第30話 帝国皇帝ウェイリー
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
諸事情によりモウガスの姪という事になる
バンディカ帝国の首都、城塞都市アウロポリスはアセノヴグ大陸の中央に位置していた。広大な平原と自然豊かな森に囲まれ、大陸の交通の要衝としての機能を果たしていた。
城塞都市アウロポリスは円を描く様な形の高い城壁が何重にも重なり、城壁で区切られた地区には外側から平民、商人、貴族、と言った順で住居が分かれている。
そして平民の住む地区には広大な土地を活用した農地もあり、籠城に対応して自給自足で糧食を賄えるようになっていた。
東西南北には巨大な鉄城門が設置されており、至る所で竜対策で造られた建造物の名残が残っていた。
その都市の中央にヴィオーラル城がある。
城には帝国の繁栄、栄華を誇るような装飾は無く、無骨で鋭角な形を施した外観は、まさに要塞と言っても過言ではない堅固な造りになっている。
そのヴィオーラル城の皇帝の広間に、現皇帝派プレイトルと前皇帝派のローレスを含む貴族達が、玉座まで続く赤い絨毯を挟み向かい合う様に横一列に並んでいた。
この日にヴィオーラル城に登城するよう、皇帝から帝国内の貴族達全員に通達されていたのだ。その中でも現皇帝派筆頭の大臣プレイトルは思い詰めた表情を浮かべていた。
(ルイシュの話が正しければ、称号の持ち主コスモは【マグマメティオス】を打ち破る英雄。それに敵対行動を取ったとなれば……私も覚悟せねばなるまい)
周りにいた現皇帝派の貴族達も自分達の子から、コスモの現実味の無い強大な武力を聞いて狼狽していた。特にユリーズの放った【マグマメティオス】を打ち破る快挙は、抵抗しようとする現皇帝派の貴族達の心を折るのに十分な内容だった。
その様子を皇帝ウェイリーが玉座に座って足を組み、肘掛に片肘を付いて気だるそうに眺めていた。その横には1人の美しい中年女性が立っている。
「あーやだねえ、見なよプレイトル君達の顔、勝手に勘違いしちゃってるよ、その為に呼んだ訳じゃないんだけどね……」
「陛下の威厳ある姿にプレイトル大臣がそうなるのは仕方ない事かと」
「おっと、ラーナはおだてるのが本当に上手いねえ」
皇帝ウェイリー、50代後半の年齢で肩まで掛かる長さの真紅の髪が少し乱れ、目は遠くを見る様に細く、顔は少し緩めで赤い口髭を蓄え、体躯は細見、黒と赤を基調とした王族の装束を身に纏い、頭には王冠を斜めに載せている。
ラーナと呼ばれた女性は、30代後半の年齢で銀髪が耳に掛かる程の長さで、目は大きく力強い、顔は美しく常に微笑むような穏やかな顔をしている。体躯は細見で全身白色の帝国役人の制服を着用している。
ウェイリーがラーナを褒めると、ラーナが近くの立ち台に用意していたティーポットとカップを手に取り、玉座の横に置いてある小さい台座にカップを置いてティーポットに入っている暖かい紅茶を注ぐ。
注がれたカップをウェイリーが姿勢を変えないまま、横着して手を伸ばすとカップの取っ手を掴み一口飲む。
「うーん、ラーナが淹れてくれた紅茶は、やはり一番だね」
「ふふふ、陛下もお上手ですこと」
現皇帝派の貴族達の様子とは逆に、ウェイリーとラーナの2人が皇帝の広間で和んでいた。
すると、皇帝の広間に1人の帝国兵が入ってくる。玉座の前まで来ると片膝を付き、ウェイリーに報告をする。
「<インペリアルオブハート>のコスモ様が、ただいま到着致しました!」
「ん、じゃあここまで丁重に案内してね」
「ははっ!」
案内するように指示された帝国兵が頭を下げ、立ち上がるとそのまま皇帝の間から出て行く。ウェイリーが紅茶のカップを台座に戻すと、何かに期待する様な楽し気な表情になる。
「さあて、どんな面白い話しが聞けるのか楽しみだよ」
今回の件についてあらゆる所からウェイリーへと情報は入っていた。それについてどうコスモが答えるのか期待をして待っていたのだ。
そのコスモだがアインザーの隠れ家で休養を兼ねて過ごしていると、皇帝ウェイリーからの勅使が訪れて来た。アインザーの読み通りである。
用件は城塞都市アウロポリスのヴィオーラル城に登城して皇帝ウェイリーに謁見する事、その要請を受けてコスモが直ちにヴィオーラル城へと向かって行った。
到着すると帝国兵に皇帝の広間まで案内されるのだが、城内を歩いていると城内で働く者達が興味を持ってコスモの姿を一目見ようと人だかりができる。
魔法学院での一件がすでに伝わっていて注目の的なのだ。もちろん着ていたビキニアーマーについてはいつもの事であった。
「凄い格好だな……あれでユリーズ殿下を籠絡させたのか」
「うわーあんな格好で……私なら外歩けないよ……」
ユリーズからの求婚の話もすでに広まっていた。あの後、ユリーズがアウロポリスに住む貴族達にコスモを自分の妃にすると公言していたのだ。
もちろん他の貴族の男に取られない為の予防線の意味もあるのだが、再びコスモに反逆しようとする者に釘を刺す意味もあった。
ビキニアーマーには相変わらずの評価を貰いつつ、コスモが下を向きながらこの恥辱に耐えて、皇帝の広間の扉の前まで移動していた。
到着すると帝国兵が扉を開けて、端に寄るとコスモを皇帝の広間の中へ招き入れる。
コスモが緊張した面持ちで赤い絨毯の上を歩き、帝国貴族達の視線を受けながら玉座に座るウェイリーの前に着くと跪き頭を下に向ける。
「<インペリアルオブハート>のコスモ、皇帝陛下の勅令により馳せ参じました」
「やあ、いらっしゃいコスモ君!良く来てくれたね!歓迎するよ!」
周りに居た貴族達が奇異の目でコスモに注目する。特に現皇帝派の貴族達は自分の子から聞いた通りの姿で、嘘では無い事を実感していた。
堅苦しい挨拶をするコスモと反対に軽い口調でウェイリーが迎え入れると、続けてウェイリーがコスモに注文を出してくる。
「コスモ君、その固い口調は止めてさ、いつも通りにしてくれないかな?ちなみにこれは命令じゃないよ、お願いだからね」
「はっ!……わ、分かりました!」
「じゃあ立ってくれるかい、ここに居る皆に今回の魔法学院の件について、コスモ君の口から教えてくれないかな?」
「お、俺の口からですか?」
「僕も話は聞いてるけどさ、本人から言った方が説得力も増すでしょ?それにコスモ君も一方的に仕掛けられた訳だし、言いたい事もあるでしょ、自由にやってごらんよ」
「そ、それでしたら……」
アインザー、ユリーズに比べて、ウェイリーに覇気を感じずコスモが肩透かしを喰らうが、指示通りに立ち上がると魔法学院で起こった事の経緯について話を始める。
「発端は俺の持つ称号<インペリアルオブハート>に不満を持つ者が居るという事で上皇様から、仕置きする様に言われて魔法学院に向かいました」
「父上からね、でその後どうなったの?」
「は!俺に不満を持つ生徒達を魔法学院の校庭に集め、この力を見て貰うために生徒に全力で魔法を撃たせて、それを受け止めました」
「やり方が真っ直ぐだねコスモ君は、その生徒達の様子はどうだったかな?」
「俺の職業【ソードアーマー】を完全に侮ってましたね、俺の挑発にも簡単に乗るくらいでした」
「うーん……そうか、授業の内容にもその件が入ってた筈なんだけどね」
魔法学院の授業内容にアーマー職についての役割があったのだが、現皇帝派の貴族の子息、子女達は軽く見ていた様だ。その事についてウェイリーが困った表情になる。
そしてコスモがマジック職について一番大事な部分を指摘する。
「それに生徒達の体力が無い事に驚きました。マジック職は逃げる事が最も大事であるのに、それすらも知らない様子でした」
「はあー……竜も居ないし40年も経つとそんなもんかなあ」
ウェイリーが失望した顔になる。邪神竜との戦いではマジック職が当たり前にしていた事が、現代では当たり前で無くなっていた。平和な時代がもたらした副産物みたいなものである。
だが生徒達だけの問題では無く相手が悪かった。もし生徒達の体力が万全であってもコスモの健脚からは逃れられないからだ。
そんな魔法学院の生徒達の現状を知ると、ウェイリーが次に気になった事を質問してくる。
「でコスモ君さ、本当にユリーズから放たれた【マグマメティオス】を跳ね返したって本当なの?」
「はい、本当です……さすがに苦しかったですけどね」
コスモが苦笑いで答えると周囲の貴族達が大きくざわめく、特に40年前の竜との戦いで【マグマメティオス】を直接見た老齢の貴族もいた。
事実であるとしたら以前、技能研究部門のユユから聞いた話の通りである。流石のウェイリーも真顔になっていた。実際に父であるアインザーが使用する所を幼少の時に見ていたからだ。
「あの魔法は邪神竜の眷属、その筆頭の赤王竜を消滅させた魔法なんだけどね……」
「そ、そうだったんですか……確かにあの威力ならどんな竜でも耐えれそうにないですが」
「君はそれに耐えたんだよ、コスモ君。まったく違う意味でユユの評価が上がってしまったよ、彼女の目は確かだってね」
赤王竜、過去の竜との戦いで最も人類に被害を与えた邪神竜の配下筆頭である。各地に構えた城塞を悉く破壊して周り、数万人という犠牲者を出していた。
強力無比な赤い吐息に人類にはなす術が無かった。それを多数の犠牲を払い【マグマメティオス】で消滅させたのが前皇帝のアインザーであった。
コスモの力は赤王竜以上と判明すると、ユユのコスモに対する評価は揶揄では無く言葉通りに相違ない物であった事が分かる。
ウェイリーとしてはコスモ1人で帝国を滅ぼせる力がある事だけは、信じたくなかったのだ。そうなるとコスモに反逆した者を、亡国の危機に陥れた重罪人として扱わないといけないからだ。
感心を通り越して呆れたウェイリーがコスモの話を終わらせると、次に視線をコスモから大臣のプレイトルへと向ける。
「というのがコスモ君の話なんだけど、プレイトル大臣、こっちに来てくれるかい」
「は!はは!……」
すでにウェイリーはコスモの称号に対する工作の首謀者である現皇帝派筆頭のプレイトルの事は掌握していた。
プレイトルが焦りの表情で列を離れ、玉座の前まで行きコスモの横に立つ。コスモを一瞥すると視線をウェイリーに向ける。
「確か、プレイトル君は技能研究部門のユユからの報告は受けていたよね」
「はっ、陛下!その話は私の耳にも入っております」
「ならプレイトルよ……余に逆らう意思がある、という事か?」
ウェイリーから突如、物凄い覇気を感じ始めるコスモ。
その何者をも見透かすような鋭い目線に覇気の威圧感はアインザーにも劣らないものであった。先程の優男の様な雰囲気が全く無くなり、辺りに緊張が漂う。
現皇帝派の貴族達だけなくプレイトルの顔からも汗が滲む。違うと答えたいが、ウェイリーの覇気に飲まれて口が開かないでいた。
するとウェイリーが放っていた覇気を一気に消し、再び元の優男の様な顔になる。
「冗談だよ安心してくれプレイトル君、帝国が誇る忠臣の1人なのは、僕が一番よく知ってるよ」
「は、はは!ありがたきお言葉!」
「さあてここで一旦、皆で復習しておこうかな」
ウェイリーが玉座をゆっくりと立ち上がると貴族達を見回しながら全員に説明を始めて行く。
「こう見ると代替わりした貴族の若い子達も多いみたいだね、良い機会だ、まずは竜の特徴についてだけど……そこの君、答えられるか?」
ウェイリーが現皇帝派の若い貴族を指差し問いかけると、その若い貴族がウェイリーの方向を向き答えて行く。
「は!竜の特徴は【体力】【力】【魔力】【技】【守備】が高く、それに対し【速さ】【幸運】【魔防】低く、物理攻撃は神器を除き固い鱗に弾かれ、魔法攻撃のみが有効手段である」
「うん、正解だ、良く勉強しているね」
ウェイリーが笑顔で若い貴族を褒めると、少し照れ臭そうにする。竜についての研究は現在でも続けられ、魔法学院以外の学校でも必須の科目となっている。貴族であれば誰もが知る所であった。
「これはあくまで一般的な竜であり、眷属になると話は変わってくるんだけど、概ね一緒でね、人類が唯一竜に対抗出来る最後の剣と言っても良いのが魔法、つまりはマジック職なんだ」
現皇帝派の貴族達が少しざわめく、現皇帝派は元マジック職の者達の集まりで構成されていたからである。人類の最後の剣と言われ誇らしく感じたのだろう。
逆にファイター職、ナイト職、アーマー職の集まりである前皇帝派の老齢の貴族達は静かにウェイリーの話を聞いていた。
「だけど竜達も馬鹿じゃなくてね、戦ではマジック職を優先して狙う様になったのさ、当たり前だけど武器が無い敵は怖くないからね」
竜に対する有効打が神器以外では魔法だけなのを知恵のある竜達は理解していた。
「そこでコスモ君も言っていた逃げる事が大事になってくるのさ、ただ逃げるだけじゃあすぐに追いつかれる、そこで足止めが必要になってくるんだ」
前皇帝派のローレス将軍を含む老齢の貴族達が顔を俯かせる。
「その足止めがコスモ君と同じアーマー職の者達なんだ、それを揶揄する言葉がある……」
『竜の1歩にアーマー10人』
「つまり、竜の1歩を止める為にはアーマー職の決死隊が10人必要だという言葉だね、自分の命惜しさに逃げるんじゃない、仲間の死を無駄にしない為に、次に繋げる為に逃げるという義務を負っているんだ」
この言葉に現皇帝派の若い貴族達が騒ぎ始める。
現代では竜の討伐が無いのに加え、過去の凄惨な内容が子供達には悪影響があると、大人達の判断で学校の授業では詳細に学ぶ事は無かった。その為、今始めて知った者も多かったのだ。
「あまりにも多くの血が流れたからね、そんな辛い事を子に伝えたくない……親心という奴かな、そのせいでアーマー職が軽視されてしまうのは悲しい事だけどね」
現皇帝派の若い貴族達が、マジック職であった先代が常日頃から言っていたアーマー職を大事にしろという言葉が、魔法に弱いから庇護する事では無いと知って声を失っていた。
コスモがこの事を知ったのは、モウガスの時に騎士団で模擬戦を行った際に、相手側の老齢のマジック職から、同じ内容を聞いていたからである。
話しの最後に老齢のマジック職がアーマー職に感謝の言葉を述べていたのは、今でも覚えている。
『私が今ここに立って居られるのは、若いアーマー職達に生かされたからだ、君達には本当に感謝をしている。これからもマジック職を守ってくれ』
そんな事をコスモが思い出しているとウェイリーのアーマー職の重要性についての話が終わる。
「皆解ってくれたかな?という事でこの話はおしまい、で【ソードアーマー】のコスモ君に聞きたいんだけど……」
「は、はい何でしょうか」
「君は今回の被害者な訳なんだけど、帝国を滅ぼしたいとか考えてるかな?」
ウェイリーがあっさりと話題を変えるとコスモに唐突な質問をする。今回の件で帝国に愛想が尽きたと思われたのか、違う思惑があるのかは分からない。
だがコスモの答えはすでに決まっていた。心を落ち着かせ静かな声で返答する。
「……そんな事、微塵も思ってません」
「それはなぜかな?忠誠?職業柄?理由を教えてくれるかい?」
「理由は俺が帝国の孤児院の出身だからですよ、つまり俺をここまで育ててくれたのが帝国だからです」
ウェイリーがコスモの回答を聞くと赤い口髭を触りながら、悩む様な仕草で玉座の前を右往左往し始める。
「確か……帝国運営の孤児院に関わっていたのは……そうだ!ローレス君とプレイトル君の2人だったね!いやー思い出すのに時間が掛かったよ」
わざとらしく思い出す様にそう言うと、ローレスとプレイトルに声を掛ける。この二人、政敵同士ではあるが、孤児院については協力して惜しみない援助を行っていた。
「はい、という事で、君達2人の活躍で邪神竜級のコスモ君が帝国の味方になった訳だ、これは救国の英雄と言っても良い大手柄だね、これで今回の件は無しにしようか」
「へ、陛下……」
「プレイトル君、これからも帝国をよろしくね」
「は、この温情に報いたく思います」
ウェイリーが微笑みながら優しい口調でプレイトルに語り掛ける。皇帝の寛大な処置にプレイトルがその場に跪き頭を下げる。その様子を見てローレスも安堵していた。
元はコスモの称号によって、前皇帝派の権力が増す事を嫌った現皇帝派との争いであったが、長い平和で忘れられていたアーマー職、本来の役目を再度確認する事で、昔の様に再び帝国内の貴族達が一枚岩として結束をしていった。
そしてコスモの強大な力が帝国の脅威では無く、希望になる事も貴族達が理解していった。最早、コスモの称号に文句をつける帝国貴族は皆無であった。
皇帝ウェイリーの采配と、コスモの力によって現皇帝派と前皇帝派の称号を発端とした権力闘争はこれで収まった。
「はい、じゃあ皆、今日の話は忘れない様に今後も帝国の為に頑張ってくれたまえ、これで今日の話は終わりだ」
ウェイリーが手を叩き、今回の招集が終わった事を告げると、続々と貴族達が皇帝の間から退出して行く。出て行く貴族達の顔は安堵と、過去にあった凄惨な事実を知り引き締まった顔をする若い貴族達と様々であった。
全員が出て行くとコスモもウェイリーに一礼して出て行こうとするが、呼び止められる。
「おっと、コスモ君はちょっと残ってくれるかな、話したい事があるし……そうだねここじゃあ何だし、僕の執務室に行こうか」
「話したい事……ですか?」
するとウェイリーがコスモを引き連れ、自分の執務室へと向かう。




