表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/92

第2話 希望の兆し

日が沈み始める。


 空は暗い青の階調に染まり始めるのと同時に煌々とした太陽が地平線へとゆっくり消えて行く。


 日が沈むのを合図に地方都市カルラナへと続く街道には、一日の仕事を終えた人々が増え始める。そのほとんどが冒険者や開拓民達だ。


 その中に紛れ【薬草採取】の依頼を終えたモウガスの姿もあった。


 日が昇っている間に薬草の群生地から早めに帰路についたのだが、他の人々にどんどんと追い抜かれて行く。巨躯の体と重装鎧の威圧感があるのか他の通行人からは距離を取られるが、それだけが理由では無い。


「ねぇねぇ、なんか凄く汗臭くない?」


「あの人じゃない?」


 二人組の年の若い女が小声で汗臭い元凶であるモウガスをこっそりと指をさす。その匂いに耐え切れないのか、逃げるように足早にモウガスを追い抜いて行く。


 そんな事を気にする余裕はモウガスには無かった。


 モウガスの顔、体全体は滝の様に流れる汗で滴っている。季節はまだ春なのに異常な汗の量だ。携帯用の小さい樽で水分を補給しつつ進むを繰り返している。


 アーマー系の重装鎧は熱が籠る、体全体を覆う金属板なので熱の逃げ場が無い。これは周知の事実であり、アーマー職が敬遠される所以ともなっている。


 だがそれだけが原因ではない、後遺症の残る膝が更に言葉通り足を引っ張っているのだ。


 やがて辺りも暗くなり歩みの遅いモウガスを追い越すように通行人が過ぎ去り周りに人がまばらになった所でようやく地方都市カルラナへ到着する。


 町へ入ると建物には明かりが灯され、食堂や酒場などが賑わい夜の様相となっている。町道にも人が多く出歩きその合間を縫う様に仕事斡旋所へと辿り着く。


 入口の扉の前で鉄兜を外し片手で抱え、もう一方の手で腰に下げている布を取り顔周りの汗を拭う。拭った布を両手で絞ると大きな水滴が音を立てて地面へと落ちる。


「また遅くなっちまったな、サラちゃん怒ってるかな……」


 日が落ちる前に戻る様に言われた手前、仕事斡旋所に入り難い。モウガスが扉の前で巨躯な体を右往左往させならが思い悩む。


 ふと立ち止まり考えた後、サラに怒られる事を覚悟すると目を瞑って扉を開け中へと入って行く。


 仕事斡旋所の中に入るとサラの怒った声が聞えて来ると思ったが、何も反応が無い。恐る恐る目を開けて受付窓口を見ると受付嬢のシグネが一人だけで座っている。モウガスの姿に気付いたシグネが手を振ってくる。


「モウガスさんお帰りなさい、お仕事お疲れ様でした!薬草はこちらでお預かりしますね」


「ん?ああ、よろしく頼むよシグネちゃん」


「名前覚えてくれたんですね、ちょっと嬉しいかも」


 名前を憶えて貰えて嬉しいのか笑顔でシグネが薬草を受け取ると枚数を数え始める。しかしサラが居ないのが不安なのか気まずそうな顔でモウガスは窓口の奥や横の席を見回し落ち着かないでいた。


 そのモウガスの心を読むかのようにシグネがサラの居場所を答える。


「サラさんなら奥の部屋で今日の帳簿を付けてますよ、ちなみに遅くなった事は怒ってませんよフフッ」


「たはは、心を読まれちまった!」


 心を読まれたモウガスが恥ずかしそうに頭を掻くと、安心したのか近くの椅子に座って足を休める。しばらくするとシグネが薬草の精算を終えて声を掛ける。


「モウガスさん、お待たせしました、【薬草採取】の報酬の銀貨5枚です」


「おっと、こりゃありがてえ!これで今日も美味い飯と酒にありつけるってもんだ」


 報酬を窓口でモウガスが受け取ると仕事斡旋所に併設されている酒場へと向かう。


 仕事斡旋所には依頼受付窓口以外に酒場兼食堂が併設されている。すでに酒場には仕事を終えた冒険者達で賑わっていた。収入が安定しない冒険者達が食いはぐれない様に値段も手ごろな価格に設定されている。


 腹の減り具合は我慢できるが、喉の渇きはどうにもならないモウガスがシュワッとしたお酒で喉を潤そうと、うきうきとした笑顔で酒場の空いている椅子へと座ると、後ろからシグネが声を掛ける。


「モウガスさん!言い忘れてましたけど、この後サラさんがお話があるそうなのでまだ帰らないで下さいね!」


「ぐっ……」


 シグネからサラの伝言を聞いたモウガスは振り返らずに、苦虫を潰した様な顔になる。やはりサラは怒っていたのだ、そう思っていたモウガスが必死に頭の中で言い訳を考えるが、喉が潤す欲求の方が勝った。


(飲んでから考えよう)


 そう自分の中で決めると行動は早い、気を取り直して酒場の若い女の給仕に酒と食事の注文を伝えると、給仕から注文を聞いた店主が調理を始める。調味料が焦げる匂いが椅子に座ったモウガスの所まで漂って来ると更に空腹感を刺激する。


 そんなモウガスを離れた席から見ていた他の冒険者達が、いつもの様に酒の肴にモウガスを話題に出し始める。


「あのおっさん、また薬草採取だってよ!俺だったら恥ずかしくてとっくに引退してるね」


「あの歳で初級の依頼ばっかり受けて情けねえなあ」


 酒の肴にモウガスの話題が出るのは良くある事だった。冒険者には血の気のある若者が多い、その分上昇志向も強く、初級の依頼を受け続け、ちびちびと酒を煽る中年のモウガスは情けなく映るのだ。


 自分はああはなりたくない、俺がその年だったら立派にやっていけている。そう思うのは誰しもが通る道で仕方の無い事だ。


 モウガス自身も若い頃は同じで、それを理解しているからこそ、決して感情的にはならず聞こえぬ振りでやり過ごす。


「お待たせしましたー、ラガーお先に失礼しますね」


 若い女の給仕が先にラガーの入った木製のコップをモウガスの下へ持ってくる。待ってましたと言わんばかりに掴み手を握って一口飲もうとした時、離れた席から一人の青年が近寄ってくる。


「よおー!おっさん!帰ってくるのがおせーよ!しっかし相変わらず汗くっせぇな!」


「おう、オルーガ、汗臭さってのはしっかり働いてる証拠だぞ!文句言うんじゃねえよ」


 青年の冒険者の名はオルーガ、職業は【ソードファイター】で金色の髪に尖った様な髪型、端正な顔立ちだが頬には切り傷が残る。体格はモウガス程では無いが一般人よりしっかりしている。


 すでに仕事を終えて普段着の白いワイシャツに黒のスラックスとラフな格好だが、腰には鋼の剣を携えている。【ソードファイター】としての腕前は地方都市カルラナでも上位に入る優秀な冒険者だ。


 そのオルーガがエールの入った木製のコップを片手に握りモウガスの隣の席に勝手に座り込む。


「つうかさ、薬草採取にくっそ重い重装鎧なんか着込むのはおっさんだけだぜ?薬草の群生地なんかここ半年は魔獣も出てないのによ」


「俺は【ソードアーマー】だからな、職業柄、常に重装鎧を着込まないと落ち着かないんだよ」


「ふーん、そんなもんかねぇ……」


「そんなもんだ」


 生意気な口をききながらエールを一杯口にするオルーガ、合わせてラガーを一杯口にするモウガス。しばらく無言の間が続く。


 オルーガが何か話したい事があるのか、話す機会が上手く見つけられずにいる。そして決心が付いた様に真剣な顔付きになったオルーガが口を開く。


「なあ、おっさん、今度俺らの仲間で傭兵団作ろうと思ってんだけど、団の人材の確保や新人の教育係をやらねーか?」


 周りに居た冒険者達が騒然とする。カルラナでも有名な冒険者のオルーガがただの中年男のモウガスを誘っているからだ。そんな中でもモウガスは落ち着き、ラガーを飲み続ける。


「……悪いな、誘ってくれるのは嬉しいが、今のこの生き方が性に合っていてな」


 目線を合わせないまま断りを入れると、そんなモウガスを見つめながらオルーガが溜め息を漏らす。


「はぁ……ったく、おっさん、本当に嘘付くのが下手クソだよな、しかも頑固ときたもんだ」


「へっ、言ってろ」


 苦笑いで誤魔化すモウガス。だが勧誘の誘いとしては文句は無い、【速さ】0の動けないモウガスにとって好条件である。後世の若者を指導して、自身の経験も伝えられればオルーガの傭兵団にもプラスに作用するだろう。


 だからこそ動けないモウガスは断りを入れる。


 モウガスはまだ諦めていなかった、自身の膝が必ず完治すると信じていた。その気持ちに嘘を付いてオルーガの誘いに乗っても必ず中途半端になる、真剣に誘う相手に半端な答えを出したくない。その気持ちがあったからこそ断りを入れたのだ。


 二人共、エール、ラガーを一口飲むと再び無言の間が続く。


 しばらくしてすっとオルーガが立ち上がるとモウガスを寂しそうな目で見つめる。


「気が向いたら声を掛けてくれよ、おっさん……なるべく早くな」


 そう伝えると机の上に2人分の酒代を置き、そのまま仕事斡旋所の出口に向かって歩き出す。その後ろからモウガスが視線をオルーガに向け大声を上げる。


「オルーガ!おめえは団を率いる素質は十分にある、良い傭兵団になるって元騎士団の俺が保証してやるよ」


 心のどこかで引っ掛かたのか、立ち去るオルーガに何か一つ声を掛けてやりたかった。その言葉を酒場の中に響き渡る声で伝える。


 声を聞いたオルーガは嬉しそうに背を向けたまま、モウガスの言葉に応えるかの様に親指を立てた手を上げ仕事斡旋所から出て行く。


 そのやり取りを見ていた、周りの冒険者達は一目置かれるオルーガの勧誘に驚き、モウガスを酒の肴にするのを止めた。冒険者とは自分より実力のある者には誠実である。冒険者は実力主義なのだ。


 そしてラガーを静かに煽っていると、背後から依頼書を握った受付嬢のサラが現れる。


「ぶっ!……サラちゃん、居るなら言ってくれよ、酒が勿体ねえ」


 突然のサラの登場に驚き、口に含んだラガーを噴き出すとサラに小言を言う。だが当のサラは真剣な表情を変えずに、モウガスの横の空いていた椅子に座る。


「……」


 視線をモウガスに向けず、正面に向けたままいつになくサラが真剣な表情をしているので緊張感が凄い。モウガスが遅くなった事を、どう言い訳しようか頭をフル回転させるが、酒が入っていて上手く回らない。酒を飲んでから考えるの弊害である。


 とりあえず小手先に頼りサラの気持ちにお伺いを立てる。


「サ、サラちゃん……あ、あの遅くなった事を怒ってらっしゃいます?」


 オルーガの対応と打って変わってモウガスが弱気になって敬語で話す。似合わない笑顔でサラにお伺いを立てる様子は傍から見れば、怒った彼女を気遣う彼氏と言った感じだ。しかしサラの反応が無い。


 この耐え難い緊張感にモウガスがさらにラガーを煽ってその場を誤魔化す。


 だがサラから出た言葉はモウガスの想像とは違い全くの逆の事であった。


「モウガスさん!膝!治るかもしれません!」


「へっ?」


 突然の言葉を呑み込めないモウガスが口に含んだラガーを口からこぼす。サラがモウガスに顔をぐっと近づけて真剣な眼差しを向ける。


 そもそも話した事も無い膝の事をなぜサラが知っているのか、モウガスはそこに驚いている。余計な心配をさせたくないと、本人は必死に隠していたつもりだったのだ。


 モウガスが顔中に汗を滲ませるとばつの悪そうな顔でサラに優しい言葉で問う。


「え、ええっと……なんで俺の膝が悪い事、知ってるのかな?」


 この質問を聞いたサラが急に椅子から立ち上がって大声で答える。


「そんなの冒険者じゃなくても分かりますよ!モウガスさんの歩き方だって普通じゃないんです!それで気付かない方がおかしいですからね!」


 サラが声を張り上げ答えると、再度、周りの冒険者達が騒然とする。どうやらほとんどの冒険者がモウガスの膝について知らなかった様だ。オルーガを含む一部のベテラン冒険者はモウガスの所作で当然見抜いていた。洞察力も冒険者にとっては必須の力だ。


 それを聞いてモウガスが酒の肴にしていた冒険者達が気まずそうな顔で椅子から立ち上がると、勘定を済ませてそそくさと酒場を去って行く。しばらくすると周りには数人の冒険者が居るだけとなった。


 落ち着いたサラが椅子に座ると、俯きながら申し訳なさそうな顔をする。


「本当は膝については話題にしたくなかったんです、でもこの機会を逃したらもう二度目は無いって思ったら居ても立っても居られなくて……」


「……」


 膝について隠し通そうとしていたモウガスにまで気を使うサラを見て、モウガスは自身が情けなく感じていた。サラが話題に出さなかったのはこうなる事を分かっていたからだ。


 だが、ここまで自分を考えてくれるサラを邪険には出来ない。


「サラ、済まなかったな、ここまで気遣ってくれてたなんて俺も思わなかったよ」


「それはいいんです、とりあえず……私の話を聞いて下さい!!」


 サラがぐいっと顔を近付けると、モウガスが勢いに押され上体を逸らす。


「わ、分かったから!す、少し離れてくれサラ!」


 余程有益な情報なのだろうか、普段のサラとは思えない押しの強さにモウガスが折れる形で話を聞く事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ