた。




