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ティンが湖へ沈んでから、男が話し出す。
「俺は、彼女を愛していた。しかし、利用しようとも思っていて…
プランチェの愛し子と知ったが、彼女には秘密にして隣国まで連れて行ってしまった。しかし、隠していた事を聞かれ彼女は出ていってしまったのさ。
そして、彼女を探してた時、偶然ルーナさんと会ったんだ。兄がまたティンキーを監禁しようとしてるから、助けてくれと…
すまない。それを信じてしまった」
オースティンと名乗った男は、ルーナに騙されてたのは分かった。しかし、自国の為にティンキーを利用しようと考えていたのか、
俺は、胸ぐらを掴み叫ぶ!
「ティンの気持ちを考えなかったのか!」
「アストラ殿の気持ちも分かる。私もバカな事を考えたと何度も後悔した。
それでもティンキーを愛していたのは事実だ!彼女を守りたかった!」
オースティンは、頭を下げ俺の前から姿を消した。
殴った拳を見て思う。オースティンの事を俺は殴る資格なんかないじゃないか。
黙っていたのは俺も一緒。ならば、俺も罪を償わなければならない。
湖へ片足を入れると、水は冷たく今にも凍えそうだが…
「俺を一緒に連れて行ってくれ」
両足を湖へ入れた時、蔦が俺に巻き付き、湖から引き離した。
「行かせてくれー!」
泣きながら叫ぶ俺の耳に届いたのは。
『みんな、アズを頼んだわよ』
ティンの声……
その場に踞り、涙が溢れるのを止められない。
何で俺の事を助けるんだ!!
ティンに辛い事ばかりしてたのに!!
湖へ入らないと分かったのか、蔦が俺から離れていく、それをただ眺めるしか出来なかった。
******
それから、オースティンが呼んだ衛兵にルーナは連れて行かれ、修道院送りになった。
湖からティンの身体は見付からず。俺は毎年、秋になると花束を湖へ捧げ彼女の事を思う。
ティンが亡くなって10年後。流行り病で、俺の人生は幕を閉じた。
******
「実菜。予約のお客様の花束作ってくれる?」
「はーい」
私は生花店を営む両親の手伝いが仕事なの。
高校卒業後、兄が店を継ぐから、好きな事をしても良いって言われたけど。
私は昔から、草花が大好き。
花束を作って、お客様へ渡すと受け取った男性から、
「この店で買う花は、とても元気でね。妻が喜ぶんだ」
そう言って、少し恥ずかしそうに花束を持って帰って行く後ろ姿をみて、
ふふ。嬉しいな。
「実菜ちゃん、絵本読んでー」
兄の子どもの愛理ちゃん五歳に呼ばれ、店の奥へ行けばにこりと笑って愛理ちゃんが私の手を引き一緒に自宅へ向かった。
兄夫婦が新店舗開店に忙しくて、私が見ている事が多いの。
「これ、めちゃくちゃ可愛い絵だよ」
そう言って渡されたのは、
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『ティンキーとお花の友達』
ティンキーは、お花とお喋りできるの。
ある時、キキョウの花が話しかけます。
『ティンキー!!一緒に遊ぼう!』
ティンキーはキキョウの花を取ると、にこりと笑いました。
次に話しかけたのは、ハナミズキ。
『ティンキー!!私も一緒に!』
ティンキーはハナミズキを取ると、にこりと笑いました。
次に話しかけたのは、ひまわり。
『ティンキー!!私も行く!』
ティンキーはひまわりを取ると、にこりと笑いました。
次に話しかけたのは、スターチス。
『ティンキー!!私も行きたいなー』
ティンキーはスターチスを取ると、にこりと笑いました。
両手いっぱいの花を抱えたティンキー。
「みんなを元気にして」
両手いっぱいの花を天に投げると、キレイな虹の橋が出来ました。
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「ね?気付いた?」
愛理ちゃんが私へ笑いかける。
「うん?愛理ちゃん何が?」
ふふ。と両手で口を隠して笑う愛理ちゃん。
「この絵本に出てくるお花、ぜーんぶ花言葉が愛してますなんだって!
幼稚園のマミちゃんが言ってたー」
「凄いね。絵もキレイ…だし?」
何故か頭がクラクラする。遠くで愛理ちゃんが叫ぶ声……
目覚めると、自室のベッドだった。
夢の中で、私はティンキーと呼ばれ。草花と話が出来ていた。あの絵本みたいに……
「大丈夫?」
リビングへ降りると、お母さんに心配されたが、大丈夫よ。と笑って誤魔化す。ちょうど帰って来た兄を捕まえて、愛理ちゃんの絵本を借りて、何度も読み返す。
次の日。出版社へ電話したが、作者さんの事は教えて貰えず。
でも、サイン会があると教えてくれたので、両親へ話をしてサイン会の会場へ。
子どもだけじゃなく、若い女性もサイン会場には多く、初めて来た私は係員に尋ね、最後尾に並んだが、絵本と夢が同じだからなんて言えないよね。来るんじゃなかったかな?…でも。
ぐるぐる考えてたら、
「では、最後の方」
ずっと下を向いてて、列が進んだのに気付かず。係員の方の声に急いで作者さんの前に走った。
「名前は何にします?」
サングラスをかけた男性、私を見る事も無く絵本にサインをして、名前を聞いてきた。
「ミナです。果実の実に、菜っ葉の菜で…」
最後まで言う前に作者さんが椅子から立ち上がると近寄り。
そして、目の前にきた時に私を抱き締めた!?
「ティン。キミなんだろ?会いたかった」
「え?あの…」
そう、夢の中に男の子がいて。だから絵本を描いた人に興味が沸いたけど。
いきなりの行動は周りに興味深く見られ、抱き締められた私はただただ恥ずかくてどうすれば良いの?
「列は最後だよな。私は彼女と話があるから行くよ」
係員さんに言うと。いきなり手を握られ、ずんずん歩き出す。
「あの、ちょ、ちょっと待って下さい!」
振り向き蕩けるように笑った顔に、
『この笑顔が見たかった!』
え?この笑顔?私は何を言ってるの?
何が起こってるの?手を引かれ近くの公園まで連れて来られ、促されるまま隣に座り。訳が分からず黙って話を聞いていた。
「もしかしたら会えるかもと思って。ティンの話を描いたんだ!でも、本当に会えるなんて!」
それは前世の記憶。
「もし、会えたら絶対幸せにすると決めてた。ティン、今は実菜だね。前回は後悔しかなかった。だから、もし会えたら悲しませる事はしないと決めていたんだ。
僕と付き合って下さい。ゆくゆくは結婚もしたい」
いきなりで、わたわたする私に、ククッと笑う。
「はい、あの、でも…」
戸惑う私に、ゆっくりお互いを知って行こう。優しく言われて首をコクコク縦に振るのが精一杯。
「アズはペンネームね。
本名は、川口アンディー。ハーフなんだ。実菜、キミの事を沢山教えて。僕の事も聞いて欲しい。もう二度と隠し事をしたくないんだ」
今日、この瞬間にびっくりし過ぎて、アズさんの顔をじっくり見てなかったけど。
超絶美形がグイグイ来たのに私が固まったのは、内緒のはなし。
閲覧ありがとうございました。