表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/58

第39話 側近セリンセ

 『両陣営、中央へ!』


 場内に(ひび)く進行の声。

 そうして、闘技場中央に四人が並んだ。


 グラン陣営

 ──序列三位アウラ、序列七位シャロン。


 アリア陣営

 ──序列一位アリア、序列二位セリンセ。


 学院のトップ『七傑』である四人。

 普段は決して交わることのない者たちが、ここに集結したのだ。


 生徒会長アウラは当然、シャロンも表で有名人。

 反対に、アリアとセリンセは知る人ぞ知る人物だが、(かも)し出す雰囲気は圧倒的な強者。


「「「おおぉ……」」」


 そのただならぬオーラに、会場がどよめいた。 


『礼!』


 アウラとシャロンは深めに一礼。


 だが、アリアはそのままの姿勢を(くず)さない。

 ならば、彼女の側近セリンセも背筋を伸ばしたままだ。


 そんな二人に口を開いたのは、アウラ。


「まさか、君自らがこの場で来るとはな」

「ふふっ。私ってば賢いでしょう」


 それには、因縁の相手アリアが答えた。

 相変わらず浮かべているのは、不敵な笑みだ。


「だが、分かっているのか」

「なにかしら」

「ここでワタシたちが勝てば、次はグラン君だぞ」


 グランが出てくる。

 それは勝利と同じを意味する。

 しかし、アリアは表情を全く変えず。


「勝てば、の話でしょう?」

「……!」


 負けることなど一切考えていない。

 自信というよりも、ただ確定した未来を語っているかのようだ。


 ──それでも。


「面白い」

「だね」


 アウラとシャロンの顔は死んでいない。

 むしろ、これ以上ない相手にワクワクしているようにすら見える。


 良いのか悪いのか、二人もグランにあてられたのかもしれない。


『両者、指定の位置へ!』


 そうして、両者は距離を取る。

 だが、チラりと振り返ったアリアは口にした。


「別に大将戦を捨てたわけではなくってよ」


 その意味深な言葉を──。





『これより、団体序列戦・中堅戦を始めます』


 両陣営が距離を取り、準備を終えた。

 それと同時に司会が手を上げる。


「始まるのか」

「いよいよだ」

「ここで決まるのか……」

「それとも繋ぐか……」


 会場中が息を呑んで、開始の時を見守る。


「準備は良いな、シャロン」

「もちろんだよ会長」


 剣をぐっと握り直すアウラ。

 隣には、武器を持たない(・・・・・・・)シャロンだ。


 そして、


「ふふふっ」

「……」


 杖をくるくると回すアリア。

 彼女の前には、そっとお腹辺りに手を添えたセリンセだ。

 セリンセも武器を持っていない。


『はじめ!』


 そうして、ついに審判の手が振り下ろされる。


「セリンセ」

「はい」


 そのアリアの言葉に対し、セリンセが一人前に出る。

 彼女はアリアが全てなのだ。


「「……!」」


 その出方には、アウラが口を開く。


「それは何の冗談だろうか。アリア」

「ふふふっ。冗談も何も──」


 だが、アリアは一切表情を変えない。


セリンセ(彼女)一人、あなたたちには越せないでしょう」

「「……!」」


 あまりにも()められた発言。

 アリアの目が節穴なわけではない。

 本心からそう言っているのだ。


 ──対して、アウラは笑った。


「あとで後悔するなよ」


 今一度ぐっと剣を握りしめる。


「シャロン!」

「いこうか!」


 そうして、二人同時にセリンセに向かう。


「……止めます」


 その瞬間、セリンセの両(そで)からシュッとクナイが飛び出す。


 二本のクナイ。

 これがセリンセの武器だ。


「いざ」


 見る者を()く真っ白なショートヘア。

 両手に持つ忍者のようなクナイ。

 ただ真っ直ぐに背筋を伸ばした綺麗な姿勢。


 そんなセリンセに、アウラとシャロンが迫る。


「「はあああああああッ!」」


 アウラの細剣。

 シャロンの魔法を込めた手。


 『七傑』二人の同時攻撃だ。


 ──それを、


「こんなものですか」

「「……ッ!」」


 クロスした腕に持つクナイで、それぞれをいとも簡単に止めてみせる。


「セリンセ」

「はい」


 アリアに従い、次はセリンセ自ら前へ。


「──遅いです」


「くっ……!」

「やるね……!」

 

 リーチは全くないはずのクナイで追撃。


 それは受け流した二人だったが──


「ぐぅッ!?」

「がっ!」


 宙返りと共に入った()りで後方へ下がった。


「これは……」

「強い……!」


 アリアの言った通り、セリンセは本当に一人で二人を相手してみせる。


「それはどうも」


 側近セリンセ。

 彼女の家柄は──“暗殺一家”。


 アリスフィア王家には、代々付き合いのある家系がいくつか存在する。

 その中でも、セリンセの家系は最も古参。

 今の王国が(おこ)った時からの関係であり、アリスフィア王家の『懐刀』と言える家系だ。

 

 そんな伝統ある家系において、幼少から“最高傑作”と呼ばれたセリンセ。


「アリア様の為ならばなんでも致します」

「ふふっ。さすが私のセリンセね」


 歴代最強の少女と、歴代最凶の姫。

 それが、セリンセとアリアである。




 そんな闘技場内を見つめながら、待機所のニイナが口を開く。


「あいつ……」

 

 ニイナが視線を向けているのは、シャロンだ。


 ニイナとシャロンは元婚約者。

 過去の彼については、最も知っているだろう。


 それにはグランが尋ねた。


「シャロン先輩がどうかしたの?」

「いえ何も。ただ──」


 ニイナはふっと笑って答える。


「私はあいつほど厄介(・・)な奴を知らないわ」




 再び闘技場内。

 圧倒的にも見えるセリンセを前に、

 

「そっかあ……」


 ニヤリとしたのは──シャロン。


「初めて相手にしたけど、強いね」

 

 (はた)から見れば、圧倒的にアリア側が有利だ。


 序列一位・二位という布陣。

 アウラはアリアに三敗しているという事実。

 

 つまり、シャロンの働きが勝負に大きく左右する。


「いけるかい、アウラ」

「ああ……!」


 序列第七位──シャロン。

 彼の肩書きは『最強の器用貧乏』。


「この試合に僕の全てを()ける」


 その真価が今試される──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読み下さりありがとうございます!
面白かったら★★★★★で応援してね!
皆様の反応が力になりますので、よろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ