血の契約
目が覚めると食卓からは鍋が片付けられており、代わりに小さな水の入った透明な素材でできたコップと羊皮紙、そして羽ペンが置かれていた
ラサクは周りをちらりと見渡す
場所は食卓から移動しておらず、誰もいない。ラサクは座ったままで身体は縛られているわけでは無いが、何かに阻まれているようで上手く動かせない
「気が付いたかい?すまないね、何せ急なものだったからね。体は問題ないかい?」
目の前に居なかったはずのヤーガがテーブルの向かい側に座っていた。ヤーガは少し心配そうな声色で話しかけてきた。その声にラサクは少し安心していた
.....................次の言葉を向けられるまでは
「どうして吸血鬼の事を黙っていたんだい?」
途端にラサクの身体は緊張を覚える
そうだ。自分はこれこれも居場所がなくなった原因の一つだった。それを言わなかったのは......
「私が追い出そうとすると思ったのかい?」
ヤーガの言った言葉にラサクは...コクリと頷く。その反応をみたヤーガは蒸気機関車の出す煙に劣らぬ勢いの大きな溜息をつきながら話した
「あんたねえ...そんなに私は小さい器じゃないよ。何より私は魔女だ!ラサク、お前さんより長生きで恐れられている人物の一人さね。吸血鬼だというくらいで追い出さないさ。それは分かったかい?」
コクリとラサクは頷く
「分かったら、今後お前さんは気を使って秘密を話さないなんてのはナシだ!なーに、お前さんの抱えているものは全部受け止めてやるさ。それに若い者の悩みや嘘、秘密なんてのは隠すとどんどん大きくなって手が付けられなくなるものだからね。すぐ相談するんだよ!」
ヤーガの剣幕に押されてラサクはブンブンと頷いた
「ところでラサク、身体に流れる血は吸血鬼だけかい?」
この世には色々な種族がおり、異なる種族間で生まれた子供は両親の能力を受け継ぐ。吸血鬼が異種間で子を為すのは珍しいが、それでもヤーガは確認した。
「それが...分からないんです。」ラサクは身体を縮こませた
「それなら、今から鑑定の魔術を行使しようと思うんだけれど良いかい?」
「お、お願いします!」先ほどのヤーガの言葉を聞いても少し不安は残っていたが、ラサクは勇気を出して願った
その言葉にヨシっと軽くうなずくとヤーガは呪文を唱えていた。「ᚲᛟᛞᚨᛁᚾᛟᛋᛖᛁᚱᛖᛁᛏᚨᛏᛁᛃᛟ ・ᚲᛟᚾᛟᛗᛟᚾᛟᚾᛟᚲᛟᚾᚷᛖᚾᚹᛟᛋᚨᛋᛁᛋᛁᛗᛖᛋᛖ」
そう告げると置かれていた羽ペンが動き出し、羊皮紙にすらすらと書いていく。書き終わると、紙がひとりでに動きヤーガに内容を見せた。紙を見たヤーガは少し顔をしかめたかと思うと、すぐにそのしわくちゃな顔で微笑み
「ほう、珍しいねあんた吸血鬼の血が半分流れているね...それでもう半分は...うーん...」
ラサクが首を傾げると、ヤーガは紙にはもう半分は黒く塗りつぶされていて分からなかったと言った。
少し不満げな顔をしつつも、さてとヤーガは言って別の話を始めた。
「ラサク、お前さん喉が渇いているだろう?お腹も空いているし、実は結構限界なはずだ」
ヤーガの言葉に強く同意するように頷く。実際ラサクはギリギリだった。喉はひりつくように渇いててあまりしゃべりたくないし、お腹がキュウキュウと締め付けられるようだった。
「そうだろうそうだろう。ということで血をあげようと思う。だけどね、勘違いしちゃいけないよ。ただでやるのはこの一回限りだ。明日からは自分で採るんだよ。それと、お前さんが周りから恐れられないように契約を結んでもらう」
わかったかい、というヤーガの言葉に強く頷いて同意を示す。
「なら良し、それじゃあ今から言うことをしっかり覚えておくんだよ『我はヤーガの家族からしか血を飲まない、我は吸血を他の如何なるものにも行わない。これが我の自由である』」
そう唱え、ヤーガはテーブルのコップに血を数滴垂らした。数滴の血はコップの中の水と混ざり合い、血の色は薄まると思われたが色は更に濃さを増し、コップの水は深紅で飾られた。
ラサクは喉をゴクリと鳴らし、そのコップを手に取り身体に入れる。
......あまりの味に咳こんでしまった。血の味は何とも筆舌に尽くしがたく強いて言うならば汚水で濡らした布巾の汁の味がし、舌触りは濡れた紙切れのように残っていた。吐き出さなかった自分を褒めたいくらいだった。おおよそ身体に良いものとは思えなかったが、自然と渇きは消え、お腹は膨れて身体にあった傷は癒えていた。
そんなラサクの様子にヤーガは笑っていた
「ククク、不味かったかい?明日からは自分で血を採るんだよ。まあ、そこらへんはマエルサに教えてもらいな。どうやらあんたの事が気に入ってるらしいからね。それより今日はもう遅いから早く寝な。寝る場所は......そうさね...今日起きた部屋があるだろ、そこのベッドで寝な」
少しにやけた顔を浮かべながらヤーガは階段を上がっていった。
残されたラサクは、マエルサに連れていかれた方向を思い出してドアを開けた
ドアの先には自分が寝ていたベッドと杖の立て掛けられた机があった。
正直、色々なことがあってもう疲れていたラサクは目を閉じながらベッドに入って直ぐに深い眠りについた
............ベッドの中に大きな先客が居たのも知らずに
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