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第9話 当然の結果?

 ディセント学院入学試験が終わり、翌日。

 学院内のとある会議室にて。


「では、この受験生は」


 魔法で吊るされた照明が部屋を照らし、結が張られた壁は、決して外へ声を()らすことはない。


「魔法に加え、筆記試験も平均点以下。不合格だろう」

「うむ。では次だ」


 中央の円卓には受験生の資料が並べられ、それを見ながら大人たちが話し合う。


 彼らは学院の教師・講師陣。

 最高峰の学院で指導するため、ありとあらゆる国から集められた各分野のエキスパートたちである。


「それにしても今年はレベルが高いですね」

「そうじゃのう……」

「教え甲斐(がい)がありそうねえ。色・々・と」


 前日終えたばかりの今年の受験。

 前々より噂は流れて来ていたが、聞いていた以上に受験生のレベルが高かったようだ。

 過去数十年を(さかのぼ)っても一番と言える程に。


 しかし、その中でもやはり話題の中心は一人の少年に向く。


「このグランという生徒、一体何者なんだ……?」


 この場を仕切る試験長は、グランの資料を握る手を震わせる。

 さらに、他の教師陣も驚きの情報を付け加えていく。


「実技は文句なし……どころか、最後は試験場を破壊していきました」

「バカな!? 闘技場にはあの結界を張っているのじゃぞ!?」


 闘技場に張られた魔法結界。

 グランが「もっと強くすればいいのに」と思っていた結界は、複数の教師が共同で張っている最強の結界だったのだ。


 英雄ならばまだしも、ただの受験生には到底破壊できるものではない。


「しかもそれだけではないんですよ」

「ま、まだ何かあるのか!?」

「彼は破壊した後、一瞬で結界を張り直していました」

「なんじゃと!? あれは我々教師陣が半日かけて張るのだぞ!?」


 なんと、グランは力が有り余って会場を壊してしまった後、平謝りしながら魔法で会場を(しゅう)(ぜん)

 さらに、より強力な結界を瞬時に張り、これ以上なく申し訳なさそうに去って行ったという。

 その態度が逆に“異質さ”を感じさせる。


「乱暴というには顔が優しすぎます」

「むしろ手加減が分からないという感じでした」

「そ、そんなことが……」


 (はた)から見れば、天災級の破滅的魔法、結界を容易く破壊する剣筋、またそれらを複数同時に扱う知識。

 それを「あれー?」などと言いながら放ってくるのだ。

 その(すさ)まじさが分かる教師陣からすれば、恐怖でしかない。


 また、だからといって一切の悪意は見えない。

 その態度が教師陣をより悩ませる。

 

 さらに、事態はこれだけでは終わらない。


「まさか、実技試験で()そんなことになっていましたか」

「む。そちらでも何か?」

「いや、少しですね……」


 冷や汗をたらりと流しながら口を開いたのは、『筆記試験』の教師陣。

 入学試験は実技試験・筆記試験の元、結果が出されるのだ。


「これを見てください」

「こ、これは……!」


 目にしたのはグランの解答用紙。

 満点なのは当然のこと、さらに驚くべきは最後の問題。


「バカな! 魔法の永遠の謎である未解決問題を解いているだと!?」


 それはディセント学院、伝統の最終問題。

 この学院では、毎年分野を変えて「未解決問題」を出しているのだ。


「いや、さすがにハッタリでは……」

「だが、理屈は通る……」

「まさかこの通りに行えば本当に……?」

「その前にこれを行使するだけの魔力は用意できないだろうが……」


 今年の分野は「魔法」だったようだ。

 だが未解決問題のため、教師陣も回答は分からない。

 そもそも問題の意図としては「考える力を計る」目的として出題されているのだ。


 そんな未解決問題。

 グランの回答は完璧とも思われるものだった。

 正答なのかは定かではないが、回答を見る限りでは理屈は通っている。


「一応確認だが、彼の出身は……?」


 試験長の言葉に、教師陣は一斉に首を振る。


「貴族ではないようですね」

「そもそもこれは一体どこだ?」

「東の国の山奥……のさらに向こうのようです」


 魔法担当の教師が、グランの受験資料を(もと)に出身地を光で示す。

 だが、そこはまるで聞いたことのない田舎。


 『英通たちの里』へ行くには、その場所から異空間を越える必要があるが……当然、彼らが知る(よし)はない。

 結果、教師陣はただのド田舎だと解釈をする。


「ますます謎だ」

「ですね」

「ふーーーーーむ」


 これ以上は詮索(せんさく)しても意味がないだろう。

 教師陣は出身の話は終え、とにもかくにもグランの試験を結果を測定した。


「一応、こちらになります……」


 全員がごくりと固唾(かたず)を飲んでそれを覗き見る。

 そこにはありえない試験結果が表示されていた。


 剣術【測定不能/100】

 魔法【測定不能/100】

 筆記【100/100(未解決問題を回答)】


「「「……ッ!?」」」


 誰がこんな結果を予測できただろうか。

 繰り返すが、今年の受験生はここ数十年で見ても一番の生徒の質である。

 だがそれは、グラン抜きでの話(・・・・・・・・)


 まさか、それら黄金の世代全てを遥かに上回る生徒が出てくるとは思いもしない。


「今年はとんでもない年になるぞ……」


 だがそうなると、次なる問題が出て来る。

 その問題を一人の教師が口にした。


「こんな生徒、一体誰が面倒を見るんですか……?」

「「「……」」」


 その質問には誰も答えようとしない。

 いや、手を挙げたくないのだ。


 彼らも世界中から集められた各分野のエキスパート。

 すでに自分たちより上の存在かもしれないグランを担任し、間違いを指摘された時を考えると、プライドが許さないようだ。


「ったく、じゃあどうせ俺なんでしょう」

「「「!」」」」


 そんな時に口を開いたのは、円卓に足を乗せながらダルそうにする男。

 まるで教師には見えない態度だが、この場にいるということは彼も教師の一人だ。


「頼まれてくれるのか……?」


 試験長の言葉と共に、この場の全員が男に視線を向ける。

 ただ、その半分は軽蔑(けいべつ)・嫌悪の視線も含まれている。


「こういう面倒事はいっつも俺ですし、いいですよ別に」

「……では、よろしく頼む」

「へいへい」


 こうして、グランの担任という最後の問題も無事(?)に解決。

 試験長が今年の受験を総評する。


「今年の合格者はこやつらじゃ」







 試験から数日後。


 ディセント島、学生街のとある安めの宿。

 何の変哲もないこの宿に、一通の手紙が届く。


「うわあ、ドキドキする……」


 手紙を受け取ったのはグラン。

 どうやらディセント学院からのようだ。


「迷ってても仕方ないよな。……よし」

 

 合否判定の通知であることは分かっている。

 グランは意を決して手紙を開く。


「……! やった、合格だー!」


 刻まれていたのは「合格」の文字。

 他にも制服や装備についての事項もあったが、今はとにかく両手放しに喜ぶ。


「ん、なんだこれ」


 しかし、グランの手紙にはもう一枚の紙。

 不思議な顔でそれを開くと……


「しゅ、首席合格ー!?」


 そこには「首席」との文字が。

 また、それに(ともな)って学院長からのメッセージも加えられている。


 だが、つらつらと書かれているお祝いの言葉よりも、グランは最後のメッセージにしか目がいかない。


『首席の挨拶を考えてきていただきたい』


「なんでー!?」


 こうして、グランのディセント学院での生活が始まる──。


まさに当然の結果です

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