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第17話 ロンフォード領の騒乱1

・コスモ(女)=モウガス(男)


元騎士団の39歳のおっさん冒険者

職業は【ソードアーマー】

 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 本人は嫌々ながらも着る服が無いので、ピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾、魔剣ナインロータスを仕方なく装備する事になる


諸事情によりモウガスの姪という事になる




 トーマスとミシェラを襲った3頭の灰色熊(グレイベア)討伐から一週間が経とうとしていた。


 討伐を終えて地方都市カルラナに着いてからは大変だった。カルラナに着くと、城壁の外では武装した地方騎士団や冒険者達が集まり、灰色熊の討伐準備をしていた。そんな中にコスモが討伐した灰色熊の骸を持って行ったのだ。


 巨大赤猪(ビグレッドボア)に続いて、滅多にお目に掛かれない灰色熊に町中が大騒ぎして、一目見ようと町の人々がコスモとセリオスを囲んだ。


 その灰色熊を解体屋【精肉の妖精】に持ち込むと、主人のセキハは大喜びしていたが仕事斡旋所の受付嬢のサラは大激怒。


 仕事斡旋所に着くとコスモとセリオスが正座で説教をされるが、依頼主の商人が気を利かせて、依頼達成として報告をしてくれていた事と、新米冒険者のトーマスとミシェラの2人が説得してくれた甲斐もあってサラの怒りが一旦収まった。


 灰色熊の売却で得た報酬は全て、冒険者達と地方騎士団の面々に酒を奢る事で使い切ってしまった。終わり良ければ総て良しという結果だ。


 翌日、セリオスも心のつかえが取れたのか、憑き物が落ちた様な顔でロンフォード城へと帰って行くと、コスモも、いつもの様に依頼を受ける日常へと戻って行った。


……はずなのだが。


「さあコスモ、明日の依頼は一緒に何を受けたい?」


「ええっと……セリオス様、なぜここに居るんですか……」


 依頼を終えたコスモが夜の酒場でくつろいでいると、なぜかロンフォード城へと帰った筈のセリオスがコスモの隣に座っていた。しかも明日の依頼は一緒に受けたい様子だ。


 コスモが困った顔をしていると、セリオスが覗き込むようにこちらを見る。


「なんだコスモ、将来の夫が側に居て何か問題があるのか?あと、夫の僕には『様』はいらないよ、セリオスって呼んで欲しい」


「こ、この事は、父上であるジルト様はご存知なのですか!」


「ああもちろんだよ、父上も僕とコスモの関係には大賛成してくれている。それに好きなだけ滞在して良いと許可も貰っている」


 セリオスが中央都市にあるロンフォード城に帰った後、領主のジルト公爵にコスモの話をした所、大変気に入った様子で、ならば次期当主して地方都市カルラナで見聞を広めて来いと言う建前で送り出されていた。


 そして現在に至るという訳だ。


「ぐううう……ジルト様めえ……何て事をしてくれるんだ」


「しかしラガーと言うのは苦みがあって美味しいな」


 コスモが気を揉んでる横で、セリオスがいつの間にか頼んでいたラガーをゆっくりと楽しんでいた。その2人の様子をシノがエールを飲みながら白けた顔で見つめていた。


「ねえ、コスモさ」


「なんだよ、シノ」


「惚気るなら宿でやってくれる?」


「惚気てねえーーーーーーし!!」


 まだシノにはセリオスから求婚された事は話してはいないが、今のセリオスの付きっきりの状態に、少しづつだが周りが噂を始めている。そんな中、セリオスの態度が気に入らない男が1人居た。


 傭兵団の団長オルーガである。


「なんだー?ここは子供が来る所じゃねえぜ?早くお家へ帰りな坊ちゃん!」


「僕の事を言っているのか、貴様!」


 オルーガがセリオスに挑発的な態度を取る。貴族の子息の癖に馴れ馴れしくコスモにくっついているので、それが気に入らない様子だ。ぶっちゃけた話、ただの男の嫉妬である。


 そんなセリオスにオルーガがコスモとの親密度の高さで優位性を強調する。


「コスモちゃんと俺はな、付き(突き)合った(飛ばされた)仲なんだよ!」


「な、なんだと?コスモ、こいつの言っている事は本当なのか!」


「ええと……どちらかと言うと物理的に?」


 間違った事は言っていないが、ダメージを与える的な意味での話だ。それを勘違いをしたセリオスがオルーガに食って掛かると椅子から立ち上がる。


 邪神竜を討伐した末裔だからか、見た目以上にセリオスも勇敢な性格であった。


「……だとしたら、見過ごせないな……外に出ろ!」


「上等だよ、どっちがコスモちゃんに相応しい男か、はっきりと白黒付けてやるよ!」


「あんた達、やるんだったら得物はここに置いて行きな」


 シノが2人に武器を置く様に指差す仕草をすると、セリオスとオルーガが剣を机に置いて外へ出て行く。すると面白がる冒険者達の野次馬が、入口に殺到して騒ぎ出す。


 その様子を見たコスモが頭を抱えながら、大きな溜め息を吐く。


「はあー、先が思いやられるぜ……」


「モテる女はつらいねー、はははは!」


 シノが茶化すがロンフォード領主の次代の当主セリオスにもし何かあれば、ロンフォード領の後継者問題となるのだ。最悪ロンフォード公爵家の取り潰しも考えられる。


 元領主騎士団で領主ジルトに忠誠を誓っていたコスモとしては複雑な心境であった。


 すると外を見ていた野次馬から歓声が上がる、どうやら勝負が着いた様だ。 


 しばらくして外から、顔がアザだらけのセリオスとオルーガが戻ってくる。だが先程まで敵対していた2人が仲良く肩を組んで笑っていた。


「貴族だからって舐めてたけど、セリオスは本当に強えなあ!」


「僕もオルーガの事を勘違いしていた、こんな気の良い男は初めてだ」


 どうやら拳で語り合って意気投合した様だ。野次馬達もオルーガと互角に渡り合うセリオスの実力に一目を置くと、貴族の子息としてでは無く冒険者の1人として認める事にした。


 コスモが呆れるが少し嬉しそうに笑うと、2人の顔に【きずぐすり】を塗り込む。巣の中から顔を出す小鳥の子供の様に、2人が腫らした顔をコスモに向けると嬉しそうな顔をする。


 その後はコスモとセリオスの間で、明日から一緒に依頼を受ける事を約束すると解散となった。





 翌日、日が昇ると定宿の入り口で待ち合わせしていたセリオスと、一緒に仕事斡旋所へと向かう。


 だが仕事斡旋所の前に着くと何か騒がしい事に気付く。入口の外には到着したばかりの、息の上がった馬が止められていた。


 その馬の横を通ってコスモとセリオスが仕事斡旋所の扉を開け中に入ると、受付嬢のサラとシグネ、それと他の受付嬢が慌ただしく動き回っていた。その受付窓口近くの椅子には、村人の男が深刻そうな顔で座っていた。


「おい、サラ一体何があったんだ!」


 コスモが様子がおかしい事に気付き、走り回っているサラに声を掛けると、焦った表情でこちらを見る。


「ああ、コスモさん大変です!開拓村が盗賊の襲撃を受けたんです!」


「何?盗賊の襲撃だって?」


 時間の無い中で、サラが簡潔に襲撃について説明する。


 昨晩、カルラナから徒歩で1日程離れた開拓村に、盗賊団100人が一斉に襲撃してきたというのだ。椅子に座っていた村人の男が夜通し馬を走らせて、知らせに来たのだ。


「今、関係各位に連絡を取っている状況です、中央都市アプリニアの領主騎士団……恐らく騎兵を中心に応援が来る予定です」


「中央都市の領主騎士団か……」


「コスモ、彼らの足ならばここまで3日掛かる道を1日で来られる筈だ」


(早馬を出してもアプリニアまで1日、早くてもカルラナ到着に2日、村までは2日半……それでも遅すぎる)


 中央都市アプリニアはロンフォード領の中心部にあり、ロンフォード城の城下町として栄えていた。モウガス……コスモもその領主騎士団の所属であった。


 そこから地方都市カルラナまで3日かかる道程だが、セリオスの言う通り鍛えられた軍馬の足なら1日で到着する事が可能である。だが、それでも初動として遅すぎるとコスモが考えていた。


「それで村人の安否はどうなってるんだ」


「それは……」


「む、村人なら大丈夫です、【竜篭り】に避難して皆、無事です」


 サラが答える前に椅子に座っていた村人の男が割って入ってコスモの問に答える。


 竜篭りとは、邪神竜の眷属から村人を守る為の避難場所で、岩造りの建造物の事を指す。竜の吐息(ブレス)にも耐えられる頑強な設計となっていた。


 村を造る際は伝統として必ず竜篭りが作られ、それが今も名残として続いていた。しかし、いくら避難していても助けが無ければ危険な事には変わりはない。


「ですが、兵糧と水の蓄えも後僅かです……どうか、どうかお助け下さい!」


「……ああ、心配すんな、すぐに助けてやる」


 開拓村の男がコスモに懇願すると、緊急依頼の準備が整ったサラが仕事斡旋所の屋上にある鐘を鳴らしに行く。そして町中に緊急依頼を知らせる鐘の音が響き渡る。


カンカンカンカンッ……


 しばらくすると鐘の音を聞いた冒険者達が一斉に集まってくる。


 人数がある程度、揃うと事態を説明する為に仕事斡旋所の所長ウドガーが登場する。中年で眼鏡を掛け、緑髪を綺麗に整え、白いブラウスに灰色のスラックス、所長用の制服に身を包んだ清潔感のある男だ。


「皆、良く集まってくれた、時間が惜しいので早速、本題に入る。盗賊の襲撃があった場所はここから南に1日行った所にある、アカネ村だ」


 ウドガーが説明を始めるが内容は、サラが話してくれたのと同じ内容だった。しばらく説明が続いた後に、冒険者にとって重要な報酬の話となって行く。


「……という事になっている、報酬は盗賊の生死を問わず、1人銀貨50枚だ」


 銀貨100枚で金貨1枚と同等なのでかなり稼ぎの良い依頼だ。その報酬を聞いた冒険者達も目の色が変わる。


「アカネ村を襲った盗賊は100人と報告があった。だが襲った目的もまだ分かっていない、こちらの戦力は冒険者と地方騎士団を合わせても50名程だが、2日後には領主騎士団の援軍が見込める、各自、無理をせず時間を稼ぐ事だけに専念してくれ」


 盗賊団と言えば所帯も多い、狙うなら大商団の馬車や貴族の馬車、大きい町など実入りの良い対象を選ぶはずなのだ。


 だがアカネ村の様に小さい開拓村を襲っても、稼ぎが少ない上に応援もすぐに呼ばれるリスクも高い。しかも小さい開拓村を100人規模での襲撃となると、戦力としては過剰過ぎるのだ。


 ウドガー所長の話が終わると一斉に冒険者達が出立の準備に入る。オルーガも自分の傭兵団の団員と準備を始めるが、そこにコスモが入って相談を持ち掛ける。


「オルーガ!すまねえが相談がある!」


「おう!コスモちゃんの相談ならいつでも歓迎だぜ」


 オルーガが笑顔でコスモを歓迎するとセリオスと一緒に、傭兵団の輪に入って相談を始める。


「まず俺が開拓村に先行しようと思う。【守備】の高い俺なら村人を盗賊から保護できるし、時間も稼げる。その後にオルーガと冒険者達で、盗賊を蹴散らして欲しい」


「おいおい、ちょっと冗談きついぜ。コスモちゃんは【ソードアーマー】だろ?その足だと俺達が先に追い越しちゃうぜ?それに間に合っても1人じゃ、いくら【守備】が高くても、一方的にやられるだけだ」


 オルーガの意見は間違っていない、【ソードアーマー】の足の遅さは周知の事実だ。例え辿り着いても、盗賊からの攻撃を一方的に受ける事になる。


 しかしオルーガは知らなかった。コスモが英雄級の能力値を持ち、カルラナで一番足の速い事に。余りにも無謀な話とオルーガが一蹴するが、横で話を聞いたシノが声を掛ける。


「オルーガ、コスモなら大丈夫だよ、私よりも足が速いし【力】も【守備】も全然問題ないと思う」


「う、嘘だろ?シノより速いって……本当か?」


「くっそいまいましいピンクのビキニアーマーだけど本当だよ」


(シノの奴、まだ足の速さを根に持ってるな……)


 孤高の狩人シノが他人を認める事は滅多にない事をオルーガは知っていた。そのシノがコスモの足の【速さ】と実力を認めている事に驚いていた。


 そしてシノは相変わらずそれが気に入らない、気に入らないがコスモを素直に認めていた。話を聞いたオルーガがコスモの申し出を受けると、次にセリオスへと注文を付ける。


「セリオス!」


「なんだいコスモ?」


「お前は残って地方騎士団を指揮をしてくれ、魔獣討伐で隊を率いるのには慣れているだろう?」


「そ、それはそうだけど、僕も一緒に……」


 本当はコスモと共にアカネ村へと向かいたい気持ちで一杯なのだが、灰色熊の追跡でコスモの足の速さは理解していた。しかもカルラナの地方騎士団をまとめるには、立場的にも自分が最適だと言う事も理解していた。


 口に出しかけた言葉をつぐむとコスモの言う事を承知する。


「……分かったよ、だけど気を付けて……いや、コスモに限って心配はいらないか」


「さすがだ、セリオスだ!俺の事を良く分かってるな!」


 コスモが冗談を言うと、セリオスの肩を掴み微笑みかける。その眩しい微笑みがセリオスの心に突き刺さったのか、頬を赤く染め視線を逸らす。


 後詰めの段取りが付くと、コスモが仕事斡旋所の扉を開けて外へ出る。軽く柔軟体操を始めると、外に付いて来たセリオスとオルーガに顔を向けて大きな声で叫ぶ。


「それじゃあ行って来る!後は頼んだぞセリオス!オルーガ!」


「コスモ絶対に無理をしないでね!」


「コスモちゃんも気を付けてな!」


 2人が手を上げ応えると、コスモが片膝を付いて前傾姿勢を取り、足を後ろへ一気に蹴り出すと大きな砂埃を立て、その場から走り去って行く。砂埃だけを残してあっと言う間にコスモが彼方へと消えて行く。


「おいおい……馬より速いじゃねーか、一体どうなってんだコスモちゃんの足は……」


「さあオルーガ、僕達も急いで準備をしてコスモを追いかけよう」


「そ、そうだな!セリオスも地方騎士団の指揮を頼んだぜ」


 コスモの【速さ】はオルーガの想像以上だった。あの速度ならコスモの言っていた通りに事が運ぶだろうと納得する。


 そして仕事斡旋所の中に戻って、団員とシノを含む冒険者達を取りまとめると、すぐに後を追い始める。同時にセリオスも地方騎士団の長と話を付けて、指揮権を預かると速やかにカルラナを出発する。





 アカネ村の村人達は【竜篭り】に避難していたが、その周りを盗賊達に囲まれていた。


「うへへへ!可愛い子がいっぱいだぜ」


「俺はあの子がいいなあ、早く開かねえかな」


 アカネ村の竜篭りの頑丈な扉を、盗賊達が鉄の斧で叩き付ける。手の空いている盗賊は竜篭りの壁の隙間から中の様子を窺い、中に居る村人の若い女を品定めをする。


 中では村人の男達が閂をした扉に大きい岩や、家具などを積み必死に抵抗していた。


 すでにアカネ村は盗賊達に占領され、村は盗賊達が闊歩している。竜篭りの正面には即席で作った玉座があり、そこに一際大きい体躯の盗賊の男が座っていた。


「おーし、お前ら焦るんじゃねーぞ、時間はたっぷりある。じっくりと攻めて行け!」


「へい!お頭!」


 お頭と呼ばれた男、名前をマデジという。通称【赤髪熊のマデジ】と呼ばれていた。未開の森の中に拠点を置く盗賊団の頭である。


 髪は赤い短髪で、魔獣の皮で作った片掛けの皮の胸当て、革製の下穿きに長革靴、筋肉質な巨大な体躯に太い腕、その手には鋼の斧を装備していた。


 すでに地方都市カルラナへは応援を呼ばれた頃合いだろうと、読んでいるのか焦った様子は無い。空いた家にも盗賊達は入り込まず、ひたすらに竜篭りの村人だけを狙っていた。


(へっ、旨味もねえこんな寒村だが、楽しむだけ楽しんでやるぜ)


 そんな事を考えながらマデジが、にやついた顔で盗賊達が竜篭りの扉に鉄の斧を叩き付ける様子を眺めていた。するとアカネ村の入口で外を見張っていた部下の盗賊から報告が入る。


「お、お頭!遠くからピンクの何かが物凄い速度で迫ってます!!」


「何!カルラナからの援軍か!いくら何でも早過ぎる!人数は!」


「そ、それが1人です!」


「なっ?ピンクで1人だあ?なんじゃそりゃあ」


 早すぎるカルラナからの援軍に驚いたマデジが玉座から立ち上がり、部下の報告を聞くのだが1人と聞くと機嫌の悪い顔になって、再び玉座に座り込む。


「馬鹿野郎!1人だけならおめえらで止めろ!」


「へ、へい!」


 皮の盾を構えた盗賊が4人がアカネ村の入り口で立ち塞がる。段々と近づいて来る桃色が視界に入って来ると、兜のバイザーを下ろしたハート型の盾を持つ姿がはっきりと見えてくる。


 地方都市カルラナから走って来たコスモであった。1日掛かる距離を1時間程で駆け抜けていた、異常な速度である。


 盗賊達が迎撃の態勢を取って、コスモを止めようとするが。


「ここは通さねえぜ!」


「盾技、楯道突貫(シールドダッシュ)!」


「え?」


ドンッ!ズゴゴゴゴゴゴ!


 コスモが速度を落とす事無く、さらに速度を上げてハート型の盾を前に掲げ突進すると、迎撃の態勢を取った盗賊4人と正面から衝突する。凄まじい衝突音と必殺の一撃音が辺りにこだまする。


 4人の盗賊がまるで飛んで来た巨大な岩にぶつかった様に、空に打ち上げられると綺麗な放物線を描いて地面へと落ちて行く。


 そのままコスモが突進を続けて、村の中にある竜篭りの扉まで到達すると、扉に張り付いていた盗賊を盾で勢い良く払い退ける。そして扉に背を向けてマデジと対峙する様に向きを変えて構える。


 あっという間の出来事に盗賊達が反応出来ずに呆然としている。その間にコスモが村人の安否を確認する。


「カルラナから来た冒険者だ!全員無事か?」


「あ、ああ、助かりました冒険者様!村人は全員無事です!」


 中の村人が明るく安堵した声でコスモに答える。これを聞いたコスモが間に合ったと、胸を撫で下ろす。すぐにハート型の盾と魔剣ナインロータスを構えると盗賊に注意を向ける。


 呆然としていた盗賊の中でマデジが一早く我に返る。桃色のビキニアーマーを着たコスモをじっくりと観察すると、舌なめずりをしながらほくそ笑む。


「何だ、この助平な格好をした女は、自分から可愛がられに来たのかあ?」


「お、お頭!俺にやらせて下さい」


「俺が先だ!こんな良い身体は、そうそう楽しめねえ!」


 盗賊がコスモのビキニアーマーから剥き出しの胸や腰をまじまじと見ると、顔を緩めて興奮しながら我先にと一番槍を取り合う、そこでさらにコスモが兜のバイザーを上げて素顔を晒すと、盗賊達の興奮が最高潮となる。


「ほうら、先に相手して欲しい奴はかかってきな!」


「か、顔もいいじゃねーか!体も良い!お前ら裸にひん剥いて可愛がってやれ!」


「「「おう!!」」」


 マデジが部下の盗賊に命令すると3人が横並びに飛び出し、鉄の斧を振り上げ同時に襲って来る。鉄の斧がコスモに向かって振り下ろされ触れようとした寸での所で、目にも止まらない速さで魔剣ナインロータスが横なぎに振られる。


「フンッ!!」


「「「へ?」」」


ドン!ズゴゴゴゴゴゴ!!


 いつもの必殺の一撃音が鳴り、魔剣ナインロータスで叩き付けられた3人の盗賊がまとめて水平に飛んで行くと村の家の壁に穴を開けて、めり込む。


 村の入口で弾き飛ばされた盗賊達と同様に、ピクリとも動かない。それを見た盗賊達の緩んだ顔が段々と険しくなって行く。


 たった一撃、それを見ただけでコスモをただの桃色のビキニアーマーの女じゃないと、理解した瞬間だった。


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