第39話 側近セリンセ
『両陣営、中央へ!』
場内に響く進行の声。
そうして、闘技場中央に四人が並んだ。
グラン陣営
──序列三位アウラ、序列七位シャロン。
アリア陣営
──序列一位アリア、序列二位セリンセ。
学院のトップ『七傑』である四人。
普段は決して交わることのない者たちが、ここに集結したのだ。
生徒会長アウラは当然、シャロンも表で有名人。
反対に、アリアとセリンセは知る人ぞ知る人物だが、醸し出す雰囲気は圧倒的な強者。
「「「おおぉ……」」」
そのただならぬオーラに、会場がどよめいた。
『礼!』
アウラとシャロンは深めに一礼。
だが、アリアはそのままの姿勢を崩さない。
ならば、彼女の側近セリンセも背筋を伸ばしたままだ。
そんな二人に口を開いたのは、アウラ。
「まさか、君自らがこの場で来るとはな」
「ふふっ。私ってば賢いでしょう」
それには、因縁の相手アリアが答えた。
相変わらず浮かべているのは、不敵な笑みだ。
「だが、分かっているのか」
「なにかしら」
「ここでワタシたちが勝てば、次はグラン君だぞ」
グランが出てくる。
それは勝利と同じを意味する。
しかし、アリアは表情を全く変えず。
「勝てば、の話でしょう?」
「……!」
負けることなど一切考えていない。
自信というよりも、ただ確定した未来を語っているかのようだ。
──それでも。
「面白い」
「だね」
アウラとシャロンの顔は死んでいない。
むしろ、これ以上ない相手にワクワクしているようにすら見える。
良いのか悪いのか、二人もグランにあてられたのかもしれない。
『両者、指定の位置へ!』
そうして、両者は距離を取る。
だが、チラりと振り返ったアリアは口にした。
「別に大将戦を捨てたわけではなくってよ」
その意味深な言葉を──。
『これより、団体序列戦・中堅戦を始めます』
両陣営が距離を取り、準備を終えた。
それと同時に司会が手を上げる。
「始まるのか」
「いよいよだ」
「ここで決まるのか……」
「それとも繋ぐか……」
会場中が息を呑んで、開始の時を見守る。
「準備は良いな、シャロン」
「もちろんだよ会長」
剣をぐっと握り直すアウラ。
隣には、武器を持たないシャロンだ。
そして、
「ふふふっ」
「……」
杖をくるくると回すアリア。
彼女の前には、そっとお腹辺りに手を添えたセリンセだ。
セリンセも武器を持っていない。
『はじめ!』
そうして、ついに審判の手が振り下ろされる。
「セリンセ」
「はい」
そのアリアの言葉に対し、セリンセが一人前に出る。
彼女はアリアが全てなのだ。
「「……!」」
その出方には、アウラが口を開く。
「それは何の冗談だろうか。アリア」
「ふふふっ。冗談も何も──」
だが、アリアは一切表情を変えない。
「セリンセ一人、あなたたちには越せないでしょう」
「「……!」」
あまりにも舐められた発言。
アリアの目が節穴なわけではない。
本心からそう言っているのだ。
──対して、アウラは笑った。
「あとで後悔するなよ」
今一度ぐっと剣を握りしめる。
「シャロン!」
「いこうか!」
そうして、二人同時にセリンセに向かう。
「……止めます」
その瞬間、セリンセの両袖からシュッとクナイが飛び出す。
二本のクナイ。
これがセリンセの武器だ。
「いざ」
見る者を惹く真っ白なショートヘア。
両手に持つ忍者のようなクナイ。
ただ真っ直ぐに背筋を伸ばした綺麗な姿勢。
そんなセリンセに、アウラとシャロンが迫る。
「「はあああああああッ!」」
アウラの細剣。
シャロンの魔法を込めた手。
『七傑』二人の同時攻撃だ。
──それを、
「こんなものですか」
「「……ッ!」」
クロスした腕に持つクナイで、それぞれをいとも簡単に止めてみせる。
「セリンセ」
「はい」
アリアに従い、次はセリンセ自ら前へ。
「──遅いです」
「くっ……!」
「やるね……!」
リーチは全くないはずのクナイで追撃。
それは受け流した二人だったが──
「ぐぅッ!?」
「がっ!」
宙返りと共に入った蹴りで後方へ下がった。
「これは……」
「強い……!」
アリアの言った通り、セリンセは本当に一人で二人を相手してみせる。
「それはどうも」
側近セリンセ。
彼女の家柄は──“暗殺一家”。
アリスフィア王家には、代々付き合いのある家系がいくつか存在する。
その中でも、セリンセの家系は最も古参。
今の王国が興った時からの関係であり、アリスフィア王家の『懐刀』と言える家系だ。
そんな伝統ある家系において、幼少から“最高傑作”と呼ばれたセリンセ。
「アリア様の為ならばなんでも致します」
「ふふっ。さすが私のセリンセね」
歴代最強の少女と、歴代最凶の姫。
それが、セリンセとアリアである。
そんな闘技場内を見つめながら、待機所のニイナが口を開く。
「あいつ……」
ニイナが視線を向けているのは、シャロンだ。
ニイナとシャロンは元婚約者。
過去の彼については、最も知っているだろう。
それにはグランが尋ねた。
「シャロン先輩がどうかしたの?」
「いえ何も。ただ──」
ニイナはふっと笑って答える。
「私はあいつほど厄介な奴を知らないわ」
再び闘技場内。
圧倒的にも見えるセリンセを前に、
「そっかあ……」
ニヤリとしたのは──シャロン。
「初めて相手にしたけど、強いね」
傍から見れば、圧倒的にアリア側が有利だ。
序列一位・二位という布陣。
アウラはアリアに三敗しているという事実。
つまり、シャロンの働きが勝負に大きく左右する。
「いけるかい、アウラ」
「ああ……!」
序列第七位──シャロン。
彼の肩書きは『最強の器用貧乏』。
「この試合に僕の全てを賭ける」
その真価が今試される──。




