第22話 カルラナ凱旋
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の冒険者、職業は【ソードアーマー】
右膝の傷を治す為に飲んだ万能薬の効果により
モウガス(男)からコスモ(女)となる
諸事情によりモウガスの姪という事になる
翌朝、日が昇った早朝からカルラナへと帰還する為にロンフォード城の敷地にある屋敷でコスモが帰り支度をする。論功行賞で貰った感謝状と、報奨金の金額の書かれた手形を大事に背負い鞄にしまい込む。
昨晩の戦勝の宴は大変であった。
一度は辞退を申し出たのだが、領主ジルトたっての要望もありコスモも戦勝の宴に出席したのだ。妙にやる気に満ちた女中達に化粧を施され、慣れないドレスを着せられる。
踵の高い靴で千鳥足になりながらロンフォード家の重臣、貴族などに挨拶回りを行ったのだ。すると挨拶をする度に、何かと理由を付けて重臣や貴族が自分の子息を紹介してきたので、丁重に断りを入れる。
コスモ自身は気付いていないが、宴の中に居た女性陣の中でも抜き出たスタイルの良さと美しさで注目の的であった。戦場で着ていたビキニアーマーの姿との差に領主のジルトも驚いていた位であった。
豪華な料理が並んでいる中、食事をする時間もとれず束縛の多い宴だったが、その中でアーマー部隊の隊長カークと出会い、モウガスへの伝言を頼まれていた。
「よっ!今回の立役者コスモ嬢、宴は楽しんでるか?」
「カーク隊長、見ての通り楽しむ余裕なんてありませんよ」
「はっはっはっは!そりゃ仕方ない、コスモ嬢がそんだけ美しく化ければ、男としてほっとく訳にはいかんからな」
「そ、そんなにいいですかね、俺のこの姿……」
「あのモウガスの姪とは思えない位に美人さんだよ、それはそうとモウガスに伝えて欲しい事があるんだ」
「……はい、俺で良ければ」
「俺達アーマー部隊はいつでもお前の帰りを待っている、元気になったら顔を見せてくれ!そんだけだ、しっかりと伝えてくれよ」
「は、はい、きっと伝えます。叔父も喜ぶと思います」
この言葉を聞いた時のコスモは、戦いの疲れが吹き飛ぶ程に嬉しかった。領主騎士団を退団してから1年以上は経っているが、カークは副団長のモウガスを忘れていなかったのだ。
伝言を頼み終えると、カークがコスモに簡単な会釈をしてその場を立ち去って行く。
そんな戦勝の宴を思い出しながら、領主のジルトに別れの挨拶をしようとロンフォード城へと足を運んでいた。
すると城の正門で老騎士の執事が待ち受けていた。身支度をしていたコスモを執務室まで案内する為に待っていた様だ。老騎士に案内されてロンフォード城内へと一緒に入って行く。
そして領主のジルトの居る執務室の扉を軽く叩き、中へ入って行く。
「おはようコスモ嬢、昨晩は良く眠れたかな?」
「御用意して頂いた立派なお部屋のお陰で、十分に休ませて頂きました」
簡単な挨拶をすると、コスモがこれからカルラナへと帰還する旨を伝える。するとジルトが残念そうな顔をする。アプリニアを救った英雄に恩を返そうと思っていた矢先なのだ。
せめて何か出来ないものかと考えたジルトが、馬車を用意する事を提案する。
「ならば馬車を用意しよう、せめて帰りはゆっくりとすれば良い」
「ジルト様、申し出はありがたいのですが、鍛錬も兼ねてこの足で戻りたいと思います」
カルラナへ馬車を出す事を提案されるが、コスモが太腿を叩きながらそれを断る。その様子を見たジルトが微笑して受け入れる。
「コスモ嬢は手柄を上げても本当に変わらぬな。そこにセリオスが惚れたと言うのも分かる気がする」
「ただ自分の役目を果たしただけですから、変わりませんよ」
「そうか、ではカルラナに着いたら、我が子のセリオスにもよろしくと伝えてくれ」
「は!確かにお伝えいたします」
ジルトに別れの挨拶を済ませるとロンフォード城を出て、城下町アプリニアの修理中の南門へ歩いて向かう。
歩きながら町の様子を見るが、すでに町の中は普段通りの生活が戻っていて、まるで盗賊の襲撃が無かった様に穏やかだ。
町内の大通りを歩いているとコスモの姿に気付いた町の子供達が駆け寄って来る。
「うわー本物のコスモ様だー!」
「ピンクかっけー!盾もハート型だ!」
親からコスモの活躍を聞いた無邪気な子供達が並行して、コスモに興味を持って見つめていた。さらに歩き続けると通りに居た町民からも声を掛けられる。
「コスモ様ー、この町を守ってくれてありがとう!」
「また来てくれよなー!」
コスモが手を振って笑顔でその声に応える。領主騎士団に在籍していた時も盗賊から救った村人からこの様な歓待を受けた事があるので、その対応にも慣れたものだ。
それに元領主騎士団としてアーマー職として、やるべき事を果たしただけなのだ。そう頭は理解しながらも、町民達から掛けられる感謝の言葉はやはり嬉しいもので、内心では喜んでいた。
町民からの感謝の言葉を受けながら子供達に別れを告げ、南門の外まで出ると屈伸運動を行い頬を軽く両手で叩くと、カルラナに向かって一気に走り出して行く。
~
日中のカルラナへと続く街道はほとんど人がおらず、商人の馬車がたまに走っている位だ。その商人の馬車を追い抜くと、御者が過ぎ去るコスモを驚いた顔のまま見つめていた。
まだ盗賊達の襲撃があった直後なのか、旅人の姿はほとんど無い。お陰で周りを気にせずに全力で走る事が出来る。
整備されている街道をひたすらに走っていると、街道沿いに建てられた木板が見えて来る。何かの御触書が記されているのだろうと、速度を落としゆっくりと立ち止まる。
「来た時はこんなの無かったけど……何だ?」
コスモが御触書の内容を読み始める。
『帝国皇帝ウェイリーより臣民に伝える、地方都市カルラナの冒険者コスモに<インペリアルオブハート>の称号を授ける、この者、帝国の盾となり臣民を守護する女神である、我こそはと言う者はコスモに続け、帝国は皆の力を必要としている』
内容はコスモに帝国より称号を与える、それに併せて優秀な人材を募集する事が書かれていた。早速、アインザーの思惑通り、象徴として活用されているコスモ。
「上皇様が言った通りになってるみたいだが……本当に上手く行くのかこれ?」
コスモは象徴について懐疑的だったが、本人が思うよりこの効果絶大であった。同じ御触書が大陸中に設置されていて、コスモの名が急激に広まっていったのだ。
特に気にすること無く、カルラナへと再出発するコスモ。順調に行けば、日が落ちる頃には到着する予定である。
~
地方都市カルラナが見えて来る。
日が落ち始め、街道も人が多くなって来たので走る速度を落とし、カルラナへ向かうのだが、周りの視線がこちらに集中しているのに気付く。
このビキニアーマーの姿だからと言うのもあるが、街道の途中にあった御触書が、地方都市カルラナの近くにも設置されていた。これを見た人がコスモに注目をしているのだろう。
カルラナへ着くと玄関門の上に、大きな看板が掲げられていた。
『お帰りなさいカルラナの誇り、帝国の心、コスモ』
「え?……なんだコレ」
看板に唖然としながら玄関門を抜けて町中へと入る。
仕事斡旋所へ向かって歩いていると、小さい子供が桃色の簡易的な手作りの鎧を着て歩いている。それも1人、2人では無い、大人も少数だが桃色を基調とした服を着ているのだ。
どれも特徴的なハート型の装飾が施されていた。
一瞬ミリットの顔が頭を過ぎるがそれを振り払い、仕事斡旋所の扉を開けると一斉に声が掛かる。
「「「お帰りなさい!英雄コスモ!!」」」
コスモの帰りを待っていた冒険者達が歓迎の声を上げる。
「た、ただいま……み、皆も一体どうしたってんだ?」
「何を言ってるのコスモ、もうコスモの話題で町中が盛り上がってるよ!」
セリオスが現状を理解出来ていないコスモに説明を始める。
ロンフォード領の騒乱終結後すぐに早馬が戻り、勝利の報告があった事、早朝、帝国からの御触書が設置され、コスモに授与された称号が広まった事。
セリオスの話を聞いたコスモが、あまりの伝達の早さに驚く。
「そ、そんなに早く広まっていたのか……」
「帝国は事を起こしたら早いよ、ウェイリー皇帝は優秀な方だからね」
現皇帝ウェイリーには優れた皇帝<ファンタスティックカイザー>と言う別名があり、二手三手と先を行く手腕が評価されている。さらに本人自身が優れた軍略家であり、軍の参謀に引けを取らない能力があった。
「とりあえず状況は分かった、領主のジルト様から皆の分の報奨金も預かって来た、後で各自受け取るようにな!」
コスモの話を聞くと更に盛り上がる冒険者達。早めに仕事斡旋所に併設された酒場で待ってくれていたのか、すでに酔いが回っている者も多く上機嫌だ。
報奨金の手形を金貨に変えようと、受付窓口へ行くとサラが笑顔で迎えてくれる。
「お疲れ様でした、コスモさん」
「ああ、やっと帰って来れたよ、サラの顔を見ると安心するぜ」
サラに緊急依頼を無事に終えた事を報告すると、ジルトから授与された感謝状と金額の書かれた手形を渡し処理をして貰う。その処理をしながらある人物からコスモに伝言を預かっていた、その旨を伝える。
「そうだ、コスモさん、鍛冶屋【覇者の剣】のミリットさんが用があるから戻ってきたら訪ねる様に言ってましたよ」
「ミリットから?……何か嫌な予感しかないけど、念の為に明日行ってみるか」
ミリットからの呼び出しに一抹の不安を感じる。だが無視すると後が怖そうなので、向かう事を決めるが、一体何の用なのか気になっていた。
「早くコスモー!こっち来てアプリニアの話聞かせてよー!」
シノが大きな声でコスモを呼びつける。中央都市アプリニアでの戦いの話を楽しみにしていた様子だ。それを囲う様に他の冒険者達も集まっている。
「コスモさん、後はこちらはやっておきますから、行ってください」
「サラ、すまないな」
「何言ってるんですか、皆がこうして普通に過ごせるのもコスモさんのお陰なんですよ」
「まったく、サラは褒めるのが上手すぎるぜ」
サラに手形の処理をお願いすると、シノの下へ向かい隣の椅子に座ると、ラガーを飲みながら、アプリニアでの戦いを細かに話し始める。一喜一憂しながら聞き込む冒険者達、その様子は実に楽しそうであった。
~
翌朝、セリオスと共に鍛冶屋【覇者の剣】へと訪れるのだが、店の外に人だかりが出来ていた。武器、防具の店なのだが、冒険者以外にも若い女性や子供も居る。
以前は特定の客しか居なかったのだが、今や年齢を問わず女の方が多い位だ。その様子に違和感を感じながらも店に向かって歩くと、並んでいた客がコスモのビキニアーマーを見て反応する。
「本物のコスモ様だ!」
「うわー凄い格好!本当にこのお店だったんだ!」
褒めているのか、けなしているのか分からないが、とにかく注目されている事は間違いが無い。そして店の入口扉の近くには新たに設置された看板があった。
『元祖、<インペリアルオブハート>コスモの装備の正規販売店!!』
「な、なんだこりゃ……」
「へーコスモのその鎧はここで作られたんだね」
店主のドノバンが考える様な文言ではない、恐らくミリットが考案した謳い文句だろう。技術もさることながら商才もある様だ。広まったコスモの名声に便乗して、例のライオネルシリーズを売る気なのだ。
コスモが恐る恐る店の中に入って行くと、店内に桃色の服、武器や鎧、盾、小手や脛当てが以前に比べて多く並んでいる。どれも戦神ライオネルシリーズと大きい洋紙で書いてある。
男向けから女向け、子供向けのあらゆる大きさを取り揃えていた。しかも店内の客はそれを手に取り購入をしている。まさに異様な光景だ。
だがもう一つおかしい点にセリオスが気付く。
「なんか、コスモが着ている鎧より防御力は無さそうだね」
「あ、ああ……なぜか分からんけど防具の面積が小さくなってるな……」
コスモが装備している同じ型のビキニアーマーも展示されているが、コスモの装備している物より、かなり胸と腰回りの防具面積が小さくなっている。セリオスがコスモの鎧と見比べ、それに気付いたのだ。
混雑した店内を進むと勘定台には新顔だろうか、見慣れない店員が立っていて客の対応を行っていた。コスモが店内の変わり様をまじまじと見ていると、聞き慣れた声が聞えて来る。
「やーやーコスモ!良く来たね!」
「ミリットか、何か俺に用があるって聞いたから来たぞ」
「こ、この子がコスモの鎧を作った子なのか?僕と同い年くらいじゃないか……」
「なーに、コスモ、自慢の彼氏でも連れて来たの?」
「そ、そんなのじゃありません!」
勘定台の奥、鍛冶場からミリットが声を掛けてくる。見慣れないセリオスをコスモの彼氏と勘違いすると、ニヤけた顔でおどけて来る。辺りを見回し、人が溢れる店内を掻き分けるようにこちらに向かって来ると、コスモに耳打ちをする。
「とりあえず、外から裏庭に行こうか積もる話もしたいしさ」
「ああ、分かった」
ミリットに言われるがまま、外に一旦出てから店の裏庭へと回る。辺りに人が居ない事を確認すると、コスモを呼んだ理由を話し始める。
「実はね、コスモに売ったそのビキニアーマーなんだけど、帝国から支払いがあったんだ」
「え?本当か!」
「良かったじゃないかコスモ、で一体いくらなの?」
「え、えっと……金貨10,000枚……」
「領地の1年分の税収に匹敵する額じゃないか、確かにコスモにはその鎧を装備する資格はあるけど……」
「お、俺のこのビキニアーマーは1年分の税収並だったのかよ……」
自分の装備しているピンクのビキニアーマーの価値が、1年分の税収と知ると複雑な心境になる。だが金貨10,000枚を支払ったという帝国、さすが大陸最大の国である。先の戦いの上乗せ報酬なのかとコスモが思い喜ぶが、支払われた理由があった。
「その代わり上皇様の勅令でね、コスモの防具の調整というか……もっと胸とお尻を強調する様に面積を減らす様にお達しがあってね」
「あ、あの色ボケ上皇が……」
「それ以上、面積を減らしたらただの裸になっちゃうね。上皇様も人が悪い」
アインザーの卑猥な笑顔を思い出し、怒りが滲むコスモ。上皇なのについ言葉が荒くなってしまう。しかも勅令という尊大な言葉を使ってはいるが、やっている事はただの性的嫌がらせである。
「だけど、私はもう今ので十分に可愛いと思ってるから無視しちゃうけどね」
「ミリット……お前って本当はいい奴だったんだな!」
「コスモ、その言い方だとミリット嬢が本当は悪いみたいに聞こえるぞ」
上皇の勅命を完全無視する町娘ミリット、本当に我が道を行くぶれない行動にコスモが涙を流し褒める。そしてセリオスが褒め方がおかしい事を突っ込む。
「それに、コスモのお陰でライオネルシリーズが大好評!子供から大人まで買ってくんだよ!本当に嬉しくてさ!昨日も寝ないで増産した所なんだ!」
コスモが桃色のビキニアーマーを着用して以来、店頭に同じ物を置いていたが、当然、誰も手に取る事は無かった。ちなみに値段はコスモのとは違う素材で出来ているのでお手頃価格だ。
そんな人気の無い物でもコスモの御触書が出て以降、急激に需要が高まったのだ。そこからと言うもの、客からの要望に応えてミリットがビキニアーマーの増産に入ったという訳だ。
「特に妙齢の女性がね、コスモと同じピンクのビキニアーマーを買っていくんだよ!」
「これと同じ物を?」
店頭に置いてあった桃色のビキニアーマーは、コスモの物と比べ防具として意味の無い露出が多かった。その分値段も抑えられ、一般人にも買える価格設定になっていた。
しかし外には、そのビキニアーマーを着た女は誰一人として居なかった。それなのに良く売れているという話を聞いたコスモが疑問を持っていると、店の裏口の扉が開いてドノバンが顔を出す。
「おい、ミリット!客からビキニアーマーの調整依頼が来てるぞ!」
「はーい!……という訳でお礼が言いたかったの、何かあったらまた来てね!彼氏さんも良ければ何か買って行ってね」
「ああ、そうさせて貰うよミリット嬢」
そう言うと裏口の扉から店内へと戻るミリット、すると入れ替わりで呼びに来たドノバンが難しい顔をしながらコスモに寄って来る。何か申し訳なさそうな雰囲気だ。
「あー……コスモ、本当にすまねえ」
「どうしたんだ、ドノバン?」
「実はな、ピンクのビキニアーマーが売れてる理由なんだが……」
ドノバンがビキニアーマーが売れている理由を話してくれる。
コスモに与えられた称号の影響もあるが、カルラナの町の女達の間で意中の想い人に向けて、夫婦生活の倦怠期の夫に向けて、ビキニアーマーを着て勝負する事がカルラナで流行り始めていた。
男達はコスモを町中で必ず一度は見かけている。その印象は技能【魅力】によって瞼の裏に焼き付いていた。いわゆる夜専用の防具と化していたのだ。そしてコスモの着る同じビキニアーマーの効果は、想像以上に抜群だった。
「なるほど、通りで店には女性が多かった訳か、平民の女性は努力をしているんだね」
「俺ってやっぱそういう目で見られてたんだ……」
「あーなんだ!そのビキニアーマーが悪いんじゃねーぞ、元々、コスモ自身が魅力的だからいけないんだよ」
「……ドノバン、その顔でその台詞、全然似合ってないぞ」
「る、るっせえい!」
落ち込むコスモにドノバンが気を利かせるが、コスモが余りにも台詞と顔が似合っていないので、指摘して無下にする。
するとセリオスがその様子を見てコスモを元気付けようと屈託のない笑顔で声を掛ける。
「僕もコスモにその姿で迫られたら、興奮する、だから落ち込まないで」
「セリオス!それ気遣いじゃなくて追討ちだからな!!」
セリオスの純粋な笑顔で追討ちをかけられるコスモ。理由はともあれ、カルラナの町ではビキニアーマーが流行、数年後には一気に人口が増加し、豊かになって行くがそれはまだ先の話。
帝国の象徴、そして違う意味での象徴として早速、大活躍したコスモであった。




