第12話 初討伐の飲み会(パワハラを添えて)
・コスモ(女)=モウガス(男)
元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】
領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる
本人は嫌々ながらも着る服が無いので、ピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾を仕方なく装備する事になる
諸事情によりモウガスの姪という事になる
「お二人共、巨大赤猪の討伐依頼お疲れ様でした!」
仕事斡旋所に着いたコスモとシノが受付窓口へ行くと、受付嬢のサラが笑顔で労いの言葉を掛けてくれる。その笑顔に癒されつつも、討伐対象の巨大赤猪の部位を提出するとサラが確認を始める。
2頭の討伐だったので直ぐに確認が終わるとサラが討伐依頼の報奨金、金貨20枚を窓口の上に置く。
「はいシノさん、報奨金の金貨20枚になります」
「……ん」
シノが素っ気ない顔で置かれた金貨20枚を受取る。討伐依頼が達成されたのだが、シノは素直に喜ぶ気分では無かった。その原因は一緒に討伐を行ったコスモの存在である。
新人とは思えない圧倒的な力に圧倒的な速さ、ただの【ソードアーマー】では無いと納得が行っていなかった。コスモは一体何者なのか、その事をサラに確認したくて仕方ないのだ。
「サラ、あのさ……」
「はい、何でしょうか?」
『コスモの能力値っていくつなの?(笑顔)』
と聞きたい。
例え聞いたとしても真面目なサラが答える訳が無いのは分かっている。だがシノの胸の中でモヤモヤする物が晴れないのだ。こうなったら直接本人に聞くしかないと決めると、サラとの話しを切り上げる。
「いや……何でもない、本人に聞くよ」
「?」
不思議な顔をするサラがシノを見つめるが、その視線に背を向けると報奨金の中から金貨10枚を取り出す。シノの横で笑顔で分け前を待っていたコスモに手渡す。
「はい、コスモ、約束通りの金貨10枚だ」
「ありがたい!これで曲がった鉄の剣も新調できるぜ!」
ちなみに曲がった鉄の剣はコスモが力技で真っ直ぐにして鞘に無理矢理納めている。巨大赤猪を担ぐ怪力の持ち主のコスモにとっては朝飯前の事である。
金貨をコスモに渡した後、少し躊躇するがシノが喜ぶコスモを遮る様に腕を掴む。
「ちょっとさコスモ、色々聞きたい事あるからこっち来てくれる」
「え?あ、ああ、別に良いけどシノ、どうしたんだ?」
思い詰めた表情でシノに一緒に付いて来るように言われるが、様子がおかしい事にコスモが気付く。仕事斡旋所内の酒場の机にコスモとシノが向かい合う様に椅子に座ると、シノがエール、そしてコスモに飲みたい物を聞いてからラガーを注文する。
完全に日が落ちると、辺りには依頼を終えた冒険者達が続々と集まってくる。
シノの様子が何か変なのだが、本人から語る素振りが見られない、しばらく無言の間が続いた。少しすると若い女の給仕が注文をしたエールとラガーを持って机の上に置く。
「お待たせしました!シノさんがエールで、コスモさんがラガーですね!」
やっと来たかと言う顔でコスモがラガーの入った木製のコップを握ると、一口だけ口に入れて炭酸の感触を楽しむ。だがシノは頼んだエールには手を付けずに、表情が重たいままに本題に入って行く。
「……あのさ、コスモって何であんなに強いの?」
「え?そんなに俺って強いか?……いつも通りやったつもりなんだけどな……」
ラガーを一口飲むと普段通りだと答えるが、それに納得しないシノが声を荒げる。
「あのね!巨大赤猪を正面から逆に吹き飛ばすなんてありえないから!」
「そ、そうなのか?」
コスモの反応を見ると嘘で無く本当に素で答えているのが分かる。悪意を持って騙そうとしている訳じゃ無い事が分かると、安心したシノもエールの入った木製のコップを握ると一口飲んで落ち着く。
「ぷはー、コスモってさ、自分の力が凄いって何で気付かないのかな?」
「なんでだろうな……ほら、俺の職業アーマー職ってさ、攻撃するより受ける事が最優先なんだよ、だから攻撃するにしても基本技しか出来ないし、地味だからかな?」
コスモの言う通り、アーマー職の本来の役割は専守防衛、攻撃は二の次である。集団戦だと攻撃を受けた後は攻撃の得意な職業に任せる事が多い。それもあってか、主役にはなれない地味な職業なのだ。
「だからさ、シノが言う通り力が凄いのどうのってのに実感が無いんだよ、俺達はどこまで行っても受けるしか能が無いアーマー職だからな」
「……」
シノが討伐の内容を思い返すと、確かにコスモが先制攻撃をした所を見ていない。基本を守って必ず相手の攻撃を受けてから反撃をしている。剣技の脳天衝撃も【ソードファイター】なら誰もが使用している技だ。ただし必殺の一撃の発生率と威力は段違いである。
「それにシノ、俺達アーマー職が普段、嫌みで何て言われているか知ってるか?」
「ああ、私はあまり感心していないが聞いた事はあるよ」
動きの遅いアーマー職は、騎兵の様に押し上がって行く戦線について行けず、冒険者や部隊からは運用がし難い印象を持たれている。それを揶揄した昔ながらの言葉があるのだ。シノとしては口にするのも嫌だったが、コスモの質問に答える為に敢えてその言葉を使う。
「固い、強い、遅い、の三拍子だろ?」
「その通りだ、狭い橋の上なんかで受けさえすれば、無類の強さを発揮できる限定的な職業なんだよ、今回もたまたま、俺の得意な間合いに入って来たから倒せただけで普通だよ」
普通と言われエールを飲みながらシノが戦いを思い返すと、やはりどう考えても普通じゃない。何かコスモに上手く言い包められた様に感じ、一番気になった事を直接聞いてみる事にした。
「じゃあさ、コスモの【速さ】の能力値だけでも教えてよ、こっちも言うからさ」
「あ……え……」
【速さ】だけならカルラナで1番と自信のあったシノが、唯一納得が出来ていないのが【速さ】で【ソードアーマー】のコスモに遅れをとった事であり、シノ自身の精神衛生上で重要な事だった。
戸惑うコスモの機先を制す勢いでシノが自身の【速さ】を小声で申告する。
「はい、私の【速さ】35ね、コスモは?」
「あっ……えっと……俺の【速さ】は……50以上だったりして、テヘッ♪」
元おっさんのコスモが可愛らしく素直に申告をするが、これが逆効果でシノの怒りの炎に油をたっぷりと注ぐ事となった。シノがエールを握りながら、鬼の形相で椅子から立ち上がる。
「てっめぇ!何が普通だよ!やっぱ異常じゃねーか、このピンクのビキニアーマーが!」
「お、お、お、落ち着けシノッ!」
お酒の入ったシノが勢いを増して止まらない。エールを豪快にあおりながら続ける。
「固い、強い、早いだあ?最強じゃねーかよっ!ふざけんなよっ!」
「周りに人も居るからね?ね?落ち着こうよ」
シノの勢いに押され、弱気になってなだめるコスモ。シノの怒声に周りに居た冒険者達の視線が集まる。シノが立ちながら息を切らせてエールを更に勢い良くあおる。
「ぜぇ……ぜぇ……グビグビ……」
「よっ、森の狩人!飲みっぷりも良いよ!」
まさかシノがこんなに怒るとは思わず、太鼓持ちに徹するコスモ。しかし言いたい事も言って、確認したい事も聞けたのか、【速さ】で負けた理由に納得するとシノが再び椅子に座り込む。
「はあー……でも納得したよ、ちょっとはスッキリした」
「そ、それは良かった……」
(今度からシノと一緒に依頼受ける時はゆっくり走ろう……)
速さが自慢のシノであったが、それだけでは無く【フォレストアーチャー】という職業にを誇りに思っているからこその怒りなのだ。理由も無く【ソードアーマー】に【速さ】で負けたくなかったのだ。
落ち着きを取り戻したシノだが、コスモに対する質問……尋問はまだ終わっていなかった。
「でもさ、コスモの【力】も相当な物だと思うんだけど、誰かに鍛えられたとかあるの?」
「えっと、叔父に鍛えて貰って、それからその鍛錬の繰り返しって感じです、はい……」
すっかりパワハラ飲み会の様相となって行く。
「ふーん、コスモの叔父って誰なの?」
「それは……」
答えようとするコスモの後ろから依頼の報告を終えたオルーガが現れる。
「よっ!美人のお二人さん!相席良いかな?」
「えー……オルーガかよ」
「そんな顔するなってシノ、良いだろ?」
シノが嫌な顔をしてオルーガを見つめる。そんなシノを気にする事無くコスモの隣の席へオルーガが座り込むと若い女の給仕を呼んで笑顔でエールを注文する。
「……でさっきサラから聞いたよ、コスモちゃんってモウガスのおっさんの姪なんだろ?」
「モウガス……あの右膝の悪いおっさんか?」
コスモはモウガスの姪という設定で説明しているのでオルーガもそう理解してくれていた。だがシノにまで隠していた筈の右膝の怪我がばれていて、必死に隠していたコスモが少し恥ずかしくなる。
するとオルーガが寂しそうな顔でモウガスについて話しを続ける。
「おっさんの右膝が良くなって故郷で静養中だとさ、俺達にも一言くれてもいいのにな」
「へーそうなんだ、あのおっさん、右膝が治れば相当な実力者の筈……コスモがその姪だって言うのも納得出来たかも」
そんな話をしていると注文のエールがオルーガにも届いて、エールを一口飲むとシノも同じ様に飲む。コスモはちゃんと自分を見て評価してくれている人が居る事と、ちょっと自分が褒められた様に感じ、少し嬉しそうな顔をしてラガーをちびちびと飲む。
その可愛い仕草をオルーガがキリっとした顔で見つめている。
「で、コスモちゃん、ほんと可愛いねー、本当にあのおっさんの姪なの?」
「えっ……あ、あのオルーガ?」
隣に座ったオルーガがさらにコスモに接近して顔を近付ける。こんなに顔が近くまで寄せられた経験の無いコスモが動揺する。
「髪も綺麗だし、瞳もまるで星が輝くような美しさだね、今、彼氏とか居るの?」
「あ、えっ、そ、その居ない……です」
(な、ななななんだ!オルーガってこういう奴だったのか?)
恥ずかしそうな仕草で肩を狭めてラガーをちびちびと飲むコスモ、それを見てさらに追い込みをかけようとオルーガがコスモの肩に腕を回してくる。それを見たシノがオルーガに忠告しようとする。
「ちょっとオルーガ!その子はね……」
シノがそこまで言い掛けると、それを無視したオルーガがさらにコスモの肩をぐっと自分の方に寄せて耳元で甘い声で囁くように誘う。
「この後さ、二人で飲まない?美味しいお店も知ってるしさ」
「うひゃあ!あ、あう……」
(な、なんかオルーガから良い匂いがするし……なぜか分かんねえが、妙に嬉しい気持ちになる……どうなってんだ俺!)
耳元で囁かれ変な声を上げてしまう。それにコスモの目から見て、いつもに増してオルーガが男前に映るのだ。もちろん良い男なのだが、それは男から見ての話しであってコスモの視点では、キラキラと輝く王子様に見えるのだ。
技能の【慈愛】でオルーガの心の中を見ても情熱的な赤色の光が八方に放たれている。本気で口説きに来ていると解るが相手はコスモ(元39歳のおっさん)である。
このままではいけない世界に行ってしまいそうになる自分に危機感を持つと、気をしっかり持ってお断りを入れようとする。
「だ……」
「だ?……ん?どうしたの?コスモちゃん」
コスモが体を震わせて勇気を振り絞って断ろうとするが力が入り過ぎた。
「こんなの!だめだーーーーーー!」
コスモが目を瞑ったまま上半身を捻じって腰を利かせると、オルーガの胸元に勢い良く両手の平を叩きつける。
ドンッ!!ズゴゴゴゴゴゴ!!
「ひゅっ!」
物凄い鈍い打撃音と必殺の一撃音と共にオルーガの体が座っていた椅子から宙に浮き、体をヒの字に曲げたまま重力を無視した様に水平を保って酒場の壁際まで飛んでいく。壁に激突すると右腕を上げうつ伏せに倒れ込む。
その様子を冷静に見ていたシノが、忠告の続きを話す。
「だからその子、巨大赤猪を真正面からぶちかまして勝ってるんだってオルーガ……ってもう聞こえてないか」
シノが冷静にエールをあおる横でコスモが力加減を忘れて、飛んで行ったオルーガに気付くと慌てて立ち上がり介抱に向かう。うつ伏せで倒れたオルーガを仰向けにして抱える。
「大丈夫か!すまん、オルーガ!つい力が入っちゃったよ!」
【体力】が残り1の状態のオルーガが瀕死になりながらもコスモに遺言を残そうとする。
「……コスモちゃん……俺の団員達に伝えてくれ……とまるんじゃ……もがっ」
遺言の途中でコスモが持っていた【きずぐすり】をオルーガの口に突っ込む。これ以上喋らせたら何か不味い事になると気付いたからだ。
「今、回復してやるから!もうこれ以上喋るなオルーガ!」
騒ぎを嗅ぎ付けた酒場の冒険者達がコスモの周囲に集まってくると、ボロ雑巾の様になったオルーガを見て全員が戦慄する。
(あのオルーガを一撃……この子……見た目以上に超やべぇ……)
カルラナ屈指の冒険者【ソードファイター】のオルーガを一撃で倒した話が一気に広まる。それ以降、巨大赤猪の件を含めコスモは冒険者の間で一躍有名になる。
すると仕事斡旋所の扉が開き、解体屋【精肉の妖精】の主人、セキハが依頼通りに紙に包んだ巨大赤猪の太腿を持って現れる。
「おい、コスモ!注文の巨大赤猪の太腿持って来たぞ!って何だこの騒ぎは?」
「あー、セキハ悪いんだけどさ、その太腿、今日は無理みたいだから明日取りに行くよ」
オルーガを介抱しているコスモに代わってシノがセキハに返事をする。そう言われたセキハが酒場の様子を窺うとコスモの周りに冒険者達が集まり騒いでいるのを見掛ける。
「なんだか分かんねえが、コスモの周りはいつも騒がしいな……」
「本当にね……」
シノが微笑みながらその光景を見ていた。もちろん楽しみにしていた巨大赤猪の太腿を楽しむ暇など無く、後日シノと一緒に売却金と太腿を受取った後に美味しく頂いた。




