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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第55話 結婚指輪とファイアー

・コスモ


 元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】

 騎士団時代に負った右膝の傷を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果によりモウガス(男)からコスモ(女)となる

 本人は嫌々ながらもピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾、魔剣ナインロータスを仕方なく装備する

 バンディカ帝国の上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得ると、それを象徴する装備がますます外せなくなる、意味呪われた装備と化す


ムリギュの洞窟で起こった出来事を領主のレオネクスに報告をする


「二つ頭の徘徊死竜が現れた……か」


 領主のレオネクスが悩ましい顔を浮かべ、玉座に座っている。 


 目的の【封印の指輪】を手に入れたコスモ一行が、数日を掛けて山岳都市スタンブルトへと帰還すると、ユリーズの従者達の出迎えを受けつつ、その足でムリギュの洞窟で起こった事をすぐに報告しようと領主ネオネクスの居城へと登城していた。


 急を要する報告との話を受けて、地方都市について打合せをしていた領主レオネクスが執事のフェニーに後を任せると急いで領主の間へとコスモ達を受け入れた。


 しかし実際、報告を受けるも想像以上に悪い報告でレオネクスが頭を悩ましていた。


「地下10階で遭遇したのだが、俺とコスモの証言では足りないと思ってな、立ち会った冒険者のバーチェとサンジ、マンジを連れて来た。この者達も目撃している」


 領主の間でコスモ達が跪く中でユリーズだけが腕を組み仁王立ちでレオネクスに報告を行う。


 今回の事件を裏付ける要員として、冒険者の【透百合のバーチェ】と【双剣のサジマジ】の兄弟をムリギュの洞窟から同行させていたのだ。


 もちろん二つ名を持つ有名な冒険者のバーチェ達をレオネクスは知っていた。だからこそ、認めたくは無いこの報告が事実であると受け入れつつあった。


 ユリーズから紹介されたバーチェ達が跪いたまま顔を上げ、見た事をありのままに証言する。


「レオネクス様、ユリーズ殿下が仰った事は全て事実です。現に私が瀕死の重傷を負い、助けられたのです。」


「領主様、殿下の言ってる事は本当です!俺達兄弟も二つの頭の徘徊死竜を見てます!」


「コスモさんが居なければ俺達は今ここに居ません」


 真剣な顔で語るその姿を見てレオネクスの顔色が悪くなる。領地を荒らしまわっていた山賊王コンドラを討ち、漸くスーテイン領が立ち直り始めた時である。目まぐるしく忙しい時期に、こんな異常事態が起こるとは思ってもみなかった。


 だが唯一、幸運だったのはコスモ達がその二つ頭の徘徊死竜と出会い、打ち倒した事だろう。


「ユリーズ殿下とコスモ殿の証言で十分に信用してはいるが、問題は2匹目は居ないのかどうかだな」


 そんな珍しい魔獣、1匹居たならば2匹目は居る訳が無い。そんな楽観的に考える領主、いや冒険者でも居ない、先を見据えて常に最悪を想定して考えるものだ。


 しかもムリギュの洞窟は鉱山に並んでスーテイン領の貴重な収入源でもある、ここで再び二つ頭の徘徊死竜が現れ冒険者達を襲い出したら洞窟からの収入が断たれ領地運営に支障が出てしまう。


 その思いを汲んでかユリーズが自身の私見を述べる。


「俺の推論にはなるが、恐らく誰かが創った魔獣だろう。もし創った者が居たと想定しても1匹だけで居れば、人を狙うにも、宝具を得るにも十分な戦力になる、だから無駄な労力を使い2匹目を創る事は無いと俺は考えている」


「魔獣を創る?そんな馬鹿げた話があるのか?」


「おい、ビトーネ、お前は二つ頭の徘徊死竜を見た事があるか?」


 ユリーズの飛躍した意見にレオネクスが驚いていると、その横でほわほわした顔で立って居た火竜の竜人ビトーネにユリーズが意見を求める。このビトーネは見た目は天然の女子だが200年は生きているピチピチの竜人だ、その知見に頼った。


 ビトーネが目線を上に向けて思い出す仕草をすると、ユリーズを見て答える。


「んーー……無いね!だけど昔居た魔術師で、特殊な技能を使って魔獣の体を繋ぎ合わせて他の魔獣と戦わせていた趣味のわるーーーいのが居たよ、さすがに徘徊死竜は強過ぎて無理だったみたいだけど」


「そんな技能があるのか……もし本当ならユリーズ殿下の推論はあながち間違ってはいない事になるが、その創作者は徘徊死竜より強いと言う事になるな」


 魔獣の体を繋ぎ合わせる技能を持った人間は過去に居た、しかし徘徊死竜までを倒せる力は無かった。これらの話から考えても、徘徊死竜より強い誰かが繋ぎ合わせた魔獣だと分かった。


 続けてコスモが胸の谷間から二つ頭の徘徊死竜から入手した【竜の輝石】を取り出すと、レオネクスの下へと歩み出し差し出す。


「レオネクス様、これが二つ頭の体から出た【竜の輝石】なんですが、調査をすれば何か分かるかと思って持参しました」


「ちょっと待ってコスモ!良く見せて!」


 横で見ていたビトーネが驚いた表情で、コスモの持つ【竜の輝石】に近寄ると真剣な眼差しで見つめる。先程のほわほわした顔とは逆に険しい表情になると驚くべき事を話し始める。


「これって竜人の物だよ、しかも大きさから言って私以上に強い竜で、竜化した状態で倒されてる……」


「マ、マジかよ」


「多分だけど……コスモと同じ位に強い奴に倒されてるよ」


 ビトーネの言葉を聞いてコスモが【竜の輝石】から技能【慈愛】を通して心の色が見えた事を思い出す。


 火竜のビトーネが【竜の輝石】の大きさから見て、自分より強い竜人がコスモと同等の力を持つ者によって倒された事が分かった。


 竜人の状態では【竜の輝石】は小石の様に小さいが、竜に変化すると人の拳程の大きさになると、ビトーネが続けて説明をする。竜人は洞窟での生活はしない、二つ頭を創った者が敢えて洞窟の外で、竜人が竜化した状態を狙って倒し、その亡骸を利用したという事になる。


 つまり【竜の輝石】を傷付けない様に生きた竜を無力化できるコスモ並の実力が無いと、ムリギュの洞窟に居た二つ頭の徘徊死竜を創るのは不可能なのだ。この話を聞いた領主の間に居た全員が恐れを抱く。


 ここに居る全員がコスモの英雄級の力を目の当たりにしているのだ。あの力が悪意を持つ者が持っているとなると、一つの国が消し飛んでもおかしくはない、怖気づかない方がおかしいのだ。


 すると領主のレオネクスが神妙な面持ちで立ち上がる。


「こうなったら洞窟を封鎖して俺が直々に調査に向かうしかないな……幸い神器【ドラバルド】がある。近々、洞窟探索隊を編成して調査を行おう」


 レオネクスが洞窟を封鎖する事を決めると、ユリーズが冷静に分析した結果を付け加える。


「レオネクス卿、二つ頭を創った者のはすでに洞窟には居ないだろう、俺達に二つ頭の徘徊死竜を襲わせたとなると、すでに目的は果たしたと言っても良い」


「ユリーズ殿下の推論が正しければそうとも言えるが、確実ではないだろう」


「この件は帝国も協力しよう、地下10階までなら潜れる優秀な斥候部隊も居る。もしコスモと同じ力を持つ者が居たとしてもかなり目立つ筈だ。その時には逃げ……」


 ユリーズがそこまで言い掛けると、コスモが勝手に解釈して会話に割り込む。


「俺の出番ですね、もちろんすぐに駆け付けますよ!」


 コスモが胸を叩き力強く答えるとレオネクスの顔が明るくなる。その反対に言いたかった事はそうじゃないと心の中で呟くとユリーズの顔を少し暗くなる。しかし言い出した事は引っ込められない。


「それは心強い、是非にも頼む!」


 英雄級の力には英雄級の力をぶつける、ごく自然で真っ当な対策である。


 洞窟を封鎖をしてレオネクス自ら調査に乗り出し、帝国からの助力を得てる事も決まった。もし、二つ頭の創作者が居たとしてもコスモが駆け付けるという約束も取り付ける。この上ない対策が決まると領主の間に居た全員がひと時ではあるが張り詰めた緊張感が解けて安堵する。


 すると用事が済んだかの様にユリーズが踵を返し振り返ると跪いているバーチェ達に声を掛ける。


「では、対策も決まった所で後は任せたぞレオネクス卿、さあ皆の者引き上げじゃあ!」


「いやいや、殿下!引き上げじゃあ!じゃないでしょ!まだ報告してない事がありますよね!」


 レオネクスに背を向けて颯爽と皆を引き連れて、自然に出て行こうとするユリーズをコスモが慌てて肩を掴み制止する。


 もちろん止めた理由は【天使の指輪】についてである。洞窟で得た宝具は価値の無い【封印の指輪】を除いて領主が買い上げると言う決まり事がある、それを承知して洞窟の許可証も出して貰っているのだ。


 しかもユリーズらしからぬ、時代がかった台詞で強引に切り抜けようとした事にコスモが一番驚いていた。余程、【天使の指輪】が惜しい様子だ。


 コスモに肩を掴まれたユリーズが舌打ちをして止まると表情を変えずに遠慮のない声で話を始める。


「っち……良いかコスモ、この脳筋にはこの指輪の価値は分からん、いっそのこと俺とコスモの婚約指輪にした方が有意義だと言うものだぞ」


「駄目です!レオネクス様とフェニー殿が結婚されるのですから、そちらが優先です!と言うか声が大きいですよ!レオネクス様に聞えたらどうするんですか!」


「おい……ユリーズ殿下、いやユリーズ、俺の事を脳筋と言った様に聞えたが……聞き間違いか?」


 コスモの心配が現実となる。レオネクスにばっちり聞えていた。


 脳筋と聞いたレオネクスが領主の間の玉座の後ろに掲げていた神器【ドラバルド】を掴むと、眉間に皺を寄せ般若顔の様にして玉座から下りて来る。


 これでレオネクスの迫力にユリーズが引くかと思ったが、案の定不敵な笑みを浮かべ迎え撃つ態勢を取る。


「聞こえていたならば、遠慮はいらんな!脳筋の領主を脳筋と呼んで何が悪いか!」


「言ったなこの野郎!いくらダチだからってな、皆の前では領主の様に扱えってんだ!その性根叩き直してやる!」


「面白い!レオネクス!どれだけ腕が上がったのかこの俺が見てやる!」


 実はこの2人は昔ながらの友人関係である。レオネクスの父グレンドルの葬儀にユリーズが参加した事がきっかけで友人となっていた。友人と言うよりも兄弟に近い感覚だ、もちろん兄はレオネクス、弟はユリーズといった感じである。


 2人の争いを見てバーチェとサンジ、マンジが立ち上がってどちらを止めようかわたわたていると、ビトーネは玉座の横で脳筋という言葉がツボに入ったのかお腹を抑えながら笑い転げている。まさに領主の間は混沌状態(カオス)である。


 その2人の間にコスモが【天使の指輪】を差し出しながら慌てて割って入る。


「レ、レオネクス様!洞窟で手に入った珠玉の宝具【天使の指輪】を是非、結婚指輪としてお納め下さい!!」


「て、天使の指輪だと!!」


 さすがのレオネクスも幻の宝具【天使の指輪】の名は聞いた事があるらしい。驚き戸惑っていると段々と眉間の皺が緩やかに解れ始めだんだんと普段の表情へと戻って行く。


 コスモの手から天使の指輪を渡されるとユリーズの脳筋発言も忘れ、借りた猫の様になったレオネクスが神器【ドラバルド】を玉座の後ろへと戻すと心が抜けた状態で玉座に座る。


 真顔になって指輪を見つめると唾を飲み、ポツリと本音を口に出す。


「ゴクリ……こ、これで我が領の財政難が解決できる……」


(うわー最低だわこの人、やっぱ脳筋だわ……人の話聞いてないし……)


 いくら領地の財政が圧迫されてるとは言え、領主としてでは無く1人の男として甲斐性を見せて欲しかった。このレオネクスの発言には、鈍感な元おっさんのコスモでもドン引きする。本当にこの場に婚約者のフェニーが居なくて良かった。


 ユリーズの言っていた通り指輪の価値をある意味で理解していない脳筋であった。ユリーズが『だから言っただろう?』と言う目線でコスモを見つめる。


 そんなやり取りをしていると領主の間の扉が開く。


「失礼しますレオネクス様、地方都市の件の打合せが終わりましたので報告に……」


 領主の間に入って来た執事のフェニーがレオネクスに報告をしようとすると、レオネクスの手にあった【天使の指輪】が目に入る。すると執事兼参謀として冷静沈着だったフェニーの顔が段々と笑顔になって行くと、レオネクスの下へと駆け寄る。


「まあ、何て素敵な指輪なんでしょう、まるで天使が羽を羽ばたかせてるみたい!レオネクス様!もしかしてこの指輪は……」


 フェニーが頬を赤く染め、何かに期待した目でレオネクスを見上げる。


 流石にここまで来ると脳筋のレオネクスでも次に何を言わなくてはならないのか理解出来ていた。だが、それでも後ろ髪を引かれるのか、ぎこちない笑顔で答える。


「も、もちろんフェニーとの結婚指輪だ、コスモ殿達が俺達の為に洞窟から取って来てくれたんだ」


「コスモ様!こんな素敵な指輪、本当に私が付けても良いんですか?」


「もちろんです、婚約指輪としてこれ以上の物は無いですからね」


「私はとっても幸せ者です……本当にありがとう」


 フェニーの目に涙が浮かぶと本当に嬉しそうな顔をしている。


 そんな良い雰囲気の中、ユリーズが良くない事を思い付いたのか顔をにやりとさせるとフェニーに声を掛ける。


「フェニー、実はそこのレオネクスという男がな、その指輪を……」


「ユリーズ殿下、レオネクス様がどうかしました?」


「わーわー!止めろ!止めろユリーズ!」


 先程のレオネクスの不用意な発言をユリーズがばらそうとすると、レオネクスが今までに見た事が無い慌てた表情を見せて必死に止めようとする。何も知らないフェニーが不思議な顔をしている。


 婚約指輪を売ろうとしていた、この事がフェニーに知られたら即座に婚約破棄されるだろう。それを見込んでユリーズが脅しという名の交渉を仕掛ける。


「ふむ……そうだな、その【竜の輝石】はすでにビトーネによって結論は出ている、調査するまでも無いな、よってこちらで預かっても文句は無かろう?」


「うんうん、【竜の輝石】はもちろんユリーズ殿下達の物だ、持ち帰る事を許そう!」


「後はそうだな、3日後にグンラ卿の屋敷にフェニーと一緒に来て貰おうか」


「わ、分かった!必ず時間を作って行く!フェニーも一緒だな!」


「?」


 状況が飲み込めないフェニーを間に挟み、レオネクスとユリーズの間で次々と決め事が交わされて行く。その様子をコスモが渋い顔で見つめる。


(ユリーズ殿下は急所を付いた交渉が上手いけど……えげつないよな)


 ユリーズの頭の回転の早さと交渉術にコスモが舌を巻いていると、【竜の輝石】をレオネクスから受取ったユリーズがそのままバーチェへと手渡す。


 バーチェが戸惑いながらもそれを受取るとユリーズの顔を見つめる。


「で、殿下、よ、良いのですか?」


「約束だからな、良い薬師はすぐに呼べぬが、【竜の輝石】が手に入れば子はすぐに助けられるだろう?」


「あ、ありがとうございます……」


 バーチェが跪きながら顔を下に向けて涙を流す。それをサンジとマンジが自分達の事の様に嬉しそうな笑顔で見つめていた。


「バーチェ、サンジ、マンジ、お前達も3日後にグンラ卿の屋敷へと来るのだ、良いな?」


「えっ?お、俺達もですか?」


「もちろんだ、最後の一押しがあるからな、ふふふふ」


 不敵な笑みを浮かべるユリーズがビトーネを除く全員に3日後グンラ卿の屋敷へと集まる事を約束させる。この時コスモは理解していた、サンジが洞窟で話していた事をユリーズは忘れていなかったのだ。


 交渉(脅し)を掛ける事で【竜の輝石】を手に入れ、更にグンラ卿の不正行為を取締まろうとしていたのだ。一体何手先まで見通しているのかコスモには分からないが、間違いなく良い方向へと導くユリーズのやり方は1人の男として尊敬しているし信頼している。


 慌ただしい報告となったが、一旦この場で全員が解散すると3日後にグンラ伯爵の屋敷へと集合する事になった。





 3日後、グンラ伯爵の屋敷。


 屋敷の中で当主のグンラが商人から買い上げた、宝石と黄金を散りばめた趣味の悪い特注の鎧を白い絹糸で編んだ布切れで磨いていた。


「はあー……実に美しい、高貴な者であるこのわしに相応しい鎧だ。」


 グンラという男は白髪頭に立派な白髭を蓄えている高齢の男だが、高齢とは思えない程に脂が乗っている。普段の食生活も豪華なのか恰幅も良い。屋敷も並の貴族以上に立派な造りで、長い廊下や各部屋には彫刻や全身鎧、槍などが何本も飾られていた。


 そしてグンラの居る宝物部屋には、趣味の悪い鎧の傍に高そうな壺、装飾の施された剣、有名な絵師が描いた絵画、銀の食器に、黄金の棒板、宝の山が一室に敷き詰められていた。その量から見て長い間を掛けて集められたのだと分かる。


「これも全てはあの忌々しいアルニが居なくなったお陰だ、あの馬鹿め、何が領民の為に命を懸けろだ。貴族たる者、搾取する側に回らなければ意味がなかろうに……」


 領主レオネクスの執事で参謀を兼ねたフェニーの父、アルニが山賊王コンドラに討たれた後、グンラが裏で根回しをしてアルニの領地であるこの土地に後釜として収まっていた。


 先のコンドラ討伐にも自身の私兵を何人か遣わせただけで、本人は高みの見物であった。ともかくこの男、スーテイン領の事情を顧みないで領民から財を巻き上げる事だけに苦心していた。


 すると、老齢の従者がグンラの居る部屋の扉を開けて、慌てた様子でグンラに報告する。


「ご、御主人様!レオネクス様がいらしております!」


「馬鹿者!この部屋に入る時は外から扉を叩き許可を取れと言ったはずだ!誰かに見られたらどうする!」


「も、申し訳ありません!何分急ぎだったもので」


「ふん、言い訳はいい!で、レオネクスの小僧が来ただと?そんなの待たせておけ」


「し、しかし、レオネクス様がご主人様に火急の用件があると仰っていまして……」


 火急の用件、その言葉を聞いてグンラが顔をしかめる。こちらにはその様な用事は無い、それにスーテイン領には決められた上納金も納めている。


「ふむ……面倒だが、話だけは聞いてやるか」


 念の為、レオネクスに会い用件を聞いて、大した内容でなければとっととお引き取りを願う。その腹積もりで渋々レオネクスが待つ屋敷の1階にある貴賓室へとグンラが向かう。


 グンラが貴賓室の扉を開けると中にはレオネクスと執事のフェニーが長椅子に2人揃って座り、その背後に冒険者のバーチェ、サンジとマンジが立って居た。


 大所帯で現れたレオネクス達にグンラが一瞬驚くが、すぐに作り笑顔になるとレオネクスの座る長椅子と対面側の1人用の椅子に座る。


「これはこれはレオネクス様、お忙しい所このような僻地までいらっしゃるとは」


「いや、何、グンラ卿の使者から頂いた戦勝祝いのお礼に来たのだ」


「わざわざ、その様な事の為に来て頂けるとはこのグンラ、嬉しい限りですぞ」


 大した用件では無い、そう判断するとグンラが作り笑顔のままやり過ごそうとする。


「実はな、そのお礼なのだが、俺以上にグンラ卿の言葉、いやその行動に心打たれた者が居るのだ、その者が俺に代わって直接グンラ卿に礼を申したいと言っている。どうだ?受けて貰えるだろうか?」


「もちろん、喜んで受けますとも!」


(ふん、大した用件では無かったな、さっさと受けて帰って貰うか……)


 そう思っていたグンラだが、大きな音が屋敷内に響き渡る。


ドゴォォォォオオオオオン!!ズゴゴゴゴ!!


 轟音と必殺の一撃音が屋敷の内部から聞えて来る。


「な、何事だ!」


 グンラが椅子から立ち上がると、老齢の従者が再び慌てて貴賓室の扉を開け転がり込んでくる。


「御主人様!大変でございます!!ピンクの助平な鎧を着た女が2階の宝物部屋に!!」


「賊か!わしの屋敷に盗みに入るとは笑止千万!すぐに討伐してくれるわ!」


 グンラが貴賓室に飾られてあった鋼の槍を握ると、部屋を飛び出し1階の広間へ躍り出る。


 すると2階へ続く大階段には赤い髪をなびかせ、手すりに寄り掛かる男が居た。その男に気付いたグンラが足を止めると、賊の1人と判断する。


「貴様!賊の仲間か!ここには領主のレオネクス様も居るのだ!生きて帰れると思うなよ!」


「……生きて帰れるか、面白いなグンラ卿、その言葉はそのままお返ししようか」


 赤い髪の男がゆっくりと大階段を降りると、その顔がはっきりと見えて来る。その顔を見たグンラが驚く。


「ま、まさかユリーズ殿下!?」


「貴様の領地を見てきたが酷い有様だな、一向に開拓が進んでおらぬ。最早これは地区領主として相応しくないと判断しても良いだろう」


「な、何を証拠に、今は必死に開拓民を集めている最中なのです!それに私は長年、帝国の為尽力している貴族なのですぞ!」


「ほう?集まりもしない開拓民を集めているとな?ではこれを読むが良い」


 ユリーズが手に持っていた一枚の洋紙をグンラの足元へと投げると、グンラが洋紙を拾い上げ読み始める。するとグンラが体を震わせ顔を紅潮させる。


「領民達は帝国を好いてくれるみたいでな、俺が話を聞くと率直な意見を出してくれたのだ」


 ユリーズがグンラの屋敷へと向かう途中の村や、開拓村に立ち寄り領民達からグンラの評判を聞いて回っていた。最初はグンラへの密告を恐れて協力的では無かったが、ユリーズが本物の帝国の皇子だと分かると、それはもう止まらない不満が次から次へと泉の様に溢れ出て来る。


 余りにも多いので紙にまとめたのだ。内容は、税が高い、橋は直さない、密告に報奨金制度を設けている、開拓民の土地を召し上げる、八公二民、馬鹿馬鹿うるさい、しつこい、がめつい、脂っこいなど後半は悪口に近いが、話を聞いていたユリーズが逆にどれだけの事をすれば、領民にこの様な不満が溜まるのか不思議に思う位に酷かった。サンジが貴族を嫌う理由も致し方ない事だと納得もする。


 すると広間の2階の吹き抜けの手すりからコスモが顔を覗かせユリーズに声を掛ける。


「殿下の言った通り、相当に貯め込んでましたよ、ほら見て下さいよ、この趣味の悪い鎧」


 ユリーズの指示で2階の宝物部屋を強制捜査していたコスモが、例の宝石と黄金を散りばめた趣味の悪い鎧を片手に持つと大きく見せびらかす。


「そ、その鎧は!や、やめろ女!その鎧は高かったのだぞ!!」


 その様子を見たユリーズがにやりと笑うと、コスモへ顔を向けるとすぐに指示を出す。


「コスモ、そんな実戦で役にも立たない物など潰してしまえ!」


「ははっ!では遠慮なく!」


「や、やめろおおおおおお!!」


 グンラの願いも虚しく目の前でコスモがその鎧を両手に力を込めて挟み込むと板の様に薄く潰される、さらに板状になった鎧の上下に持ち変えると一気に潰す。それをおにぎりを握るかの様に回しながら握り絞ると趣味の悪い鎧が球状に変わって行く。


「ば、馬鹿な……わ、わしの一カ月の稼ぎが……」


 四つん這いになってグンラが落ち込んでいると、ユリーズが険しい表情になって言葉を続ける。


「最早、貴公の行いは帝国に対する反逆に等しい、そこでだ、これを貴公にくれてやろうと思ってな」


 ユリーズが腰に括り付けていた【ファイヤーの書】を手に持つとグンラの下へ寄り手渡す。グンラが意味も分からずにきょとんとした顔で受取ると、わなわなと体を震わせユリーズが見上げる。


「こ、これは一体どういう意味ですか殿下?」


「まだ分からぬのか?ファイアー……貴様はクビだ!」


「そ、そんな馬鹿な……」


 顔中から脂汗を流し、信じられない表情で俯くグンラにユリーズが背を向けて屋敷の入口へと合図を送ると、ユリーズの従者である帝国騎士の2人が入って来てグンラの身柄を確保する。両脇を抱えられながらグンラが立ち上がるとユリーズの背に向かって最後の見苦しい言い訳を始める。


「まっ、待ってくれ!わしも嫌だったのだが仕方無かったのだ!何でも言うことを聞く!ほら、この通りだ……と、油断させといて……馬鹿めが死ね!!!」


 頭を下げる振りをして、両脇を抱えていた帝国騎士を跳ね除けるとグンラが手に持つ鋼の槍をユリーズに向かって突き立てようとする。


 しかしユリーズの背後に迫るグンラに2人の男が立ちはだかる。サンジとマンジである。


「やっとお礼が返せるなマンジ!」


「のしを付けてやろうぜサンジ兄!」


「どけ!田舎の小僧共!!」


 サンジとマンジが鋼の剣を抜くと同時に走り出し、グンラの放った鋭い槍の突きをサンジが軽く躱すと、一気に間合いを詰める。


 2人が息を合わせ同時に鋼の剣の刀身をグンラの顔を挟み込むように左右から叩き付けると、グンラの顔から鼻血と脂汗が飛び散る。


「ぶぺっ!ば、馬鹿な……このわしが……やられるなんて……」


 グンラが倒れ込むと帝国騎士が慌てて縄で体を縛り始める。


「へっ、殿下から【ソードマスター】にして貰ったんだ、お前みたいな外道に殿下をやらせるかってんだ」


「せいぜい、その身を持って罪を償うといいさ、ね?殿下!」


「フッ……2人とも、見事な戦いだったぞ」


 レベルの上限50で【ソードファイター】だったサンジとマンジがユリーズの委任状によって【ソードマスター】へと昇格していた。それもあるが元々2人は兄弟なだけあって連携が冴えていた。中級のまま洞窟の地下10階まで行けていたのは2人の連携した戦い方が上級に匹敵する力があったからであった。


 帝国騎士にグンラが連行されると、屋敷の外で待機していた山岳騎士団へと引き渡されて行く。今までの罪に皇子に対する暗殺未遂が上乗せされ、極刑までは行かないにしても鉱山で山賊の残党と共に強制労働となるだろう。


 一部始終を見ていたレオネクスがユリーズに声を掛ける。


「これでスーテイン領もまた良くなっていく、感謝するユリーズ殿下、だが……グンラの後を誰に引き継がせたら良いものか……」


 現地区領主だったグンラが居なくなり、新たな領主を決めなくてはならない。流れで言えば前地区領主アルニの娘であるフェニーが妥当なのだが、すでにレオネクスとの婚約が決まりその役目を果たせない。困り果てたレオネクスが考え込む。


 その横でユリーズがバーチェに目をやる。


「ところでバーチェ、子供の容態はどうだ?」


「はっ!殿下から頂戴しました【竜の輝石】を削り、処方した所、体調も落ち着き病が収まりつつあります」


「そうか、それは良かった、其方も夫を亡くし子供を抱え、1人で冒険者を続けるのも大変であろう?」


「は、ははっ!仰る通りでございます」


「どうだ?冒険者の経験を生かし、この地区の領主をやってはみないか?」


「はっ!地区領主ともなれば、家を離れる事も少なくなり、息子と一緒に居る時間も増えて非常に嬉しく思い……って、今何て言いましたか?殿下?」


 突然の申し出に気付かず愚直に質問に答え続けるバーチェが目を見開いて、再度ユリーズに問いかける。そのユリーズが質問に答える前にレオネクスへと手合図を送ると、気付いたレオネクスがフェニーを伴ってバーチェの下へと移動する。


 レオネクスとフェニーが少し立ち話をすると、フェニーがユリーズに代わりバーチェの質問に答える。


「バーチェ様、私の父アルニが愛してやまなかったこの領地を守って頂けませんか?名の知れた貴女であれば、領民達も喜びます。何より私共に優秀な仲間が増える事もこの上無く喜ばしい事なのです」


「だ、だがしかしフェニー殿、一介の平民である私にその大役が務まるだろうか……」


 領地運営に自信の無いバーチェが弱気になると、ユリーズがサンジとマンジに目を付ける。


「そこは、サンジ、マンジお前達が助けてやれ、良いな?」


「えええええ!俺達が?!」


 ユリーズの無茶振りに驚くとサンジとマンジが顔を見合わせる。だが命も救われ、昇格もさせて貰った、貴族が嫌いだと言う話も真剣に聞いて貰い対処もしてくれた。そんなユリーズの願いを無下に出来る訳が無かった。


「バーチェの姉御、ここまで来たら俺達も喜んで協力するぜ」


「リスタ君もその方が絶対喜ぶって!」


 サンジとマンジがやる気に満ちた顔でバーチェの助力を申し出る。それを見ていたコスモが2階から広間の大階段をゆっくりと降ると、バーチェの傍に寄って背中を軽く叩く。


 トン!ズゴ……


「バーチェ、お前みたいな真っ直ぐな領主が居てもいいんじゃねえか」


「コスモ王妃……」


「だから、王妃はやめろって!」


 王妃と呼ばれたコスモが頭を搔いて恥ずかしがる。今だにバーチェの中ではコスモはユリーズの妃扱いであった。


「何だ、ちったあ手の掛かる子供が増えたと考えりゃあいい、子供1人抱えて冒険者を続けてたんだ、バーチェに出来ない事はねえだろ?」


 コスモがにっこりと笑みを浮かべながら悩むバーチェの背中を押す。


 周りに居る全員に期待されているバーチェの脳裏に今までの軌跡が思い出される。


 夫を亡くしてからは苦労の連続で、上級冒険者ながらも時には子供に付きっ切りで、稼ぎも無く食うにも困る日々もあった。追討ちを掛けるかのように、小さい我が子が病気になってしまう。


 何もかもが上手く行かない、だが嘆いているだけでは何も始まらない。せめて我が子の病だけでも治したい気持ちで【竜の輝石】を得ようとムリギュの洞窟へと向かう。


 そして二つ頭の徘徊死竜にやられそうなると、運良く洞窟でコスモとユリーズに出会い助けて貰った。2人の登場はまさに流星の如く現れた希望の光……その力は心強く、言葉は温かみがあった。短い付き合いであるのに長年連れ添った夫の様に自分を信頼してくれている。


 そう考えると自分の中で答えを出したのか、レオネクスとフェニー、2人の前に跪く。


「レオネクス様、フェニー様、【透百合のバーチェ】の名に懸けて、地区領主の大役をお受け致します」


「おお!そうか、これで俺もフェニーも安心できる!頼んだぞバーチェ!」


「バーチェ様……いえ、バーチェ卿、これからのスーテイン領を一緒に盛り上げて行きましょう」


 バーチェが地区領主を引き受けるとレオネクスとフェニーが大いに歓迎する。


 その光景を離れた場所でコスモとユリーズが温かい目で見守る。


「ここでやるべき事は全て終わったな」


「なんだか、久しぶりにすっきりした気分ですよ、これって全部計算してたんですか殿下?」


「当たり前だ、人は財産なのだ、人は人と繋がる事で成長しその役目を全うする、そうやって我が帝国は大きく成長できたのだ……どうだ?改めて俺に惚れ直したか?」


 ユリーズの問にコスモが口をモゴモゴさせて、頬を赤く染め恥ずかしそうに視線を逸らすと体に似合わない小声でぼそぼそっと返答する。


「……ひ、人として惚れてはおります」


「ふむ……なら、後一押しと言った所だな、ふふっ」


 コスモの好感度に手応えを感じたユリーズが笑みを浮かべる。力押しではコスモに敵わないのを理解している計算高いユリーズは結婚までの長期的な戦略を立てている、その工程が1歩進んだのに満足していた。


「そ、そういう事よりも早く上皇様に贈り物を届けましょう!」


「爺様を出汁にして誤魔化すとは愛い奴め、まあよかろう、皆の者!引き上げじゃあ!」


「……それ気に入ってるんですね」


 再び時代がかった台詞がユリーズから発せられると、良い返事をする従者の中でコスモだけが、困った表情を浮かべていた。皇子のユリーズのちょっとした茶目っ気であった。


 別れを惜しむレオネクス達に、簡単な別れの挨拶をするとコスモとユリーズが従者達を引き連れ、グンラの屋敷……今はバーチェの屋敷を後にする。


 ここに新たなる地区領主バーチェが誕生した。


 爵位は子爵、そしてサンジとマンジには男爵の爵位が与えられた。屋敷に居たグンラの不正に加担していない従者達は引き続きバーチェの下で働き、子であるリスタの面倒を見る様になる。こうなるとバーチェの行動力が加速して行く。


 有言実行を地で行く新たな領主は領民達からの評判も良く、領民からの要望も必要であるか否か、すぐに精査すると即決、素早く対処を始める。その実働部隊として率先して先頭に立つのが、サンジとマンジ兄弟であり、面倒見の良いその姿に憧れた村々の若者達が兄弟の下へ集まって行く。


 そしてバーチェの透百合の髪飾りを紋章とした【百合騎士団(リリーズリッター)】が創設される。


 百合騎士団はやがてスーテイン領の屋台骨を支える程に成長し、大陸中にその名を知られる事になるが、それはまだ先の話である。

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