表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

婚約期間は2週間しかなかった。小さな教会で参列者は祖父母のみ。


私はアストラ様の花嫁になりました。


グレグル侯爵家は、趣のある屋敷で古くから続く家柄だと、まるで私へ見せつけているよう。


アストラ様の後から入れば、使用人達が出迎えてくれたが、やはり私の紹介は無いみたい。


軽く挨拶をし、用意された部屋に入ると、思っていたより女性らしい壁紙や家具で、少し気持ちが明るくなった。

窓際へ行き窓を開けようとしたが、よく見れば、はめ殺しで。まさかと思い部屋の窓を全て確認したら、開く窓は1つも無かった。


一体、彼の目的は何だろう?

彼の家族にすら、私は会った事が無い。


ぼんやりと外を眺めていると、アストラ様と女性が二人で庭を歩いているのが見えた。


とても仲睦まじい様子で、ふと横顔が見えて、私が見た事が無い笑顔で話す二人。


私は何故、1人で此処にいるのだろう。


何も考えない。何も見ない。そう、この時、私は決めたのだ。


アストラ様は、仕事が忙しいと言って、屋敷では、たまに朝食を一緒にする以外、話す事も会う事も無い。


たまに屋敷の庭で、アストラ様はいつもの女性と会っているが、もうどうでも良い。白い結婚が半年も続けば、彼女に何かしら理由があり、結婚出来ない為。私が妻に選ばれたのだろうと思う。


使用人や私に付いた侍女達と、話そうと声を掛けたが、用事以外、誰も話をしてくれない。





結婚してから1年が過ぎた。3ヶ月ぶりにアストラ様と朝食をとっていた時、


「何か不便な事は無いか?」


偶然、会った時や朝食の度に聞かれるが、毎回、何もありません。と答えてきた。


「お願いします。私と別れて下さい」


もう、心が壊れそうだった。外へは行けず、屋敷内ですら、勝手に歩かないでと言われ、窓さえ開かない部屋にしか私の居場所は無い。


「……それは出来ない。私はもう行く」


席を立ち、私に背を向けて歩き出すアストラ様。



部屋に戻り、椅子に座りぼんやりと外を眺める。すると、あの女性が上を向き私と視線が合わさった。


ニタリと笑った顔は、とても怖く窓から離れる。


私の監視をしている侍女へ、返事はこないと分かっていても、つい声をかけてしまった。


「あの女性は、どなたかしら?」


「あぁ、彼女はアストラ様の義理の妹ですよ。血の繋がりは無いので、ゆくゆくは彼女と結婚すると、屋敷の者達も皆思ってましたけど」


返事がきて、びっくりすれば、いつもの侍女じゃないと気付いた。


「少し1人になりたいの」


渋る侍女を部屋から追い出し、鍵をかけた。


結婚が出来る女性と恋人同士なのに、何故、私と結婚したの?


椅子に座り。チラリと外を見れば、女性の姿は無かった。またぼんやりと外を眺めていると、涙が溢れて止まらない。私しか居ない部屋に嗚咽が響く。


もう、堪えられない。誰か助けて!!



はめ殺しの窓が、パリンと割れる。庭から伸びた蔓が私の身体に巻き付く。


次々と伸びてくる蔓は、私を外へ出すと庭に足が着いた。

私は、この蔓が助けてくれたんだと、優しく撫でると、スルスルと私の身体から離れる。


「何事!!キャー!!」


屋敷の使用人達が、集まり私へ向かおうとするが、蔓が彼らの足元へ伸び邪魔して近寄れない。


「バケモノ!!」


誰かの叫び声で、私へ向かおうとした使用人の足が止まる。ハハ、もしかしてアストラ様は、私のこの力を利用したかっただけで、私がなかなか泣かないから、閉じ込めてたのね。


「ふふ、私ってバカなバケモノだったのね」


いきなり笑った私に、恐怖を覚えたのか、使用人達が、後退る。


「一度、部屋に戻り荷物を纏めたら私は出て行くわ」


誰も何も言わない。私は小さなトランクに自分の荷物を入れ、屋敷をあとにした。


辻馬車に乗り、祖父母の屋敷を目指す。結婚してから一度も会えなかった私の本当の家族。


三日後。祖父母の屋敷へ裏口から入ると、二人は温かく迎えてくれた。


逃げてきた理由を話すと、祖母の古くからの友人への手紙を渡される。


「しばらく、アンサのところへ行きなさい。彼女にこの手紙を見せれば大丈夫」


ここに居れば、力を欲して探しにくるかも知れない。手紙を大切にカバンへ入れ、祖父母と別れの挨拶をする。


「ごめんなさい」


私は二人を抱き締めながら、涙を流すと、近くの花も別れを惜しむかのように咲き誇る。


あぁ、私は泣いてはいけなかった。


溢れそうな涙を、唇を噛み我慢する。祖父母をバケモノの家族にしてはいけない。


外套をしっかり着込み、目深に帽子を被る。この若草色の髪と瞳は珍しく、地味な私でも、誰かの記憶に残ると、探された時に私が逃げた場所へたどり着いてしまう。


注意深く、目立たぬように旅を続けた。


約1週間の旅は、誰にも怪しまれる事無く、無事に祖母の友人宅へとたどり着いた。


「ここね」


街の人に尋ねて、すぐに教えてもらえた。祖母の友人は、この丘の上に建つ屋敷で孫と暮らしているらしい。


もし、力がバレたら逃げなきゃダメね。あまり仲良くならないようにしよう。


また閉じ込められたら……震える手を強く握りしめ首を振る。きっと大丈夫…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ