第51話 ムリギュの洞窟への手続き
・コスモ
元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】
騎士団時代に負った右膝の傷を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果に
よりモウガス(男)からコスモ(女)となる
本人は嫌々ながらもピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾、
魔剣ナインロータスを仕方なく装備する。
バンディカ帝国の上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を
得ると、それを象徴する装備がますます外せなくなる、意味呪われた装備と化す
今は冒険者として帝国に恩を返して行く
アセノヴグ大陸の各地には昔から存在するいくつかの洞窟がある。
古代の神が残した遺跡、過去の英雄の隠れ家、悪魔が作った呪いの洞、様々な呼び方をされていた。
洞窟には危険な罠が多く、他にも魔獣や悪魔の使いなどが徘徊していて侵入する者を阻んでいた。しかしその危険な条件に比例した価値のある宝も多く、日々、中級以上の冒険者達が一攫千金を夢見て挑戦をしていた。
そうすると出て来るのが一攫千金を狙う初級の冒険者達である。
仕事斡旋所では能力値の鑑定を行い、実力に見合った者だけに洞窟への進入を許可するという仕組みを取っていた。合わせて領内にある洞窟は領主の所有となるので領主の許可証が必要なのと、発見された宝は領主が買い取るという決まりがある。
例外として黒騎士セルシルの装備している【死神の鎧】については扱いが難しく、山賊討伐に貢献する事を条件に特別にレオネクスが個人的に使用を許していた。
宝具【封印の指輪】を取得する為に、コスモがユリーズと共に仕事斡旋所で受付嬢のメイからムリギュの洞窟への許可を申請すると二つ返事で難なく得る。残るは領主の許可証のみなので仕事斡旋所を出ると、その足でスーテイン領の領主レオネクスの居城へと歩みを進める。
居城の城門を抜け中の敷地に入ると、城の玄関口の側には多くの馬車が停まっている。戦いが終わって何日か経過しているが、未だに各領地の貴族の使いがレオネクスへと謁見している様子だった。
「あーコスモさん!今日はどうしたんですか?」
「お前は確か……【アックスアーマー】の女騎士か」
「はい、一緒に囮になった女騎士です!」
「そんな嬉しそうな顔で敬礼するなって、無理言って囮になって貰ったのに」
玄関口をコスモが通ると門番をしていた体躯の良い、女騎士がコスモに気付くと駆け足で近寄り大袈裟に敬礼をする。戦いが終わった後は、城内警護の仕事に戻っていた。
「今思い出しても寒気がしますよ!山賊に囲まれて、辱めを受けるんだと絶望していたら、コスモさんが土壇場で出した山賊達を骨抜きにしたあの妙技!あれが無ければお嫁に行けませんでした!」
「おい!それは内緒って約束だろ!」
「し、しまったー!」
「おい、女、その話をもう少し詳しく聞かせろ」
先の戦いでコスモが繰り出した技能【誘惑】は男にしか効果の無い決戦最終兵器である。コスモが戦いの帰路で囮になった女達全員に、技能【誘惑】の事を秘密にする様に根回ししていた。だがうっかりとその話をしてしまうとユリーズが興味を持ち、女騎士の肩を掴むと詳しく話す様に説得を始める。
だが女騎士が不味いと思った顔をして頬を膨らませ、ユリーズの説得を断固拒否する。
「そ、それはコスモさんと約束したから話はで、できません!」
「……やれやれ、コスモもそうだがアーマー職の者は一度決めると、頑なに守ろうとするからな、だが、嘘を付くのが下手過ぎるのが玉に瑕だな」
「ぐ……返す言葉もございません殿下」
ユリーズが諦めた様な顔になると女騎士の肩を掴んだ手を離し、説得を諦めるとコスモを含めたアーマー職の長所と短所をコスモを見ずに語ると、コスモが顔に汗を浮かばせ俯きながら同意をする。自身にも想うところがあるからだ。
一旦落ち着くと、女騎士がコスモ達を城内へと案内を始める。
城内では戦後処理で城内で働く内務官達が慌ただしく動き回っていた、今回の戦いはスーテイン領の命運を懸けた戦いで、その大勝利の報告に宣伝、開拓民の募集宣伝だけでも忙しい上に、山岳部族との地方都市建設に関係者達が日々、打合せを行っていた。やると言ったらやる男レオネクスの手腕が発揮されていた。
それを横目にコスモ達が領主の間に着くのだが、扉には謁見をする貴族の使者が5人列を作り並んでいた。
「他の貴族様からの使者が謁見中ですのでコスモさん!ここでしばらくお待ち下さい!」
「ああ、案内ありがとうな」
「わ、私はこれで失礼します!……コスモさん、ありがとうございました!では!」
門番の女騎士がコスモに対して異常な程の敬意を払い去って行く。その様子を見ていたユリーズがどれだけコスモが戦いで活躍したのかを推し量ると自分の事の様に内心で喜び笑顔で二人のやり取りを見ていた。
その列にコスモとユリーズが並び始めるのだが、並んでから10分以上は経っているだろうか、列が進まない。
先に入った貴族の使者の挨拶が長いのか、列が一向に進まない事にユリーズがしびれを切らし、無言で列から離れ歩き出すと並んでいる使者達の列を無視して領主の間の扉の前に立つ。
領主の間では年老いた貴族の使者の男が低頭したまま両手を擦り合わせ、玉座に座るレオネクスに思い付く全ての称賛の言葉を次から次へと口から発していた。
「…で先代グレンドル様は心優しく武力は大陸一と言われておりまして、その子息である現当主のレオネクス様も今回の戦でそれ以上である事を証明なされた!我が主もそれはもう勝利の報告を聞いた時は飛び跳ねる様に喜びましてな!レオネクス様なら先代の仇を必ずや取れると信じていた!と、それはもう口癖の様に普段から言っておりまして私共に言い聞かせる訳です!それで…」
「そ、そうでしたか、父の仇を取れたのも若輩の私を貴族の方々が見守って頂けたお陰です、感謝していたとお伝え下さい」
「かー!なんという謙虚さ!その若さでその振舞い、見事と言うしかありませんな!そうそう、我が主がですね…」
(仇を取れると信じていたか……散々、父の失敗を蔑み、葬儀にも来なかった癖に良く回る口だ……)
生前のグレンドルは周りの貴族から頼られる存在だった、元々、面倒見の良い男で困っている貴族からの無理難題にも愚痴をこぼさず淡々と対応していた、当時16歳だったレオネクスはそんな父を尊敬していた。
だが山賊王コンドラに敗戦、神器【ドラバルド】を失う失態を犯しグレンドルが戦死すると、世話をしていた周りの貴族達の態度が急変していった。ある者は敗戦の責任をレオネクスに問い詰め、またある者は領主の交代を迫る、酷い者は少女であった執事のフェニーに詰め寄り罵声を浴びせていた。少年ながらも汚い貴族のやり方を目の当たりにしたのだ。
そして今回、念願の先代グレンドルの仇を取って領内の平和を取り戻すと、レオネクスの名声も上がって行く。周りの貴族達は過去の事が無かったの様に使者だけを送りご機嫌取りをさせる。この貴族の流儀に心底呆れていたがスーテイン領主として無下にも出来ず、作り笑顔で日々その応対をしていた。
すると領主の間の扉が大きい音を立てて勢い良く開く。
その音に驚いたレオネクスと、謁見中の年老いた男が扉に視線を向けると、堂々とした絵になる立ち姿でユリーズが立っていた。二人の視線を感じてもお構いなしにユリーズが表情を変えぬまま思った事を伝える。
「おいどこぞの貴族の使者、挨拶が長い!事前に伝える誠意ある言葉は決めておけ、無意味に多くの言葉を発するのは愚か者の証、下らない言葉の羅列は侮辱と同じ、誠意ある言葉は一言で事足りる!」
「ユ、ユリーズ……殿下?何でまたここに?」
「へっ!?あ、あの若造が……いやユリーズ殿下ですと!」
堂々とした振舞いで謁見中の貴族の使者に駄目出しをすると、レオネクスがキョトンとした表情になる。それもそのはずで先日、ユリーズが謁見したばかりなのだ。
だがレオネクスにとってユリーズの登場は助かった。まるで自分の心情を察していたのか、的確にはっきり物言うユリーズの言葉に困惑しながらも、心の中ではよくぞ言ってくれたと称賛を送っていた。
長話をしていた年老いた貴族の使者がユリーズの言葉で慌ただしく立ち上がると、レオネクスに頭を下げて、そそくさと領主の間を出て行く。それと入れ替わりでコスモが領主の前に入ると、列に並んだ他の者達に謝罪と頭を下げ断りを入れてから扉を閉める。すると怒った表情になってユリーズを叱る。
「殿下!他の使者を蔑ろにしては下々の者は付いて来ませんよ!」
「俺にはコスモさえ居れば何も要らぬ、ならば何も問題は無いな」
「そ、それっぽい事を言えば許されるとでも!殿下!」
目を瞑りコスモの諫める言葉を聞いても動じないユリーズが、コスモに切り返しでお前だけ居れば良いと言う甘い言葉を伝えるとコスモが動揺する。
「まあまあコスモ殿、ユリーズ殿下の身勝手な行動はいつもの事、陛下のお言葉は昨日受け取ったが、今日は別に何か用があって来たのだろう?」
コスモが照れ隠しで言葉を荒くし始めるとレオネクスが助け船を出す。コスモが頬を赤くして口をつぐむと、ユリーズが自分のペースを崩さずにレオネクスへと用件を伝える。
「これからコスモとムリギュの洞窟へ向かう、そこに宝具【封印の指輪】が隠されていると聞いてな、それを手に入れるために領主のレオネクス卿に許可証を発行して貰いたい」
「宝具【封印の指輪】……確か一切の技能を封じ込める呪いの装備だったな……」
レオネクスが真剣な表情で、聞き覚えのある宝具【封印の指輪】を思い出す。
「その通り、スーテイン領には何も貢献しない無意味な宝具だ、それを俺に譲ってくれないか?そして理由は聞かないで欲しい」
ユリーズが表情を変えずにそう言い放つとレオネクスがコスモへと目をやる。
「コスモ殿も、理由は言えないのか?」
「レオネクス様、申し訳ありません……」
コスモも上皇アインザーの誕生日プレゼントに、とは口が裂けても言えなかった。アインザーの呪いの技能【魅了】は近しい身内とコスモしか知り得ない機密情報だからだ。レオネクスがその表情を見て心情を汲み取ると、真剣な顔が解れ微笑する。
「コスモ殿には助けて貰ったからな、ムリギュの洞窟への許可証は出そう、だがくれぐれも気を付けてくれ、毎年冒険者の何人かは行方不明になっている場所だ……いや、コスモ殿なら問題ないか」
「レオネクス卿もコスモの力を目の当たりにしたか、この俺の魔法【マグマメティオス】を打ち砕いた女だからな、何も問題はあるまい」
「なるほど、どうりでユリーズ殿下がコスモ殿に首ったけな訳だ……」
コスモとユリーズと言う珍しい取り合せに不思議に思っていたレオネクスがその理由に合点がいく。過去にこの二人には何らかの因縁があって今の関係になったのだと推測した。
「今は執事のフェニーも忙しい、俺が直接、許可証を発行するから少し待っていてくれ」
「すまないなレオネクス卿、よろしく頼む」
そう言うとレオネクスが玉座から立ち上がり、領主の間を出て行くと執務室へと歩いて行く。しばらくコスモとユリーズの二人きりになるが、領主の間の扉が静かに再び開くと周りを見回しながら、見覚えのある女が一人入って来る。
全身を赤いローブに革の靴、右手の手首に黄金色に輝く腕輪、綺麗に梳かれた短い赤い髪、そして豊満な体を持っていた。
「やっぱこの匂いコスモだ!元気にしてたー?」
「ビ、ビトーネ?こんな所で何してるんだ?」
入って来たのは抜け道の洞穴に居た火竜のビトーネであった。
今は人に戻っているが、宝具【火竜の腕輪】でいつでも火竜に変化できるピチピチの200歳の竜人である。コスモを見ると小走りに駆け寄り勢い良く抱き付いて来るとここに居る理由を話し出す。
「ラルガー君がさー山岳部族の仲介役として私にここに居て欲しいって言うから手伝ってあげてるんだ!」
「そ、そうだったのか」
山岳部族の長でもあるラルガーは帝国との言葉を唯一話せる男なのだが、長である自分が山岳部族の村を長く離れている訳にもいかず、代役を探していた所ビトーネに仲介役をお願いする事にしたのだ。長年生きている事もあって、いくつかの言語を話せる事が選ばれた要因にもなっていた。
親し気に接するビトーネを見てユリーズが何者か気になり尋ねて来る。
「コスモ、そのビトーネという女は何者なのだ?」
「うわー同じ髪の色だ!私はね火り……」
「え、えっとですね!先の山賊討伐の道案内をしてくれた方でして、大活躍だったんですよ!」
ビトーネが自分を火竜と言いそうになるのを聞くと慌てて素早くコスモが手で口を塞ぐと代わりにユリーズへと説明する。邪神竜討伐後、野生に戻った竜は帝国が率先して討伐を行っていた。その帝国の次期皇帝にビトーネが竜だと知られれば即討伐対象になる恐れがあったからだ。
コスモの心配を他所に口を塞ぐ手を除けると、ビトーネが嬉しそうな顔で話を続ける。
「そうそう、コスモ!私ね逃げて来た山賊を一人やっつけたんだよ!」
「そ、そっか!それは凄いなビトーネ!」
「こうやって炎を口からぶおおおおおって!」
「ん?口から炎?」
「そ、そっかあ!手から炎をぶおおおーか!」
一向に空気を読まないビトーネが嬉しそうな顔で口から炎を吐く仕草を見せると慌ててコスモがフォローする。二人の噛み合わない会話に勘の良いユリーズが訝しげな顔で見ていた。この二人は俺に何かを隠している、そう直感で分かっていた。
するとユリーズがビトーネに質問をする。
「ビトーネとやら、山岳部族の仲介役と言っていたが、連絡はどうやって行うのだ?」
「それはねー、空を飛んでひとっ飛び!」
「あ……」
コスモが手を額に当て顔を暗くする。だがビトーネはお構いなしにユリーズと楽しく話を続ける。
「そうかそうか、羽が生えていない様だが、どうやって飛ぶのだ?」
「この宝具【火竜の腕輪】で火竜になって空を飛ぶんだ!はぐれ竜程早くは無いけど山なら簡単に越えれるよ!」
「それは凄いなビトーネ、火竜になれるのか」
「竜人の私なら造作も無い事だからね」
長年、大陸中を自由気ままに旅していたビトーネに空気を読む事は不可能だった。あっさりと火竜になれる事を無邪気に伝えると、ユリーズがじっとコスモの方を見つめる。ユリーズが溜め息交じりに気だるそうに話し出す。
「コスモ、何か勘違いしてる様だが、帝国は竜人も何人か受け入れているぞ、公にはしていないが中には何人か帝国で働いて貰っている」
「そ、そうなのですか?」
「爺様の代から竜人は人の味方である事が確認されている、今狙っているとしたら竜の鱗や報奨金目当ての傭兵共位なものだぞ、竜の鱗は裏では高値で取引されているからな」
帝国が竜と見れば率先して討伐している話は、コスモの完全な勘違いであった。良く考えて見れば竜討伐を行っていればいずれ竜人とは出会う運命にある。前線で戦い続けた前皇帝のアインザーがそれに気付かない筈は無かった。人の言葉を話し、共に邪神竜の配下の竜達と戦えば自然と人との交流も増えるからだ。
だが臣民や一部の騎士達にとっては竜は敵、帝国としてもコスモと同様に公に発表する訳にも行かず、密かに帝国が竜人を保護していたのだ。
コスモがその話を聞くとユリーズを騙していた事に、申し訳なさそうな顔をする。その顔に気付いたユリーズがわざとらしく白々しい台詞回しを始める。
「まさかこの俺が竜を無差別に狩る様な薄情な男だと思われていたとはな……」
「い、いえ!そんな事は微塵も思っていませんユリーズ殿下!」
「ならば、それを身を以って証明して見せよ」
「身を以って証明とは……?」
「好いた女に嘘をつかれたのだ、俺の心は砕けた硝子の様に粉々に傷付いている、ならばその美しい唇を持って男を癒すのが美しい女の務めと言うものであろう?」
「ぐ……ぐぬぬぬ!」
憂鬱な顔でユリーズが胸に手を当て、心が傷付いていると印象付ける動きをすると、右腕を伸ばし右手の人差し指をコスモの唇へと向ける。
明らかに演技である事は分かるコスモが唸るが、元は真面目な騎士団の男。
それ以上にユリーズを疑っていた罪悪感が心に芽生えていた。
「じゃ、じゃあ頬なら……」
「それで構わない、さあ近くに寄れコスモ」
「はははは、コスモとユリーズがちゅーするんだ!」
「……ビトーネはあっちに行ってなさい」
ビトーネがコスモの接吻を楽しそうに見守っていると、その視線が気になるコスモがビトーネを体から引き剝がし、離れた場所に優しく押し出す。
コスモが大きく息を吸って覚悟を決めると、顔を真っ赤にしながら不器用に唇をすぼめてユリーズの頬へと顔を寄せて行く。今はうら若き乙女だが、中身が元39歳のおっさん【ソードアーマー】が18歳の赤髪の次期皇帝の美少年にキスをしようと迫っていた。
すると良いタイミングで扉が勢い良く開くと、レオネクスが許可証を片手に領主の前へと戻って来る。
「待たせたな!許可証を持って来たぞ……ってコスモ殿、ユリーズ殿下に何をしようとしてるんだ?」
「うへぇあああ!……ちょっと殿下とこそこそ話をしようと思いまして……はははは!」
「っち……この脳筋領主めが……」
レオネクスの登場に驚いたコスモが変な声を上げながらユリーズから一歩後ろに下がり離れると、苦笑いをしながら誤魔化すが、その反対にユリーズは顔をしかめると小声でレオネクスの悪態をつく。
その様子にレオネクスが違和感を感じるが、恋心には鈍感なので何も無かった様に振舞うとコスモ達に近寄り許可証を手渡す。帝国の紋章が刻まれた洋紙にレオネクスの直筆のサインが記載されていた。
「これをムリギュの洞窟にいる門番に見せれば入れる、コスモ殿は大丈夫だろうが、万が一ユリーズ殿下に何かあれば俺の首と、殿下に付き従って来た従者達もただでは済まないだろうな」
「こ、怖い事をさらりと言わないでください……」
「レオネクス卿は解っておらぬな、コスモが側に居るという事はすでに目的は9割達成している、残りの1割は我が道を進むだけだ」
「それもそうだな、はははは!」
親し気に二人がそう話している側でコスモが、緊張した面持ちで許可証を握りしめ立ち尽くしていた。そしてユリーズはコスモの実力を魔法学院での件でしっかりと把握していた。
そして用事が済むとコスモ達が領主の間を出て行く。扉を出て廊下へと出ると並んで居た使者が入れ替わりで領主の間へと入って行く。まだまだ他貴族からの勝利の挨拶は続きそうである。
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その日は町で旅の準備を整え宿で一泊すると、翌日の早朝にムリギュの洞窟へと向かう事にした。
山岳都市スタンブルトを出発して二日、高山の整備された山間の道を進むと丘の様な山の上に岩を削りだした彫刻が施された建造物が見えて来る。その周囲には近くの村から来ているのか、露天や天幕がいくつか設置されその周囲では冒険者や騎士達、商人や町人で賑わっていた。すでに村と言っても良い規模の集落だ。
ここまで来る道中、ユリーズとは二人きりだった。帝国から付いて来た従者達はユリーズの命令によって山岳都市スタンブルトで待機する様に言われていたからだ。出発の朝、コスモが従者達に囲まれるとユリーズの身柄の安全をしつこく頼まれていた。
「インペリアルオブハートのコスモ様!くれぐれも殿下の事を!くれぐれも殿下の事を!!」
「わ、分かった分かった!俺が必ず守るから安心してくれ!」
従者達の過剰な反応も分かる気がする。もし皇子のユリーズの身に何かあれば一族諸共、首が飛ぶことを理解していたからだ。だが中にはユリーズが幼少の時から付き従った老齢の者も居て純粋に心配をしていた。
コスモが両肩に重荷が乗る思いで町を出発するが、人の気苦労を知らずと言うのだろうか、ユリーズは道中の旅を楽しんでいた様子だった。生まれてからずっと帝国で育ち、つい最近、ロンフォード領の中央都市アプリニアに後詰めとして行った事と、レオネクスの父グレンドルの葬儀に参列した位しか外に出た経験が無いものだから仕方の無い事であった。
「おいコスモ、あれは何をしているのだ?」
「あれは、隊を組む……いえ、仲間同士で集まって洞窟に挑む者達でしょう」
ムリギュの洞窟周りの集落の到着するとユリーズが冒険者達が4、5人で固まり相談を行っている様子を見て質問してくる。冒険者の身なりも個性的で、帝国の軍の様に統一された格好では無い、それが珍しいのか興味を持って見ていた。
「しかし、皆腕が立ちそうだな……我が帝国に仕えてくれると嬉しいのだが……
」
「冒険者は自由がモットーですからね、危険な荒波に揉まれながらも、困難に立ち向かい、ちまちま稼ぐよりでっかく稼ぐ、男の浪漫って奴ですよ!」
「……今日まで旅をして偶に思うのだが、コスモ、美しい身なりに反して何かおっさん臭い発言が多いな」
「ぎっくーん!」
「その仕草も母に問い詰められた父に似ているぞ」
ユリーズはコスモと一緒に旅をする事でその様子を観察していた。外でのコスモはどのような振舞いをして生活するのかに興味を持っていたからだ。だが、想像以上に華やかさが無い独身男性の過ごし方の様であった。貴族の子息や令嬢の中で育ったからなのか、ユリーズの目にはコスモの粗雑なおっさん的な仕草が目に付いた。
しかも話し方も動きも父の皇帝ウェイリーの休日の過ごし方が非常に似ていた。
「まあ良い、今日は遅い我々も冒険者達と同じく天幕の用意をしよう」
「は、はは!今用意しますので、お待ち下さいね!」
コスモが背負っていた天幕の一式を広げると組み立てを始める。もちろん、ユリーズは手伝わない、というよりも次期皇帝に手伝わせる訳には行かないのだ。そのため、今まで従者がやっていた雑務は全部コスモが受ける事となっていた。
ユリーズが簡易な椅子に腰を掛けると、日が落ちて薄暗くなって行く集落を見回し庶民の暮らしを眺めていた。集落の人々が笑顔で食事を取り、酒を飲み交わし、騒いでいる様子を嬉しそうな顔で見守っていた。




