第25話 ディセント学院生徒会長
<グラン視点>
「「生徒会長からお呼び出し!?」」
始業前から、席の周りで声が響いた。
ニイナとシンシアだ。
俺は二人に声を抑えるようにしながら答える。
「う、うん……」
「しかも、二人っきりで会食ですって!?」
「そうなんだよ」
通知が届いていたのは今日の朝。
寮長のシャロン先輩から、俺宛てということで手紙を受け取った。
そこに書いてあった内容が『生徒会長邸での会食の誘い』だったんだ。
俺は戸惑いながら聞き返す。
「あの、生徒会長ってどんな人なの?」
「はあ。やっぱり知らないのね」
「な、なんかごめん」
腕を組みながら、ため息をついたのはニイナ。
でも、素直に教えてくれるみたい。
「生徒会長はね──」
名前は『アウラ・フェイティア』。
生徒からは、アウラ会長の呼び名で通っている。
なんでも『フェイティア王国』の王女様らしい。
またかとは思うけど、ここはそういう学校だから仕方がない。
そんなアウラ会長は、生徒会長であると同時に、完全に実力で決められる『七傑』も務めるという。
才色兼備、博学多才。
この学院においても、みんなの憧れの人だそうだ。
「そんな人に呼び出されるなんて、何をやらかしたのよ」
「やらかしてはない! ……と思うけど」
「自信なさげね」
「ま、まあ」
後半萎んでしまったのを見抜かれる。
正直、思い当たることがないとは言い切れない。
「あー……」
剣の授業で先生を倒してしまったのが悪かったか。
いや、お願いされた先生にこっそり秘蔵の魔法を教えたのが悪かったか。
それとも、いじわるをしてた貴族をぶん殴ったのが……。
「うーん」
意外と思い当ってて困る。
「まったく。とりあえず、呼び出されたからには行くことね」
「そうするよ」
「そ・れ・と!」
「え」
ニイナに、さらにシンシアまでもが、ずいっと細目で顔を寄せて来る。
「何があったかきちんと報告しなさい」
「しなさい」
二人ともなんだか目が怖い。
「ど、どうしたんだよ、二人とも」
「いいから。わかったわね?」
「……はい」
返事をすると、二人はバッと離れてコソコソ話していた。
「いきなり会食なんて、まさかアウラ会長はあいつの事を……」
「ありえる」
それが何の話かは分からなかった。
何事もなければいいなあ。
そんな呑気な考えは、後にあっけなく崩されるのであった──。
★
一限終了後。
二限は無いので、お昼の会食までは時間がある。
せっかくだからと俺は学院を探索していた。
「まだまだ知らないところもあるなあ」
少し歩けば、行ったことのない場所なんてたくさんある。
本当にどれだけ広いんだろう、この学院。
「ん?」
特に何も考えずに歩いていると、周りから話し声が聞こえる。
「ねえ、あの子!」
「絶対そうだよ!」
「グラン君だって!」
しかも、なんかこっち見てる?
「え!?」
そうして気が付けば、周りは囲まれてしまっていた。
あれ、なんだこの状況。
「へ? ちょ、ちょっと……」
さらに、ジリジリと寄って来る生徒達。
その均衡が──
「グランくーん!」
「あの例の一年生だ!」
「英雄を超えた少年!」
一気に崩れた。
「いいっ!?」
周りの人達が一斉に飛び掛かって来たんだ。
「うわっ!」
とっさに合間を見つけて飛び出す。
だけど!
「「「待てー!」」」
「まじか!」
それでも追いかけて来る生徒達。
「うおおおお!」
俺は必死に走った。
我ながら、グローリアさんとのエキシビジョンマッチって、すごいことだったのかもしれない。
それでも、今はとにかく逃げるしかなかった。
「ハァ、ハァ……。ここまで来れば大丈夫かな」
逃げる内に、人気のない場所へ辿り着く。
学院の人が一切見当たらない。
「どこだ、ここ」
一応、学院内であるみたいだけど。
そうして周りをきょろきょろしていると、身を隠していた高い建物が封鎖されていたことに気づく。
「立ち入り禁止なんだ」
俺がいる場所は大丈夫だけど、建物は立ち入り禁止みたい。
『生徒会』の名が入ったテープで、入口が封鎖されている。
「まあ、そろそろ帰らないとだし」
もたもたしていると、お昼の会食に間に合わない。
さっきの騒ぎもそろそろ収まっただろう。
そうして歩き出そうとした時、
「!」
魔力探知に一人引っ掛かる。
場所は……この建物の屋上か?
「立ち入り禁止の建物で?」
それに、何かおかしい。
これは……心拍数が上がってる!
「まずい!」
この場所には俺とこの人だけ。
緊急事態かもしれない。
そう思って足にぐっと力を込める。
「今助けます!」
そのまま高く跳び上がって、一気に屋上へ。
「大丈夫ですか!」
そこで見えた人は……。
「なっ!」
「あれ?」
長い黒髪に、目がキリっとした美しい女性。
制服も着ているし、多分生徒だろう。
隣には剣も置かれている。
そして手元には……お弁当?
「~~~っ!」
その人は、とっさに貪っていたお弁当を後ろに隠す。
顔を真っ赤にして剣を構えた。
「なぜ! ワタシの魔力探知では誰もいなかったはず!」
「あ、それは」
その辺は一応対策しているつもりだ。
俺が気配を完全に消していたからだろう。
「それより、君は!」
「俺を知ってるんですか?」
「知ってるもなにも……」
「?」
彼女の言葉はそこで止まってしまう。
というか──そうだった!
「あの、何かあったのでは?」
「何の話だ!」
「だって、心拍数が急に上がって……」
「~~~っ!」
だけど、彼女は顔を真っ赤にして荷物をしまいこんだ。
「と、とにかく、なんでもないからなー!」
「え、はや」
その場から消えるように去って行く。
俺は彼女の行動をふとまとめてみた。
「あれは、“早弁”ってやつなのかな」
そう考えれば、女性のあの人が恥ずかしがったのも、がっついて心拍数が上がったのも納得できる。
ちょっと申し訳ないことをしたかな。
それに……。
「お弁当、可愛らしかったな」
そうして、何事もなく(?)お昼の会食の時間を迎えた。
★
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
「こ、こちらこそです……」
あれから一度寮に帰り、それっぽい格好で招かれた生徒会長邸へ。
外見はもちろん、中はさらに豪華で立派な家だ。
フェイティア王国の王女様って、やっぱりすごい人なんだなあ。
「では、応接間へご案内します。こちらへ」
「は、はい……」
執事さんに連れられて、長い廊下を歩く。
緊張するなあ。
この家もだけど、世界最高峰のディセント学院の生徒会長さんだもんな。
鬼、魔王……いや、でも確か女の人だったよな。
それだったら……魔女とか!?
「……ごくり」
なににしろ、すごい人が出てくるに違いない。
「こちらの部屋でお嬢様がお待ちです」
「はい」
でも、覚悟を決めないと!
「し、失礼します!」
意を決して、いざ扉を開く。
つむった目を開けた先には──。
「コホン」
「ん?」
青を基軸にした豪華絢爛なドレス。
肩も出されていて、いかにもお嬢様な格好だ。
でも、この顔……
「はじめまして。グラン君」
「え、あの──」
「はじめまして。そうだね? グラン君」
「……あ、はい」
妙に圧のある笑顔に、やけに強調された「はじめまして」。
思わずうなずいてしまった。
だけど、この人──
「……」
いや、早弁の人じゃん!!
早弁会長
 




