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転校生

1人の女の子が教室の扉の前で緊張した面持ちで待っていた。担任の先生がクラスのみんなに説明して入ってくるように声をかけられるのを待っているのである。転校1日目、初めてクラスのみんなに会う日。

 

「今日はみんなにお知らせがあります。このクラスに新しく仲間になる子が来ました。」


 先生がそう言うと、

 

「え、転校生?」

「やったー!新しい転校生。」

「可愛い子かな?」

「カッコいい子だったらいいな〜」

 

 様々などよめきが聞こえてくる。

 

「はーい、静かに。では入ってきてもらいましょう。入ってきて。」

 

 先生からの声かけがあり、

(大丈夫。大丈夫。)

と深呼吸を一回して気合い入れてドアを開けた。一歩一歩足が震えながら真ん中まで進むと緊張のしすぎで「回れ右!」のようにカクカクに曲がってしまった。ヤバいことをしてしまったと後悔しつつも、ここは気持ちを切り替えてみんなに向かって深呼吸、


「石川県から転校してきた前田凛です。よろしくお願いします。」

とみんなに向かってお辞儀をすれば、パチパチとみんなからの拍手をもらい、ホッとする。


「可愛いー」

「新しいお友達ができて嬉しい〜」

「なーんだ男の子じゃないのかー残念〜」


などの様々な感想が聞こえてくる。

転校してきた子、凛はクラス全員の視線を浴びながら一番後ろの空いた席へ歩いていった。


「では授業を始めます。前田さん。1時間目は国語です。後は前の黒板の今日の時間割を見てください。みんなも前田さんが分からないところは教えてあげてくださいね。」


「はーい。」


 クラス全員が先生の話に返事をした。

 凛は国語の教科書とノートを出して授業を受ける準備をした。教科書は学校によって少し内容が違うのだが、奇跡的に凛が通っていた前の学校と同じ教科書だったため改めて教科書を用意する必要がなくて安心した。今日が初日で授業の時間割もわからないので念のためと凛は教科書を全部持ってきていた。今日の時間割を見てみれば何事もなく授業が受けられそうだとホッとする。

 まだまだ全然知らない校舎とクラスメイトと先生、これからの学校生活にワクワクとした少しの期待と、緊張感を持ちながら、


(まずは授業に集中しなくちゃ。)


と背筋を伸ばし集中することにした。




「ねえねえ!私、豊島悠!よろしくね!」


 早速授業が終わったと同時に「待ってました!」とばかりに前の席の子が背後を勢いよく振り返ったと思ったら、結構な大声……いや元気な声で凛に話をしてきた。

 とっても好奇心旺盛で、明るく人懐っこそうなキラキラとした笑顔。本当にその通りに眼がキラキラとこっちを向いて返事を待っている。


「うん。よろしくね。」


 まずは、短く返事をする。


「分からないことがあったら何でも聞いてね!あ!私のことは悠って呼んで!今から学校案内しようか?あぁ……次理科だった……あのね次は理科なんだけど今日は理科室で実験なの!だからこの後じゃなくて中休みに学校案内するね!」


 ほとんど息継ぎすることなくすごい勢いで話す悠に凛はびっくりして、少し思考停止した。

 そんなびっくりした顔のまま固まっていた凛を見た悠は「やってしまった!」感満載な顔をしていた。

 意識を取り戻し凛はすぐさま返事をする。


「ありがとう悠ちゃん、私のことは凛って呼んでね。中休みに案内してくれるのうれしい。よろしくね!」


 そういうと悠はにっこり笑ってまた何かを言おうとしたところでその口は手で覆われて何も言えなくなってしまった。


「悠……ちょっと落ち着きなって、私だって悠の勢いに辟易するぐらいなんだから、初対面ではやばいって……ごめんねこの子声と勢いが凄くって……本当席やっぱり悠の後ろはダメだって先生に言えばよかった……これじゃ前田さん大変じゃない。」


凄く嘆くように悠の口を塞いでいる子は頭を抱えていた。悠はなんとか塞いでいる手をどかそうと試みるがびくともしない。


 (あれ、口塞いでる子凄く力強い?というか悠は苦しくないのかしら?息できてる?)


そう凛はのん気に考えている。悠は悠で塞がれた口でフガフガと何か文句を言っているようだった。


「私は相田菜月。ごめんね。この子びっくりしたでしょ?」


「うんちょっと……菜月ちゃんよろしくね。私のことは凛って呼んでね。それとひとつ言ってもいいかな?悠ちゃんちょっと苦しそうになってない?」


「あ、ごめん悠。」


そう言って菜月が手を離すと悠は思いっきり息を吸い込んで


「ヤバかった……ちょっと花畑見えたよ!何するのよなっちゃん!!」


「ごめんって、でも初対面で勢いが良すぎるのも良くない、凛ちゃんびっくりしていたでしょう?」


「そうだね、ごめんね凛ちゃん。びっくりさせちゃって……」


2人に「凛ちゃん」と呼ばれ、何かくすぐったい気持ちになった凛は、ちょっと泣きたいような気持ちになった。そんな気持ちを目の前の2人には気付かれたくなくて、思いっきり笑顔にしてみたけど、あまり上手く出来なかった気がする。


(たぶん変な顔になっちゃったな、2人に引かれてるかな?)


そう思いながら、初め声をかけてくれた2人に返事をする。


「ちょっとびっくりしちゃったけど大丈夫!よろしくね悠ちゃん、菜月ちゃん!」


 それだけ言うので精一杯だった。


 言われた2人は、凛のなんとも言えない顔に少し疑問に思い顔を合わせるが、そこは長い付き合いである。言葉を交わすことなくお互い言いたいことはわかっていた。


「「うん!よろしくね凛ちゃん!」」


 凛の転校初日のスタートはそんな風になんとか乗り切ったのだった。

そのあとは、悠の宣言通り中休みに2時間目の理科室から教室へ帰るついでに、ある程度の学校案内をしてもらい。無事残りの授業を終え帰りの時間になった。

 学校案内中は案の定、悠がしゃべりまくり、凛が少し引いたところで、菜月が悠にツッコミを入れつつ止める。これがなぜが凛にはしっくりくるような、もう何年もこのようなやり取りを3人でしていたよう安定感があり不思議に思うが、この凛という子は物事をあまり考えない体質である。そんな疑問は完全スルーが通常であった。

 1日が無事終わり、帰り支度のため、ランドセルに教科書を入れていると悠が、


「ねえ凛ちゃん!放課後暇?引越しの片付けとかあるかな?暇だったら、私たちと紙芝居屋さん行かない?」


「うん。引越しの荷物はもう片付いたから暇だよ。でも紙芝居屋さんって何?」


 凛の問いに悠はキョトンとしている。その表情に凛もキョトンである。

 2人の間に変な沈黙が流れているところに救世主登場。


「紙芝居屋さんっていうのはね、その名の通り紙芝居を読んでくれるところなんだけど、お菓子も売っているの。

ここの町の子はみんなそこでお菓子を買ってるんだけどね。凛ちゃんの前住んでいたところでは紙芝居屋さんってなかったの?」


 菜月が紙芝居屋さんについて話してくれた。


「うん、紙芝居屋さんっていうのは初めて聞いたかな。駄菓子屋みたいなところ?」


「まあ駄菓子みたいなのはあるけど、店とかじゃなくて自転車でやって来るんだけどね。」


「自転車?」


 凛の頭はハテナマークでいっぱいである。


「そう自転車!時間になったら町中を紙芝居屋さんが木を鳴らして合図してくれるから、そうしたら、みんなで真ん中広場に集合だよ!ソース煎餅が美味しいんだよ!あとすももも!アメヌキも捨てがたい……でも私はまだ成功してないカタヌキを今日はやるって決めているんだ!」


 悠がワクワク楽しそうに話しているが、凛は未知の世界である。


「ソース煎餅……すもも……アメヌキ……カタヌキ……?」


「凛ちゃんは紙芝居屋さん初めてなんだね。それじゃあ一旦家帰ったら凛ちゃんのお家に迎えに行ってもいい?時間になったら真ん中広場に行こう!ついでに町も案内するよ!」


 菜月の安定フォローで約束をした凛は、家の場所を2人に教えて帰宅した。




「ただいま!」


「おかえり!学校どうだった?」


 娘の初登校を心配して何も片付けに集中できなかった凛の母、明里が玄関に駆けつけてきた。


「うん、楽しかったよ!それでね今日これから紙芝居屋さん?ってところにお友達と一緒に行く約束したの。お母さん紙芝居屋さんって知ってる?」


「……。」


「お母さん?」


「……あぁ……紙芝居屋さんね!行ってきなさい。友達も一緒に?もうじゃんじゃん行ってきなさい!」


「じゃんじゃんって……そんなには行けないよ。それに今日は紙芝居屋さんに行くついでに町も案内してくれるって!」


 そう言って母と喋りながらリビングに入っていくと、朝と変わらないダンボール箱の山があった。


「片付けしてからの方がいい?今日は町案内断ろうか?」


 そう凛が母に聞くと


「いいのいいの!凛は友達と紙芝居屋さんに行ってらっしゃい♪もうじゃんじゃん楽しんできて!」


 母明里は嬉しそうに、それでいてホッとしたように見えた。


「うん、ありがとうお母さん!じゃあ行ってくる!これから友達が迎えに来てくれるんだ。一緒に行ってくる。」


 その時だった。


「「こんにちは。凛ちゃん!」」


 悠と菜月が来た。

おこずかいをもらった凛は、


「それじゃあお母さん、いってきます。」


「いってらっしゃい。」


「悠ちゃん菜月ちゃん!紙芝居屋さん行こう!町案内もよろしく!」


「「うん、行こう!」」


 そう言って3人は紙芝居屋さんへ出かけたいった。

娘の楽しそうな声と、新しく出来た友達の優しそうな声が家の中まで聞こえて、明里は嬉しくなった。

朝から娘のことが心配でしょうがなかった。娘がこの新しい町で楽しく暮らしていけるのかと。どうやら心配はなさそうだと安心したところで気付く、目の前には手付かずの引越しのダンボール箱の山。

 普通なら気が重くなるところだが、娘の楽しそうな声でそんなことは気にならなくなって、笑顔で作業を始めるのであった。

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