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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第5話 月光花

 アンナとの過ごす日々は平穏で心地良く、あっという間に依頼期間の1カ月が過ぎようとしていた。


 いつもの様に日課の薬草採取を行っていると、寂しくなる気持ちと共に右膝の傷が完治出来るという期待が否が応でも高まって行く。1カ月という長い期間、アンナとの日々はまるで家族と一緒に過ごしたかのように充実していた。


 そして遂に依頼最終日を迎えた。


 モウガスが朝起きるとアンナから今日の薬草採取は休みと告げられる。話によると万能薬に必要な数の薬草はすでに確保が出来たのだと言う。そんな会話をしながら朝食を終えると、薬草採取の代わりに小屋の中で万能薬の効能についてアンナの座学を受ける事となった。


 アンナが壁に人体を模した絵が描かれた大きな洋紙と、回復の仕組みの順序が記された図の洋紙を貼ると、教師の様に指示棒でさしながら説明を始める。最初は真剣な顔で座学を受けていたモウガスだが……。


「……人体って言うのはね、目に見えない程の小さい物質と水分で出来ているんだ、ヒールの杖は失った物質や水分を補給、自己治癒能力の向上が主な役割だね」


「あー、ああ……」


 アンナが座学を始めてから1時間経過していた。一生懸命説明をしてくれているが、どうしても理解出来ない難しい言葉が並び集中が出来ないでいると眠くなってしまう。


 目が半開きになって、返事も曖昧になる、頭が前後に揺れると前のめりになり掛ける、我慢しようと頭を戻すが一気に眠気が来て意識が飛ぶと、勢い良く前のめりになり机に頭をぶつける。


ガツンッ!!


「んがっ!!」


 その様子を見てアンナも呆れてしまう。


「まったく、そんなとこまで息子と似てるんだから困ったもんだよ」


「す、すまねえ、勉強は昔から苦手で……」


「いいさ、もっと簡単に説明するからしっかりお聞き」


 立って説明していたアンナも椅子に座り、指示棒を机に置いて子供でも分かる様に説明を始める。


「万能薬は傷や毒を消したり治すんじゃなくて、元に戻す薬なのさ、一度人体の構成されている物を、ある期間まで遡って戻す」


「なんか時間を戻すみたいで凄いな……」


「飲み込みが早いねぇ、人体だけに限定して時間を戻す、それ以外はいつも通りに時が進むのさ」


 簡単な説明受けてようやく理解するが、改めてそれを実践できるアンナの凄さに気付かされる。時間を戻すなんて、まるで神業の様な話である。驚きながらもモウガスが、ある事が気になり聞いてみる事にした。


「あのアンナ、時間を戻せるなら止めたり、進めたりする事は出来るのか?」


「いい質問だね!モウガス、あんた顔の割に勘が鋭いねぇ!」


「顔は関係ねえだろ!」


 アンナが褒めつつも笑いながら小馬鹿にするがすぐに興味を示してくれた事を嬉しく思う。人の知能の高さは本来、見た目では分からないものだが、モウガスは贔屓目に見ても知的ではない、それを必死に否定する様に突っ込む。


 本当に鋭い質問だったのか、アンナが間を置いて考え込む、そしてモウガスを見つめ答え始める。


「時間は進める事も止める事も出来ないね……だけど、戻した後になら止める事だけ可能だよ」


「そ、それって不老不死にもなれるんじゃ……」


「ところがどっこい、人の体は都合よく出来ちゃいないのさ、肉体的に止まっても精神的には止まらない、人の精神力は寿命が決まっている、もし寿命が尽きたら中身の無い肉体だけが残るだろうね、それが人の決まりなのさ」


 やはり不老不死などというのは夢物語だった事に安心する反面、気になる事もある。精神力とは何だろうか自我の事か、魂みたいな物だろうか、曖昧な表現で理解出来ないモウガスの頭の中は混乱する。


「うーん……」


 腕を組み上体を揺らしながら考えるがやはり答えは見つからない。考えているモウガスを横でアンナがさらに説明が続ける。


「それともう一つ、人体の時間を元に戻す副作用として今まで掛かっていた毒や呪い、宝具、祝福で受けている効力も全て消えるからね」


 呪いは武具や特殊魔法などで技能や能力値の制限、上昇か下降修正を受ける事を指し、宝具は使用者自身に永続的に能力値の上昇効果を得られる装備や消耗する道具を指す。


 祝福は一定のレベルで王家、公爵家の血筋の者から受けられる叙任の儀式を受ける事、またはそれらの委任状を受けて上級職になる事の略称である。


「ってなると、上級職だった者は初級職に戻るって事か」


「正確にはレベルや一部の能力値も下がるけど、概ねそう理解してもらっても問題はないよ」


 モウガス自身、初級職のソードアーマーなので何も問題はない。ただ今まで自己鍛錬して上げていた能力値や筋肉が弱まるのを、自慢の上腕二頭筋を擦りながら気に掛けていた。


「さあ、話は大体こんなもんだ、それでも万能薬を飲むかい?」


 アンナからの座学、万能薬についての説明も終わり最後に万能薬を飲むかどうか問われる。敢えて聞くのは患者の同意を得ないと万能薬を処方しないアンナの方針の様だ。


 だがモウガスにとっては愚問であった。自身の誇りより生を選び、後に引けぬ状況でこの依頼を受けたのだ。真剣な顔でしっかりとした口調でモウガスが答える。


「もちろん飲むさ、そのためにここに来たんだ!」


「フフッ、聞くまでも無かったね」


 モウガスの表情を見れば答えは分かっていた。ただ本人の口から覚悟の言葉が欲しかったのだ。答えを聞いた後、アンナは椅子から立ち上がり釜土に火を入れると万能薬の下準備に入り始める。


「さあ、夜までは万能薬の準備だ、薪が沢山必要になる!モウガス頼んだよ!」


「あいよ!合点承知ってんだ!」


 依頼の最終日となった今日、万能薬の本格的な製作に入る。アンナは小屋で山ほど集めた薬草を精製し効能を高める作業に入り、モウガスは外で薪をひたすらに割り続ける。合間に昼休憩を挟み、各々が必要な作業を淡々とこなして行く。


 そして万能薬の準備作業が日の落ちる夜まで続いた。





 日が落ちて空が暗くなり月明かりが辺りを照らす、野原の艶やかな草の葉に月明かりが反射し、風に揺れて幻想的な光景が広がる。空には雲がないのか普段の夜に比べて月が一層強く輝く様に見えた。


「さて、出発するかね」


 頃合いの時間を月の位置で確認したアンナが出発を決めると、モウガスに魔力を込めた照光器を持たせて【月光花】が咲く場所へと移動を始める。


 夜の森は暗く照光器を頼りにモウガスが歩くが、アンナは慣れているのか見えているのか、迷わず暗がりの道を先導して進む。


 夜は魔獣が活発になる時間帯なのだが、どこまで進んでも辺り一帯に魔獣が出る気配が無くとても静かで歩く音以外、物音一つ聞えない。モウガスが最初に通った山道での不思議な出来事と一致すると思いながらも黙々と歩いて行く。


 登り坂が続く森の中を抜けると、やがて山の尾根へと出る。


 山の尾根らしく周りに背の高い木々は無い、岩場とまばらに生える草が広がるだけだ。尾根から吹き付ける夜風を肌で感じつつ山の尾根に沿って進むと人が一人通れる位の小さい洞窟が正面に見えてきた。


 アンナが迷う事無くそのまま洞窟に入るとモウガスも後に続いて入って行く。洞窟の中は曲がりくねって歩き難いが、分岐の無い一本道なので迷わず奥へと歩みを進める。すると遠くから粒の様に光が漏れているのが見える。歩みを進めるにつれ光が大きくなって行く。


 洞窟の道を抜けると周りを壁に囲まれた開けた広場に出る、天井には外に通じる丸い穴があり、そこから月明かりが差し込む。月明かりで照らされている地面の部分を良く見ると、今にも咲きそうな白い花の蕾がひしめいている。


 その白い花の蕾をアンナが見付けるとモウガスに立ち止まる様に手合図を送り、白い花を指差す。


「モウガスいいかい、あれが月光花だよ」


「まだ花が咲いてないけど大丈夫なのか?」


「あと少しさ、まあ見てなって……」


 モウガスとアンナが月光花の側で静かに観察していると月が丁度、穴の真上に到達する。すると、一斉に花の蕾がゆっくりとまるで生き物の様に花弁が開いて行く。


 月明かりに照らされた白い花弁は力強く開き、黄色い柱頭が花弁に囲まれた中に見える。花弁が開いた勢いで花粉が一気に飛び散ると月明かりに照らされキラキラと輝く。初花らしく生命力に溢れ、花全体が夜にも関わらず美しく輝き佇んでいる。


 月光花は今まで見たどの花よりも神秘的でモウガスとアンナが見入る。


「綺麗なもんだろう?あたしはね、これを見るを楽しみに10年に1度来るのさ」


「……確かに綺麗だ、こんな花、今まで見た事がねえよ」


 10年に1度に咲く花なだけあって非常に美しい、アンナが訪れる理由も分かる。


 2人で月光花の花開く様子をしばらく観察してると、時期を見計らったアンナが月光花に近寄り茎を摘まんで花を一つを切り取る。要領よく腰に掛けた袋を取り出し切り取った月光花をしまう。


 その後しばらくして月が天井の穴から消えて行き、月明かりが無くなると咲いていた月光花が一斉に枯れて行く、瞬く間に花の部分がぽとりと地面へと落ちて行く。


「こ、こんなに枯れるのが早いのか」


「そうさ、この世界の花の中でも一番美しく咲き、そして一番早く散って行く幻の花とも呼ばれる所以さ」


 切ない顔で説明するアンナ、それにつられてモウガスも悲しい表情を浮かべる。その様子を見たアンナが月光花の生き方を例えとした話を始める。


「まるで人の一生だとは思わないかい、大地に根を張って蕾が開くまで長い時間を耐えて、精一杯力を蓄えると、綺麗な花が咲いて、役目を終えると枯れて行く、だけどね……」


 アンナがおもむろに指を差す、その方向をモウガスが見つめると、枯れ落ちた月光花から種がこぼれ落ちていた。


「人と一緒で紡がれるのさ、また美しく気高く咲く花の種としてね……」


「気高く咲く花か……」


 花の話を聞いて小さい頃に面倒を見てくれた神父が、孤児院を出る時にモウガスに語った話を思い出す。


 孤児院に預けられた時に、赤ん坊だったモウガスの籠には赤秋桜の花が敷き詰められていた。親の姿は無く籠だけ置かれていたが、神父はその事について思った事を話してくれた。


『モウガス君、赤秋桜の花言葉はご存知ですか?それは愛情です、貴方は親から愛されてたんです。これだけは忘れないで下さいね』


 この話を聞いた少年のモウガスは愛されていた事実を知ると誇りに思い、道を外す事無く騎士への道へ進み始めたのだ。そんな昔の言葉を思い出し感傷的になるモウガスを見てアンナが大きいその背中を静かに優しく撫でる。


「さあ感傷に浸ってる暇はないよ!ここから本番だ、さあ帰ろうか」


 短い時間であったが、貴重な体験をしたモウガスが元の来た道を引き返して行く。洞窟を出た所でモウガスが名残惜しそうに振り返る。


(また、絶対に見に行くからな……)


 次の10年後に再び訪れる事を決めると振り返り、アンナの背中を急ぎ足で追いかけ帰路につく。





 小屋に着くとアンナが袋から月光花を取り出し、用意してあったガラス瓶へと移す。一息ついたのか椅子に座って体を休める。何時になく疲れている様子のアンナにモウガスが心配になり声を掛ける。


「おいアンナ、疲れてるみたいだけど大丈夫か?」


「ああ……大丈夫さ」


 モウガスの心配を余所にアンナが空元気で笑顔を見せると、モウガスに指示を出す。


「モウガス、ちょっと寝床で横になりな」


「ん?あ、ああ……」


 身に着けていた重装鎧を外し、奥の部屋のベッドに横になるとアンナが杖を持って横になったモウガスの側に寄ると優しく語りかける。


「モウガス、今までありがとうよ」


「なんだよ急に改まってよ」


 アンナの突然の感謝の言葉にモウガスが戸惑う。むしろ感謝するのはこちら側だ。応急処置ではあるが、まともに動かせなかった右膝を動ける様にしてくれた、依頼の期間は約束通りに面倒も見てくれた。


 モウガスが照れながらも感謝の言葉をアンナへと返す。


「感謝してんのはこっちだよ、アンナと出会ってなかったら今頃は立ち上がる事も出来なかったよ」


「そうかいそうかい……」


 感謝の言葉を聞いたアンナの目に涙が浮かぶ、段々と顔が物悲し気になっていく。明日の朝には依頼も終わりアンナとは別れを告げなければならない。モウガスがそんな気持ちを汲み慰めの言葉を掛ける。


「あ、あのよアンナ、依頼が終わっても……その、なんだ、また遊びに来るからよ、元気だせよ」


「……ふふっ、やっぱり優しい子だね、あんたは」


 アンナが微笑むと恥ずかしいのか横になったモウガスが反対側へ向く。するとアンナが持っていた杖をモウガスの前に掲げる。


「スリイープ!!」


 そう唱えると淡い青い光がモウガスの体を包み込むと、すぐに光が収まる。そしてアンナがそっとモウガスの顔を除き込む。


「……すぅ……すぅ」


 【スリイープの杖】は相手を眠らせる効果がある。熟睡している事を確認するとベッドに腰を掛けてモウガスの寝顔に優しく撫でる様に触れる。


「まったく、女神様も粋な計らいをしてくれたもんさ……人は紡がれるか……」


 アンナが独り言を呟きながらモウガスの顔を優しくさすり感傷に浸ると、しばらくしてベッドからゆっくりと立ち上がる。


「さあ、万能薬の最後のひと手間だ!全身全霊でやるとするかね!」


 部屋を出ると作業台へと戻り、万能薬の最後の仕上げに入る。普段より腕をかけるその姿は今まで無い位に楽しそうであった。


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