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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第4話 万能薬

 小屋の中に入ると日中にも関わらず薄暗い、わざと陽が当たらない様に窓には窓掛けがされていた。内装を見るに外観と同様に部屋全体が長年使用されたかのように古びている。


 広間に色褪せた木製の机と椅子、部屋の隅に釜土がありその横に作業台があった。作業台には薬草を調合する物なのか、使い込まれた道具が綺麗に並べられている。


 釜土と反対側には木製の棚が何段も置かれ種類別に薬草名が記載され管理されている。部屋の梁には紐で括られた様々な薬草が吊るされている。その薬草の独特の葉の匂いが部屋に漂っている。


 広間の奥には廊下があり左右に部屋がある、場所から言って寝室だろう。


 中に入ったモウガスが部屋の様子を窺っていると森の魔女に肩を掴まれ無理矢理、椅子に座らせられる。


「全く、アーマー職って奴はどうしてこうも無茶するのかね!」


「……森の魔女さんは、アーマー職の事を知ってんのか?」


「あたしはアンナってんだ、アンナと呼んどくれ」


 モウガスを椅子に座らせるとアンナが部屋の中をせわしなく動き回る。背中を向けながら名前を名乗ると、目的の杖を見つけたのか、それを手に取るとモウガスの右膝の前で屈む。


「アーマー職を知ってるかって?そりゃあたしの息子がそうだったからね」


 話しながらアンナが杖の先端を右膝近くに寄せると杖の先端が青白く輝きだす。


 この輝きをモウガスは見た事がある、右膝を怪我した際にシスター職が使用していた【ヒールの杖】と同じ輝きである。シスターでもないアンナが【ヒールの杖】を使える事に驚いていた。


「アンナ、なんでヒールの杖が使えるんだ!」


「ふん、こんくらい魔力に毛の生えた村人だって使えるよ」


 アンナが簡単に出来ると言うが、教会や修道院で厳しい教育を受けた者だけが使える物なのだ。もちろん村人は【ヒールの杖】は魔力があっても使えない。


「んな訳あるかって!」


「少し黙ってな!」


 アンナがさらに杖に魔力注ぐように集中し始める。すると右膝の辺りが温かい手で撫でられる様な感触と同時に膝の内部に熱が籠る様な感触を強く感じるようになる。余りの心地よさに眠気が来る程だ。


 時間にして1分程経っただろうか、青白い輝きが収束して次第に右膝に感じていた温かさが消えて行く。


 治療を終えたアンナが立ち上がり、【ヒールの杖】を元の場所へ戻すと棚の中から包帯を取り出し、再びモウガスの右膝に屈む。そして呆れた表情で溜め息を吐きながら包帯を右膝に巻き始める。


「はあーまあ良くもこんな膝で歩けたもんだよ、常人なら発狂する痛さだろうに」


「なっ……」


「あんなに汗かきながら痛みを堪えてさ、我慢すれば何でも解決できると思っている、だからアーマー職ってのは嫌だね」


 今まで感じていた右膝の激痛はサラやオルーガにも気付かれてはいない、それなのに一度診ただけでアンナが気付いたのだ。


 馬車を降りた時にモウガスが御者に言った『最後の賭け』とは、膝が限界を迎えようとしていた事だった。今まではやせ我慢で堪えて来た膝の痛みが、ここ最近、急に増して来たのだ。もし、これで駄目ならと背水の陣で臨んでの言葉だった。


 ここに来るまでは右膝の激痛との孤独な戦いであった。 そんな状況を一目で見抜き、適切な処置を行ったアンナにモウガスが畏敬の念を感じられずにはいられなかった。


 アンナが包帯を膝に負担の掛からない巻き方、8の字を描く様な形で巻き終える。


「これで良しっ!モウガス、ちょっと立ってみな」


 色々な思いが頭を過ぎる中、アンナに言われた通りモウガスが恐る恐るゆっくりと立ち上がってみる。


「す、すげぇ!全然痛みを感じない!」


 今まで感じていた右膝の激痛が噓の様に消えている。少しの痛みは残るが、先程の状態とは比べ物にはならない位に楽なのだ。


「応急処置だけど、少し位なら走れるよ」


「本当かっ!」


 モウガスが信じられない顔で小屋の扉を開けて外に出る。小屋前の野原の上まで歩くと立ち止まり、深呼吸をしてからゆっくりと身体の重心を前に出し、右足を一歩踏み出す、右足を蹴り上げると左足を前に踏み出す、これを繰り返していく。


 少しづつ踏み出しを早くすると徐々に加速していく。それと共に緊張した表情から笑顔へと変化して行く。


「走れてる!走れてるぞ!ははははは!」


 少年の様な無邪気な目でモウガスが野原を走り回る、右膝を怪我してから1年以上走れていなかったのだ。怪我をする以前に比べても、速いとは言えないが激痛があった歩きの時よりは遥かに速い。


 アンナも扉の外に出て来て、モウガスの走り回る姿を嬉しそうに見守っていた。


 モウガスが野原を軽く一周すると扉前で様子を見ていたアンナに気付くと、そちらに向かって方向転換して走って行く。そしてアンナの前に立つとそのままの勢いで、アンナの両脇にモウガスが両手を入れ抱え上げると、自慢の怪力でアンナの身体を大きく振り回す。


「ありがとうアンナ!また走れるなんて信じられねえよ!まるで夢みてえだ!」


「ば、ばか者!早くおろさないかい!」


 抱え上げられたアンナが恥ずかしそうに足と手をバタバタとさせるが、案外悪い気はしないのか少し嬉しそうだ。


 モウガスの目には涙が溢れて止まらない。怪我をしたあの日から直感で動くのは厳しいと覚悟をしていた。自分の身体は自分が良く分かっていた。


 それから騎士団を辞め冒険者となって日銭を稼ぐ日々、一向に良くなる気配が無い膝に、どうにもならない悔しさ。せめて最後までアーマー職の矜持を全うしようと諦めかけていた。


 だが現実に今、人並みに動けている、その思いたるやひとしおである。


 モウガスが抱えたアンナをゆっくりと下ろすと、アンナが再び厳しい表情になる。


「まったくバカ騒ぎするんじゃないよ!まだ応急処置だからね、膝の話は中でするよ」


「ああ、わかったよ!」


 興奮冷めやらぬモウガスが落ち着いた所で、小屋の中に戻りアンナと机を挟むように向かい合い椅子に座る。そこでモウガスの右膝を診察したアンナが気付いた事を話し始める。


「よっこらせっと……モウガス、あんたの右膝の傷は魔獣の爪でやられてるね、傷の具合から言って灰色熊(グレイベア)……それも巨大な奴だね」


「傷跡だけでそこまで分かるのかよ」


 傷は塞がっていたが、その傷跡から灰色熊によって傷付けられたとアンナが見抜く。一目で右膝に気付いたアンナにとっては朝飯前の事であった。さらに厳しい表情のまま話は続く。


「当り前さ、それに魔獣の爪ってのは汚いんだ、土を掘るにも、餌を取るにも使うからね、要は不潔なんだよ。その不潔な汚れが毒になる、それがモウガスあんたの右膝の骨に入ってるんだよ」


「骨に毒だって……それは治るのか?」


「ああ治せるとも、今なら足を切れば命は助かる」


「あ、足を切る……」


「長い時間をかけて毒が進行して骨の奥まで入っちまってるんだよ、今は応急処置で毒の進行を遅らせているだけだからね、いずれ毒が全身を浸食していくんだ、そうしたら終いさ」


 やっと走れたかと思ったら、絶望的な話を聞かされる。足を捨てれば命は助かる考えるまでも無いが、走れた直後に走れなくなるのは厳しい選択である。次は生涯走れなくなるのだ、そう考えるとモウガスは神妙な面持ちで俯く。


 落ち込むモウガスを見て、アンナが厳しい表情を崩し少し笑みを浮かべると、突然アンナが両手の平を勢いよく叩き合わせる。


パンッ!!


「だけど安心しな!あたしゃー森の魔女って呼ばれてるんだ!あたしのお手製、万能薬があれば足を切らずに右膝が完全に完治するって訳さ!」


「ほ、本当なのか!」


「ああ、この山にはね10年周期でしか咲かない花があるんだ。その花が材料になるんだけど、一ケ月もすれば手に入れられる、モウガスあんたは本当に運が良いね!」


 アンナが口角を上げ自信ありげに笑みを浮かべ親指を立てる。


 普通に聞けば胡散臭い話にも聞えるが、その話をしているのがモウガスの右膝の怪我、状態、原因を一度で見抜いたアンナである。全てが事実であり、決して嘘では無い事は誰にも明らかだ。


 それにサラが調べてくれた過去の依頼でも腕を治している実績もある。ここまでの事象を見て信じない者などは居ない。


 モウガスが真剣な表情で椅子から立ち上がると、ゆっくりとアンナの座る椅子の横へ回ると跪いて首を垂れる。


「アンナ……いやアンナ様、不肖の私ですが、まだここで止まる訳に行かないのです。どうか我が命をお救い下さい」


 騎士団在籍時に習った王族、貴族への謁見で使用される礼儀作法でアンナに対して懇願する。モウガスのらしからぬ所作を見ると、アンナが視線を横へ逸らし恥ずかしそうに手の平をひらひらと仰ぐ。


「そういう堅苦しいのは無しにしておくれ、いつも通りアンナでいいよ」


「じゃあ、アンナ、よろしく頼む」


「ああ、任せておきな!」


 こうして森の魔女アンナからの依頼を開始したモウガス。


 ここに訪れた時に比べ、その表情は希望に満ちていた。激痛を伴っていた右膝も今は人並みに動けるように応急処置をされている。護衛の任務も今なら出来るだろう。


 その日はアンナからの説明だけで日が落ちてしまい、本格的な仕事は明日からとなった。


 アンナが広間の奥にあった二部屋の内、一つの空き部屋にモウガスを案内すると自室へと向かう。重装鎧を外して備え付けてあったベッドにモウガスが横になると、疲れがどっと出たのかすぐに深い眠りにつく。





 翌朝、モウガスが起きるよりも先にアンナが起きて朝食の支度をしていた。その匂いでモウガスが目を覚ます。昨日の登山の疲れが残っているのか応急処置した膝に慣れていないのか、動きがぎこちない。


 瓶に貯めた水を小さい桶で洗面器に移して自室へと運ぶ、顔を水で洗い体を拭き終えると終えると、広間の机でアンナと一緒に朝食を取る。


 その後は外に出て薬草採取に歩いて向かう。30分程歩くと森を抜けて開けた草原地帯が見えて来る。そこが薬草の群生地になっていた。地方都市カルラナ近くにある薬草の群生地と比べものにならない程、規模が大きい。


 アンナの指定する薬草を採取しつつ、辺りの様子を窺い魔獣が現れないか警戒を行う。日が空の真上に登ると採取を止めて野原の上に二人で座り昼食を取る。アンナお手製の弁当だ。


 モウガスの食べっぷりを見てアンナが嬉しそうな表情で見守る。


 昼食後も薬草採取を続けて、日が落ち始めると早めに切り上げて小屋へと戻り、夕食の支度へと入る。モウガスは外で薪を割り、空いた時間で日課である筋力を上げる自己鍛錬を行う。


 完全に日が落ち暗くなる頃に夕食が出来上がり、二人で食卓を囲み談笑する。食器を洗い終えると就寝までの間はアンナは薬草の調合、モウガスは引き続き外で自己鍛錬を行う。


 アンナの薬草の調合が終わると、外に居るモウガスに声を掛け就寝となる。


 この様な安穏とした日々を過ごすが、もちろんモウガスの右膝の事を忘れてはいない。アンナの話では肝心の万能薬の主材料である花、【月光花】が咲くのが、ちょうど一カ月後、依頼期間の最終日の夜なのだ。


 そんな毎日を過ごしていたある日、夕食の後に珍しくアンナが仕事を休み果実酒を取り出す。山の果物を漬けた果実酒は甘く飲みやすい。モウガスとアンナが飲み始めると、あっという間に酔いが回り話にも花が咲く。


 酔いに気持ちよくなったのかアンナが突拍子も無い事を話し始める。


「……でねぇ、あたしはあの女好きのバカ皇帝が許せなくてねぇ」


「皇帝って言うと、ウェイリー皇帝陛下の事か?」


「違う違う、その親父の方さ、あんたも知ってるだろ、アインザーだよ」


 アセノヴグ大陸の中央に位置するバンディカ帝国の前皇帝の名前だ。モウガスが所属していた騎士団も、カルラナがあるロンフォード領も帝国麾下の貴族の領土だ。


 モウガスが生まれた頃にはすでにアインザーは帝位を返上して現皇帝のウェイリーが皇帝の座に就いていた。そのアインザーもある事件で帝位を返上した事は帝国臣民なら誰もが知っている。


「アインザー前皇帝って言うと…【アウロポリスの変】で帝位を返上した?」


 アウロポリスの変、バンディカ帝国の首都アウロポリスで40年前に起こった事件である。


 当時の皇帝アインザーが邪神竜討伐の論功行賞の場で、5人の英雄を亡き者にしようと画策するが失敗に終わる。噂では5人の英雄を亡き者にしようとした理由が、英雄の1人と付き合っていた美女を我が物にしようとアインザーが目論んでいたなど、そんな話もあった。


 その後、邪神竜の呪いによって引き起こされたものとして、その責を取り実子であるウェイリー現皇帝に帝位を譲った、歴史書にも記された有名な話である。


「あたしの息子もその事件に巻き込まれてね……犠牲になったんだ……あんなに優しかった子なのに」


「そうか……アンナの息子も被害者だったんだな」


 そう言うとアンナが目に涙を浮かべ下に俯く。突然の告白に掛ける言葉も見つからないモウガスがそれを沈黙しながら見守るしか無かった。しかし、悲しんでいると思っていアンナが俯きながら肩を揺らすと顔をはっと上げると、何か悪さを企んでいる顔になっていた。


「ふふふっ、だからあのバカ皇帝にそんなに女好きなら、女になってしまえってね!あたしが呪いをかけたのさ!」


 我が子を亡くした悲しい気持ちを紛らわす為なのか、また突拍子もない事を言うアンナにモウガスが大笑いする。


「はっはっは、そりゃいいや、アインザー皇帝、女になり帝位を譲るか!」


「だろー!奪う側から奪われる側になって痛い目みりゃーいいのさ!はははは!」


 アンナもモウガスにつられて大笑いをする、よっぽど爽快な気持ち良い作り話だったのだろう。


 バンディカ帝国の首都アウロポリスは、ネズミ1匹も通さない堅牢な城塞都市だ。もし皇帝を狙うとしたら空間を瞬時に移動する魔法でも無い限り、絶対に不可能なのだ。


 その事を知っていたモウガスが、面白い話をするアンナに合わせて盛り上がって行く。だが後に真実であった事を身を以って知る事になる事を露知らず、この団らんを楽しんでいた。


 そして夜が深くなるまでモウガスとアンナの酒盛りが続いた。


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