第4話 あの人……何者なの?
<グラン視点>
「ふわあ、すっごいなあ」
船から降りて、安めの宿に荷物を預けた後。
せっかくだし街を散策しようと思って散歩をしている。
「これが都会かあ」
道の両脇に立ち並ぶ建物。
宿の他にも商店、装備屋、色々な店が揃っていて、とても見応えがある。
ここは『学院街』というそうだ。
近くには豪邸が立ち並ぶ『一番街』もあるらしいけど、そっちは今度にしよう。
「でもやっぱり、上から建物が生えたりはしないんだね」
隣り合わせの建物は、それぞれ綺麗に並んでいる。
里とは違って重力に逆らわないように建てるのが常識みたい。
これは『気を付ける発言リスト』に追加だな。
そうして、街を散策している時。
「ん」
何やら男達に絡まれている女の子を見つける。
「嬢ちゃん一人かい?」
「同じ受験生か?」
「受験前におれたちと良い事しねえか?」
前に出るリーダー格の大男を筆頭に、後ろに付く二人の男。
計三人の男達はニヤニヤしながら女の子に近づき、かなりイキっているように見える。
「……」
対して女の子はじっと黙り、俯いたまま歩く。
男達とは目も合わせず、相手にしないといった感じだ。
フードを被っているから姿形は見えない。
「これは放っておけないよ」
聞いてはいたけど、里の外では本当にこんなことがあるんだな。
これはさすがに見逃せない!
「おい女ァ!」
「……」
「なんとか言ったらどうなんだよ!」
「──!」
大男が女の子に手を出そうとした時、俺はすかさず両者の間に入る。
「そこまでだ!」
大男の腕を掴み、女の子からひき離す。
デンジャ姉さんから教えてもらった、女の子の助け方だ。
なんかそれっぽい感じにはなってるはず!
「はあ?」
「何だお前!」
「離しやがれ!」
掴んだ腕は離されるが、大丈夫。
ひとまず女の子を助ける事はできた。
こういう時はとにかく女の子を守ることを優先するんだ。
俺はフードの女の子の方をチラっと見た。
「ねえ、君」
「?」
そっと小声で声を掛けた後、彼女の脳内に直接話しかける。
【通信魔法】の応用だ。
『────』
「……!」
そうして、俺は再び男達に向き直る。
「おい、てめえ何様のつもりだ」
「何様のつもりって?」
「俺が誰だか知って──」
「えいっ」
バシャ。
なんだか話が長くなりそうだったので、先制攻撃を浴びせた。
魔法で生成したコップ一杯分程度の水だ。
「いやー今日は暑いね」
ちょっとイラつかせるにはちょうどいいかな。
「てことで……さよなら!」
「はあぁっ!?」
男の額に血管が浮き出ているのを横目に、俺はその場から退散。
これ以上何をするでもなく、その場から逃げた。
「てめえ、殺す!!」
男達は見事にこちらを追いかけてきた。
★
<三人称視点>
「……」
顎に手を当て、考え事をしながら帰路を辿る少女。
先程、グランが助けた少女だ。
「あの人、何だったんだろう」
彼女は確かに男達に絡まれ、俯いていた。
ただ、それは決して怖かったからではない。
相手をするのが面倒だっただけだ。
そんな彼女も、リーダー格の男に腕を掴まれそうになった時、ようやく危険を感じて視線を上げた。
その時だった。
『そこまでだ!』
突然、自分と男達の間に現れた謎の少年。
身長は自分とさして変わらない、おそらく同年代だろう男の子。
「どんな動きなの……」
目の前に現れるまで、まるで気配がしなかった。
魔力探知にもひっかからなかった。
完全なる意識外から、音もなく一瞬にして目の前に現れたのだ。
さらに、少年からは一切魔力を感じなかった。
まさに“異質”と言わざるを得ない謎の少年だったのだ。
「しかも、あれは……なに?」
極めつけは、脳内に直接話しかけてきた謎の現象。
『俺がこいつらを引き付けるから逃げて』
彼女にとっては、初めての感覚だった。
仮に魔法だとしても、何をどうしたらあんなことが実現できるのか皆目見当もつかない。
そして、その後どうするかと思えば、少年は男達から逃げた。
あれほどの現象を使える者がどうして逃げる様な事をしたのか。
「……あ」
そこでようやく、少年が自分を守ってくれたことに気づく。
少年があそこで男達を倒して恨みを買う様なことがあれば、また自分に面倒事が降りかかるかもしれない。
それも含め、面倒事を全部あの少年が引き受けたことに気づいたのだ。
「……不思議な人」
この街にいるということは学院の受験生である可能性が高い。
受験に行けばまた会えるかもしれない。
そう思うと、彼女の心は躍る。
──と同時に、
「あの人もライバルかもしれないんだ」
心を燃やす少女。
普通、あんな現象を間近で見せられればそうは思えないだろう。
だが、彼女にもまた秘めたる想いがあるようだ。
「私はディセント学院で一番になるんだ」
こうして、グランはいくつかの出会いを経て、ディセント学院入学試験当日を迎える──。




