第57話 伝説の七傑
「俺の勝ちだ、ヘルド」
グランの剣が、ヘルドの体を斬り裂く。
世界の想いを乗せた剣は、ヘルドの力を上回ったのだ。
「……ッ!」
それでも、グランは油断していない。
ヘルドは致命傷程度では倒れる男ではないからだ。
しかし、体は再生しなかった。
「フッ」
「……!」
ヘルドが最後に見せたのは、“笑み”。
今までの笑みとは違う。
嫉妬、妬み、新しいものを知った喜び。
そんなものを含んでいるように見えた。
「それがお前の答えか」
「うん」
最後に振り絞る声は、グランにしか聞こえない。
「俺も最初から知りたかったな、仲間ってやつを」
「ヘルド……!」
「これからのお前を楽しみにしてるぜ」
ヘルドは最後のつぶやいた。
「“新たな英雄”の活躍をな」
そうして、ヘルドの身は朽ち果てていく。
魔力は尽きかけだったが、体を再生させる程度は残っていたはず。
だが、ヘルドはそれをしなかった。
この戦いに、グランの想いに、満足したのかもしれない。
「ヘルド……」
長く続いた戦いは終わる。
憎しみだけで一人で戦い抜いたヘルドに、グランは最後に言葉をこぼした。
「強かったよ」
★
戦いから数日。
「そこの資材を持ってきてくれー」
とある作業員が同業者に声をかける。
ディセント学院では、復旧が進められていた。
ヘルドは学院にも襲撃したからだ。
「順調ですね」
「ああ、そろそろ終わるだろう」
だが、そこまで時間はかからないだろう。
これも一人の少年が学院を守ったおかげ。
そして、生徒たちも作業を手伝っている。
近くには、ニイナとシンシアもいた。
「【火球】」
「ただの一振り(超弱め)」
「「「おお~」」」
用意された土に、ニイナは火で炙り、シンシアは形を整える。
すると、高速でレンガが出来上がる。
この学院の生徒ならではの早業だ。
また、周りでは他にも多くの生徒の姿が見えた。
誰もが巧みに剣や魔法を扱い、作業を進めていく。
これも“人的被害は少なかった”からだろう。
そんな状況に、ニイナはふと口を開く。
「どうしてヘルドは、誰も殺さなかったのかしらね」
「……分からない」
ヘルドは散々、自分を悪人だと言っていた。
だが、学院関係者を誰一人殺していない。
世界への放送権を奪るため、ただ気絶させただけだけだった。
すると、シンシアは自分なりの答えを示す。
「誰かに咎めてほしかったのかな」
「え?」
「それなら、なんとなく分かる気もする」
かつてシンシアは、“最も英雄に近い者”グローリアに剣を向けた。
その時にグランに止められて、どこかほっとしたのだ。
対して、ニイナもこくりとうなずく。
「そうかもね。言われるてみると分かるわ」
ニイナにも似た経験はある。
入学から序盤、姉のアリアに操られて暴走しかけた時だ。
だが、それを思い出すと二人は笑った。
「結局、みんなあいつに助けられたわね」
「うん」
そんな時、二人を救ってくれたのがグランだった。
今回もそう。
最後はグランが助けてくれるのだ。
「最初はあんなに意味わかんない奴だったのに」
「ふふっ、そうだね」
どちらも入学する前の出会いは衝撃的だった。
ニイナには無礼。
シンシアには超常現象。
だが、二人にとってもそこから今までの日々は、大切な思い出だ。
「それが今となっては──って、時間よシンシア!」
「あ、本当だ」
話している中、二人は唐突に慌て出す。
どうやら大切な予定があるようだ。
「急がないと遅れるわよ!」
「うん、場所はどこだっけ!」
「あれよ──」
ニイナは学院の最奥を指差す。
「七傑の間」
「ま、間に合った!」
「危なかった……!」
部屋の扉を開け、ニイナとシンシアが入ってくる。
その厳かな大広間には、すでに四人が座っていた。
序列第五位──“最強の器用貧乏”シャロン。
「やあ」
序列第四位──“絶対的側近”セリンセ。
「……」
序列第三位──“『絶対反射』の生徒会長”アウラ。
「五分前行動を心がけるように」
序列第二位──“絶対的存在”アリア。
「ふふふっ」
この部屋の名前は、『七傑の間』。
入れる者は、新“七傑”のメンバーのみ。
つまり、ニイナとシンシアも選抜されたのだ。
序列第七位──“グラン流剣術”のシンシア
「す、すみません!」
序列第六位──“次代の女帝”ニイナ。
「き、気を付けます!」
アウラの言葉に頭を下げ、二人も手前の席につく。
初めての会合に緊張しているようだ。
だが、アリアはふっと笑みを浮かべた。
「別にいいじゃない。トップがまだ来てないし」
「フッ、困ったものだな」
六人が視線を向けるのは、一番奥の席。
錚々たる顔ぶれを差し置き、第一位の席が空いている。
すると、タッタッタと走ってくる音が聞こえた。
「やばい遅れるー!」
「「「……!」」」
同時に聞こえるふぬけた声は、一人しか思いつかない。
それには、七傑の間も思わず緩んだ。
「さすがだねーグラン君は」
「相変わらずだな」
「ふふふっ」
そうして、バンっと乱暴に扉が開く。
「セーフ!」
入って来たのは、少年。
序列第一位──“英雄たちに育てられた少年”グランだ。
すると、会長アウラが注意する。
「間に合っていないぞ。十四時までに着席だ。残り三秒、二秒──」
「それはやばい! ほっ!」
「……!」
それには、グランは瞬間移動で対応。
ほんのギリギリで着席したのだった。
「今度こそセーフ!」
「フッ、まったく」
アウラも呆れ顔だ。
だが、怒っているわけではない。
どこまでも変わらない様子に、どこか安心感を覚えたのだ。
「では改めて。グラン、新七傑のあいさつを」
「え、俺ですか?」
「当たり前だろう。序列第一位だぞ」
「ひえっ」
口を三角にしたグランに、全員が思う。
(((絶対何も考えてなかったな……)))
困りながらもグランは口にする。
「えと、どうも、グ、グランです」
(((知ってるわ……)))
すると、アリアが横から口を挟んだ。
「ふふふっ。気負わなくていいのよ」
「え?」
「いつものあなたでいなさい。リーダーシップは期待してないわ」
「……!」
グランは顔を晴らすと、落ち着いたように話し始める。
「なんかすごいことになってしまいましたが、俺は嬉しいです」
「「「……?」」」
「ここにいるみんなも含めて、学院では色んな人と交流できました」
グランの口から出たのは、今までの思い出だ。
学院での日々。
序列戦などの戦い。
友達になり、時にぶつかり合い、今の面々がある。
懐かしむように軽く話すと、グランはまとめる。
「その全てのおかげで、先日を乗り越えられたと思ってます」
「「「……!」」」
「これからもみんなで頑張りましょう!」
そして、最後にこの関係を言葉で表す。
「友達として!」
「「「はい!」」」
それは、入学式でほしいと言ったものだ。
学院で様々なものを乗り越え、グランはたくさん友達ができた。
今ここにいない者も含めて、関わった全ての者がグランが学院にきた理由だ。
学院の頂点に立ったグラン。
英雄に育てられた少年の活躍は、まだまだ見られるだろう。
そうして、この七人は“伝説の七傑”として語られることになるのであった──。




