序章
不思議な町の不思議な人たちが織りなす物語
カーン、カーン、カーン
乾いた拍子木の音が街中に鳴り響いている。
あんな小さな木のどこから音が出ているのかと、不思議に思うぐらいその音は街中に響いていた。
その音は、街中を毎日いつも同じルートで歩きながら拍子木を鳴らすある人物が奏でる音である。
音を合図に子供たちは、その人物が来たことを知る。
気付いた子供は、母親にもらったお小遣いを大事に握りしめ、音を奏でる人物が行き着くであろう場所へと歩いて行く。
その場所は、事件も起きそうにない程の静かな住宅街の中心。
その中心は高台になっていて街で1番高くなっており、いつから立っているのかわからない大きな樹木が枝を広げ、日陰を作り、木の下にベンチがある。
近所の人は皆、そこに座って井戸端会議をするのが毎日の日課であり、この街の住民や鳥たちの休息の場になっていた。
木を中心に丸く広場が広がり、子供が遊べる公園になっている。
その広場の周りは丸く車道で囲まれており、駅前のロータリーのようになっていた。
丁度、住宅街のほぼ中心部にあるため、子供達も学校から帰ってから友達と遊ぶ時の待ち合わせに丁度いい場所であった。
そんな街の憩いの場に、青年が拍子木を鳴らし終えて広場に辿り着くと準備をし始めた。
そこには自転車があり、背後の荷台には引き出し付きの木の箱が載っていて、その引き出しの中には子どもたちが目をキラキラとさせるお菓子が入っていた。
広場に着いた子供達はその青年からお菓子を買う。
木の引き出しの中に詰まったお菓子は、
サクサクとしてそれでいて柔らかい丸い形の『ソースせんべい』
お金を払うとルーレットを回して枚数を決める。
普通は20枚大当たりになると50枚が貰えて子供達はほとんど『ソースせんべい』を買う。
そのあとはソースをつけてもいいし、梅やオレンジのジャムをつけてもいい。
せんべいの束の半分程ソースやジャムをつけてもらい、それを1枚ずつ食べていく。
ソースやジャムをつけている所が少ししっとり柔らかくなっていて、サクサクとしっとり2つの味わいがある。
また『ソースせんべい』でトローリ甘い水飴を挟むことも出来る。挟んだ『ソースせんべい』の間に半分に割った『ソースせんべい』を刺せば、ウサギの出来上がりである。これはその日によってクマにもネコにも変わり、それは青年の気分次第で日替わりでどんな形になるかはわからない。
そんなソースせんべいを美味しく食べている横では、小さなテーブルに子供達が顔を集めて真剣に『アメヌキ』や『カタヌキ』をやっている。
『アメヌキ』は赤や青、緑などの色鮮やかで平らな飴に数字やアルファベットなどが書かれている。
太陽の光に照らせば宝石の様にキラキラとしていて、子供達はそのキラキラした『アメヌキ』を舐めて丁寧に文字を抜いていく。
『カタヌキ』は薄いラムネのようなもので出来た物にうさぎや花、飛行機などの絵がかいてあるものだ。
押しピンを使って絵に沿って型を抜いていく。
そんな『カタヌキ』をする子供達の様子は真剣そのもので、失敗してしまえば、やっている子だけではなく、それを一緒になって真剣に見ていた周りの子まで落胆の色をみせる。
中々難しく成功する者はいないが、成功した者が出れば、周りの子供達も一緒になって大喜びし、その成功者は成功した物を慎重に持って行って見せると、好きなお菓子と交換してくれる。
子供達はただお菓子を買いに来ただけではない。
一番の目的は、キラキラとしたお菓子が詰まっている箱の上にある。
箱の蓋を開ける様に開くと特殊な木箱が立ち上がり、小さな窓の様な扉がある。
その扉を開くと桃太郎や浦島太郎などの子供達が知っている昔話から、聞いたことのない外国のお話、オリジナルの創作したお話の紙芝居だ。
買ったお菓子を食べながらその紙芝居を見るのが、子供達楽しみなのである。
紙芝居を見てワクワク、ドキドキ、そして息を飲む物語。
夢中になり過ぎてお菓子を食べる手が止まっている子供もいる。
そんなキラキラしたお菓子とワクワクが詰まった紙芝居を木箱に入れてこの広場に毎日、自転車でやって来る青年は紙芝居屋さんである。
昔は沢山の街にいて、子供達にお菓子と紙芝居を届けていた紙芝居屋さん。
今では、あまり姿を見ることが無くなってしまったが、数人の紙芝居屋さんが、今でも子供達にお菓子と紙芝居を届けている。
これは、そんな紙芝居屋さんが居るちょっと不思議な町の物語である。
はじめまして、茅柚花雨です。まずはこの序章を読んでいただいてありがとうございます。
つたない文ですが、温かい目で見守ってくれたら幸いです。




