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第9話 コスモの能力値と技能

・コスモ(女)=モウガス(男)


元騎士団の39歳のおっさん冒険者、職業は【ソードアーマー】

 領主騎士団時代に負傷した右膝を治す為に飲んだ森の魔女の秘薬、万能薬の効果により39歳のおっさんモウガス(男)から見た目が20歳前後のコスモ(女)となる

 本人は嫌々ながらも着る服が無いので、ピンク色で統一されたビキニアーマーにハート型の大盾を仕方なく装備する事になる


諸事情によりモウガスの姪という事になる




 仕事斡旋所で冒険者の新規登録を行う時は、施設内の登録部屋で行う事になる。


 冒険者の能力値と技能は個人情報でもあり他者に漏れないように、部屋には出入口の扉が一つと窓が一つも無い密室の構造となっている。


 部屋の中央には装飾の施された台座が設置され、台座の上には透き通った丸い赤い水晶が置かれていた。部屋の隅には記帳用の立ち机が置かれ、その上には筆記用具と記録用の洋紙が何枚か置いてある。


 水晶の置かれた台座の後方の壁には、白い長方形の大きい白い布が掛かっていた。能力値を赤い水晶で鑑定すると数値が映し出される仕組みとなっていて、受付嬢がそれを記録用の洋紙に記録するのだ。


「じゃあコスモさん、早速ですがそこの台座に手を当てて下さい」


 サラが手で指し示す場所を見ると台座に手形の窪みがある。そこに手を置くと赤い水晶が起動して、その者の能力値を映し出すという寸法だ。コスモは実質、二度目の新規登録なので迷う事無く台座の窪みに手を置く。


 手を置くと赤い水晶が輝き出す。


「そろそろ能力値が壁の白い布に映し出されますので、良く見てて下さいね」


 壁に掛けられた長方形の白い布に、少しづつ文字と数字が投影され始める。まずはレベルの文字と数字が、はっきりと映し出される。


【レベル】1


(やっぱり、万能薬の副作用が効いているな…………アンナの言った通りだ)


 モウガスだった頃は上限のレベル50であったが、森の魔女のアンナの説明通りレベルが下がり、初期値に戻っていた。長い間鍛え上げてきたレベルが下がる事は精神的につらいが、右膝が完治したと考えれば安い物、と考えていた。


 続けて能力値の文字と数字が白い布へと映し出されるが、コスモの予想を超えたものが映し出される。


【体力】100△

【力】50△

【魔力】50△

【技】50△

【速さ】50△

【守備】50△

【魔防】50△

【運】7


「んー……ん”ん”ん”!?」


 次々と映し出される数値を見て、コスモが下唇を噛み言葉を詰まらす。モウガスの時に比べて数値が軒並み上昇していて明らかにおかしいのだ。更に【運】を除く能力値の数値が上限値以上を指し示す△マークで表示されていたのだ。


 通常、能力値の数値が出れば自動で鑑定を終える筈なのだが、赤い水晶の輝きが止まらないという事は、今だに計測中を意味している。モウガスの時は直ぐに終わっていたので、コスモが顔から汗を滲ませ動揺していた。


 コスモが余りにも長く台座に手を置き続けるものだから、心配したサラが映し出された能力値を覗き込む。


「どうですか?能力値が出ましたか?コスモさ……ん……ん”ん”ん”!?」


 サラがコスモの能力値を確認するとコスモと同じ様に下唇を噛み言葉を詰まらせる反応をする。もちろんサラも多くの冒険者達の新規登録を行ってはきたが、こんな異常な数値は初めてであった。


 能力値の上限値を示す数値と△マークを良く見ると上下に動こうと微動している。上振れした数値が制限を超えられない様に抑制されているような動きだ。


 この異常事態の中、コスモの頭にある言葉が思い出される。


『あたしの歴代最高傑作と言っていい万能薬だから安心しておくれ』


(もしかして、あの意味はこの事だったのか?)


 コスモの能力値の異常な数値は万能薬が原因である事は明らかだった。今になって思えば全速力で走っても疲れが来ない事、怪我をする前よりも走る速度が速い事と心当たりがあった。


 だがアンナの説明では能力値が下がるとも言っていた。何が下がっているのか上から順に項目を目で追って行くと、【運】の項目だけが一般人以下の数値に下がっていた。


 【運】は主に必殺の一撃が出る確率や、攻撃を避ける行動に影響する。しかし他の数値が【運】の無さを補って余りある程高いので、その影響も微々たるものだ。


 コスモと同じく動揺していたサラが気を取り直すと、赤い水晶の故障を疑い始める。


「あ、あれー?鑑定の水晶壊れちゃったのかな?コスモさん一度手を離して下さい」


「あ、ああ……分かったよ」


 そう言われコスモが手を離すと赤い水晶の輝きが収束する。サラがコスモの横に行き、代わりに台座の窪みに手を置くと再び赤い水晶が輝き出す。するとコスモの時より早く数値が白い布へと映し出される。


【レベル】12

【体力】31

【力】6

【魔力】18

【技】8

【速さ】11

【守備】5

【魔防】16

【運】19


 サラの能力値が映し出される、見た目通りの一般人並の数値が白い布へ映し出された後に、水晶の輝きが速やかに収束する。赤い水晶が正常に動作をする事を確認すると、サラが台座から手を離して困った表情になって考え込んでしまう。


「壊れては無いみたいですね……何でレベル1のコスモさんにモウガスさん10人分の能力値が、出たんでしょうかね」


(何となく嬉しいがそ、その例えは分かり難いぞ、サラ……)


 サラがコスモの高過ぎる能力値を不思議に思っていたが、ここで万能薬の影響を説明しても話がややこしくなる。たとえ理解してくれたとしても万能薬の話が漏れるとアンナの住処へ人々が殺到する恐れもある。それだけはどうしても避けたい。


 悩んでいたサラがコスモの全身をじっと観察する。高過ぎる能力値と見合った体付きと思ったのか、素直に能力値の事を受け入れると、ぱっと明るい表情になって興奮気味に説明を始める。


「でも、【運】以外が上限値なんて凄いですよ!能力値だけでいったら邪神竜を討伐した英雄級です!カルラナ仕事斡旋所設立以来の、最高値です!!」


 コスモに詰め寄り興奮気味に話すサラが言った英雄級という言葉だが、能力値の数値によって等級が定められている。


10以上【下級】一般人

20以上【初級】初期職

30以上【中級】初期職後期から上級職初期

40以上【上級】上級職

50以上【英雄級】過去の英雄と同等


 レベルは依頼達成時や、魔獣討伐に盗賊討伐などの対人戦、自己鍛錬などで上がる。その際に自身の職業に応じた能力値が優先して上昇していくという仕組みである。そして初期職でレベル50の上限まで達すると祝福を受ける事が可能になり、上級職へと昇格が可能になる。


 当然、能力値が高い者ほど優秀なのだがコスモの考えは違っていた。能力値が高い事で生じる問題を騎士団の時には良く見かけていたからだ。その考えもあって能力値に特に拘りの無いコスモが以前のモウガスで測定した能力値で登録する様に頼んでみる。


「あ、あのさサラ、能力値の数値は叔父のモウガスと同じで良いから、それで登録してくれよ」


 モウガスで登録した能力値と同じであれば特に問題も無いだろうとコスモが高を括るが、予想に反してサラが厳しい表情になるとコスモに注意する。


「コスモさん駄目ですよ!虚偽の登録は私も罰せられますし、何よりも能力値に英雄級の数値がある時は、帝国に報告する決まりがあるんです」


「そ、そうなのか?知らなかったぜ」


 今までは英雄級の能力値に達した事が無かったので気にも留めていなかったが、虚偽登録は罰則の規定があるのは予想外であった。 


 それに本当はモウガスの時と同じ様に依頼を受けて、サラ達に恩返しをして暮らせれば良いと考えていた。もし今のコスモの能力値を帝国側に知られたら、面倒な事に巻き込まれる恐れもある。何せ今の皇帝は有能な人材には目が無いからだ。


『身分は問わぬ、我こそはと能有るものと自負する者は皇帝の元へ集え』


 と御触書を大陸中に掲示したくらいだ。邪神竜が討伐されて40年経つが今だに帝国国内には問題が多く、情勢は安定していない。その事もあって有能な人材を集めることに必死なのだ。


 だがその事を考慮してもサラに罰則を与えてまで隠すのは、【ソードアーマー】としての存在意義を否定する行為に等しい。仕方なくコスモが能力値を誤魔化す事を諦めるとサラに先ほど出た能力値で登録する様に頼む。


「分かったよ、サラには迷惑は掛けられないし帝国にも報告してくれ、数値もそのまま登録を頼む」


「……すみません」


 サラがコスモに気を遣い暗い顔で申し訳なさそうにするが決まりは決まりだ。しかしサラが暗い顔をすぐに明るくするとこちらを見て再び興奮しながら話し始める。


「ですがコスモさん、これだけの能力値があれば冒険者としてきっと大活躍できますよ!!」


「あ、ああ、ありがとうよ……」


「モウガスさんも右膝の怪我が無ければコスモさんと同じ位に活躍出来た筈なんです、姪のコスモさんがモウガスさんの分まで頑張ればきっとモウガスさんも喜んでくれますよ」


「……そうだな、サラの言う通りだ」


 興奮気味のサラとは対照的にコスモの表情は固いままだ。本来であれば能力値が高い事に喜ぶ所だがコスモは能力値の高さによる弊害を知っていた。


 能力値の高い者は自身の力に溺れる傾向がある。その慢心が基本を疎かにして、何度かの成功体験を繰り返し体が覚えて行く。やがて緻密に練られた作戦を軽視して独断専行を行い敵の罠に嵌る。


 かと言って慎重になり過ぎれば、過大な期待に応えられない能力値以下のレッテルを貼られ、理不尽な過小評価を受けて僻地へと移され閑職となる。騎士団には優秀な能力値の人材が集まるが故に、良く散見された事象だ。


 だからこそ、そうなってしまう自分が怖かった。人は能力値が全てでは無い事、心、技、体の3つの釣り合いこそが騎士として、いや人として常に成長を望む事が大事である事をコスモは理解していた。


 サラがコスモの能力値を洋紙に記載し終えると次の登録事項、任意の技能鑑定を受けるか確認してくる。


「次は任意なんですけど、技能も鑑定しますか?」


「技能鑑定か……」


 能力値鑑定も終わり、とうとうこの時が来てしまった、騎士団の入団時にも鑑定をして貰い男らしからぬその技能に悩んでいた。だが今はコスモとなって新しい人生を始めている。男では無く女としてここに居るのだ、もちろん悩む必要は無い。


 心の整理がつくとコスモがサラに技能鑑定をお願いする。


「じゃあ、頼むよサラ」


「はい、じゃあ技能鑑定用の水晶に交換しますね」


 サラが台座に置いてある赤い水晶を取り外し両手で抱えると、部屋の隅の棚の上段に置く。代わりに下段に置いてある青い水晶を屈んで両手で抱えると台座まで戻り設置する。サラが台座の窪みに手を置くと青い水晶から青い輝きが放たれ、正常に動作する事を確認するとコスモに声を掛ける。


「ふうー準備が出来きましたので、コスモさん手を台座に置いて下さい」


「お、おう……」


「フフッ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよコスモさん」


 今の自分が女であると分かっていても、どうしても例の技能が出ると思うとコスモが緊張する。その様子を見たサラが微笑み優しく見守る。


 コスモが意を決して台座に手を置くと青く輝き出す。水晶から壁に掛けられた白い布に薄らと文字と枠が映し出され、少し待つと技能の文字がしっかりと投影される。そこに出た文字は……。


【慈愛】


 この【慈愛】がモウガスの技能、今はコスモの技能である。男らしからぬこの名の技能が原因で昔は良く悩んだものだ。騎士団で活躍する者は特に戦闘系の技能を持つ者が多く、補助系の者は後方支援で活躍する者が多かった。技能に依って騎士団内の役割りが決められ、合理的に部隊を編制していた。


 しかし技能【慈愛】は戦闘系でも無く補助系でも無い、役割りの判断に困った団長がモウガスの巨躯な体だけを見て前線を守る【ソードアーマー】へと配置する事を決めた経緯があった。


 その後、技能を戦で活かす事は無かったが、仲間の士気を上げるのには大いに役に立ってくれた技能だ。


「慈愛ですか……初めて見ましたけど、コスモさんに似合う女性らしい技能ですね」


(まあ、そうなるよな……)


 サラが技能【慈愛】について褒めてくれるが、あくまで女だからだ。中年男のモウガスの時に知られたら、笑われる事は無くても小恥ずかしい気持ちになる。


 そんな事を考えているとサラが【慈愛】以外の技能が白い布へと映し出している事に気付く。


「あれ?何かもう一つ技能が出て来ましたよ」


「え?本当か!!」


 コスモに限らず一般的に技能は一つだけで二つは無い。稀に複数の技能を有する者も居るが、その多くが王族や貴族なのだ。


 もしかしたらこれも万能薬の効果なのかとコスモが期待すると、少年の様に童心に戻ってゆっくりと映し出される技能の名前に注目する。 


 そして薄っすらと映し出された文字がはっきりと現れた……。


【魅力】


「【魅力】ってなんじゃーーーーーーい!!」


 コスモが大声を上げ突っ込みを入れると、台座から手を離してその場で四つん這いとなる。今日は良く四つん這いになる日だ。


 技能の名からしてコスモの期待していた戦闘系の技能では無い事は明らかだった。【慈愛】に続いて【魅力】、まるで今の美女となったコスモに合わせた様な技能が揃い、コスモが肩を落とす。


 その姿を見て気の毒に思ったのかサラが気遣い、【魅力】についてのフォローをするが、


「【魅力】って踊り子の【アモーレダンサー】に多い技能だから……あの……なんか凄いですよ!」


(ぐぞぉ……俺はソードアーマーだ……)


 サラが必死にフォローするが逆に【ソードアーマー】に愛着のあるコスモの心の傷に塩をすり込む。


 【アモーレダンサー】は酒場や街角などで踊りを披露し、人々に元気を与える職業だ。主に曲馬団と行動を共にして大陸中を行脚するのが一般的で、もちろん騎士団には所属していない。


 そんなコスモを元気付けようとサラが慌てて冊子を開いていると、【慈愛】のページを見付けて内容を確認する。するとコスモが気に入りそうな文章を探し出し凹むコスモに伝える。


「コスモさん!【慈愛】ですが、過去に一人だけ技能を持った人が居たみたいですよ!なんと、その人は上級職の【インペリアルアーマー】です!」


 【インペリアルアーマー】は、アーマー職の中でも成るのが極めて難しい上級職である。その条件として皇帝本人からの直接の叙任が必要であり、誰にでもなれるものではない。アーマー職の中でもエリート中のエリートが選抜され、1人1人が城塞並の守備と魔防を誇っていた。


 それを聞いて少し元気の出たコスモが四つん這いから立ち上がると、誇らしげな顔をして再び台座に手を置く。


「むふっ、そうかそうか、インペリアルアーマーと一緒か……むふふふ」


「ふぅ……」


 コスモが元気を取り戻すとサラが肩で息をして安堵する。本当にちょろいコスモ(おっさん)である。


 続けてサラが【慈愛】について調べるが、効果について詳細な記載が無く困っていた。


「でも【慈愛】って調べても具体的な内容が書かれてないんですよね、過去に例があまり無いからかな……」


「確かに俺以外に【慈愛】を持つ者は居なかったな、効果も何となくでしか分からねえし」


 コスモ自身も【慈愛】については詳しく解ってはいない。ただ分かるのは相手の体に触れると色が現れる事と、言葉ではなく色によって想いが伝わって来る事だけは分かっている。


 色については男だったモウガスの時には、黒が負の感情、白が正の感情として見えていた。


 この色で騎士団の仲間の心、精神状態を見抜き、体調の悪い者や緊張している者などに声を掛け、後方に下がらせたり緊張を解すと、戦いに於いて部隊が万全の状態で挑む事が出来た。部隊の精神的安定をもたらす者として、団長からは絶大な信用を得ていた。


 だが先ほど、鍛冶師のミリットの体に触れた時に【慈愛】の変化に気付く。


 黒と白を含め、赤、青、緑と組合せが増えていた。しかも色以外にも形が現れ、生き物の様に色と形が常に変化をしていた。だからこそ説明が出来ないのだ。


 ちなみにミリットの心の色は鮮やかな桃色が中心で、周りは黄金色の輝きが太陽の形をして放っていた。恐らく戦神ライオネルの事と金貨の事で頭が一杯なのだろう。


 感覚的な事柄でコスモ自身が【慈愛】について分かる事はこれぐらいだ。


 白い布に映し出された技能の文字に違和感があるのか、サラがじっと見ている。


「……文字、大き過ぎるような……技能枠が慈愛と魅力の文字で一杯になってます……なんか大きい文字の隙間にも、小さな文字が重なってるような……」


「確かになんか文字同士がぶつかり合っているな……」


 壁に掛けられた白い布に映し出された技能【慈愛】と【魅力】が枠一杯に自己主張するかのように表示されている。それも密着して互いを押し合う様になっていて文字が不自然に変形しているのだ。


 さらに慈愛と魅力の文字の隙間には小さい文字らしきモノが見えるが複雑に詰まっていて読めない。この現象についてサラが口を抑え真剣な顔で考え込むと独自の見解を示す。


「これだけ技能が大きく表示されるのは初めてです……だけど私に分かります、コスモさんの【慈愛】、【魅力】がとっても効果が大きい事を!」


(【ソードアーマー】の俺が慈愛と魅力の効果が強くなっても非常に困るのだが……)


 サラの見解は至って普通で見た目通りであった。コスモに気を遣い大袈裟に技能を褒めてくるが、それをコスモが困惑した顔で聞いていた。


 だが実はその見解は正しく、すでに技能【魅力】は存分に威力を発揮していたのだ。


 仕事斡旋所に向かう途中で、コスモが兜のバイザーを下げ顔が分からない状態であっても、男からの視線が矢の如く突き刺さっていた。もちろん、桃色のビキニアーマーや女としての特徴を強調した体付きもあるが、それ以上に技能【魅力】による所が大きかった。


 結局コスモの中では文字の大きさについての答えが出なかった。いつまでも気にしていても仕方が無いと、台座から手を離すと投影された技能も消えて行き、このまま新規登録の手続きをサラに依頼する。


「俺の技能は分かったよ、サラ、登録の手続きを頼む」


「はい、分かりました、新規登録お疲れ様でしたコスモさん、冒険者証が出来たらお呼びしますので外の椅子に掛けてお待ち下さい」


 サラが能力値を記録した洋紙を持って登録部屋の扉を開けて外に出ようとするが、何かに気付いたのか扉を開けたままコスモに声を掛ける。


「……モウガスさん静養中なんですよね?冒険者の登録はどうするか聞いてますか?」


 確かにサラの言う通りモウガスは冒険者登録をしたまま静養に入ったという設定だった。突然の質問にコスモが頭を悩ますが少し考えてから確認をする。


「うーん……もし、活動が無いままだと登録情報はどうなるんだ?」


「半月の期間、活動が無ければ自動的に抹消されますけど、休養申請すれば1年は登録情報は残ります。」


 冒険者という職業柄、怪我も多いので申請で猶予が貰える様だ。だがモウガスはもう戻って来ない、モウガスはもうコスモである。モウガスが戻る様な期待をこれ以上持たせてはならないと思ったコスモが悲しい表情でサラに答える。


「なら、そのままでいいよ、叔父もゆっくりとしたいだろうし……」


「そうですか……さよならが直接言えないのが心残りですが、分かりました」


 サラが洋紙を両手でぎゅっと抱き締め視線を逸らして寂しい顔をすると登録部屋を出て行く。その姿を見たコスモも心苦しくなるが、変に期待を持たせると余計に傷付ける、コスモが自分にそう言い聞かせ納得をさせていた。


(さて、俺のこの能力値が本当なら世話になったサラ達に恩を返さないとな)


 冒険者登録も終わり、右膝を悪くしてから世話になりっぱなしのサラ達に恩返しをしたいとコスモが決心する。もちろんその気持ちが一番なのだが自身の能力値が事実なのか、試してみたい気持ちも半分あった。これはもう人の性と言っても良い。


 まだ時間はある、早速依頼を受けよう決めたコスモがサラに遅れて登録部屋を出て行く。

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