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どこへ向かえば良いか分からない。ティンキーは空を見上げた。


オース様と隣国まで来たが、もう一度自国へ戻る決断をした。


祖父母を頼る事は、もう出来ない。アンサ様のところへ帰る事もダメだ。


ふと思い出したのは、昔、夢に見ていた湖。近くに小さな街があるのを思い出し、ティンキーは、そこを目指す。


名前をミナと偽り、小さな街の宿屋に住み込みで働けるようになった。


「ミナちゃん。そろそろ休憩行って」


女将のハンナさんは、宿泊したティンキーの様子がおかしく、声をかけてくれた。


騙すのは胸が痛むが、ティンキーはミナと偽名を使い、結婚したが逃げてきたと伝え、どこか住み込みで働けないかと相談した。


運良く、ハンナさんの宿屋。とまり樹。で雇ってもらい、2ヶ月が過ぎ。仕事を覚え毎日、あわただしく過ごしていた。


たまに、あの湖へ行きたくなるが、ルーニー家の別荘があり、行くのを躊躇っている。


「冬なら、行けるかな…」


避暑地として利用する場所の為。冬なら、誰にも会わず湖へ行けるかもと考えていて、遅めの昼食をとり、勝手口から外へ出るところを、ある男性に見られていた事に気付かなかった。



******


あれから1年が経ち。行方不明者となったティンキーは、彼女の祖父母からの強い要請で離縁の手続きが済んだ。


両親からは叱責され、ティンキーとの婚姻は公にしてなかった事もあり、全ては闇に葬られた。


新しい婚約者候補達を、両親から送り込まれ夜会へエスコートをするが、誰も興味は無い。ただ、一目でも彼女に会いたかった。


彼女の祖父母には嫌われてしまい。彼女の両親と話をした。婚姻の署名をしたのも彼らだ。


「私たちの娘とは、思っておりません。祖父母が育ててますが、会いたくも無い。


あんなバケモノが娘なんて、ルーニー伯爵家の恥です」


彼女の居場所を聞こうとしたが、この言い方だと、何も知らないだろう。


早々とルーニー伯爵家を出た俺は、ティンキーを思い出していた。


秋から冬になろうかとする季節。仕事に逃げていた俺は、いきなり長期の休みを命じられ。彼女が居た部屋で日中は過ごした。


「アストラ兄さま。まだ彼女を探すつもり?兄さまから逃げた女なんて、忘れてしまえば良いのよ」


ノックもせず入ってきたのは、義理の妹だ。実母を早く亡くして、後妻の連れ子としてやってきた。金色の髪と藍色の瞳で、社交会では、女神と呼ばれているが。それは表向きで、本性は醜く嫉妬深い。


両親は、この妹と結婚させようとしていたが、俺に近寄る女性へ敵意を向け、年々蛇のように俺を見る女と一緒に居るのは、苦痛でしかなかった。だから、早々と屋敷を出て。亡くなった母の祖父母の屋敷へ移り住んだ。


それなのに、この屋敷にも、勝手に入り込み。彼女へ手を出させないように相手をして、追い出していたが……


「おい。まさかルーナはティンキーと会ってないよな」


俺の言葉に、ニタリと笑ったルーナは。


「直接は、お会いした事はありませんが、あの女は、この窓からいつも、私たちの様子を見てましたわ」


そう言って、窓辺に行くルーナは。外をチラリと見た後で、俺の座るソファに座る。


「ティンキーが見ていた?いつだ!」


そんな事を知らなかった俺は、ルーナに詰め寄る。


「あら?アストラ兄さまは、知っていてワザと見せつけていると思ってましたのに。


それに私、知ってましてよ?アストラ兄さまが彼女を探す理由。


あの女、バケモノらしいですわね。でも、植物を操るバケモノなら、利用価値はありますから、それで探しているだけなんでしょ?」


その言葉に、俺はルーナの首を思い切り両手で締める。


「取り消せ!お前みたいなヤツが、彼女をバケモノと呼ぶ事など許さん!」


ギリギリと細く白い首を締める手に力を入れると、ルーナの爪が俺の手に食い込み、ハクハクと口を動かし俺を睨み付けている。


「アストラ様!お止めください!」


使用人達が俺の手をルーナから引き離す。首を押さえ咳き込む姿にも、怒りは収まらない。


「まさか、あんなバケモノに……アストラ兄さまは…本気なのですか?」


息を整えながらルーナが話始める。俺を侮蔑したような態度の醜い女。


「誰が何と言おうと、俺は彼女しか愛せない。二度と俺の前に姿を見せるな!今度は息の根を止めてやる」


ヒッと、顔を歪ませルーナは立ち去った。それを追いかけた使用人は、あとで解雇する。



誰も居なくなった彼女の部屋。この部屋で彼女は何を考えていたのだろう。


俺は、身勝手に彼女を閉じ込めて守ってたつもりになっていただけ?


「あぁぁぁー!!」


頭を抱え踞る。なんて事をしてしまったんだ!俺は、あの時に彼女を傷付けただけじゃなく、逃げるほど追い込んでしまっていたのか!!



そうだ。あの夏の日々、彼女は野山を駆け回り。少しお転婆で、いつも俺の手を引いてくれた。


こんな狭い部屋に閉じ込めて良い訳は無い。


すまない。もう許して欲しいなんて思わない。でも、一目でも彼女に逢いたい……

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