第32話 謎の女性との出会い
<グラン視点>
アウラ会長と話から数日。
学院の中でも人気のない道を一人で歩く。
「ニイナのお姉さんかあ……」
頭の片隅には、まだ会長の話が残っていた。
この数日の間にも、アウラ会長やニイナ、他の人からも引き続き話を聞いた。
でも、やっぱり実際に会ってみないと分からないよね。
学院序列第一位、アリア・アリスフィアさん。
一体どんな人なんだろう。
──そんな事を考えていた時、
「受け止めてーーーーー!!」
「え……ええええ!?」
空から女性の人が降って来た。
俺はあわてて魔法で周辺を固める。
女性を受け止める態勢に入った。
「うわっと!」
セーフ!
なんとか腕に収めることができた。
「た、助かりました……」
「いえ、怪我はありませんか?」
「はい」
色々と聞きたいことはあるけど、とにかく無事そうで良かった。
ひとまずはそれだけで十分。
「ありがとうございますっ」
「!」
そして、腕から降りた女性はニッコリと笑いながら感謝を伝えてくる。
どこかで聞いた声に似た、高くて綺麗な声だ。
大きめの帽子に、サングラスを付けていて、顔の全体像はあまり見えない。
帽子から垂れる金髪はサラサラだ。
制服でもないし学院生ではないのかな?
そんな女性は、まだ不安げな顔だ。
「それと一つお願いがあって!」
「どうしました?」
「私、悪い人に追われているんです!」
「え!?」
それは大変だ。
そう思った時にはもう、彼女の手を引いていた。
「なら俺に付いて来てください!」
「いいんですか? でも、本当に悪い人達で──」
「大丈夫です!」
そんな女性を放っておけるわけがない。
「失礼します!」
「……!」
俺は女性をお姫様だっこにして抱える。
同時に魔法も展開した。
「──【透明魔法】」
シンシアとグローリアが話していた時に使った魔法だ。
滅多なことがない限り、気配も物音も消すことができる。
「しっかり掴まっててくださいね!」
「は、はいっ!」
そうして、俺は学院を飛び出した。
学院を出て、二人で学生街を歩く。
あらゆる国で名を上げた店が集まるこの辺。
いわゆる都会だね。
「これなんか可愛くないですか!」
「ちょ、ちょっと声を抑えて〜!」
その中で興奮する彼女に、小声でしーっとお願いする。
お願いというか、彼女のためを思ってだけど。
「追いかけられているなら、もう少し静かにした方が」
「そ、そうですよね! すみません」
「まあ、いざとなれば本気で逃げますけど……」
彼女がバレないよう、俺も変装をしている。
引き続き【透明魔法】を使ってもいいんだけど、彼女が店頭に並ぶ物をすぐ手にするので解除した。
魔法を使ったままそれをやっちゃうと、ただの泥棒だからね。
それに、
「楽しいですっ!」
「それなら良かったです」
彼女は行く先々で笑顔を見せる。
もしかしたら、普段は街を歩けないのかな。
そう考えると実際の姿で回ってほしくもなる。
俺が周りに気を張っていればいいだけだ。
あとは……そうだな。
これを聞かなければ。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「あ、そうでした。でも……」
「?」
少し考える素振りを見せて、やがて笑顔で答えた。
「内緒でっ」
「え、内緒?」
「はい。今の私は誰にも見せた事がない姿なので」
「そ、そうですか」
何か隠し事があるのかな。
まあ、だから悪い人に追いかけられているのかな。
「あまり女性の秘密は探るものじゃないですよ」
「あ、ごめんなさい!」
「いえいえ、きっとあなたは優しい人ですから」
ふふっとまた笑顔になる彼女。
「では、私のことは『アリィ』とでも呼んでくれれば」
「分かりました。アリィさん」
「はいっ。あなたはグラン君ですよね?」
「え!」
だけど、アリィさんは俺のことを知っていた。
「どうして俺のことを?」
「あなたは有名人ですから」
「そ、そうかな」
アリィさんの言葉に少し照れてしまう。
そうして、
「あ!」
彼女はまた店頭の物に目を付けた。
どうやら今度は「杖」のようだ。
「アリィさんは杖が好きなんですか?」
「そうですね。私と……妹も好きだと思います」
「へえ」
アリィさんは妹がいるんだな。
さぞかし良い人なんだろう。
「ふふっ。では次は向こうの方に!」
「もちろんです」
★
<三人称視点>
学院の大通りにて。
女子生徒二人が慌ただしく動き回っている。
「いたかしら!」
「いないよ、ニイナ」
ニイナとシンシアだ。
二人はそれぞれ違う授業を終え、いつもの場所にやって来た。
いつの間にか待ち合わせ場所となっていた『噴水エリア』だ。
しかし、
「どこいったのよ!」
その場所にグランがいなかったのだ。
特に約束をしていたわけでもないので、グランは悪くない。
そもそもここで各々帰宅すれば解決なのだ。
そんな場面で、ニイナが変なことを言い出した。
「女の気配がするわ!」
いわゆる『女の勘』というやつだ。
その言葉でシンシアも不安になり、今に至る。
また、彼女もこの事態に身を乗り出していた。
「いたか、二人とも!」
アウラ会長である。
生徒会の仕事も早く終わり、るんるんで帰宅しようとしていたところ、幸か不幸か二人に出くわしてしまった。
グランと女の子がいるかもしれない。
そんな事態を放っておけるほど、アウラもできてはいない。
「ダメです会長!」
「グランはいません」
「くっ! こうなったら……!」
そうして、三人は意思を固めた。
「学外を探すぞ」
「ええ!」
「はい……!」
だが、この時はまだ誰も知らなかった。
これが後に起こる、大きな出来事へと繋がっていくことになろうとは──。




