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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第52話 二人の剣士

・コスモ


元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】

騎士団時代に負った右膝の傷を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果に

よりモウガス(男)からコスモ(女)となる


本人は嫌々ながらもピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾、

魔剣ナインロータスを仕方なく装備する。


バンディカ帝国の上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を

得ると、それを象徴する装備がますます外せなくなる、意味呪われた装備と化す


現在、皇帝の子ユリーズと共に冒険中

 翌朝、日が昇るとそれを合図に冒険者達が慌ただしく一斉に活動を開始する。


 ムリギュの洞窟の入口は鉄で出来た柵に囲まれ、勝手に入れない造りになっている。横には簡易的に造られた監視小屋が有り、そこにスーテイン領の山岳騎士団が数人詰めている。


 主な仕事は領主の所有物という扱いもあって洞窟の監視、冒険者の救助活動などを行っていた。


 夜は盗掘されない様に、鉄柵門を閉めているが早朝には開門する。その時間になると冒険者達が仲間同士で集まり我先にと鉄柵門の前に並び始める。


 理由は深層の宝具以外にも、浅い階層でも手に入る鉱物が良い金策になるからだ、稀に希少な鉱物などが採掘されるとひと月は楽に過ごせる金額になる。


 そんな殺気立つ冒険者達が許可証を見せると騎士がじっくりと確認を行い、洞窟の中へと通して行くが、早朝から長く洞窟に潜る事で稼ぎを大きくしたい冒険者達が殺到し、鉄柵門の前には渋滞が発生していた。


 その様子をコスモが作った朝食のスープを飲みながら、ユリーズが簡易な椅子に足を組み座り優雅な面持ちで遠目に眺めていた。


「俺の想像していた冒険者は怠惰な者ばかりと思っていたが、意外と勤勉なのだな」


「冒険者と言っても全員がそういう訳じゃないですけどね、怠惰な者も居れば厳しく律する者も居ますよ」


「帝国の騎士達とあまり変わりはせんな……」


「騎士達と違う所は、安定した収入が無いという所ですかね、その分自由な時間があって束縛を嫌う者には人気はありますよ、何より自分の力で稼ぐという実感を感じると自信が持てますからね!」


「そうか……俺は今までそんな事を考えた事が無かった、だがコスモの言う通りなら少し羨ましい気がするぞ」


 ユリーズは次期皇帝としての教育を幼少の頃から受け、庶民とは違う皇帝としての道を歩んでいた。本人は皇帝の子息なので当然の事と考え、疑問を抱く事無く日々を過ごしていた。


 そんな生活を送っていると冒険者になって自由になりたいなど微塵にも想わなかった。だがコスモの話を聞くと何となく冒険者に興味が湧き、羨ましく感じる様になっていた。


 雑談を交え朝食を食べ終えると、食器の後片付けをして探索の準備を始める。2人共に洞窟探索の経験は無い。念入りに何泊か出来るよう食料や調理道具、綿を入れた簡易的な寝袋を荷物にまとめる。


 他の冒険者に遅れて列に並ぶと、しばらくしてコスモ達の順番が回り、洞窟の入口に居る騎士の男に許可証を見せるとコスモの容姿を見て、騎士の男が何かに気付いた表情を見せる。


「レオネクス様の直筆サイン入り……それにその恥ずかしいピンクのビキニアーマー、貴女はもしかして<インペリアルオブハート>の称号を持つコスモ様では……」


「あ、ああ……その通り俺がコスモだ」


(この感想も久しぶりだな……)


「そうですか!実は先の山賊討伐に兄が参加しててですね、コスモ様の活躍はもう、耳が痛い程に伺っております!」


 騎士の男がコスモを見ると噂通りなのか興奮気味に感謝の言葉を語り始めると、その騒ぎに周りの冒険者達の視線も集まる。


 すると横に居たユリーズが表情を変えず、コスモを庇う様に騎士の男の前に立つと最低限の言葉のみを伝える。


「その辺にしておけ、感謝の言葉はすでにレオネクス卿から直接聞いている、貴様は速やかに許可証の確認を行えば良い」


「え、えっと貴方は?」


 尊大な態度のユリーズに騎士の男がたじろぐと、コスモが小声で説明をする。


「こちらはユリーズ殿下、ウェイリー皇帝の御子息だ、訳あって洞窟に来る事になったから穏便に手続きをしてくれ、レオネクス様も承知している」


「なんと!わ、分かりました!……こりゃえらい事になったぞ」


 騎士の男がコスモの話を聞くと急いで許可証の確認を行う。周りに居た冒険者達もコスモの存在に気付く者も出て来てざわめき出す。


 騎士の男が許可証に問題無い事を確認すると、普段よりも丁重にコスモとユリーズを洞窟へと通す。その横をユリーズが颯爽と通り抜け、その後ろにコスモが小走りで後を追う。


 ひと悶着あったが、なんとかムリギュの洞窟へと入る。


 洞窟の中は薄暗く、元は白い大理石だったのであろう、長年を経て灰色に変色した大理石で出来た神殿の様な広間に出る。大理石の床や壁、柱はひび割れ、湿っているのか所々に苔が生えている。


 それも相まって洞窟内には、陰気とした雰囲気が醸し出されていた。


 まだ入り口付近なのか他の冒険者達が多く居るが、行き先を確認しながらいくつかある通路に向かって、それぞれが歩き出して行く。


 その広間でユリーズが突然立ち止まるとポケットから洋紙を取り出し、じっと眺め始める。今の今まで宝具の話だけで洞窟について詳細な事はコスモも知らない、それに気付いてユリーズに確認を取る。


「そう言えば殿下、宝具の在り処は分かっているんですか?」


「もちろんだ、帝国が誇る優秀な斥候部隊が見つけたこの地図に宝具の在り処が記されている、ここから地下10階にその宝具が在るのだ」


「へえ、どんな地図なんですか……」


 コスモがユリーズの広げた地図を覗き込む。すると地下10階までの道程が赤い線で描かれ、迷わず行ける様に丁寧に記されていた。


 しかも各階の構造や罠の位置、魔獣や悪魔の使いの配置まで記されていて、これで迷う方が難しい程に詳細に書かれていた。


(帝国の斥候部隊が何人も来て段取りをしたみたいだが……というか宝具の場所が分かってるなら取れば良いのに、敢えてユリーズ殿下自身に取らせようとしているな……)


 過保護にも程があるが帝国に仕える立場上、仕方の無い事なのだろう。自分達で宝具を手に入れられるというけど殿下に譲るんだからね!と言う宮仕えの苦悩と葛藤が相まみえる地図だ。


 その地図を確認し終えるとユリーズが自信満々に、地図に記された道へと迷わず歩き始める。


 広間を抜けて人が横並びに4人程立てる位の幅の薄暗い通路を地図に従って奥へと進む。まだ地上階なので人の歩いた形跡も残り、壁掛けの松明が設置され歩きやすい。


 だが広間と同様に古びた大理石で出来た通路は特徴が無い、通路も直角に折れ曲がる道が多く、一度迷うと自分の位置が分からない様になっていた。


 そんな状況だが地図のお陰で道中は迷う事も無く、地下1階へと続く階段の前に到着する。


「……なんだかつまらぬな、もっとこう冒険をしている感じが味わえると思ったのだが拍子抜けだな」


(そりゃそうでしょうよ、道中にあった罠も解除されてたし、魔獣の居ない場所を通って来たんですから……)


 道中コスモが技能【感知】で罠や魔獣の気配を探っていたが、地図に記された通り道には一切反応が無かった。斥候部隊が一つ一つ罠を解除して、魔獣の棲み処を避けていたからだ。


「まだ先は長いんです、その内魔獣や罠にも遭う事になりますよ」


「それもそうだな、では行こうかコスモ」


 地下へと続く階段を一歩下りたユリーズが振り返り手を差し出す。恐らくコスモをエスコートする為に差し出された手であろう。


 よくある大きな貴族の屋敷の階段で淑女の手を取り笑顔でその手を支える紳士の姿、まさにこの状態である。


(こ、この人は本気で女扱いしてくるから困るんだよな……)


 コスモがその手を見ると少し戸惑うが、周囲に人が居ない事を慎重に確認すると、頬を赤く染めながらユリーズの手を取って一緒に地下へと続く階段を下りて行く。


 地下へと続く階段を下りると同じ作りの迷路の様な通路が続く。ユリーズの持っていた地図は驚くべき精度で、何事も無く地下5階まで一気に歩みを進める事が出来た。もちろん階段を下りる度にユリーズのエスコート付で……だ。


 地下5階も何事も無く道中を進むものかと思われた時、通路の先頭を歩いていたコスモが、先の広間から何かの気配を感じるとユリーズに停止する様に手合図を送る。


「どうしたコスモ?」


「殿下、この先の広間に誰かが待ち伏せしています」


「魔獣か?悪魔の使いか?」


「いえ……この感じは人ですね、他の冒険者だと思います。ですが様子が変です、警戒して下さい」


「ならば問題はあるまい、行くぞ」


「あっ!ちょっと殿下!」


 コスモの忠告を無視してユリーズが先行して通路の先の広間へと入って行く。


 すると広間の中央には鋼の剣を構えた2人組の青年が立って居た。


 1人は短い青い髪に青い鉢巻に皮鎧に小手、脛当て、小型の鉄の盾、がっしりとした体躯でもう1人も短い茶色の髪に同じ様な格好をしていた。締まった表情につり上がった太い眉、目に力が入った二枚目で2人共に同じ様な顔をしていた。


 2人の足元には切り伏せた魔獣、洞窟大蜥蜴(ケイブリザード)の亡骸が3体転がっていた。


「へえーどんな冒険者かと思ったら、ピンクの綺麗な女に護衛されてる高価な魔道師の服の坊ちゃんか、どこぞの貴族様の御子息かな?」


「サンジ兄、こいつら見た事ないぜ、もしかしたら新人かも……」


 茶色の髪の男が青い髪の男をサンジ兄と呼ぶ、どうやらこの2人は見た目通り兄弟の様だ。


 茶色の髪の男がコスモ達を見て、新人冒険者であると判断する。洞窟内では常連の冒険者同士は顔が知れている。それもあっての判断なのだろう。


「魔獣討伐ご苦労、先を急いでいるので失礼するぞ」


 兄弟が何者かを気にする事も無く、ユリーズが配下を労う様に兄弟に労いの言葉を掛けると、2人の間を割って通り過ぎようとする。すると青い髪の男がユリーズの首元正面に鋼の剣を突き出すと、その進路を妨害する。


「気に入らねえな、坊っちゃんよ。そもそも貴族って奴は好かねえ、ここを通りたきゃ持ち金全部出しな!」


「サンジ兄!やめろって!お前らここから下は中級程度の力じゃ危ないから、悪い事は言わない引き返すんだ」


「マンジ!お前は黙ってろ!」


 茶色の髪の男が弟でマンジと呼ばれる。マンジはサンジに比べ温厚そうな性格でサンジの行動を諫めている。


 鋼の剣を首元に突き付けられたままで、ユリーズが後ろに居るコスモに尋ねる。


「コスモ、これは一体どういう事だ?」


「殿下、それは喧嘩を……いえ、決闘を申し込まれているかと」


「そうかこれが冒険者の決闘の挑み方か、面白そうだな、受けて立つとするか」


 ユリーズが首元に突き出されていた鋼の剣の刃の部分を右手の人差し指と中指、親指で摘まむと、指先に魔力を込め始める。


 すると鋼の剣を握っていたサンジの手に猛烈な熱を感じ始める。それも尋常ではない熱だ。


 慌てて突き付けていた剣を手元に戻すと、ユリーズから距離を取って鋼の剣に籠った熱を冷まそうと鋼の剣を振る。


「あっつっ!……一体何をしやがった!」


「貴様の決闘の申し込み受けて立とう。コスモ!手出しは不要だぞ!」


 この言葉を聞いたコスモが大きな溜め息を付いて、呆れた表情で聞き届ける。普段からこんな無茶な命令を受けていたのだろうと、従者達の苦労を身に染みて感じていた。


「はあ……分かりました、殿下の気が済むまで存分にやって下さい。危なくなったら守りますからね!」


「マンジ、お前も離れていろ、この坊ちゃん只者じゃない」


「……こうなったら駄目か、サンジ兄、無理するなよ!」


 互いの相方がユリーズ、サンジから離れると近くで静かに見守る。


 この決闘だが、ユリーズはマジック職【フレイムプリンス】でサンジはファイター職【ソードファイター】である。並の能力値同士であれば、圧倒的にファイター職のサンジが有利である。


 さらにユリーズは魔法書を出す素振りさえ見せないでいた。


 それを見たコスモが心配そうに念を入れて確認する。


「殿下……【マグマメティオスの書】は使わないですよね?」


「はははは、そんな物使えばこの洞窟が消滅してしまう、今持っているのは【ファイアーの書】のみだ」


 コスモの問いに、けらけらと笑いながらユリーズが答えると、【ファイアーの書】しか持っていない事を周知させてしまう。それを聞いたサンジが自分を格下と見られていると勘違いし激怒する。


「マジック職が初級魔法書【ファイアーの書】だけで俺に勝つ気だと、舐めやがって!」


 サンジがユリーズに向かって勢い良く走り出すと、上段の構えから鋼の剣を振り下ろす。それをユリーズが足を地目に擦らす様に最小限の動きで躱す。


 余りにも早い動きに鋼の剣がユリーズをすり抜けるかの様な幻覚を見る。


 続けてサンジが切り返し、薙ぎ払い、突きを繰り出すがユリーズが見切っているのか反撃せずに躱し続ける。その独特な躱し方にコスモが見入っていると、余裕があるのかユリーズが思い出したかの様に話し始める。


「コスモ、以前お前が言っていたマジック職に重要な『走り込み』だが、それとは別に魔法学院に新たなに創設された科目がある、それは『対人』を見込んだもので、この体捌きもその科目で学んだものだ」


 魔法学院で騒動があった後、改めて走り込み、走力の重要性が再認識され必修科目として定められたのと同時に、竜だけでは無く対人との戦いに於いてもマジック職が生き残り、戦局を決める戦力として活躍できる様に考案された科が創設される。


 それが東の国で編み出された【組討(くみうち)】である。


 組討とは、東の国の長い戦乱が続く中で編み出された、無手でも生き延びる事を目的とした体術で、庶民の間でも流行っていた。


 その後、戦乱が終息すると役目も終える様に組討が廃れ始めていった。困った組討の創始者が目を付けたのが外国への伝播であった。


 この目論見は当たり、アセノヴグ大陸で演武を行うとウェイリー皇帝の目に留まったのだ。その組討の有用性を見抜くと早速、魔法学院や士官学校に組討の科目が追加される事となった。


「な、なぜそんな踊りみたいな動きなのに俺の攻撃が当たらねえんだ!」


「組討の師範(マスター)が言うには俺には、この組討に天賦の才があるらしい」


 サンジが焦りで荒くなった上段切りを右腕で放つと、その振り下ろす剣に合わせてユリーズが、右腕の外側に回り込むように入ると、体を転回させてサンジの右手首と左肩に自身の手を添える。


 サンジの右後ろにユリーズが密着する形となる。


「……そしてこの体勢は東の国で死に体と呼ぶそうだ」


 ユリーズがサンジの耳元で囁くとサンジの右膝裏を蹴り上げ後方に仰向けに倒す。すかさずサンジの顔に左手を叩き付けると、その左手に魔力を込め始める。左手がみるみると熱を増して行く。


「あちっ!あちちちちちち!!ま、参った!俺の負けだ!!」


「ならばこれで終いだな……コスモを綺麗と褒めた男を殺すには惜しいからな」


 サンジから敗北の宣言がされるとユリーズが左手を即座に離す。サンジの顔にはまるで烙印された様なユリーズの逆さ手形の後が赤く残っていた。相当な熱が放たれたのが分かる。


 決闘が終わって見ればユリーズが【ファイアーの書】の魔法を使う事無く徒手のみで勝利していた。コスモが笑顔でそれを称賛する。


「お見事です!ユリーズ殿下!以前よりも段違いに強くなられましたね!」


「このサンジという男、元から俺を討ち取る気が無い、手を抜かれていたからこそ俺も魔法を使わなかっただけ……だがコスモが喜ぶ顔を見れて嬉しいぞ」


「くそ、何もかも全てお見通しって訳かよ、ただの坊ちゃんじゃねえなあんた」


 生意気そうな貴族の坊ちゃんを、痛めつけてやろうと思ったサンジの思惑をユリーズは分かっていた。それを加味して自身も魔法を撃つ事無く、制圧して除けたのだ。


 緊迫した雰囲気から和やかな雰囲気になると、それを見ていたマンジが緊張していた顔をほっとさせる。するとコスモとユリーズの表情が一変して、マンジの方へと殺気の籠った眼光を向ける。


 コスモが無言で魔剣ナインロータスを背中から素早く抜き、右腕の筋肉を膨張させて投げ付けると、ユリーズの右手の平から棒状の杭の形をした赤い炎を瞬時に6本撃ち出す。


 その全てがマンジの方へと飛んで行くと、マンジがその速さに反応出来ず棒立ちになる。

 

「ひ、ひい……」


 しかし放った魔剣と赤い炎はマンジの顔の両脇を通り過ぎると、マンジの背後の壁へと物凄い轟音と共に突き刺さる。


「へえ?殿下も中々やりなさる、良い反応でしたよ」


「コスモ程では無いにしろ、臣民を守るのが皇帝の役目だからな、この程度の事が出来なくては誰を守れようか」


「う、嘘だろ……」


 怯えるマンジが恐る恐る背後を振り返ると、洞窟大蜥蜴が2体が壁に張り付けにされていた。この2体が背後からマンジを狙っていたのだ。


 1体は魔剣ナインロータスによって体ごと壁にめり込み、原形を留めず壁が崩れかかっている。もう1体は杭の形をした赤い炎6本が体全体を貫き、杭の形を保ったまま貫通した箇所から火が上がり焼き始めていた。


 それを見たサンジが体を震わせていた。もし自分が本気でユリーズを討ち取ろうとしたら、あの洞窟大蜥蜴の様になっていたのは自分だと気付いたからだ。


 そして自分とは圧倒的に開いた力量差を実感する。


「ちなみにあれは、【ファイアーの書】で作られたただのファイアーだが、俺の技能で貫通力と速度を上げている、初級魔法書でも敵を足止め位には使える様にせんとな」


「肉薄しても良し、離れても良し、ユリーズ殿下には死角がありませんね。他の者が妬む程の力ですよ」


「ふん、コスモに言われると嫌味にしか聞こえん。これでもコスモは遥か高みに居るのだからな」


 ユリーズの技能【魔力操作】で魔法の威力はそのままに特性を持たしていた。今回は貫通力と速度で、サンジとの決闘ではその熱の力を利用していた。


 コスモの力だけを頼る事無く、対人対策も魔獣対策もより万全を期していた。


 魔獣の対応を褒めながら、コスモが魔剣ナインロータスを崩れた壁から引き抜くと、形を保っていた壁が大きな音を立て崩れ出す。炎の杭で固定されていた洞窟大蜥蜴は無残にも焼き上がっている。


 この2人のやり取りを静観していたサンジとマンジが顔を見合わせると、2人の前に躍り出て膝を付く。


「先ほどの無礼は詫びます!弟のマンジを助けて頂きありがとうざいます!」


「俺の命を助けて頂きありがとうございます!」


 2人が必死に感謝の意を伝えるとユリーズが皇子らしく振る舞いそれを許す。


「感謝の言葉など要らぬ、弟が無事であれば俺はそれで良い」


「あ、ありがとうございます……あの、ちなみに殿下と呼ばれていましたが、どこの殿下様でしょうか?」


「な?お前らな、この大陸で殿下って言えば皇帝陛下の御子息に決まってるだろ!」


「こ、こここここ皇帝陛下の……」


「ご、ごごごごご御子息!!」


 兄弟らしく声を合わせ驚愕の表情を浮かべるサンジとマンジ、そしてすぐに血の気が引く、恐れ多くも皇子に喧嘩を吹っ掛けたのだ。


 だが皇子がこんな洞窟まで出張る事は無いという気持ちも理解が出来る、2人にとってまさに青天の霹靂と言った所だろう。


「ちなみに俺は<インペリアルオブハート>のコスモだ、冒険者ならちったあ噂は聞いた事あんだろ?」


「ロンフォード領のピンクの悪魔……」


「元祖ビキニパラダイス……」


「なんで俺の噂だけ変なのしか通ってねえんだよ!なんだよ元祖って!俺が始めた店じゃねえぞ!!」


 当然だがユリーズの名に比べ、コスモの名は違った意味で冒険者達に伝わっていた。特にビキニパラダイスの影響は絶大で、観光地となっているカルラナから戻った人々によって口伝されたからだ。


 もはや<インペリアルオブハート>の称号と同等かそれ以上の印象を人々に与えていた。


 自分だけ変な風評が広まっているのを足を踏み悔しがるコスモを後目に、ユリーズがサンジとマンジに優しく語り掛ける。


「この程度の事で咎める程、俺は矮小な男では無い、だがお前達の見立て通り俺達はムリギュの洞窟については知識も経験も無い、地下10階までお前達の力を貸してくれると嬉しいのだが……」


 サンジとマンジが顔を見合わせると、安心した表情になって行く。そして自身の身分を利用して権威を押し付ける事無く、寛大な判断を下すユリーズに信頼を寄せ始めると、その場に立ち上がり胸を張って返答する。


「もちろんです殿下、俺達兄弟がこの洞窟について知ってる事と……」


「地下10階までの案内はもちろん洞窟についてもしっかりと説明します!」


「そうか、それは助かる、2人共頼りにしているぞ」


「「ありがたきお言葉!」」


 サンジとマンジが帝国騎士に引けを取らない声で案内役を買って出ると、誇らしげにムリギュの洞窟を案内を引き受ける。


 抜け目なく2人が倒した洞窟大蜥蜴の素材を剥ぎ取ると、コスモとユリーズの先に立ち洞窟の奥へと進む。


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