第36話 ロンフォード盗賊掃討戦3
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
一方、山の砦ではコスモが門の中に居た盗賊達を体を張った罠に嵌めて制圧すると、残った盗賊の首根っこを片手で掴み持ち上げ、知っている事を全て吐かせていた。
「……で、お前が狼煙を上げるとどういう手筈になっている?」
「は、はい……村に居る……バラーナ達の家族を人質を……全員の……首を斬る様に……」
「はん!そんな事だろうと思ったぜ!この屑野郎が!」
ドスッ!ズゴゴゴゴゴゴ!
「ぐぼおっ!……」
盗賊から狼煙の意味を聞き出すとコスモの拳が盗賊の鳩尾にめり込ませる。もちろん技能【乙女の怒り】が発動して必殺の一撃となる。
気絶した盗賊を横へ投げ捨てると山の麓の村から、黒色から桃色に変わる特殊な狼煙が上がっているのに気が付く。コスモがセリオス達に頼んでいた人質救出が成功した証であった。
「セリオスとセルシルの奴ら上手くやってくれたみたいだな、じゃあ後はこの砦だけだな」
コスモが上がる狼煙を見て笑顔になると砦の門に向かって歩き出す。
砦の外では、いまだにバラーナ率いる精鋭達と冒険者達との戦いが続いていた。コスモの指示通りに受けに回っていたオルーガ達にも疲労の色が見え始める。
「はあはあ……そろそろ受けるだけってのもしんどくなってきたな……」
「オルーガ殿、日頃の鍛錬が足りていないのでは?」
「俺はペイタみたいな剣術馬鹿じゃねえての!ったくコスモちゃんも無理な注文が多いぜ」
オルーガとペイタが互いに軽口を交わしながら防御に徹しているが、疲労の色が見えきたのはバラーナ率いる仲間達も同様であった。
最初にあった勢いも疲労によって精彩を欠き攻撃が単調になって行く、その隙を熟練した冒険者達に狙われ始めていた。
「ぐわっ!」
「く!怪我をした者は下がれ!」
「す、すまないバラーナ……」
(思った以上に冒険者もやる、特にあの金髪と黒髪の男……かなりの手練れ)
バラーナが怪我をした仲間を下がらせると自身が抜けた穴を埋めて行く。家族の命の為の時間稼ぎが目的だったとは言え、戦況は徐々に悪くなっていった。
特にオルーガとペイタが、わざと受けに徹している事に気付いていた。時間を稼ぐという意味では助かってはいるが目的が分からないでいた。それがバラーナの不安を煽っていた。
そんなバラーナの背後から突然、爆発する様な音が鳴り響く。その音と共に砦の大きい門が内側から破壊され、辺りに破片が散って行く。
「い、一体何事だ!」
「あー……コスモちゃんってば派手な登場だねえ……」
「ふふふ、なるほどそう言う事でしたか」
その音に気付いたバラーナやオルーガ、ペイタ、戦闘中の冒険者達が壊れた門に注目をすると、壊れた門から毒に倒れた筈のコスモがゆっくりと歩いて出て来る。
「お前ら!砦は制圧した!無駄な戦闘は止めろ!」
「ば、馬鹿な!俺の【紫毒】を受けてなぜ生きている!」
コスモが大声で砦を制圧した事を伝えると、わざと落した自分の魔剣ナインロータスとハート型の盾を拾い上げバラーナに相対する。
バラーナがコスモが生きている事に信じられない顔をしていると、コスモがゆっくりと魔剣ナインロータスとハート型の盾を構えバラーナに近寄る。
「さあどうする大将!砦はもう落ちてるぜ!」
「まさか貴様、先程はわざと……」
「良い事を教えてやる、強え奴ってのはやられる真似も上手いんだぜ?」
「……くっ!ならばコスモ!今一度俺と勝負をしろ!」
「へっ、上等だよ!これからバラーナと一騎打ちをする!他の全員は戦闘を止めて後方に下がれ!」
「こちらもだ!皆、下がっていろ!」
家族を人質に取られ後に引けないバラーナが現状を打破すべく、コスモに一騎打ちを申し出るとそれをコスモが受ける。冒険者達とバラーナの仲間達も戦闘を止めコスモとバラーナの一騎打ちを見守る様に囲う。
門の前の開けた場所でコスモとバラーナが対峙すると、コスモがバラーナに忠告をする。
「一つだけ言っておいてやるが、俺の実力は邪神竜並だそうだ、つまり竜を相手にしてるのと同じだがそれでもやるか?」
「邪神竜だろうが、竜だろうが俺は逃げん!」
「そうか……なら後悔するなよ」
先程の戦いでバラーナの実力が分かったコスモが忠告するが、それを無視してバラーナが戦いを選ぶ。
バラーナが鉄の剣を構えコスモの正面に立つと、今までに感じた事のない威圧感を感じ始める。そしてコスモの姿が先程とは違い巨大に見える様な錯覚に陥る。
(最初の時とは全然違う!な、なんだこの女から放たれる威圧感は……それにこの絶望感は、本能が言っている全力で逃げろと……)
バラーナが対峙した所から顔中に汗を流し始め絶望した表情を浮かべている。すでに立ち合いからコスモの威圧感に飲まれていた。そして現実として確実に訪れる死を前に足を震わせ体中で感じ取っていた。
「それじゃあ、いくぜ!」
コスモが魔剣ナインロータスを後方に大きく振りかぶると、上段から勢い良くバラーナの頭上に向かって振り下ろす。先程の攻撃とは違い速さが段違いで、バラーナの目には数倍に膨れ上がった魔剣ナインロータスが自分に目がけ飛んでいる様に映ると体を硬直させ動けないでいる。
その瞬間バラーナの脳裏には死の文字が浮かぶ。
だがその瞬間、魔剣ナインロータスがバラーナの頭上でピタっと急に止まる。コスモが寸止めをすると魔剣ナインロータスから発せられた剣風が辺りに吹き荒れ、樹々の木の葉を大きく揺らす。
死に対する緊張感の解けたバラーナが体を震わせたまま片膝を付いて息を荒くする。その様子を見ていた仲間達が驚いていた、村の若者でも一番に強いバラーナが文字通り手も足も出なかったからだ。
「はあはあ……お、俺は生きているのか」
「ああ、殺すには惜しいからな」
「なぜ殺さん!俺は盗賊なのだぞ!」
「家族が居るんだろ?お前が居なくなったら家族が悲しむじゃねえか」
「……奴らから聞いたのか」
「ああ、だがそれだけじゃねえ、お前の戦い方は盗賊って言うよりは騎士に似てる、それも理由だ、家族は仲間が保護したから安心しろ!」
「伊達に<インペリアルオブハート>を名乗ってはいないか……俺達の、いや俺の完敗だ……」
バラーナの戦い方は騎士団と同じく、規律が取れ仲間を第一に動いていた。それを見たコスモが殺すには惜しいと思い、魔剣ナインロータスを寸止めしたのだ。
コスモが家族を助けた事を笑顔で伝えると、バラーナが全てに於いて負けを認め鉄の剣を地面に捨てる。
一騎打ちに決着がつくと周りで観戦していた冒険者達から歓声が上がる。
「元騎士なのか?道理で手強い訳だ、訓練を積んだ動きだったからな」
「それもそうですが、実力差が無ければ出来ぬ芸当……やはりコスモ殿の実力は計り知れぬ」
オルーガとペイタがコスモの一騎打ちに様々な思いを馳せていると、コスモが勝利の余韻に浸る事無く素早くバラーナの仲間達に投降するよう呼び掛ける。
「これで無駄な戦いは終わりだ、全員投降しろ!」
村一番の使い手であるバラーナが負けたのだ、仲間の20人も素直に従い、冒険者達に両腕を縄で縛られて行く。
バラーナ達全員とコスモが倒した盗賊達を捕縛すると山の砦の制圧を終え、急いでセリオスとセルシルが待つ麓の村へと向かう。
~
コスモ一行が麓の村に到着するとセリオス、セルシルが村の入口で出迎え合流を果たす。
「お前ら、良くやったな!お陰でこちらも無事に制圧できたよ」
「僕の手柄じゃないよコスモ、セルシルと"宝船"のお陰さ」
「いんやー、セリオスどんの一騎駆けが見事に嵌ったからだっぺ!」
「2人に任せて正解だったよ、ほら、感動の再会って奴だ」
村の入口には武器を捨てた老兵達と人質にされていた家族達が待機していた。捕縛されたバラーナと仲間の若者20人が見えると、家族達が一斉にそちらに向かって走り始める。
「あなた!……無事で良かった」
「ああ、心配をかけてすまなかった」
捕縛されたバラーナと仲間達の家族が抱き合うと無事に再会が出来た事を喜び合っていた。家族の無事が確認出来ると拠点から来た老兵達がコスモの下へと集まって来る。
「<インペリアルオブハート>のコスモ殿、お初にお目に掛かります」
「あんたは?」
「はい、元帝国兵でこの村の創設者の1人でございます」
元帝国兵の老兵から今までの経緯を聞くと、セルシルが母親の女に聞いた話と内容は同じで、この村は帝国の逃亡兵によって造られた村だと伝えられる。
そして人質が解放された今、この村には盗賊に協力する者が居ない事が分かった。すると家族の安否を確認したバラーナがコスモに声を掛ける。
「コスモ殿、盗賊の拠点には父のナズールが居る、俺が行けば説得できる筈だ同行させてくれ!」
「ふむ……」
今までの行動を見てもバラーナの誠実さは解っている、だが冒険者達の命を預かる身として、どうしても確認をせざるを得なかった。
バラーナの申し出に対してコスモが肩に手を当て、技能【慈愛】で心の色を読み取り始める。
色は父親を心配しているのか円の周りが警戒が強い黄と黒が混じった色をしていて針の様に尖り続けていた、だが円の中心には清廉潔白の白色が積もった雪の様に敷き詰められていた。
バラーナが純然たる心の持ち主なのが解る。
「バラーナの縄を解いてやれ、父親の説得を任せる」
「コスモちゃん本気で言ってるのか?盗賊側の奴なんだぜ?いつ裏切るか……」
「オルーガ、コスモの判断に間違った事がないよ、それに裏切っても僕とオルーガが居るじゃないか」
「た、確かにな……だけど裏切ったらすぐに叩き斬るからな!」
心配するオルーガを横目にセリオスが銀の剣でバラーナの手に巻かれた縄を切り離す。するとバラーナが老兵の乗って来た馬に颯爽と跨り、拠点までの案内の準備をする。
「準備が出来次第、盗賊の拠点まで案内するコスモ殿!」
「よし、ここに30人待機して村の防衛に当たってくれ!後は俺達に着いて来い!最後の詰めだ、気合入れろよ!」
コスモが指示を出すと残り50人の冒険者達と共にバラーナの案内の下、盗賊の拠点へと急ぎ足で向かう。この作戦の最終目的である盗賊拠点の制圧だ。
~
その頃、拠点の門の前でジルトとナズールの戦いが続いていた。ナズールの人間離れした苛烈な攻撃に神器【アースカロン】の恩恵を受けているジルトが段々と押されて行く。
「くはっ!神器を以てしてもこの強さ……余りにも人間離れしている」
「もう終わりの様だなリガルドの子孫よ、今に首を落として楽にしてやるぞ!」
劣勢のジルトにナズールが飛び掛かり、紫色に輝く銀の剣を大きく横に振りかぶり横薙ぎに斬り付けようとすると、それを見かねた【デュークナイト】3人が馬を駆けナズールの前に立ち塞がり、大きい盾を構える。
「何人来ようと何も変わらぬわっ!!」
3人の騎士が横並びに構えた大きい盾に構わず、そのままナズールが勢い良く銀の剣を横に振り抜く。
「ぐわああああああああ!」
攻撃を受けた3人の盾が折れ曲がり、馬上から身体ごと吹き飛ばされ落馬してしまう。ガジェインがその様子を見てジルトだけでは太刀打ち出来ないと判断すると、【デュークナイト】達にジルトを守る様に号令を出す。
「お前達!ジルト様をお守りするのだ!」
「おおおお!」
ジルトを守る様に前方に【デュークナイト】達が鋼の槍を持って布陣する。個の力で太刀打ちが出来ないなら集の力で対抗する事に望みを繋げる。そしてナズールに向かって突撃を始める。
「ふはははは!何人来ようとも無駄だぞ人間共!」
5人のデュークナイトが横一列に並び鋼槍を突き出したまま馬を勢い良く駆けだすと一気に鋼の槍の穂先をナズールに突き出す。
だが鋼の槍の穂先は空を切った。
ナズールが5人の頭上を超人の様に飛び越え、体を捻じりながら銀の剣で振り払う。
「剣奥義!毒独楽斬撃!!」
「ぐああああ!!」
攻撃を避けるのと同時に独楽の様に体を回転させ銀の剣を振ると、5人の【デュークナイト】達の背中を斬り付ける。すると技能【紫毒】の効果が現れ、5人が呻き声を上げて馬からゆっくりと落馬して行く。
仲間がやられ、躍起になる【デュークナイト】達が次々と集団で突撃を繰り返すがナズールに触れる事すら出来ずに、次々と斬られて行く。この異常事態にジルトが作戦を中断し退却の判断を下そうとする。
「こ、このままでは全滅する!皆の者、トールネ商人連合の所まで後退せよ!」
「逃がすかよ、リガルドの子孫よ!」
ナズールが殺到する【デュークナイト】達の合間から空中に飛び出すと、振り上げた銀の剣に全体重をのせ、ジルトに向かって振り下ろす。
ナズールの表情が不気味に微笑む、確実にやれると確信したからだ。全身から黒い瘴気を発し、全力で振りかぶった銀の剣がジルトの頭上目掛けて迫る。
だがジルトの顔が急に見えなくなる。代わりに見えてきたのが桃色のハート型の盾であった。ナズールと同じく人離れした跳躍で、ジルトの前に飛び込んだコスモの盾がナズールの前に現れたのだ。
コスモがナズールの銀の剣をハート型の盾で受けると、そのまま宙に飛んでいた2人が同時に着地をする。すかさず、コスモがハート型の盾を身に引き付けると、密着していたナズールに向かって盾技を繰り出す。
「盾技!楯駿突撃!」
「ぐぬううう!!」
ナズールが後方に飛び、コスモの楯駿突撃の力を逸らすと再び拠点の門の前まで押し戻される。コスモがそれを追って、ナズールの前に立ちはだかる。間一髪の所でコスモが間に合った。
その様子を見ていた老騎士のガジェインがジルトに撤退を促す。
「ジルト様!後方にトールネ商人連合が待機しております!あの者達なら毒消しを持っている筈!撤退して下さい!」
「ああ分かった!コスモ嬢か助かったぞ!全軍、倒れた仲間を回収、退却する!」
コスモの後方で【デュークナイト】達が倒れた仲間を馬に乗せると、トールネ商人連合が待つ後方まで退却を始める。それをナズールが黙って見過ごしていた。
目の前に居るコスモが尋常で無い力の持ち主だと気付いて警戒をしていたからだ。
「貴様……ただの人間じゃないな、俺の一撃を受け止めるとは……」
「そりゃあこっちの台詞だ、体中から黒い瘴気に目が真っ赤なお前こそ人間じゃねえよ!」
「ほざけ変な格好をした女風情が、今すぐに貴様もあの世に送ってやる」
コスモが魔剣ナインロータスとハート型の盾を構え、ナズールが剣を両手で構える。
遅れて到着したセリオスと冒険者達が門の中から出て来ると、バラーナが豹変した父ナズールを見て驚いていた。
「あ、あれは父上か、まるで別人じゃないか……」
「ん?貴様はこの男の息子か」
バラーナの声に気付いたナズールが乗っ取った記憶を頼りにバラーナが、自身の息子である事が分かると視線を移し高笑いをする。
「はははは!丁度良い、この男が今までどのような気持ちで過ごして来たか息子のお前に教えてやろう!」
コスモを警戒して視線を戻すと、そのまま邪神竜に乗っ取られたナズールの過去の記憶を語り始める。
「この男はな、40年以上前に我が眷属の蟲毒竜に奇襲を受け、全滅の憂き目に遭ったのよ、仲間の死体の中を無様に泣き喚きながら逃げておってな、その姿は滑稽であったぞ!」
蟲毒竜、邪神竜の眷属でその体から放たれる毒は治癒する事が不可能であり、その毒によって次々と人々が倒れ、いくつもの町が消えて行った。
その毒の強さから、立ち去った土地にも毒が残り更に人々を苦しめた、まさに歩く災害であった。
帝国も対抗策として、特に毒に耐性がある者達で編成した討伐隊を向かわせていたが、奇襲を受け全滅の憂き目に遭った。その時に逃げたのがナズールを含む老兵達であった。
「何度も何度も、あの時に戦っていれば、仲間達と一緒に倒れていればと言う後悔を思い返しては、自死を選ぼうと悩んでいたが臆病風に吹かれた男にそんな気概も無くてな、本当に哀れで愉快な男よ」
「俺の父は……貴様などが言う臆病者では無い!」
「はははは!お前もその血を受け継いでいるのだ、さあ後でその父と同じ無様な姿を見せてくれよ!」
乗っ取られたナズールが歪な顔で笑い声を高らかに上げると、バラーナが父の今までの思いを知って悔しそうな顔で涙を流す。
「無様に逃げるのが滑稽だと……誰が決めたんだ、そんな事」
コスモの体から青い炎の陽炎が天に昇る勢いで溢れ出す。ナズールの言葉に激昂したコスモが技能【羅刹女の怒り】を発動させていた。
「逃げて何が悪い!人間は生きてりゃあ勝ちなんだ!生きて次に繋げてまた生きる、それが人間なんだ!!」
「違うな!自分勝手に大陸を穢す人間などという醜い存在は神から遣わされた、我らが竜達によって滅ぼされるべきなのだ!」
人の思いを踏みにじり、それを嘲笑う邪神竜のナズールに怒りを爆発させコスモが豹変した姿で、ナズールに向かって歩み出す。




