第6話 入学試験開始!
「ここが……!」
試験についての説明を聞いた後、案内されたのは闘技場のような場所。
試験前半は『実技試験』。
内容は至って簡単で、学院側から決められた対戦をいくつかこなすだけ。
勝敗が必ずしも合否に関わりはしないが、大幅な加点にはなるそうだ。
「それにしても広いなあ」
案内された闘技場に驚きながら、周りを見渡す。
全方位をぐるっと観客席に覆われ、戦闘するフィールドとの間には魔法の結界が張られている。
強度もそこそこありそうだ。
どうせならもっと強い結界を張れば良いのにとは思うけど、試験に口出しはよくないよね。
「それでも会場の一つだもんなあ」
ここは『第一闘技場』。
各国から膨大な受験生が集まるディセント学院では、全二十ある闘技場を使って同時並行で実技試験をするそうだ。
空間を圧縮したり、異空間を使わずにこんな広い建物が二十個もあるんだもんな。
やっぱりすごいなあ、ディセント学院。
「人もすごく多い……」
観客席はほとんど満員。
制服を着た生徒から同年代に見える人たち、一般のような人まで、色んな人々が観客席に座っている。
受験生にまだ制服は配られていないはずだし、制服を着た人達は学院の先輩たちなのかな。
そうして見渡していると、反対側の入口から声が聞こえてくる。
「人が多い? そりゃ俺目当てだろうなあ」
「ん?」
声と同時に現れたのは、大剣を背負った大男。
きっと俺の対戦相手だ。
「あれ」
「貴様は……!」
と思ったら、出てきたのは昨日会った人物。
女の子に突っかかっていた輩たちの、リーダー格の大男だ。
男は俺を見るなり声を上げてくる。
「てめえ、昨日はよくも逃げやがったなあ!」
「いや、スピードはすごく抑えたんだけど……」
「ああん!?」
それ以上は言われたくないのかな。
昨日の話はここまでにして、さっきの気になる発言について聞こう。
「君目当てってどういうこと?」
「貴様、俺を知らねえのか?」
「え!」
しまった、またこのパターンだ!
そういえば「俺が誰だか知って~」とか言ってたかもしれない!
ここはなんとか誤魔化さないと!
「ご、ごめん! 俺、田舎から出てきて──」
「俺様の名前は『ゴラーク・ディスラーク』!」
ほっ、良かった。
とやかく言う前に自己紹介が始まった。
「アリスフィア王国、ディスラーク公爵家長男、『強欲のゴラーク』だ!」
「強欲の……?」
アリスフィア王国というと魔法国家だよね。
そこの公爵家、つまり貴族の一番上ということは有名人なのかも。
それを助長するように周りからも声が聞こえてくる。
「見ろよあいつ、いきなり相手がゴラークだぜ」
「ああ。可哀そうにも程があるな」
「あのゴラークと当たるなんて不運だな」
同じくそれが聞こえたのか、ゴラーク君はニヤリと笑った。
「はっ! だから言っただろ、俺様がいるからこの第一会場なんだよ」
「どういうこと?」
「試験会場は二十個あるだろ。割り振られるのは注目度順なのさ」
ゴラーク君は口角を上げたまま続ける。
「注目度が高い受験生から順に第一会場から割り振られる。そうすりゃ、どこの受験生を見れば分かりやすいからな」
「あ、なるほど~」
そういうことか。
意外と分かりやすい説明で助かった。
「そんで」
ゴラーク君は背中から大剣をゆっくりと抜く。
「貴様はここで、無様に俺にやられるってわけだ」
「おお」
そうして、余裕の表情のまま大剣をこちらに向けた。
昨日は持っていなかった武器だね。
「出た! 『強欲の大剣』!」
「いきなり見れるのか」
「あれは注目だぞ」
「ますます相手が不憫だな」
「まったくだ」
また、それに反応して会場も沸いた。
「ふーん」
どうやらゴラーク君が持ってる大剣が『強欲の大剣』という代物らしい。
剣の名前まで知られているのは相当だな。
一見そうは思えないけど……力を隠しているのかな?
俺にはとても見抜けそうにない。
「どうだ、ビビったか」
「俺にはちょっとすごさが分からなくて」
「ふん。それすら分からぬほど雑魚だったということか」
やっぱりすごいなあ、ディセント学院。
世界最高峰と言われるだけある。
受験生もこんなにレベルが高いだなんて。
「では、そろそろやろうか」
「そうだね」
自己紹介は終わったと受け取っていいと思う。
ゴラーク君は剣を構えて臨戦態勢に入った。
それを見て審判の声が響いた。
『実技試験、第一試合開始!』
開始の合図と共にゴラーク君は真っ直ぐ突っ込んでくる。
「うおおおおお!」
「……!」
これは……!
「──うわああああああああ!」
縦一閃。
ゴラーク君の大剣は俺の体を斬りつけた──。
いよいよ、少年グラン君の入学試験開始です!
どうやら相手は大物らしいですが……?