べつに怒ってませんから
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私はふだん、女子高生である。ひとたび家に帰れば今度は大きな屋敷へと勤めに出なければならない。木澤家なる名家である。建物は古い木造で洋館の佇まい。辺りにあっては異色そのもの、ひときわ目を引くと言って差支えはない。とにかく立派な造りなのである。私は屋敷が嫌いではない。むしろ好きだと言っていい。程良く漂う木の香りも、しっかりとした廊下もお気に入りである――その旨、わざわざ口に出したことは皆無だが。
私は自宅で着替えるようにしている。木澤家にてそうしてもよいのだが、なんとなくそうしている。来る日も来る日もヴィクトリアンメイドのコスチュームに袖を通すわけだ。大仰な衣装をまとうわけだ。姿見の前でくるりと回転すると、うん、今日も悪くない。我ながらあっぱれだ――とそこまでは思わない。私はつまらない感情など抱かない。だがしかし、いまは悲しいかな、つまらない人生を歩んでいるという根強い自覚だけはある。私の人生はじつにくだらない。ああ、くだらないくだらないくだらない。どうして年端もゆかぬ乙女が放課後になるとメイドをやりに赴かなければならないのか。貧乏な家を呪いたくなるし、メイドという職務に従事することには嫌気が差す。ほんとうにどうして今のアルバイトを働き口として選んだのか。まあ、今さらそれを言ったところでなにも始まらない。今日もメイド服姿のままのっしのっし――とではなく、慎ましやかな歩様で通勤する。独特のいでたちから人目を集めることになる。気にしない。気高くはない。誇り高くもない。私はただのメイドであり、それ以上でも以下でもない――なんて言えば格好がいいし、様にもなる。――と思うのだが、それは事実だろうか。わからないから、そうに違いないと判断することにしている。
目的地――木澤家に到着。門をくぐり、インターホンを鳴らして給仕長の中年女性に玄関の戸を開けてもらい、そういう運用なので外靴のまま屋敷へと入る。しんと静まり返っている。いつもこうだ。素っ気なく愛想もない。階段を上り、二階にある一室の戸をノックした――返答ナシ。リアクションがいっさいないので、いよいよ戸を引いて開け、中へと入った。くだんのおぼっちゃまは椅子に座って本を読んでいる。どこぞの誰ぞの小説だろう。しかし、このご主人は読書に没頭するような《やから》ではない。私が戸をノックした際に無言だったのは、口を動かすことすら面倒だったからに違いない。この程度のことで目くじらを立てていては三十分もしないうちに疲れ果ててしまう。それがおぼっちゃまに仕えるようになって学んだことだ。
「おぼっちゃま、こんにちは。今日も参りました」
なにも答えてくれない。私は眉根を寄せ、人知れず、冷たい目をする。なんというか、白けたような気分に陥った。
「コーヒーでも、お持ちいたしましょうか?」
「いや、いい」やっと反応があった。「コーヒーは飲みたくない。リプトンのイエローラベル。それがあるならもらいたい」
「そんな安価な物、屋敷にはございません――なんて言ったら傲慢でしょうか?」
「ないのであればないんだろう。意見も感情も持たない。ただそれだけだ」
「恐れ入ります」
「美紀、おまえがそんなふうに思う必要はない」
「知っています。気を遣っているフリをしてみました」
「僕はおまえのことを買っている」
「それはまた、どうしてですか?」
「正しい日本語を使うからだ。それは得難く尊い資質だ」
私は「おぼっちゃま、今日はご出勤は? されなかったのですか?」と訊ねた。私の主人は――潤平さまは、某私立大学の文学部の助手だ。私が知る限り、助手なる身分は働くことにしこしこ努めなければならないはずなのだが、おぼっちゃまの場合、家にいる時間のほうがずっと長い。おぼっちゃまのお父上は某巨大物販の社長だ。キャリアがどうあれ、お父上は息子を跡取りに据えたいと考えている。そうなるまでの自由時間だと言えば多少聞こえはよいのかもしれないが、私にはどうしたって、おぼっちゃまが俗世間において活躍するとは思えない――とは冗談で。恐らく肉体的にも精神的にも健やかであれば、おぼっちゃまはこのニッポンにおいて寵児とされることだろう。私の見解はたしかだと思う。それくらいの自信はある。おぼっちゃまは唯一無二だ――が、なにせ変わり者なので、真剣に付き合いたくはない。
「おぼっちゃま、やはりお茶をご用意いたしましょう」
「なぜ、そう進言する?」
本に目を落としたまま、長い前髪を右手で掻き上げたおぼっちゃまである。細身ののっぽ。なんだかこう、誠に悔しいことなのだが、白いポロシャツにベージュのチノパンという貧乏くさい身なりでありながら、おぼっちゃまがまとうとそれなりに見える。イケメンは正義だなとも思う。ただまあ、それだけだ、それだけのことだ。ヒトは見た目で決まったりはしない。真理である。
「おぼっちゃま、今一度、お伺いいたします。ご出勤は? なさらないのですか?」
「こんな時間に学校に出向いてどうする。しつこいな。幻滅だ」
「そんなふうにお思いでしたら速やかに解雇していただけますでしょうか。高給は惜しいですが」
「そも、美紀が来たのはどうしてだったか」
「ですから、お給金がいいからです。勘違いしないでください」
「勘違い? 僕がなにについて勘違いを?」
私はデスクに近づき、おぼっちゃまが読んでいる本に目を落とした。文字がただいたずらに羅列されているだけの、まったくもって不可解かつ受け容れがたい内容である。よくこんなつまらない物が読めるなと感心する。「私にも好きな小説家くらいいます」「それは誰だ?」という不毛とも言えるやりとりがあり、私が答えを言うと、おぼっちゃまは朗らかに笑った。
「おまえが好きな作家。彼に将来性などないぞ」
「知りません、そんなこと。それとおぼっちゃま、いまさらですが、私のことをおまえなどとお呼びにならないでくださいませ」
「おまえは僕のメイドだろう?」
「ええ、そうです。だからいま申し上げたことは気になさらないでください」
「だったら、何度だって言おう。おまえ、おまえ、おまえ」
「子どもっぽいことです」
「すまんな」
「かまいません」
*****
週末は朝から勤めに出るのである。お寝坊さんのおぼっちゃまを私はいつもベッドのそばで見守るのである。年季の入った丸椅子に座って覚醒を待つのである。起きていても寝ていても正直かなりプリティーでラブリーなのだが、どんな事柄においても、おぼっちゃまのことはあまり認めたくないくないという不可思議な思いが働く。それはどうしてだろうと悩みたくなる瞬間もあるのだが、とりあえず、業務を遂行する上で不要な考え、感情なのでうっちゃっておくことにしている。おぼっちゃまの世話を焼くことで高給が得られるならいい。逆に得られないのであれば瞬く間に職を辞してやるだろう。私は一所懸命だが、納得できない仕事ならいつでもボイコットしてもよいと考えている。
*****
「おぼっちゃま」
「なんだ?」
「シャツをお召しになってください」
「風邪をひくかもしれないからと、心配なのか?」
「違います。単純に目の毒だからです」
「だったら、見なければいい。両手で顔を覆うことを許してやろう」
「やかましいです。さっさと着てください」
「おまえは厳しく、また難しい」
「何度言わせるんですか。おまえなる呼称にはやっぱり怒りを感じます」
私がどのような言葉を向けたところで、おぼっちゃまは小説を読むばかり。いっさいこちらを向いてくれない。腹立たしい以前に――というか、そういった感情すら抱かない。
「美紀、一緒に大学の図書館に行かないか? おまえは女子高生だろう?」
「一応、女子高生です。でも、それがなにか?」
「好きな本を借りていい」
「借りていいもなにも、誰もが借りるぶんにはタダでしょう?」
「これは一本取られたな」
「お言葉ですが、そんな大仰なことを成したとは思っていません。一本取ったつもりはありません」
「ああ、そうだ。ついでに言っておくと、僕は大人物ではないぞ」
「知っています」
おぼっちゃまはクックと喉を鳴らし、それから右の人差し指で私を招いた。やむを得ないので歩を進め、近づく。近づき近づき、近づいた末、そしたら腰に――というより臀部に右手を回された。それくらいなんともない。――とはいえ、自分が難しい顔をしているであろうことはわかる。私の視線の先には、まだまだ小説を読み耽っているおぼっちゃまの姿がある。
「おぼっちゃま、私はいつかどこかでセクハラの旨を声高に訴えたいと考えています」
「それは困った。しかしだ、美紀」
「はい、美紀です」
「ああ、そうだ、美紀。美紀は昨今の文壇事情について、思うところがあるか?」
私は右手の人差し指を唇に当て上を向いた――ランプシェードすら年代物。
「えっと、くだらないことが多いですね」
「くだらないこととはなんだ?」
「いち女子高生の意見でしかありませんが」
「いち女子高生の意見を訊いている」
「くだらないものはくだらないということです。見るに堪えない汚物のような書き物もなかにはあるということです」
辛辣だな。
そう言って、おぼっちゃまは笑った。
「まったく、たかが女子高生だとは言えないな。つくづくおまえは賢人だ」
「また、おまえ、ですか」
「なおも腹が立つか?」
「まあそうですけど、まあいいです」
「気にしていないと述べるニンゲンは、たいてい気を悪くしているものだ」
「うるさいです。明日のご予定は?」
「大学に顔を出して、出すだけであとは帰宅だ。書き下ろしの締め切りが迫っている。のっぴきならない状況だ。僕にしては非常に珍しいことだ」
「おぼっちゃまのようにいい加減でも成り立つ職業。物書きとはじつに楽チンな商売ですね」
「言ってくれるな。やはりなにか、気に食わないことでもあるのか?」
「いいえ。ありません」
*****
翌日、夕方。おぼっちゃまを迎えに出て。私は相変わらずのメイド服姿。この駅まで来るまでのあいだ、案の定、ずいぶんと視線を集めてしまったが、メイドはメイドなのでしかたがない。
改札を抜け、おぼっちゃまが出てきた。白いシャツにデニムパンツ。彼を見つけた瞬間、ふわっと気持ちが軽くなり、胸が高鳴った。言い訳はしない。どうやら私は待ち遠しくおもっていたらしい。だからなんだという話なのだが。
おぼっちゃまが右手に提げているバッグを、私は持とうとした。おぼっちゃまは手渡してくれることなく、とっとと帰路を進む。駅前のパチンコ屋はことのほかうるさく、それを指しておぼっちゃまは「しかしこのやかましさにこそ、市民の喜びがあるのだろうな」などと案外深く、そのじつ、まるっきり中身をともなわないからっぽなことを述べた。おぼっちゃまは正真正銘のアホなのではないかと思う――口に出すのも面倒だが。
「おぼっちゃまは歩くのがお速いですね」
「そうか?」
「そうです」
「そこで焼き鳥を買おう」
「なんの話ですか?」
「だから、やきとりの話だ」
商店街の店――その店先では、たしかに鳥を焼いている。ねぎまを二本買った、タレではなく塩。私が買わされた。おぼっちゃまが現金を持って世を練り歩くなどとは聞いたことがない。おぼっちゃまも私も立ったまま、その場ではふはふとかぶりつく。値段のわりにはぜいたくな味わいだと感じた。
「なあ、美紀」
「はい、美紀です」
「おまえはいまの立場に、満足しているのか?」
「まあ、それなりに。おぼっちゃまはいかにも御しやすいですし」
「御しやすい?」
「はい」
「それは打算的で無慈悲な評価だ」
「そうですよ。私にヒトの感情を求めるほうがおかしいんです」
「かわいくない」
「かわいくないと、ダメですか?」
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おぼっちゃまに縁談が持ち上がった。私はおぼっちゃまに取るに足らない、あるいはしょうもないニンゲンとの烙印を押しているのだが、こたびのことについては背筋が凍らないまでもちょっと意外に思ったし、少々びっくりもした――それだけのことである。
*****
いつもどおりセーラー服からメイド服へと着替え、木澤家へと赴いた。途中、若いと見える真っ青なスーツ姿の男性から声をかけられた。一万円で六十分、私のことを拘束したかったらしい。いかがわしいサービスに従事させられるのだろうと予測し、ご勘弁願った。でも、ほんとうにお金に困ったらなびくかもしれない。私の家はそれくらい貧乏だ――そんな事実について思考を巡らすのが嫌で嫌で、だから私は先を急いだ。
屋敷に入り、おぼっちゃまの部屋の前へ。ノックをしても返事がないことくらいはわかっているのだが、それでも一応戸を叩いてから中へと踏み入った。――誰もいない。「あれ?」と思い、目をしばたく。次の瞬間、後ろから頭に手を置かれた。おぼっちゃまの大きな手であることはすぐにわかった。私は振り返ることなく、「今日は出勤だったんですか?」と訊ねた。
「違う。縁談の話で先方に呼ばれたんだ。呼びつけるとはいい度胸だ。なかなかつらく、めんどくさいところだ」
私はくるりと振り返り「ほんとうに結婚されるんですか?」と問いかけた。
「横柄かつ頭の固いお父上だ。早いところ嫁をもらって家を継げと言われている。まあ、そうするにあたってはやぶさかでもないんだが」
「おぼっちゃまの本業は小説家ではありませんか」
「僕はまるで迷える子羊だ」
「は?」
「言ってみただけだ」
うーん。
私は腕を組み、そう唸った。
「しっくり来ない話です」
「そうかな」
「そうですよ」
「父は僕に多くを求めていない」
「おぼっちゃまも、そうお感じなのですね」
「ああ。じつのところ、父は孫、つまり僕の息子に期待している」
「それが悲しいと?」
「違う。むしろ喜ばしいことだ。実際、僕は優秀ではないからな」
「では、跡取りを得るために、急ぎ励まないと」
「だから、結婚しようというんだよ。そしたら少なくとも、肩の荷は下りる」
「まさに政略結婚ですね」
「正しい評価ではないが、概念的には間違いではない」
「うーん」
「今度は、なんだ?」
なんだかとっても気に入らないです――という言葉は飲み込んだ。
*****
その日も給仕として働いた。おぼっちゃまと結婚しようという女性がいらして、私は広間のテーブルに紅茶を届けた。女性は途方もなく美人だ。二枚目然としているおぼっちゃまによく似合う。だが、私は聞いてしまった。おぼっちゃまの隣でトレイを持って控えている最中に、女性はいきなり「さっさと首を縦に振りなさいよ。こっちは涙を飲んであげているんだから」などとのたまったのだ。心がざわついた。怒りにも似た感情を抱いたことは疑いようがない。しかし、おぼっちゃまは潔い。「結婚しましょう」とだけ速やかに告げた。なにをもって気を尖らせていたのかはともかく、とにかく女性は溜飲を下げたように見える。私はなんともやりきれない思いでおぼっちゃまのほうへと目を向けた。穏やかな顔をしていた。
「潤平さん、あなた、見た目だけはよいですわ」
「それがなにか?」
「私とあなたとのあいだには、それはもう、美しい子ができるだろうということです」
「否定はしません」
「よりよい待遇を要求します」
「理解しています」
女性はソファからすっくと立ち上がると、おともの老人を連れ、部屋から出て行った。
おぼっちゃまのほうを見つつ、「とどのつまりは子どもですか」と私は訊いた。「そうだ。やはり子どもだよ」と返ってきた。
「次を担うニンゲンは必要で重要だと思います。しかし、だからといって、気持ちをお捨てになるなど――」
「誰が捨てると言った?」
「違うんですか?」
「違うな、たぶん」
「それでもどうしても、子を欲するのですか?」
「その点は変わらないな。一発目で男子が生まれれば安泰、御の字だ」
「一発目とか、下品です」
「一発目は一発目だ」
私は腕を組み、顎に右手をやった。
「ふと思いつきました。私がおぼっちゃまの子を生むというのはいかがでしょうか?」
「また突拍子もないことを切り出してくれるじゃないか」
「身を清めておきます。早速明日より行為を開始しましょう。よろしいですね?」
「よろしくはない」
「なぜですか?」
「ああ、そうだな。どうしてなのか」
「既成事実さえこしらえてしまえば、誰も文句は言えないはずです」
「本気なのか?」
「はい」
「思いきりがいいな。向こう見ずとも言う」
「おとうさまの許可をたまわる必要はあるかと考えます」
「しかたないな、わかった。話してみよう」
「よろしくお願いいたします」
「紅茶が飲みたい」
「お待ちくださいませ」
私は部屋を出て、茶を淹れるべくキッチンへと向かった。子どもを生むとか生まないとか、どうしてそんなことを言ってしまったのだろうと思い、だからといって、胸がどきどきするなどということもなく――。
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おぼっちゃまのおとうさまは意外と理解があるらしい。私とおぼっちゃまとのあいだに子ができるのならそれでいいとおっしゃり、だったらということで、先達ての女性との婚約を解消するよう取り計らってくれた。要は子どもさえ――男の子さえ得られればよいということだ。男女平等が謳われている昨今にあって、なんとも前時代的な考えである。おぼっちゃまがまるで取り組まなかった帝王学を今度こそ叩き込むのだろう。しかし、私は女子高生だ。おぼっちゃまは成人男性。そこにはいろいろと問題があるように思う。そうであるにもかかわらず、身体を重ねた、重ねてしまった、重ねるようになってしまった。
おぼっちゃまはいつも獰猛に首筋に噛みついてくるので、その痕をごまかすことに気を遣う。学校では堅物で通っている私が日々男性との行為に激しく励んでいると知られたら――知られたらそれはそれでかまわない。両親については即物的で合理的なニンゲンなので、名家に嫁入りできるのならとすでに喜んでいる。
今日も屋敷へ。おぼっちゃまの自室へ。おぼっちゃまはノートPCに向かい、カタカタとキーボードを叩いていた。腐っても小説家だ――否、基本的には賢く、才能のある人物なのだ。将来有望だろう。ほにゃらら賞くらいは取るかもしれない。
「寝転んでいろ。すぐに片づけるし、すぐに抱く」
雑な言い方に、私は思わずムッとなる。
「もう孕んでいるかもしれません」
「検査結果は?」
「兆候ナシです。ジョークを言いました」
「おまえは死んだ魚のようでまるでおもしろみがない」
「アホみたいに喘げと?」
「僕の嫁になりたいとほざいた酔狂者がよく言う」
「おぼっちゃまのことを思い、勇気を振り絞って立候補したのですが?」
私は裸になって、ベッドの上に横たわった。さすがに良家であるものだから、寝床一つとっても質がいい。おぼっちゃまのいい匂いがするのはいまや重要なオマケ要素だ。
席を立ったおぼっちゃまがこちらに来てシャツを脱ぎ、柔らかに覆いかぶさってきた。ふだんは深海魚のように物静かで象のように悠然と動くのに、肌を密着させる瞬間だけは、少なからず乱暴になる。
「ほんとうに、なぜ僕を望んだんだ?」
「わかりません。ただ、私はおぼっちゃまに添い遂げるつもりです」
「おまえの――美紀の場合、いかなるセリフも怒気を帯びているように思う」
「錯覚です。べつに怒ってませんから」
私たちは一つになり、私はそこに悦びを見る。