第33話 ビキニ酒場と存在価値
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
盗賊に襲われた村を黒騎士セルシルと共に救出するのだが……
ベル村から応援を呼びに行った若者が、アプリニアの援軍【デュークナイト】30騎を率いて戻って来た。中央騎士団を率いているのはロンフォード城に居た老騎士の執事で、その身に立派な鎧を纏いまさに歴戦の騎士の風貌であった。
騎士団が到着するとコスモとセルシルが盗賊の身柄を引き渡し、老騎士が下馬してコスモ達の下へ歩みを進める。
「コスモ嬢が援軍に駆け付けたと聞いていましたが、やはりその称号の名に恥じぬ活躍ぶり」
「あんたは確かジルト様の所の執事さん……」
「ガジェインと申します、以後お見知りおきを」
老騎士のガジェインが片手に胸を当てお辞儀をする礼儀作法で名を名乗ると、視線をセルシルへと移して行く。驚いた様子も無くコスモと同様に挨拶をする。
「山岳都市スタンブルトの黒騎士セルシル様ですね、その噂はロンフォード領まで轟いております」
「いんやー参ったなあ、俺の名前を知ってる人が居て嬉しいっぺ」
「神出鬼没の死神、在宅の騎士、自宅守護神、沢山の二つ名を持つ貴公を知らぬ騎士などはおりませんよ」
(一つ目は良いとして、後は微妙だな……)
セルシルの活躍は想像以上に有名な様だ、技能【黒家転移】で数多の村を救って来たと言う、今回の件でそれが嘘でない事が分かった。
セルシルの話を終えるとガジェインが、コスモの近くに寄り小声で話を始める。
「コスモ嬢、近々ジルト様から盗賊掃討の下知が下ります」
「あの騒乱から大分経つからな、ジルト様も本腰を入れて来た感じだな」
「はい、領主様はその計画をウェイリー陛下と以前から練っており、本日もそれで手が離せず、私が騎士団を率いて参った次第です」
「陛下が……」
「早速、陛下からの依頼の書状が預かっております、後でお目通しを……」
帝国紋章が蝋印された書状をコスモに手渡すと、ガジェインが盗賊の連行準備を終えた騎士団の所へと戻って行き、騎士団10騎を残し城へと引き返して行く。
すでに辺りは日が沈み始め、ベル村の空き家を一つ借りて一泊する事にしたが、その日の夜はセルシルと一緒にベル村の村長の家で村の救世主として歓待され、騒がしい夜となった。
翌朝、地方都市カルラナへと向かい出立すると、日が真上に登る頃に到着をする。
~
カルラナに到着すると玄関門から入り、町の通りを歩いていると通行人や店の人から声を掛けられる。
「コスモちゃんお帰り」
「久しぶり!元気にしてたかい!」
「……また新しい挑戦者かい、見た目が派手な人だね」
「皆さんどうもーコスモ師匠の弟子ですう、よろしくだっぺ」
「弟子にした覚えはねえぞ!セルシル!」
「呪いの鎧の師匠だっぺ!なあに言ってるだっぺか!」
「くっ……」
コスモが町の人の声に応えていると、セルシルの格好を見た人がコスモの挑戦者と勘違いをするが、それ以上に勘違いをしているセルシルに呪いの鎧の師匠と仰がれてしまう。
外そうと思えば外せるビキニアーマーなのだが、称号がそれを許さない、ある意味任意の呪いと言っても良いだろう。
仕事斡旋所の前に着くと、セルシルが愛馬"宝船"を下りて、入口扉の横に停める。久しぶりの仕事斡旋所に少し緊張しながら扉を開けて中へと入って行く。
日中なので冒険者の数は少ない、昼時もあってか併設された酒場には顔見知りが数人居る、その横を通ってセルシルの登録地変更を行う為、受付窓口へと向かう。
「ああ、お帰りなさいコスモさ……ひっ!」
「あー……ただいま、こいつは黒騎士のセルシル、今日からカルラナで世話になる」
「こらーめんこい子だっぺな!セルシルって言うっぺ、よろしくな」
受付嬢のサラがコスモの帰還を喜ぶが、その後ろから陽気でやばい黒騎士が現れると恐怖におののく。もちろん酒場に居る冒険者達も同様の反応を示している。
コスモが事情を説明すると落ち着いたサラがセルシルの登録地変更の手続きをしながら、コスモが居ない間に町で起きた世間話を始める。
「コスモさんが居ない間、観光客からの文句が凄かったんですよ!せっかくここまで来たのに金返せーだとか、コスモを出せーとか……」
「なんか悪い事しちまったな、だけどこっちも上皇様の勅令だからな」
「でも、オルーガさんやセリオスさんが代わりに決闘の相手をしてくれたお陰で大分、落ち着いたんですよ!それに……」
「それに?」
「あのですね……ピンクのビキニアーマーを着た女性が接客をする酒場が開かれて観光客相手に大評判なんです……」
「な……んだと……」
「そらあいい、俺も一度行ってみたいっぺ!」
コスモの称号で観光地として栄え始めたカルラナに、突如としてビキニアーマー酒場が開かれていた。その事を知ったコスモが複雑な心境なのに対して、セルシルが呑気な事を言っている。
今にでも乗り込んで潰してやりたい気持ちになるが、そのコスモの表情を見て心情を察したサラが忠告をする。
「コスモさん、お店に手を出したら駄目ですよ、大手のメデウス商会さんが手掛けてますからね」
「ぐぬうメデウス商会か……」
アセノヴグ大陸には三大商会と呼ばれる大きい商会がある。一つはメデウス商会、二つはユズリハ商会、三つはトールネ商人連合。
特にメデウス商会は大陸で一、二を争う強大な商会で、復興事業の請負に必要な資材の販売や大工集団の管理運営、食品、日常品の輸送から東の国との貿易、貴族達に評判の高級茶屋や平民に好評の酒場など幅広く商いを行っていた。
また親を亡くした子供や、働き口の無い負傷した元兵士や平民などを積極的に面倒を見る人道支援も行っていた。その為、帝国もその存在を重宝していた。
「だけど、後で絶対文句言いに行く!」
「コスモさんの気持ちは分かりますからほどほどに……」
「後で行くのかコスモ師匠、たんのしみだなー!」
帝国にも関りがあり評判の良い事で有名なメデウス商会に、個人的感情で手を出したとなるとこちらの評判、称号の名が落ちてしまう。
しかし黙っていたら店側の営業方法次第では称号の名を落とさる可能性もある。コスモが釘を刺す為に真剣に考えている横でセルシルが観光客気分で楽しみにしていた。
だがその前に魔法学院でユリーズから放たれた【マグマメティオス】を受けた際に痛めた装備の手入れをして貰う為、鍛冶屋【覇者の剣】へと向かう事にする。
「サラ、色々と教えてくれてありがとうな」
「いえ、コスモさんが帰って来てくれただけでも心強いです」
いつ来てもサラは変わらずに居てくれる。これだけでもカルラナに戻って来た甲斐があるというものだ。別れの挨拶を終えると、セルシルを引き連れてカルラナの職人地区にある鍛冶屋【覇者の剣】へと向かう。
~
鍛冶屋【覇者の剣】へと到着するのだが、相変わらずの盛況ぶりで入口には観光客が行列を作っていた。その横を通って行くと観光客からは声を掛けられ、それに手を振り応えながら歩いていると観光客達の表情が固まる。
後ろを歩くセルシルのせいなのだが、何もし知らないセルシルが楽しそうに歩いている。そのお陰で観光客達に捕まらずに快適に入店が出来た。
「おーい、ミリット居るか?」
「……やあコスモいらっしゃい」
「お前ミリットなのか……」
ミリットが鍛冶場から出て来ると目の下には大きい隈が出来ていた、体も心なしか細くなった様に見える。あれから店が繁盛して休みを取る間も無かった事が分かる。
「大丈夫、大丈夫……それよりも、その盾の傷、落石でも受けたみたいな跡だね」
「傷を見るだけで分かるのか?」
「私の分身みたいな物だからね、朝飯前さ!」
ミリットがコスモのハート型の盾の傷を見ると、一目で何と戦ったのかを掌握する。戦神ライオネルシリーズ愛を除けば一流の鍛冶師ではある。
しばらくコスモの周囲を見回し、防具の傷の場所と深さを確認すると修理までの日数を算出して伝える。
「この傷なら2日もあれば直せるね、奥に代替えの服を用意するから一度装備を外してくれるかな?」
「ああ、解った……だけど無理だけはするなよ」
「もちろんさ……ようやくビキニアーマー酒場に納品が終えた所だから、これが終わったらゆっくり休むよ」
「そこからも注文受けてたのかよ……」
サラの言っていたビキニアーマー酒場に、ミリットがビキニアーマーを卸していた。恐らくはコスモと同じ素材のビキニアーマーを、売りにして商売をする戦略だろう。
「ところで、あの黒い人はコスモの連れ?」
「え……ああ、黒騎士のセルシルだけど、今は楽しそうにしてるからほっといていいぞ」
先程からセルシルが妙に静かだと思い様子を見ると、子供の様に武器や防具に夢中になって見ていた。地元に比べて商品の取り揃えが充実しているのか、完全に自分の世界へと入っている。
そんなセルシルを放って、鍛冶場の奥にある試着室に入るとで兜や魔剣、盾とビキニアーマーなどの防具を全て外し、用意された服を着る。肩を出し、腰は皮紐で縛り上げ、丈の長いスカートに長革靴、庶民の女性が着用する一般的な服だ。
正直、別のビキニアーマーを用意されるんじゃないかと内心緊張していた。着替えが終わり試着室から出ると、ミリットから声を掛けられる。
「じゃあコスモ、2日後の同じ時間には出来上がってるからよろしくね」
「ああ、頼むよミリット」
ビキニアーマーの受け取り日時を確認すると、例のビキニアーマー酒場に文句を言いに向かう為に、商品を眺めているセルシルに声を掛ける。
「おーい、セルシル行くぞ!」
「ん……あんた誰だっぺ?」
「コスモだよ!コスモ!」
「…………あー!コスモ師匠だっぺか……あれ?呪いのビキニアーマーは?」
「ア、アレは修理に出した、それと呪いじゃねえからなアレは」
「そ、そうだっぺか!……コスモ師匠だって人間だものな、色々あるっぺな」
どうやらセルシルはビキニアーマーをコスモだと認識していたらしい、かなりの間を置いてコスモだと気付く。そしてビキニアーマーが呪いでなく、自分の意志で着ている事を知ると微妙な気遣いをしてくる。
セルシルの反応に対しコスモがぶつけ様のない怒りがさらに溜まると、語気を強めセルシルの腕を引っ張る。
「ほら、次は楽しみにしてビキニアーマー酒場に行くんだろ!」
「んだ!折角カルラナさ来たんだ、楽しまないと損だっぺ」
方向音痴のセルシルを連れて店を出ると、怒りをぶつける為に例のビキニアーマー酒場へと向かう。
~
しばらく町中を歩いていると気付いた事が一つだけあった。
それは一般女性服に着替えた後から、誰もこちらに見向きをしない事だ。後ろを歩くセルシルの異様な姿の影響もあるのだろうが、それだけでは無い、明らかに顔見知りからも無視をされている。
もしかして町の全員が自分をビキニアーマーで認識しているのでは、と嫌な事が頭の中をよぎる。そんな違和感を感じながらも噂のビキニアーマー酒場の前に到着する。
濃い目の桃色の下地に薄めの桃色の派手な文字で『ビキニパラダイス』と書かれた看板を入口上に掲げ、建物も桃色に塗装されていた。昼間にも関わらず大盛況の様子で人が行列を作っている。
「そんじゃあコスモ師匠!俺並んで来るんで!また後でよろしくだっぺ!」
ビキニパラダイスの行列に並ぶ骸骨を模した兜を被る黒騎士セルシルだが、完全に周りから浮いている。
セルシルが並ぶのを見送ると、コスモが一言文句を言う為にビキニパラダイスの入り口の扉を開けて、店の中に入って行く。
「いらっしゃいませー!当店は初めてですか?」
「いや客じゃない、ちょっと店長に会いたいんだが」
店の中に入ると青い長い髪をした若い女が声を掛けてくる。その姿はコスモと同じ胸元が開けた丈の短い黒のビスチェに下腹部には黒のローレッグの下着のみで膝上まである長い黒のソックスの上から桃色のビキニアーマーを着用していた。
完全にコスモの姿を意識している、肖像権を完全に無視をした強気の営業だ。そんな若い女に店長について尋ねると、愛想良く返事をして案内する。
「募集を見た方ですね、店長室まで案内しますので着いて来て下さい」
「ああ、頼む」
少し薄暗い店内を案内されると、小さなハート型の机の上に酒瓶とガラスのコップが置かれ、柔らかそうな桃色の長椅子に、ビキニアーマーを着た若い女が客の横に座って楽しそうに会話をしている。その様な光景が至る所で行われていた。
少し歩くと店長室へと着き、案内をしてくれた若い女が扉を叩き声を掛ける。
「店長、募集の方が来てます」
「ああ、構わないよ入ってくれたまえ」
店長の声が聞こえると若い女が扉を開けてコスモを招き入れると、扉を閉めて自分の業務へと戻って行った。
店長室は窓が無く燭台の蝋燭に灯された火の明かりだけが辺りを照らしていた。燭台が置かれた机の上には書類の山と、金貨や銀貨などが綺麗に並べられた手持ち金庫が開かれた状態で置かれていた。
机の椅子に座っていた店長がこちらに目を向けると、目の色を変えて立ち上がる。
「おお、これは逸材だな……」
首元まで覆う深緑の法服に浅黒い肌、長い赤黒い髪を後ろへ流した、目付きの鋭い中年の男が店長の様だ。
「俺はコスモってもんだが、誰に断ってこんな店開いてるんだ!」
「……ふぉふぉふぉ元気なお嬢さんだ、俺の名はフネガー、店長をやらして貰っているが……君なら間違いなくこの店のナンバーワンになれる」
「だから本物のビキニアーマーのコスモだって言ってるだろ!」
「本人ならばビキニアーマーを着ていないとな、まあこれから本人になりきって貰うのだけどね」
店長のフネガーと会話が一切噛み合わない、それに文句の内容も自分でビキニアーマーが存在意義ですと本末転倒な事を言っている。すでに象徴としてビキニアーマーが一般的に認識されてしまっている影響だ。
怒るコスモを無視してフネガーが真剣な眼差しでまじまじと体中を見回している。
「実に良いな、お嬢さんの言う通り本物に匹敵する美しさだ……まずは研修からだが終われば報酬が1日で銀貨20枚、客からの指名や別途酒の注文が入れば更に上乗せされる」
「き、銀貨20枚か……更に上乗せ有りなら冒険者よりも条件がいいな……」
報酬の話になると冒険者の依頼より割りが良いのに気付く、報酬の高い依頼程、危険度が上がるがここでは、自分の会話の技術次第では上乗せされるのだ。
「今稼いでる子で1日に最大で金貨1枚だな、さらに3食宿付きで面倒を見ておる、ふぉふぉふぉ……どうだいやってみるかね?」
「う、うーん……」
文句を言いに来たのに余りにも良い報酬条件に目が眩み、言い包められる。コスモが悩んでいるとフネガーが提案をする。
「悩む様なら一度、接客してみるかい?その方が向いているかどうか判断できるだろう?」
「いや、違う……そうじゃなくて」
「なあに格好が格好なだけに嫌がる者も居る、無理強いでは営業にも影響するのでな、しっかりと考えるが良い」
店名がビキニパラダイスの癖に意外にも従業員を大事にする方針で営業をしていた。しかも研修ではビキニアーマー無しという徹底ぶり、だが何気無く商売道具のビキニアーマーを恥ずかしい衣装だと言う認識はしている様だ。
フネガーがコスモを連れて酒場へと出ると、1つの席に案内する。
「ここは研修用の席だ、常連客でも比較的温厚な者を連れてくるので、是非安心して接客に臨んで欲しい」
「あ、ああ……あれ?何でこうなった?」
余りにも至り尽くせりの状況にフネガーの手の平で転がされ、コスモがなすがままに着席する。大手メデウス商会の名に偽りなしの好待遇である。
しばらく座って待機していると、フネガーが客を連れて席にやってくる。
「研修中の子でして、今ならセット料金、銀貨20枚を半額の銀貨10枚にさせて頂いております、どうでしょうか?」
「おお、可愛い子じゃん、それでいいよ店長!」
どこか聞き覚えのある声が聞こえると、その男がコスモの横へと座る。薄暗い中で男の顔を確認すると、なんとオルーガであった。
「あれ?どこかで会った様な気がするけど……まあいいや!何か飲むかい?」
「……ラガーを一杯」
「ラガーっておっさんの飲み物だぜ!だけどそこがチャーミングだね!」
いつもの様に口が減らないオルーガだが、コスモの変貌に全く気付いていない。ああこいつもビキニアーマーが無いと分からないのかと絶望して、コスモが落ち込みながら殺意を持った目で見つめる。
酒が到着すると2人で乾杯をして他愛の無い話しを続ける。
「あと少ししたら、一緒に仕事してるセリオスって奴も来るからさ!」
「セリオス……」
次期領主がこんな所へ来て良いのかと思うコスモだが、それよりも気付かれないかもしれないという恐怖が勝っていた。求婚までされ、ここでも気付かない様ならやはりコスモがビキニアーマーだけの存在だという事になるからだ。
すると店の扉が開き、見覚えのある青い髪の青年、セリオスが入ってくる。
「おーい!セリオスこっちだこっち!」
オルーガが席を立ち、手を振ってセリオスに合図を送る。合図を見たセリオスがゆっくりとこちらに歩いて来て、机の前に立つと座っているコスモの姿を横目で見る。
今は一般女性服を着ていつもの格好ではない。気付かれる訳がないと諦め始めた時であった。
「あれ?コスモ、こんな所で何してるの?」
「セ、セリオス……」
コスモに気付いたセリオスを見て、今まであった恐怖が一気に吹き飛び嬉しさが心の底から溢れ出る。座ったまま勢い良くセリオスに抱き着きくと、涙を流しながら喜び、そのコスモの頭をセリオスが優しく撫でる。
「よしよし……その様子だと上皇様のお仕事も大変だったみたいだね」
「うぐっうぐっ、セリオス……お前だけだよ俺を分かってくれたのは!」
「う……全然、気付かなかった……」
オルーガが気付かないのも無理は無い、<インペリアルオブハート>の称号が人々の心に刻まれていたからだ。ほとんどの者が建前を重要視して人を見ない事が多々ある、それ故に仕方の無い事であった。
コスモが泣いている事に気付いたフネガーが慌てて席に向かってくる。
「あ、あのお客様、この子が何かご迷惑をお掛けしましたでしょうか?」
「ああ店長、丁度良かった、この子が<インペリアルオブハート>のコスモだよ」
「は?え?本物??」
領主の子息セリオスから説明を受けるとフネガーが頭を下げてコスモに謝罪を行う。コスモも涙を袖で拭うと椅子に座って落ち着くと、周りの客もコスモの存在に気付いてこちらに注目をする。
「こ、これは大変失礼をしました……まさか本物だとは……」
「ああ大丈夫、文句言おうかと思ったけど真っ当な営業をする店って分かったし、俺の称号にも影響するは事は無い、後は一つ分かった事もあるしな」
自分に気付いてくれたセリオスの顔を見ると眩しく映る。コスモにとってそれだけでも怒りを忘れる位に嬉しかった。本当に自分を見ていてくれているのだと。
真っ当な商売かどうかは別として。
「でなー……こう!…………あら不思議トイレから出て来るんだっぺな!」
「セルシルさんって面白いー!」
「ねーねーもう一回やってよ!」
遠くの席で黒騎士セルシルが席から消えると技能【黒家転移】を使って個室のトイレから出てくる一発芸を披露していた。ビキニ嬢達には大好評でセルシルだけがビキニパラダイスを満喫していた。
そして、しばらくカルラナでの楽しい日々を過ごすと執事のガジェインが言っていた盗賊掃討が始まろうとしていた。




