第26話 魔法学院仕置き1
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者
職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
上皇アインザーによって<インペリアルオブハート>の称号を得るが、それを象徴するハート型の盾と共にビキニアーマーがますます外せなくなる、ある意味呪われた装備と化していた
諸事情によりモウガスの姪という事になる
バンディカ帝国内のとある隠れ家。
帝国の首都、城塞都市アウロポリスから郊外にある深い森に囲まれた、古びた煉瓦と色褪せた屋根で出来た二階建ての大きい屋敷である。
周りは高い塀で囲われ門から続く玄関口、庭や通用路などに生えている雑草は綺麗に刈り取られ、しっかりと管理されていた。
玄関口の門では薔薇騎士団の女騎士達が交代で詰めており、屋敷の主の警護に当たっている。
またアプリニアからアウロポリスへと続く街道から外れている為、誰かが迷い込む事も無い分かり難い場所にあった。
その屋敷の玄関から入って一階にある応接室にコスモと真紅の赤髪の少女がいた。
「どうじゃ?帝国の象徴としての生活を楽しんでおるかコスモよ?」
「上皇様、あの……俺の尻に話し掛けるのは止めて頂けませんか……」
なぜか今、コスモは上皇アインザーの住む隠れ家に居た。真紅の髪が似合う可愛い少女の上皇アインザーだが、森の魔女の呪いで40年前から少女のままの姿で隠れ家で生活していた。
その少女がにやけた顔でコスモのお尻に話し掛けている。
「おっと、余とした事が……お主の象徴に話し掛けておった!わははは!」
(このクソガキが……ぶっ飛ばしたろうか……)
帝国の象徴として称号<インペリアルオブハート>を授かって以来、カルラナで忙しい日々を過ごしていたコスモだったのだが、ある日、仕事斡旋所に上皇アインザーより帝国の炎の紋章が蝋印された一通の手紙が届いた。
『コスモへ、お主の活躍は帝国まで届いておる、日々精進している様子で余は大変嬉しいぞ、そんな忙しい所をすまぬが、余の隠れ家まで来てはくれないだろうか?帝国までの街道の途中に案内の者を待たせておく、お主の足なら一週間程で着くだろう、会えるのを楽しみにしておるぞ』
手紙には用件が記載されておらず、ただ来てくれと言う内容だった。だが帝国上皇の勅令だ、臣下として向かわねばならない。
カルラナの役所にアウロポリスに出立する旨を告げると、コスモ目当ての観光客が減る事を恐れた役人達からは引き留められるが、上皇の勅令と知ると仕方無く許可をしてくれた。
周りに連絡を終えたコスモが長旅の準備を終えると、アインザーの隠れ家を目指して出発した。
ロンフォード領の中央都市アプリニアを抜け、野営をしつつ街道を走り続けると、城塞都市アウロポリスが遠目に見えてくる。手紙に書いてあった通り、アウロポリスへと続く街道近くに薔薇騎士団の隊長シャイラが待機していた。
シャイラにアインザーの隠れ家まで案内されて、ようやく到着したのだ。
そして現在に至る。
アインザーがコスモに悪ふざけをした後、応接室にある柔らかい長椅子に深々と腰を下ろす。
「長旅ご苦労じゃったな、コスモも座るが良いぞ」
「はっ!」
アインザーの許しが出ると、コスモも机を挟み反対側の柔らかい長椅子に腰を下ろす。落ち着いた所でアインザーが手紙に記載していなかった用件について話を始める。
「実はなお主を呼んだ理由なのじゃが、余がコスモ与えた称号<インペリアルオブハート>に不満を持つ者が居るのじゃ」
「不満ですか?」
「余の力不足が原因なのじゃが、現皇帝派の貴族共が騒ぎおってな困ったものじゃ」
帝国内の貴族には派閥が有り、もっとも多いのが皇帝ウェイリーを慕う現皇帝派、少数が上皇アインザーを慕う前皇帝派と別れていた。
アインザーは呪いによって表舞台からは消えたが、未だに以前と変わらない忠誠を誓う貴族達が残っていた。残っていた貴族達は昔から続く名のある家が多く、少数とは言え帝国内では一定の権力を保っていた。
コスモの称号発布に現皇帝派の貴族達は自分達の勢力を崩す為の、何かしらの工作では無いかと勘繰っていた。
そう思われたのも、40年振りに上皇アインザーが発布した称号を、前皇帝派が容認し大々的に賛同したからだ。当然、現皇帝のウェイリーも賛同していた。
だが現皇帝派の貴族達も表では賛同する振りをしつつ、裏では自分達の権力が奪われない様に工作を始めていた。
アーマー職の天敵、魔法学院の人間をコスモに挑ませ、一方的に敗北させる事によって称号の評判を落として、前皇帝派の勢いを削ごうと画策していた。
「称号を与えたコスモがただの【ソードアーマー】の小娘と、彼奴ら侮っていてな、その対抗馬として帝国内の魔法学院を焚き付けたと言う訳じゃ」
「それならウェイリー陛下が収めれば良い話しでは……」
「もう、ウェイリーからは話をしておる、じゃが止めぬのだ、そこが貴族の……いや人の心の難しいところよな」
自分の権益や地位を脅かす者が存在する事は貴族にとって死活問題なのだ。先代から築き上げた財産や地位を守る理由で、現皇帝派の勢力に所属している貴族も少なくはない、それ程に失う事を恐れいていた。
その少しの不安でもかき消したい、安全を担保したい、現皇帝派の貴族達はその衝動に駆られ動いていた。
「胸は残念じゃが、良い尻を持つ技能研究の第一人者ユユの話を聞いてもまともに信じておらんかったよ、現皇帝派の連中は……」
(あー……ユユが上皇様に辛辣なのはこのせいか……)
技能研究部門のユユがアインザーを毛嫌いする理由がはっきりと解る。恐らくお尻でも撫でられたのだろう。
コスモの能力値は冒険者登録時に伝達され、改めて測定した技能と適性はユユがウェイリー皇帝にしっかりと報告していた。ウェイリーの要請でユユが貴族達にも、それとなくコスモの力を分かりやすく伝えていた。
前皇帝派はそれを信じてくれたが、現皇帝派の貴族達には一笑に付されてしまった。余りにも人離れした現実味の無い強さを持っているのも要因であった。
「マジック職が集まる魔法学院をあてがうとは、現皇帝派の彼奴らなりに考えた行動なんじゃろう」
(確かに間違ってないな、領主騎士団に所属していた頃の模擬戦じゃあマジック職に一方的にやられてたしな……)
鉄壁の【守備】を誇るアーマー職だが、【魔防】が低い事が弱点である。その為、集団戦になると、まずマジック職が前衛のアーマー職を崩す事が定石とされていた。
だが今のコスモは万能薬によって【魔防】50以上を誇る英雄級の能力値だ。どんな優秀なマジック職が来ようと話にならないだろう。
「何より許せぬのが、下らない馬鹿共の工作に我が孫を巻き込んでおる事じゃ!」
「孫と言うと、ウェイリー陛下の御子息という事ですね」
「その通り、ウェイリーは軍才は有っても魔法の才が無かった、じゃが孫は若い頃の余と同等、いやそれ以上に魔法の才を秘めておる」
アインザーは皇帝であったと共に、優秀なマジック職【フレイムエンペラー】であった。過去の邪神竜の眷属との戦いでも活躍をしていた。
主に愛用していた魔法書は火山の溶岩弾を空から落とす絶大な威力を持つ【マグマメティオスの書】である。
「遠目には見えても我が孫は優秀じゃった……この姿と呪い故な、今まで会うた事は一度も無いがの」
「……」
アインザーが憂鬱な顔をする。自分の孫に会える距離に居るのだが、呪いの技能【魅了】よって会えないでいた。過去の自分の過ちとは言え悲しい事である。
「その能力を伸ばす為に今は魔法学院で学んでおるが、成績優秀故に今回の工作の旗頭にされてな、全く頭に来る!」
「皇帝陛下の御子息はこの事に納得されているんですか?」
「いや、それが解らぬ……旗頭役を受けてはいるが、聡明な子故それは無いと信じたい」
ウェイリー皇帝の子息は成績優秀で、魔法学院でも首席となる者と注目されていた。その能力を現皇帝派の貴族に旗頭として利用されていた。
だが本人はどのような思惑で、旗頭を了承したのかが解っていない。その事をコスモに確認をして欲しかった。
「そこで、コスモ、お主を呼んだ訳じゃ」
「そう言われましても、今回の件は貴族達の派閥争いが原因ですし、俺に何をしろと?」
「余が許す、魔法学院の反逆者共をとっちめい!」
「はい?」
「焚き付けられているのは、現皇帝派の貴族の子息、子女達じゃ、我が子から親に訴えかければ、不毛な工作行為も諦めるじゃろう」
「……それでは俺が、現皇帝派の貴族達に目の敵にされるのでは」
「安心せい、余が全ての責を負うでな、お主の称号の力と恐怖を存分に知らしめると良いぞ!ニッシッシッシ」
アインザーが首を叩きながら笑みを浮かべコスモに魔法学院の生徒の討伐……いや貴族の子息、子女をお仕置きするように申し付けてきた。
魔法学院から狙われているとは言え、コスモは乗り気にはなれなかった。もし臣民の敵となる者であれば喜んで申し出を受けていただろう。
だが今回は外敵では無く帝国内の貴族同士の権力闘争に近い。気持ちとしては勝手にやっていろ、なのだ。
それを心情を察したのかアインザーが目を細ませ、駄目押しをしてくる。
「……そのビキニアーマーの代金を支払ったのは誰かのう?」
「ぐうっ!」
「いやまことに痛い出費であったぞ!臣民から収められた貴重な税金で賄ったのじゃからな!いやー参った参った!」
わざとらしくアインザーがそう言うと、コスモの表情が曇って行く。年の功と言うべきか、人の弱点を突く事が非常に上手い。
臣民からの税金と言う言葉がコスモの頭の中を駆け回っていた。特にその税金でこの桃色のビキニアーマーの代金が支払われたという申し訳なさを感じていた。
流石のコスモも臣民からの税金を盾にされると観念せざるを得なかった。
「わ、分かりました……そのお話、お受け致します」
「うむ、さすが余の、帝国の盾となるコスモじゃ」
コスモが渋々承知をするとアインザーが年頃の少女の様に笑顔を見せる。
とっちめる話しを受けたはいいが、どの様に動けば良いか分からないコスモが頭を悩ませていた。それを見ていたアインザーが助言を与える。
「何も考えなくとも良い、お主が明日、そのまま魔法学院に向かえば良いのじゃ、【ソードアーマー】の存在を、その意味を若造共に叩き込めば良い」
「【ソードアーマー】の存在ですか……」
「奴らはな、アーマー職を見下しておる。マジック職にとって一番大事な役目を務める者に対してじゃ、何も知らぬ小童共が、本当に頭に来る」
魔法学院と言えば、【ファイヤー】、【サンダー】、【ウインド】の三元素を操るマジック職の養成機関で、通える者も才能あふれる高貴な者達だけであり、自分達以外の職業を軽んじていた。
もちろん、それに見合う力が備わっているからこそである。
魔法に滅法弱い動きの遅い的の様なアーマー職は、特に下に見られていた。今だかつてアーマー職が単独でマジック職に打ち勝った者が皆無だからである。
今回の件も相手が【ソードアーマー】だからこそ、魔法学院の生徒達も乗って来たのだ。
「まあ良い、今宵はもう遅いでな、部屋を用意するのでゆっくりとするが良い」
「はっ、心遣い感謝いたします」
話しも終わってアインザーが長椅子から立ち上がり、応接室から出て行こうとするが扉の前に背を向けたまま歩みを止める。その姿は何か儚げな様子だった。
「あと、余と2人だけの時はその言葉使いは止めよ、1人の友人として接して欲しいのじゃ……」
「承知……いや、わかったよ」
その言葉を聞いてアインザーが少女らしからぬ、いやらしい顔で振り返る。
「よし!では打ち解けた記念に、一緒に風呂に入ろうかのう……えへへへ」
「……この拳で抵抗しますよ」
コスモの拳が握りしめられ、前腕、上腕の筋肉が盛り上がって青筋が浮き上がり、目には殺気が籠る。その様子を少女とは思えないいやらしい顔で見ていたアインザーが顔をそのままに、静かに応接室からすーっと出て行く。
その後、応接室の外で待機して居た薔薇騎士団の隊長シャイラに部屋まで案内され行く。中でのやり取りを聞いていたのか、シャイラが嬉しそうな表情を浮かべていた。
シャイラ自身も魔法学院の生徒の態度に思う所があったからだ。
~
同時刻。プレイトル家の館。
帝国国内、前皇帝派筆頭のローレス将軍が現皇帝派筆頭のプレイトル大臣の館を訪れていた。
応接室に案内されたローレスが椅子に座り込み、腕を組み怒りに満ちた表情を浮かべ、机を挟み反対側に座るプレイトルを睨み付ける。プレイトルはその迫力に動じず平静を保っていた。
ローレスが開口一番に不満を吐き出す。
「以前から何度も申している通り、こちらには何も謀などは無い!魔法学院の生徒に対する扇動は止めて頂きたい!」
「その件についてはローレス卿、私も非常に困っているのですよ、まさか勝手に魔法学院の生徒達が動くとは予想外なのです」
ローレス将軍、白髪頭で髪を後ろに流し、口髭、顎鬚も綺麗に整えられている。体には真紅の鎧具足を装着し、炎の紋章が刺繍された白い外套に、高齢だが体は大きく、帝国軍を束ねる司令官を担っていた。
プレイトル大臣、長い白髪を首後ろに纏め、口髭、左目には片眼鏡を付け、深緑を基調とした貴族の礼服に、同じく高齢で細見の長身体型、主に帝国の外務、内務を取りまとめる大臣を務めていた。
「貴公が、裏で糸を引いているのは明らかなのだ!魔法学院は将来この帝国を担う若者達の学び舎なのだ、なぜそれが解らぬ!」
「野蛮な軍事を司る、ローレス卿らしい決め付けですな……何か証拠がおありでしたら、この場で見せて頂けると私の手間が省けるのですが」
ローレスの申し立てに対して、証拠を求めるプレイトルがのらりくらりと答えをかわして行く。政治の関係でもこの2人は対立関係であった。
邪神竜討伐後の各地の争乱の対策として、軍の予算増額を求めるローレスに対して、世には平和が訪れ、軍力の底上げは必要とせず、軍の予算を削ろうとするプレイトル。
何かと揉めてはいたが、絶妙な調整で今まで帝国内の政治は滞りなく行われていた。だが上皇アインザーの称号発布により、前皇帝派のローレス達が勢い付くのを嫌ったプレイトルが工作を始めたのだ。
プレイトルの様子を見て諦めたのか、ローレスが溜め息を付いて怒りを抑えると、冷静な口調に戻り諭す様に話し出す。
「ふう……この件について上皇アインザー様が動いておられるのだ。実際に称号を持つ者の能力を鑑定したユユの報告が本当であれば痛い目を見るのはそちら、魔法学院の生徒になるのだぞ」
「あんなお伽話みたいな内容をローレス卿は、信じるのですか?」
「もちろんだ、ユユは我が軍でも優秀な研究者だ、それに最も嘘と無駄を嫌う女だ、信用に値する」
「はははは、だとしても心配はご無用。魔法学院には私の娘ルイシュが居る、我が家の家宝、【サンダーブレイクの書】を持ってです」
【サンダーブレイクの書】、天から巨大な稲妻を何発も叩き落す、決戦用の殲滅魔法に数えられる。プレイトルの家は代々その雷魔法で戦局を覆してきた帝国の名家の一つであった。
その力もあってプレイトルには余裕があり、コスモに対しても勝算があった。いくら強いアーマー職とは言え、決戦用の殲滅魔法を耐える者は居ないからだ。
その心を読んだ様な忠告をローレスが告げる。
「だが、忘れるなプレイトル卿、魔法は万能では無い。魔法が効かねばただの人、それがマジック職なのだ」
「知っていますとも、邪神竜の眷属には魔法が効かぬ者も居たのでね……」
「……ならばもう何も言うまい。だが帝国に、陛下に誓って私は称号の力を利用せぬ、それだけは分かって頂きたい」
「ふっ……分かりました、助言に感謝いたします」
プレイトルがローレスに対して、頭を下げ感謝を示す。
全てを言い終えたローレスが椅子から立ち上がると応接間から出て行く。プレイトルがそれを見送ると窓の外を眺め、ユユから伝えられた報告を思い出す。
『<インペリアルオブハート>の称号の持ち主は邪神竜級の力を持つ者です、努々敵対行動はしませぬように……もし敵対した時は我が帝国の終焉と覚悟して下さい』
「まさかな……人の力がそこまで及ぶことはあるまい」
プレイトルはユユの言葉を信じていなかった。
だが長年の親友ローレスの先ほどの言葉は信じていた。それでもローレスの取巻きの貴族達はそうはならないと見越し、全てを鵜呑みにする訳にはいかなかった。
プレイトルは邪神竜の眷属討伐にも参謀として参加しており、その慎重な性格で下調べを必ず行い堅実な作戦を組み立てる事を得意としていた。
そんな性格もあって少しの不安の種でも取り除こうと、プレイトルも現皇帝派の貴族達を束ねる者として、考えての行動だった。
ローレスの乗る馬車が走り去るのを窓から見ながら些末な不安を感じる。だが直ぐに一時の不安だと払拭すると応接室から出て自室へと戻って行った。




