閑話② 治療・入院こぼれ話
さてさて。
いよいよこの病の治療で一番派手なイベント?『扁桃腺摘出』へと、話は進んでいくのですが。
この話の前に、本編で入れるほどでない小さいエピソードを思いつくまま、書いてゆこうかなと思います。
しばらくお付き合いのほどを。
【血管へ針ぶすぶす、の話】
ここまでで私は数限りなく(笑)血管へ、ぶすぶすぶすぶす、針を刺されてきました。
検査や治療のため、採血だったり投薬だったり採血だったり採血だったり(笑)で、注射針を刺されてきました。
痛いですが、まあいいです。
そもそも私、自分の腕に針が刺されるのを見ると眩暈がするとか、血を見ると貧血起こして倒れそうになるとか、そういう類いの繊細さとは若い頃から無縁な人間です。
少なくとも、採血だの点滴だのの処置でぶすぶす注射針を刺されるくらい、楽勝で我慢できます。
……でもね。
度を越して必要以上に、ぶすぶすぶすぶす、刺されるとね!
さすがに腹が立ちますよ?
どういうことかと言いますと。
素人の私にはよくわからないのですが、この世には、二種類の人間がいるのだそうです。
血管へ針を刺しやすい人間と、そうでない人間。
そして私は後者なのだとか。
(複数の看護師さんに言われました)
例えば、採血時。
多くは利き手とは逆の左腕を、私は看護師さんの前へ出します。
すると看護師さんは黒いゴムの紐?で肘の少し上あたりを縛り、血管(静脈)が浮いてくる(浮いてこないとペチペチ腕を叩いたりもする)と、そこへ注射針を刺して、試験管様の容器へ血を採ります。
手順としてはそんな感じ(患者目線)だと思いますが。
私の場合、一発で針が決まり(そんな言い方するのかどうか知りませんが、雰囲気的にそんな感じ)、血が採れることは二回に一回くらい……だったりします。
失敗看護師さんたち曰く
「血管、皮膚に埋もれていますねえ」
「針から逃げるんですよ、あなたの血管」
「血管から針がずれてしまったみたいですねー」
そしてこう続けるのです。
「すみません。もう一回、やり直させてください」
……うん。
必要ですからね、構いませんよ?
あなた方看護師さんへも、処置しにくい患者が相手で大変ですねと、一応は同情的に思いますよ。
……でもね。
仏の顔も三度、ってことわざ、知ってますか?(怒)
何回も何回も、しかも腕を変えてまで、ぶすぶすぶすぶす刺すんじゃねえ!
あげくの果て「やっぱり左にします」だと?
プロなら、一発必中とまでは言わないから、せめて二発目で決めてみせてよっ。
コッチは生身なんだ、刺されたら刺された分、もれなく痛えよ!
……はあはあはあ。
失礼、取り乱してしまいました。
なんかね~。
私の血管、看護師泣かせらしいんですよ。
でも、それって私のせいじゃありません。
生まれつきの個体差、みたいなものだともいわれましたし。
最近は悟りの境地に近づいてきて、もはやぶすぶす刺されるのは前世からの因縁、因果応報・南無阿弥陀仏……ってな風に心で唱えておりますが。
可能な限りでいいから、ぶすぶすしないでね♡と虚しく祈って、今日も腕を差し出しております。
【個性豊かな入院患者たち】
入院患者にもいろいろな人がいます。
腎生検時の入院の時、若い専門学生の患者さんのところへ大勢のお友達がお見舞いに来て、うるさくてうんざりした……的な話を書きましたけど。
そういうのはカワイイと言いますか、まあ普通の範疇だと思います。
同じく腎生検時の、検査後の腰が重だるくて寝苦しい夜間、同室に睡眠時無呼吸症の患者さんが検査入院してきた時は、一晩ながらキョーレツでしたね。
その人自体に(起きている時は)問題ないのですが。
睡眠時無呼吸症の人って、いびきが凄いんですよねえ。
こちらが問題なく熟睡していたらそれほど深刻でもないでしょうが、
「ぐううう……ぐがあああ……ぐがああああ……ぐがっ!!(しばらく無音。おそらく呼吸が止まっている)ふうう……ぐ…ぐううう……ぐがあああ……ぐがああああ……ぐが!!」
を、妙に規則正しく、一晩中聞かされるのは。
なかなか……大変です。
別に腹は立ちませんが、無呼吸の時間がやたら長い(『ぐが!!』から『ふうう』までの時間。きちんと計っていませんけど、感覚で)と、他人事ながら心配になってきます。
無呼吸の時間があまりに長いと、『私がナースコール押した方がいいのかな?』とそわそわします。
ご本人に計器をつけて測定しているんですから、そんな心配は無用なんですけど。
気分的に落ち着かなくなります。
未明近くには、さすがに疲れて私も眠ってしまいましたが、これ、もっと神経質な人が同室だったら発狂しそうになる案件かなと思いましたね(笑)。
でも……それよりも大変な患者さんは。
やはり、認知症の患者さんですね。
これは扁桃腺摘出手術をした後の夜、の話になるのですが。
『扁桃腺』という、頸動脈に近い場所での切ったはった?ですので、手術当日の夜はナースステーションの隣室にある『回復室』という名の場所で、経過観察されます。
ここは、集中治療室へ入れるほどではないものの、容体が気になる・あるいは観察や保護を必要とする患者のための部屋のようです。
部屋の中心には小さめの長テーブルがあり、そこで複数の看護師さんが事務仕事をこなすかたわら、患者の様子に気を配っているのです。
麻酔が切れたのもあり、鈍い痛みと謎の息苦しさ(切除に伴う炎症等で、気道がふさがりがちだったのかもしれません)のせいで、まんじりともしないでボーっと横になって天井を見ているしかない私。
看護師さんの低い話し声(仕事の話中心の、世間話っぽいもの)を、聞くともなく聞いていました。
突然、場がざわめきます。
室内の患者の一人が起き上がり、なにかもぞもぞ訴えているようです。
耳を澄ませると、年配の男性の声が
「ワシ、今から仕事いかなあかんねん」
「ここはドコや? 家、帰らなあかん」
という内容のことを繰り返し、言っています。
「あのね○○さん。今、暗いでしょ? まだ夜なの。夜が明けるまではここで寝てて下さいね。夜で暗いから仕事もやってないし、帰るのも無理なんですよ」
辛抱強く何度も、そんな内容を言って聞かせる看護師さんたち。
『○○さん』は、
「……そう、か?」
と一応、納得というか受け入れてベッドへ戻るようなのですが、五分~十分後に再び起き上がり、どこかへ行こうとする様子。
その度に
「○○さん。どこ行くんですか? まだ夜ですからね、寝てて下さいね」
と声をかける看護師さんたち。
○○さんは
「ワシ、仕事行かなあかんねん」
「家帰らな」
と、さっきと同じことを訴えます。
(おそらく、さっきのことは忘れているのでしょう)
看護師さんたちは辛抱強く、さっきと同じような内容を言って聞かせ、『○○さん』を説得というか足止めします。
それを……二時間くらいは繰り返していましたね。
最終的に『○○さん』は疲れたのか、ベッドで大人しく眠り始めた様子。
「はあ、やれやれ」
「まあでも、今日は暴れんかっただけマシやね」
などと小声で話し合っていたのが、『○○さん』のベッドから離れている私には聞こえてきました。
(え? 暴れる?……お疲れ様です!)
心で言う私。
医療スタッフの皆さま。
本当に……大変ですね!
本当に本当にお疲れ様です!
(最近、ウチの両親が『○○さん』の立場に近付いてきたので、余計にそう思います~)