第31話 アインザー仕置き
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
諸事情によりモウガスの姪という事になる
ウェイリーの執務室に案内されると、その後に続いてコスモが入室する。部屋の壁際に本棚が並び、正面には帝国の国旗、炎の紋章が掲げられ、その前に皇帝とは思えない質素な机が一つあった。
本棚と本棚の間に小さな窓があり、そこから光が差し込み部屋を明るく照らしていた。
皇帝の机の前には細かな彫り細工が施された丸い机と、その横に金色で装飾された来客用の長椅子が置かれている。
ウェイリーが自分の机の椅子に座ると、コスモにも長椅子に座る様に指示を出して座らせる。コスモが一息付くとウェイリーが早速、用件を伝える。
「ここに呼んだのはね、コスモ君に個人的にお願いがあるからなんだ」
「お願いですか?」
「僕の懐刀になって欲しいんだ」
「懐刀……」
「簡単に言うと僕の個人的な依頼を、コスモ君が受けて欲しいと言う意味だよ」
帝国には大陸中の優秀な人材が集まっていた。ウェイリーがそれぞれの個性と才能を発揮させる為、その相応しい仕事を任せていたが、唯一足りない物があった。
「今の僕に足りないのは、現場の解決力を持った人間なんだ」
「それは俺の力を以って解決する様な意味なのでしょうか?」
「それもあるけど、コスモ君は力だけじゃない、人の心を動かせる事も出来る。僕はそちらの方に期待しているのさ」
「人の心ですか……」
「相手を屈服させれば終わる程、人という生き物は甘くない、人は損得の感情で生きてるのさ、これが人の難しさでもあり面白い所かな」
帝国が一番苦労しているのは、末端の臣民にまで復興の支援が行き届いていない現状だ。帝国の権威を持ってしても、臣民は救われない事をウェイリーは痛感していた。
遠くの土地までは流石のウェイリーも目が届かない、それを良い事に好き勝手に振る舞う者が多くいる。邪神竜討伐後の復興が遅れているのも、そう言った人の感情が作用していた。
ユユの様な内政で力を発揮する者は多く登用してきたが、コスモの様な力を持った者は帝国軍に行ってしまう。その才能も個人よりも集団の指揮で活躍する者が多かった。
その点、コスモは自由な冒険者であると共に邪神竜級の力もあって、帝国に対する忠誠心もある。まさにビキニアーマーを除けばウェイリーにとって最適の人物なのだ。
「どうだい?やってくれるかな?」
「もちろん帝国の為なら協力は惜しみませんが……ただ一つだけ約束して下さい」
「いいよ言ってみなさい」
ウェイリーの申し出に1つだけコスモが注文を取り付ける。今回の様にお互いの思い違い、すれ違いで起こる問題を想定しての事だった。
「帝国に敵対した者でも、俺が認めた者は許し、帝国で重用するという事です」
「ふむ……コスモ君が認めた者か……」
ウェイリーが腕を組みながら空いた手で赤い口髭を触りながら長考する。しばらくするとコスモの目を見て結論を出す。
「皇帝の先鋒になるのだから、コスモ君にも裁量権がないとね、よし!その約束は守ろう」
「ありがとうございます!」
「感謝したいのはこちらだよ、コスモ君、これからもよろしくね」
こうしてウェイリー個人の戦力として働く事が決まった。2人が協力する証として握手を交わすと、話しがまとまった所でコスモが立ち上がろうとした時、ウェイリーが言葉を続ける。
「それでうちのユリーズとは、いつ結婚するんだい?」
「え?」
皇帝の顔から父親の顔になり、笑顔でコスモに問い詰める。すると扉から新しい紅茶の入ったティーポットとカップを銀盆に載せラーナが執務室へと入ってくる。
「私の自慢の息子ですからね、じっくりとお話しましょうか」
「そうだねラーナ、帝国の将来がかかっているからね」
「え?え?」
皇帝と王妃兼秘書官をしている2人から小一時間程、結婚の話で問い詰められる。今までの戦いよりも、この2人との押し問答がコスモにとって一番の激闘になった。
そしてようやく解放された時には、燃え尽きた様に真っ白になり、アインザーの隠れ家に戻って行った。
~
翌日、上皇アインザーの隠れ家の屋敷、応接室にアインザーを呼び出し、2人きりになると昨日のヴィオーラル城での報告を行う。
それをアインザーが上機嫌で報告を受けていた。
「はははは!そうか、ご苦労じゃったなコスモ、ユリーズの奴も抜け目がないのう」
「参りましたよ、陛下と王妃からのいつ結婚するのアピールは……」
「じゃが、ウェイリーが誰も処罰する事無く、今回の件を収められたのは紛れも無くコスモ、お主の成果じゃ、余が与えた称号に恥じぬ活躍じゃぞ」
アインザーが嬉しそうな表情でコスモを賞賛し称える。今回の件で処罰を誰も受ける事無く済み、更なる確執が生まれる事が無い様にしたのだ。
これは帝国にとって痛手を負わずに得た、最良の結果である。
すると応接室の扉を叩く音が聞こえ、外からシャイラが声を掛けてくる。
「コスモ殿、到着されたので準備をお願いします」
「あ、もうそんな時間か……」
「なんじゃ?もう帰るのか?もう少しゆっくりしてゆけいコスモよ」
アインザーが寂しそうな表情で引き留めると、コスモが長椅子から立ち上がり、アインザーの座っている長椅子の後ろへと回り、魔剣ナインロータスを抜き出す。
「ど、どうしたのじゃコスモ、剣なんか抜きおって!」
「上皇様、俺のこの魔剣ナインロータスには特性で、相手の技能を無効にする【看破】が備わっています、つまり俺がこの魔剣で上皇様に触れている限り、呪いの技能【魅了】が無くなる訳です」
「な、なんと!」
コスモが魔剣ナインロータスの刀身をアインザーの背に当てると、応接室の外に居るシャイラに声を掛ける。
「シャイラ殿、準備は出来ましたのでお連れして下さい!」
「了解しました、こちらへどうぞユリーズ殿下」
「ユ、ユリーズじゃと!ほ、本当に大丈夫なんじゃろうな!」
孫のユリーズの名前を聞いてアインザーが焦り出す。過去に息子のウェイリーから技能【魅了】によって欲情され、襲われた記憶が蘇る。
コスモに顔を向けて問い質すと、目配せをして大丈夫だと合図を送る。
応接室の扉が開くと、ユリーズと一緒になぜか技能研究部門のユユが入ってくる。そしてシャイラも中へ入ると扉を閉めて、扉の横で静かに待機する。
「コスモ、俺を呼び出すと言う事、は心が決まったという事か?」
「いえ、殿下にお会いして頂きたい方が居まして……」
「会わせたい者?」
「おお!本当に【魅了】が消えておる!凄いのう!」
魔剣の効果にはしゃいでいる少女アインザーをコスモが指差すと、ユリーズがアインザーの姿をじっくりと観察し、その真紅の髪色などの特徴が自分に似ている事に気付く。
そして驚いた表情になり額から汗を流し、震えながら指差す。
「も、もしや……父上の隠し子か?」
「ちっがーう!余はお主の爺様じゃ!」
「「ぷふうー!!」」
部屋に居たコスモとシャイラがユリーズの反応に同時に噴き出す。少女の姿をしているアインザーを自分の祖父とは思わない、当然の反応である。
「じ、爺様?コスモ、このちびっ子が言っている事は本当か?」
「はい、本当です殿下」
「ちびっ子言うな!」
ユリーズが動揺しながらも確認をするが、どう見ても祖父には見えない。コスモの答えを聞いても祖父とは納得できず思考を巡らす。
そしてアインザーに試すような質問をしてみる。
「爺様と言うならば、【マグマメティオスの書】の14頁には何が記載されているか知っているな?」
「使用者の条件項目じゃな、書の必要適性S、【魔力】40以上、尚且つ契約者の血筋の者のみという条件付きじゃな」
あっさりとアインザーが回答する。長年連れ添った【マグマメティオスの書】なのだ、全てを知っている。答えを聞いたユリーズが顔を緩ませ、アインザーを本当の祖父だと認識して行く。
「ほ、本当に爺様なのか!」
「ああ、この姿と呪いの技能故に会えなかったのじゃ……しかし立派になったのうユリーズや、近くに来て顔を見せてくれぬか?」
ユリーズがアインザーの座っている長椅子の前に近寄り、屈むと顔を寄せる。その頭をアインザーが涙を零しながら手で撫でて行く。
「もう死ぬまで孫を撫でる事は無いと諦めていた、だが今余の夢が一つ叶ったぞ」
「俺も爺……婆様に会えて嬉しいよ」
「いや爺様のままで良いぞ」
祖父と孫の邂逅をコスモとシャイラとユユが温かい目で見守る。だが何気に婆様と呼ばれる事を拒み、爺様に訂正させていた。気持ちとしては男でありたいのだろう。
アインザーがユリーズを撫でると満足したのか涙を拭き、ユリーズもその場で立ち上がり、コスモに感謝の言葉を伝える。
「コスモよ、余の夢を叶えてくれて感謝するぞ、今日は忘れる事ない日になろう」
「こうして爺様……に会えたのも、コスモのお陰だ感謝するぞ」
「上皇様、ユリーズ殿下、私も称号と活躍の場を頂き感謝しております、そのお返しになれば幸いです」
アインザーは今、幸せの絶頂に居た。孫が生まれてから触れる事が出来ずに18年経っていた、その二人が触れ合う日が来るとは思ってもみなかった。それも全てはコスモのお陰であった。
するとユユがユリーズに指示を出す。
「ユリーズ殿下、申し訳ありませんがシャイラ殿の横まで移動して頂けますか?」
「ん?良く分からんが、こうでいいのか?」
ユユの指示を受けて扉の前まで移動して扉を背に立つユリーズ。すかさずシャイラがユリーズの背後に回り、腰に手を回し腹部で両手を握り込み、動けない様に固定する。
「シャイラ何をしている、離さないか!」
「いえこれはユリーズ殿下の為……しばらく我慢を」
ユリーズが訳が分からず戸惑っているとそのやり取りを見ていた、アインザーの顔から血の気が引いて行く。物凄い嫌な予感がしたからである。
「な、なあコスモよ、これは何の真似じゃ?」
「魔法学院だけでは無く、少しばかり上皇様にもお仕置きが必要だと思いまして……」
先程と打って変わってコスモの目が遠くを見つめ、表情から笑みが消える。するとユユがアインザーの横に立って、罪状を語り始める。
「上皇様、まず私の胸を侮辱しお尻を撫でた事、コスモ君のお風呂を覗いていた事、シャイラ殿のお尻を撫で固いと侮辱した事……これらを今後一切止めるとお約束頂ければ、穏便に済ます事が出来ますが……」
「がびーん!全部バレていたのか!!」
「え……爺様がそんな事をしていたのか……」
アインザーが自身の悪事がばれていた事に驚いているが、あれだけ大っぴらにやっていれば、ばれていて当たり前である。
その罪状を聞いてユリーズが祖父の恥ずかしい行為に悲しい表情をすると、それを見たアインザーが孫を失望させない為に必死に言い訳を始める。
「いや違うんじゃユリーズよ、余はな皆と仲良ーくする為にスキンシップ!そうスキンシップを取っていたのじゃ!」
「……コスモくん、魔剣を離してくれたまへ」
見苦しい言い訳をすると無表情のユユからコスモへ魔剣を離す指示を飛ばす。コスモが魔剣をアインザーから少し離すと技能【魅了】が発動する。
目には見えないが果実の様な甘い香りが辺りに広がって行く。ユリーズの表情が豹変し、目が白くなると獣の様にアインザーへと飛び掛かろうとするが、腕の力を入れてシャイラがそれを抑える。
「ぐううう……ああああ!」
「やめろおおおおお!止めてくれ!後生じゃあ!!」
過去にアインザーに取り付いた邪神竜の呪いも逃げ出した技能【魅了】、その効果がユリーズに発揮されると、アインザーが涙を流しがら悲痛な表情を浮かべる。
ユユがコスモに目配せすると、再びコスモが魔剣をアインザーの背中に当てる。技能【魅了】が無効になり、ユリーズの表情が普段の状態に戻って行く。
「な、なんだ?一瞬記憶が無くなったぞ……」
「お、お主ら!次期皇帝を前皇帝の脅し道具として使うとは何事じゃ!」
ユリーズが我に返り、アインザーこの仕打ちを上皇に対する行動でないと諫める。確かに前皇帝を次期皇帝を使ってで脅すという意味の解らない言葉通りの状況になっていた。
「シャ、シャイラ!お主は余の右腕じゃろう!た、助けぬか!」
「……上皇様にお尻が固いと言われました」
「は?」
「お尻が固いって言われた!」
「お、お主、それを根に持っておったのか!」
無表情の顔をしていたシャイラが、目に涙の粒を浮かせて再びアインザーに被害を訴えかけた。さすがに40年も女をやっていると乙女心も芽生えたのだろう、涙目なった強く固い決意のシャイラにアインザーが戸惑う。
「上皇様、これは友人としてのお願いです、身近な女性には助平な行為は行わないと約束して頂けたら、それで終わりなのです」
「うう……余の生き甲斐が……」
(((生き甲斐だったのかよ……)))
コスモが友人としてのお願いだと伝えると、アインザーが真剣な表情で悩み始める。その場にいたコスモとユユとシャイラが心の中で突っ込む。
アインザーの手癖の悪さとセクハラ発言は少女の体になった事を良い事に更にエスカレートしていったのだ。それを諫める為に今回の強硬策をコスモとユユとシャイラが相談して決めたのだ。
「爺様、コスモは俺の妃になる女なんだ、コスモに手を出す事は容認出来ない、頼むから止めると言ってくれ」
「うう……」
頭を抱えて孫の願いと生き甲斐を天秤にかける。苦悩の表情を浮かべながら、体を揺らしながら必死に悩みぬく。
長い間悩みぬくと、答えが決まったのか、おもむろに顔を上げ宣言する。
「余も腐っても元皇帝じゃ!今後、この悪い手癖は行わないと誓おう!」
「さすが俺の尊敬する爺様だ、立派だぞ」
「ふふふふ、そうじゃろうそうじゃろう!もっと尊敬するが良いぞユリーズよ!」
(((うっわー……それを偉そうにするんだ)))
アインザーがドヤ顔でそう宣言すると、それを称えるユリーズという構図に3人が呆れている。だが、3人の目的は達成されたと言っても良いだろう。
「ふむ、これでしばらくは私も仕事にストレスを感じる事なく業務に当たれるな」
「薔薇騎士団の団員達も安心するでしょう」
「全く……上皇様には困ったもんだぜ!」
ユユとシャイラとコスモがこの件について、解決した事に安堵の表情を浮かべる。用件も済んだので、各自が撤収準備に入ろうとすると、一件落着した事に油断したコスモが誤って魔剣をアインザーの体から離してしまう。
「あ……」
「あ……」
「あ……」
「やば……」
「ぐううう……ああああ!」
再びユリーズの表情が獣に戻ると、シャイラの腕を振り払いアインザーの方向へ向かって走り出し飛び掛かる。
「うあああああああああ!やめろおおおおおお!!」
「ユリーズ殿下!これで止まって下さい!」
コスモが素早く魔剣をアインザーの体に当てると、飛び掛かったユリーズがアインザーの膝元に倒れ込み、我に返る。
何とか際どい所でユリーズを止める事に成功すると、コスモが手で額の汗を拭い、大きく一息付く。
だがアインザーは本気で泣いていた。
「も、もうやらぬから……魔剣を離すなよ、絶対に離すなよ!これは振りではないぞ!よいな!」
「うう……なんで俺はここに居るんだ?」
結局、ユリーズが屋敷を出るまでアインザーがコスモに魔剣を離すなと連呼を続ける。わざとでは無いが、何となくやり過ぎたという罪悪感を感じるが、良い薬になっただろう。
こうしてアインザー仕置きが終了した。40年前に息子のウェイリーに襲われ、40年後には孫のユリーズに襲われた事はアインザーの生涯の中でも忘れられない苦い思い出となった。




